それは、あまりにも美しい黄金の宮殿だった。
現実とはとても思えない。
物語でしか見ないような常軌を逸した佇まい。
その内部。数万人は収容できるであろうホールに、巨大な黄金の玉座があった。
そこに、黄金の鎧を来た老人が鎮座している。その正面、謁見をする者が跪くその場所に、青年が一人。
玉座のそばに常駐している近衛兵もおらず、巨大なホールには老人と青年の二人のみ。
「トール・オーディンソン」
ただ、青年の名を呼んだだけ。
だというのに、老人と判断するにはあまりにも強いその圧力は、見る者が見れば、溢れ出る力を感じ取るだけで気を失いかねない程である。
それもそのはず。
老人の名は、オーディン。
北欧神話における主神、全能の神。数十万年の時を生きる文字通りの神である。
そして、そのオーディンに呼ばれた青年が、トール。
彼こそが雷の神とされる、戦神であった。
ただし、それはあくまで北欧神話の中の話ではあるが。
その2人。間違いなくオーディンとトールと言う名であり、2人のいるこの地アスガルドも、間違いなく北欧神話で語られている舞台の名と同一のものである。
北欧神話における神の国アスガルド。この世界においては、真実物語の中の世界ではない。
地球の外、宇宙に数多存在する惑星の一つである。
過去、氷の巨人が地球を侵略せんと迫り、それを阻止したのがオーディン。戦場は地球となり、その争いの中、アスガルドの民と交流した地球人が神話として広めたのが、この世界における北欧神話。
トールは今玉座の前に跪き、父であり王でもあるオーディンの言葉に耳を傾けていた。
「我が世継ぎ。血を分けた唯一の息子よ」
トールに放つオーディンの言葉は、重苦しくも優しい雰囲気を携えていた。
「改めて感謝いたします父上。この星に迷い、死にかけていた私に血を分け与え、命を救っていただいただけでは無く、息子として迎え入れて頂いた」
それは、トールにとって心からの感謝の言葉。
トールはオーディンに対し、返しきれない恩があった。
「お前は見事、混沌と化した9つの世界を平和に導いた。その功績を思えば、恩に報いる以上の事をやってのけている」
そのような事情を分かったうえで、オーディンは優しくトールに告げる。
その表情は9つの世界を収める王ではなく、全能を誇る神でもなく、間違いなく優しい父の姿だった。
その言葉にトールは頭を上げ、「恐れ入ります」と告げながら
「
「『賢い王は決して好んで闘いなどしない』父上の教えです」
「……お前は、出会った時から素直で、勤勉で、賢く、儂に逆らう事は一度も無かった」
満足そうなオーディンの表情。対する青年、トールはその緊張を崩すことは無い。
次の言葉で窘められることを予想していたからだ。
「だが、『戦う覚悟も持っておけ』とも教えたはずだ。ダークエルフ『マレキス』。何故、兵士も連れず、ハンマーも持たずに奴と対峙した? あと少しお前の判断が遅れていれば、お前の命どころでは無い。宇宙そのものが永遠の闇に染まるところであった」
オーディンはすべてを肯定するわけにはいかないと、トールに厳しい言葉を投げかける。
「ダークエルフは宇宙が生まれ出ずるより前から存在する種族。あやつらの宇宙への憎しみは、話し合いで変えられるほど浅くはない。お前のその甘い考えのようにな」
「……返す言葉もございません。父上の助けが無ければ、アスガルドは、宇宙は滅びておりました」
「お前は、このアスガルドの王となるのだ。9つの世界を収める王として、宇宙を守り続ける責任と義務がある。非常な判断を下さねばならぬ時もある」
その言葉に、トールはオーディンと交わしていた視線を外し、再び頭を垂れた。
トールが今この場にいる目的はオーディンと昔話をするわけでも、こうして9つの世界を平定したことへの謝礼の言葉を受け取る為でもない。
まさに王位を継ぐことに関する話。その話題こそが目的である。
「父上――「以前は――」」
言葉を発しようとした瞬間、
トールの言葉を遮るオーディン。トールはその圧力に屈し、言葉を続けることができなかった。
「以前は、そうでは無かった。お前は敵を前に無手で向かうような無謀なことはしなかった」
責めるようなオーディンの言葉の中にはどこか悲しさが滲んでいた。
「儂の教えを破ることが無かったお前が、利口だったお前が、何故そのような行為に及んだ? 我が息子よ」
それは、純粋な問いでは無い。
既にオーディンの中で答えは出ている事は明白だ。これはいわば確認作業。
それがわからない程トールは決して鈍くはない。ごまかす事は不可能だ。
「……記憶が、戻りました」
「……そうか」
オーディンは、溜息をひとつ。
驚くことも無い。わかっていたとでも言いたげな表情。
息子の記憶喪失という障害が一つ回復したのだ。本来であれば喜ぶべき事ではあるが、その溜息は当然ながら喜びの動作ではない。
「お前の無謀な行動も、記憶の中の経験によるものであるという事か……」
「……否定はできません」
先の会話にあるように、彼はオーディンの本当の息子でもなければ、北欧神話の雷神トールでもない。
その正体は、妖精國平定の為、モルガンと共に妖精歴をかけぬけ、そして妖精に裏切られ、死んだと思われていた。ロンディニウムの幻の王。別名ロット。別の世界の存在である。
彼は、とある事情によって、妖精國でもない汎人類史でもない、言ってしまえばこのアスガルドでも無い、別の世界へ転移したのだが、妖精國ブリテンにおいて女王となり、汎人類史のクーデターによって混乱した妖精國と、その混乱によって暴徒と化した妖精達からモルガンを救うため、妖精國へと帰郷しようとするために、様々な方法で異世界への転移を挑戦していた。
その過程での転移事故により、トールは記憶を失い、転移による時空の歪みなどによって、死にかけた状態で偶然アスガルドに転移したのだ。
記憶を失い、死にかけていたところを、オーディンに拾われ、何かを感じたオーディンの血を輸血され、生きながらえた。
それがこのトールである。
そしてこのアスガルド、トールの知るアベンジャーズの雷神ソーのいたアスガルドとは違う。
言われ、トールは様々な事を思い出す。
とある男の『時には話し合いが最も強い武器になる』という言葉。
これもまた、異世界転移の折に訪れた
その人柄、その信念、その心の強さに変わりはなく。むしろ、その気質が故に宇宙に多大な影響を及ぼした。
自身の知る宇宙で、全ての生命体を半分にするという大虐殺を実行した存在を、見事懐柔してみせたのだ。
トールにとって、アベンジャーズのヒーローも、その王も、その世界、マルチバース含めありとあらゆる人間が尊敬に値する人間であり、トールもまたその男の生き様からさまざまな事を学んだのだ。
そして、彼女を――
親に虐げられ、國に虐げられ、世界に虐げられ、居場所を無くした彼女達。
誰よりも大切な女性。
ダークエルフ。彼らもまた彼女達と同じだ。
宇宙そのものが誕生した事によって、住処を奪われ、世界から虐げられた、ある意味での犠牲者だ。
そんな相手を前にして、彼らを悪として断罪するなど、トールには簡単には出来なかった。
だからこそ、その学びを活かし、スルトの様に手を取り合う道を諦めなかった。だが、現実はそこまで上手くいくとは限らない。
そのような理想を求めた結果、自身の命だけでなく、恩人を、恩のある国を、世界そのものを滅亡させるきっかけとなりかけた。
結果から言えば、オーディンの助力と、何よりも彼らと世界を天秤にかけ、世界を選び取った自身の選択によって、ダークエルフの長マレキスは、死亡した。
その事実に苦い感情を募らせる。
「そう、怯えるでない。先も言ったであろう。過程はどうあれ、お前は9つの世界を見事平和にしてみせた。その功績を称えるとな」
厳しい態度を見せていたオーディンだが、その言葉と共に優しげな雰囲気をまた纏う。
だが今は、そんなオーディンの態度に対して、トールは素直に安心する事が出来なかった。
「父上、改めて、私の――
その心情を知ってか知らずか、オーディンの表情が、今度は悲しみへと染まる。
ああ、きっと目の前の全能の神にとって、自分の思惑など、筒抜けなのだろう。
後悔もある。無責任だと糾弾されるだろう。あるいは殺されるかもしれない。
「父上、俺は、王座へ着くことは出来ません――」
何せ、これから、そんな父親を、大切な母を、大切な国を、世界を、裏切るのだから――
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