世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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復讐

初めて会ったのは。私達を襲うモースを祓ってくれた時だった。

 

彼は、救世主一同の仲で一人で動く事も多いからか。一番出会う事が多い。

 

いつも忙しそうに走り回っているから、こうして、ゆっくり話すのも久しぶりだ。

 

この時間をいつもいつも楽しみにしていた。だからつい、ちょっとしたお使い程度の事も頼むのだが、いつも彼は快く受け入れてくれた。

 

これは、そんな日々の一幕。

いつもいつも助けてくれる彼。役に立てない自分に、自分の弱さと体の小ささが嫌だと言う事を打ち明けた時の事だ。

 

『別に役に立たないなんて事ないよ』

 

そう言ってくれた。

 

『○〇〇○はすごく優しいし、礼儀正しいし。頭も良い』

 

なんだかだんだん気恥ずかしくなって来た。

 

『それに、力が無いから価値が無いなんて事は無いさ。いやむしろ力が無い方がきっと良い事の方が多い。』

 

どう言うことかと聞いてみた。

 

『生まれた時から強い奴は力の価値を知る機会が少ない。だから、力に敬意を払えない。そういうのって、人や妖精を孤独にするから……』

 

そんな事を言う彼の寂しそうな顔が、自分は嫌いだった。そんな表情をさせてしまった自分が恨めしい。

 

『でも弱者は、力の価値を知っている。その憐れみも……』

 

語りながら空を見る彼に合わせて同じように顔を上げる。夜空の中に星が瞬いているが、いつもより少し輝きが少なかった。

 

『だから〇〇〇〇みたいな子が力を得ても安心できるんだ。きっとその力を酷いことには使わないって。だから、皆安心できる。安心できるから側にいたくなる』

 

また恥ずかしい事を言われた気がする。

 

『今は、モースとか、氏族同士の争いとかで、色々と力が必要な時代だけど、そんな戦いが無くなった時。いや、こんな戦いばかりの時でも、君みたいな、力が無いって思える誠実さと、優しさを持つ妖精や人間が必要なんだ。力を持った俺達よりもよっぽど……』

 

 

『だから、そんな、役立たずなんて言わないで欲しい』

 

彼は視線を空からこちらへ向ける。

優しい眼。優しい表情。自分は、こっちの方が好きだった。

 

『それに、俺は〇〇〇〇の翅、凄く羨ましいけどな』

 

そんな事を言われたものだから、つい変な顔をしてしまった。顔が熱くなるのを感じる。

 

『ほら、色々便利だから、良く飛ぶんだけどさ。いや、飛ぶと言うか浮くって感じかな』

 

それを聞いてしまったら、その姿は見たいに決まっている。見てみたいと、わがままを言ってみた。

 

『え……あんまり楽しくないと思うけど……』

 

そう言いながらも、やってくれるらしい。

彼の体から稲妻が迸る。

 

『地面にいると、ちょっとしびれるかもしれないから、〇〇〇〇はそのまま飛んでてて』

 

彼はそう言って、さらに力を強めた。

 

稲妻は大地に広がり、別の性質を備え、その力によって彼の体が浮かび上がる。

 

ピカピカと光るその姿は、夜の闇の中ではとびきり綺麗に輝いていて。

 

静けさによる不安をバチバチと楽しい音が取り払う。

 

しばらくその姿を楽しんでいたのだが、割と早めに彼は飛ぶのを止めてしまった。

 

『ほら、羽もないのに飛ぶのって、何か、気味悪くないか? それに、雷を出さないといけないから皆怖がるし、痛がるし……毛が逆立つって怒られるし……』

 

寂しそうな顔をする彼に、そんなことは無いと、正直な感想を口にする。

 

彼の雷が好きだった。

 

彼の雷は、モースを祓い、悪い妖精から私達を守ってくれる。

 

明るくて綺麗だし、音は楽しいし、近くにいると暖かくなる。

 

そう言うと、彼は、これまでに見た事もないような笑顔を作り、

 

『ありがとう』

 

そう言った。

 

彼はいつも無表情で、あんまり楽しそうでは無いけれど、こうやって見せる色んな表情にドキドキするのだ。それがとても心地良い。

 

『あ、そうそう』

 

彼は、何かに気づいたように、ポケットを漁る。

 

『コレを渡そうと思ってたんだ』

 

彼はそう言って、ポケットから何かを取り出した。

それは、首飾りだった。紐にギザギザした形の何かが付いている。それは、彼の出す雷のような色をしていた。

 

彼からそれを受け取る。

 

 

『コレをギュッて握ると――うわッ』

 

 

言われた通り強く握った瞬間、自分の周りを雷が迸り始めた。

 

『そ、そうそう、使い方バッチリ。こうして雷が出るから、いざと言う時、君を守ってくれる』

 

ごめんなさいと謝った。つい先走って言われた通りに握ってしまった。

 

充電しないとと、そう言って、彼は首飾りを握り、稲妻をその首飾りに注ぐ。

 

『はい、どうぞ』

 

そう言って、彼はその首飾りを頭から通してくれた。

ありがとうと、彼の言うように礼を言う。

 

『うん。喜んでもらえて嬉しいよ。()()()()と一緒に作ったんだ。君の役に立てるように――』

 

これは、とある1翅の妖精による日常の一コマ。

 

『え? ちょ、いらないって――え?なんで急に!?』

 

 

妖精歴の事である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

あんな事になるなんて夢にも思わなかった。

 

戴冠式。

 

大好きな彼がブリテンの王になる日。

 

本当は自分が王妃になりたいなんて思ったりもしたけれど、それでも、凄く嬉しかった。

 

彼の言葉をいつも心に刻んでいた。自分が彼の、ブリテンの役に立てる時代が来ると、そう思っていた。

 

人間の騎士達はバタバタと倒れ、それは彼らの仕業だと他の妖精達が騒ぎ立てる。

 

絶対にそんな事はないと分かっている。

 

でも、その場では何もできなかかった。

 

自分の勇気のなさが恨めしい。

 

騒ぎの中で逃げ出した彼を見失ってしまった。

 

早く彼を見つけないと。

 

力のない分、彼の褒めてくれた知恵を絞って、日々色々と準備していた。ブリテンの、隠れられる場所や逃げる道を、自分なりに調べたり作っていたりしたから。

 

おおよその彼の行動も予測はできる。

 

彼を見つけて隠れられる場所に案内しようと思っていた。

 

そして、視界の先、まだ遠くだが、彼を見つけたのだ。

 

 

『ロッ――』

 

 

そう、名前を呼ぼうとした瞬間、彼の腹を、何かが突き抜けた。

 

『バ ッ なぁ――!』

 

 

それは、牙の氏族長の腕だった。

牙の氏族長の腕が、彼の腹に刺さっている。

 

彼は、そのまま、苦しそうに後ろに下り、そのまま崖下へと落ちていった。

 

『ダメぇぇぇぇぇっ!!』

 

彼の羨ましがっていた、翅を駆使して空を飛ぶ。

だが距離が遠すぎた。

 

間に合う事なく彼は下の激流の川に落ちていって。

 

自分もその川に飛び込んだ。

 

けれど、川の激流に飲み込まれてしまって、気づけば誰もいない海岸。

 

同じ様に流れ着いたのではないかと、必死に探したけれど、結局のところ見つからなかった。

 

 

『ロットさん、ロットさん、ロットさん――っ!』

 

 

妖精國を照らす希望の光。

 

それが、私にとっての彼——ロット。

 

今は亡き、ブリテンの幻の王。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

アルトリアは、少し一人になろうと、ロンディニウム周辺を一人でうろついていた。

 

先の闘い。パーシヴァルが振るった槍。ウッドワスの強さ。様々な展開に一人思う事があったのだ。

 

その時に、見つけたのが彼。

 

一人でいるときに所属不明の青年に話しかけるのも迂闊だとも思ったが、彼の持つ何かが映し出しているのは、先日のウッドワスとの戦いだった。

 

その闘いの情景を見つめる何かに興味を持ったのと、

魔力も何も持っていない人間であり、大したことはできないだろうという事。

何より、見覚えは無いはずなのに、記憶のどこかに引っかかるその風貌を見て、我慢できずに話しかけてしまった。

 

振り向いた彼の表情はグチャグチャだった。

 

涙に溢れて鼻水が垂れ流され、顔が歪んでいる。

その眼は恐ろしい程に虚ろで、飲み込まれそうだった。

 

何故そのように悲しんでるのかとも思ったが、ウッドワスの過去の軌跡を見て、涙を流すその理由。

想像に難くない。

 

つまり彼は、あの牙の氏族長と懇意にしていた人間という事だ。

 

アルトリアは声をかけた事をこれ以上ない程に、後悔した。

 

 

青年は、アルトリアの問いに答える事も無い。

 

虚でありながら凄まじいほどの憎しみが籠った眼。

 

その眼はアルトリアに注がれているようで、どこか遠くを見つめている。

 

だが、体中から迸る怒気は、震え上る程強く、遠くを見つめるその視線の間に立てば、死んでしまうのではないかと思う程に、悍ましい。

 

怒気に当てられたのか、近くの草木に隠れていた動物や虫たちが次々に逃げ出していく。

 

動けない程に凄まじい殺気。

 

妖精たちが発するものとはまた違う、憎しみの混ざったナニか。

 

ゆっくりと、青年が近づいて来る。

 

「ハァっ――ハッ――」

 

呼吸がまともにできない。

 

どんどんと彼は近づいて来る。

 

「あぅ……ヤダ、やめて、そんな目で……見ないで……!」

 

ぐるぐると後悔の念ばかりが襲いかかる。

 

予言の子として祭り上げられ、戦争に加担せざるを得ず。

使命に準じて、襲い来る敵を撃退したと思ったら、目線だけで殺されそうなほどの憎しみを向けられる。

 

別に望んで得た使命でも無いというのに――

 

アルトリアはこちらに近づく青年をただ見つめる事しかできない、恐怖と後悔の念に動けない。

 

どんどんと近づく青年に、アルトリアは最後まで動くことが出来ず。その腕が届く範囲になったところで、恐怖のあまりアルトリアは強く眼を瞑る。

 

 

 

しかし、覚悟した痛みも、消えていくような最期も訪れなかった。

 

恐る恐る、眼を開けば、目の前に青年はいない。後ろを向けば、まるでアルトリアの事を認識すらしていないかのように、こちらを気にすることも無くそのまま歩いていた。

 

恐ろしすぎて声をかけることはもうできない。

例え彼が怒りのあまりロンディニウムの住民を皆殺しにしようと暴れ始めたとしても、逃げ出してしまうかもしれない。

それ程の恐怖を、アルトリアは刻み付けられていた。

 

結局、彼はそのまま歩き去って行く。

姿が見えなくなっていたところでその場にへたり込む。

 

「なんで、こんな思いをしてまで……」

 

アルトリアの呟きは、誰に届く事もない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ウッドワスの最期を見届ける事が出来なかった。彼の死を受け入れる覚悟が出来なかった。

 

覚悟は決まっていたはずだが、誰かに声をかけられたような気がして、見るのを一度中断したのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

もう一度、ウッドワスの死を見るために、装置のスイッチを押す勇気は無かった。

 

溢れる涙を止められない。

 

憎い。友を殺した円卓軍が憎い。

国の事を知らないまま、正義を翳してウッドワスを追い詰めた予言の子と異邦の魔術師達が憎い。

 

 

 

 

 

なによりも、肝心なところで、役に立てなかった自分が憎い。

 

 

 

 

だからこそ、彼の無念を果たすのが自分にとっての使命だと、そう考える。

 

どんなに醜かろうと、愚かだろうと、そうしなければ気が済まない。

 

そのためにまずは――

 

「援軍関係だな……」

 

まずは、ウッドワスを陥れた裏切り者。

 

トールの第一目標はソレだ。

 

トールにとっては、円卓軍も間違いなく復讐対象ではあるが、勝敗の分け目である援軍を送らなかったか、あるいは援軍が来れなかったか。その要因こそが最も気になる事項だった。

 

ウッドワスを殺した本人達ももちろん許せないが、勝敗を分けたきっかけ。そこから排除していく事を考えた。

 

それは、予言の子達を傷つけてはいけないという思考誘導も一つの理由ではあるが、そこのところはトールの価値観とも一致していたが故。

 

もし、ウッドワスへの援軍を女王モルガンが送らなかったのであれば、その女王を問い詰め、理由遺憾ではただでは済まさない。それ程の怒りに満ちていた。

 

これまでのトールであれば、復讐の順番を変えるどころか、予言の子一同は、その対象にすら入らなかった筈。更に言えば、女王を殺害するという発想すら思い浮かばなかった。

 

過去の時間軸の自分自身による、浅はかな縛り。

だがそれにも綻びが生まれていた。

 

予言の子一同を"最後の獲物"に据え、トールは心の中で復讐の狼煙を上げる。

 

直接女王に聞けるほどの権利も無いが、家にあるマッピングからおおよその援軍のルートは洗い出せる。後はそこを辿って、過去を映し出すホログラム装置で、地道に調べれば良い。

 

確実に犯人は炙り出せるはずだ。

 

実行犯はもちろん、その周りの人間や妖精やそれを指示した者がいればそいつも、まとめて滅ぼしてやる。

 

『――トール様に何かあれば、ウッドワス様は喜びません!』

 

ふと、オックスフォードの彼の言葉を思い出した。

 

「ああ、そうだ、一応、アイツらに会っておかないとな……」

 

ウッドワスがいない今、今後のオックスフォードは色々と不安要素が多い。

 

ウッドワスが大事にしていて、そして自分にとっても、少し暴れん坊で生意気だが、懇意にしている奴らだ。

 

今後のためにも、自分なりに伝えるべきことはある。

 

 

(最後の挨拶ぐらいは済ませておこう)

 

 

何せもう、彼らに会えるかもわからないのだから……

 

 

トールはもう、オックスフォードの住民の面倒を見ることよりも、ウッドワスの復讐を優先する悪鬼と化している。

 

このような姿を見た時、アスガルドの王は、王妃は、嘆くだろうか。

異世界のヒーロー達は何を思うだろうか。

 

その思考が若干トールの行動を鈍らせる。

  

 

 

だが止めるに至る事は無かった。

 

ゲートウェイを開き、オックスフォードへと次元を繋げる。

これがおそらく、最後の最期。

予言の子も、人理も何も関係無く、怒りも恨みも無く、純粋に妖精國と向き合う事のできる最期の対話。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

今頃友人である”彼女”が仕事を終わらした頃だろうか。

 

最終的にどうなるかはまだわからないが、望む結果はただ一つ。

 

あの妖精の敗北。

 

「許さない」

 

 

「私達を滅ぼしたアイツらを、あの人を殺したアイツを――」

 

――絶対に許さない……

 

首飾りを優しく握りしめながらその妖精は空を見つめる。

 

ついこの間まで、"彼"の事を忘れていた。

思い出したのはつい最近、いつも理由なく身につけていた首飾りは、これが理由だった。

 

 

このブリテンにかつて瞬いていた稲妻を忘れた事を恥じながら、その妖精は復讐の牙を磨ぐ。

 

いつかその機会が訪れる事を願いながら。

 




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