世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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今更なんですけど、


主人公最強タグ。
これ詐欺になるんじゃないかと思い始めてきました。
戦えば最強なので一応つけてはいるのですが……


ムリアン

それは、突然の事だった。

 

妖精國のいくつかの氏族長へと依頼が来たであろう。ロンディニウムへ侵攻を始めるウッドワスへの援軍の阻止。

その対象はソールズベリーとグロスター。

 

グロスターで言えばムリアン。と言うよりは、コヤンスカヤへの依頼ではあるが、一応は、友人であり雇い主であるような関係の2人。

 

そのオベロンからの依頼をムリアンは快く承諾した。

あえて言うならば渡に船。というやつだ。

 

結果は吉報だった。円卓軍がロンディニウムの防衛に成功。

 

牙の氏族は敗北したらしい。

 

コレでまた、妖精國が大きく動く。

 

「ただいま帰りました。私の留守中、お変わりありませんでしたか、ムリアン様?」

 

そんな中、今回の功労者が舞い戻って来た。

妖精とも人間とも違う存在。

異世界からのお客様。

今となっては気のおけない友人となったコヤンスカヤである。

 

「ええ、宴の準備は着々と、舞踏会の招待状を皆様に送ったところです」

 

そんな彼女を出迎えながら、雑談に入る。

仕事のこと、予言の子の事。そしてウッドワスの事。

 

ウッドワス。翅の氏族を皆殺しにした奴らの氏族長。そして、彼を殺したあの妖精の次代。

 

ケダモノの癖に、礼節だのなんだのを語る癖に、会議等ではいつも高圧的な愚か者。

あの態度から気に入らなかったが、ムリアンにとっては、その経緯からして生きていることが許容できる存在ではなかった。

 

「――ウッドワスは残念でした。まさか人間との戦いで殺されてしまうなんて……」

 

言いながら内心でほくそ笑んでいた。

ざまあ見ろと思っていた。可能であれば自身であの腹を貫いてやりたかったとも。

 

そして敗北するのも意外ではあったが、当然だとも思っていた。牙の氏族の力に思い上がって、力に敬意を払わない愚か者。

 

そんな愚者など、敗北して当然である。

 

「ですが『牙の氏族』はまだ現在です――」

 

妖精國の守護職を取り込み、妖精國を支配する女王に頼らなくても良くなると言う建前を自分に言い聞かせながら。

 

「外から来たよそものに渡してたまるもんですか――」

 

本音を混ぜながら、内心を押し殺して、コヤンスカヤと会話を続けていく。

 

「オベロン様との取引で入手した情報……"竜骸"の調査に参りたいのですが――」

 

会話もそこそこに、そんな理由によって、コヤンスカヤが暇を貰いたいと言う事で、許可を出して数刻がたった頃。

 

 

これといって、何かを察知したわけでもない。

 

本当にたまたまだった。

 

偶然に下を向けば、光の輪から人間の腕が伸びていて、空に浮いているムリアンの足首を掴んでいた。

 

「え――」

 

上がったのは小さな悲鳴。

気付いたことは幸か不幸か。気づかなければ訳もわからぬままだったろうが、少なくとも、これは、何かの現象では無く、ムリアンを狙って、悪意ある何者かが故意に行った事だという事を理解させられてしまった。

 

その腕に、ムリアンは体ごと引っ張られ、そのまま、ムリアンの体は、()()()()()()()()()()

 

一気に力が抜け出していく感覚。

 

絶望がムリアンを染め上げる。

 

それは足首を掴まれたときよりも強い絶望。

妖精領域の力が、一瞬で消え去った。

 

ここはグロスターではない。グロスターよりも遠く離れた妖精國のどこかの空。

 

「なにが――!」

 

ムリアンは最早疑問を口にすることしかできず。

持前の翅で姿勢制御をしようと体制を立て直そうとした瞬間。

 

()()()()()()()()()()()

 

上から落下したかと思えば、下から落下。右から上へ、下から左へ、縦横無尽に光の輪を通して振り回される。

 

時間にして実に30分。

 

自身がもはや無力であり、弄ばれるだけの獲物にすぎないと言う事を理解させられるまで、ムリアンは落下し続けていた。

 

 

 

 

 

グロスターの領主ムリアン。

彼女の持つ妖精領域は強さの否定。グロスターに入れば誰しもが弱体化し、力に敬意を持たない輩では生き残れない絶対世界。

その力は、前述したそのルールのみに及ばず、建物や遠近感が狂ってしまう。不可思議な空間操作もその力の一つ。

ムリアンの許可なく自室へ入る事など出来るはずもない。

 

それが、未知なる技術であり、この世界どころか、別世界とも次元を繋げられるような、反則級の力でなければだが。

 

光の輪は次元を繫げるゲート。

どこへでも次元を超えて移動できるその技は、女王の合わせ鏡とは似て非なる物。

そちらであれば既知であり、大魔術の類とは言え、理解の範囲に及ぶ御業。

 

妖精領域も相まって、いくらでも対抗策は用意しているが。

この光の輪、別世界の魔術、ミスティックアーツによって行使される次元を繫げるゲートは、この妖精國どころか、世界そのもののルールを嘲笑う反則技。

 

その存在すら知らなかったムリアンに対抗策などあるはずもなく、完全なる不意打ちに、対抗できるはずも無い。

 

30分の落下を経て、ムリアンは柔らかい地面へとうつ伏せになって墜落する。

布地の感触はベッドだろうか。

 

 

やっと終わったかと。一息つきかけたところで。

 

うつ伏せのまま顔を横に向けその視界に入ってきたのは、刃物だ。ほんの少し動けば、そのまま顔を切り裂ける位置。

 

「ひっ――」

 

その光景に、息を呑んだ所で、上から何者かにのしかかられた。

 

「あぁっ!」

 

首にかかる圧力に、思わず呻き声を上げる。

何者かが、うつ伏せのムリアンにのし掛かっていた。

 

 

「グロスターの領主ムリアン……」

 

それは男性の声だった。

 

「ロンディニウムへの援軍を皆殺しにした桃色女――」

 

ムリアンにとっては、どこか聞き覚えのある声。

 

その声は、一見冷静なようでいて。

 

「そいつの居場所を吐いてもらおうか?」

 

どこか覚えのある狂気に侵されていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

下手人を見つけるのに、苦労はしなかった。

 

オックスフォードで、"最後の挨拶を交わした後"トールは即座に調査に入った。

 

マッピングした戦場から、援軍が来るであろうルートを洗い出し、地道に、その道を歩きながら過去の映像を映し出すホログラフィック装置で、照らしていくだけ。

 

時間はかかるが確実であり、事実中々に苦労はしたが、コレと言ってトラブルもなく、それを見つけた。

 

甲冑に身を包み、武器を携えた妖精達の映像を発見。

時期などから見ても間違いないだろう。

 

援軍は送られていた。

 

ウッドワスが、心酔する女王にすら裏切られたのではないかと危惧していたが、どうやら杞憂だったらしい。

そこに関して、トールはは大いに安心した。

万が一裏切られていたとしたらウッドワスが不憫などと言うレベルではない。

あまりの怒りに、トール自身、この星を滅しかねないぐらいには考えていた為、一息つくことが出来た。

 

その事実が、トールの復讐心に、自覚はないもののほんの少しの躊躇を与える。

 

そんな事もつゆ知らず。

 

トールは調査を続け、その分岐点に出会った。

 

それは、どう見繕っても怪物だった。

 

毛深く、真っ黒で、目が複数あり、尻尾がある。

その他様々、観察すると、地球の重力の影響を受けている体をしている事は見て取れる為、宇宙由来というわけではなさそうだが、いまいち正体が掴みづらい。言うなれば地球生物のごった煮みたいな感覚だが、その考察は思考から除外する。

 

その怪物は妖精達を次々と捕食し、跡形もなく()()()()()()()()

 

まさしく蹂躙。血肉と悲鳴。

その叫びさえも、楽しんでいるような、そんな様だった。

 

その怪物は、遊びを終えたと思えば、どんどんと縮小していき、やがて、人の形を取っていく。

 

最終的に現れたのは獣人だ。

 

桃色の髪に、同じ色の獣耳や尻尾。

 

妖精に特徴が似ているが、牙の氏族と言うよりは、風の氏族に近い。人間の顔と体に、動物の一要素を足したような見た目。

 

その人物に心当たりはあった。

 

グロスターで時折見かける顔だ。

領主の友人。

 

行先は決まった。

 

グロスターに桃色女がいれば、殺せば良い。

 

いなかったとしても、領主を脅して、情報を引き出す。

その領主が手を引いていた者であれば、ついでに殺す。

 

これまでの生活を捨て、トールは妖精國にやって来た。

 

だが、その真の目的はトール自身覚えておらす、空虚な毎日を過ごす日々。

そんな空っぽな心の一部を埋めたのがウッドワスだ。

この妖精國での生きる意味というものをウッドワスに感じていたトール。

 

そんなウッドワスが殺された今、埋まっていた意味は復讐へと変化を遂げる。

 

異世界でのヒーロー活動や、アスガルドでの世界を救う偉業を成し遂げた人物とは思えない程に、その笑みは邪悪であり、狂気に染まっていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

トールは、ゲートウェイを開き、ティンタジェルの自室へと、()()()()()()()()、ベッドへと落とす。

グロスターのルールがあるあのセカイでは分が悪い故の選択である。

うつ伏せのムリアンの首に膝を乗せ、後頭部にエレメントガンという宇宙製の銃を突き付けた上で、横向きになっている目線に見えるように、ナイフを突き立てる。

 

ウッドワスを殺した桃色女と友人であるグロスターの領主ムリアン。

 

桃色女の挙動を見る限り、偶然通りかかって襲っていたわけではない事は明白だ。

援軍の情報を掴んでいたという事からも、裏で手を引いていた者の一人は、この女の可能性が高い。

直接手を下したわけでは無いが、裏で糸を引くような手合いは、ある意味、その手を汚す本人よりも度し難い。

その一人だとわかれば、情報を引き出したうえで殺してやる。

 

「――そいつの居場所を吐いてもらおうか?」

 

「……女王陛下の使いではありませんね……っ! こんな勝手が許されると思いますか!?」

 

「質問に答えろ……」

 

ムリアンは、視界に入るナイフだけでなく、後頭部に、不思議な鉄の感触も感じ取る。

これが何なのかは分からないが、絶対的な死の気配。脅しの道具である以上、頭をどうにかしてしまうものだろう。

 

「彼女なら……()()()()()()()を元にどこかへ去りましたよ……場所までは私もわかりませんが……」

 

妖精領域の及ぶ範囲から転送され、敵の懐へと招かれたムリアンだが、長い間グロスターを発展させ、女王とも対等に渡り合ってきた実力者。

この程度の脅しではまだ屈指はしない。だがこのまま逆らった所で殺されるだけ。

だからこそ、ムリアンは、この状況を打破するため、必死に思考を巡らせていた。

 

気配からして人間。しかも魔力も何も持っていない。

光の輪は不可解だが、絶望的だと判断するには、まだ、早かった。

 

「取引……ねぇ……」

 

「えぇ、彼女は私情を挟まず忠実に仕事をこなす方なので、私にも情報は与えてくれないのです」

 

(乗ってくれましたか……取引の内容を質問してくれた方がこちらとしても(オベロン)に意識を誘導させやすいのですが)

 

ムリアンは、肝心なところを出し渋りつつ、新たな情報を与える事で、そちらへと敵意を誘導させる策へと出た。

彼は、援軍を潰した存在を追っているらしい。

実行犯はコヤンスカヤである事は掴んでいるようだが、援軍の妨害に関わった者、そもそもとして、その援軍を潰す事をたくらんだ者の情報は掴んでいないようである。

援軍潰しを企んだ者の情報を与える事で、そちらに興味が移ってくれる事を祈りつつ。コヤンスカヤの情報も極力与えないよう心がける。

 

加えて、あくまで仕事でやった事だと、彼にイメージを与える事で、少しでも、コヤンスカヤへの心象を良くしようと企んでいく。

コヤンスカヤが負けるとも思えないが、事実自分はこうして、無力化されている。

友人である、コヤンスカヤが万が一にも自分のいせいで、殺されてしまうかもしれないのは嫌だった。

 

コヤンスカヤはあくまで仕事をしただけ。悪いのは、それを企んだオベロンである。

 

そのような結論に達してもらうのが理想だが果たして……

 

そう考えていたら、突然、部屋にまた光の輪が現れた。

 

うつ伏せになりながら左側を見つめるムリアンの視界に入るように現れた。その輪。

その中には見覚えのある部屋。グロスターの自室である。

 

(この光の輪は空間をつなげる力を持っている――? 女王の合わせ鏡のような……)

 

似たような力を思い浮かべながらその様子を見つめる。

 

この男が何者かはわからないが、こうまで気軽に転移を使えるとなると、この妖精國での戦争状態においてはかなり重要な立ち位置になってくる。

そんな人物がここに来て突然現れたことに、ムリアンは、どうするべきか考える。

 

自身の命を見逃してもらう事が一番ではあるが、その後、この人物を敵対関係のままにするには、良い事は無いとも思い始めていた。

 

そんな事を考えていたら。

 

突然、光の輪の中の自室に、見覚えのある姿が現れた。

 

(あれは、私?)

 

自室の中にいたのは、ムリアンだった。

だが、自分は確かにいま、人間の男に伸し掛かられて脅されている状態だ。

一体何がと思ってよく見れば、自分の姿が透けて見えていた。そしてその透けた存在がもう一人。

件のコヤンスカヤであった。

 

『ウッドワスは残念でした。まさか人間との戦いで殺されてしまうなんて……』

 

「!」

 

その内容に聞き覚えがあった。

 

『女王陛下に頼らずともよくなる抑止力……ブリテンの守護職、『牙の氏族』は私のものです。』

 

それはつい先刻、彼女と交わした会話そのものだった。

 

『——”竜骸”の調査に参りたいのですが』

 

(まずい――)

 

思った頃には、光の輪は閉じ、視界の先は、元の、おぞましい、鉄の凶器に囲まれる部屋へと戻った。

 

「竜骸ねぇ、とりあえず、その場所は後で吐いてもらうとして……」

 

まさか、空間の過去を遡るような術を持ち合わせているなんて――

 

「今回の件、あんたも関わってるって事で判断して良いみたいだな……」

 

――どうするどうするどうする?

 

ムリアンは考える。状況を打破できる手段を、自身の命を見逃してもらう事もそうだが、この男と敵対関係になるのもまずい。

 

ありとあらゆる欺瞞を、企みを、正体すらわからないこの男は見透かす事ができる。

 

この男の行動次第では、この戦争がひっくり返ってしまう。

 

状況から察するに、この男は単独で動いていて、どちらかというと女王派閥に寄っているようだが、仮にああいった術を用いて、女王に情報が行き渡ってしまったら――

 

どうにか、どうにかしてこの男に納得させるための理由を説明しないと――

 

「言い訳はもうできないなムリアン? この國を2000年も守って来た女王を裏切って、この國を守り続けてきたブリテンの英雄を罠に嵌めた」

 

(ブリテンの……英雄? ウッドワスが……?)

 

その言葉に、頭の中でめぐらせていた様々な策が吹き飛んでいった。

 

「予言なんていうくだらないものに縋って、厄災を全部他人任せにして、偉業も理解できない奴らが、異世界から来た敵かもわからない奴らに協力して……ウッドワスを、俺の友達を……! お前らは殺した……! その罪が、簡単に償えると思うな……!」

 

(何も知らない癖に、あんな奴を英雄だなんて……)

 

「まずはお前だ。次は桃色女。情報はお前の部屋で集めさせてもらう。依頼者を殺して、次は、異世界人、最後はロンディニウムの騎士達……」

 

(ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるな!)

 

「ふざけるな!!」

 

それは心の底から出た叫びだった。

 

「……今の自分の立場をわかってるのか?」

 

「うるさい!!」

 

後頭部に鉄の武器を押し付けられる。

痛みはないが、恐怖はある。

だが今はそれ以上に怒りが勝っていた。

 

「ウッドワスが國の英雄? 私が罪深い……? 全部女王任せ……?」

 

彼の言う英雄という言葉が納得ができなかった。

 

「何にも知らない癖に……!私が、どれだけ苦労して厄災を研究してきたかもしれない癖に……! アイツが、アイツらが何をやったのかも知らない癖に……!!!」

 

「何を――」

 

ムリアンのその叫びに、トールは気圧される。

 

それは、千年をかけて研ぎ澄まされた復讐の牙。

 

力を込めたわけでもない。何か能力を使ったわけでもない、

未だ、トールはムリアンの首に膝を置き、拘束している状態。

だが、この瞬間、確かに、トールの復讐心は、ムリアンの復讐心に飲み込まれた。

 

「先にやったのはアイツだ!! 先にやったのはアイツらだ!!」

 

「何を言ってるんだ……?」

 

「あいつが英雄なもんか!? アイツがアイツがアイツがアイツらが!!」

 

「アイツが私の大事な人を殺した!! アイツらが翅の氏族を皆殺しにした!!」

 

「な――っ」

 

その言葉にトールは一つ思い出す事があった。

 

『我ら牙の氏族は野生に流されがちだ……』

 

「まさか――」

 

ウッドワスが背負う罪、菜食主義へと変えた。その理由。

詳細は聞く事はできなかったが、ひとつの氏族を絶滅させてしまったというのは知っていた。

 

「その氏族の生き残りが……」

 

トールの、既に飲み込まれていた復讐心が崩れ去る。

頭痛がする、足元がふらつく。

気が付けば、足をムリアンからのけ、後ずさり、ベッドの脇に尻もちをついていた……

 

「そんな……」

 

今のトールに、最早復讐心は消えている。

心を染めるのは後悔の念。

 

この妖精國での生活において、初めて得た復讐という目的。

だが、その対象の動機もまた復讐によるもの。

 

 

命に貴賤は無いが、こちらは友人、あちらは自身の種族全員。

正当性という一点で言えばあちらに理がある。

何より、ウッドワス自身がその事を何よりも悔いていたという事実が、その復讐という目的に待ったをかけた。

 

思考がグチャグチャだ。どうすれば良い。

 

そう思っている間に――

 

「なんで――なんでなんでなんでなんで――!!」

 

解放された為、眼を見開き、信じられないような表情で見つめるムリアン。

その表情が見えたと思えば、今度は逆に、トールはムリアンに押し倒されていた。

 

「あの人と同じ顔で! あの人と同じ声で!! あの人と同じ()で! なんでアイツの為になんか――!!」

 

ムリアンはトールを押し倒したまま、元々トールがムリアンの脅しに使っていたナイフを今まさに突き立てようとしている所だった。

 

「ふざけるな! 偽物め!!」

 

振り下ろされるナイフ。

 

友人を失った悲しみと、そんな友人の罪の結果を見せつけられた今、トールに成す術は無い。

 

唯一出て来た行動が。

 

「すまない」

 

謝罪だけだった。

 

その言葉に、トールの右目に突き立てられようとしていたナイフが静止した。

 

「すまない」

 

繰り返される謝罪の言葉。

 

「すまない」

 

それは、復讐を遂げる事ができなかったと、ウッドワスに対しての謝罪か。

 

「すまない」

 

あるいは、事情も知らずに、浅はかな復讐心で害したムリアンに対しての物か。

 

「すまない……!」

 

激情が一気に消えた今、トールは涙を流しながら、懺悔の言葉を口にするだけ。

 

そんな、不可解な行動をとるトール。

対するムリアンも、それ以上、ナイフを振り下ろす事が出来なかった。

ナイフを持つ手は震えており、絶対的有利に立っているムリアンの表情は、悲しみに染まっていた。

 

 

 

しばしの沈黙……

 

 

 

 

やがて、カランと、ムリアンがナイフを捨てる音が室内に響いた。

 

「うう、……」

 

虚ろな眼で仰向けに倒れているトールの腹に馬乗りになったまま。

 

「……うう、ううう!……」

 

トールの胸元に額を置き、そのまま泣き出してしまう。

 

片方は記憶が無く、片方は確証がない。

 

悲しき再開。

 

だが、最悪な事態には至らなかったのがせめてもの救いなのだろうか。

 

その結果が良い事か悪い事かはわからない。

 

だが、この結果が、この再開が、今後の妖精國に多大な影響を及ぼしていく。

 

 

 

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