世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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妖精舞踏会

 

《ティンタジェル某日》

 

 

少女は、久々にそのドアを潜ろうとしていた。

その家屋には灯りが灯っており、家主がいる事は明白だ。

 

彼にも勝手に出入りして良いと言われていたし。

彼が暫くいない間も、色々と使わせてもらっていた。

 

 

色々と話したいこともあった事だし、久々に会えると、ほんの少し高揚しながら、そのドアを開けようとしたところで。

 

家内から怒号が聞こえてきた。

 

思わず体が強張ってしまう。

 

何が起きたのかと、一瞬考えたところで、その怒号の内容が耳に入って来た。

 

「あ……あぁ」

 

その内容に後ずさる。

 

どうすれば良いのか。分からない。

 

だってそう、彼が家内にいる誰に対して怒っているかは分からないが。

何故怒っているのかは明白だった。

 

少女は、ドアから離れ、踵を返す。

 

少女のみに与えられた力を用いて、自室へと戻る。

 

それ以降。

 

少女がその家に、二度と立ち入る事は無かった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

妖精舞踏会(フェアリウム)

 

それはブリテンの全妖精の憧れの夜会。

 

その年に活躍した著名な妖精達が招かれ、語り合う賛美空間。

 

煌びやかなホール。美しい風景。

妖精國では珍しい、見た事もないような料理が広がるテーブル。

 

ムリアンの妖精領域によってさまざまな形を取るその内部空間は、その場に来る誰しもが、眼を見張る美しさを保っていた。

 

そんな舞踏会に参加する妖精達も、特別だ。

 

上級妖精達の中でも選りすぐりの高階級の妖精達はもちろん。

 

女王直属の妖精騎士や風の氏族の長オーロラ。

果ては、ブリテンと敵対しているはずの予言の子と異邦の魔術師達等も参加していた。

 

そんな中、異常な存在が一人。

 

その()()は、特別な階級にいるわけでも、異邦の魔術師のように特別な立場でもない。

 

異世界の人間という事は、異邦の魔術師と変わりは無いが、彼はこの妖精國の激動に殆ど関わってこなかった存在。

 

この舞踏会に参加するには、招待状を配られるか、配られた当人が付き人として連れていくかでしか参加できない。

牙の氏族の長と友人関係ではあったが、ウッドワスはおらず、懇意にしている妖精騎士トリスタンもあくまでお忍び中の関係な為、当然参加等できるはずもない。

 

『ブリテンの主要妖精がこの妖精舞踏会に集います。ウッドワスが何故死んだのか。妖精國が今、どういった風向きなのか、貴方なりの答えをさがしてみては?』

 

その名はトール。この舞踏会の開催者”ムリアン”本人によって、参加を許された。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

ティンタジェルのトールの住む家屋にて、ムリアンは、テーブルに付き、そのムリアンに茶を振る舞う。

 

「美味しい……」

 

つい口に出てしまった。

だが、このお茶は不思議な甘味と、ホッとさせる暖かさがあった。

 

「蜂蜜入りのお茶。そう思ってくれるのなら良かった」

 

トールがムリアンへの復讐行為に失敗し、そしてムリアンもトールへの反撃に躊躇した。

 

その後二人して放心状態になっていたが、時間も経てばお互いに落ち着くものだ。

 

今トールは謝罪を込めて、ムリアンを持て成し、ムリアンもまた、それを受け入れていた。

 

今は互いの身の上話を語り合っている所である。

 

「貴方は……ロットさん、ではないのですね……」

 

「あぁ、ロットって名前に心当たりは無いよ……」

 

ムリアンが躊躇した理由。

いつだったかも定かではない。遠い記憶にある()()との交流。

その名はロット。

女王歴の記憶などあるはずの無いムリアンだが、トールというバグと、氏族を全滅に追いやられて以降の牙の氏族への復讐心がムリアンの記憶の蓋に綻びを与えていた。

ロットという人間の顔を覚えている。声を覚えている、魂の色を覚えている。

牙の氏族の先代(ライネック)によって殺されたのを覚えている。

だが、何故、そのような事態になったのか。そこが不明慮ではあるものの。

そんな大切な記憶だけは覚えていた。

 

 

「……どんな人だったか、聞いてもいいか?」

 

「……どんな妖精よりも強くて、優しくて、いつも、私たちの為に妖精國の色んな場所を行ったり来たり、忙しい方でした」

 

「……そうか、良い人だったんだな」

 

「えぇ、人の気持ちも知らないで、やきもきさせられる事も多かったですが」

 

 

そんな死んだと思っていた彼と同じ存在が現れた。

偽物だと思った。だからこそ許せなかった。こちらを殺そうとした存在だ。だからより一層怒りがこみあげて、殺してしまおうかとも思った。

 

だが殺せなかった。

 

彼が未だに違うか同じかもわからない。

だが、コヤンスカヤから聞いた汎人類史での話。

同じ名前の似て非なる存在がいるという事も聞いている。例えば、汎人類史にもモルガンという存在がいるように。

あるいは彼はそういった存在なのかもしれないと、そう思う事にした。

 

謝罪の後、今の彼は、ムリアンの処罰を受け入れると言った。

本来であれば、処刑か、奴隷行きか、罰を与える対象ではあるが、彼の持つ力は得難いものだ。

ムリアンは激情に駆られて利益になるような存在を捨てるような愚者では無い。

 

だからこそ、こちらに対して負い目のある彼を受け入れる方向へと舵を切ることにした。

女王の合わせ鏡のような力を持ち、過去を掘り起こす事ができる存在。

部屋を見渡す限り、様々な便利な道具も所持している様子。

今後妖精國を支配し、厄災と相対していく上で、モルガンが消してしまった。この妖精國についての情報を探る為の存在として、利用しようという企みがあった。もちろん、他意もある。

 

「では、先ほど話した貴方の処遇に関してですが……」

 

「本当に、桃色女——コヤンスカヤに手を出さない事と、護衛と過去の調査程度で良いのか?」

 

「えぇ、ある意味では私は、貴方に命を拾われたとも言えますから。舞踏会への参加も、そのお礼と思っていただいて構いません」

 

「……正直、裏があるとしか思えないんだけど……」

 

「えぇ、当然でしょう? あなたのその力は得難いものですから。護衛という名目で色々と貴方を利用させていただきます。処断されるよりマシでしょう?」

 

「……あぁ、正直感謝しかないよ……」

 

妖精舞踏会への参加。

それは、ある意味ムリアンにとっての慈悲である。

ムリアン自身自覚はしていないが、牙の妖精の復讐という最大の目的の中に、自身の氏族が皆殺しにされた理由を求めているという事がある。

彼女は、牙の氏族を蹂躙する事で復讐と同時にその納得を得ようとしていた。

 

ウッドワスを殺したのは円卓軍だが、実際は時代の流れ、世界の意思に殺されたと言うのが正しいだろう。

円卓軍やカルデアを殺したところで、きっと彼は納得できない。

この國の主要妖精達が揃うこの妖精舞踏会に参加すれば、色々な知見を得られるのではないかともムリアンは思っていた。

この妖精國には、今や女王に心酔していたウッドワスを英雄視する者などいないという事を肌で感じられるだろう。

 

その慈悲は、記憶の中の彼と同一人物かもしれないという事もあるが、トールをある意味で、同じ志を持つ同士と思っていることから起因している。

逆に言えば、自身と同じ目的を持つ彼が、今後どのような行動を起こしていくのか、ムリアン自身見定めたいという思いもあった。

 

「ではまずは、私の屋敷まで行きましょう。送っていただけますか?」

 

「……あぁ」

 

トールは頷き、ゲートウェイを開く。

現れたのは光の輪。

そこには先ほど脅されている時にも見たムリアンの自室があった。

 

ムリアンはその光景に、改めて、この術の脅威を実感する。

そして、この人間の有能さを実感し、

なによりも彼があのロットがどうか。確証が持てるまで、手放さない事を改めて決めるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

トールは、トリスタンに貰った礼服を纏いながら一人、舞踏会の会場の端につき、会場を観察していた。

その礼服の入手経路を聞かれたとき、正直に答えた。

 

『貴方!? あのトリスタンと懇意にしているのですが!?』

 

その時の、彼女の衝撃的な顔に少し笑ってしまったが。

トリスタンもそこまで悪い奴じゃ無いことを伝えるきっかけになっただろうか。

 

次々と、妖精達がやって来る。

 

ムリアンの魔法によって、トールの知らない相手の顔は見えないが、それでも認識できる存在もちらほらいた。

正直なところそんな妖精達を見てもあまりピンとこないのだが、トール自身、そのムリアンの術がどのレベルまでの知り合いなのかも理解できていない為、そんなモノかと思っていた。

 

トールは、舞踏会全体の会話を()()()()()()()、この舞踏会を観察していた。

 

 

 

『ウッドワスが英雄などという、貴方の言葉に頷く妖精はもういません。貴方にとっては一つの正解かもしれませんが、女王は最早、國を好き勝手におもちゃにする魔女でしかありません。今妖精國の全てが反女王というブームになっているのがその証拠』

 

 

そう、彼女の言う通りなのだろう。

ちらほら聞こえてくる会話の内容に、ウッドワスの死を喜ぶ声や女王への悪口。反逆者であるはずの予言の子達を讃える声がちらほらと聞こえてくる。

 

あれほどの圧政だ。当然と言えば当然とも言えるが、そのことを加味してもあまりにも酷い。今すぐにでも八つ裂きにしてやりたいという気持ちに違いは無い。

 

だがその怒りも一周回って、今は悲しみを抱いていた。

 

2000年もの間この國を守り続けていた女王。

それに付き従い、自らの業に抗い続けていた勇者の扱いがこんなものとは……

 

だがその功績を思えば、ポッと出てきて、予言などという曖昧なものに付き従う予言の子一同に良い印象を抱くわけもなく。そんなブームを受け入れる事は出来ない。

だからこそ、この妖精舞踏会に参加する予言の子を見定めたいとも思っていた。

場合によっては、殺してやろうとも。

 

ムリアンに、コヤンスカヤ以外への攻撃を禁止されているわけでは無い。

むしろ、女王も予言の子も、倒してくれる方が良いとすら思っている節がある。

 

当然とも言えるかもしれない。

女王は圧政を敷く國の嫌われ者。予言の子率いる円卓軍も、明確なイデオロギーを持たず、安い理想論ばかり語り悪の女王を倒せば全て解決と言わんばかりに何も示さない愚か者達。

 

期待できないというのは当然なのかもしれない。

 

トールからしたら、今なおこの國を支配する女王以外で、最も真剣にこの妖精國の今後を、モース対策を含めて、生き残ることを考えているのは、ムリアンだと思っていた。

 

彼女は良くも悪くも、女王にも予言の子にもフラットなスタンスだ。

 

 

その上で、今後、自分はどう動いていこうか。

 

正直なところ、女王と敵対したくないという思いはあるし、娘のトリスタンも気がかりだ。

 

ムリアンとの会話の折、トリスタンの事を伝えたところ、信じられないと言う表情の後。

何かを思い詰めるような表情へと変わったことが印象的だった。

 

例えばだが、女王には会ったこともないから何とも言えないが、女王が敗北した時、どうにかしてトリスタンと一緒に匿えないか、ムリアンに交渉出来ないかとも考えていた。

 

そして、牙の士族の事も……

 

いや、それは、それだけは自分には何も言う権利は無い。

復讐の牙を未だ収められない自分が、牙の氏族と懇意にしている側の自分が、"復讐をやめろ"等とどの口で言えるのか。

ウッドワスが菜食主義に傾倒した理由を伝える事すら許されない。それはやめろと言っている事と同じ事だ。

例え今の自分が伝えたとしても、響かないだろう。

 

復讐を愚かだと、いけない事だと、知ったふうに言う奴をトールだって信用しない。

目の前で恋人や肉親がバラバラにされても平気でいられると言うのなら信じてやっても良いが、そんな奴には残念ながら出会った事はない。

 

復讐は、自分自身がその虚しさに気付くまで止める事は出来ない。他者に無理やり止められたとしても、そいつに強い後悔が残るだけだ。

 

そんな事を考えていたらほんの少し騒がしくなった。

 

その騒ぎに目を向けると、目立った存在を見かけた。虹色の翅に金髪の髪。眩い輝きを放つ妖精。オーロラだ。

 

トールにとっては、国立殺戮劇場へとぶちこんだ憎き相手ではあるが、ウッドワスの恋する相手だという事を知っている。

胸中複雑な気分だった。あの笑顔を見る限り、ウッドワスの死に心を痛めているというわけでもなさそうだ。

 

見ていられなくて眼を逸らす。

ほんの少し、うるんでしまった眼をこする。

誰もウッドワスの死を憂いていない。そのことが酷く悲しかった。

流れかける涙をせき止める為、ハンカチで眼を塞いでいると、

 

「この舞踏会に人間が一人でいるとは珍しい、君は一体どういった関係で招待されたんだい?」

 

そう声をかけられた。

 

涙を拭う為、塞がっていた視界を開ければ、目の前には誰もいない。一瞬当たりを見回すがやはり誰もいない。

 

「む、君、わざとやってる?」

 

その声に従って下を見れば、一翅の妖精がいた。

 

綺麗だな。と言うのが第一印象だった。

桃色がかった銀髪に、白と青を基調としたドレス。

 

「舞踏会にようこそ。初対面かと思ったけど、お互い顔が見えると言う事はそうでは無いらしい」

 

「……君は?」

 

「僕を知らない? となると本当にどこで出会ったんだろうね」

 

青い布越しでも分かるほどに、顔の造形も恐ろしく整っており。

 

「悪い。その、俺、記憶障害のケがあるらしくて……」

 

「そうなのかい?いや、僕も覚えていない辺り、君のことは言えないけれど」

 

「俺はトール。この舞踏会は……あー、グロスターに酒を仕入れていたんだが、それに目をつけたムリアンに気に入られてね。色々仕入れ口を広げてくれるって事で、今後客として付き合おこともあるだろうから、空気感を感じておけって事で参加させてもらってる」

 

嘘では無い。トールのモルポンドを稼ぎ口の一つとして、グロスターに酒を提供していたのは本当だ。

ムリアンも知っていた銘柄だったため、ムリアンとしても、捩じ込む大義名分ができてちょうど良かったらしい。

 

 

「あのムリアンが……珍しいこともあるものだね……」

 

「まあ、ブームが過ぎ去ったら捨てられるかもしれないけど……」

 

「フフ、それは違いないかもしれないね……そうだ。名乗りが遅れてしまった」

 

軽い微笑みですら愛らしい。

 

「僕は、妖精騎士ランスロット。よろしく、トール」

 

「……あぁ、よろしく」

 

見る者にため息をつかせるほどの美しさを誇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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