世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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前回からの流れでお察しだとは思いますが、カルデアに対するアンチ・ヘイト描写に溢れております。

苦手な方はブラウザバックをお願いします。


妖精舞踏会③

 

テラスにて交わされる予言の子一行と妖精騎士ガウェインーーバーゲストによる密会。

盗聴器越しに聞こえるその内容。

 

汎人類史、異聞帯。

 

ムリアンやトリスタン。ウッドワス等から。おおよその話は確認している。

そして、彼らの密会によって。色々と話が補完できてきた。

 

奴らは、自身の世界を巻き込む形で起こると言う崩落を防ぐためにやって来た。

 

彼らに敵対する意思は無く、自身の世界を巻き込む崩落さえ防げれば後は立ち去るだけだと。そう言った。

 

この内容であれば、別にこれと言って、言うべきこともない。

 

彼らにとって敵に値しない理由というのが、”どうせ滅びるから”という理由でなければだが。

 

異聞帯という、”間違った歴史”だとか言うこの世界。

空想樹がなければ消え去るというこの世界。

それが無い以上、彼らからすれば、滅び去るだけの世界。

 

どの道滅びるにも関わらず。崩落から世界を”救ってやる”と、さらに”武器も寄越せ”とあまりにも舐めた”交渉”を奴らは持ちかけて来た。

 

そして、今この妖精國の現状で、奴らの要求通り、女王が武器を寄越せばどうなるか。

 

『このブリテンは攻略対象ではないけれど、最終的には『切除』しなければならない異聞帯だ』

 

攻略対象では無いだけで滅ぼさなければならないと、奴らはそう言っている。この世界の維持は、奴らにとっては困ることなのだ。

交渉に従って武器を渡したとしても、世界が維持されてしまう場合、女王の武器(ロンゴミニアド)をこちらに向ける可能性もある。という事だ。

 

結局の所、奴等は崩落という自身の世界の対策しか考えていない。その後のこの世界の消失については知ったことでは無いと言うことだ。

そんな分際で、この世界を救ってやるから武器を寄越せと持ち掛けて来ているわけだ。

舐めた交渉。あまりにもこちらを馬鹿にしている。上から目線の”正しい世界”ならば納得の対応だ。

 

彼らの提示する移住も、数に限りはある事はその言葉尻からして察する事はできる。

 

この國を維持しているのはモルガンであり、その交渉を跳ね除けたのもモルガン。そんな交渉。跳ね除けて当然と言えるが。

 

そのモルガンを殺せば、後は妖精達にまかせると、放棄するのも納得だ。

モルガンを殺し、この國を維持する楔を消し、武器を奪えれば、後は最早どうでも良いという事だ。

 

この國を救うと言いながら、奴らは住民をだまし。内乱を活性化させ、滅びへの道を整えていっているのだ。

 

この國が滅んだ時、奴らは何を思うのだろうか。

間違った滅ぶべき世界だったけど、協力してくれた住人達は皆良い人だった……とでも言って思い出にふけるのだろうか。

その思い出だけでも忘れないとでも言って、滅びを看取るだの、綺麗な言葉で誤魔化して、勝手に罪を背負った気になって、本当の意味での苦悩を味わう事なく、安い決意でこれからものうのうと生きていくのだろうか。

 

ああ、当事者達にとってはさぞ美しく、切ない物語になるのだろう……

 

 

 

 

 

だが、滅ぼされた側からすれば、ふざけた話だ。

 

 

奴らのあまりの悍ましさに、トールの中の反乱軍への恨みは薄れてきていた。

浅はかとは言え、この國の未来を考え、自身たちの為、妖精と人間の共存という絵空事を謳っている反乱軍。

だがこのまま戦争が進めば、殆どの反乱軍の兵士達は戦争中に死に絶えるのは明白だ。

 

妖精國の未来を考えてもいない奴らの、上部だけの救済に騙され、他人の世界を救う英雄譚の引き立て役として消化されていくのだろう。

妖精國を理想の国にするどころか、自身の世界を滅ぼす為に利用される事が余りも哀れで、恨むどころか、同情の気持ちすら抱いていた。

 

 

バーゲストの様子を見るに、彼女は交渉に乗るだろう。

女王が妖精を救わないと宣言している以上、乗らない理由は無い。

これまでの女王の実績よりも、大事な恋人と、裏で人間を嬲り殺しているマンチェスターの住人が大事だと言うことだ。

 

妖精騎士の一人は落ちたと見て良いだろう。これでまた戦況は大きく傾く。

 

真剣に調べてみれば、何もかも都合よく、カルデアが有利な方へ行くように行動している節がある。

 

良くも悪くも純粋な妖精は、騙すのは容易だ。

ウッドワスの援軍を潰したような姦計を巡らしている者がいるが、その実内容は単純明快。その程度の謀でも振り回されるのが妖精という存在。

 

 

だが問題は、そんなカルデアにとって都合の良い展開の為の迂闊な行動が、そこのガウェインや各氏族長含め、国の妖精達だけにとどまらないという所だ。

 

カルデアにとっての最大の障害。

モルガン女王の態度が何よりも、カルデアを有利に働かせている。

 

 

何故、妖精を見捨てる事をひけらかしにする?

大厄災に備えるフリでもしておけば良いものを、何故、敵対されても仕方がないような態度で居続ける?

見捨てる相手に対するせめてもの誠実さからなのか?

 

何故、援軍が届かなかった事すら確認しない?

 

何故、あからさまな他氏族たちの裏切り行為を黙認する?

あちらこちらで、自分たちは検討したが予言の子に破れ、鐘を鳴らされたなどというあからさまな言い訳を用意しているのに。

 

何故謁見の段階でカルデアを始末しなかった?

最初の謁見の段階でカルデアを殺していれば、それで済んだ話なのに。

見逃したばかりに、ウッドワスは殺された。

 

まるで予言の子やカルデアに力をつけさせ、自身が倒される事を望んですらいるように見えて来る。

 

そう思わずにはいられない程に、あまりにも、女王の本気度が全く足りない。

油断が過ぎる。本気でカルデアを潰そうと明らかに思っていない。

これまでの女王の実績を調べれば、そこまで間抜けと言うわけでもあるまい。

 

間違った世界の住人であり、その世界を維持している事に罪の意識でもあるのか。

滅びゆく世界を無理やり生かしているという事に負い目でも感じている?

 

あるいは、自身のセカイのように。

上位世界の神なる存在によって、都合よくカルデアの連中が生き残り、この妖精國が滅ぶようなシナリオになるように、思考を誘導されている?

 

そんなありえない出来事が、トールにとってはありえない事では無い。

 

 

――冗談じゃない。

 

 

女王が大厄災に備えないなどと言うのは自身にとって関係無い。

土地に連なる呪いを、全てその女王にまかせる事自体、お角違いだ。

 

だから彼女が大厄災への対処を放棄すると言うのならば、それはそれで納得しよう。妖精國を広げるために、この國の妖精達を犠牲にすると言うのならば、受け入れよう。

 

女王の2000年にもわたる妖精國への貢献は、そんな蛮行すら考慮に入れても釣りが来るほどのものだ。

 

その時が来たら自分自身で対処するだけだ。

 

だが、侵略者達はまた別の話だ。

同じ滅びだとしても、つい最近現れた外様の人間が、安い理想論でだまくらかし、救世という名目で、好き勝手に國を荒らすだけ荒らし回って行く事だけは我慢ならない。

 

女王が、この國の維持に思う所があり、カルデアとの決着を自身の手で付けようと思っていたとしても。

 

これは世界をかけた戦争だ。当事者は女王だけではない。

 

女王が、大厄災を放っておく事に文句は無い。だがカルデアを殺す事に異論は挟ませない。

 

だからトールなりに國を守るために、自身がすべきことをするだけ、今、この瞬間、侵略者たちを殺すチャンスなのは間違いない。

女王が敗北し、外様の奴ら(カルデア)が満足した顔をして帰って行くのを許すぐらいなら、叛逆のそしりを受けたとしても、殺してしまう方がよほどマシだ。

 

食事会場から、ナイフをくすねる。

ムリアンの魔法によって。このグロスターでは鍛えた力が振るえない。

だが、人間一人殺す程度、ナイフでもあれば、子供程度の力もあれば事足りる。

逆に大の大人程度の力があれば、鉛筆一本で事足りる。

 

ナイフを袖に隠す。

狙いは、密会が終わり、会場へと戻って来た、カルデア一行。

その代表というツラをしている、人間の男性。

 

『異聞帯と汎人類史はどちらかしか生き残れない生存競争の対象ではあるけれど、それは『世界』と『世界』の話であって、『住人』と『住人』の話では無いんだ』

 

奴等はこんな事を言っていた。

 

どういう意図で言っていたとしても、バーゲストを説得するための方便だとしても。悪魔で移住を提案するいちいち回りくどい前説だとしても。

 

トールからすれば自身達の行動の選択の責任を世界のせいにして、逃れるための言い訳にしか聞こえない。

 

いずれ滅び、滅ぼさないといけない世界に向かって救ってやると言いつつ、武器を寄越せと舐めた交渉を持ちかけたのは奴等だ。

世界じゃ無い。

 

一度見逃した女王への反抗を選択したのは奴等だ。

世界じゃ無い。

 

その選択が、この妖精國の争いを増やし、混乱をもたらし、結果、女王の圧政など問題にならない程の犠牲が増えていく。

その最たるものが友人であるウッドワス。

 

トールからすれば許せないというレベルではなかった。

 

 

世界のせいだからしょうがないと納得する気もない。

戦争だからしょうがないと思う気も無い。

 

奴らは、汎人類史の尖兵として、この世界を効率よく滅ぼすためにこの世界の住民を騙しているだけ。

侵略者として正しい行動をしているだけ。

 

奴等が言った通りこれは世界をかけた生存競争。

 

卑怯な行為も許容しよう。

自身を救世主だと宣伝して、妖精達を騙して、救世主と謳われながら、気分良くこの國を荒らしまわれば良い。いくらでも卑怯な手を使えば良い。

 

奴達が卑怯者であればある程、こちらの殺意をより先鋭化させてくれる。

 

だが、救世主ヅラのまま、國を荒らし回っておきながら、滅びを()()()などと、加害者にとって都合の良い、美しい言い方をして勝手に満足して去っていく事は許さない。

 

卑怯には卑劣を。暗躍には暗殺を。

 

女王の方針も関係は無い。生きたまま捕らえろだの。そんな悠長な事を言っているから、ウッドワスは死んだ。

 

 

実行は簡単だった。

何の気なしに、対象へと近寄っていく。

 

 

一息で殺す。

 

 

警戒は、ザルだ。

これだけの協力な妖精がいる中、脆弱な人間など誰も気にしない。

ムリアンによる暴力を封じる魔法が、彼らにある程度の安心感を与えている。

ガウェインとの交流によって一仕事終えたという達成感もあるだろう。

何より、ムリアンのもう一つの魔法が効いている。

知り合いでなければ顔を認識できないというその魔法。

 

顔は見えないが。こちらからすれば、全員性別も身長もバラバラだ。顔がわからない程度では、障害にもならない。

 

今のトールは、自身を兵器として見立て、仕事を実行する暗殺者。

 

ムリアンの魔法は、鍛え上げた肉体などは使えずとも、その知識や経験を消すまでには至らない。

 

一番厄介そうなのは赤髪の男だが、その男でさえ、様々な戦闘経験を経て来たトールからすれば大した障害でもない。尚且つ今は弱体化している。純粋な体術で、トールの右に出るものなどいない。

 

奴らが歩いてくるのを待つ。ある程度の距離からはこちらから近づく真似はしない。

視線を逸らし、気配をずらし、違和感のない、舞踏会の参加者を装う。

 

チャンスはあっさりと訪れた。

赤髪の男の警戒から最も遠く、そして殺害対象に最も近い位置。

 

周りにも無関係な妖精がザワザワと取り囲んでいる。

木を隠すには森とはよく言ったものだ。

ムリアンの魔法によって顔もわからない中こちらを単独で認識するのは不可能だ。

 

このままの流れならば、誰がやったか気づかれる事もなく、すれ違いざま。男の脳天にナイフを突き立てる事ができる。

 

呼吸を整え、集中する。

 

いざ、仕事を実行しようとしたその瞬間。

 

「貴方……?」

 

少女に、声をかけられた。

ムリアンの、知らない相手の顔が見えない魔法。

暗殺にはもってこいのその魔法。

 

だが逆に、知り合いであれば顔は見えてしまう。

 

見えてしまえば目立ってしまう。

 

森の中で木が一本、煙を上げて燃えているようなものだ。

  

自分は見えない。だが相手は見えるらしい。何処かで一方的に知られたのか。

 

「チッ――!!」

 

声をかけられた事によって、全員から注目されてしまった。

少なくとも気付かれずに殺す事は不可能となった。

ここで諦めても良かったが、もはやこの怒りは収まらない。

 

自分はどうなっても構わない。

だが目の前のカルデアの連中。その要。

バーゲストに移住はできると、甘言を投げかけたこの男だけは殺す。

 

こちらに近づく赤髪の男を蹴り飛ばす。

赤髪の男に、後の先を取れるほどの力は無い。

たたらを踏む程度に隙を作れば十分だった。

 

戸惑う黒髪の男性の首を、反応さえも許さない速度で、左手で掴み、そのまま床に叩きつけつつ――

 

「——ッ」

 

苦し気に呻く間も与えず、手首から滑らせたナイフをくるりと反転、逆手に持ち、その右目に、遠慮なく突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイフは右目を貫通し、脳にまで達する。

首を絞めている為、うめき声も出ないだろう。

 

だがこれではまだ、確殺とは言えない。突き立てたナイフをずらし、脳にさらなるダメージを与えようと、動かそうとした瞬間、

 

「貴様! 何をしている!!」

 

その声と共に、脇から腕を掴まれた。それは他でもない、妖精騎士ガウェインのもの。

 

「——っ動かん!?」

 

「邪魔を、するな……ッ!」

 

あと少し、ほんの少しで殺せると言うのに、ほんの1mmでも動けば終わりだと言うのに、その腕は動かない。

邪魔をする妖精騎士に、妖精國の裏切り者に怒号を飛ばす。

 

その後数人がこちらを止めようと掴みかかってきた。

この舞踏会では魔術も何も使えない。故にその体で突き放しすかない。

だから左から掴み掛かろうとする幼女など問題でもなかった。幼女の手を逆に掴み、片手で捻り上げ、こちらに近づいてくる赤髪の男に向かって投げ飛ばす。

その間に、反撃の為に、こちらの腕に掴みかかった、右目を突き刺した青年の腕を捻り上げ、関節を外して動かなくさせる。

 

また再び掴みかかっできた。今度は、こちらを認識していた金髪の少女。、何の苦労もなく突き飛ばして尻餅をつかせる。

 

そこからさらに、後ろから、腕につかみかかる存在が増えた。

これまでの中で最も力が強い。

 

「トール! キミは何をやっているんだ!!」

 

妖精騎士ランスロット。

彼女がこちらの動きを止めようと、体ごと掴みかかる。

 

「――ッ ガウェインとボクでも動かせないなんて!!」

 

こいつもか。

なにがこの國を守る妖精騎士だ。

侵略者を殺そうとしているだけなのに。何故止めるのか。

正々堂々と戦争での決着を望むとでも言う気か。

戦争で、住民の命を無駄に散らすくらいなら、こうして暗殺するのが一番だと言うのに。

騎士道とやらがそんなに大事なのか。

 

「パーシヴァルに戦ってほしくないんだろ!? だったらこいつらは今殺しておくべきだ! こいつらに乗せられて、戦争に勇んで、こんな奴らの為に、盾にでもされて死んでも良いってのか!?」

 

「キミは何を言っている!?」

 

「気でも狂っているのか!? 貴様!」

 

「狂ってんのはお前らだろう! どいつもこいつも、 そんなに滅びたいのか……っ!!」

 

引くも押すもできない。

叫んだところで彼女らは力を緩めてくれない。

 

「トール! キミ、気づいてないの!?」

 

「何が――!!」

 

 

 

そう、聞き返した瞬間に、急激に、自身の右目に痛みが走る。

突然の痛みに意識が朦朧としてくる。

 

 

 

 

 

 

「キミは、自分の目にナイフを突き立てているんだ!!」

 

 

 

 

 

「――あ?」

 

視界が変わった。

目の前には押し倒し、マウントポジションをとったカルデアの黒髪の青年。

彼の顔面は血まみれだ。

 

通常の人間であれば、出血多量で死んでいてもおかしくない量。

 

暗殺は成功したと言える。

 

その右目に、ナイフが突き立てられていればだが。

 

「な……に……」

 

 

殺そうとしたはずの青年。

マウントを取って、ナイフを刺したはずのその目には何も異常はなく。

その顔には夥しい血液が降り注いでるだけ。

 

その血は、トールの目から出たものだった。

 

ナイフは、トールの目に刺さっていた。

 

 

トールは、青年、藤丸立香を押し倒した後、何故か、自身の目に、ナイフを突き刺していたのだ。

 

トールには理解が出来なかった。

誰の仕業だと、そう、思考する間も無く、腕の力が緩むことによって、絶妙なバランスで突き刺さっていたナイフがズレた。それは脳まで、達し――

 

トールは、こちらに向かって叫び声を上げるランスロットの声を最後に意識を手放す。

 

死の瞬間に、全てを理解する。誰の仕業か、これからどうなるか、その全てを。

そして。これまでの、ありとあらゆる全ての時間軸で、経験した死が、痛みや喪失感が、思い出したかのように、纏めて訪れる。

 

それは、常人でなくとも発狂するほどの苦しみ。

 

それを味わい尽くし、しかし発狂をする事もなく、全てを受け入れ、今度こそ完全に、意識を手放した……

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……っ! 今のは……?」

 

それは、あまりにもリアルなビジョンだった。

 

気付けば、手にナイフを握ったところだった。

 

今の明確なビジョン。

これから起こる事を暗示するような、不可思議な現象。

 

問題なのは、この現象に心当たりが無いわけでは無い事にある。

 

ただの幻覚と一蹴する事はできない。

 

首を振る。意識を保つ。

これから同じことが起こる?

 

可能性はある。

だが、起こらない可能性もある。

世界は選択によって分岐していく。

あのビジョンは、おそらく別のマルチバースから流れ来た情報。

扉を開いてもいないのに繋がるなど現状解明できているマルチバース論からすればありえない。

 

あるいは、この世界がマルチバース化することの無い特殊な世界で有れば話は別だが。

 

それも今の所はわからない。

 

マルチバース自体、未だ完璧な解明はされていない以上、本当にありえないと否定する事は出来ない。

 

兎に角、今これから選択することによる行動が、全く同じ結果になるとは限らない事は確かだ。

 

金髪の少女に気づかれる事で、あの暗殺は中途半端なものになった。

ならば、金髪の少女にも気付かれないように近づけば良い。

一歩目を右足で行くか左足で行くか。

小石を蹴るか蹴らないか。

バタフライ・エフェクト。

マルチバースと言うものはそれだけで、生まれていくものだ。

 

その行動が、また新たな時間軸への道へとなる可能性もある。

 

この行動は命懸けだ。だが、死を覚悟して挑む選択肢がある程に奴ら(カルデア)に対しての嫌悪感と、怒りに、今は苛まれている。

 

だが、同じ結果になる可能性の方が高いのは確か。

部の悪い賭けだ。

 

決心は未だつかず。だが、日和っているあいだに機会を逃し、その影響が巡り巡って、トリスタン達(大事な人達)の運命に影響が出る可能性もある事を考えると、実行する下準備はしておくべきだ。手首にナイフをしまい、奴らへと近づいて行く。

 

そんな矢先に――

 

「ちょっと――」

 

声をかけられた。

 

それは、トールが謎のビジョンを見たことにより、その場に留まったことによって起きた出来事。

 

それが、知りもしない相手だったら聞こえていないフリでもしていただろう。

肩でも掴まれない限りは反応はしなかったろう。

 

だが、トールにとって妖精国の数少ない大事な妖精で、それも肩を実際に小突かれれば反応せざるを得ないというものだ。

 

トントンと可愛らしい小突きに振り向けば、彼女がいた。

馴染みの少女。

今では唯一の、何のしがらみもない友人関係と言って良いかもしれない少女。

つい今しがた、思考の中にあった少女。

赤い髪。

見目麗しくも攻撃的な相貌。

扇情的な肢体を包む赤いドレス――

 

ではなかった。

 

「オマエ、何でこんな所に、今まで何処で何やってたのよ?」

 

訝しげに声を掛けてきたのは、度々トールの部屋に来ては退屈を紛らわすお姫様。

 

「いや、え……?」

 

トールは思わず目を見張る。

 

殆ど下着だった。

寧ろ下手な下着より扇情的だ。

 

黒いレザー製の下着らしき何か。両腕は殆ど露出は無いが、胸から、足元にかけて隠している面が少ないくらいだ。

胸の谷間を通る大きなベルトが、どこかサディスティックな雰囲気を醸し出している。

 

普段とは違うその格好に、その露出の多さに、そんな肢体を恥ずかしげもなく晒す少女に、自身の死のビジョンを見たこともあるだらう、若干の躊躇を待っていたとは言え、トールの今の今までのカルデアへの葛藤や怒り。その他諸々が一時的に吹き飛んでいった。

 

「ト、トリスタン?」

 

彼女は妖精騎士トリスタン。

ムリアンの招待を受けた女王の代わりに、妖精舞踏会に参加している。女王の娘である。

 

「なぁに? 私の衣装に見惚れちゃってるワケ? ふぅん……」

 

トールが驚いているのを、そう解釈したのか。例に漏れずサディスティックな表情を浮かべるトリスタン。

 

このやり取りが、一つの結末(ルート)を変革する。良きにつけ悪しきにつけ、こう言った小さなやり取りも、時間に影響を与えていく。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

そう、そうよね。謝ったら許してくれるわよね。

 

アイツだったら許してくれるわよね。

 

プレゼントだって用意してるんだもの。

 

お家で自由にして良いって言ってくれたけれど。

 

楽しいおもちゃや映画も沢山あるけれど。

 

1人で映画を見ててもつまらない。

 

1人で靴を作っててもつまらない。

 

アイツが褒めてくれないと嬉しく無い。

 

アイツがいないと作った靴が良いものかどうかもわからない。

 

だから、早く謝って、今まで通りアイツの家で――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




厄災道場つってメリュジーヌとバーゲストが出てくるのを入れてたんですが、恐ろしくつまらないのでやめました。

なんで、わざわざ言うかと言うと、まだ諦めきれてないからです。

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