「ふぅ〜ん……」
ジロジロと、青年を注視する少女。
妖精騎士トリスタン。
「悪く無いじゃない。さっすが私! この間見た時よりマシに見えるわ。ロケーションってヤツかしら」
言葉にトゲはあるものの、満足そうに頷く彼女。
対面する青年が着ているのは、彼女が青年と初対面の際にあまりにも服装がダサいからと、着せたものだ。
本人からしたら端金を払ってゴミをプレゼントしたようなもの。
と言う面目だが、
存外、違和感がないどころか、似合っているのなら尚更だ。
「ああ、ホント、感謝してるよ。トリスタンのお陰で恥を欠かずに済んでるからさ」
そんな、トリスタンのトゲのある賛辞に何処吹く風と、素直に礼を言う青年、トール。
既に、トリスタンの口の悪さは、慣れ切っており、彼女の最大限の賛辞である事も理解している。
「トリスタンも、うん。凄く似合ってるよ。うん……うん……」
対するトールも、彼女の格好を改めて注視し、賛辞を送る。これも素直な感想だ。確かに、今のトリスタンの格好は、華やかだ。彼女の容姿にも、性格にも、合っているように見える。だが、幾ばくか歯切れが悪く、トールはすぐに目を逸らす。
その態度に、トリスタンは気付いてしまう。
「お前、何でこっちを見ないんだよ……」
自身の肌を、
ある意味では、そのポーズも良くは無い。
素晴らしいけど良くは無い。
トールはさらに目を逸らす。
何でかと言うと気恥ずかしいから意外に理由は無い。
「いや、ちょっとさ……肌を見せすぎじゃ無いか?」
何せ、彼女の今の服装は、言ってしまえば下着同然なのだから。
「肌って――?」
言われて自身の身体を見下ろすトリスタン。
しばらく経って、何を思い立ったのか、ニヤリと、攻撃的な笑みを浮かべる。
「お前、こんなので恥ずかしがるんだ? ふぅん……まあ、そうだよな。こんな背徳的な格好。私にしか出来ないだろうし、貴方の世界じゃ美しさが罪なんて言うらしいけれど、刺激的すぎたみたいね」
トリスタンは、トールの家で読んだファッション誌を思い浮かべながら口にする。
ここまで刺激的な服装は中々入っていなかった。
その雑誌に書いてあった常套句を用いながら、彼の態度をポジティブに捉えたらしい。更に機嫌が良くなった。
トリスタンは友人であり、妹とか娘みたいな感覚もある。
そんなトリスタンが大衆の面前で惜しげもなく自分の肌を晒し、見られているのがなんだか気恥ずかしい。
共感性羞恥心というやつだろうか。
決して、トール自身がその肢体にドキドキして恥ずかしがっているわけではない。決してだ。
トールは一度落ち着きを取り戻し、空気を変えるためにコホンと一咳いれる。
「ほ、ほら、どうしてここに?っていう話だっただろ? 俺も聞きたかったんだよ」
最初に会った時のトリスタンの言葉を、拝借する。
トリスタンがここにいる理由など、おおよそ予測がつくが、本人の口から聞きたかったと言うのもある。
「ああ、そう、そうね……そうだったわ」
その話題になった途端、ほんの少し、トリスタンが大人しくなる。
「私は、お母様の代わりよ。お母様は玉座から動けないから、その娘である私が参加するのは当然でしょう? それだけよ」
その説明に、トールは頷いた。おおよそ予想通りの答えだ。
「それでお前は? 上級妖精の更に一部しか参加できない舞踏会に、どうして参加しているのかしら?」
「今、ちょっと色々あってムリアンの所にいるんだ」
ムリアンに復讐をしようとしたのをきっかけに――とも言うわけにはいかず。シンプルに説明する。
「――ハ?」
そう、何の気なしに説明をしたのだが。トールには全く予想外で、トリスタンの表情が見たことも無いような驚愕の色に染まっていた。
「お前が、ムリアンの所に? なんで?」
予想外に詰め寄るトリスタンに、トールは、あらかじめムリアンと用意していた。酒の仕入れの件について、説明する。
そのやりとりの際に、色々あって護衛なんかもする事になった事もだ。ほとんど事実ではある為、すべてムリアンと口裏は合わせてある。
「ハァ!? 護衛!? あのムリアンが!? いい子ちゃんぶる癖に人間だけは嫌いとか言ってたってのに。どういう心変わりなワケ!?」
「そ、そんな事言われたって、そうなったんだからしょうがないだろう!!」
煽情的な姿のまま、襟をつかんで詰め寄るトリスタンに慌てるトール。
普段よりも慌て具合が大きいのは、服装によるところが大きいのだろうか。
大きな声によって視線が集まる。
それに気づく二人。
トリスタン自身、こう言った場で粗相をするわけにはいかないと思ったのか。落ち着いたトリスタンはトールの襟から手を放し、さらに、その襟を直す。
無意識でやっているであろうその所作。そういう細かいところの気配りが、トリスタンの憎めないところであると、トールは思っていた。
「ま、まあ事情はわかったケド。まさかムリアンなんてね……」
「あぁ、俺も信じられないよ」
「だったら気をつけなさい。ムリアンの白々しい、いい子ちゃんぶりは表向きだけ。迂闊な事すれば、虫みたいに小さくされてぺちゃんこだぜぇ? ま、その時は私を呼べよ? ポップコーンでも食べながら見学してあげるからさァ」
相も変わらずのサドっぷりだが、逆に言えば、
「あぁ、ありがとう。その時は、”コール”するから、お母さまの”合わせ鏡”で駆けつけてくれよ」
トールの礼を、どちらの意味で解釈したのか。とりあえず満足したらしい。それ以上は何も言わず。嗜虐的な笑みで返す。
ムリアンに関しての会話は終わったとばかりに、話題は互いの近況の話に入る。
トールと言えば、変わったことはやはりウッドワスの事やムリアンの事だが、細かく説明するわけにもいかず。
先ほどのムリアンの件を繰り返すだけだ。
トリスタンといえば、盛り上がるのは当然ながら妖精の悪口。
バーゲストが左遷されただとか、モルガンが自分とキャメロットさえ生き残れば良いと宣言した時の、うろたえた顔が面白かっただとかそういう話だ。
「本当、
その会話の折、妖精を救わないという例の話に、反応せざるを得なかった。
わざわざ見捨てる事を宣言するモルガンの在り様。
見捨てるなら黙って見捨てれば良いものをなぜ、わざわざ宣言するのか。それに対する疑問。
「なんだよ、考え事してるみたいな顔して。見てられないくらい不細工なんだけど」
……まあ、今のは結構傷ついたが、流しておこう。
「いや、トリスタンのお母さんが大厄災に対処しないって話……」
「なぁに? お前もあいつらの顔見たかった? 今度、合わせ鏡で映像だけでも見せてやろうか?」
楽しそうなトリスタンに水を差すのはいかがなものかと思ったが、現状、知り合いの中で最も女王に近いのがトリスタンだ。情報は得ておきたかった。
「いや、なんで大厄災に対処しないって宣言してるんだろうなって気になってさ」
「……そんなの、妖精が大嫌いだからに決まってんだろ?」
あっさりとした回答。
トールが聞きたかったのは、見捨てるくらいならいちいち敵を作る発言をせずに、何も言わずに、放っておけば良いのに、という話だったのだが、トールの質問を違う意味でとらえたのか、トリスタンは続ける。
「なんだよ。さすがに怖くなってきた? 安心していいぜ、大厄災が来たら、トクベツにキャメロットの私の部屋にこっそり隠れさせてやるよ。その代わり、お前は一生私の奴隷だけど」
「……え」
驚いた。
嫌われてはいないとは思っていたが、まさか、わざわざ助けてくれようとするとは思っていなかった。
本人は、至って平常運転で、悪魔の契約とでも言いたげな悪い顔をしているが、その屈託のなさに邪気は無い。
彼女は純粋に、トールに助け舟をだそうとしている。
その後の奴隷宣言はおまけのようなものだろう。
屈託のない、彼女のいたずらっ娘のような表情に、カルデアへの怒りや、様々な憤りが抜けていく。
迂闊ではあるかもしれない。もっと、真剣に侵略者たちを撃退する方法を考えるべきかもしれない。
だが、今は、彼女に対して、そういった余計な事を省いて、真剣に対話しなければと、そう思わされた。
だから――
「ああ、その時は、本格的な奴隷契約だな。よろしく頼む。トリスタン」
こちらも素直な感謝の言葉を送るだけだ。
「……なんだよ、それ、奴隷にさせられるってのに。変なの」
お気に召さなかったらしい。
トリスタンは、顔をそらし……俯いてしまった。
「……変なの」
再度のつぶやきは、何に対してだったのだろうか。
トールにはわからない。
「ほら、そんなことよりまだあるんだろ? 妖精とかお母さんの話」
だから、彼女とちゃんと向き合おう。
カルデアはまだ、いくらでもやりようはある。
だから、まずは彼女が満足するまで、話に付き合おうと、そう決めた。
トールのその提案に俯いていたトリスタンは顔を上げ、再び口を開く。
再び、トリスタンとの会話が始まる。
そんな彼女の表情は、見た目通りの年齢の少女のようで。
それを偶然見ていた、カルデア一行や、監視していたムリアンが、信じられないようなものを見る目で見ていたとかいないとか。
「それでそれで、ちょっと死体が見たくなって、ウッド――」
「……?どうした?」
そんな中、トリスタンが突然途中で会話を切った。
立食会場に移動し、料理をつつきながら、お互いに横向きでいた為、トールはトリスタンの方に向く。
これまでの楽しそうな表情から一転、少し思い詰めた表情へとなっていた。
「その、オマエ、さ……私以外で誰か家に呼んだ?」
なんの脈絡もない質問にトールも疑問符を浮かべる。
「? なんで……?」
「その、この間、靴を作りに行った時、お前はいなかったけど、家の中が汚かったから……」
言われ、トールは、ハッとする。
そうだ。
ムリアンへの復讐のやり取りの後、そのままムリアンの屋敷へ行ったのもあり、片付けなど、その他諸々頭から抜けていた。
そう思いながら、あの瞬間に、トリスタンが来なかった事に今更ながらホッとしていた。
「あぁ、そう言う事か。ほら、ムリアンのお付きになったから、酒とか紅茶とか、色々見てもらうために持て成しをな……」
「ふぅん……そう、なんだ……」
納得いったのかいってないのか。どこか煮え切らない態度のトリスタン。
会話が止まった……
基本的にトリスタンとの会話はトールは聞き役に徹する事が多い。
トリスタンが喋らなければ止まるのは当然であり、ではトールが話役にと思うが、なんだか急に思い詰めたようなトリスタンの態度に、トールも理由が分からず、彼女の動きを待つしかない。
「ね、ねえ、その、ウッドワ――」
そんな中、意を決したようにトリスタンが口を開いたところで――
「なんだ。ここにいたのかプリンセス」
横合いから声がかかった。
「まったく、用事でいったん抜けたのは俺が悪いが、お転婆すぎるぜ、レディ・スピネル? 少し探しちまったよ」
「あ――」
声をかけたのは人間、だろうか。
ムリアンの魔法によって、その顔までは読み取れない。
トリスタンは、トールに気まずそうな表情を向けた後、その男の方へ向き、手を広げながら、しなだれかかる。
「あ、ああ、そうね、ごめんなさいレッドベリル! 珍しいのを見かけたから色々お話していたの!!」
これまで見たことが無い表情で、男性――レッドベリル(?)に近づいていくトリスタン。
言われ、レッドベリルはトリスタンの視線を追って、トールの方を向く。
「なるほど、確かに。こんな上級妖精だらけの舞踏会で人間とは珍しい!」
フレンドリーにトールへと近づくレッドベリルにトールも目を合わせ、流れに乗る。
「ベリル・ガットだ。ここにいるって事は相当なやり手って事だ。尊敬するよ、旦那」
そうして、手を差し出す男ベリル。紹介を受けた瞬間に、その相貌が露わになる。
切長の細目、整えられた髭。至って普通の眼鏡。
軽薄な雰囲気を感じるが、一般人でもないことは明白だ。
トールも同じように右手を差し出し、手を握る。
「トールだ。よろしく頼む」
トリスタンにとって、女王を除けば唯一、まともに接する事の出来る2人。
その出会いが、この妖精國にどう言った影響を与えるのか。
それは誰にもわからない。
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