世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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バーヴァン・シー②

「実に良い判断だったよムリアン。おかげさまで、凄く恰好いいイメージを持たれたろうな。」

 

「えぇ、感謝してください? あのままでは貴方、会場中の妖精達になぶり殺しにされてましたよ」

 

気持ちとは正反対の皮肉をジョークで伝えるも、ムリアンに鮮やかに返される。

 

図星すぎて何も言い返せない。

 

 

ここはムリアンの自室。

予言の子と妖精騎士トリスタンによる鐘を賭けた闘いのステージで、乱入を図り、そのままトールは、自身を、王になりそこねたロットと名乗り上級妖精を散々ッぱら挑発し、彼らの怒りを買った。

 

 

「あのまま予言の子との再戦も見てみたい気持ちもありましたが、彼女がああでは、それも無理でしたでしょうね」

 

ムリアンは言いながら自室に備えてあるソファに座るトール――の隣で丸くなって眠っている少女、もとい妖精を見る。

そこには妖精騎士トリスタン――下級妖精バーヴァン・シーが横になって眠っていた。

 

「感謝してるよ、まさか倒れるとは思ってなかったから」

 

「女王の着名とやらが剥がされたショックと、吸血鬼の特性でしょう。血を吸った様子はありませんから、魔力不足の様なものです。貴方に助けられて気が抜けたのが一番の原因でしょうが」

 

ムリアンの言葉にほくそ笑んだトールは、眠っているバーヴァン・シーの頭を撫でる。

それはまるで、恋人にするそれの様でもあり、親が子供に接する時のようでもあり。

 

それを見たムリアンは内心に疼く思いとともに目を逸らす。

 

 

「悪かったって思ってる。面倒を起こすつもりは……」

 

「えぇ、わかってます。貴方は、身内関連に関しては暴走気味ですから。想定はしていました」

 

ムリアンのフォローに微小を返す。

 

「嫌な事態になったのを見ると、無視できないんだ」

 

それは、自身でも自覚している悪癖だ。

 

「できたら良いのに……」

 

「……嘘でしょうそれ。直そうなんて思っていませんよね?」

 

「……バレたか」

 

苦笑いで返す。

嫌な事態が起こると見逃せない。

例えその後面倒な事になったとしても、嫌よりも面倒な方がよほどマシだと、そう思っている。

 

「別に、貴方の行動を理解できないわけではありません。バーヴァン・シー。私からしたら関わりあいのない下級妖精ですが、貴方にとってはそうでは無い……でしょう?」

 

妖精騎士トリスタン、もといバーヴァン・シーを見る。

 

「ああ、この子は、本当は凄い良いこ――妖精なんだ。他人の為に自分の体を差し出すような子で、差し出すたびにボロボロにされて、何度も何度も殺されて……」

 

ムリアンは、トールの話を聞いて納得がいった。

確かに、そういう手合いの妖精はいた。

その殆どは、生き残れるはずもなく、このブリテンの大地と化したが、成る程、言うなればそういう性質の妖精の生き残り。

 

そうとは思えない程に残虐なのは、おそらく妖精騎士の着名によるもの。

だが、それを加味しても、彼女の常軌を逸した妖精嫌いの理由にも合点がいった。

 

 

つまりは、ムリアンと同じである。

違うのは、被害者と加害者だ。

 

被害者は、ムリアンで言えば自分以外の氏族の仲間。

バーヴァンシーで言えば自分自身。

 

加害者は、ムリアンで言えば牙の士族。

バーヴァンシーで言えば、全ての妖精。

 

これは復讐だ。

自身を使い潰してきた妖精への。

 

似たような立場故の同情心が、ムリアンに芽生える。

知らなかったとは言え、そんな彼女を利用しようとした事に若干の罪の意識が生まれてしまう。

 

だが、それ以前に一つ思い浮かんだ事が、あまりにも恐ろしかった。

 

 

 

「女王が彼女を娘にしたのは――そんな彼女に自由を与えたかったから?」

 

「……まあ、可能性がなくは無いよな。分からないけど」

 

ムリアンは、妖精歴の記憶の復活と共に、女王の正体に、若干の心当たりがあった。

その正体が予想通りならば、その絶望はムリアンと同じだ。大事な同じ人間を失ったと思っている。

さぞ、妖精という存在に思うこともあるだろう。

 

彼女が女王として君臨した理由も、その圧政も、頑なに妖精を救わないと豪語する理由も理解できなくはない。

 

だが、それだけに、このバーヴァンシーを後継者に据えた理由は何故だろうかと思考する。

妖精亡主となったグレイマルキン。滅びたダーリントン。

妖精騎士トリスタンが着名されたのはその暫く後。

その時から一気に女王への不満感は高まっていった。

 

そして、彼女が良い妖精だろうが、下級妖精である事に違いはない。このまま彼女が女王になれば、この國の混乱は避けられない。それに気づかない女王では無いはずだ。

 

つまりそれは、女王モルガンは、彼女の為に、この國を、放棄すると言うことに他ならないのでは無いか――

では、大厄災でキャメロットが無事だったとしても、今後妖精國を守るのは果たして――

 

その思考を一度止める。

 

ムリアンのやる事は変わらない。

このグロスターは厄災にも耐えられるほどの絶対領域である事は自負している。

 

いくらでもやりようはある。

 

少なくとも、バーヴァンシという妖精の性質を把握はできた。それを思えば、女王との交渉をするのも一つの手ではあるかもしれない。

 

だって、今、目の前には、彼がいる。

もし、本当に、女王が、彼女なのであればきっと――

 

 

一度思考を中断する。女王の今後に関しては、今考えたところでどうにもならない。

予言は今も動いている。

今の自分は表向きは中立だ。どっちにも舵を切る覚悟はしておくべきだ。

 

 

今、ムリアンにとって重要なのは今後の話ではない。

 

 

 

今はこうして気取って冷静なフリをしているが、彼との対話を、こんな現状の確認程度で済まそうとは思っていなかった。

 

会話が止まる。

どう、話を切り出そうか、ムリアンは迷っていた。

 

咳払いが1つ。トールである。

 

「あーいや、その……改めてなんだけど……」

 

(来ましたか!)

 

そう、ムリアンが期待していたのは、ムリアンが話したかったのは、トリスタンの正体でも、今後の妖精國の話でも無い。

 

いや、それも大事なことではあるが。とてもとても大事な事ではあるが。

 

それよりも優先すべき事。ムリアンが確認したかったのは、彼が、妖精歴のあの時の彼であるかだ。

 

あの会場で、彼はロットと、そう名乗った。

それは、ムリアンからその名を聞いたからでは無い。

そう、自分を確信している雰囲気だった。

 

間違いなく彼だとムリアンは確信を持った。

 

だが、本当の意味で確認する事が恐ろしいのも確かだ。

だからこそ、いよいよもって核心に迫れると、期待と緊張で一杯だった。

 

「その……」

 

気まずそうなトールに、期待する。

既に、妖精舞踏会を滅茶苦茶にした事に関しては決着はついた。

彼がこんな態度を取るなど、きっと、久々の再会な上、記憶がない間にあんな事があったところから来るものに違いない!

 

(さあ、早く! 久しぶり。みたいなありきたりなものでもなんでも良いから早く! こういうのは男性から切り出すものですよ! さあさあ! ムリアンちゃんもいい加減、我慢の限界というものです!!)

 

内心興奮気味のムリアンに、トールは怖気を覚えながら一言。

 

「その、ひ――」

 

(ひ!?)

 

「ひ、冷えるな〜この部屋。暖房とかないのかな? トリスタンも風邪引くかもしれないし」

 

「――っ」

 

「あっと、その……ムリアンさん?」

 

「この――っ!」

 

乾いた音が、ムリアンの部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ムリアンとの、短くも濃い対話の後、トールはこっそりと妖精舞踏会の会場を後にしていた。

 

もう少し長く話をしたかったが、その後予言の子がやって来ると言う事で、一度離れたのだ。

 

トールは一先ず、ティンタジェルの自宅に戻る予定だった。

家に戻って色々とやる事があるのと、ゆっくりとトリスタンに眠ってもらう為。

 

色々な話をして、スリングリングをムリアンに渡した為、即座に帰る手段を失っていた。

だが、まあ問題ないだろう。この時の為のジェット装置だ。私服の懐につけておいたそれを確認しながら、眠っているトリスタンを背負ったまま、一度グロスターの外に出る。

 

人目ならぬ妖精目もつかなくなったところで、ジェット装置を用意しようとしたが、また一つ、視線を感じる。

 

その視線に振り返れば、宵闇で見辛いが、見覚えのあるようなシルエット。

 

巨大な体躯。

尖った耳。狼のような顔。

良く目を凝らせば、見覚えのある、紳士服。

 

心当たりなど、一つしかない。

 

「ウッドワス……?」

 

あちらに聞こえるか聞こえないかの声で呟く。

まさしく、同じ見た目の妖精が、こちらにゆっくりと歩いて来ていた。

 

 

トールは驚愕を隠せない。

確かに、ロンディニウムにて、本当の意味での最期は見なかった。

バーヴァン・シーが内臓を抜き取ったと言っていたが、妖精であり、牙の氏族の最強種でもあるというウッドワス。

絶対に死んでいるという保証も確かに無い。

 

良く見れば、足を引きずっているようにも見える。

意識すれば、血の匂いもする。なんにせよ万全には見えない。

 

きっと、ロンディニウムやバーヴァン・シーによるダメージが治り切っていないのだろう。

兎に角手当をしなければ――

 

「ウッドワス!!」

 

トールは、この時、歓喜に打ち震えていた。

 

故に油断しきっていた。

言い訳を用意するのならば、急な記憶の復活に思考が安定していなかったというのもある。

そして、あれほどに復讐を望んでいたほど彼に固執していたというのもあり、冷静な判断が出来るはずも無かった。

ウッドワスが生きているという可能性がゼロでは無いという事は確かにある。

だが、()()()()()()()()()()()()()()。その疑問に思い当たらなかったのはあまりにも迂闊だった。

 

暗がりという悪環境もあったが少し目を凝らせばウッドワスでないとわかるはずなのに、ウッドワスらしき、存在の間合いに迂闊にも入ってしまうまで気づくことが出来なかった。

 

ウッドワスらしき、存在が、ブレた。

それは、常人では消えたようにしか見えない超スピードによる瞬間移動。

とはいえ、トールにかかれば、全く問題無く対応できる速さだ。

 

だが、トールは上記の理由により完全に油断しており、背にバーヴァン・シーを背負っていた。

 

故に、対応が完全に遅れてしまう。

瞬間移動にしか見えないその超スピードを、容易く眼で追い、対応しようとする。

だが、ウッドワスらしき存在によって突き出される爪は、身のこなしだけで避けるほどの余裕は無く、その超スピードに対応する為に動こうとすれば背負うバーヴァン・シーを投げ捨てるしかない。

当然ながらそのような事はできない。

 

迫る爪を転がりながらどうにか回避し、転がりながらバーヴァン・シーを優しく下ろす。

だが、その行動が既に致命的な隙である。

追撃で迫りくる確実に喉を切り裂こうとする爪を、右腕でかろうじてはじくのが精一杯。

 

しかも運の悪い事に、はじいた爪の行先は、よりにもよって、ある意味では喉よりも最悪の場所だった。

 

「グッ、ガアアァァァァァァ!!」

 

その獣の爪は、トールの右目に突き刺さっていた。

それは、奇しくもトールが見たビジョン。自身でナイフを使って突き刺したのと同じ位置。

 

ウッドワスらしき狼男はそのまま、人間で言えば親指に当たる爪をトールの眼に突き刺したまま、その頭を持ち上げる。

トールは抵抗しようと、その腕を掴む。

 

「ハハッ、殴られた時から思ってたが、やっぱとんでもないバカ力だな!! あんた本当に人間か? それとも特殊な礼装でも使ってんのかい? 魔力の類は感じないが」

 

「オマ……え!!」

 

トールによる握撃は、腕が引きちぎれるのではないかという程の圧力。

それには至らないものの、その力によって、狼男の腕にこれ以上力が入ることは無く、そのまま頭を握り潰すという事は不可能となった。

 

狼男はその力強さ故に、関心しつつ声をだす。

 

「トールっていう名前に心当たりがあるかと記憶を辿りゃあ、あんた。ウッドワスのお友達の王子様だってこと思い出してな? ダメ元で演技してみりゃこのザマだ」

 

ウッドワスに似つかわしくない、軽薄な口調。

ウッドワスがするはずのない、弱者を甚振る事を快感とする厭らしい表情。

 

気付けば、ウッドワスの着ていたような礼服は消え去っており、残った左目で確認すれば、ウッドワスとは毛の色が違っていた。我ながら間抜けだなと、逆に感心させられてしまった。

 

「まさか、こんな簡単にかかるとは……間抜けがすぎるぜ、アホの王子様?」

 

「は、な……せ、よ……クソ野郎っ!」

 

「目ん玉貫かれて、脳みそまでいきそうだってのに、大したもんだ。その気合に経緯を評して離してやりたいが、女王の娘を攫う悪党を、逃がす夫はいないだろう? 大事な大事な娘を利用して、汎人類史での夫の名前まで使って、涙ぐましく女王モルガンとお近づきにってかい?」

 

その口調には覚えがあった。

 

「そうは問屋が卸さないってやつだ。丁度良い試運転。付き合ってくれよトールの旦那?」

 

その正体は、バーヴァン・シーに取り出させた心臓を喰らい、ウッドワスの霊基を手に入れた。ベリル・ガットであった。

 

 

 

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