世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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バーヴァン・シー③

 

 

「気にする事無い。彼は情勢が見えてないだけ。モルガンは汎人類史どころか、妖精まで滅ぼそうとする悪党でしか無い。他でもない彼女自身が言っていた事だ。『自分を倒せ』。あんな特例中の特例を気にする必要は無いさ」

 

「……そうかな」

 

鐘は鳴った。目的は果たした。

この妖精國で女王に次いで邪悪と言える妖精騎士トリスタンの鼻を明かした。

だが気分は優れなかった。

 

本来であれば、きっと、祝勝ムードのまま、ムリアンに快く協力を取り付ける事が出来ただろう。

彼女はきっと素直に協力するとは言わないだろうが、お祭りムードで、今後の展開に希望が持てたはずだ。

 

だが、これ以上ない程に邪魔された。

 

女王軍でも無い、妖精でも無い、人間によって。

あの舞踏会の後、ムリアンに翅の氏族は味方についたかどうかの確認をしに、彼女の自室へと赴いた。

 

『鐘がアルトリアを認めた以上、私から言う事はありません』

 

『ですが、私個人の立場はあくまで中立。戦争がしたいなら皆さんで勝手にどうぞ』

 

およそ想像通りの返答。

 

話の流れで問うたのは、彼の事だ。ロットと名乗り、王になり損ねた男と自称した魔力も持たない人間だ。

一見何の力もありそうにないその男。

だがその男はベリルガットを凄まじい力で殴り飛ばし、その衝撃でステージの壁を瓦礫に変えた。

 

『彼は、貴方達と同じ、異世界から来た人間です』

 

『彼は、ウッドワスの友人』

 

『円卓軍の言う妖精と人間の共存をまさしく体現していた方でした』

 

『あなた方自身でその片方を殺したのは皮肉がきいておりますね。とはいえ事情は事情。仕方のないことでしょう』

 

『ですが彼はそう思ってはいません』

 

『どのような大儀があろうと、貴方達のやっている事はこの國を混乱に貶める侵略行為でしかないというのは彼の弁。ええ、被害者なのだからその恨みも一入でしょう』

 

『皆さんの行いを見直すも、正しいと信じて彼を殺すもご勝手に、彼は暗殺が得意のようですから。かくいう私も殺されるところでした。せいぜい寝首を書かれないように気を付ける事です』

 

そう、言い残して、ムリアンにはこれ以上話す事は無いと一方的に追い出されてしまった。

村正がよほどの事があれば寝返るのかとも訪ねたが。

 

『よほどの事があれば、あなた方を見限るという事も念頭に置いてください?』

 

最期まで気分の晴れない会合となった。

 

「彼、汎人類史のロット王だったりするのかな?」

 

「だとしたら、見た目がおかしい。完全に東洋系、日本人っぽかったけれど」

 

「デミ・サーヴァントみたいな?」

 

「王になりそこねたというのは、汎人類史のブリテンの話? モルガンにそそのかされた男というイメージしかないけれどブリテンの王を目指していたとか?」

 

「ムリアンのヤツ、殺されかけたとか言っていたが、そんな奴を囲おうとしてたってのか」

 

「……そういう趣味とか?」

 

あーでもないこーでもないと、相談を続ける中。

予言の子アルトリアは、一言も喋らない。

 

一人、地面を見続けているだけ。

 

この場にいる誰もが、汎人類史を守るという大儀がある。

妖精を500翅しか連れていけない、という悲しき事実も、しょうがない事だと、言い訳が効く程度には大きな大儀が。

 

だがアルトリアは違う。

汎人類史も、言ってしまえば関係が無い。

彼女の中にあるのは曖昧な使命のみ。

その使命に準じてみれば、やっているのは戦争だ。

これまでは、誰もがその戦争行為に賛同していた。妖精國を救う救済行為だと、ヒーローだと称えてくれた。

明確に怒りと敵対心をもってきたのはウッドワスのみ。

 

だが、彼は、こちらを悪と断言した彼は、言うなれば、こちらの戦争行為による被害者だ。

人間でありながら、あれほどの殺意を示す程に妖精である友人を大切にしていた人間。ウッドワスという、粗野だと言われている妖精に親しまれていた人間。

きっと、妖精國におけるひとつの理想の体現。

彼は明確な復讐心と侮蔑を以てこちらを見ていた。

 

 

悪意の嵐が吹いていた。生まれただけで向けられる悪意。楽園の妖精だからと向けられる悪意。

そんなものは知った事では無いと、はた迷惑だとすら思っていた。だが、悪意の嵐はもう吹かない。

 

 

今は、もっとおぞましく、苦しいものだ。

 

稲妻だ。

 

荒れ狂う稲妻が嵐の如く鳴り響く。

 

それは、まさに身を焦がす程の悪意。

 

怒り。復讐心。喪失感。後悔。

 

理不尽のように吹きすさぶ悪意の嵐とは違う。

それは、その悪意は、アルトリアの行動によって生み出された。

自分の足で、自分の手で、自分の意思でカルデアに同行する事を決め、予言の子として使命を全うする事を選び取った。

使命の為に、巡礼の鐘という宣戦布告の狼煙を上げ、戦争を開始した。

本当はアルトリア自身は望んでいなかったとしても、運命という物に翻弄されていたとしても、カルデアという妖精國を救いに来た正義の使者達の

雰囲気に流されたが故だとしても、状況や雰囲気に強制され、選択肢が無かったとしても、彼女自身が決めて行動した事に違いは無い。

どう取り繕おうと、運命のせいだと、自分は悪くないと、シラを切れる程アルトリアは非情ではない。

 

星は、もう見えていない。

 

それは、稲妻の光によって、見えていないだけなのか。

それとも、星そのものが雷に打ち砕かれたのか。

 

あるいはアルトリアの罪の意識が眼を曇らせているのか。

 

それは本人でさえもわからない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「王子様ってのは嘘なんだろうが――」

 

茶化すような態度。

 

「あんた東洋人かい? 全く、スプリガンといい。後輩といい、妖精國ってのは、何か運命的なものを持ってんのかねぇ?」

 

ウッドワスの姿となったベリルは、右手の親指を、トールの眼に突き刺し、そのまま頭を掴み持ち上げている。

 

「スピネル嬢を選んだのは良い判断だったと思うぜ?何せ、妖精國じゃ居場所のない可愛いそうなお嬢さんだ。懐柔するのも楽だったろう?」

 

「おま……え……」

 

「だが、あの状況でイキるのは悪手だったなァ」

 

だが、左手は自由。その牙も自由。

やろうと思えばいつでも殺せるその状況で、意味の無い言葉を投げかける。

 

ベリルは完全に今の状況を楽しんでいた。

 

「その、姿は、なんなんだ……?」

 

息も絶え絶えながらも、絞り出すように声を出す。

 

「なんだい旦那? ああウッドワスと同じ見た目って?」

 

「ウッドワスは……無事なのか……?」

 

「聞きたいかい?旦那?」

 

「ああ……教えて、欲しい……!」

 

弱弱しい声、あの時、自分を殴り飛ばしたような迫力は欠片も無い。

にやりと笑う。

ウッドワスの顔を持ちながらも、元のベリルの表情がわかる程に、その笑みは特徴的だった。

 

「それなら、まずは――お駄賃をもらわないとな……!!」

 

「ああ、ああああああああ!!」

 

空いた左手の爪で脇腹を貫き、ぐりぐりとこねくり回す。

命に別状は無いが、その痛みは常人であれば、意識を失う程だ。

 

「おお、よく耐えたなぁ旦那。じゃあ、良い悲鳴をくれた礼に順を追って説明してやるよ」

 

「ぐ、う、あ……」

 

トールから漏れる声に力は無く、彼は、意識を必死につなぎとめようとしているように見える。

左手を突き刺したまま、ベリルの口から、真実が簡易的に告げられる。

 

ロンディニウムで予言の子一同に敗北したウッドワスが逃げた事。

 

その後、トリスタンにとある魔術を使わせ、ウッドワスの生き胆を抜き取り、ベリルが喰らった事。

それによって、ウッドワスの力を得た事を明かす。

 

それを臨場たっぷりに伝えた後。

 

「安心しろよ。ウッドワスに関しちゃ、死んだところは見ちゃいない。どこかで野垂れ死んでるのは確実だろうが。まあ生きていたとしても、もう会えないだろうけどなァ?」

 

「——ッ!!」

 

「なんだ。思ったより痛みに耐性が無いんだな、可愛い声上げちまって!」

 

「フーッ フーッ!」

 

ベリルは一度、爪を引き抜いた。

 

トールの呼吸は粗く、ベリルの腕を握っていた手も、もはや力が無い。

 

今度は、その爪を摘まむように形を作り、再び、その傷に入れた。

 

苦悩の梨。

といわれる拷問器具がある。

 

中世ヨーロッパに使用されていたとされるそれは、その名の通り鉄製で、梨の形状をしており、先端についているネジを回せば、内側から皮が開いていくという代物だ。

主に、口や、膣、肛門に入れて使用されるものであり、当時の拷問対象は、同性愛者や、魔女と呼ばれた者達と伝えられている。

 

ベリルの爪の使い方はまさにソレだった。

押し込まれた腹の穴から、その爪を少しずつ開いていく。

 

「うう、ぐ、ううあああああああ!!!!」

 

苦悶の声を上げるトールにベリルは満足そうな表情を作る。

 

「ああ、そうだ。オマケにひとつ教えといてやるよ……」

 

冥途の土産とばかりに、ウッドワスは、右手を眼から引き抜き、口を塞ぐように掴み直し、頭を軽く引き寄せ、耳元に口を寄せる。

 

「スピネル嬢に使わせた魔術なんだがな?」

 

それはこれまでで一番厭らしい声だった。

 

「実はアレ、魂を腐らせちまうんだ……」

 

「!!」

 

トールの眼が見開いた。

 

これ以上無い程の、お手本のような驚愕の表情。

同時に、腹に刺した、左手を徐々に広げていく。

 

「フーっ! フーッ!」

 

何かを叫ぼうとしているのは痛み故か、それとも、バーヴァンシーに対する仕打ちへの怒りだろうか。

口を塞がれているため、声が出ない。

対するベリルは、死に際の絶望としては十分だと、満足した表情である。

 

「安心しろよ。スピネルの件は旦那に誑かされたせいって事にしといてやるぜ?」

 

再び、頭の持ち方を変える。目元を掴み、いつでも頭を握り潰せる位置。

 

「さて、散々楽しませくれたんだ。最後に、遺言ぐらいは聞いてやらないとなあ?」

 

軽く力を入れれば、頭を握り潰せる圧倒的優位。

ベリルは余裕の態度を崩さない。

 

「……が……う」

 

「おいおい、最後の言葉なんだ。もう少し、しっかりした言葉にしてくれよ?」

 

言いながら、左手の梨を徐々に開いていく。

まともな声等出させる気も無かった。

 

「き……く……あ……が……う」

 

叫ぶ気力も無くなったらしいと、ベリルは口角をさらに上げる。

獰猛な肉食獣の頭という事を抜きにしても、邪悪な笑顔だった。

 

「ホレホレ、もう一度! 言ってみてくれ!! 頼むよ旦那ァ! あんたの遺言、聞きたくてしょうがないんだ!!」

 

この一言を最期に、頭を潰してやろうと準備をしたところで。

 

「——協力してくれて、ありがとう」

 

信じられない言葉が耳に入って来た。

 

「ハ――?」

 

ベリルが声を上げ、トールの掴んでいた腕に銃弾が突き刺さり、トールの足が、ウッドワスの顔面を歪ませたのは同時だった。

 

遅れて、銃声が響く。

 

動揺するベリルの顔面を再び蹴り飛ばす。

 

「ギーーッ!!」

 

牙が砕ける音を聞きながら、手を離された事によって、持ち上げられた状態からトールは自由となり、着地する。

 

「知り合いのスパイを真似てみたんだが――」

 

先ほどの弱弱しい悲鳴が嘘のような態度。

 

「我ながら下手な演技だと思ってたんだが、まさかこんなのに引っかかるとは、『まぬけなオオカミ』って本当にいるんだなァ?」

 

トールは、意趣返しとばかりに皮肉を返す。

先ほどまで、女々しい叫び声をあげていたとは思えない。余裕の態度。

 

「グ、フ、フフ……久々の拷問だったんで、興奮しすぎちまったのかもな! あんたマゾっぷりを見誤っちまっていたらしい!」

 

苦しそうなうめき声を上げながらも、ベリルは余裕の態度を崩さない。

 

再びの銃声。

 

本来であれば、怒りのままに八つ裂きにしてやろうとベリルに追撃をしていたところだが、その銃弾は、トールにとっても予想外のもの。

バーヴァンシーに降り注がないよう銃撃の角度から、位置を予測し、守るために移動する。

 

ベリルの方も、同様らしい、再びその身体に銃弾を浴びたのか、うめき声をあげ、その肉体を活かし、跳躍し、範囲外へと逃げて行く。

 

(クソーーっ)

 

内心で悪態をつく。魂を腐らせるだのなんだのを問い質したかったのだが。

銃弾が気がかりだ。

 

「グ……」

 

余計な邪魔が入ったと、内心悪態をつきつつも、体が思うように動かない。

思ったよりも身体のダメージがあるらしい、立ち上がろうとした瞬間、足を崩し、膝をつく。

結果的に助かったと言わざるをえないかもしれない。

 

とはいえ、こちらにその凶弾が来るとも思わない。銃声を鳴らした相手を確認しなければならない。

 

射線の向こうを凝らして見れば、人間大の影が一つ。

 

「どうやら……出過ぎた真似をしたようで……」

 

それは、女性の声だった。

桃色の髪、均整の取れたプロポーション。何より目立つのは、髪の色と同じ獣の耳と巨大な尻尾。

 

トールにとって、ウッドワスの仇の一人。

 

「お初にお目にかかります。私、NFFサービス代表、タマモヴィッチ・コヤンスカヤでございます」

 

ムリアンの友人、コヤンスカヤだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ウ……グ――っ」

 

頭が痛い、眼も痛い。なんだったら全身が痛い。

だが、意識をとばすわけには行かない。

 

「大丈夫、ではなさそうですね。そのまま眠っていた方がいいのでは?」

 

そう、声をかけられる。それは永眠でもしていろという意味なのか、本気で気を使っているのか。トールでは判断できない。

胸中複雑な気持ちだったが、今はそんな心情を引っ込めて、対話するべきだ。

 

「あ、ああ、いや、大丈夫。大丈夫だ。枕が変わると寝れないタチだから。さっさと帰ることにするよ」

 

強がりではあるが、嘘ではない。

この程度の怪我ならば、散々味わってきた。

正直一歩間違えれば死ぬレベルだが、何度も経験している。

 

かろうじて立ち上がり、バーヴァンシーを背負い直す。

 

「助かったよ。ありがとう。コヤンスカヤ。俺はトールだ。ムリアンの友人。君と同じ」

 

感謝の言葉を示しつつ、彼女の背負う銃を指さす。

 

「良い銃だな……」

 

「ええ、お褒めいただきありがとうございますわ」

 

「で、俺を助けたのは、ムリアンの頼み?」

 

思い当たる節を訪ねてみる。

 

するとコヤンスカヤはしばらく、考える仕草を見せた後に。

 

「ええ、そんな所です」

 

そう答えた。

 

「ちなみに、無料サービスというわけではありませんので、必要の無かった援護とは言え、それなりの報酬をいただきたいところなのですが。 ムリアン様に払わせるような、最低男のそしりを受けたいのであれば、無視していただいても構いませんが?」

 

「え?あ、ああ。そうだな……」

 

ああ、商売っ気の強い女性。ムリアン好みの性格だ。

ムリアンに聞いたが、人間嫌いの一面があるとのことだし、素直に人間を助けた事にしたくないのだろう。

内心で関心しながら、何か渡せるものは無いかと、懐を漁る。

最低でも銃弾数発分の報酬は渡してしかるべきだろう。

 

懐を漁ると、出てきたのは、キーホルダーだ。鍵付きの。

 

「じゃあ、これを」

 

言いながら、鍵から外してそれを渡す。

 

「なんです?コレ」

 

心底バカにしたような声を出すコヤンスカヤ。

 

「今払えるのは、これしか無い。まあ、それの価値は君が決めてくれ」

 

「……では、貴方は女性に命を救った金を払わす詐欺師で最低男という事でよろしいですわね?」

 

にべもない。

 

「まあ良いですわ、貴方、これからどうするので?」

 

あまり興味がなさそうな態度だが、質問されたからには答えねばなるまい。

一応、助けようとしてくれた恩人ではある。

 

「そうだな……」

 

トールは、一度背中に背負う、バーヴァンシーを優しく背負い直し、

 

「まあ保護者面談って所だな」

 

彼女に、苦笑いを返し、足にジェット装置を取り付ける。

物珍しそうに見る彼女を視界の捉えながら、耳に取り付けたナノマシンによるヘルメット装置を起動する。

 

「じゃあ、改めてありがとう。コヤンスカヤ。NFFサービスだっけ? いつかどこかで、その会社と取引が在ったら俺の名前を使ってくれ。話くらいは聞いてくれるかもな」

 

ジェット装置とヘルメットに驚愕の表情を作る彼女に、名刺を投げ、バーヴァンシーを背負い、空へと飛んだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

彼を助けたのは、別に頼まれたわけでは無かった。

 

一度、彼女の元を離れ、竜骸の調査に向かい、その骸を発見。

そこそこの準備を終わらせた後、嫌な予感がして、ムリアンに何かがあったのでは無いかと、グロスターに戻って来た。

 

ムリアンは、コヤンスカヤにとっては、友人だ。

私財をなげうってくれた借りもある。

彼女の身に何かあれば、コヤンスカヤとしても気持ちいいものではない。

 

いつものように空を行き、グロスターのムリアンの屋敷へ戻ってみれば――

 

 

 

何と、あのムリアンが、人間の男性と抱き合っていた。

流石のコヤンスカヤも驚愕を隠せなかった。

 

彼女の人間嫌いは、嘘ではない。

シンパシーを感じるほどに、その思いは共通だと思っていたのだが、まさかの光景だった。

 

子供のように泣き叫ぶムリアンに、終始謝り続ける、人間の男性。

恋人のようにも見えるし、親子のようにも見える。

 

感動の再開のようにも見えれば、悲痛な別れの抱擁のようにも見えた。

 

そのまま除き続けようとも思ったが、流石のコヤンもそういった所には良識が無いわけでは無い。

そっと、その場を後にした。

 

だが、人間の男性は、気になるところだ。

あのムリアンを絆した人間。興味が湧かないわけがない。

 

こっそりと後をつけてみれば、先ほどの事態。

ウッドワスの霊基を手に入れたベリル・ガットによる蛮行。

 

人間とは言え、ムリアンにとって大切な存在なのは明白だ。

 

これは彼女に対するサービスと、言い訳を用意して手助けしてみれば、あっさりとやられたかに見えた彼の弱さは演技だったらしい。

銃弾を浴びせなくとも、彼単独で、どうにかできたように見受けられる。

 

しかし、どう見繕っても、魔力も持たない脆弱な人間にしか見えない。

確かに身体は鍛えているように見えるが。何か力を感じるわけでもない。あるいは、触れてみればわかるのかもしれないが。

 

そんなこんなで、会話をしてみれば、平凡な一般男性。

あの怪我で、あの余裕の態度は大したものだとは思うが、普通の善人と言った所だ。

確かにその態度には、どこか読めない部分はあるが、あまりにも感じられる力に理屈が無い。

魔力も無い、神気もない、本当に普通の人間すぎて、むしろそれが異常とも言える。

 

とは言え、結局のところ、普通の人間にしか思えない。

 

だが、一つ、眼を見張るものがあった。

 

彼の持つ、足の飛行装置と突然形成されたヘルメット。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ギリシア異聞帯と同様のナノマシンによる、何かに見えるが、全く異なる技術のようにも見受けられる。

 

あまりの驚きにフリーズし、あっさりと彼を見送ってしまった。

 

一体何者かと思いを巡らせ、ふと手渡されたキーホールダーを見てみれば、その飛行機の底にスイッチがあった。

 

まさかと、思い、ひとまず青いスイッチを押してみれば、一瞬で、目の前に、キーホルダーと同じデザインの、ジェット機が現れた。

 

「まあ……」

 

流石に、驚きを隠せない。コヤンスカヤなりに、そのジェット機を調べていく。

 

 

「成程……これは、銃弾以上の価値の物としても良いでしょう。むしろ、これを簡単に渡すなど、気味が悪くなってしまう程ですわね……」

 

 

彼こそ、ムリアンの愚行を正す者なのか。

この妖精國に変革をもたらすものなのか。

あるいは、人理を滅ぼす何かなのか。

カルデアでもない、女王でもない、異星の神でもない。ナニカ。

 

手渡された名刺を見れば『Stark Industries』という名が書いてあった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

キャメロット。

 

女王の間。

 

妖精國の女王、モルガンが君臨する。いつもと変わらぬその玉座。

 

妖精國中の妖精達が、悪と断ずる、愚かな女王。

 

その玉座の間に来ることを許されるのは、女王が許可した者。あるいは、女王を打倒す資格を持った者のみ。

 

そこに、小さな異常が現れた。

 

ひらひら、ひらひらと、女王のはるか頭上から、薄紙が1枚舞い落ちる。

 

それは突然、前触れも無く出現した。

 

女王がそれに気づいたころには、出現した形跡は無く。

 

それは玉座に座る女王の膝上へと落ちた。

 

その異常。女王が管理する玉座のある部屋だ。魔術的侵入はもちろん物理的な侵入すらも許さない。

 

だが、それは確かにそこにあった。

 

それこそ、次元を超える芸当でもなければありえない。

 

周りには自分以外誰もいない。女王騎士は部屋外に待機させている。

誰が覗いているかもわからない。弱みを見せず、動揺も見せず。女王はその紙を開く。

 

なんて事の無い、普通の羊皮紙の切れ端だ。

 

だが、その内容は、女王の行動を決定づける要因となった。

 

女王モルガンはとある魔術を発動する。

 

意識を分割し、もう一人の自分を作り出す。

 

同時に、合わせ鏡を発動。

それは、妖精國のありとあらゆる場所へ一瞬へ移動する大魔術。

 

一度訪れた事のある場所だ。

 

廃村に移動し、小奇麗な建物に入る。

経緯の割には、モルガンには一切警戒は無い。

 

「ああ、思ったよりも速かったな」

 

それは、女王モルガンが誰よりも求めていた相手であり。

 

「突然、悪かった。こうでもしないと会えないと思って――」

 

同時に、この妖精國にいてほしくない相手でもある。

 

「やあ、()()()()()()。まさかあの時来てくれた美人が女王で、しかも記憶を消されてたとは思わなかったよ」

 

可能であれば、元の世界に戻り、栄光の人生を過ごしてほしいと思っていた相手。

以前この場で、その名を使って対話した青年。

だが、青年は、その時とは様子が余りにも違っていた。目立つ眼帯に何があったのかと、その姿に、内心で動揺を隠せない。

 

「君の娘について話がしたいんだ」

 

その青年は、同じほどに大切な娘を預かっているらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




基本的に投稿する時点で次話も骨子は出来上がっているのですが、正直な所解釈に迷っているところがあり、すでに難産中でございます。

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