お手数おかけしております。
本当に励みになっております。
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キャメロット、玉座のある大広間。
会議でもない限り、女王モルガン一人のみと、時によっては、女王騎士2名が駐在しているこの部屋に。
女王モルガンに加え、珍客が1名。
なんて事のない、人間の青年。
名前はトール。
女王モルガンと青年トールは今、2人並んで玉座に座っていた。
過去、妖精歴において、紆余曲折あり夫婦になる事を誓い合った仲。
にもかかわらず互いに視線を時折交わしながらも、時折目を逸らす。どこか、気まずい雰囲気。
玉座は広い、2人並んでも余裕のある。そのスペース。
玉座についたのはモルガンの案。
何が起こるかわからない今、迂闊に玉座を離れるわけにはいかない為だ。
2人は肩を触れ合う程の距離。
だが、決して互いに体重を預けるようなことは無い。
友人と言うには近く、恋人と言うにも夫婦と言うにも少し遠い距離。
夫婦喧嘩のような言い合いの後、抱きしめあった2人だが。
片や死んだと思っていてから2000年が経っており、方や数瞬前まで、その記憶すら失っていた。
ほんの少しの時間で、何事も無く、婚約直前だった関係に戻るには、2人にはあまりにも変わってしまっていた。
だが、遥か10世紀以上前の2人の関係は決して消失した訳ではなく。
さりげなく繋いだその手が、消えずにいる2人の絆を証明していた。
2人、モルガンにとっても、トールにとっても、1000年以上の歳月を経ての再会だった。
当然ながら話すべきことはたくさんあった。
これまでの事。
これからの事。
お互いの過去を語り尽くすだけでも、数年を要するのではないかと思うほどの、様々な事が。
モルガンは既に、彼の過去を知っていた。ヴィヴィアンとして、話を聞き、彼の記憶を見ていたから。
だから今度はモルガンの番。
モルガンは語った。あの日からの出来事を。
2000年かけて作り出した、このブリテンの話を。
共に駆け抜けた最期に起こったあの悲劇の後を。
空想樹を燃やし、最果ての光で世界を隔離した事を。
自分の元を去った仲間達の事を。
何もかもを失ったあの後の事を。
「私は、今度こそ理想の國を作ると、あなたの犠牲を無駄にしないと、私のブリテンを築こうと、尽力しました」
出来る限り丁寧に、彼が共に歩むことを想像できるように。
話題は國作りの話へと移行する。
嵐の王として、冬の戦争を起こし、妖精達に勝利し、支配せしめた。
「本当はもっと冷徹な法を敷こうと思ったのです。もっと酷い國にしようと思ったのです。だって、私が愛したのはブリテンですから、貴方を追いやって、私を追いやった妖精など、大人しくしてさえいればどうなっても良いと思っていました」
その後は、王として法を敷き、法の下に自分すら従わせ、法を犯した者を無慈悲に捌いてきた。
「でも、それだと、あの子が可哀想でしょう? だから、今のような優しい設定にしました」
同時に、法さえ犯さなければ、どんな不穏な動きを見せようと見逃してきた。
味方であっても法を犯せば捌く。敵であっても法の下行動し、この國に利益をもたらしたのであれば褒美を取らせる。
「妖精が思い上がらぬよう、かといって、冷徹になりすぎないよう。設定しました」
苦しみさせすぎないよう、かと言って思い上がって争いをさせないよう。
調整した。
「本当に頑張ったんだな……」
モルガンにとっての正道を行きながら、この國を築き上げた。
結果、大きな妖精達の争いは無くなった。
「たった一人で頑張って……」
そして厄災も払い続けた。
圧政を敷く愚かな魔女だろうと呼ばれようが、國中がこちらを殺そうと企んでいようが、酷い國だと言っていようが、些末事だった。
その程度の糾弾など、最早心が冷め切っていた自分にとっては、なんの感慨も無かった。
かつて抱いていたこの國を誰かに見せたいというその思いも。
今は大事な娘の為に捨ててしまおうと、そう思った時点で。冷め切っていた。
――そう思っていた。
「本当に、凄いよ」
それを聞いた上での最初の感想がそれだった。
なんて事の無い、労りの言葉。
傍目には安いセリフだ。
だが、妖精眼を持つモルガンにとっては、その言葉が心からの労いである事が伝わって来るのだ。
ただそれだけの言葉が、言葉以上にモルガンの心に染みわたる。
初めてだ。初めて、褒められたのだ。
最早諦めていた賞賛の声。
この世界において、敵であり、こちらを滅ぼそうとする。憎き汎人類史ぐらいしか評価してくれる相手のいなかった筈のこの世界。
届くことはないと思っていた賞賛の声に徐々に冷たい心が温まっていく。
「俺も、異世界で、色んな國を見て来た」
どうやら続きがあるらしい。
モルガンはその言葉を待つ。
トールの口から語られるのは、異世界の様々な國の事。
人間でありながら、モルガンをしても畏敬の念を抱くほどに、理想の王と言える。ティ・チャラの統治する超文明を誇っているワカンダ王国。
全知全能の神オーディン。異世界での彼は宇宙人ではあるが、モルガンの知る汎人類史の北欧神話以上の力を有しているように見える、まさしく、神の国であるアスガルド。
他にも、宇宙三大帝国の一つと言われるクリー帝国。
120億の人口を持ちながらも、内乱も起きず平和を保ち続けて来たザンダー星。
あの時、ヴィヴィアンとして聞いたその時よりも、もっと具体的に、彼らの国の、彼らの物語が語られる。
トールの、彼らに対する尊敬と畏敬の念を感じ取る。
「色んなことがあったけど、どれもすごい國や世界だった」
そう口に出しながら、彼らを思うトールの目は、その顔は、この間
控えめな笑顔ながらもその瞳は力強い。
かつて、トールが自分に向けていた。あの表情。
妖精眼だからこそわかる。その思い。
その思いが、今は、別の存在に向いている。
その表情に、あの時感じた負の感情が巻き起こる。それが嫉妬だという事をモルガン自身は理解する。
その思考に自己嫌悪を覚えるモルガンだったが――
「でも君は、もっとすごい王様だ――」
その一言で、そんな自己嫌悪も吹き飛んでいった。
「モルガンは負けてないどころじゃない。ブリテンを築き上げた異業は、俺の知るどんな王様でも、成し遂げられない」
そう言いながらモルガンに向けるその顔は、あるいは、先ほどの表情よりも尊敬の念に満ちていて。
妖精眼がなくともわかるその思いは、それこそ妖精眼を持っている事で、余計に感じてしまう。心に刻み込まれてしまう。
モルガンをして、もはや天上の存在と言っても良い世界達。
國どころか、陸どころか、最果ての光どころか、汎人類史どころか、世界を超え、星を超え、銀河を超えた数々の世界。
規模も、歴史も、存在の位も、その全てが桁違いの国々。根本からして、勝ちようのない、格の違う世界や王達。
それらと比べて尚、彼は、モルガンが一番の王だと、嘘偽りなく口に出したのだ。
「自慢してやりたいよ。俺の、その、奥さんは、こんなにすごい女王なんだぞって」
頬に熱が籠るのを感じ取る。
胸が熱くなる。
そんなまっすぐな賞賛を向けられて、嬉しくないわけが無い。
あくまで、彼自身の意見だ。身内贔屓というのもあるだろう。
だが、それでも、その賞賛は、諦めていながらも何より求めていたもので。
その彼の言葉に胸が震える。目じりに涙が貯まる。
彼は遠き異世界にいる彼らに思いを馳せているのか、遠くを見つめ、モルガンの顔を見ていない。
この涙をどう誤魔化そうか、隠すべきか、晒すべきか。
あるいは衝動に従って彼の胸にしな垂れかかり、彼の胸で涙を拭ってしまおうか。
そうだ。そうしよう。冬の女王が嬉し涙など、恰好が付かない。
この感情を彼に受け止めてもらわなければ――
そんな言い訳を考えたところで、彼がまた口を開いた。
「ヤバイ……」
「え――?」
トールの表情はほんの少し青ざめている。
何があったのかと、歓喜の気持ちは消え、ヴェールの下から手を伸ばし、涙を拭う。
「いや、今の、もし聞かれたら、父上、絶対機嫌を悪くすると思って……」
「父上ですか?」
父上というのは神、オーディンであろう事は明白だが。
何を言っているのだろうか。
片道切符だと、帰ることは出来ないと、そう言っていたのに。
その疑問が伝わったのか説明を始めた。
「いやさ、世界を超える事なんて出来ないはずなんだけど、ヘイムダル。ああ、アスガルドの門番ね。アイツの眼は星や宇宙を超えて色々と見渡す事が出来るんだけど、実際どのくらいで見えなくなるのか、聞いたことがあったんだ」
ヘイムダル、北欧神話に登場するアスガルドの門番。
見張り番である彼は昼夜問わず、100マイル先の物を見渡し、彼の持つギャラホルンという角笛は北欧神話の終焉、ラグナロクを知らせたとも言う。
「千光年先の蝶の羽ばたきも見えるなんて言ってたけど、その後のニヤリ具合がさ、な~んか隠してるように見えて。実は本気を出せば、全宇宙どころか次元を超えて色々と見る事ができるんじゃないかもと思って……」
話を聞く限り、その瞳は宇宙規模。100マイルどころでは無い、北欧神話等とは比べ物にもならない程の規模を誇るらしい。
少しだけ嬉しかったのは、彼は、アスガルドを離れたものの、その絆は手放してはいないらしいという事だった。
自分の為に全てを捨て、神に憎まれてしまったのかもしれないと思うと、いたたまれなかったのだ。
「まずい……何だったら父上だって、特殊な眼を持ってるんだ……前にムスペルヘイムで飲んでた時、父上だって全知全能じゃないなんて話題でスルトと盛り上がってたのがバレて、不機嫌になってたしな……」
彼は本気で青ざめている。
「でもあれはしょうがなかったんだよ。仲良くなるには、悪口で盛り上がるのも一つの手だったんだ。ほら、井戸端会議で盛り上がるのって旦那の悪口だし。 父上を恨んでるスルトの前で、褒めちぎるってのもどうかと思うし……」
あれは”外交戦術”だったんだよと、何故かモルガンに言い訳を始めるトール。
「ったく、何十万年も生きてるくせに、子供っぽいところもあるんだから……」
そんな、全知全能の神に親近感を抱かせながら見せるその困り顔は、そう、あの時、妖精の暴走によって、厄災の対処がうまく行かず、落ち込んでいる私を励まそうと、”どういう國にしていこうか”という話題を彼が提供した時と同じ――
『……それなら――トール君はどういう國にしていきたいですか?』
『え――?』
『……なんで、そこでそんな反応になるんですか』
『いやその、えっと、あの……突然そんな事言われても……俺、國を作った事ないし、そもそも國ってのがどういうものかもあんまりわからないし、そういうのはモルガンに任せたいって言うか……』
『――』
『その、ごめん』
かつて、妖精歴の終わりと共に、捨ててきたはずの記憶。蘇らないはずの記憶。
そのかつての記憶を鮮明に思い出し。
「――プッ」
また思わず、そう、笑いが漏れてしまった。
「モルガン?」
「フフ、申し訳ありません。貴方の困り顔。相変わらず、面白くて……」
これまでの感情を失ったような冷徹な女王の影は見られない。
それは、かつての、妖精歴時代のあの頃を、ほんの少しだけ、思い起こすような表情で――
それを見たトールの表情も、優しいものに変わっていく。
その対話はかつてのものと同じようでいて――
「他人事じゃないからな。もし万が一、知られてたら一緒に謝ってもらわないと……」
「ええ、私もブリテンの女王として、アスガルドの王、全知全能の神オーディンの怒りを鎮めて見せましょう」
「うわ、何か敬称付きで聞くととんでもなくおっかなく聞こえる……」
ブリテンの女王であり、アスガルドの元第一王子という立場への成長を見せていた。
話題は、アスガルドとブリテンの外交の話にまで発展した。
ありえないと思いながらも、そんな未来を描きながら、2人は対話を続けていく。
久々の笑いだった。
自信の固まった表情を久々に動かした。
欲を言えば、今は、彼の部屋のベッドで寝ている娘を間に挟み、この逢瀬を続けていたい。
このひと時が永遠に続けば良いのにと、願わずにはいられなかった。
「あ、そうだお土産があるんだった」
「お土産ですか?」
「はい、これデイリー〇イーンと君のコラボアイス」
「私……? コラボアイス……?」
「いや、向こうでモルガンについて色々話してたんだよ。妖精國の事とか。汎人類史の君の事とか。俺異世界から来たって公表してたし」
「待ってください……」
「『女王モルガンの
「いやトール? その、何を言っているのです?」
「『モルガン物語』も発売したんだ。アーサー王伝説の君視点の話ってやつ? 俺と後、え~っと誰だっけな。もう一人と協力して監修したんだ。『女性が捨てられる時代に、国中からの嫌がらせに遭いながらも、抗い続けた世界一強い女性の物語』だって大人気。その後の、君の妖精國の頑張りを記した続編も作る予定だったんだけど、間に合わなかったな……」
「——ハ?」
***
風を流す。
趣味と実益を兼ねた殺害は失敗に終わった。
まさか、あの狐が出張るとは夢にも思っていなかった。
ムリアンはよほど、あの正義のミカタにご執心らしい。
そう正義のミカタだ。
あれは間違いなくその類。
アレは、
救世主側ではなく。異聞帯という間違いを正す為の正しい正義のミカタでも無く、紛れも無く
汎人類史の物語を汚す異物。
あれは邪魔だ。
妖精國における構図は、
あいつらは、いずれ自身が滅ぼす世界をご丁寧にも救おうと躍起になっている。
悪の女王から妖精達を救い出す事が、正しい事だと信じ切っている。
いずれ滅ぼすという罪を、自分達を慰める為の善行によって軽くしようとしている。
今は妖精國の全てがその自慰行為に騙されているのだ。
だが、あの男がこのまま調子に乗れば、その化けの皮が剥がれてしまう。
カルデアは正義の味方として輝いているべきなのだ。
この妖精國の救世主として、気持ちよく旅を続けてもらわなければ、いずれ彼女が出て来た時にその輝きが曇ってしまう。
その楽しみを横から邪魔されるわけにはいかないのだ。
風を流す。
幸いある程度の情報は掴んでいる。
風を流す。
あの会議に参加していて正解だった。
風を流す。
あの男がどこを拠点にしているかは、その時に聞いていた。
風は、流れていく。
***
面倒な事になった。
妖精騎士ランスロット。
湖水地方で出会った。アルビオンの末裔。
最も、自分はその場にはいなかったが。
彼女の口から語られる事実と、その内容は彼らの行動に一つの迷いをもたらした。
合流した時の雰囲気は最悪だった。
『君たちの戦いに、パーシヴァルを巻き込まないで欲しい』
『予言を遂行しようとする君達を、僕は正しいとも間違いとも思わない』
『でも、少なくとも、君達を悪と断ずるヒトがいる』
『彼は、鐘を鳴らして、女王を殺せば全て解決だなんていう予言を与太話だとしか思っていない』
『彼は、陛下の偉業を心の底から称えている。それを理解しようともしないで、妖精と人間の共存を目指しながら、女王を殺す事しか考えていない君達を、正義の皮を被った悪党以下の愚か者だと言っていたよ』
『なんのプランも持たず、内乱で國を掻き乱しておきながら、鐘を鳴らし回ることしかしない君達は、正しく最低最悪の侵略者だともね』
『その侵略行為の過程で、彼の友人のウッドワスは死んだ。彼は、君達を、パーシヴァルを心の底から憎んでいる』
『その恨みの強さは、正直な所僕も恐ろしいと思う程だ』
『彼は、円卓軍から抜けるならパーシヴァルには手を出さないと誓ってくれた。このままつまらない円卓軍を続けるなら、容赦しないとも』
『力づくで、パーシヴァルを攫おうとも思ったんだけどね。僕もそこまでの勇気は無いんだ。なるべくなら自由を尊重してやりたい』
『だけど、君達の正しさの証明の為に、彼の命が消費されるのは、我慢ならない。いざと言う時は、僕も行動に出る』
『僕自身が彼を殺すなどあり得ない。勝てるビジョンも見えていないしね。彼は底が知れないから』
『彼? 彼はトール。僕の恋人だよ――』
『あれ?違う。違った。間違えた。友人ではあるけど、恋人じゃない。おかしいな。一瞬記憶が混濁したみたい』
ランスロットの要求に、頷く事はしなかったものの、彼らの気分は害された。
特にお姫様は、グロスターの一件以来、あからさまに暗い顔をしている。
まったくもって不愉快だ。
ロットだのトールだのを名乗る。物語を汚す不届き者。
パーシヴァルは重要だ。予言の子の威光を知らしめるために、妖精國中を味方につける為に、円卓軍は体の良い女王への反乱の象徴。
それを失わせるわけにはいかない。
あれ以来、一同は暗殺を警戒して、心休まる時も無い。
このままでは、最終決戦以前の問題となって来る。
ムリアンの動向も気がかりだ。
自身の目的の為には、その男はあまりにも邪魔である。
様々な思考を巡らせる。
全力で考える。
風をその身に受けながらこのブリテンを滅ぼす為の邪魔ものは排除しなければならないと心に誓う。
お読みいただきありがとうございます。
これまで、このくらいが読みやすいのかなあと思っていたのと、
モチベ維持の為の投降スピードを維持する為に、5000字前後を意識していたのですが、そのために無理やり区切りを作っていた部分もありまして。
女王編より前の章を合体させて1話ごとの話数を少なくする作業に入ろうかなと思っております。
例えばですが。、妖精騎士ランスロット①②③とありますが、全部繋げてしまおうと言ったところです。
もし今のままの方が良いなど、ご意見等ありましたら、どうやら感想に書くのは規約違反に当たる可能性がありそうなので、同じ内容を活動報告に乗せますので、アドバイスいただけると幸いです。
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない