仕事の方でもパソコンを多用する機会が増え、執筆も相まって、手首が腱鞘炎気味になってしまいまして。
基本スマホの方で、書くようになりました。
改行等、見辛い点があれば、都度修正致しますので、ご報告下さい。
***
「俺を、君の役に立てさせて欲しい」
思い出話もそこそこに、本題へと入る。
そう、力強く宣言するトールの頬に、モルガンは左手を添える。
添えた手で、トールの頬を優しく撫で、その視線は右目へと向く。
その優しい動作に、内心でドキリとさせられながらも、その目線に、気持ちが冷える。
ウッドワスに化けたベリルガットによって傷ついた眼。
妖精眼など持ち合わせていないが、その表情で、答えはわかった。
「それはいけません」
「なんで――」
「貴方の持ってきていただいた兵器や貴方の本当の力は確かに私の理解の範疇を超えるものかもしれません」
「だったら」
「ですが、今の貴方は私でもわかる程に弱っています」
トールの言葉を遮り、同時にモルガンは魔術を発動する。
傷を癒す治癒の魔術。
手に灯った光をトールに充てるが、その効果は薄い。
モルガンにトールが食って掛かったあの時、モルガンが指を当てた瞬間にトールは崩れ落ちた。
あれは意識を刈り取る類の魔術。
魔術の効きにくいトールには、気絶させるには至らなかったが、その精神に一つの綻びを与えた。
生きているのがおかしい程の怪我を、精神で持たせていたトールの膝を崩すには十分なきっかけ。
今のトールは、倒れそうになるほどの大ケガをどうにかして精神力で保たたせているだけに過ぎない。
「私は弱みを見せるわけにはいかない。妖精國の全てが敵となっている今、貴方を傍におけば、貴方の危険は免れない」
「でも――」
「いけません。いざと言う時、私は貴方を見捨てられる自信がありません」
「それは……」
「私の目の前であなたが殺された時、私は冷静になれません。そのままあなたの死体に縋り付き、泣き叫ぶでしょう。周りなど目に入らず、私は無防備となる。私は、間違い無く殺されるでしょう」
あまりにも丁寧なくどい説明だったが、つまりこれは彼女なりの脅しだ。
お前が目の前で死ねば、結局は自分も死ぬぞと、そういう脅し。
そう言われてしまえば、何も言えない。
今の自分に出来るのは、精々彼女の肉壁になる事くらい。
だが、そうなったところで、意味はないと。そう言われてしまえば、今のトールにできることはない。
その後、どうにかして彼女の役に立とうと、さまざまな案を話したが、どうあがいてもトールの身の危険を回避することはできない。
そう促され、納得せざるをえず、モルガンを説得しきることはできなかった。
だが、当然ながら諦めるわけもなく、トールは掴んだ情報を可能な限りモルガンに伝え、であるならば彼女の役に立つような道具を用意しようと、一度ティンタジェルに戻っていた。
トールの与えた情報としては、妖精騎士ガウェインについてだ。
彼女はカルデアに付くだろう。
今すぐ拘束なりなんなりして処断すべきだと言う意見も伝えたが。
『彼女はその場でその交渉に乗ってはいないのでしょう。あくまでカルデアの提案を聞いただけ。
今はまだ、証拠もありません。なにより彼女には、敗北した罰として暇を与えています。もとより数には入れていません』
ああ、本当に、頑なだ。
自分自身すら法に縛り付け、法の下、国の装置として定義する。
その信念を絶対に曲げない。
トールからすれば、もっと柔軟にいくべきだろうと思う。
だが、だからこそ彼女は2000年の間。心折れる事なくブリテンを守り続けて来たのだ。
それは正しく王としての在り方である。
その2000年を放り出していた自分に何か言う権利は無い。
それに、その上で、モルガンはガウェインに多大な信頼を置いている。その眼を曇らせるほどの信頼を。
それは、裏切られようと、構わないと思えるほどのもの。
彼女が明確に反旗を翻さない限りは、何もしないと、そう言った。
あまりにも優しい彼女の判断。
だがトールは違う。モルガンのような慈悲を持つことは無い。
だからこそ、その信頼を裏切ったガウェインを許せない。汎人類史のブリテンと同じだ。
騎士道などと言う綺麗ごとで、全てを誤魔化し、自分勝手で、愚かで、挙句の果てにブリテンを滅ぼした哀れで醜い騎士達。
騎士道という正義の皮を被り、
挙句、アーサー王を裏切り、ブリテンを滅ぼした。
妖精騎士の中で、唯一最も騎士らしい、妖精騎士ガウェイン。
表向きは騎士の良い所だけを詰め込んだような風袋だが、だからこそ、ブリテンの騎士達を思い出す。その被る皮の中を邪推してしまう。
彼女もまた、ブリテンを滅ぼす要素になり得るのか。
考えずにはいられない。
だが、モルガンの言う戦力差が本当なのであれば、ガウェインはいてもいなくても変わらない。
真正面からの戦いになれば、どうあがいても、モルガンに敗北は無い。
円卓軍を組織しようが、北のノクナレアを連れてこようが、モルガンに敗北は無いのだ。それ程の戦力差。
だが――
『私は絶対なのだ――』
そう宣言し、全宇宙の生物を半分にせしめた神の如き存在も、最後は敗北し、チリとなって消えていった。
真正面からの戦闘なら負けることは無いのだろう。
だが姦計を巡らせられたら?
想像もつかないような何かをカルデアが持っているとしたら?
モルガンは、どう見繕っても、万全な対策を整えていない。
あえて、予言の子達をここに呼ぶよう取り計らっている節がある。
それは、あるいは無理やりこの世界を存続させようとしている事への負い目からか。
自身の敗北こそ國の滅びであり、愛する娘であるバーヴァン・シーの滅びであると言うのに。
内乱で王政が切り替わるだけの内乱では無い。既に余所者が、内乱に乗じて介入してきている。
それも、この世界の滅びを望む連中が、この世界を守ると言って、国を騙すという卑怯な手を使ってだ。
それすらも許容するモルガン。
それは、ある種の優しさか。それとも別の何かか。
ある意味では、傲慢な油断よりも、致命的な隙となりえる。
であるならば、自分がそばにいるべきなのは明白だが、結局の所、傍にいれば迷惑がかかる。
最初から1人の方が良いというのはモルガンの談だ。
そして、戦力的な話で言えば、それは事実である。
今のトールに出来ることは、モルガンの邪魔をしない事だけ。
歯痒く思いながらも、出来る事を考える。
やはり、最大最善の手段は暗殺だ。
彼らの拠点であるロンディニウムに大量破壊兵器を投入して。一掃するのが1番手っ取り早い。
だが、ランスロットとの対話が頭にチラつく。パーシヴァルを殺すことに戸惑いを覚える。
それも無視するべきだとは思っているがどこかでブレーキがかかってしまう。
カルデアのやってきたこと、これからやる事。奴らの卑怯さに比べれば、ロンディニウムの虐殺程度、躊躇する理由が無いと思っている。
それなのに、戸惑ってしまう。それは、カルデアと同じ卑怯者になりたく無いとかいう綺麗事では無く、もっと根幹からくる拒否感だ。
それは、ランスロットに対するものであるような気もするし。
もっと別の何かかもしれない。
あるいは、未だ全ての記憶が戻っていない自分にとっての大切な存在がロンディニウムにいるのか。
自分ではどうにもならない意識。
何か大いなる力が働いている感覚。
ある意味ではがんじがらめだ。
(何もかも、アイツらに都合よく世界が回ってやがる)
自分自身の行動も含めて、無意識でも意識的にでも、彼らを害さないような、
それもあからさまに都合よく。
針の穴を通すような、意味不明とさえ言える奇跡的なご都合主義が、彼らを生かしている。
抑止力。
そう言う考えが、汎人類史含めこの世界にあるらしい。
それはいわば、トールにとっては自分を作り出した上位世界の存在に等しい。
上位存在があるいは彼らを死なさないように取り計らい、モルガンが死ぬようなシナリオを描いているとすれば――
いや、今は考えるべきでは無い。
そうであった場合、本当にそうだった場合。
もはや世界を破壊するしか手段は無い。
だがそれはモルガンが最も望まないものだ。
どうにかして、シナリオをひっくり返す手段を考えなければ……
寝ているバーヴァン・シーの頭を撫でる。
すると、その感触に気がついたのか。
彼女の意識が覚醒していくことに気づく。
今すべきは現状の確認。
今後の話。
その会話を準備しようと気持ちを整理させている所で。
異変を察知する。
目の前の彼女に危険が迫っていると、全身が警告していた。
彼女を守る為、反射的に身体を動かす。
それが、ある種の罠である事は、かかった後に気づいたのだった。
***
『なぜおまえはいつもそうなのだバーヴァン・シー!』
いつも。
いつもいつも。
真剣にやっているのに、わからないなりに頑張っているのに。
いつもいつも怒られる。
今回もダメだった。
勝てると思ったのに負けちゃった。
お母様に喜んでもらいたかったのに。
またいつもみたいに怒られる。
ごめんなさいお母様。
あの時は、あの時まではそう思っていた。
――夢を見た。
不思議な夢。
すごく現実的だけど、こんなの夢に決まってる。
玉座から離れることのないお母様。
そのお母様が、ベッドで横になっている自分の目の前にいるのだ。
自分に向かって右手をかざしている。
何故かはわからないが、その掌から感じる暖かさは、まるで、何かに包まれているようで。
幸せな気分だった。
そして、驚くのはそれだけではない。
なんと、左手で頭を撫でてくれているのだ。
それがとっても嬉しくて、でもやっぱり信じられなくて、夢だと思っているけど、不思議な気分だった。
そのまま、少し経ったところで、お母さまは手を翳すのをやめてしまった。
ああ、ずっとやってもらいたかったのに。夢なんだからもっとやってくれてもいいのに。
お母様はそのまま私に背を向ける。
そのお母様が、誰かと話している。
男だ。人間の男。
そうだ、この人は、私の、サーヴァント。
ベリルの話を聞いてからずっと憧れていた存在。
本当は、ベリルがマスターで、私がサーヴァントになるのかな、なんて思っていたけれど。
私がマスター、彼がサーヴァント。
騙されることもない、裏切られることもない、運命の相手。
求めていた、理想の相手。
そんな私のサーヴァントが、お母様に向かって怒鳴っていた。
ありえない。殺されるに決まってる。
なんて無謀な事をと思って聞いていたら。
私の為に怒っていた。
怖かった。
怖かったけど嬉しかった。
やっぱりサーヴァントは凄いって、さすがは私のサーヴァントなんて、誇らしい気持ちになっていた。
でも同時に悲しかった。
ダメよ。
優しいお母様を攻めないで。
私なんかを拾ってくれた。
服を与えてくれた。
魔術を教えてくれた。
ギフトを与えてくれた。
全部私が悪いの。
私が愛されないのは私のせい。
だから、お願いだから、お母様をいじめないで。
そう思っていたら、あのお母様が大きな声を出したのだ。
あんな風に声を荒げる母様を初めて見た。
普段の、恐ろしい程に冷徹な態度のお母様。
でも目の前のお母様は、確かに怖いけど、なんだか逆に可愛らしいだなんて思ってしまった。
そんな怒鳴り声でも、綺麗な声のお母様。
お母様の声が耳に入る。
お母様の嘆きの声が、心に染み渡る。
――ああ、ごめんなさいお母さま。
そんな風に思ってたなんて。
ごめんなさい。お母様。
ダメな娘でごめんなさい。
勝手なことばかりしてごめんなさい。
でも、でも、ありがとう。
――ありがとうお母様。
本当はこんなにも思ってくれていたなんて、愛してくれていたなんて。
ありがとう。
ありがとうお母様。
ありがとうモルガン様。
ありがとうトネリコ様。
ありがとう
――目が、覚めた。
妙な夢を見たと思った。
すごく鮮明な夢。
それなのに、夢の内容は朧気だ。
疑問に思いながら意識を覚醒させる。
ふと、ぼやけた視界がクッキリしてくれば、見えて来たのは、彼の姿。
私をマスターだと言って、あの会場で、私を守ろうとしてくれたヒト。
友達のウッドワスを殺した私を、許すと言ってくれたヒト。
頭がボーッとする。
私から見て横向きの彼の表情は、呆然として、目の前の虚空を見つめていた。
その姿は、その立ち位置は、見覚えがあって、つい一瞬前まで見ていたような――
そうだ。そう。そうそう。
思い出した。
「魔女様は?」
「――え?」
「いま、魔女様とお話ししていたでしょう?」
不思議な顔をしてこちらを見て来る彼。
「魔女様って?」
「魔女様は魔女様でしょう? トネリコ様。あれ?モルガン様だったかしら。忘れてしまったのトール様? いつも一緒にいたのに」
「一緒……に、いた……?」
変なトール様。
今の今までお喋りしてた魔女様のことを知らないなんて。
ずっとずっと一緒だった魔女様のことを知らないなんて。
「――ああ、そうか、そういう事か……」
トール様はなんだか、嬉しそうな表情になっていって――
アレ?なんで、私、コイツの事をトール様なんて呼んでいるの……?
頭が混乱してる。
いつもみたいな頭痛は無いけど、頭の中はグチャグチャで。
でもどこかそれが凄く嬉しい。
頭をフルフル振るっていたら、トール様の手が私の頭に乗っかって来て。
「ありがとうバーヴァン・シー」
感謝の意味はわからなかった。
でも、その感触が暖かくて。懐かしくて。
すこし前に、誰かに触ってもらったような――
「とりあえず、まだ万全じゃ無いんだ。ゆっくり寝ておかないとな」
意味わかんない。私はどこも悪くないのに。
それとも気づかないうちにモース毒にでもかかってたとか?
「いや、もう大丈夫だ。治してもらったから大丈夫」
言って聞かせるように二度も告げられる。
「でもちゃんと安静にしてないとダメだぞ」
なんだそれ。
そもそも何でそんなに偉そうなんだっつーの。
私のサーヴァントの癖に。
そう、文句を言っても、優しく微笑むだけだった。
そんなトール様を見てたらいつもの指輪を左手にはめていた。
「どこに行くの?」
聞いてみた。何となく寂しくて、行って欲しくなくて。
なんでそんな事を思うのか自分でもわからないけれど。
とにかく行って欲しくないから、どうやって引き止めようか、一生懸命考えていたら。
「君のお母さんの所」
その言葉でいろんな事が吹き飛んでいった。
「ハァ!?」
「ほら、大人しくしないと。せっかくモルガンが治してくれたんだから、暴れたらお母さんに怒られるぞ?」
「ちょっと、なんだソレ!? お母様が治したって!?」
訳がわからない。
「ほら、良い子だから。ちゃんと寝てくれ。子守唄でも歌ってやろうか?」
「な、なんだよ、ソレ!いらねーっつーの!」
「子守唄が無くても眠れるのか?そりゃ凄い。バーヴァン・シーは立派な妖精だな」
トール様はそう言って、私の頭を撫でる。
すごく腹が立つけれど、聞きたいこともたくさんあるけれど、でもなんだか逆らう気も起きなくなって。
「おやすみマスター。起きたら、改めてお話しよう。俺はサーヴァントになった訳だしな」
その言葉に嬉しさを感じながら、段々と眠気が強くなる。頭がボーっとしてくる。
それでも聞きたいことはあった。
「……お母様に会ってどうするの?」
意識が薄れて来る。
「そうだな。まずは全力で謝って……」
瞼がだんだん降りてくる。
「また、一緒にいたいって頼んでみるよ」
その言葉を聞いた時、それは、とっても素敵なことなんだろうと、嬉しくなって。
目が覚めたらきっと、そんな素敵な事が待ってるんじゃ無いかと。
これから素敵な未来が待っているんじゃ無いかと。
そう希望を抱きながら瞼を閉じた。
――目が覚めた。
自然に起きたわけでは無い。起こされたという感覚。
ぼやけた視界がはっきりしていく。
その過程で、自分の体に生暖かい液体がついている感覚も覚える。
それを自覚しながら、目が覚めた時、眠る前に抱いていた希望は、絶望へと変わった。
生暖かい何かは血だった。
その血の出所は明白で。
声を上げる。
怒りと悲しみが込み上げる。
自分は何も出来なかった。慌てている間に、彼の指示通りに合わせ鏡を用意すれば、無理やり体を掴まれ、乱暴に突き飛ばされ、自分の体は、合わせ鏡に映し出された。
瞬間、視界が切り替わる。
***
「ボロボロじゃ無いか!」
いつも単独行動している彼がこれまでになく前触れも無く、突然戻ってきた。
服がボロボロ。所々に傷もある。
いつもなんだかんだで無傷で乗り切る彼だけど、こんなに苦しそうな姿を見せたのは初めてだ。
皆が彼に駆け寄る。
心配する皆に彼、オベロンは、殊勝な態度で口を開く。
「すまない。君達に無断で勝手な事をした。本当に、危なかった……いや、反省したよ。流石にね」
彼らしくない。その言葉に嘘はない。
謝罪の言葉も、勝手な事をしたという、反省も、嘘ではない。
「一体何が……?」
その質問をしたのは誰だったか。
誰しもが思う疑問に、彼はあっさりと答える。
「ちょっとね。ロットだとか言う男に会ってきたのさ」
その言葉に皆が驚愕する。
「ちょっとって!?」
叫んだのは藤丸立香。
「まあ結果だけ伝えようか」
そんな皆の戸惑う様子に構わず、オベロンは話を進める。
「皆、朗報だ――これでまた一つ宣伝できる」
相変わらずの演劇調で彼は宣言した。
「救世主一同はまた一つ、妖精の滅びを望む巨悪を打倒したってね」
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない