お読みいただきありがとうございます。
感想、ご意見ありがとうございます。
誤字報告。助かります。これからもよろしくお願い致します。
話数を短縮すると言う件ですが、そのままの方が良いという意見をいただきましたので、そのままにさせていただきます。
それと、ここすき、機能と言うものがあったのですね。ご指摘いただきありがとうございます。
それに気付かず編集してしまい、指定していただいたここすき部分が無くなってしまう事もあるようで。大変申し訳ございません。
後から編集などする際。
そこに関しても意識させていただきたいと思います。
それは突然だった。
前触れは無かった。
あえて異常を感じたのならば、ほんの少しだけ眠気が強かった事か。
はっきりと感じるほどの異常を察知した頃には、反射で動かざるを得ないところまで迫っていた。
腹部を、黒い、ナニカが貫いた。
「……ッ」
元々空いていた穴の横、穴をさらに広げるように貫かれたそれは、モースの体を形成するものと同じ類のもの。
黒いモヤが巨大な針のような形状となってトールの腹を貫いている。
あるいは、最初から自分を狙うような一撃で有れば回避できたかもしれない。
だが。その狙いはバーヴァン・シー。
――と見せかけた、トールへの攻撃だった。
反射的に、庇うようにしか動けない事を見越しての鮮やかな一撃。
今のトールでは、腹を貫いてなお突き進むその針を、触手を、両手で掴んで、抑えるのが精一杯。
「ほんっとに……っ どいつもこいつも俺の腹に怨みでもあんのか……!?」
軽口をたたきながら、首だけで後ろを振り返り、出元を探れば、それは床下から伸びている。正体は分からない。
モースと同じだが、モースでは無い。
モースであれば、これ程明確な意思を持って動かない。
そう考えたところで、一つ、トールには思いつく事があった。
島そのものを呪うモースのようなものが意思を持って動いていると言う事はどういう事か……
――逃すわけにはいかない。
ズルり、と自身の腹から引き抜こうとするその触手を改めて強く握る。
逃がさない。
「ぐっ、あ、ああああああ!」
触手を握り潰さんばかりに力を入れる。
無意識に流れる電流が、触手の動きを押さえつける。
その騒ぎの中で、一つ動きがあった。
「あ、ここ……? え――?」
目の前の、少女が覚醒した。
彼女と目が合う。
みるみる内に、驚愕に染まる彼女に、気の利いた言葉をかける余裕は無い。
モースは、妖精にとって触れるだけで毒である。
彼女がこの場にいては危険だ。
パチリと、トールのセンサーが働く。
地面からもう一つ生えた触覚が、バーヴァン・シーを襲おうと、凄まじい速度を伴って刺突するが、トールは、その触手に目を向けることも無く、背後から迫る触手を、それ以上の反射速度で以って掴み取る。
「ああ、ああああああ……!」
「逃げ、ろ……!」
「うそ、うそうそ……っ なんで、やっと――っ!」
叫ぶだけのバーヴァン・シーに、トールは再び声を出す。
「鏡だ! 鏡を出せば切り抜けられる!!」
その叫びに、ビクリと、バーヴァン・シーは反応する。どう使うのかは分からないが、そうすれば、彼が助かると、反射的に、合わせ鏡を出現させる。
ちなみに言えば、トールのその言葉は本当でもあり、嘘である。
切り抜けられるとは、バーヴァン・シーを逃すという意味で、トール自身が助かる意味では無い。
トールは、右手に掴む触手をその握力で握り潰して千切り、空いた右手で彼女の服を掴み、
「え――?」
その鏡に投げ飛ばした。
合わせ鏡に吸い込まれ、消えていく彼女を確認する。
「……フゥー」
一つ深呼吸。
トールの衰弱具合を察知したのか、痺れが残っているからか。比較的大人しい触手は、トールの体から引き抜こうと力を入れる。
だが、させるわけにはいかない。このまま、抜かれて仕舞えば血が溢れて来る。栓代わりのソレを、抜くわけにはいかない。
抜けば確実に出血多量で死ぬ。
トールはソレを抑えながら、このモースのような何かの、正体を思考する。
土地を呪う、モースという正体不明の呪いが、全妖精を襲う呪いが、無差別に出現する呪いが、この家屋の地面から狙ったように生えてきて、わざわざ、バーヴァン・シーを狙って庇わせるという戦術を駆使して、人間である自分を狙ってきた。
何故?
偶然だとか、そういった要素を取り除けば、理由は一つ。
トールという存在が邪魔だから。
だが、何故邪魔なのか、何故今になって襲い始めたのか。
グロスターでの一件以外に理由がない。
トールはあの時、妖精達への宣戦布告を宣言した。その後、予言の子達への殺意も、嫌悪感も、わざわざ本人達に伝えた。
モースに意思があったと仮定した時、妖精への宣戦布告という点からしたら、妖精を呪うモースが自分を害する理由は無い。
だが、予言の子への敵対行動に対してであれば――
確証はない。偶然かもしれない。
だが、最悪の事態は考えなければならない。土地を侵す呪いが、体面上はブリテンを救おうと動く予言の子に味方しているとなると、ますますもって問題だ。
「ああ、本当、カルデアを絶対に殺さないといけない理由が増えたな……」
あえて、考えを口に出す。
ここでの反応次第では、確証を得られるのだが、触手に反応は無い。
こちらの考えを見通しているのかもしれない。
どうにか体から引き抜こうと単調な動きで、何度も何度も引っ張っているだけだ。
「そう思うだろ?……」
反応は無い。
「マヌケのフリをするなよ……お前が、何を考えて俺を狙ったかなんてバレてるぞ」
反応は無い。
「お前、カルデアの一味だな? もしくはあいつらに生き残ってもらわないと困る立場の奴だ」
反応は無い。
「まあ、どっちでも良い。どっちだろうが、あいつらを絶対に殺すのは変わらない」
反応は無い。
「
トールは、とある存在に声をかける。
それは、スターク製のAIだ。
トニーの相棒。
雷神ソーが名前の由来となったThursday。それが理由というわけでもないが。何となく選んだそのAI。
今トールが思い出す事ができない、もう1人とは違う、純然たるAI。
「おはようございます。トール様。ご用件は何でしょう」
この非常事態にも、感情や戸惑いを感じないのは心を持たぬ機械故か。
この状況で、その機械音声は酷く浮いていた。
殆ど使っていなかった為、フライデイのように、その場でジョークを挟むようなAI的成長も見せていない。
その態度に、トールも気にはしない。
ただ、命令を下すだけ。
「サーズデイ。ジェリコミサイルの発射用意」
「かしこまりました」
空気が、変わった気がした。
ジェリコ。
かつて、トニースタークが武器商売をしていた頃の最後の製品とも言えるクラスターミサイル。
その威力は、各国の兵器を遥かに凌駕し、一発で戦争の勝負が決まるとも言われている。
そのミサイルの経緯を思えば、トニーにとっても、他の誰かにとっても、忌むべき兵器。
「ごめん、トニー。でもなりふり構っちゃいられないんだ……!」
謝罪と言う名の独り言を呟いたところで、地響きが鳴り響く。
家屋が揺れる。
ここぞという時に家屋ごと改造され、搭載されたミサイルが発射の準備をするように稼働する。
床下から、ミサイル発射装置がせり上がり。その発射を邪魔しないように天井が稼働し、美しい星空を映し出す。
「狙いは、以前にインプットした場所だ」
「――ターゲット確認。ロックしました」
「カウントダウンだ。ゆっくりで良いぞ」
「かしこまりました」
「さあ、一体、
トールはあえて発射位置をはぐらかす。モルガンの妖精眼を知る故か、こういう土壇場の時、答えを出さない癖がついていた。ハッキリと言えば、ソレが本当か嘘かバレてしまう。
だが、思考そのものを覗かれているわけでは無いという事も知っている。
脅しをかけるかのように、触手の出元に語りかける。
だが、トールは、着弾位置を言う必要がない。会話の流れを読み解けば、トールがどこを狙うかなど、答えは一つしかない。
トール自身、本気でそこを狙おうとしていたが、この土壇場でさえ、拒否感が出てしまう以上、どうにもならないのだが。
この触手には知る由も無い。
「発射準備完了。カウントダウンを開始します」
触手に動きは無い。
「10.9.8.7――」
「ハァ、ハァ、ハハっ……威力を汎人類史の兵器と一緒に考えない方が良いぞ?」
気絶しそうになりながらも。
嘲笑混じりに声をかける。
「5.4.3.」
未だ反応は無いが、逡巡しているようにも感じる。
「2.1――」
トールを突き刺した一撃以外、バーヴァン・シーを狙ったような、妖精を襲うという本能的な演技以外では動きを見せなかった触手。
それが――
「発射」
ここに来て初めて、激しい動きを見せた。
地面から、夥しい量の触手が生えてくる。
先のトールの腹を貫いた時よりも、素早く、鋭利な刃達。
常人であれば、見切ることもできない、鋭く数で攻めるその攻撃。
トールは、腹から触手を引き抜き、弱った体から力を引き絞り、膝をついた状態から、体のバネを使って飛び上がり、部屋の棚へ跳躍する。
それは、迫る触手よりも尚早く、棚にある掌に収まる程度の何かを握る。
トールが、ソレを握りながら、力を込めた途端。
「――ッ」
稲妻が迸った。
凄まじい光と音が重なる。紫電が迸り、トールに迫り来る触手を一瞬で焦がし、消滅させる。
トールが手に握るのはアークリアクター。
トニー・スタークが開発し、アイアンマンの動力源としている小型半永久発電機間。
トールの雷を操る力で以って、そのアークリアクターの電力を力に変え、触手を焦がしていく。
以前の、妖精國に来る前のトールであれば、その電力を回復に使うこともできたが、今のトールにはそれができない。
むしろ、電気を操った反動で、体力を消費し倒れ伏してしまう。
だが、最早死ぬことが決まった身だ。
体力程度どうとでもなる。
トールに迫る触手は全て消滅。
そこで、視線を巡らせれば、ミサイルに触手が絡みついていた。
噴射剤を吹きながら、空へ飛びあがろうとするミサイルは、触手にからめとられ、動きを止めていた。
トールを殺そうと動くと同時に、ミサイルの方へも触手を伸ばしていたらしい。
それを見ながら、床に倒れ伏したままトールは、ニヤリと笑う。
「ハッ……ククッ……俺を殺すどさくさに紛れて、ミサイルを阻止しようとしたみたいだが、バレちまったなぁ?」
嫌らしい笑いで挑発しながら。
動かない体のまま、嘲笑う。
「間抜けめ、これでお前がカルデア陣営の存在ってことが分かったぞ?」
床下から再び触手が現れ、トールを襲うが、再び稲妻に消滅する。
その度に、トールの呼吸が荒くなる。
「俺なんかに分かったんだ……いずれバレるさ。世界を滅ぼす救世主の味方につくような間抜けな奴らばかりだが、それでも、気付く奴はいるもんだ……」
倒れ伏すも笑顔は絶やさない。
「お前は、間抜けで、卑怯で、意地汚くて、汚らわしくて、ああ、見た目もきっと最悪で、不細工だろうなァ……」
その笑みは嫌らしく、まるで、物語の読み手を嫌悪させるような。
「元の世界も、妖精國も、良い奴も悪い奴も、色々な奴と会ってきたが――」
子悪党の笑みだ。
「お前は、妖精國で1番下劣で、気持ちが悪い、クソ野郎だ」
トールから迸る嫌悪感も、その言葉も、全て、挑発でもなんでもなく本当に思っていること。
口から血が垂れ、腹からも溢れる血が床を濡らす。
傍目に見えても死ぬ直前のトールを、これまでに無いほどの量の触手が囲む。
放っておいても死ぬ存在には、過剰とも言えるその戦力。もはや、本能的に妖精を狙うと言うモースの本質は見られない。その触手に、どこか、怒りの感情がこもっているようにも見える。
「ああ、そうそう」
そのような中
「ミサイルの狙い場所な――」
トールは余裕の態度を崩さない
「ここなんだ」
言った瞬間、パチリと静電気が弾ける音がする。
それはトールによる、電子操作。
その電子によって、ミサイルの弾頭が、反応を起こす。
「クソシンビオート擬き。暗殺をするなら、近くにいるべきじゃなかった」
瞬間、ミサイルが起爆する。
凄まじい破裂音が響く。
赤と黒の光が視界を染める。
弾頭の爆発物は特別性。
当時のジェリコよりも殺傷性に優れており、これを防げる物はほぼ皆無だろう。
走馬灯がよぎるがごとく。死の直前に迫ることで、思考が超高速回転しているのだろうか。
触手を蒸発させながら迫り来る灼熱がやたら遅い。
ゆっくりと自身に迫る死。
それを間近に感じながら、トールは改めて思うことがあった。
(情けない。俺、本当の意味で死を覚悟してたわけじゃなかったんだな……)
彼女の為に死ねるなら悔いはない。
自分はそう思っていた。
だが、今の自分に襲い掛かるのは後悔だ。
バーヴァン・シーを思い出す前、大切な存在などいなかった。
失う物など、存在しなかった。
だが今は違う。
モルガンがいる。バーヴァン・シーがいる。ムリアンがいる。
ウッドワスがいた。
そして、それぞれが、あまりにも孤独で、この先においては、あまりにも敵が多い。
圧政を選んだ時点で、選ぶしかなかった時点で、孤独は免れなかったモルガン。味方などいない彼女。
それでも、トールからしたら感嘆するほどに、バランスを保てていた。
更に数千年単位で続けて来れたであろう、モルガンの統治。
各氏族もちらほら怪しい動きはしているが、それでもこのままなら、モルガンに蹂躙されて終わっていただろう。
それが、カルデアという侵略者が来たせいで、保っていたバランスが崩れてしまった。
奴らは今、人理の為にモルガンを殺そうとしているのではない。
このブリテンを救おうと本気で思って、この妖精國の為を思って。本気で、善意で以ってモルガンを殺そうとしている。
それが、逆にあまりにも腹立たしい。
この國の内情を調べもせず。
モルガンの苦労を知りもせず。
余所者が、予言などというくだらない物を基準に、人理どころか、妖精國の未来を背負う腹積りで行動しているのだ。
人理の為にモルガンを殺すのではなく。このブリテンの在り方を正す為に、モルガンを殺そうとしている。
ブリテンの在り方を、楽園と言う醜悪な存在が用意した救いでもって正そうとしている。
生存競争の果てにブリテンを滅ぼすのではなく。ブリテンの在り方を正すという信念でもってブリテンを滅ぼすのだ。
これがブリテンの正しいあり方だと、ブリテンをモルガンから奪い取った上で豪語し、ブリテンを救ったぞと、これまでのモルガンの努力を踏み躙って、尊厳も奪って。
妖精達に祝福されながら、勝利の祝杯でも挙げて。
モルガンの努力の証でもあるロンゴミニアドを奪い、モルガンの正義もまた。正しかっただのなんだの。加害者が、綺麗な存在でいたいが為の安っぽいセリフを残して、奴等はそのまま滅びゆくブリテンを救う事なく、放置して立ち去るのだ。
――より良いものを作る為に自分の手を汚す。それを、汚いと罵る者もいるが、そんな連中が今、笑っていると思うと、腸が煮えくり返る
かつて、シールドの重要ポストにいながら、ヒドラの幹部でもあった男の言葉を思い出す。
本当に、腸が煮えくり返る。
何も知らない奴らが正義を語り、善意を語りながら、正義を成し遂げ、國を混乱に陥れ、最後は、元より滅ぶ世界だったから仕方のない事だったと言いながら、善行を成したつもりで立ち去っていく。
国を侵略しにきた悪党達に虐殺される方がまだましだ。
頬を伝うのは無念の涙か。
一矢報いる事しかできない今の自分。
殺せるはずだったのに、殺せなかったカルデア達。
守れるはずだったのに、傍にいることすらできずに死ぬ自分。
これほどまでの無念を抱え死ぬ事が。こんなにも苦しいとは思いもしなかった。
(アスガルドを裏切った上で死ぬ覚悟もできてなかった俺が、持てるはずもなかったんだな……)
視線の先にある、いつも邪魔だったケースを視界に収めながら。
後悔の涙を流し、皮膚に、目に、のどに、焼けるような熱さの予感を感じながら、トールは意識を手放した。
いつの間にか手についている腕輪に、気づくことは無かった。
***
許せない。
奴らを許せない。
何もできなかった自分を許せない。
鏡越しに、音だけは聞こえていた。
奴らがいるから、彼は死んだ。
奴らの為に、全てが都合よく回っている。
存在そのものが許せない。
だから、私が奴らを滅ぼすのだ。
滅ぼされる前に滅ぼしてやるのだ。
このブリテンを守るのだ。
お母さまを守るのだ。
***
私は見守ることしかできない。
私は行動を起こすことは出来ない。
世界を成り立たせる上で、認識というのものは重要だ。
世界がなければ生命体は存在しない。裏を返せば、知的生命体が、世界が存在していると。そう認識しているから世界は存在してるとも言える。
たとえ、神なる存在が世界を作り出そうと、そこに世界を認識する何者かがいなければ、何の意味もない。
存在していないのと同じ。
魔術的、科学的、ありとあらゆる理論から、語られる世界の真実は、それらしい理論はあっても、結局の所真実を知る事は不可能だ。
解明したとしても、そう勝手に解釈しているだけで、本当の意味での真実はわからない。
認識するからこそ存在すると言う理論も、結局のところ、真実かどうかは定かではない。
だが、少なくとも私は、その最中にいる。
私は、確かに存在している。
私は私だと認識している。
だが、彼が思い出し、認識するまでは、何も出来ない。
いないのと同じ。
考える事ができても表現できない。
声をかけたいと思っても言葉を話せない。
触れたいと思っても触れられない。
助けたいと思っても助けられない。
どうしようもない。
何度も何度も彼の苦しみを見てきた。
何度も何度も、色々な方法で死に、そして、時間が戻り、繰り返す彼を見た。
その殆どが道半ばで倒れ、時には寄り道もして、何度も何度も繰り返してきた。
だが、今回は、今までとは違う。これまでで一度も達成することのできなかった。
死ぬ直前ではなく、万全な状態で、出会うことができた。
何度も何度も繰り返してきた中で、ようやくの進展だった。
今、それを逃す手は無い。
彼と出会ったのは偶然だった。
私の元に来たのは完全な事故だった。
彼は記憶を失っていた。
彼は、事故によって彼では無い彼になっていた。
記憶が無い孤独の中、拠り所が私しかいなかったからだとしても。
失われた記憶の奥底の面影に私を重ねていたからだとしても。
彼の、私の元に訪れた時の制約ゆえに、道半ばで終わってしまったとしても。
結局のところ、私の結末に、何の変化も訪れなかったとしても。
本当は、私ではない
始めようとしてくれただけで十分だった。
彼は、私を追い出した醜い人間たちとは違った。
彼は、私を慮ってくれた。
彼は、私の境遇に、私でさえ戸惑ってしまうほどの怒りを示してくれた。
私の為に、全てを敵に回そうとしてくれた。
私の為に命まで投げ出そうとしてくれた。
それは確かに救いだった。
身体を失っても、意識だけの存在になっても、正しく自分だと認識されなくても。
共にありたいと思った。
どうせ、元の世界に居場所等、無いのだ。私は、醜い人間どもに、醜い魔女と罵られる事意外、存在する価値も無いのだ。
肉体を手放す事に、躊躇は無かった。
既に、彼の世界や、彼の使う魔術の知識は彼からもらっていた。
自分の存在を変質させ、彼を追うのは苦では無かった。
別の存在として生まれ変わり、彼の側にいれるようになった。
飛び上がるように嬉しかった。
似ているようで、別の世界は、人間によって支配されたその世界は、自身の本質から言えば、好きでは無かったけれど。
彼との星を越えた冒険で、その心持ちも変わっていった。
彼は、私の最低最悪の物語を、私の思いを、伝える術を用意してくれた。
相棒として彼の側にいられることが幸せだった。
それで十分。
あの時間軸、厄災の獣の時は、彼の脳裏に、カケラでも私に対する認識があったが、今は違う。
特別製のこの爆発は、物理的にも耐えられない。
だが構わない。
元より、私は代替品。
出会うはずの無かった存在。
彼女のおこぼれで出会う事が出来ただけの存在である。
力を振り絞る。
存在強度を高めていく。
この時間軸が最期になる事を願う。
彼の幸せを願う。
彼がずっと追い求めていた
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
-
MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
-
MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
-
一度も触れた事がない