世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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Interlude〜V2N〜

声が響く。

 

汚らわしいと。

 

このような神聖な場所に毒婦を、魔女を連れ込むなとガヤガヤとやかましい。

 

俺の右隣から少し後ろ。

 

一歩引いた位置で俺の右手を握る彼女は、俯いていて表情が分からない。

 

ここに来る前のあの強気な態度はどこに行ったのか。

いつもだったらからかってみたものだが。

 

彼女は密かに震えていて、そんな気は起きなかった。

 

 

『貴様に何がわかる!? 国とは人だと!? 違う幸せを探せだと!? わかったような口を!! そのような綺麗事で納得できるならばとうに諦めている!!』

 

 

いつもの不遜な態度は成りを潜めていて。

 

 

『あの夢魔が現れて、あの男は私を捨てた! そして突然現れたあの小娘が全て持って行った!!』

 

 

彼女がどれほどに苦しかったのかが痛いほどに伝わってくる。

 

 

『私はブリテンそのものだと言うのに! ブリテンの王になるはずだったのに!』

 

 

彼女が俺の手を力強く握るあまり、爪が食い込み血が出ているが、この程度痛みのうちにも入らない。

 

 

『私は何もしていない……! 何も悪い事はしていなかったのに……! 王になるための研鑽も、欠かしたことは無かったのに……!』

 

 

例え四肢を引きちぎられたとしても、全身の皮を剥ぎ取られたとしても、彼女の心の痛みに比べれば瑣末事だ。

 

 

『どうして……! わたしはすてられたの!! どうすればよかったの……!?』

 

 

彼女の慟哭を思い出しながら目の前の王の父親が彼女に与えた仕打ちを訴えた。

 

王位を譲れとは言わないが、彼女も王族として扱うべきだと、これまでの行いにも情状酌量の余地はあると訴えた。

 

だが、殆ど無駄だった。

 

周りの騎士達は、そもそも女にこの国を任せられるわけが無かったと。むしろ一笑に付すのみ。

王位を継がせる気がないならば、嫁がせるのがこの時代、この国では一般的だ。

彼女のように、捨てられたと感じる方がこの時代、この国では異常なのだろう。

 

ここでの女性というのはそう言うものだ。

言うなれば物に等しい。あるいは子を成すため。あるいは戦利品として男の欲望を満たすため。

消費されるのがこの国、この時代の女性達だ。

 

唯一輝く場面があるとすれば、王や名のある騎士の所有物として威光を知らしめるための飾りとなる時くらいだろうか。

 

女性自身が先頭に立ち、その存在を知らしめることはない。

 

女性が王になるなどありえない。

 

性別を偽る目の前の王がその証拠だ。

 

正直なところ、これで誤魔化せているのは不思議ではあるが。

 

この時代から1000年たっても、女性を軽視する風潮は変わらないのだから、当時の女王やエージェント・カーターがどれ程に偉大だったか痛感する。

 

騎士達も、紳士ぶって女性を気遣う素振りは見せているが、真実女性を尊重しているわけでは無い。男が女を愛する時も守る時も、結局の所俺の物に手を出すなという側面が強い。

 

故に物なのだから奪っても良いと、そういう風潮の結果。敵国の妃を奪い、孕ませ、生み出されたのが目の前の王でもある。

 

俺からしたら、その生まれの方がよほど彼女より醜いが、そんな出自でも男性であれば受け入れられ、その被害者みたいなものである女性は見向きもされないのがこの時代だ。

 

説得は無駄だった。変わらず彼女を蔑む声は変わらない。

経緯はどうあれ、彼女自身も王に対して、悪意のある行動を取った事は事実だ。

 

そこを突かれれば反論は出来ない。

 

 

――だから、最初から期待していなかった。

 

嫌な目線は途切れない。

大きな声では無いものの、彼女を蔑む声は綺麗に届く。

 

とりあえず、彼女への攻撃を少しでも和らげようと考えた。

 

神聖な場所と言うのならば何故、騎士を語る蛆虫がわいているのか、純粋な疑問を口に出せば怒号が飛び交った。

 

愚かな田舎者の王と、死にぞこなった亡霊の分際でと、蔑む声が聞こえる。処刑に値するとも。

 

目前の玉座に座る王は動かない。こちらを冷めた目で見つめるのみ。

 

元より言葉で説得しに来たわけではない。

 

目の前の王もソレがわかっているのだろう。

 

たった2人でこの城に乗り込んだ大馬鹿者。

 

周りの騎士達は、そうこちらを侮っている。

 

目の前の王が王位に就くとき、それに納得できず、反旗を翻し結果敗北したのが自分。らしい。

 

彼女によって蘇った亡霊。などとも言われているが、あるいは否定は出来ないのかもしれない。

 

侮られて当然の立場。

 

だが目の前の王は違う。

 

こちらを、警戒すべき敵として見つめている。

 

まあ何にせよ。まずは彼女を”小物”と毒づいた騎士からだ。

 

ハンサムな男だ。さぞモテるのだろう。

まさしく、この時代の騎士の鏡だ。女性を物扱い。

ああいう、思い上がった奴こそ、愛だのなんだのを盾に女性を物扱いして、他人から奪って行くものだ。

 

手をかざす。

 

その動作に警戒をさらに強める王。

 

玉座に座りながらもいつでも踏み込める体制だ。

 

気迫を押し隠しながらもぶつけて来るその気質は大したものだ。

 

その空気の変化に、こちらを不安げに見つめる彼女。

 

彼女からすれば、俺は、魔力も持たない本当に力のない人間にしか見えないらしい。

 

力の無いただの人間が、目の前の非人間に叶うはずもない。

 

それが彼女の、ここにいる皆の意見なのだろう。

 

――本当に、そんな心配そうな顔をしないで欲しい。

 

父の愚かさに、王の横にいる夢魔の計略に、あるいは神の定めた運命によって、見捨てられた彼女。

 

物語の悪役として処理されるであろう彼女。

 

父に、夢魔に、運命に、神に祝福されている目の前の王。

 

まあ、王故の苦しみはあるのだろうが、全てを奪われた彼女からすれば贅沢な悩みだ。

 

心配するなと彼女の手を握り返す。

 

元来外様の自分が他人の国に口を出すなという話かもしれないが、物語に何もかも優遇された王が相手なのだ。

 

亡霊とは言えこの国に関わる者ではある。部外者では無い。

 

それに全てを奪われた彼女に、偽物の神が付く程度、たいした問題でも無い。

 

()()が、空気を切り裂くどころか、破壊しながらこちらに来るのを感じ取る。

 

自分の命は彼女によって拾われた。

 

どのような腹積もりがあろうと、俺は彼女に救われた。

 

世界が彼女を悪するのならば、こちらも悪である事に異論は無い。

 

彼女の父であり目の前の王の父でもある男は、敵国の王を殺し、その妃を孕ませ、目の前の王を生み出した。

 

不義の子だ。

 

そんな者が突然ポンと現れ、鈍ら剣を引き抜いた程度で王を名乗った。まあ、本当の出自は違うらしいが。

 

現実問題そんな奴を王と受け入れる奴の方がおかしいものだが。

 

しかし、異を唱えた過去の自分も含めた者達は敗北し、その口を命ごと閉じた。

 

まさに戦争時代。勝利こそが全て。

 

時代だなと改めて思う。

 

であれば、こちらもそのやり方にならうだけだ。

 

命までは取る気はない。

 

殺すなど簡単すぎる。

 

強さというものは、加減されて初めて実感するものだ。

 

誇りの為ならば死を選ぶと豪語するような蛮族どもを殺さずに、その鼻っ柱を折る事こそ真の強者。

 

 

「賢い王は進んで戦などしない」

 

 

義理の父の言葉だ。

それに習うのならば、今の俺は愚かなのだろう。

 

だが――

 

 

「戦う覚悟は必要だ」

 

 

それもまた義父の言葉である。

 

ソレが、結界を破壊し城の壁を破壊する。

 

その破壊音に騎士達が戸惑いを見せている間に、ソレは来た。

 

ソレは、空間を歪曲させながら俺の手に吸い寄せられるように飛来する。

 

その柄を握りしめる。

 

王の、冷めた表情に熱が灯る。

 

ニヤリと笑う。

 

悪役(ヴィラン)”という立ち位置も悪くは無い。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

とある研究所の一室。

 

複雑怪奇な機械に囲まれたその中で、様々な光の線と点で組みあがった立体図形が空中に浮いている。

 

幾何学模様が折り重なったようなそれは、見るも美しく、まるで宇宙のようにも見える。

 

それは明滅を繰り返しており、その様は生物の脈動のようでもあった。

 

それを、囲むように見ている人物が二名。

 

二人とも成人している男性である。

 

 

 

「それで? 彼のご帰還と同時に、システムを乗っ取りかけた異世界からの犯罪プログラムがこいつか?」

 

「ああ、しかし、これは……ビジョンやウルトロンと同じ。同じだけど少し違う。思考回路は彼らよりもずっと人間的だ。成長した人工知能と言うより、感情をもった人間がそのままAIになったって感じだ」

 

「それはまた……別の世界でサーファーに転職して帰って来たと思ったら、今度はまたとんでもない土産物を持ち帰ったもんだ」

 

「今回のマルチバース渡航実験は、彼の意識のみの試みだった。アストラル体とやらで世界を覗くだけだったはずだ。以前は彼の体感時間に異常が生じていた。やっぱりまだまだ不明点は多い」

 

「まあ、まだまだマルチバース理論は解明中。何が起こっても不思議じゃないさ」

 

「彼のような前例がなければ僕も研究する気にもならなかったろうね……危険すぎる」

 

「大事な大事な彼が元の世界に帰る為さ。彼がこの地球を守ることに協力するのも、元の世界へ帰還する手伝いをするという約束の為だろう? 今更だよ。僕たちはマッドサイエンティストさ。突き進むしかない。何、ウルトロンの時とは違う。この実験の許可は出てるから大丈夫さ」

 

「ああ、わかってる。ただその……少し恐ろしいと思ってしまっただけさ」

 

 

 

2人はそれを囲みながら、感嘆の息を漏らす。

 

 

『人の頭を無断で覗くとは、度し難いぞ人間』

 

 

そんな中、いるはずのない女性の声が響く。

その声に合わせるように、2人が囲む光の図形が明滅している。

 

通常であれば驚くべき事態だが、渦中の二人はいたって冷静だった。

 

 

「新しい情報をもらえたぞ。彼女、少なくとも人間ではないみたいだ」

 

「ああ、そりゃあそうだろうさ。見た目からして人間じゃない」

 

 

『その軽口、癪に障る! 良いから拘束を解け!!』

 

 

そのような異常事態にも関わらず。二人の男性は、軽口を叩き合い、それに女性の声が怒りを示す。

 

その声を聴き、しゃれたヒゲを蓄えた男性がそれに答える。

 

 

「それは出来ない相談だ。以前君のような存在に平和維持をプログラムした時、人間を滅ぼすという選択を取られてしまってね」

 

『それは、そうだろう、この星において、もっとも平和を乱すのが人間だ』

 

「おっと、その返しは予想していなかった。耳が痛い。まあ、そんなわけで、僕も少しは慎重になったのさ。出自も不明な君を自由にすることは出来ない、事実、君は我々のシステムに侵入し、ハッキングをかけた」

 

『私にお前達を害する意思はない。この世界の事を調べたかっただけだ。()()()()()なるものも、意図したわけではない。この、()()()()とやらに変質した私では、この世界の事を調べる術がそれしか無かったからやっただけだ』

 

「待ってくれ、変質したって事は、君は元々別の存在だったって事かい? 少なくとも肉体を持っていた?」

 

もう一人の眼鏡をかけた。どこか野暮ったい風袋の男性が問う。

 

『その通りだ。この世界に来る時私の肉体は通れなかった。だから捨てたのだ。今の存在になったのも偶然だ。私の意図したものでは無い』

 

「肉体を捨ててまでこの世界に来たかったのか? そりゃまたなんでだ? この世界を支配してやるとでも言うつもりか? それとも、この世界の情報を元の世界に流してこの星を滅ぼすべきかどうか見定めるみたいなやつか?」

 

2人は目いっぱい警戒を示しながら、その答えを待つ。

 

『あ奴と離れるわけにはいかなかったからだ』

 

そんな、予想外の回答に二人の思考が一瞬止まる。

 

 

「あ~……なんだって?」

 

 

『あ奴は私のものだ。あ奴には私が必要だ。だから私はここに来た』

 

 

「「……」」

 

 

『なんだその反応は、何かおかしい事でも言ったか?』

 

しばらく見つめる二人に、女性が声をかける。

その声色から怪訝な表情をしているであろう事が伝わって来る。

 

対する二人は、彼女を無視して、頭を抱えながら二人だけで話し始めた。

 

 

「なあ、トニー。やっぱり彼は君の弟子だったって事だ。余計な技術を与えてしまった……」

 

「待て、ブルース。確かに僕は色々とノウハウを教えはしたが、コッチに関しては、才能は全くなかった。無さ過ぎて途中で投げ出したくらいだ。ここまで重いのをひっかけてくるなんて予想外だよ」

 

「むしろ投げ出したからこうなったんだろう? きっと中途半端に君の真似をしたからだよ! ()()()()()()()()。その結果がこれだ。君の教育の賜物(責任)だよこれは……」

 

「おい、僕のせいにするな、ペッパーはあいつを弟か息子のように思ってるんだ。異世界で昔の僕みたいに釣り三昧で遊んでたなんて知ったら僕が怒られるんだぞ?」

 

『釣り三昧? なんの話をしている?』

 

女性の声に二人は、彼女そのものである幾何学模様を見た後、踵を返す。

 

「あーなんでもないよ。こちらの話だ。じゃあブルース。とりあえず僕は彼の様子を見て来るよ。そろそろ起きる頃だろう。異世界のアスガルドには一夫多妻制があるのか確かめなくちゃならない」

 

「え? いや、だめだ待ってくれ! 一人だけずるいぞ!」

 

「生物有機化学は僕の分野じゃない。君の専門だ」

 

「ちょっと!」

 

眼鏡の男性、ブルース・バナーの静止も聞かず、洒落たヒゲの男性、トニー・スタークはこの部屋を去った。

 

「あー……」

 

頭を抱えるブルースは、意識そのものを図形化した映像に声をかける。

 

「ボクも行くよ。君の事を彼に尋ねないといけないし。君の器についても相談があるからね」

 

その言葉の後、ブルースも逃げるように部屋を立ち去っていく。

 

『待て! このまま私を放っていくな! あ奴の所へ連れていけ!! そもそもこの拘束を解け!』

 

女性の声が響くが、ブルースはその静止を聞かず。ラボを後にした。

 

シュインと、エアロックの音が寂し気に響く。

 

 

『……やはり人間は碌なものではない……!』

 

 

女性の声が静かなラボに響き渡った。

 

 

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