世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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すみません。
最終編集前の話を投降してしまっておりまして。
一部この先の話に関わる部分を編集しました。

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ベリル・ガット

あの男が死んだという噂が流れていた。

 

だが、そんなものを信用は出来ない。

 

対峙して分かることもあるのだ。

 

あの男は、そう簡単には死にはしない。

 

ああいう手合いは大一番の前に死ぬということは無い。

 

あの男が死ぬときは、それこそブリテンが滅ぶ時か。

あるいはその後に復讐を果たして汎人類史を滅ぼした辺りだろうと彼は思う。

 

それは魔女の末裔故の洞察力か。

 

あの男の体を拷問と言う形でじっくり味わったからか。

 

兎に角そういう確信があった。

 

だが生きているとわかっているからこそ行動しなければならない。

 

あの男に、カルデアにちょっかいを出されるのは困るのだ。

 

彼女が何の罪も持たずに、綺麗(不細工)なままでいてもらうには、あの男はあまりにも邪魔だ。

 

この世界を滅ぼす侵略者では無く、正義のミカタとして、モルガンという悪を殺して妖精國を救う救世主でいてもらわないと困るのだ。

 

今となっては追われる身だが、モルガンはこちらを舐めてかかってる。

 

発する言葉が嘘か真か。

そんなモノがわかる程度で相手を理解した気になってるコミュ症程度に捕らえられるほど間抜けじゃ無い。

 

それにモルガンはもう予言の子の相手で手一杯だろう。

 

夫という立場は失ったが、今となってはむしろ邪魔だったし、幸い風はまだ吹いている。

 

グロスターで怪しい動きがあったという情報が入った。

 

そして、モルガンが1人の人間を幽閉したらしいという情報もだ。

 

本当はお優しい女王様。

召喚してやった慈悲なのだろうが。

わざわざ蘇生させるのも迂闊な奴だとは思っていた。

 

(しかしまさか、娘から辿って親まで懐柔するとは、やるじゃ無いか旦那)

 

内心でほくそ笑みながらも、体の痛みに余裕がない事を自覚する。

 

あのお嬢様の暴走のおかげで、正義の味方のアイツらにモース人間をけしかけることが出来たが結局失敗してしまった。

 

代わりに受けたのはモース毒。

やる側がやられる側になるとは、全くもって笑えない。

 

笑えないが、まだ終わりじゃ無い。

普通の人間だったら、アイツのようにお陀仏だが、この身体ならまだ耐えられる。

 

この夥しいモース毒を消し切ってしまえばまだどうにか回復できる。

 

だがそこらの妖精じゃ全く足りない。

何匹かに触れてモース毒を移してやったが

 

この体から出ていく容量が足りなさすぎる。

かと言って数を消化してしまうと見つかってしまう。

 

だから活きの良い奴が必要だった。

 

並大抵の体じゃない、活きの良い獲物。

 

思い浮かぶ相手など1人しかいない。

 

ニヤリと、笑みが漏れてしまう。

 

趣味と実益を兼ねると思うと、やる気が出るものだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

城にさえ入ってしまえば見つけるのは容易だった。

 

 

牙の氏族の見張り番が2匹。

女王騎士ではない時点で、モルガンでは無い。

中にいるであろうムリアンと目的の人物に悟られないよう、見張りの2人を静かに殺す。

 

流石は牙の氏族最強の肉体だ。

撫でるだけで、2匹の妖精の上半身が吹き飛んだ。

 

今や砕かれているが、蝋で固められた後がある。

 

モルガンなりの気遣い。

大半の妖精は気付けもしないだろうが中の奴を守るためだというのは明白だ。

 

今頃は利用されているであろう女王の娘を頭によぎらせながら、ドアの様子を伺う。

 

自分とて魔女の末裔。

 

中の様子をある程度魔術で感知する事は可能だ。

 

中には2人。

 

妖精らしい覚えのある魔力持ちが1匹と、魔術回路などカケラもない。魔力も何もない人間が1人。

 

確信を得た事でニヤリと笑いが溢れる。

 

グロスターであったならばどうにもならなかったが、ここはキャメロット。

大人しく引きこもっておけば良かったのになと、内心でほくそ笑む。

 

グロスターの領主、ムリアン。

こちらを見て嫌悪感を露わにしていたのは、覚えている。

これと言って気にしてもいないしわざわざ殺しに行くほどの理由は無いが、

まあ邪魔ならば殺す理由には十分である。

 

 

あえて爪ではなく、剣にしたのは遊び心だ。

どうせなら、体いっぱいに溜まったモース毒の全てを彼に浴びせようと考えたから。

 

迂闊にも扉へ寄ってくる巨大な魔力を感知しながらその剣を扉越しに突き刺した。

 

 

 

 

手応えはあった。

 

 

剣を引き抜く。

しっかりと、その刀身は血に塗れていた。

 

 

開け放てば横たわる(ムリアン)が1匹。

 

そして部屋のベッドの脇には無様に這いつくばっている件の男がいた。

 

成る程、例の狂言回しはそこそこ仕事を果たしたらしい。

見ただけで分かるほどに衰弱している。

立ち上がるのすら困難な身体。

 

その割に、怒りをもって睨みつける眼光は並の人間なら身震いすらする程だ。

 

 

生の人間というのはやはり良いモノだ。

 

心の底からの怒りを示すあの男の目の前で、大事なモノを壊してやったら相当に気分が良いだろうが、まあ遊ぶ時間は無い。

 

自分の身体もそこそこ限界が来ている。

 

だからとっとと仕事を済ましてしまおう。

 

この先デートが待っているのだから。

 

体調は万全にしなければならない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「見てくれよ旦那。やらかしちまってスーツが汚れちまったよ」

 

両手を広げ、その体を見せつける。

ウッドワスと瓜二つの姿を持つベリル・ガット。

 

確かに以前拷問を受けた時よりも、体はボロボロ。

よく見れば黒いモヤなようなものが漂っている。

 

 

「モルガンに内緒で人間にモース毒を移す実験をしていたんだがな……? カルデアの連中にけしかけたらむしろ俺がその毒を受けちまった。全くマヌケだよな?」

 

モース人間。

トールは、ニューダーリントンのあのモヤ人間を思い出す。

 

トールの心は怒りに染まっていた。

それはベリルに対してのものでもあるし、彼女を巻き込んでしまった自分自身に対するものでもある。

 

怒りのままに()()()()()()()()()()()()()、全力でベリルを睨みつける。

 

そんな中、トールが漏らしたのは嘲笑だった。

 

「……ハッ、本当マヌケだよ。そのままカルデアの連中を皆殺しにしてくれればお互いに満遍なくやりあえたのにな……」

 

死に体とは思えないトールの軽口に、ベリルの笑みはさらに深くなる。

 

「ああ、本当にな。お互い共通の敵を持ってるってのに、肩を並べられないのは残念なもんだ」

 

肩をすくめて見せるベリルの態度は、モース毒を浴びているとは思えない程に余裕だった。

 

「俺とお前が肩を並べる? 思っても無いような事を言うなよ。そういうシュミじゃ無いだろ?」

 

「……ああ、アンタは確かにお気に入りだがそういう意味じゃ無いのは確かだ」

 

「……」

 

「なんだ、そろそろ軽口も尽きちまったか?」

 

「――いや、流石にな。こんな身体でイキっても格好悪いって思っただけだ……」

 

「なんだ。期待してたよりもつまらないぜ旦那」

 

言いながらゆっくりとトールに近づいて行く。

 

「小粋なトークも尽きたんなら、これ以上引き伸ばす意味も無いな……」

 

酷くつまらなさそうな声色に変わったと思えば。

這いつくばり、睨め付けるしか無いトールにゆっくりと迫って行く。その腕が届く間合いへと。

 

もうトールに出来ることはない。

奇策はない。兵器のようなものもない。

 

だが、トールは目を逸らさない。

むしろここに来てその眼光がより鋭くなり、闘気は極限まで上がっていく。

 

やってみろと。

遠慮でも、油断でもしようものなら命すら消費して殺してやると睨みつける。

 

その眼力は本物だ。牙の妖精になったからこその本能でその危険性を感じ取る。

見るからに死に体だが、えも言えぬ危険性を感じ取る。

虚勢とは思えぬ迫力に油断はできない。

 

だからこそベリルは力を込めた。

 

腕の先。

肉など簡単に削ぎ落とし、容易く貫くことができるその手を貫手の形に変えてさらに殺意を高めて行く。

 

モース毒を移すだけならば触れるだけで充分な所を今度は腹ではなく胸を突き刺してやろうと腕を構える。

 

その刺突を必殺のものとする為、力を込め、魔力を込め、関節を活かし体全体のバネを用いる。

 

正に必殺。

 

余波でさえその肉体を破壊しかねない程の刺突。そこにモース毒まで加わればどうしようもない。

 

動かない相手であれば尚更だ。

 

その必殺の刺突は確かに、ベリルの意思でもって確実に繰り出され――

 

 

 

 

――貫いたのは、ベリル自身の胸だった。

 

 

 

 

「ガ――ッ? ア……?」

 

 

 

気づいた時には遅かった。

刺突を繰り出したその瞬間、トールを守るように光の輪が現れた。

 

ソレは全てを防ぐ盾ではなく、空間を貫き全てを通す次元の穴。

 

見覚えの無い黒い獣の後ろ姿を見た時には全てが遅い。

ベリルには見覚えはなくとも理解はできる。自分の背中だ。

 

いかな牙の氏族最強の体とて、全力で繰り出した攻撃を押し留めるには脳の伝達速度は遅すぎる。

 

目の前には自分自身で貫いた背中。

胸元を見ればその腕の先が生えていた。

 

ソレはどこからどう見ても、次元を繋ぎ空間を繋ぐ超技術。

ベリルの記憶にあるもので言えば一致するのはモルガンの水鏡だ。

 

「バ、ん……ダ」

 

声にならない声を出す。

混乱の中、状況を整理している間に、その光の輪が小さくなっていきその輪が閉じて行く。

ソレは、言うなれば次元切断。

 

その輪を通ったままの腕が閉じていく光の輪に合わせて切断される。

更なる追い打ち。

 

切断された事によって、腕を引き抜くことも叶わず。

腕を失ったことにより体の重心がずれ、姿勢を保つ事もできず。

 

モース毒によって弱りきった体はその場で倒れ伏す。

 

仰向けに倒れていくベリルが視界に捕らえたのは、こちらを一切気にすることなく、無様にも匍匐前進で進んでいくトールだ。

 

今の現象に一切の疑問を持っていないように見えるあたり、彼の知る現象なのだろう。

 

その前進先はムリアンだ。

先ほど見た時は仰向けに倒れていたが、いつの間にかうつ伏せになっていて。

2つの輪が繋がった指輪をつけた手をこちらに向けていた。

 

先ほどの現象は彼女によるものだと理解する。

剣による傷もあるだろうに。

ソレでも動こうとしたのはやはり彼への――

 

 

――こいつも、女に守られるクチか

 

 

思い浮かんだのはその程度の感想だった。

 

牙の氏族最強の腕をその身で受けたのだ。

モース毒に侵された体では、もはや動くこともできず。

 

男はひたすらに這いつくばりながら進んでいて、そんな男が辿り着くのを願っているように、女は男を見つめている。

完全な2人の世界。

こちらを一切気にした様子は無い。

 

 

――ツれないじゃないか

 

 

悪くはなかった。

彼との薄っぺらい会話劇は。

 

お互いに何の意味もない会話。

お互いの真意を図るためのものではなく。

本当に意味のない会話。

 

そして拷問時の短くも楽しかったやり取り。

 

それだけでも分かることもある。

 

あの男の命への執着。

それは、自分の命では無く他人の命。

 

愛した者達の命。

 

世界であれ、神であれ、人間なんて当然。命なんていずれ無くなっちまうってのに。

 

そんなものに縋って、みっともなく駆けずり回って。

クソダサいったりゃありゃしない。

 

そういう奴はロクな死に方しないってのに。ここまで来ても生き残っちまって。

 

神様に、運命にさえ文句を垂れて。

 

それを変えるどころか運命ごと踏み潰そうと足掻き回って。

 

そんな愛の為に戦う戦士みたいな成して、知り合い以外の命には無頓着。

 

エゴだらけのクソ野郎。

 

 

 

――よく言うだろ? 儚いからこそ美しいってさ。

 

 

 

元々滅ぶ予定だった憐れな世界。汎人類史とのイデオロギーをかけて戦えるほど立派な世界ではない。

人理を賭けて戦うどころか。逆に気を使われて滅びる前にせめて救ってやる。

なんて偽善にもなりゃしないクソみたいな善意を向けられるほどに無様な世界だ。

 

 

この世界は奴らの物語を彩るスパイス程度の役割しかない。

 

 

――それをまあ必死こいちまって。

 

 

 

――なんだか笑えてきちまったな

 

 

もう間も無く命は尽きると言うのに、これだけ思考しながらもまだムリアンの元にたどり着けないほど衰弱し、這いつくばっている姿が本当に滑稽で笑えてしまった。

 

 

動ける余裕は無い。

どんどんと意識が薄まっていくのを感じ取る。

 

カルデアの時も、モルガンが世界を書き換えた時も、死ぬ瞬間というものを意識することは無かった。

 

薄れていく意識の中。

痛みとかゆみに苛まれる中。

これが死かと、他人事のように思いながら。

 

ベリル・ガットは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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