世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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前話ですが修正前のものを投降してしまったのでほんの最期の方だけですがそちら修正しておりまして。
その修正後のお話を元にしております。



マイティ――

「ムリアン! 大丈夫か!?」

 

横向きに倒れているムリアンに声を掛ける。

 

ベリルとの会話中。

目の端で彼女がスリングリングを取り付けたのが見えていた。

彼女の企みを察知した。

こちらに注意を引くために、殺気から会話から目線から。何から何まで利用した。

 

目論見通り、ゲートウェイによる次元をつなげる空間がベリルの攻撃を自滅に誘いこませてくれた。

 

死亡確認などどうでも良かった。

 

ベリルが倒れたことなど眼もくれず。また倒れこんでしまった彼女の元へ這いつくばっていく。

 

 

「しっかりしてくれ! ムリアン!?」

 

 

彼女へと触れる位置にどうにか辿り着き、力を込めて上半身を上げ、彼女の首の後ろに手を回す。

力が入っていない。体温と息は感じるが、目を開けていない。

 

トールの脳裏に死という言葉が浮かんでしまう。

 

「ごめん」

 

自分の迂闊な行動が無ければ、そもそもここに来る事も無かった。

 

「ごめん……っ!」

 

もっと言えば。ウッドワスの復讐を考えなければこんな事にはならなかった。

 

様々な要因を引きずりながら謝罪の言葉を繰り返す。

 

何度も声を掛けているうちにやがて、苦しげに息を吐きながら、ムリアンが目を開いた。

 

「だいじょうぶ、ですよ。ロットさん?」

 

目を開けたムリアンは、目の前にあるトールの顔を確認すると、笑顔を向ける。

 

「ああ。良かった! よかった! むりあん……!」

 

「……本当貴方は、あの時よりもずっと泣き虫になってしまって」

 

震えた声を出すトールの頬にムリアンは手を当て、親指で目尻を擦る。

 

――虫同士でお揃いです。

 

それは、トールに無事である事を告げる為の一つのジョーク。

 

「いいから、喋らなくて良いから……!」

 

そんな軽口もトールの心配を拭うには至らない。

 

そんなトールに、構うことなくムリアンは言葉を続ける。

 

「ごめん、なさい……ロットさん。本当は貴方をグロスターに誘拐しようと思ってました……」

 

「そんな……」

 

「これはその罰なんです」

 

「そんなの……」

 

「ごめんなさい。ロットさん……」

 

息も絶え絶えに、謝罪するムリアンに

 

「そんなの、気にしなくて良い。俺の為にやってくれた事なんだから」

 

トールは涙を流したまま、笑顔を向ける。

謝罪ばかりではいけないと教えてくれたのは誰だったのか。

今の彼女の為になる言葉はなんだろうかと。

精一杯考え。

 

「ありがとうムリアン」

 

出てきたのは感謝の言葉だった。

 

「ええ、ありがとうございます。ロットさん」

 

トールの感謝に笑顔を返すムリアン。

その笑顔は、妖精國にはほぼ存在しない花のようでな笑顔であり。

こんな時でも見惚れさせられるような笑顔だった。

 

 

 

 

「これを――」

 

そう言ってムリアンが渡したのは首飾り。

 

「これ……」

 

「あなたの事について女王陛下と少しお話したんです」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

『元から貴方の信用など必要ありません。私こそ貴方を信用していないのですから。兎に角彼は私が預かります女王陛下』

 

『私の許可なくこのキャメロットに入れると思うのか? グロスターを出ればお前など無力な翅虫でしか無いというのに』

 

『別にあなたの許可なんて必要ありません。今この瞬間も、彼の元に行くことが出来ますから』

 

『その指輪――』

 

『ええ、彼にいただいたものです。貴方の水鏡のように次元を繫ぐことができる術も習得済みです。おや、まさか貴方はもらっていないのですか?』

 

『——その術の事は既に聞いている。水鏡がある私には不要なものだ』

 

『あらそうですか。貰わなかったのですね。成程』

 

『何が言いたい?』

 

『いいえ、他意はありません。 まあ良いでしょう。貴方に声をかけたのは、()()()さんがかつてあなたの夫になる”予定”だった義理からというだけですので、こちらで勝手に運んでおきます』

 

『——やってみろムリアン。その魔術の理論はある程度は把握している。すでに()()()の部屋の空間は対魔術防御によって歪ませている。熟練の術者ならば兎も角、貴様に次元の穴をあける事ができるか?』

 

『——ッ! ええ、直接は出来ないようですが、やりようはいくらでもあります! 必ずロットさんは私が預かりますから』

 

『――貴様がトールを連れていく前に直接貴様をすり潰しても良いのだぞ?』

 

『そんな事をすればロットさんに嫌われますよ?』

 

『安心するが良い。トールには貴様はこの戦争の折、無様にモース辺りに殺されたと伝えておく』

 

『——ッ! 大体貴方、何故ロットさんを閉じ込めておくんです!? ロットさんの傷を治した様子もないですし! このまま寝たきりにして飾りにでもする気ですか!?』

 

『トールは魔術の効きが弱い特殊な身体だ。肉体の自然回復に頼るしかない。トール自身の体に宿る雷があるならば別だがな。そんなことも知らないのか?』

 

『ええ! 貴方のようにロットさんに散々怪我をさせる経験が無いものですから! 昔から乱暴でしたが、今はガサツさも加わってますね!』

 

『貴様――』

 

『…………ッ!!』

 

『————ッ!!』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「彼女と色々と()()()()をしたんです。その時にあなたの話に」

 

「まさか……」

 

「陛下があなた自身の雷なら傷が治るというような事を漏らしておりましたので」

 

ムリアンは、笑顔を保ったままその宝石を握る。

 

それはかつてムリアンの為にトネリコが作った首飾りにロットが力を込めた物。

言うなれば防犯装置。

 

ムリアンは、この首飾りをロットの形見として取っておいていた。

それは女王歴へと暦が変わり、存在が変質しても尚変わらず。

 

出現した時から握っていたそれが何かはムリアン自身わかっていなかった。

どういった効果があるかは理解していたが、心の奥底に使ってはならないという思いがあった。

それによる拒否感は、牙の氏族の虐殺にあって、最期まで使わせることは無かった。

 

 

トールの特性。

雷そのものへと変質する事のできるトールの肉体は、雷を自由に操るだけでなく、その雷を肉体に変換してありとあらゆる傷を治す事ができる。

 

だが、世界が変われば雷の種類も変わる。とある世界では世界による電気エネルギーの違いを味が違うと表現した男もいるが。

 

その中でもトールを構成する雷はかなり特殊な物。

自由に操れる電気エネルギーも世界によって制限が違ってくる。

 

元々他世界の電気エネルギーでも回復可能だったその身体も、幾重もの世界移動によって変質していき、一瞬で傷を治すようなレベルの電気エネルギーはこの妖精國には存在しなかった。

 

だが、このムリアンの御守りから放出された電気エネルギーは元々トールの内部に貯まっていた物だ。

 

彼女が握ったと同時にプラズマがその首飾りが放出される。

 

その電気エネルギーがトールの身体へと返還されていく。

 

それと同時にトールの傷は消えていき体に熱が籠っていく。

かつての力を取り戻せる程では無い。

 

だが、その雷は確かにトールに活力を取り戻す。

 

 

「ああ、良かった……」

 

 

眼に見えて血色が良くなっていくトールを見て、ムリアンは安堵の息を吐く。

 

「ムリアン?」

 

息を吐きながら。瞼をゆっくりと落とすムリアン。

いきなりだった。

あまりにもあっさりだった。

その突然の流れにトールは戸惑いながら声をかける。

 

 

「おい、ムリアン? おい! 待ってくれ! まだ俺は君に礼も言ってないのに……!」

 

 

いきなりすぎる。

身体はまだ暖かいが、息は抱えているこの距離でもわからない程に小さい。

 

頬を撫でる。

 

「ムリアン」

 

身体を揺らす。

 

「ムリアン!」

 

頬を叩く。

 

「寝ちゃだめだ! ムリアン!」

 

――その時だった。

 

ムリアンの眼が、パチリと開いた。

 

「ムリアン、良か――」

 

「もう、いいから眠らせてください!」

 

「……え?」

 

眼を開け、そう大きな声を出すムリアンは先ほどの弱弱しい状態とは一転していた。

 

「いや、でもこんなに弱ってるのに、今寝たらこのまま――」

 

「物語じゃないんですから、あんなお決まりの死に方。本当にあるわけないでしょう」

 

あたふたと言い訳するトールの口に指をあて静かにするよう促すと、ムリアンは自身の腹部に手を当てた。

 

途端、光が灯る。すると、服の下から溢れていた血が止まる。

 

 

「ほら、これで大丈夫。これでも私は上級妖精ですよ?。自分の傷程度なら治せます……」

 

そんなムリアンの言葉に安堵の息を吐きながらも。

弱々しいままのムリアンに、心配する様子を見せる。

 

「でも。まだ全然力が入ってない……」

 

「少し血を流しすぎただけですよ。少し休んだら立ち上がれますから。さっきの貴方よりずっとマシです」

 

言いながらムリアンは呼吸を整え、トールの眠っていたベッドに指を向ける。

 

「ちょうど良いベッドもありますし、運んでくださいますか?」

 

「あ、ああ……」

 

軽口のムリアンに安心したトールは彼女をベッドまで運び、彼女を寝かせる。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「ええ、ふふ、貴方の匂いがしますね」

 

「——ッ やめてくれ。俺そういう冗談は言う側のテクニックしか習っていないんだ」

 

「ハ? テクニック? なんですかそれ? どこで誰に教わって誰に使ったんですか? 大問題ですよ?」

 

突然に負のオーラを出すムリアンに狼狽するトール。

 

「……い、いや嘘、冗談」

 

「……まあ良いでしょう」

 

オーラは消え、先ほどまでのムリアンに戻る。

 

「行ってください。くやしいですが、貴方の予感が本当なら、ここにいてはいけません、貴方は貴方のやるべき事をしてください――」

 

それは、ムリアンからの激励の言葉。

 

「安心してください……少し眠ったら、貴方の所に向かいますから……寝ている内にブリテンが滅んでいた。なんて嫌ですから」

 

「……ああ」

 

「頼みましたよ……ロット、さん……もし、ブリテンの滅びを回避……出来、たら、その時……は……」

 

言い切ることも無く、彼女は眼を瞑ってしまった。

 

彼女の頬に手を当てる。暖かい。

呼吸も落ち着いている。

 

本当に平気らしい。

 

できるだけ静かに休んで欲しい。

 

そう願いながら、彼女に毛布を掛け、安静を願いながら頭を撫でる。

 

ここも安全では無いだろうが、無理やり一緒に連れて行くよりかはマシだろう。

 

後はそう、必要なのは――

 

 

――騒音対策だけだ。

 

 

ベッド脇のサイドテーブル。

()()()()()()()()

 

そこそこ頑丈なそれをあっさりと貫通したと思えば、トールはそれに腕を刺したまま持ち上げ、それを真後ろに向かって思い切り振り切った。

 

 

「Ga――ッ!」

 

 

響いたのは、家具が砕ける音と、苦し気な呻き声だった。

 

 

サイドテーブルは轟音を上げながらトールに襲い掛かろうとしていた黒い狼に直撃し、トールの手から離れたそれと一緒に開け放たれたドアの向こう側へと吹き飛んでいく。

 

黒い狼は部屋から追い出され、廊下を数度バウンドした後、数メートル程地面に引きずられていった。

 

トールは音を経てないようにゆっくりと部屋を後にし、その扉を閉じる。

 

長い城の廊下に出たところで、視線の先には吹き飛んでいった黒い狼。ベリル・ガット。

 

「Fuuuuuu——Huuuuuuuuu——」

 

片膝を付き、もはや人間の面影もなく獣特有の息を吐きながらゆっくりと立ち上がろうとするベリル。

あの状態で生きている事が不思議だったが、悪影響はあったようだ。まだ正気というわけでもないらしい。

 

トールはその隙をつくように、彼に掌を向け力を込める。

 

 

「まだ調子は出ないか……」

 

 

そう都合よく事は運ばないらしい。

右手を横に掲げる。

 

「……これもダメ」

 

独りごちる。

そもそも死にかけだったのだ。

立ち上がって動けるようになっただけでも儲けもの。

 

足元にある剣を拾いあげた。

 

ベリルを見る。

ゲートウェイによって貫かれた胸の穴は塞がれており、切断された腕は元に戻っている。

かと思えば、その場で腕が腐り落ち、また再生していく。

 

モースによる毒は更に進行しているらしい。

それでも死なないのはウッドワスから奪った肉体故か。

今の手持ちの武器や力ではあの再生力を前に意味はないだろう。

逃げれば部屋にいるムリアンに手を出されるかもしれない。

 

 

取れる選択肢は少ない。

 

奴の再生の限界が来るのを待つか。

 

どうにかして奴を叩きのめすか。

 

 

どちらも行動自体は変わらない。

 

戦うのみである。

 

 

「Fuuuuuu——Guaaaaaaaa——っ!!!」

 

 

獣そのものの咆哮を上げながら、四足歩行で突進してくる狼。

その四肢を生かすわけでもなく、喰い殺そうとその口を開く。

 

トールにとって、目の前の敵は触れる事すら許されない相手。

状況的には圧倒的不利ではあるが、当然ながらそんな単調な攻撃を喰らうはずも無い。

 

最低限の動きで身体を横にずらし、すれ違いざまに手元の剣で横から顔面を切りつけた。

 

トールは本来剣士では無い。

 

だが、こと戦いにおいてトールの生まれた異世界の者達はこの世界においても類を見ない程の超人達だ。

闘いに対する根本的なセンスからして一線を画すものである。

加えて不死身の怪物達と10年間全く休むことなく戦い続け、異世界に渡り様々な戦闘を経験し、果てはアスガルド人として様々な異星人との戦争を経験したトールの技術はあくまで彼の中で不慣れというだけで、この妖精國どころか汎人類史含め様々な英霊や剣士をかき集めても見劣りしないどころでは無い程の技術を持っている。

 

 

だが、それも彼の身体が万全であった場合のみである。

 

 

ベリルの頭部上面を切り落とすはずその剣は、折れるどころか砕け散った。

剣閃の圧力による衝撃は伝わったようで、こん棒で殴りつけたような鈍い音が響き渡るが、傷すらつくことも無い。

結果的に剣による衝撃がベリルの突進力と混ざり合い、新たな運動エネルギーへと変換され、ベリル自身をもんどり打たせる。

 

衝撃によってそれたベリルの顔面は、一度身体ごと床に激突し、大きくバウンドする。

先ほどのようにそのまま身体が投げ出されること無く、空中で反転。ベリルは見事に着地してみせた。

 

あるいは剣が、概念武装や宝具の類であればこれで終わったであろうその一閃も、殆どダメージを与えることなく終わってしまった。

 

「……フゥ、ダメか」

 

ムリアンの御守りによって回復はしたものの全快では無く。

トールにとってはなんて事の無い動きでも息を乱す程度の疲れは見せてしまっていた。

 

 

「Haaaa——……アーあ」

 

 

ベリルの獣のような呼吸が一転。人間のそれに変化していく。

頭を押さえながらフルフルと何度か横に振るその動作は、眠気を覚まそうとする人間のそれだった。

 

 

「感謝するぜ旦那。頭に呪いが回ってきやがってたが、さっきの一撃が気付けになった」

 

意識を取り戻したのか。ベリルはにやりと口角を上げる。

 

「全く。まさかあんな隠し玉があるとはなぁ。わかっちゃいたが妖精ってのはとんでもないな」

 

ゲートウェイをムリアンの妖精による能力と勘違いしているようだが、訂正する気にはならなかった。

 

「感謝してくれてるなら、ここからとっとと去ってどっかで野垂れ死んでいて欲しいんだけど……」

 

お互いに息は粗い。

 

「そういう分けにはいかないな。俺には生きる理由がある。花嫁を迎えにいかなくちゃならないんだよ旦那」

 

「ならいちいち野郎に身体を擦り付けようとしてないで、とっとと花嫁の所に行けよ」

 

「そうはいかないだろ? 身だしなみは整えていかなきゃな」

 

軽口は止まらない。

 

「ここまで拗れたんだ。こうなったら最後まで付き合ってもらうぜ旦那?」

 

ベリルがトールに飛びかかろうと腰を落とす。

対するトールは足を少し広げるだけの自然体。

これが互いの戦闘態勢。

 

 

「あんまり男に迫られる趣味はないんだけどな……」

 

それが闘いの合図。

 

互いに全く万全ではない状態で。

しかし不意打ちでもない。邪魔者もいない。

 

カルデアという同じ敵を持つはずの二人の、最期の闘いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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