世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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妖精騎士

 

 

 

 

 

 

もう間もなく最終決戦が始まる。

森の討伐で予言の子と対峙したものの、実際のところは戦争活動はそれきり。

本格的な女王による予言の子の討伐はロンディニウム防衛戦程度。

 

結局のところ、予言の子は生き残り。

ほぼ全ての妖精を味方につけ。

 

このキャメロットにやって来る。

 

 

「敵軍の合流に何の妨害もしないとは。……塩を送るにも程がある」

 

それが妖精騎士ガウェインの素直な感想だった。

此度の戦争。

あまりにもお粗末だった。

負けたがっているのではないかと疑う程の采配に幾ばくかの疑問は拭えなかった。

 

そんな会話の相手は妖精騎士ランスロット。

 

「同じ兵力ならこちらの勝利は動かない。僕と君がいるかぎり」

 

そのような会話から二人の妖精騎士の会話は始まった。

 

ガウェインは気持ちの読めない女王を思いながらも、自身の犯す大罪を悟られぬように気を引き締める。

対するランスロットの気配は薄暗い。元々これと言って感情を見せる事のない彼女だが、今はどこか落ち込みを見せているようにも見える。

 

そして話はこの戦争の結末へと移行する。

 

例えこの戦に勝利したとしても、厄災は止まらず。

大厄災によって殆どの妖精が死に絶える。

 

その事実にガウェインは憤りを募らせる。

 

女王への信頼は揺るいでしまうのは当然だった。

 

だからこそ自分は彼女を裏切る事を決めた。

 

自身の街を守る為、愛するアドニスを守る為。

 

 

ランスロットは、大厄災による結末を嘆くガウェインに、牙の氏族らしからぬその態度に意外な反応を見せる。

 

モルガンに仕えているのは自身が自身である為だと、一通り伝えた上で。

ガウェインの憤りを理解できない事も。

ガウェインの考える事に対して、思考を放棄してしまってる事をランスロットは謝罪を交えながら正直に伝える。

 

そんな中会話を進めていく上で、一つランスロットから改めて話題が上がった。

 

「大厄災に関して言えば一つ。僕の友人の意見がある」

 

「友人? ソールズベリーの妖精か?」

 

「いや、彼は人間だよ」

 

「人間?」

 

「何? どこかおかしいところでもあったかい?」

 

「いや、」

 

ガウェインはランスロットが正直な所苦手である。ソレは強者ゆえの上から目線による所も大きい。

超越した目線を持つ彼女に辟易させられる事も多々あった。

そんなランスロットが友人と認める人間。

逆にそんなランスロットを友人とする人間。

一体どんな人間なのだろうか。

 

「君は会った事ないかもしれないね。妖精舞踏会で初めてあったんだ」

 

妖精舞踏会に参加できる人間。

上級妖精の、ソレもごく一部しか参加できない妖精舞踏会に参加するとは、相当なやり手なのだろう。少し興味が湧いてきた。

 

一瞬だけ、誇らしげにその友人を語るランスロットはしかし、すぐに若干の落ち込みを見せる。

この戦果の中だ。察してしまうものはあるが話題を振ったのは彼女である。

 

「そう、厄災の話だったね。彼はこう言ったんだ『そんな規模の災害を女王に委ねる事自体お門違いだ』って」

 

「ソレは――」

 

その意見はある種暴論である。

國を運営する以上、どのような災害でも為政者であれば国民を守ることを示すべきというのが普通の意見だ。

普通の人間であれば、そのような態度をとる為政者など反乱が起きて然るべきだと言うだろう。

 

だがガウェインはこの妖精國で、あるいは誰よりも責任感が強く、何かを他人任せにする事を恥じる性分でもある。

その言葉の全てを否定することはできなかった。

 

「彼は、こうも言っていた『これまでのブリテンへの貢献を思えば、この程度の圧政なんて可愛いもんだ』と『このブリテンを守り続けていた彼女がもう守る気は起きないと言うのであれば受け入れる。自分自身でどうにかする』とも」

 

ランスロットの友人の言葉が胸に刺さる。

 

 

『ブリテンへの貢献をし続けていた彼女の功績を無視して反乱を企てること自体許せない』

 

『このブリテンを守れるのは彼女だけ。予言の子どころか北のノクナレア如きでは2日と保たない』

 

『反乱軍は具体性もなく理想だけ主張してあげくやる事はブリテンを守る女王を殺そうとするだけ。戦争を引き起こすだけ起こしてその後の事をほぼ全く考えていない。自分が悪だと気づいていないブリテンで最も醜悪な存在』

 

『同じように異貌の魔術師は上部だけの救いを語ってこの世界を滅ぼすだけの侵略者。女王を殺すだけ殺して後は立ち去るなんて無責任にも程がある。騙されてる妖精が哀れでならない』

 

「な、なるほどもう良い! 参考になった!」

 

これ以上、話を聞くことは憚られた。

あまりにも耳が痛い。

ガウェインが責められているようでこれ以上聴いていられなかった。

 

「そうかい? それで……どう?」

 

ランスロットは心なしかソワソワしていた。

ソレが今の話の感想を聞きたいらしいとガウェインからは気づくことはない。

やはり会話というものは難しいと、ランスロットは思いながら自ら会話を繋げる。

 

「やる気は出たかい?」

 

「やる気?」

 

「陛下のために戦う事に迷いを抱いていたみたいだから。僕なりに色々と気を使ったつもりなんだけど」

 

「な――」

 

その事実がガウェインにとって戦慄するほどの驚愕だった。あのランスロットが気遣いなどと。

 

「確かに僕たちは負けようがないけど、万が一という事もある。迷いを抱えたまま戦うのは良い事では無いからね」

 

その気遣いが何より驚きで、そして何より辛いものだった。

彼女は自身が女王陛下を裏切る予定なのだと言う事を知りはしない。

 

その友人とやらの言葉は予言の子一同を支持するガウェインにとってあまりにも心苦しいものだったが、そんな事ランスロットが知るよしもないのだ。

彼女の初めての気遣いに、裏切りでしか応えられない事実に胸が痛くなる。

 

「そ、そうか。気遣い感謝する」

 

「……」

 

その様子にランスロットは暫しガウェインを見つめたあと内心で後悔する。

正直なところ、彼の言葉の意味をランスロット自身そこまで深くは考えていない。

ガウェインの憤りを考えないように。思考を停止させている。

だが言葉の意味は分かる為、

彼女の迷いを取り払おうと気を使ったつもりなのだが。

今のやり取りで彼女の迷いが取れたようには見えない。むしろより一層悩ませてしまっているようにも見える。

 

「……ハァ」

 

自覚のないため息だった。

当然ながらそれにはガウェインも反応せざるを得ない。

 

「一体どうした?迷いを持ったまま戦うのは危険だと言ったのはお前だぞランスロット」

 

「え――?」

 

ガウェインのその言葉にランスロットは意外そうな反応を見せる。

 

「迷ってるように見える?」

 

「色々と気が気で無いように見えるぞ。ため息をついただろう。まるで悩みを聞いて欲しいと言っているかのようだった」

 

「そうかな……うん、そうかも」

 

「先程の返礼だ。私でよければ話を聞こう……」

 

先程の例にと提案する。

せめてソレぐらいはしてやらねばならないと。

ランスロットの悩みを解消しなければと。

気持ちを整える。

 

「いや、さっき言ってた友人は予言の子達に殺されてしまったらしくてね」

 

「な――」

 

それは、正直、何て言ってやれば良いか分からなかった。殺した側の陣営に就こうとしているのだから。

 

「不思議なんだ。彼はあくまで友人。しかも人間だ。儚い命の人間。弟として、家族として、愛を与えていたわけでもない」

 

ガウェインの戸惑いに構わずランスロットは続ける。

 

「でも、その事実が酷く悲しいんだ。喪失感とでも言うのかな?胸の奥に穴が空いた感じだ」

 

 

 

 

ランスロットは、実は一度ティンタジェルに赴いていた。

 

彼に反乱軍を止めないのなら弟を殺すと言われたその時から、どうすべきかずっと迷っていた。

 

結局のところ、無理矢理連れ出そうと言う乱暴な事は出来なかった。

それは、弟に会う勇気そのものがなかったかもしれないし、弟に嫌われる事を恐れたからかもしれないし。もっと別の理由だったかもしれない。

 

そこで思いついたのが、予言の子への警告だ。

湖水地方で偶然出会った彼らに、どうにかパーシヴァルを解放してくれと頼み込んだ。

 

どうやらその目論見ははずれてしまった。

結局反乱軍は止まらなかった。

 

その折、言い訳がましくなるが、どうにか別の方法で見逃してもらえないか彼に頼み込みに噂のティンタジェルに向かったのだが。

 

そこは既に荒地になっていた。

動揺した。圧倒的な破壊の気配。

仮にここに彼がいたのであれば……

 

最初に思い浮かんだのは、一つの安心だった。

 

これで弟が殺されずに済むと、そう思ったのは確かだった。

 

だが、それ以上の喪失感がランスロットを襲ったのだ。彼が死んで済むのであればそもそもランスロットが殺していた。そうする気になれなかったのはランスロット自身どこかで、彼を慕っていたからなのか。

 

何故、頬から涙が伝うのか。

それが分からない。

 

ふと、地面を見れば、何かが埋もれている事に気付く。丸くて薄い何かだった。

それに近づく。

砂をどかして見ればそれは丸い盾だ。

真ん中に白い星。赤と青で装飾されたシンプルな丸い盾。

それは鉄でできている割にはあまりにも軽く。

鉄と形容は出来るものの、感じ取れる気配はまるでこの世に存在しない物質であるかのよう。

 

それを見た時に何かが頭を過ぎった。

 

それは酷く大切な何かの記憶だ。

だが思い出せない。

未来を見通すときの感覚でもない。

 

だがソレは決して忘れてはならない筈のもので。

思い出せないことが酷く悲しかった――

 

 

 

 

 

その時に回収した盾を背中から外す。

 

そう、この盾を見つけて以来ずっと背中に取り付けていたのだ。

 

 

「それは?」

 

「彼の持ち物。ティンタジェルにあったからね」

 

「勝手に持ち出したのか」

 

「形見代わりさ。彼なら許してくれる」

 

ガウェインにはもう、彼女にかけてやる言葉は無い。

慰めてやるなどと言う傲慢な考えを持つことは憚られた。

 

「すまない。なんと声をかけてやれば良いか……」

 

「いや、良いさ。口に出したらなんだか少し晴れた気分になった。不思議だね。話すだけでも全然違う。感謝するよガウェイン」

 

超越然とした彼女らしからぬ礼に戸惑いながらも。

頷きで返す。

 

一つ聞きたいことがあった。

 

「名前は何と言うのだ?」

 

「トールさ。人間の、男の子だよ」

 

 

それが最後の会話だ。

持ち場へと向かったランスロットを視界から外し、正門に立つ。

自身の行動を思う。

トール……どこか他人な気がしないその名前に胸が痛む……気がする。

 

ランスロット越しに聞いたこの戦争の解釈にまた心を痛める。

 

アドニスを守る。マンチェスターの住人を守る。

その為に選んだ選択肢がブリテンを裏切る事。

それを愚かだと責められている気がする。

 

マンチェスターとアドニスを守るだけならその街に滞在し、自分自身で厄災に立ち向かえば良いのにと責められている気がした。

 

マンチェスターの住民だけでも救うように女王に交渉したのかと責められている気がした。

 

最善を尽くさないまま、全ての責任を女王に擦り付けて、勝手に期待して、勝手に裏切られた気になって。挙げ句の果てに外様の人間に尽き、これ以上ない程の恩を持つ女王殺害に貢献しようとしている事の愚かさを責められている気がした。

 

ブリテンを守るという名目で妖精騎士になったと言うのに。

結局のところ、自分の周りだけを守り、それ以外を見捨てる選択肢を取った。

女王を責める権利などありはしない。

 

 

「私は……」

 

 

ここにきて迷いが生じてしまった。

 

彼らを裏切ることはできないと思いつつも。

すでに女王を裏切った身分で何を綺麗ごとをと思う自分もいる。

 

もう間もなく彼らがやってくる。

 

その時に自分はどう選択するのか。

その時になってみなければわからない。

 

黄昏の空を仰ぎ見ながら、ブリテンを思う。

美しいはずの空が曇って見える。

今の心のありようを示しているようだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

許せなかった。

 

目の前で大切な人が殺された。

 

私にいろんなものをくれた人。

 

楽しい事を教えてくれた人。

 

そして、私のサーヴァントになってくれた人。

 

モースの化け物に殺された。

 

そしてそいつは、あいつら(予言の子)の味方なのだと言う。

 

合わせ鏡から聞こえる声を思い出す。

 

彼の最期の慟哭を思い出す。

 

あの鏡に飛び込む勇気がなかった自分に怒りを示す。

 

許せない。

 

絶対に許せない。

 

無我夢中だった。

お母さまに全部伝えて。

あいつらを殺させてくれと頼み込んだ。

殺してくれとお願いした。

 

そうしたら大人しくしていろと言われてしまった。

 

――どうしてなのお母さま。このままじゃ、あいつらにブリテンを滅ぼされちゃうのに。

 

お母さまがそれに答えてくれることは無かった。

 

 

無我夢中だった。

 

【失意の庭】を持ち出して、弱点であるあの人間を取り込んでやった。

 

あの人の仇のために。

 

お母様の為に。

 

ブリテンの為に。

 

頑張った。

 

そして気づけば部屋にいた。

 

鏡は部屋に置いたはずなのにそこには無かった。

 

体も動かなかった。

 

指一つ動かない。

 

どうしてと、思っていたら目の前にお母様。

 

いつものお母様。

 

冷たい表情のお母さま。

 

夢で見た優しいあの顔は本当に夢だったのだろう。

 

いつもいつも怒られてきた事を思い出す。

 

また怒られると怖くなってくる。

 

「何故いつもお前はそうなのだ」って怒られちゃう。

 

そう思っていたら――

 

 

 

 

 

 

優しく頭を撫でられた。

 

動かない体に触れて、私の首と背中に手を回して。

 

そして抱きしめてくれた。

 

暖かい。すごく暖かい。

 

「ありがとうバーヴァン・シー」

 

――え?

 

お母様、今なんて――

 

私、勝手に庭を持ち出したのに。

 

結局、成功したのかもわからないのに。

 

言う事を聞かなかったのに。

 

私を怒らないの?

 

「私の為を思って、ブリテンの為を思って、そしてあの人の為を思って、動いたのでしょう?」

 

抱きしめられたまま、頭を優しくなでられる。

 

「そんな貴方を叱ることなど出来ません」

 

今よりも少しだけ、強く抱きしめられる。

少し苦しくなったけど、それが逆に心地良い。

 

「ありがとう。バーヴァン・シー。よくやりましたね」

 

お母さまに褒められるなんて。

 

お母さまに抱きしめられるなんて。

 

「愛しています。我が娘」

 

そんな言葉をもらえるなんて。

 

「今はゆっくりと休みなさい」

 

ああ、ありがとうお母さま。

 

なんだか体は苦しいけれど。

 

何故か体は動かないけれど。

 

凄く、凄く幸せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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