世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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お待たせしてもうしわけありません。
プライベートの方が色々忙しくなりまして。


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コメ付き評価もありがとうございます。
励みになります。


決戦②

この土壇場で妖精騎士の参戦。

ガウェインが離反し、円卓軍についた事を知っていた者は、妖精騎士ランスロットも味方についたかと期待したが、立ち位置だけで見るならば今の彼女は女王側。

 

戸惑いも大きい。

特にランスロットが真に仕えているのは誰なのかを知っている者にとっては、驚天動地と言ったところだろう。

 

ムリアンは、あちらの戸惑いを感じながら喋れないウッドワスよりも先んじて、ランスロットに声をかけた。

 

「何故貴方がここに? 妖精國で最も美しい彼女の元にいかなくてよろしいのですか?」

 

味方のようではあるが、彼女の立ち位置を思えば、本来ならば()()()側だ。

 

ありがたい参戦ではあるが、後ろからグサリではたまったものではない。

 

ムリアンに問われたランスロットは、今一度倒れ伏した男を見た。

どこか複雑そうな表情を作りながらのその行為。

 

あからさまなその視線に、ムリアンは違う意味での嫌な予感を感じ取る。

 

やがてランスロットは複雑な表情を変えぬまま。

 

 

「話は後だ」

 

 

言いながらまずは先ほど凄まじい魔力を噴き出したパーシヴァルの元へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

――正門が抜かれた。

 

 

「罪なき者のみ通るがいい、か。けど、このブリテンに罪のない妖精はいない」

 

妖精騎士ランスロットは空を行きながら1人呟く。

 

女王モルガンの慈悲を思いながら、それを踏み躙った反乱軍達に軽蔑の感情を向ける。

行動は一つ。

モルガンの慈悲を裏切った反乱軍を殲滅し、最大の裏切り者の妖精騎士ガウェインを誅する。

 

20分とかからないその作業を実行しようとしたその時、風が流れてきた。

 

 

「――何だって?」

 

 

それは、まさに今憂いた裏切りを自分自身が実行する事を望む風の声だった。

 

 

一瞬の逡巡。

しかし、いかに苦しかろうと、いかに恥だと思おうと、ランスロットには愛を示す以外の道は無い。

 

空中で静止し、しばしキャメロットを眺める。

 

その胸中に複雑な思いを巡らせる。

 

その時だった。

 

キャメロット。

ランスロットから見た中段ほどのその城の窓から、青白い光が瞬いた。

 

「――?」

 

最早ランスロットにキャメロットでやる事はもう無い。

その使命を放棄するようたった今指示されたのだから。

 

だが、いやだからこそ。

謎の発光を観察しに行く事に躊躇いは無かった。

 

その発光元の窓を、距離を置きながら空から覗く。

 

 

 

そこにいたのは、黒い獣と人間だった。

 

 

「アレは――」

 

トールだ。人間は間違いなく彼。

妖精舞踏会で出会ったどこか気になるヒト。

人間でありながら、この妖精國で確固たる信念で女王陛下を支持するも、予言の子一同に殺されたと噂がたっていた。

死んだと思っていた彼。

 

 

それが、ウッドワスと瓜二つな黒い獣に稲妻を放っていた。

 

アレは、あの雷は、神秘の類のような物にも感じるし、科学的な何かも感じ取る。

だがあれはもっと違う。科学だとか魔術だとか、そんなものは些細な差でしかないと思えてしまう程に異質な何かを感じる。もっとそう。原初に関わるような圧倒的な何かを。

 

絶対的な破壊であるそれはしかし、黒い獣を破壊する事はない。

 

「アレはなんだ? いや、知ってる。知ってるんだ……僕は、私は、アレを――」

 

頭を抑える。

心の奥底から、あるいは別のどこかから、何かが頭に流れてくる。

 

稲妻は発光を強め、範囲をどんどんと広めていく。

 

その光景を視界に収めていく内に。

段々と身体が不調を訴える。

 

(あ、ま……ずっ)

 

ランスロットは滞空を維持できなくなる事を自覚する。

最早その場にとどまる事は叶わず。

一度地上に着地する。

 

城の脇、最早誰も通る事の無いその場に、ランスロットは倒れ伏し、その意識を閉じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

それは見覚えのない光景だった。

 

 

目の前には男の死体。

アロンダイドで胸を貫かれ、仰向けに倒れ伏している。

何を考えていたのかすら定かではない、静かな表情で絶命していた。

間違いなく彼。

見覚えのないその光景を自分自身の視点で体験しているようなその感覚。

 

覚えはない。

 

これは、竜として自分が観測する未来のものとはまた違う。

もっと違う要因で観せられているような感覚だ。

逆に言えば未来を観測できるからこそ時間軸で言えば過去に当たると理解できた。

だがありえない。こんな事は起こっていない。

 

『何を思ったか知らないけど、此処を拠点に選んだのが君の落ち度だ』

 

冷たげに言い放つ。

 

その自分は目の前の彼に何の思いも抱いていない。ただの肉塊程度にしか思っていない。

 

それが酷く嫌だった。

 

 

 

視点が変わる。

 

 

それは黄昏の空だった。

風を切り裂くその感覚。

自分は限界速度で飛翔していた。

信じられない事に、真の姿を見せているのだ。

 

視線の先には、赤い鎧の人間。

 

そいつが超高速で飛翔している。

この身体を持ってしても並走するのがやっとな凄まじい速度。

 

『どうして、貴方が最初じゃなかったの――』

 

その自分は悲しみに塗れていて。

これから放つ最大の攻撃は半ば自棄になったからこそのもの。

 

『あなたさえいなければ――!』

 

放たれた絶望の一撃(ホロウハート・アルビオン)は、その赤い鎧の人間を飲み込み消滅させた。

 

あまりの悲しみに竜となった自分の慟哭が響く。

 

その絶望を、自分自身が体感させられている。

 

その消滅させた相手が誰であるか。

鎧の人物は誰なのか。

察するには余りあるほどの自分の絶望を感じ取る。

 

 

 

 

 

視点が変わる。

 

 

 

 

 

再びの彼の死体。

原型をとどめておらず、半分ほど残った顔の部品が唯一彼を証明する肉片だった。

 

視点が変わる。

 

今度は、踏みつぶされた虫の死骸だ。

それが誰かは、この流れで理解できた。

 

視点が変わる。

 

また別の方法で殺された彼の死体。

 

視点が変わる。

 

何度も何度も。

 

「やめろ……」

 

何度も何度も何度も何度も。

彼を殺し続けて。

 

「やめてくれ……」

 

時には彼を虫以下の存在としてしか思っていない時もあって。

 

「やめて……!」

 

時には、あるいはオーロラ以上に彼が自分の心を占めている時もあって。

 

そんな彼を殺し続ける結末を何度も何度も見させられて。

 

 

そしてまた視点が変わる。

 

 

 

『自分が自分でいる為の愛って言うのは1人じゃないといけないのかな?』

 

 

竜骸の沼。

自身の死骸が沈む沼のほとり。

 

沼に沈む自分自身の死骸を眺めながら、()は胡座を組んだ彼の体に背中を預けて座っていた。

 

彼はそれを当然のように受け入れていて。

両手を掲げ竜骸に向けながら、空中に浮かぶ透けた絵に触れている。

触れるたびに絵柄が変わり、それが何を意味しているかは僕にはわからない。

 

その姿は傍目から見ればまるで親子か、兄妹か、あるいは恋人のようではないだろうか。

 

今の僕にはこの感情が何かはわからないが。

その心の温まりは、パーシヴァルやオーロラに向けているものと同等か、あるいはそれ以上のものかもしれない。

 

 

『ほら、愛って言うのも色々あるし。家族愛とか、恋愛とか、友愛とか』

 

 

『もっと細分化するなら異性愛、同性愛、父性愛、母性愛、後は――』

 

 

『――殺し愛?』

 

 

『って最後のは冗談。痛っ! ちがっ! からかってるわけじゃないって!』

 

彼の冗談に苛立って、後頭部を打ち付けるもののその私の心は酷く楽しんでいて、それも一つのスキンシップ。

()の顔が綻んでいるのがありありとわかるその状況はあまりにも気恥ずかしくも、それは本当に羨ましくて。

 

『愛を求めてしまう性質って言うのを変える事ができないんだったら』

 

そんな愛についての語り合いは。

 

『――色んな愛をたくさん育てれば良い』

 

ひとつの解を見出した。

 

『まあたった一人を愛し続ける尊さってのは綺麗なものだけどさ……無理やり一つに絞らないといけないってわけでもないと思うんだ。さっき言ったみたいに愛の種類は色々あるわけだから』

 

『無償の愛をささげ続けるっていうのもいいけど、そういうの、メリュジーヌは盲目的にできないだろ?』

 

『だから、いろんな愛を見つけて育てて……今だと、オーロラ様を除けばまずパーシヴァル君かな? やっぱり』

 

『そんな事で君の体をどうにか出来るかはわからないけど、でもそれを抜きにしてもさ、大切な物を増やしていくって事はそう悪い事じゃないと思うんだ』

 

『だから、その……メリュジーヌにとって大切な人をもっともっと意識して増やしてみるってのはどうかな?』

 

それは、思ってもみない提案だった。

愛と言うのは、自分ではどうしようもないもので。

特に僕を構成する為の愛は、オーロラでなければならないものだ。

彼の提案はきっと意味のないもの。

 

 

『オーロラ様最高!ってなるのも良いけどさ。色んな人達の色んな良い所を見つけていってさ……例えば、コーラルさんの良い所を1日1個見つけてみるとか……それがいつしか色んな形の愛になって……そうやって愛を自分自身で育てていくってのはダメなのかな?』

 

そんな提案に私ははっきりと答えを出す事は出来ない。

今の僕であれば何をバカなと思っているのかもしれないが、この私はその提案に迷いを見せているようだ。

 

『……ごめん。君とミラーしか友達がいない()が言うことじゃないよな……浅はかだった……でもその、君にはもっと友達が必要だと思って……』

 

そんな彼の悲しそうな表情をどうにかしてあげたかったが、口下手な私はどうにもできなかったらしい。

 

自嘲気味に呟く彼の提案は、僕の身体を解決するには至らないだろう。

愛というものは自分で持とうと思って持てるものではない、自身ですら想像もできないような、そんな尊い出会いから生まれるものであるというのが僕の認識だからだ。

それでも私はそんな自分の為に色々と考えようとしてくれる事そのものが嬉しかったようだ。

 

そんな思いを、私は精一杯伝えようとしているのだろう。

これまで以上に、彼に身体を預ける事を、その方法としたようだった。

 

「……ありがとう。メリュジーヌ」

 

そんな私の思いを察したのか、彼は酷く嬉しそうな表情で礼を告げる。

 

羨ましかった。

彼とあの私に何があったかは、全く想像が出来ない。

 

それでも殺してばかりのその先に、こんな邂逅がある事が救いであり、悲しみだった。

 

複雑な感情で私と彼のやり取りを見ていると、彼の図形を弄る手が止まる。

 

 

『――と出来た』

 

 

その言葉と共に彼は、色々と空中でいじくり回していた手を掲げたまま手を合わせる。

 

奇術師が何か大きな事をする前のような演技がかった不思議なポーズだ。

 

何をする気?と僕でない私は彼に問う。

 

『君の言葉通りなら、メリュジーヌの体は一種の認識――思い込みによって構成されたもの。量子力学なんかに世界の成り立ちをそういう風に解釈する理論があるんだけど……まあこれは置いといて』

 

『その参考先を、オーロラ様じゃなくて君自身に変えられないかと思ったんだ』

 

 

なんだかとんでもない事を言っている気がする。

 

『これは君の脳に直接作用して、思い込ませるためのもので。まあ、やる事自体はただのイリュージョンショーだからそんなに気張る事じゃないよ。 ミラーと一緒に見る映画のような感覚で見てくれれば良いから』

 

言いながら、彼は掲げながら合わせていた手を一気に解放した。

 

『さあ、準備は良い――?』

 

 

準備など出来ていない。

だが私ではない僕は首を振ることもできない。

流れに身をまかせるしかない。

 

一抹の不安をのぞかせながら、だんだんと変化していく風景を感知する。

それは、世界そのものが変化したのではないかと見まごうばかりの幻想だった。

 

 

 

 

 

――それは、言うなれば愛だった。

 

愛に溢れていた。

 

彼なりの、私を思って作り出した精一杯の愛。

 

 

心が震えていた。

涙を流していた。

暖かいものに満たされ。

体はこれ以上ない程に火照っていた。

 

私は愛を示してくれた彼を視る。

そんな彼はこちらの想いを知ってか知らずか、自身の愛の結晶を見ながらそれを自分自身で楽しんでいた。

 

彼のこちらを見る笑顔は見切れないくらいに眩しくて。

 

これ以上ない程の幸福に見らされていて。

 

そんな幸せを甘受したいと、永遠に味わっていたいと思った所で――

 

 

 

視点が変わった。

 

そこからは、ありとあらゆる経験があった。

 

心を通わせながらも、それを信じきれない自分は彼を傷つけていく。

 

先程と同じようなやり取りを経て私が彼によって救われていく。

 

なんの感情も持たずに、彼を虫けらのように殺していく。

 

そんな喜びと悲しみを織り交ぜた、夢のような経験を体験し尽くし。

 

 

 

 

 

目が覚めた。

 

 

 

 

 

周りを見れば城のほとり。

戦の喧噪すら届かない。身体の不良を察して着地したたそのままの位置。

 

まず認識したのは自分の身体だ。

 

 

「あ――」

 

 

()()()()()()

 

 

オーロラを思い描きながらなら成り立ったその体に見た目の違いはない。

この世で最も美しいと感じた彼女を参考にしたそのままだ。

 

だが、確実に変化している。

自分の身体が、オーロラを思って紡いだ身体が。その形を保ったまま。

より確固たるものになっている。

 

「僕は――」

 

溢れる涙は何を思ってか。

 

「私は――」

 

自身の身体に危惧していたような事がもう起こらないことに対しての喜びはあった。

 

だが――

 

 

「とおる……」

 

その涙は喜びのものではない。

 

 

「とーる……」

 

 

では、その涙は何なのか

 

 

「うぁ……」

 

 

その原因たる幸せな夢の中の彼は、今は自分のものでは無いと言う寂しさからなのか。

 

それはメリュジーヌ自身にもわからない。

 

オーロラから愛される事などありはしないというのは既に覚悟が出来ている。

 

だが、彼は手に入らないという事実は違う。

あれ程の幸福を与えてくれるであろう彼はもう自分のものではない。

 

あんな邂逅があったのは彼があの時あのタイミングで湖水地方に立ち寄ったからだ。

 

言うなればそれが分岐点。

 

今の彼の愛は自分以外に向いているとわかってしまっている。

 

夢のようなあの幸福はもう手に入りはしない。

 

そんな現実を前にどう生きていけば良いのか。

 

これから何をすれば良いのか。

 

あるいはこれからでも彼に愛を注いでもらう事はできるのか。

 

 

迷っているうちに、咆哮が響く。

 

 

「これは――」

 

 

それは牙の氏族のものだ。

 

状況は定かでは無いが、つまりはまだ闘いは続いているという事だ。

 

その後に魔力の高まりを感知する。

 

覚えのある魔力。

 

それが何であるかは知っている。

 

それは、自分にとってのもう一つの愛。

彼とも彼女とも違う、その愛を捧げている彼のものに他ならない。

 

そしてそこから迸るおぞましい気配が何なのかも。

 

 

『色んな愛を育てていくのはダメなのかな――?』

 

 

思い出すのは夢の中の彼の言葉。

 

 

涙は引いた。

 

 

今はそう、大事なものを失わないための行動が必要だ。

 

その後の行動に迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「姉上!?」

 

「姉として、馬鹿な事をする弟を止めないとね。パーシヴァル」

 

驚愕の表情を浮かべるパーシヴァルに、ランスロットは一言告げるだけ。

 

「!?」

 

勝負は一瞬だった。

真正面からランスロットが肉薄し、その拳を叩き込む。

直前まで膨大な魔力を注ぎ込み疲弊しているパーシヴァルになす術もなく。

 

鎧を砕くほどの拳を腹に受け、その意識を閉じざるを得ない。

 

「あね……う、え」

 

「ありがとうパーシヴァル。君は僕のために戦っていたんだろう?」

 

ランスロットは、数々の時間軸で得た情報からその事実を口に出す。

 

「でも剣を突きつける相手が違う。陛下はむしろ僕ににとっての恩人だ」

 

「そん、な……」

 

「悪いのは僕だ。他人との、君との交流に怯えていた僕の落ち度だ」

 

そのまま意識を閉じるパーシヴァルをランスロットは優しく受け止める。

 

「おやすみパーシヴァル。今は、寝ている方が安全だ」

 

乱戦の中、確かに一つの決着はつき、ランスロットはパーシヴァルを部屋の端に置きムリアンの横へと戻る。

 

「——ひとまず、陛下を害する気は無いという事で?」

 

ムリアンの訝し気な視線を気にも留めず。

襲い来る王の氏族を神秘の力ではじき出す。

 

「ああ、僕が僕でいられるのは陛下のおかげだ。それに僕は彼女の、この國の在り方賛同しているからね」

 

「ですが、本当に仕えているのは別の方。その方のせいで陛下は虐殺されるところでした。信用できるとでも?」

 

妖精騎士ランスロットが真実、オーロラに仕えているのはムリアンも知るところである。

この状況は予言の子を勝利に導く為、オーロラとスプリガンが生み出したもの。

 

「信頼できないのはわかってる……」

 

遠因に自分も関わっている事もあるとは言え、いまこの状況においては素直に彼女を受け入れられる分けも無い。

 

「だが僕がいなければ勝利できない状況だ。君達は僕を頼らざるを得ない」

 

言い捨てて、王の氏族の対応に移るランスロットの言葉にムリアンは内心で苦虫を噛み潰す。その憤りを見せないよう、その表情を維持するのが精いっぱいだった。

 

パーシヴァルの槍は、未発に終わった。

 

 

結果的にウッドワスとパーシヴァルの命。双方を救ったことになった。

ある意味最大の主力であるウッドワスを失わなかったという意味ではパーシヴァル以上の精神的支柱や戦力が豊富なあちらよりも益になっているという事は事実である。

 

だがウッドワスは既に満身創痍。

ムリアンとランスロットがいる少し離れた位置で、他の牙の氏族達と共に妖精達を相手どっているが、あちらには妖精騎士クラスの戦力がまだ残っている。

 

せめて誰かがモルガンを玉座まで運ぶことが出来れば良いのだが、そんな人員は存在しない。

 

ありがたい事このうえ無いが。

 

「とは言え、もう少し信頼できる要素が欲しい所ですけど……」

 

やはり、そう素直に受け取ることは難しい。

独り言ちるムリアンだが、それが聞こえたのか、ランスロットは口を開く。

 

「……僕も彼女の風の事はさっき知ったばかりだったんだ。ガウェインの裏切りによって正門を破られて、陛下も予言の子との闘いを望んでいた節があったし、僕も空気を読んで撤退した。その後はガウェイン含めて裏切り者を殲滅する予定だった」

 

「……それで? 彼女がついに表立って陛下との敵対を宣言した今、何故こちらの陣営につくのです?」

 

それは確信に迫る問いだ。

ムリアンは心の中の懸念を吹き飛ばしたい一心で問い質す。

その回答次第では、これから先の動き方も変わって来る。

 

「あそこに倒れている彼――」

 

ちらりと、ランスロットは王の氏族を複数相手しつつも目線を外す余裕をみせながら彼を見る。

その姿に心が痛むが、彼のしぶとさは()()()()()()()()()()

あれで死ぬような男ではないと確信している。

 

ムリアンの訝し気な視線を受け流し。

 

「彼は僕の恋人だ」

 

こともなげに言い放つ。

 

「……ハ?」

 

ムリアンは戦闘中だと言う事も忘れて奇妙な事を言い出した妖精を見る。

 

「……別の次元ではね」

 

「……そんな訳のわからない理由で納得できるとでも?」

 

別の次元。

 

ランスロットなりのジョークかとも思われたが、彼女の表情は本気であり、尚且つ哀愁を感じられた。

 

頭がおかしくなったのか。

 

それとも本当の話なのか。

 

ムリアンに判断はつかない。

 

 

「……軽率な心変わりでない事を証明する為にひとつお願いがある」

 

戸惑っているとランスロットの方から提案があった。

先程のジョークの答えを出すつもりはないらしい。

 

「……聞きましょう」

 

いつもそうだ。彼女に会話を期待するだけ無駄だろう。

 

「この戦が君達の勝利で終わった場合、オーロラを処断する事は止めて欲しい。それと彼、パーシヴァルも」

 

視線の先にはつい先ほど本人が気絶させた青年。

 

「このまま予言の子が勝利すればロクな事にならないだろうからね。まあその要因は彼女だろうけど。陛下が失われた途端妖精同士の争いは避けられない。その時オーロラとパーシヴァルの両方を守るのは僕には難しい」

 

成程と、ムリアンは考える。

 

先程の嘘か本当か分からない理由よりもまだ納得だ。

 

そしてそれは同意見。

 

予言の子が王になろうが、ノクナレアが王になろうが。今の圧政を崩せばその先の争いは避けられない。

表立った暴力的な戦争か、裏での陰湿な争いになるかはわからないが。

 

今回のような姦計が回らされた場合、双方ともあっけなく死亡するイメージしかない。

 

その場合こそ本当のブリテンの滅びである事に想像は固くない。

何せその争いに自分自身も参戦しようとしていたのだ。

それはモルガン以外に絶対的存在がいない事への傲りによるものでもある。

それがどれだけ哀れな事だったかは今となって気付く事もあるが。

 

 

だが――

 

「そんな無茶が通ると思いますか?」 

 

今回の首謀者の一人はオーロラだ。

もはや全妖精に吹いたあの風をごまかすことはできはしない。

 

「できるさ。陛下と――」

 

そう言いながらランスロットは倒れている彼を見た。

 

「彼ならね」

 

それはこれまでにないほどの確信的な声だ。

未来でも見ているかのようなその態度。

 

ランスロットは、会話はそれでとばかりに、ムリアンの答えを聞かぬままその場を離れる。その先には村正と賢人グリム。

どうにかしてモルガンを殺そうと画策していた2人へと突撃していく。

 

「ったく! お前さん、空気を読んで退場したんじゃなかったのか!?」

 

「ああ、恥ずかしながら戻ってきた次第だ」

 

「これだから最強種ってヤツは……っ!」

 

 

2人の攻撃を弾きながら、ランスロットはモルガンの首を取ろうとする複数の王の氏族の妖精に背中につけた何かを投げつけた。

 

それは、物理法則を無視するかのような軌道を描き、生きているかのように跳ね返りつつそのその衝撃を利用し妖精達を吹き飛ばす。

 

最後にはランスロットに飛びかかろうとする村正とグリムに襲い掛かり、2人の武器によって防御されたそれはランスロットの手元に吸い込まれるように戻っていく。

 

それは盾だ。青と赤で彩られた円形の盾。

その彩色はブリテンを象徴するに相応しいと言えなくもないが真ん中の白い星によって、別の国を象徴するものへと印象を変えている。

 

「なんだぁ!? その盾は!? どう言う材質だ」

 

「手元に戻る概念でも持ってやがんのか?」

 

魔力があるわけでもない。

だがただの金属の盾でも無い。

 

それを見事に看破しながら2人は叫ぶ。

 

 

「これは宇宙で1番強い盾だよ。キャプテン・アメリカという人間の英雄が持つ盾さ……」

 

「きゃぷてんあめりか?」

 

村正はグリムに向くが対するグリムは首を横に振るだけ。

このブリテンでアメリカとは。

そして最強種である彼女が宇宙でも最強と宣言する程の盾とはどういう了見なのか。

 

「まあ、君たちには関係のない話さ。これはあくまで借り物……」

 

2人の疑問に答えることはなく、ランスロットは誰を思ってか、憂いの表情を浮かべる。

 

会話は終了とランスロットは2人に肉薄していく。

 

「相変わらず話したいことだけ話す勝手なヤツだ!」

 

不満を漏らしたのはどちらなのか。

異星の神と汎人類史の神。

それぞれの使いがブリテン最強の妖精騎士と戦闘を開始する。

 

 

ムリアンは、それを見ながら一応の納得を果たし。

再び戦いへと戻る。

 

これで戦力は対等。

 

モルガンが玉座に着くまでに、時間稼ぎとして防衛戦に徹すれば、確実に抑えられる。

 

このままいけば、少なくとも負けることはないと。

淡い期待を込めムリアンは慣れない戦闘に参加する。

 

 

どうにかして彼の意識を取り戻せないかと思案しながら、今はゆっくりと玉座へ進む女王へ期待するしかないと歯がゆい思いを巡らせた。

 

 

 

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