世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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決戦④

「何をうかうかと!!」

 

 

混戦中だと言うのにスプリガンの声はよく通る。

王の氏族含めた反乱軍達だけでは無い。牙の氏族までもが、その方へ向いた。

 

彼が指で指し示すその先には未だこの混戦にも関わらず玉座へ縋ろうと這いつくばりながら体を引きずる女王モルガンがいる。

 

あまりにも速度は遅く。

一刻ほどの時間をかけたところで玉座には辿り着け無いだろう程。

 

「醜態を晒してまでも権力を手放せぬ醜い女に! 再び覇権を握らせるなどあって良いのですか!?」

 

スプリガンはその言葉自体に説得力が無い事など織り込み済みだ。

必要なのはあの無様な姿を改めて見せる事。

 

敵の戦う目的である女王の守護。

その行為がどれだけ哀れなのかを悟らせるための彼にしては表舞台に立つという似合わない行動。

 

モルガンの醜態を見せた上で言語化し、少しでも敵のやる気を削げればとのスプリガンの企み。

 

牙の氏族達がモルガンを見る。

 

その姿に、戦いの熱が僅かに下がるのを妖精騎士ガウェインは感じ取った。

 

それもそのはず。こうして盛り上がりを見せているものの、真実女王に忠誠を誓う者は皆無である。

 

彼らとてみな守護職である牙の氏族としての誇りはあるが、それはブリテンを守るためのもの。

 

勝利したところで玉座に着くものが牙の氏族というわけでもなく。つい先日までむしろウッドワスさえいなければ煩わしいとさえ思っていた女王なのだ。

事情があるとはいえ、ああして無様な姿を晒しているとなると、多少なりともやる気は削がれてしまうものだ。

そしてもう一つの、奮起したきっかけである青年も今は倒れ伏すのみ。

 

意識を保つ事は困難だった。

 

「オマエたち! ――ぐっ」

 

ウッドワスが喝を入れようとする。

だがウッドワス自身、パーシヴァルとのやり取りが本当の限界だった。

 

声を発することもままならない。

 

士気が削がれた牙の氏族達。

戦いこそ史上の喜びだと、自身の傷すら構わず戦おうとしていた彼らもやる気が削がれれば自身の身体を気遣うようになる。捨て身の全力というわけには行かない。

 

全ての牙の氏族がやる気を失ったわけではないが自然と隙はできてしまう。

 

言うなれば牙の氏族以外の全戦力が相手なのだ。王の氏族含めた兵士達の数は予言の子側が圧倒的。

 

その隙を付き、モルガンの首をとろうとする王の氏族。

 

 

「行かせない!!」

 

 

それをランスロットが投降した星条旗の盾が吹き飛ばす。

 

その余計なひと手間によって、戦闘の展開が変化する。

 

「悪いが、隙アリだ!」

 

 

防戦一方だった村正とグリムが隙をつき、攻撃に転じるが。

 

 

「させん!!」

 

 

それをカバーするようにガウェインが防御に入る。

 

その後2人をランスロットが吹き飛ばし、その後不思議な動きと共に戻って来た盾を再び投降する。

 

だが今度はガウェイン側に隙が生まれてしまう。

 

それをカバーするようにムリアンが動くが彼女では、精々ガウェインに襲い掛かる刃を反らす事が精々だ。

 

 

 

 

「まずいですね……お二方は今の状況を覆す術はありますか?」

 

 

ランスロットとガウェインの参戦を認めたムリアンが二人に話しかけるが、その間にも反乱軍の蛮勇は止まらない。

 

 

「いくら僕でも二人や反乱軍を相手しながら彼女を守るのは難しい」

 

「私も、だ!」

 

冷静に答えるランスロット。

迫りくる英霊の影を剣で切り裂き、消しながらガウェインが吠える。

   

 

ランスロット達が傷つくことも無いが、反乱軍側。とくにカルデアの者達も防戦上手ではある。

致命的なダメ―ジを与える事も出来なかった。

この場にいる全員を玉座ごと吹き飛ばす勢いで戦えるのならば2翅が手こずることは無いが、それができないのが現状。

それでもまず敗北は無いように見受けられたが以外に効果のあったスプリガンの口撃。

 

強者達の戦いが互角であれば、後は雑兵の差。

雑兵に差が出てくるとなると防衛側は不利となる。隙を突かれ女王の首が取られる確率は上がっていく。

 

牙の氏族を鼓舞させるウッドワスも今は声を上げる事すら難しい。

 

そして女王を一度裏切ったガウェインに牙の氏族を鼓舞させるほどのカリスマも無い。

言葉が届く事はないだろう。

 

 

 

(まずいな……)

 

 

ガウェインも内心で焦りを見せる。

今はまだ拮抗しているが、気になるのは予言の子だ。

 

巡礼を終えた彼女はモルガンと同格という扱いだが本当かどうかも疑わしいもの。

かと言って、本当に同格であればまずいのも事実。

今はどこか消極的だが彼女がひとたびやる気を見せて攻めに転じてしまえばあるいは……

 

自分達自身が敗北するとは思わない。

 

だが、あのモルガンに迫る刃全てを跳ねのけられるかと言えば……

 

 

「これほどの戦いに見向きもせず! 誰一人敬うこともなく! ああして権力にすがる傲慢で哀れな女!」

 

 

焦る中でもスプリガンの口撃は尚も加速していく。

 

 

「あの女が再び玉座に着いたところで、待っているのは國とも言えぬ愚かな支配のみ!」

 

今それを止める術はない。

まずいと。どうにか出来ないかと必死に頭を回転させるが思い浮かばない。

 

あるいは、自身のうちにあるものを解放すれば決着はつくかもしれないが危険性が高すぎる。

 

一先ずは全力で守護に当たるしかないと、苦々しくも決意したところで。

 

 

「あのような自分の事しか考えられぬ、よう……な……」

 

 

スプリガンの口撃が途中で止まった。

 

見れば叫んでいたスプリガンの表情は驚愕の色に染まっている。

 

何が起きたのかとスプリガンの視線を追えば、()()()()()()()()()()の女王モルガンの姿。

 

左腕しか動かない中、牛歩よりも遅く、スプリガンの言う通りに醜く哀れな姿のまま体を引きずっていた彼女は、ついにその進みを止めていた。

 

しかしそれは玉座にたどり着いたからではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、仰向けで倒れている青年にしなだれかかっていた。

 

 

 

 

 

 

モルガンは唯一動く左手を青年の頬にあてがい。その胸に自身の頬を当てる。

 

 

 

 

 

意識のないはずの青年に何事か声を掛けた後、その手に光を灯す。

あふれ出る魔力。

それは恐らく治療の魔術なのだろうとガウェインは思う。

 

立ち上がることすらできない程の残り少ない力を、一人の青年に捧げ、愛おし気に彼にしなだれかかるその姿。

 

 

死を迎える前に愛する者の胸の中で共に息絶えるという。

ある種の理想を体現しようとしているようにも見えた。

 

 

 

 

玉座につき、十分に魔力を貯めてから万全の状態で魔術を振るい、彼を治療した方が効率は良いはずだ。

 

だが、彼女は真っ先に彼を治療する事を選び取った。非合理とも言えるその選択。

 

 

(陛下……)

 

 

ブリテンだけを愛していると思っていた。

 

妖精や人間。生けるものへの愛など存在しない冷酷な女王だと、そう思っていた。

 

しかし玉座についてこの國を守る事よりも個人を優先するその姿。

 

國を守る事のなんたるかを考える事のできる者達がその場にいれば女王のその姿は國を一人の男の為に捨てたのだと思う者もいるだろう。

 

王としてその姿はいかがなものかと憤る者もいるだろう。

 

やはり王になど相応しくないと考える者もいるだろう。

 

俯瞰で見れば王としては失格とも言えるその行動。

 

しかし、ガウェインにはその姿が眩しく見えた。

 

 

 

 

 

「おのれ……!今更そのような珍妙な真似を……!」

 

そしてそれはスプリガンにとっては思いもよらない事態。

 

反乱軍にこの妖精國を俯瞰で見れるような賢者は存在しない。

モルガンの冷酷な支配こそがこの國を守ることに必要だと。

 

妖精國はそれが理解できない愚か者ばかりだと言うのはスプリガン自身が口に出したことだ。

 

故にスプリガンはブリテンに縋る冷酷な女王の側面を悪い意味で揶揄し、妖精達の士気を下げようと試みた。

 

だがモルガンのあの行動によって良くも悪くも王としての姿が崩れ去った今、スプリガンの目論見は外れてしまった。

 

 

思わず言葉が止まる中、その隙を逃さない妖精が1翅。

 

 

「牙の氏族の皆さん――彼、スプリガンの言葉に間違いはありません。先に申し上げた通り妖精歴時代、当時の妖精達の愚かな行動によって女王陛下は愛を失いました」

 

 

スプリガンの言葉とモルガンの行動によって、静寂の訪れた大広間に声が響く。

 

 

「妖精達の暴走を抑えるため為に妖精達が苦しむ窮屈な國を作らざるを得ませんでした……」

 

 

その正体は妖精國で最も栄えている街と言っても過言では無いグロスターの領主ムリアン。

 

 

「きっかけはどうあれ、その点に関して、陛下のこれまでを誰にも否定などする権利はありません」

 

 

大広間に響くその声は、様々な妖精に無力だと、大した力ももたない虫だと、揶揄されようとも感情を押し殺し、その処世術を以て女王モルガンの庇護下に入ることも無くグロスターを維持し続けたムリアンの武器でもある。

 

 

「ですがご覧のように、彼女は愛を取り戻しました」

 

 

戦いながらも、その演説に誰もが耳を傾ける。

 

 

「彼ら反乱軍はその事情を知りながらも、変わらず女王を悪として反乱を止めぬ愚か者達」

 

 

空気がまた変わる。スプリガンの苦々しい表情が、この状況を物語っている。

 

 

「ロット王を救おうとするその姿は、かつて妖精達に邪魔された、彼を王に据えて成り立つはずだった理想のブリテンを守ろうとする姿に他なりません。その姿。自身の命を投げ出し、身体を張って妖精國を守る牙の氏族の皆さんと同じだと思うのは私だけでしょうか?」

 

 

ムリアンの言葉に、牙の氏族達に熱が灯っていく。

 

それを聞きながらウッドワスも、ランスロットも、ガウェインも、内心で舌を巻く。

 

それぞれが自身の力に絶対的な自信を持つ身であった。

 

グロスターから一歩出れば無力だと、ムリアンを侮ってすらいた。

 

だが、ここに来て今は最も頼もしい、妖精の1翅である。

 

 

「改めてお願いします。この妖精國の未来の為に、今一度、妖精國の守護職である皆さんの力をお貸しください」

 

 

その言葉の後、牙の氏族の再びの遠吠えが響く。

 

スプリガンによってマイナスになっていた士気がムリアンによってプラスへと転じる。

 

それは、あるいは指導者のカリスマ性によって盛り上がる士気よりも効力が高く、中にはその肉体にさえも影響が出る程に精神が高揚した者もいた。

 

今の牙の氏族達はまさに一騎当千の傑物達。

 

対する反乱軍は予言の子という後ろ盾とノクナレアによって既に士気は最高潮だが、今の牙の氏族達程のものではない。

 

数の問題もあり、互角だった雑兵達だが徐々に牙の氏族側へと傾いていく。

 

そして、強者たち。ガウェインとランスロットの猛攻にカルデアの面々達は押されていく。

 

反乱軍の面々は苦い表情を隠せない。

 

このままではいずれ敗北は必至。

 

スプリガンは周りを見渡す。

 

情けない態度のカルデアの面々を睨みつけ、いまだ戦いに消極的な予言の子に失望の眼差しを向ける。

 

(この期に及んでまだ……!!)

 

彼らの心情を察したスプリガンに焦りと怒りの感情が浮かび上がる。

 

スプリガンは、誰もが見たことが無いような表情を浮かべた。

 

絶望とも怒りともとれるその表情。

 

暫しの戦況を見つめるその瞳。

 

終始冷たく俯瞰で戦況を見ていたそれに狂気が宿っているようにも見える。

 

その瞳が、とある存在を視界にとらえる。

 

それを認めた彼は、彼らしくもない珍しく素早い動きを見せた。

 

 

その動きに混戦中故に誰も気付かない。

ムリアンによって企みを潰され、もはやこの戦場に不要となった彼の行動を気にする者はいない。

 

だが、スプリガンは無能ではない。

()()()()()()()では必要不可欠だった存在だ。

彼は、本来であればモルガンを虐殺し、妖精國を滅ぼし、異聞帯を消し去る為のシナリオに必要不可欠なキーパーソン。

 

カルデアにこれまでの異聞帯に比べても罪悪感を抱かせる事無く汎人類史にとって都合よくこの妖精國を消し去る為に存在する舞台装置。

 

その彼の行動はもはや彼自身の力以上の結果を呼び込むため、また一つこの状況を覆す。

 

 

 

「これを見ろオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

それは信じられない程に大きな声だった。

スプリガンの曲がりなりにも武士(もののふ)だった過去ゆえの腹力なのか。

 

智略を巡らせる者とは思えぬ乱暴な叫びは剣戟よりも、魔術よりも大気を震わせ、意識ある者達を注目させた。

 

部屋の端を行き、玉座の裏手。

窓も無い、手摺も無い。

 

大穴へと真っ逆様な部屋の淵に立つスプリガン。

 

 

彼は、血走った眼をぎらつかせ、その腕に大きな荷物を抱えながらその怒号で戦場を支配する。

 

 

その荷物は、四肢を腐らせ、鎖に縛られ、意識を失った妖精騎士トリスタンだった。

 

 

「キサマ――」

 

 

ウッドワスの掠れた怒号が響く。

 

ブリテンを混乱に陥れ、内乱を活性化させ女王虐殺における最大の功労者カルデア。それに次ぐ功労者スプリガン。

 

彼によって巻き起こる戦場の混迷は未だ晴れずにいた。

 

 




大筋は変わらないのですが、ムーンナイトやドクターストレンジに感銘を受けすぎて、思わず作品に影響してしまいそう。
一気に話が崩れるのでひとまずはどうにかこらえておりますが。


ただ頭の片隅にムーンナイトと月姫のクロスが湧き出てしまうのです。
ヒロインはノエル一択。

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