世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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神様

「ロット、何やってるんだ?」

 

 

大切な存在だった。

 

トネリコにとって大切な存在だからではない。

 

 

「ダメだよロット」

 

 

ロット――トールにとっても同じ。

 

 

「 そんな怖いの、マシュに向けちゃだめだろ?」

 

 

妖精歴時代、彼女の明るさにいつも助けられていたのはトールも同じなのだ。

 

 

「――ッ!」

 

「なあ? ロット?」

 

 

トールは答えない。

 

 

「マシュだよ? 忘れたのか? 一緒に旅しただろ? ボクたち。トネリコと一緒に…… 凄く仲が良かったじゃ無いか。それなのに、酷いことしちゃダメだ」

 

 

トトロットはトールの様子におびえながらも、どうにかしてマシュに向ける殺意を抑えようと説得にかかる。

 

何も言わない。

トールは稲妻を消すこともしない。

それは、トトロットの頼みを聞く気は無いという意思の表れであり、未だトトロットを無視してその稲妻を発さないのは彼女の静止による戸惑いの表れでもある。

 

「そんな痛そうなの、マシュがかわいそうだろ……?」

 

「……」

 

トトロットの質問には答えず。

トールは俯いたまま押し黙る。

 

トトロットの事を無視しているわけではない。

 

どう答えようか、どう答えるべきか、迷っていた。

 

ここで彼女を無視して彼女達を殺すのはあまりにも容易い。

それを止める理由は無い。

 

彼らを生かして元の世界へ追い出す理由もない。

 

 

今更昔の友人が一人出しゃばった程度。

この手を収める理由にはならない。

 

どんなに世界が間違っていようが。

世界がどんなに罪だ何だと喚こうが、この世界を蹂躙しに来た連中を生かす理由などないのだから。

 

それを今更過去の友人だからと、遠慮する必要は無い。

 

 

無いはずなのだ。

 

 

「ロット。お願いだよ」

 

 

トールは、掌の稲妻を消失させた。

 

 

その動作にホッとした表情を作るトトロット。

 

 

「あ、ありがとうロッ――」

 

 

「……今更何をしに来た?」

 

 

「え――」

 

 

矛を収めながらも、その冷徹な雰囲気は収まらない。

 

 

「ボ、ボクはその……雷を見てから、なんだがここに来なきゃいけないような気がして」

 

 

「今まではコイツらと旅して来たのか?」

 

 

「う、うん……」

 

 

「この妖精國を救う為にモルガンを殺そうと?」

 

 

「それは――」

 

 

言い淀むトトロットを無視し、トールは再び破壊の稲妻をマシュに向ける。

 

その表情は、トトロットに止められる直前の冷徹なものへと戻る。

 

 

「! ロット! ダメだよ!! マシュ達はこの妖精國を救おうとしてくれたんだよ!?」

 

 

トトロットの静止に、今度は躊躇する気はないとばかりにその稲妻を強めていく。

 

 

 

「……いいかトトロット。このままコイツらを生かして帰せばまたこの世界を滅ぼしにやって来る。コイツらにとっても、俺たちにとっても、お互いの世界は邪魔でしかないんだよ」

 

 

 

苦し紛れにでたトールの言葉に。

トトロットは首を横に振る。

 

 

 

「で、でも。確かに世界はそうかもしれないけど、マシュ達は違う。妖精國を滅ぼそうとしてるんじゃ無い。助けようとしてくれてるんだ!」

 

 

 

「――いい加減にしろ!!」 

 

 

 

「……ッ」

 

 

おそらく、ありとあらゆる時間軸の中で一番の怒号だった。

冷静さを欠き、感情的な怒りを示すその姿は、あるいは子供のわがままに怒鳴る親のようであり、親の躾に反抗するわがままな子供のようでもあった。

 

トトロットの怯えた顔に、一瞬、躊躇した様子を見せたトールだが、その後再び元の憤怒の表情へと変わる。

 

 

「助けようとなんてしている!? 散々戦いを煽って、結局は世界が滅ぶのを止めずに限られた妖精だけ連れて行こうしているノア気取りのコイツらが妖精國を救う!? 」

 

 

「で、でも……戦い始めたのはモルガンが……それに、ボクたちも悪いんだ。ボクたちが妖精國を救ってなんて言ったから……」

 

 

「ああそうだな。 この世界を滅ぼすのに、モルガンを殺すのに都合が良いからお前たちの誘いに乗ったわけだ。それで? こいつらはお前の言うようにこの世界を救ってくれるのか? モルガンを殺せばこの世界を維持する事を許してくれるのか?  このまま妖精國が残ってあいつらの世界の一部の中で存在し続けても手を出して来ないのか? 」

 

 

「わかんない……わかんないよ」

 

 

「わからないのはこっちだ!」

 

 

子供のように、頭を抱えるトトロットに、同じように子供のような癇癪で激昂したまま叫ぶトールの眼から、一筋の涙が流れる。

それは、怒りの感情が溢れだしたが故か、それとも……

 

「なあ、こいつらを生かしたところでどうする? このまま元の世界に帰すのか? ブリテンだけは見逃して下さいとでも言うつもりか? それともこの妖精國に住んでもらうとでも言うつもりか?」

 

 

「そんな事……っ」

 

 

「それとも――」

 

 

 

 

「こいつらの為にこの世界を差し出すのか……?」

 

 

 

 

 

「それは――」

 

 

言い淀むトトロット。

 

 

「お前は何がしたいんだ? 500人の内に入って、この世界の住人を見捨てて、こいつらの世界の端っこでせせこましく暮らし続けるのか?」

 

 

「そんな事――!」

 

 

「ああ、違うだろうさ!」

 

 

あまりの物言いに反論しようとしたトトロットの先手を打ち、言葉を返すトール。

次いでトールは、右手から発した稲妻から磁力を発生させる。

 

するとトトロットの糸紬ぎ機の中から、黒い塊が現れた。

 

 

「……!! 駄目!!」

 

 

ブラックバレル。

汎人類史、ひいてはカルデアにおける切り札。

神すら滅ぼす『天寿』を呼ぶ概念礼装。

 

トトロットがいずれ来るその時の為に、彼女の為に保有していた必殺兵器。

 

それは、傍にいるだけで妖精の命を脅かすこのブリテンにあってはならないモノ。

 

 

「こいつらの為に、()()()()()()()の為に……!」

 

 

磁力をまとっていた右手にブラックバレルが吸い付くようにトールの傍へと吸い込まれていく。

 

 

「だめ! それはマシュのなんだ! マシュに返さないと!!」

 

 

取り返そうとするトトロットをミスティックアーツで押しとどめ、橙色の魔法陣の壁がトトロットの進行の邪魔をする。

 

その間に、磁力となっていた稲妻が破壊の力へと変化していく。

それは巨大なブラックバレル全体を包み込み。

 

 

 

数秒と持たずにチリへと変えた。

 

 

 

「ああ……!」

 

 

絶望した表情を作るトトロット。

だがそんな事はトールにとっては関係がなかった。

問題なのは彼女の体そのもの。

 

 

「お前まで――っ!」

 

 

ブラックバレルに侵された肉体。

 

 

「お前まで、自殺願望を持たされてるのか……!」

 

 

彼女はもう、いつ事切れてもおかしくない状態である。

 

 

再び、右掌に稲妻を発生させる。

その相手は、もはやマシュのみにあらず。

最も近いマシュをはじめ、その背後にいる汎人類史の者達全員を巻き込むための者。

 

 

「ダメ!!!」

 

 

それを、トトロットは許さない。

許すはずもない。

もはや今のトトロットにとって、トネリコから離れたあの日から。いや、きっと生きる意味を与えられたあの夜からずっと。

あるいはこの世界以上に彼女たちを大切に思ってしまったのだから。

 

 

「どいてくれ……」

 

 

魔法陣を避け、マシュとトールの間に立ちふさがるトトロット。

 

 

「ヤだ!!」

 

 

ほんの少し前、怯えた表情はもう消えていた。

 

 

「お前は、あの日からトネリコを見捨てた裏切者だ。例えこの世界の住人だろうと邪魔するなら本当に消し飛ばすぞ!! 死にたくなかったらどけ!!」

 

 

雷鳴が響く。トールの体から紫電が走り、周囲を稲妻で染め上げる。

それそのものに意味はない、言うなれば威嚇の稲妻。

 

 

「……っ!」

 

 

そんな威嚇に、トトロットの怯えた表情を作り出すが、しかしすぐに消えさった。

トールから眼をそらすことなく、マシュを守るために両腕を広げる。

 

 

「どけェっ!!!」

 

 

「――絶対にヤだ!!!」

 

 

本当なら、間に立つトトロットに意味は無い。

それはトトロットごと消し去れるからでは無い。

 

雷というものは落ちるものだ。

 

仁王立ちするトトロットを傷つけることなく、彼女の背後に稲妻を落とすことなど造作も無い。

 

 

だが、彼女の、本当に命をかけたその行動を見れば、それは意味のない事だとわかってしまう。

守るべき者を失い、生きる意味を失い。絶望に染まった妖精の末路など決まり切っている。例えモース化を免れてしまったとしても、生きる意味を持たない妖精に未来はない。

 

「どうして……っ!」

 

マシュの死は、トトロットにとっては同義。

 

 

彼らを見逃すことはありえない。

生かしたところでもう取り返せないところまで来ている。自分の世界の為にモルガンに敵対する事を選んだ。モルガンの為にこの世界の摂理にすら敵対する事を選んだ。どちらが勝つかの話だ。

そんな中、圧倒的勝利の中で気を使って見逃す理由が無い。

 

仮に慈悲を与えて見逃したところで、彼らはありとあらゆる手を使って自分の世界を取り戻すだろう。

 

何があろうとも自分の世界を絶対にあきらめない。そうでもなければ5つも世界を滅ぼすことなど出来はしない。

 

今は圧倒的にこちらが強くても、彼らが更なる力を得る可能性はゼロでは無い。

 

僅かな要因すら見逃せない。

 

 

 

掌に力を籠める。

トールの表情はもはや狂気と悲しみに染まっている。

 

 

敵でしかない存在の為に命をかけてしまう友人の手をかける。

悲しみはある。まともな感性ではいられない。

 

 

だが愛もまた公平では無い。

分け隔てなく愛する器用さはトールには無い。

 

もはやトールの背後にいるのはモルガンの命だけでは無いのだ。

 

トトロット一翅を天秤にかけたとて、その重さはもう比べ物にならない。

 

 

「アァァァァァ――ッ!!」

 

 

それは威嚇か、絶望の叫びか。

いよいよ持ってその掌の稲妻を発しようとしたその瞬間――

 

 

 

 

 

 

「いい加減に、しろォ――ッ!!」

 

 

 

 

 

トールは、横合いからの衝撃に吹き飛ばされた。

無防備だった。

完全な意識外からの攻撃だった。

 

 

全ての神経をトトロットに注いでいたトールはその攻撃をまともに喰らう。

吹き飛ばされ、仰向けの状態で大広間の地べたを滑る。

 

 

 

 

「アルトリア!?」

 

 

 

 

驚くトトロットを余所にアルトリアは決死の形相で、滑り終わったトールに追撃の魔術を放つ。

モルガンに匹敵すると言われている魔術は爆炎を上げ、辺りを煙に染め上げる。

 

 

「やああぁぁぁぁぁ――っ!」

 

 

杖の先端が、眩く光る。

その場で跳躍。

煙の中、一切の目標を失うことなくアルトリアは空中で一回転。その遠心力を乗せた魔力の籠った杖による一撃。目を見開くトールの頭蓋にその杖をたたきつけ

た。

 

 

衝撃が走る。

 

 

 

その衝撃はトールを貫き、彼の後頭部を起点に、大広間の床が砕け、クレーターが出来上がる。

衝撃によって舞う砂塵。

 

完全な無防備の中の一撃。

この妖精国においてほぼ全ての者がそのまま頭が潰れ、首無し死体どころか下半身しか残らなくとも納得できるほどの威力。

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

 

渾身の力を込めた。

一気に放出した事によって、脱力感に苛まれるアルトリア。

広がっていく砂塵と魔力の奔流によって。状況はつかめず、実際に頭が潰れたかどうかは定かではない。

だがその結果は、既にアルトリアの緊迫した表情をみれば伺えるものというもの。

 

 

 

 

砂塵の中から、アルトリアの首に向かって腕が伸びた。

 

 

 

 

「――っ」

 

 

 

その手がアルトリアの首を掴む。

 

 

「グッ……あ……」

 

 

「他の妖精と同じように死にたくなったのか?」

 

 

――わかっていた。

 

この程度の攻撃では傷一つつけられ無いことぐらい。

首を掴んで持ち上げられるもそんなものはとっくに覚悟している。

 

 

「グッ、ご……のお!!」

 

 

自分の背後に忍ばせていた魔力の刃がアルトリアの首を絞めるトールを襲う。

 

襲い掛かる刃を、しかしトールは何の抵抗もせず受け入れ。

生物とは思えない硬い音を鳴らすだけで、その魔力の刃は消え去った。

 

 

「――っ!?」

 

 

これ程までに差があるのか……

アルトリアは予感していたとはいえその事実に驚愕する。

 

トールは、そのまま首を絞める事はなくその手を離す。

 

そのまま床に落下し、アルトリアは膝をつく。

 

 

「ゴホッっ……ハァ、ハァ……」

 

 

呼吸を落ち着かせている間に、目の前の男が先程と同じように目線を合わせてきた。

 

 

「屁理屈こねて見逃したのはお前が大事な大事なこの世界の住人だからだ。それがなければお前は、あいつらと同じおぞましいセイギノミカタでしか無い」

 

 

先程の、どこか慈悲のあった表情とは違う。

冷め切った眼は、光を失い、どこか狂気を孕んでいる。この男はもう止まらない。どのような理由があろうと例え誰であろうと邪魔をするならば滅ぼす。そういう眼だ。

 

 

「……っ!」

 

 

「お前は確かに必要な存在だが、絶対じゃ無い……この世界の邪魔をするなら今この場でお前を消し飛ばしても構わないんだ……」

 

 

体が強張る。

絶対的な死の気配。

それはただの死では無く、もっと根本的に。

この世界に存在していたという証ですら失ってしまいそうで……

 

 

歯を食いしばる。

 

元より、彼を倒そうとは思っていない。

倒せるとも思っていない。

 

ただ――そう。

 

 

「さあ、これが最後の通告だ……大人しく――」

 

 

 

――ただ、好き勝手言われたのが気に食わないだけだ。

 

 

「うるさい!!」

 

 

その反抗は、トールにとっては少し予想外だった。

 

 

アルトリアの叫びと共に魔力の本流が地面から噴き出す。

 

その奔流にダメージは無くとも、驚かされたその隙に、再び頭に杖を叩き込まれる。

 

 

アルトリアは、自分の為には怒らない。

怒る事が出来ない。

 

それは、彼女本来の性格による所もあるし、そもそもとして過去に起因する自己肯定感の低さ故でもある。

 

だが、この旅はあまりにもストレスだった。

例え嫌いな妖精を救いたくは無くとも、使命だからと、世界の流れに逆らうこともできずに旅を続けてきた。

 

その精神的負担は尋常では無い。

 

救うと言う名の滅びという事実もそれに拍車をかけていた。

 

そんな中彼らの善意に触れ、正しい行いだと信じて旅をしていた。

 

だが、そんな旅路を彼によって泥を塗られた。

 

会うたびに罵倒される日々。

眠る度に襲い掛かる悪意を助長するかの如く鳴り響く雷鳴。それは間違いなくこの男のもので。

 

 

溜まっていた。

 

あまりにもストレスが溜まっていた。

 

それがトトロット(自分以外の誰か)がいざ本当に殺されてしまうという事なども合わさって爆発したのだ。

 

例え殺されようとも、言いたい事は言わないと気が済まない。

 

 

「さっきから勝手なことばかり!! あの人達だって救えるなら救いたいっていう思いはあるのに!!」

 

 

魔力の奔流に完全に飲み込まれたトールに再び杖で追撃をかける。

 

「私だって! こんなことやりたくてやってるわけじゃないのに!」

 

直接的なダメージは無いものの、再びトールを押し倒す事に成功し、倒れるトールにアルトリアはのし掛かる。

 

「今更!! 今更この世界の守護者みたいな顔をして!」

 

完全なるマウントポジション。

 

ダメージも無い。ありとあらゆる攻撃が効いていない。

にも関わらず甘んじてそれを受けるのは、トールの驚愕の表情が原因ある事は明白である。

 

 

「偉そうに勝手な事ばかり、言うなぁ!!」

 

 

 

それをアルトリアも対して気にせず、再び杖で頭を打ち付けた。

 

再びの凄まじい衝撃。

 

 

 

 

「何度も!」

 

 

杖で殴る。

 

 

「何度も!」

 

 

杖で殴る。

 

 

「悪口ばっかり!」

 

 

魔力を込めた杖度殴り続ける。

その衝撃で言えば凄惨たるものだが、頑丈なトールにダメージは無い。

 

 

 

「こっちの気も知らないで!!」

 

 

 

衝撃。

全くの無防備で受けるトール。

腹の上に乗る彼女を見ながら。

 

 

「アル、トリ……ア……?」

 

 

そう、呟いたのは何故なのだろうか。

だがアルトリアは気づかない。

再び杖でなぐりつける。

 

 

「もっと、違うやり方があったかもしれないのに!!」

 

言いたいことがあるだけ。

次のこの瞬間に殺されると言うこと自体考えていない。

その怒りを放出する。

 

再び杖を打ち続け。

流石のトールも頭から血を流す。

だが、トールはその流血にさしたる苦しみを出さない。

 

 

「あんなに、あんなに簡単に神様を倒せる力があるならもっとできた事があるはずなのに!!」

 

 

ただひたすらにアルトリアを驚いた表情で見つめるだけ。

 

 

「モルガンモルガン! あの人ばっかり!!」

 

 

だがアルトリアはその事実に気付かない。

 

 

「もっと別の道だってあるはずなのに――」

 

 

ただ吐き出すものを吐き出したいだけなのだから。

トールの表情など関係がない。

 

 

「……だったら」

 

 

 

その数度の打撃の後、初めてトールは口を開いた。

 

 

「だったら、どうすれば良かったんだ!!」

 

「――ッ!」

 

マウントを取られたままの叫び。

今のトールで有れば簡単にアルトリアをどかす事は出来るというのに。

 

彼はそのまま叫ぶ。

 

 

「大人しくモルガンが武器を渡せばよかったか!? このまま世界ごと消えますとでも言えば良かったか!?  交渉が決裂した? 本当は敵対したくない!? ふざけるな!! 妖精歴のモルガンを知った上で戦いをやめないどころかそのまま内乱を煽り続けたのはお前らだ!! 相手の事情を敬ってやれと言うのならお互い様だろ! 結局自分の世界の為にこの世界の奴らを綺麗事で犠牲にし続けたのはお前らだ! 結局自分の世界を優先してるのは変わらない!! 」

 

 

「あなただって自分勝手の癖に!」

 

 

 

「それがどうした! どの道滅ぼしていく癖に交渉が決裂したからしょうがないですみたいなツラをして!! それならまだ悪党ヅラして侵略してくる悪党の方が100倍マシだ!! 最初から殺し合う相手だ! 本当は滅ぼしたく無い!? だったら大人しく滅べ!! いちいち善人ヅラして!そんなくだらない偽善がお前らを殺さない理由になんかなるか!!」

 

 

 

「――っ! だったら! もっと早く止めてよ! どうせあの人達や私を殺すならもっと早くやってよこの悪魔!!」

 

「――ガッ!」

 

 

アルトリアは杖を投げ捨て拳をトールに打ち付ける。

楽園の妖精としての一撃はトールにダメージを与えるどころかアルトリアの手を傷つける。

杖の方が物理的な威力はあっただろう。

 

しかし、その拳はトールの骨身に浸透していく。

それは、思いという物が籠った一撃だからか。

 

 

あるいは、その瞳から溢れる涙に、彼女の慟哭に充てられたからか。

 

 

「こんな最後の最後に急に出てきて、偉そうにして! 何もかもあっさり壊して……! 簡単にこの星の厄災を退けて……! だったら……!最初から……っ!」

 

 

本来で有れば気を使う必要もない。

この世界の住人であると言う事で譲歩はした。

警告もした。

その上で逆らったのだから、このまま大人しく殴られる必要もない。

 

だが、トールは動かない。

拳を打ち付けながら訴えるアルトリアの言葉に苦しみを浮かべながら聞き入るだけ。

 

 

「最初から、あの時からいてくれればあの娘は……巡礼なんて、最初から止めてくれれば……あの娘も」

 

 

アルトリアは叩きつける手を止める。

啜り泣くその姿に、もはや何かに抗おうという意志は感じられない。

 

 

「巡礼なんかの為に、使命なんかの為に、皆……あの子も、ガレスちゃんも……! 死ななくて済んだのに……!!」

 

 

 

「――ガレス?」

 

 

 

『誰もが助け合い。認め合って、許しあって、自分を大切にして――まわりのひとたちも大切にする。そんな世界になってほしいんです』

 

 

脳裏によぎったのは鎧を着こんだ少女の姿だった。

 

その名を聞いて、途切れ途切れに思い浮かぶこの情景はなんだろうか。

 

自分の目から溢れる涙はなんだろうか。

わからない。

いや、きっとこれはマルチバース。

別の宇宙の話だ。関係などない。

同じ人間だろうと宇宙が別なら全くの他人だ。

 

――本当に?

 

そう、訴えかけるのは自分自身。

 

何かがおかしい。

この時間軸で会ったわけでは無いはずだ。

記憶に無い。

 

所詮は別の自分。のはずだ。

この自分には全く関係ない。そのはずなのに。

 

記憶の中の彼女との交流。途切れ途切れに思い浮かぶやり取り。しかしその時の別の自分の思い。彼女に対する温かさは本物で……

 

 

この実感はなんだというのか。記憶どころか体そのものに刻まれているこれはなんなのだろうか。

 

ガレスとやらが何らかの犠牲になったと、アルトリアの言葉尻から理解できるが、それを知った時のこの悲しみはなんだろうか。

 

 

その理解に戸惑っている間にもアルトリアの慟哭は続く。

 

 

 

「なんでよ……こんなあっさりあの神様を追い出せるなら、巡礼なんてする必要なかったじゃ無い……!」

 

 

「……」

 

 

その慟哭にトールは答えない。

どうすれば良いかわからない。

 

「最初からあなたが、あなた達がしっかりやってくれれば、あの子達は死ななかったのに……!」

 

彼女の訴えは自分の為ではない。

カルデアの者達でとない。

 

「なんで、そんな力があるのにわざわざここまで戦争を引っ張ったの!? もっと早く……! 私たちを止めてくれればこんな事にはならなかったのに!!」

 

彼女の訴えはこのシナリオによる犠牲者のためのもの。

 

「最初からやってよ……!!」

 

自分の世界の為に動かざるを得ないカルデアという別世界から侵略者。

 

力が足りなかったが故に非常な選択を取ったモルガン。

 

何よりも目覚めが遅かったが故にカルデアを滅ぼし、この戦争を止めなかったトールの落ち度による犠牲者。

 

 

「初めから――」

 

 

彼女の訴えは自分自身の為ではない、カルデアの為でもない。きっと、異聞帯と汎人類史、モルガン対カルデアの戦争の物語を彩る為に犠牲となった者達に対するモノ。

 

 

「私たちを――私を殺してくれれば、こんな事にはならなかったのに……!」

 

 

この時間軸のトールが無力であったが故に別の世界線のように救う事が出来なかった者達。

 

 

……同じだ。

 

 

彼女からすれば、自分は、ブレイントラストやTVAのような世界そのものを支配する連中と同じ――絶大な力で自分勝手に振る舞う彼らと同じ。

 

 

「あなた、神様、なんでしょう……!?」

 

 

その訴えはまるで神に対するもの。

救いを与えない神に縋るようなその慟哭。

 

よりにもよって何故自分を殺さないのかというその訴え。

 

 

「どうにか……してよ! どうせ殺すなら、あの子達の犠牲の意味が無くなるのなら! 最初から……!」

 

 

自らを犠牲にしろと言う、凄まじい訴えを、しかしトールは受け止められない。

 

 

「違う……」

 

 

そんな上等な者ではない。

創世の王の劣悪コピー。

破壊しか出来ない悪魔。

神の血を分け与えられようと、子として愛してもらおうと、所詮は義理でしかない。

何もかもが偽物。

 

できるのは愛する者達の邪魔をする奴等を滅ぼす事だけ。

 

その、滅ぼすという行為ですら、この妖精國の住人である彼女にとっては遅すぎた。

 

 

「俺は神じゃない……!」

 

 

――神は自分の事ばかり

 

 

それは誰の言葉だったか。

 

 

たしかにそうだ。

神は、神と名乗る者達は、結局自分とその大切な者しか守らない。先程のオーディンのように自分の大切なものの為ならばこの世界を滅ぼすどころか、自身の贔屓する世界に力をつけさせるためにその世界の住人の命を使って武器を作らせ、汎人類史の為にその武器を消費させる。まさに骨の髄までしゃぶりつくす。その為ならば他の世界でどのような暗躍をしようとかまわない。どれだけその世界の住人が苦しもうと構わないのだ。

 

それでも彼らは大切なものを守る事ができる。

 

だが自分は違う。

既にもう、殆どのものを取りこぼしている。

この世界の住人である彼女にもっと早く殺してくれとすら言われ、備え付けられた機能である滅びですら満足に与えられない始末。

 

 

「俺は神様なんかじゃないんだ……」

 

 

涙は出てこなかった。

 

 

悲しみよりも悔しさが勝っていた。

 

もっと早く目覚めていればどうにかなったのだろうか。

 

とっととカルデアを滅ぼしていればどうにかなったのだろうか。

 

そもそも巡礼など始めさせなければどうにかなったのだろうか。

 

あるいは、あるいは、あるいは――

 

 

「そうだったら良かったのに」

 

 

本当の(上位存在)であればきっと、全てを救う事は出来なくとも。

このくだらない世界の取り合いの為に犠牲となった妖精國の住人くらいは救えたはずなのに。

 

その願いを込めた一言に、アルトリアももはや言葉は無く、遠くでそれを見守るトトロットも答えない。

 

トールの悲しみの呟きに、その感情の吐露にアルトリアの怒りも治まっていく。

 

その悲しみにこもる無力感。

アルトリアはもはや自分の訴えも無駄なのだと、もはやどうにもならないのだと。

そうあきらめかけた。

その瞬間。

 

 

「――いや、お前は神であるとも」

 

 

――また、新たな気配

 

 

「!」

 

「――ちょ」

 

 

いち早く反応したのはアルトリアにのし掛かられているトールだった。

仰向けの体制から一気にアルトリアごと跳ね上がり、彼女を抱えながらその声の方へと振り返る。

 

声の主、その存在に今の今まで気づかなかったその迂闊さに自身を叱責しながら視線を送れば。

 

 

「またお前か……」

 

 

気配の主は賢人グリムの姿をしていた。

 

 

中身が違う存在だと看破したトールは、即座にムジョルニア を呼び寄せその手に収め。

 

 

「二度とこの世界に立ち寄るなと言っただろう!!」

 

 

グリム、いやこの世界の神。オーディンに向かって投げ飛ばした。

 

汎人類史のオーディン。モルガンの殺害を企て続けた暗躍者の一人。

あるいはロンディニウムでの出来事でさえ、汎人類史を勝利に導き、この世界の命を消費して武器を持たせるためにカルデアに聖剣や聖槍を渡すために仕組んだ可能性のある男。

 

全くの加減無し。

惑星すらも砕くその一撃。何があろうと防ぐことは出来はしない。

衝撃波を起こしながら放り投げられたムジョルニア はしかし――

 

 

目の前の男の手に、吸い寄せられるように、いともたやすくその手に受け止められた。

 

 

「なん……!」

 

男は受け止めたハンマーの柄を持ち、上に放り投げる動作で、ムジョルニアをもてあそび始めた。

馴染みの武器を気軽に扱うように。

 

 

驚愕。としか言いようがなかった。

ありえないと、トールは思考する。

 

先ほどのオーディンをスキャンしたからこそわかる。

彼は宇宙ではなくこの星の神。

根本的に存在が異なっている。

 

この宇宙どころか自分のいた世界の神と言われる者でさえこのムジョルニアを受け止められる者などそうはいない。

ムジョルニアを持ち上げるなど宇宙そのものを持ち上げるのと同じようなものだ。

父によってかけられた持つ者を制限する魔法は、もう一人の雷神(マイティ・ソー)とはまた違う制約。

ふさわしき者ではなく、トールの為にかけられたその魔法。

 

マルチバースである事を考慮したとしても、目の前の神にムジョルニアを制御できる力は無いはず。

 

その制約を超え、ムジョルニアを持つことができる存在などそうはいない。

思い浮かぶのは、アスガルドそのものでもある超大な力を持つ、マイティ・ソー(もう一人の自分)の宿敵であった死の女神ヘラ。

 

あるいは――

 

「まったく、二度と来るなとは、随分と荒んだものだ。 そもそもお主は初めから間違っておる。この地に降りたのは今が初めてなのだからな」

 

ムジョルニアに魔法をかけた張本人。

宇宙に存在する星。

神の国アスガルドの「オーディン」

 

 

「――父上?」

 

「久しいな、我が息子よ」

 

 

からかうように朗らかな笑顔を向ける目の前の男が、かつてのトールの父であるならば、ムジョルニアを受け止められるのもあり得ることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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