世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

9 / 90
お読みいただきありがとうございます。

今回から、一応は伏せていたクロスオーバー先の諸々を明確に登場させますので、その作品のタグを追加しました。


そして、ご意見、ご感想、評価、誤字報告など、度々ありがとうございます。

励みになります。


変わらずご意見等いただけると幸いでございます。


バーゲスト①

突然だった。

 

襲い来る住人達。

 

食い殺されていたアドニス。

 

どうにかして彼女を傷つけないよう。色々な裏工作をするはずだった。足りない頭で色々考えようとしていた。

その為ならば、どんな悪行もやっても良いと思っていた。

 

ただ、色々な事をこなすには、バーゲストが来るのが早すぎた。

 

だから、あの選択が精一杯だった。

 

後悔がないとは言えない。巡り巡れば自分がこのマンチェスターに来たのが原因で、巡り巡れば自分が存在しなければ、こんな事は怒らなかったとも言える。

 

 

彼女の、身の入っていない、攻撃を容易く弾く。

 

何も考えていないような。力だけを込めた意識のない一撃。

 

それを見るだけでも辛かった。彼女の絶望を感じていた。

 

言葉を交わし、剣と拳を交える。

 

突然に、彼女の動きが止まった。膝をつき、弛緩した身体。顔は俯き、表情は伺えない。

 

 

「ああ、ああああああああああ――」

 

 

そして、突然頭を押さえ始め、叫び声を上げたのだ。

 

何かが彼女に起きている。

 

頭を押さえながら、何かを堪えているような様子。

 

先程のやり取りは無かったように、精一杯、気遣うような優しい声色を努めて作り、声をかける。

 

「おい、バーゲスト?」

 

叫びは止まり、とうとう蹲ってしまった。

 

息は荒く、どこか苦しそうだった。

 

トオルの中に悪寒が走る。

 

そう、彼女の、内なる何かを押さえ込もうとしているような。この一連の動き。

 

 

 

まるで、聡明な科学者である彼が、緑色のアイツになるのを堪えているのを見た時のようで――

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーゲストの体から、黒い何かが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

それはまるで黒い泥のようで、質量保存の法則を無視した夥しい量が、彼女の身体を包み込んでいく。

その泥は、みるみる内に形を持ち、膨れ上がり、その躍動が収まってみれば――

 

 

 

 

 

 

10メートルは超えているであろう。獣の形となっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれ……」

 

安い台詞しか出てこない。

 

トオルの目の前に突如現れた、黒い巨大な獣。赤い牙に赤い爪。本来の獣で有れば毛の生えてるはずの表面は、黒い泥のようなもので構成されていた。

所々に見える赤いひび割れは肌に当たる部分なのだろうか。

 

何にせよ、自身の知る彼女、バーゲストの面影はカケラもなかった。

 

これが、彼女の正体なのか、それとも何かに取り憑かれたか、彼女の捕食衝動がここから来ているのは想像に難くないが、元に戻すことは出来るのか。ぐるぐると頭の中を様々な考察が駆け巡る。

 

――どうするどうするどうする

 

そう、対策を考えてる内に、獣が前足を振りかぶった。その攻撃の予兆に。トオルは反応ができなかった。

 

避けるか、防ぐが。選ぶ間も無く。

振り上げた前足を振り下ろす。単純な物理攻撃。

それを、トオルは、力を受け流すような余裕もなく、両手を上に上げて、振り下ろされるソレを受け止めるしかなかった。

 

ヤバ――っ

 

体全体が悲鳴を上げる。

 

「ぐぅっ――」

 

身体中が軋みを上げる音がする。

 

「グッ。ガアアアァァぁぁっ!!」

 

押し返す為でなく、自身が潰されないようにする為全力で力を振り絞る。叫び、声を絞り出す事で精神的に己の限界値を高めていって尚、そこが限界だった。

 

振り下ろしの攻撃は一旦収まり、地面にめり込んだ足を引き抜いた瞬間には下から同じ右前足が迫っていた。

 

これを頭だけは失うまいと、体を捻り、衝撃を殺すよつ、後ろに飛ぶが、やはりある程度しか衝撃を和らげる事は出来ない。

 

息が止まる。意識が飛びそうになる。

 

凄まじい質量差にはいくら鍛え上げた体とて。ヒトを超越した肉体とて、全くの無対策で耐えられるほど、獣の攻撃も弱くはない。

 

なす術もなく、空中へ打ち上げられる。

 

まだ、死ぬ程の致命傷には至らない。

 

打ち上げられ、どうにかして対策をと次の対応を模索する為、空中へと顔を向ける、獣と目があった。

 

感情の読めないその眼には涙が確かに流れていた。

 

「バーゲスっ」

 

その目に彼女の面影を感じ取り、たまらず声を出した時には、既にその大きな口が開いていた。

 

その喉の奥から凄まじい熱量を感じ取る。

 

その熱量がそのまま吐き出されれば、トオルの体は間違いなくただでは済まない。万全の状態であれば耐えられたかもしれないが、今のトオルには耐えることは不可能だ。

 

そう本能で感じ取った。

 

 

――死

 

 

その一文字が思い浮かんだ所で

 

 

獣の口から、炎の吐息が吐き出された。

 

 

 

 

 

 

⁑

 

 

 

 

 

 

「アレは、ノリッジと同じだ! 妖精國を滅ぼす厄災!!」

 

 

ダ・ヴィンチが叫ぶ。

 

 

目の前には巨大な獣。黒い泥に覆われたそれは、ノリッジで出会ったあの厄災と同様のものだった。

 

 

「うそ……」

 

 

アルトリアが放心している。

 

 

突然に放たれた厄災。予言にもないこのタイミングで現れた。その厄災が目の前に君臨している。

 

その圧はノリッジのものに勝るとも劣らない。

凄まじいほどの絶望感。

 

複数の鐘を鳴らしたアルトリアでさえ、対応できるかどうかは未知数だ。

 

 

「アルトリア……」

 

 

藤丸立香は放心し、震えているアルトリアを覗き込む。

 

恐らくではあるが、アルトリアはバーゲストとは既知の間柄。

 

そんな存在がこの妖精國を脅かす厄災へと変貌した。

 

その衝撃たるや、立香の比ではないだろう。

 

どう声をかけるべきか、思いあぐねていると、別の衝撃と爆音が襲いかかる。

 

音源を見れば、件の男が厄災の獣の前足を力付くで受け止め、持ち上げている所だった。

 

どうやらあの巨大にある程度対抗できるほどの力を持ち合わせているらしい。

 

一同に別の意味で衝撃が走る。

 

「彼、本当に、一体何者なんだ!?」

 

「言ってる場合じゃねぇ!!アイツ、やられちまうぞ!!」

 

そう村正が叫んでる間に、男は既に打ち上げられていた。

 

獣の開いた口から、赤い何かが発光しているのを確認する。

 

遠く離れていても感じる程の熱量。アレがそのまま彼に向かって吐き出されようとしているのは明確だった。

 

 

「ダメ……」

 

呟いたのはアルトリア。

 

「ダメ――っ!!」

 

今までの沈黙の反動のように、勢いは強かった。

たまらずアルトリアが駆け出そうとするのを、村正が止める。

 

「馬鹿野郎!迂闊に飛び込むんじゃ――」

 

「ダメだ、間に合わない――!!」

 

 

叫んだのはダ・ヴィンチだ。

 

 

 

誰もがその瞬間に絶望していた。放たれる熱線。

 

いくら彼でも、無事では済まない、それこそチリすらも残らず蒸発しているだろう。

 

 

「なんで、なんで?何でまた――!!」

 

叫びながら、崩れそうになるアルトリアを村正が支える。尋常ではない様子に、聞き出したい事はあるのだが、アレが襲いかかってくる次の対象は自分達だ。

 

彼の事は残念でしかないが。切り替えなければ自分達が死ぬのだ。それに備え、あの砲撃の如き熱線がこちらに向く可能性を考えながら身構えなければならない。

 

熱戦は、空中に放り出された彼を捉え、獣は微塵も首を動かさず。熱戦は彼を捉えそのまま空へと吐き出されていく。

 

どれ程時間がたっただろうか。

 

吐き出し終わったのか、全てを焼き尽くす熱線が細まっていく。空気すら焼き尽くす砲撃は、こちらも喰らえばタダでは済まない。

 

その直撃を喰らった彼は、既にもう――

 

そう思考しながらも、目を逸らすわけにはいかないと、彼の残滓を確認しようとした途端。

 

 

 

 

藤丸立香は驚愕した。

 

 

 

 

その視線の先には、先程の放たれた熱戦に劣らない程に、派手な赤い色をした。

 

 

 

 

――鋼鉄の人間がそこに居た

 

 

 

 

 

⁑

 

 

 

 

 

 

 

見ただけで、目が焼かれると思うほどの高熱に本当の意味での死を覚悟した。

 

空中に吹き飛ばされ、重力の影響を受け、自由落下している筈の風景が非常にスローモーションに見えている。

 

獣の口から熱戦がゆっくりと迫っている。

 

全ての時が止まった様な世界。全力で動いた時、同じような感覚に陥る事はあるが、今の自分は完全に死に体。

これ程無防備なスローモーション体験は久しくしていない。

死を目前に走馬灯のような現象が起きているのかと他人事のように思っていた。

 

だからだろう。荷物としてとっておいたはずの、使い道のわからなかった(・・・・・・・・・・・)ブレスレットがいつの間にか右手首に装着されている事に気づけたのは。

 

そのブレスレットから粒子のような物が放出されるのを確認する。

 

その粒子が纏わりつくように自身の体全体を包み始め、獣から感じていた熱を遮断していくのを感じ取り、粒子が体全体を包んだ瞬間、自身の意思とは別に体が動き始めた。

 

空中で横になっていた体が半回転、体は垂直になり、左腕が持ち上がる。真っ赤な手甲(・・・・・・)に包まれた手にはどこから出て来たのか体と同じ大きさの半透明のシールドがあった。

 

吐き出された熱戦が体に到着するまでの一瞬で、その全ての挙動を完結させ、シールドがその熱戦を防ぎきる。

 

 

状況を把握するのに数瞬。ひとまずは無事だったと認識した途端。

 

 

 

 

 

 

 

『登録者。Thorによる起動承認を確認』

 

 

 

 

 

 

 

 

女性の声が頭に響いた。

 

 

 

 

 

 

『私はあなたの目』

 

 

 

 

『あなたの耳』

 

 

 

 

『あなたの口』

 

 

 

 

『あなたの腕』

 

 

 

 

 

『あなたの足』

 

 

 

 

 

 

『私の名はV2N』

 

 

 

 

高圧的なような、慈悲深いような、どちらにしても、懐かしさを想起させるような声で――

 

 

 

 

その名をトオルに刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

⁑

 

 

 

 

 

 

 

『ほらこいつにこいつにこいつにコレだ。沢山ある。君の為に色々用意しておいたんだ。遠慮なく受けとってくれ』

 

 

『何せ、一緒に銀河を救ったよしみだ』

 

 

『これからの君の旅路に餞別というヤツだよ』

 

 

『そら、価値で言えばとんでもないぞ?国家予算どころか地球が一つ傾くくらいだろう』

 

 

『なんでここまでって?』

 

 

 

『あー そうだな。まあ、正直な所荒唐無稽な話だ』

 

 

『異世界から来た君もそうだが、サーファー君みたいな神様モドキや、ストレンジのような手品師と出会わなければ、馬鹿な事だと思ったんだろうが』

 

 

『僕は……僕たちは、この地球は、いや銀河か? まあとにかく。君がいなければもっと大変な事になっていた気がする』

 

 

『何故かは分からないが確証はあるんだ。現に君がいなければ危なかった。なんて場面も多かった』

 

 

『僕が君を助けたこともあったって? それはわざわざ話すことでもないだろう。僕からしたらそんな事当然で、簡単な事だ。何せ稀代の天才メカニックで、優秀な実業家。博愛主義者、奥さんだって最高だ』

 

 

『なんてな――』

 

 

 

『まあ、そういう事だ。君の言葉を交えるなら皆がお互いに命の恩人で、お互いに宇宙を守った仲間だよ』

 

 

『君だって逆の立場なら君にできる事をしているだろう? 離れていても、僕達はチームだ』

 

 

『全く、こんな台詞。キャップみたいだ……』

 

 

『――と言うわけで素直に受け取り給えよ』

 

 

『ああ、君は確か向こうに行ったら記憶を無くす可能性もあるんだったか』

 

 

『なら、君の優秀な相方達にそこら辺は相談しておこう』

 

 

『出自からして怪しいAIだが、今となっては羨ましいくらい最高の相棒だよ、彼女は』

 

『まあ、ペッパー程ではないが――』




V2N

サポートャラ。超超超優秀。ネーミングセンスは彼がMARVEL世界で見ためちゃくちゃ古い映画(ピーター・パーカー談)から。

MARVEL作品をどれくらい触れていますか

  • MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
  • MCUの映画は全て視聴済み
  • MCUの映画を1本以上観た事がある
  • 一度も触れた事がない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。