主に承太郎向きの悪ふざけ話です。
エシーンもどきが書きたかったので書きました。(全然エではないです)
「なんでモテんのに彼女作らないんだ?」
タバコくっせ、と手で払う仕草をしながら彼が顔を顰めて唐突に聞いてくる。その質問があまりにも答えるに下らないもので「知らねえ」と答える。隣にいる冷静な友人も「…はぁ」とため息で返す。
「知らねえわけないだろ。自分のことなのに」
「聞いて何になる」
「そうですよ」
「モテすぎて引く手数多なやつの目線って気になるじゃん。どういう感じで女の子見てんの?」
「…暇だな、お前」
質問の意図もやはり下らない動機からだった。男子高校生ともなれば頭の半分が遊びか女かのことしかない。コイツの場合は部活も入っちゃあいるが、口を開ければしょうもないことばかり言っていることが多い。
実家が剣道道場を営んでいるという背景から、剣道部主将を務め、全国大会優勝経験あり…『刃金 豪』という名前も合わせて、周りが抱く彼への想像図は力強い男そのものだ。しかしそれは理想でしかない。彼を知る人間からすれば、彼は口は開けないほうがいいとまで言われるほどだ。
特に自分と彼の共通の友人である花京院に『喋ってると僕の偏差値まで下がる気がする』とまで言わせるほど、彼が何を考えているか分からない。
そうまで言わしめた会話の例がこれである。
『花京院…さくらんぼの実の右か左、どっちが好きだ?』
『はい…?』
『どっちが好きかだけ答えろ』
『えぇ…?では、左…』
『左か…甘いな、花京院…』
『なに?』
『このさくらんぼ、左の方が右よりデカイだろ。つまりだな…右より先に生まれた兄貴に当たるんだぜ…うぅっ、後に生まれた…弟を待って…このさくらんぼは…っ!それを!ただ食うだけの俺たちは…一体…』
…とまぁ、花京院が頭痛を訴えるほどのくだらない会話をする。周りが思うような堅物で日本男児のようなイメージは…正直言って無い。
今だって彼女を作る作らないの話の前は『千円札に承太郎が載ったら面白いのにな…』である。
「剣道に賢さを全部持っていかれたんじゃあないですか」
「………かもな」
「馬鹿、剣道だって頭使うぞ」
「…お前の場合力で押してるだけだろ」
そんな会話を毎日繰り返していた。
「下らねーこと言ってないで帰るぜ」
「承太郎、もしかして海外級美人狙ってるつもりか?学校に居ねえ美女を狙うとはさすがだな…男として負けらんねえよ」
「どこで張り合ってんだ」
本当に口を開けば、頭が悪くなるようなことばかり言っている。そのくせ、防具をつけて竹刀を振る姿からはそういう馬鹿らしさは一切ない。
帰るぞと声をかけたが、彼は席から立ち上がらなかった。どうやらまだ納得のいかないところがあるらしい。花京院は呆れ極めた目でどうでもいいとばかりに見ている。
「承太郎とか花京院の目から見た女子ってどうなってんだ…D組の白井さんも三年のマナミさんだってチヤホヤしてるのに…」
「…白井って誰だ?」
「マナミ?」
「嘘だろ?もう目線高すぎて見えてねぇのか…庶民の女なんて話にならないと…」
「そこまで言ってねぇだろうが」
「庶民の女って言い方はよせ」
白井やらマナミやら、名前を聞いても誰なのかピンとこない。よく自分を囲って黄色い声をあげる女子の顔は把握しているが、それ以外の女子のことまでは知らない。靴箱に手紙が入っていることもあったが…中身は読んでいない。
大抵ああいうのは送った奴の自己満足、みたいなもので留まっている。返答が欲しくて実際聞きに来たやつもいるが数える程度でしかないし、よく知らない女子から交遊を求められても答えに困るのが本音だ。
要するに承太郎は、お互いのことを知ってからお付き合いを始めようという見た目の割に超堅実派だった。花京院もそれに同じ。
本気で気持ちを込めて自分に言い寄る女が、あまり滅多に現れないのだ。自分が目立つ見た目をしているのは嫌でも分かっている。その見た目の派手さに周りに倣って同じように騒いでいるだけ…にすぎないのがほとんどだろうなと思っている。
それを言えば剣道部主将という肩書きを持った彼の方も人気があっておかしくないんじゃないか、と思うのだが。彼の方こそ彼女がいないのもまた不思議なものだ。
「お前こそ作らねーのか」
「部活忙しいしな。彼女作ったら両立できないし」
「意外と真面目なことを言うんですね」
「…まともな理由じゃあねーか」
「お前たちにキャーキャー言ってる女子が俺になびくかもしれないから、その時を待ってる」
「……感心した俺が間抜けだった」
「馬鹿ですね」
感心した気持ちを真っ向から砕いた彼の言葉に聞いて損したなと思う。花京院は毒舌を隠しもしない。
「結局どうなんだよ?何で作らないの」
「…めんどくせぇ」
「花京院は?」
「右に同じ」
「女の子ってめんどくさいもんだろぉ、それを可愛いと思えねぇと」
「そういうお前こそ、部活に時間割けねえから面倒くさがって女と付き合わないっていま言ったんじゃあねぇか」
「あ。…うるせー!揚げ足取んな、揚げ太郎って呼ぶぞ」
「あ?」
「君は剣道一筋だろ?実家のお手伝いよりも彼女に尽くせたりするのかい?」
「…うーん………爺ちゃんがなぁ…」
「ほら、やっぱり君にも彼女を作れない理由はあるんだよ」
「俺を語るな花京院!!」
「別に語ってないさ。僕は君について語ることなんて一ミリもないよ」
「(花京院の毒舌が冴えてやがるな)…」
部活すら終わって、生徒達が引いている教室で三人残って下らない話をしている。そこに教員が入ってきて「お前ら早く帰れよ」と声をかけてきたので、そろそろ帰るぞと花京院と二人で彼に催促した。
彼女を作らない理由を聞き出せて満足したのか、彼は竹刀袋を肩に引っ掛けて帰るかと言い、三人して校舎を後にした。
「じゃあ要するに、めんどくさくなくて、時間を割く必要がない彼女なら俺たちには合ってるってことか」
帰り道を歩きながら彼はぽつりと言い始める。
まだその話続いてたのかよと思いながらそうかもなと適当に返事をする。
そんな都合の良い女がいるだろうか。女はそもそもめんどくさい生き物であって、なおかつ時間にはシビアな時もあればルーズな時もある。
そういうのと付き合うのを考えると…、誰かとつるむのならば、時間は気にしなくていい、付き合うために気を使う必要のない男友達の方が楽だと思うまであった。
「いなくねぇか」
「…いねーな。そんな楽な女は」
でもよぉ、と彼は何かその先に言葉を続けるような口振りで自分たちを見上げて言う。肩にかけた竹刀袋が自分の肩にぶつかった。垂れ目の奥の瞳がこちらをじっと見る。
しばらくこちらを見て、でもよ、と切り出したその続きを聞くためになんだよ、と聞くが彼はふいと前を向いてその言葉の続きを言った。
「俺が女なら、彼女になりてーって思うかもな。お前らに」
…何言ってんだ、いつも妙なこと言いやがって。とツッコミを入れるべきか、と思うのと同時に、お前らに、という言葉に引っ掛かる。
会話や言葉の意図が分からないのはいつものことだが、どうしてそんなことを突然言い出したのかが分からなくて言葉を発せずにいた。
「ま、冗談だけど」
本気にした?いや〜ん、とわざとらしい色のある声を出して身体を竹刀袋で小突いてくる。「本当くだらないな君は」と花京院は心底呆れた表情で(もはや疲れている)拳で軽く殴るようなふりをしている。
「…そうか。お前が女なら、俺の彼女になるのか。悪くねーな」
「えっ承太郎?」
確かに馬鹿ではあるが、普段から静かなところは評価できた。特に竹刀を構えた時の冷静な目は普段から想像つかない分、その表情の精悍さに磨きがかかる。そのままの彼なら、女になったとして別に違和感はない。なら悪くないかもな、と思った。半分冗談も交えた回答のつもりだったが、普段そういうことを言わないせいで、素で言ったのかと勘違いして頭の悪さが移ったのか!?と花京院は横で大騒ぎしている。
言い出しっぺである彼は、「マジで?」と抜けた顔をしている。まさかそんな返答が来るとは思わなかったんだろう。
「ちょっとドキドキしちゃったわ」
「気持ち悪いな君」
「女子体験RTAだよ。承太郎に恋する女子ってこんな気分か。女殺しすぎね?」
「そんなものを承太郎相手に体験するんじゃあない」
「花京院にするのはいいのか?」
「やめろッ、気色悪い」
花京院は頭の悪い会話に頭痛がするのか、片手で額を抑えながら彼の口喧嘩に付き合っている。
なんだかんだ言いつつ、花京院も彼にはまた別の一面を見せているところを見るからに、彼に対して本心から嫌がっているわけではないのだろう。
それはある意味友人として、ライバルのようなそれとも思わなくもない。彼はどちらに対しても仲が良いが、先に名前を呼ばれると内心嬉しいと感じることも最近ある。
だから、女でなくてもと思わなくもないが普段から頭の緩い彼に捻ったことを言ってもどうせ理解しない。
花京院になよなよと腰をくねらせて女のフリをする彼と、助けてくれ!と救いを求める花京院の二人を見ながら、やれやれと呆れるのだった。
彼が部の大会に出場するというので、それを観戦に行くことになった。母が日本の文化が好きで、剣道と見ればサムライ!と言うほどなので、母を連れて観戦に行った。母が一緒に、と言うので花京院も併せて来ていた。
「あ、来たわよ!承太郎!」
入場して来た豪はいつものふざけた空気は一切出さず、背筋を正して前に並ぶ敵対高の部員たちを睨んでいる。彼は他校から『鋼の主将』と呼ばれており、その名の通り竹刀がその胴や頭に届かないほど圧倒的に強いのだ。
ホリィは豪の姿を見て「かっこいいー!」と叫んでいる。並んで見ている花京院も「普段からあれぐらいでいれば良いのにな…」と苦笑していた。
彼は一旦挨拶が終わって控えに戻ると、こちらをチラリと見上げた。目があったらしいホリィは手を振って頑張ってねー!と彼を応援して、彼もそれに気づいて手ぬぐいを持ちながら軽く手を振って返していた。
何度も言うが、普段馬鹿げている分、今は主将スイッチが入っているから倍でサマになって見える。むしろ道着を着て防具を身に付けていると学ランを着ている普段よりも身体つきが分からないうえに、たまに見える鎖骨や腕に妙な気分にさせられる。お前が女でなくても、別に悪くねぇんだがな。と腹の中で思いながら、その日の試合を観戦した。
結果は彼が勝った。一度小手に食らったようではあったが、その一撃に怯むことなく豪は相手の面に力強い一太刀を食らわせた。まさに鋼、そう言わせるような試合だった。
試合を終えた彼は汗を滝のように流しながら歓声に応えていた。やはり彼にもそれなりに女子が囲っている。それを静かに見ている自分に対して、ホリィと花京院は撮った写真に盛り上がっていた。
「豪先輩、今日の試合お疲れ様です!これ、レモンのハチミツ漬けなんですけど…良かったら…!」
「ありがとねぇ、俺これ結構すき」
「ほ…本当ですか!?また今度作って来ます!」
「おー、ありがと」
あれか。アイツは無自覚垂らしなのか。自分たちばかり女がわいわい騒いでいるみたいに言っていたが、あんな風に差し入れをもらって、彼に赤面する女子がいるのだ。引く手数多なのはお互い様だろうなどと考えていると、彼の様子がいつもと違うのに気付いた。
へらへらと笑っているのには変わりないが、左腕を一切動かそうとしない。右手には先程もらった差し入れのタッパーを持っているが、他にもまだ差し入れを持ち寄っている女子たちと会話をしながら、なかなか受け取ろうとはしなかった。
先の試合での小手の一撃を思い出す。まさか、と思って女子の波を割って入り、彼に近づいた。
「え、ジョジョ?」
「承太郎も見に来てたの?」
周りの女が一斉に彼から話題を逸らして自分の方へと関心が向く。それを無視して、彼の左腕を触った。すると彼は少し眉根を寄せる。やはり痛みがあるらしい。
「ジョジョー、アタシたちとこれからどっか行かない?」
「豪さんも一緒にどうですか?」
女はそんなことは知らずにワイワイと誘いを立てているが、それが今は鬱陶しくてやかましいと一蹴した。「せっかくの誘いなのに」と彼は小言を言うが、「俺まだ練習あるからごめんね」と自分の肩から出て彼女達に謝った。
控え室まで荷物を持ってついて行く自分に「お母さんと花京院置いて来ていいの?」とふざけたように言うが、無視してそのままついて行った。
「左腕、動かねーのか」
「動かないわけじゃないけど、ちょっと動かすと痺れるだけです。一日寝れば治るね」
「折れてる可能性は?」
「ないない、今までこういう事あったけど、翌朝には治ってる。安静にしときゃ平気」
彼の右手でずっと握られたレモン漬けのタッパーを奪ってベンチに置く。そして彼の身に着けている防具に手を掛けた。
「は、え?なにしてんの?」
「着替えできねーだろうと思ってな」
「いや、そんくらいはできるって」
「無理に動かしたら治りが悪くなるぜ」
「お、おい」
右手で俺の肩を押してくるが、片腕ごときじゃ大した抑えにならない。そのまま無理やり紐を解いて、彼の首から引っこ抜いた。
汗をかいて道着の色が少し変わっている。痛みでかいている汗もそこに混じっているのだろう。本当に骨が折れてないのかと心配してもう一度聞くが、もう良いって!と彼は聞かない。
「身体拭くぞ。そのままジャージ着たら気色悪ぃだろ」
「良いって、マジでいらねー!」
「怪我してんなら、しょうがねぇだろうが」
「だからって承太郎がそこまでする必要あるか?!」
それは無い、が。
「お前をほっとくようなダチじゃあねぇよ、俺は」
「…急に友達ムーブかますなよ…びっくりした」
「お前言ってたろ、女なら俺の彼女になりてぇと」
「…なりてーっつーか、俺が女ならそう思ってるなって話ね」
「俺もてめーが女なら彼女にしてるぜ」
「あらやだ。両思いじゃないのあたしたち」
「別にお前が女じゃなくても、俺はお前が“男で、そういうやつ”でも良い。だからお前の世話を焼いてる」
「そういうやつ…は、…はぁ!?あれはただの、悪ふざけの話だって!」
「悪ふざけだからって全部嘘って訳じゃあねぇんだぜ」
良いから服脱げ、と彼の道着に手を掛ける。左腕がいうことを聞かないせいで身動きがうまく取れない彼は、されるがままになっていた。ベンチに身体を押し付けているせいで、彼はいつの間にか身体を横たわらせていた。厄介なことに道着の下にも黒いインナーを着ている。そのインナー越しに身体に触れると、彼はかすかに身じろいだ。インナーの裾を引いて、思いっきり上にたくしあげようとしたその時、
ドアをノックする音が聞こえた。
『…刃金?承太郎もそこにいるのか?』
花京院の声だった。花京院には悪いが、思わず舌打ちをこぼす。身体を横たえていたはずの彼は腹筋だけでいつのまにか起き上がっていて、「ど、どしたー?」とドア越しの花京院に返事をする。
『豪、きみ今承太郎と一緒にいるのか?』
「い、いや?別に?なんで?」
『ホリィさんが心配しているから探しに来たんだ。もしかして君のところにいるんじゃないかと思って』
「…いや?見てねーよ」
『どこに行ったか分かる?』
「とっ、トイレじゃね?腹痛とか?」
『あぁ…そう。まあ、分かった。それはそうと、ホリィさんが自宅で食事を賄ってくれるそうだ。君も来るだろ?』
「あ…おう。多分」
『じゃあそういうことだから。僕とホリィさんは承太郎と君待ちでその辺りで待ってるよ』
花京院はそう言うとドアの下から立ち去ったのか、一気にしんと静まり返った。彼はハァ〜〜…と大きなため息をつくと、パタリと元のベンチに身体を倒す。
「おい、お前…」
「やめろ、言うなって」
彼は左腕で顔を隠してこちらに目を合わせない。どうして俺が居ない体で嘘をついたのか、気になるなと思って追求したいが、彼はしばらく口を結んでいた。
しばらくしてインナーに手がかかったままの俺の手を、自由な方の右手で触って来た。
驚いて思わず手を離しかける。
「…身体、拭いてくれんだろ」
俺腕利かねえから、悪ふざけついでにやってくれよ。と彼は言う。
「…お前、誘い方下手か」
「…っせーな!…だぁー!お前なら良いやって思っちゃう俺やだ!浅ましい!」
「最後までヤらねぇよ」
「さっ、最後ってなんだ、何言ってんだおい!」
練習を重ねて筋肉が綺麗についた腹筋に流れる汗を見て、こういう悪ふざけも悪くねえと思いながら、彼の身体を丁寧に拭いていった。
腕を怪我した、と花京院に事情を説明して、どうにか納得させた後、家に行ってふるまわれた料理を食べた。…のは良いが、「風呂は?入れるか?」と聞いて来た承太郎に「そこまでは無理だろ!」と大声をあげて逃げたのは、また別の話。