「んじゃ、ボーガンにマーチ……。今からとっておきの作戦を伝えるぜえ……」
赤茶色の長い髪をした小柄のウマ娘――バニータルーブルは、後輩二人の肩に腕を回し、さながら円陣を組むようにして、二人にそう囁く。
「はい……っ!」
どこか緊張したように力強くうなずく、バニータルーブルと同じ背格好の鹿毛色のボブカットのウマ娘――キョウエイボーガン。
「わ~、何だろうね~。楽しみ~」
それにやや遅れて、他の二人よりも身長の高くモデル体型の黒髪ポニーテールのウマ娘――アントレッドマーチが、どこか間延びした声で応える。
五月ももう終りを迎えた今日この頃――。
練習場のトラックの中で、ボーガンたち三人は、これから始まるチーム対抗レースの作戦会議の真っ只中であった。
二チームに分かれての、三対三の対抗試合。
このレースは通常の形式とは違い、チームメンバーの内誰か一人が一着になればそのチームの勝利となるので、個人個人でバラバラに走るよりも、戦略を立ててチーム一丸となるのが勝敗に左右される。
ボーガンたちは対戦相手側にこちらの作戦内容が聞こえないよう、みんなで団子になって小声でヒソヒソと話し合う。
「――作戦の内容はわかりました。うまく行くといいですけど……」
「ま、外れたなら外れたで、別にいいさねえ」
作戦の立案をし、かつメンバーの采配を示している、この中では一番の上級生のルーブルであったが……その様柄は、どこか異様であった。
本来であれば威厳のようなものがその風格に現れるであろう。
しかし体格的に大差がないボーガンはともかく、マーチとは肩幅がたいぶ合わず、どこか『小さい妹がお姉ちゃんにぶら下がっている』ような光景にも捉えられ、その絵面はどこか微笑ましかった。
「誰が小せえだとぉ!?」
「え――どこに向かって言ってるんです、ルーブル先輩……?」
突然、虚空に目がけて怒鳴りだした先輩に対し、ボーガンは気でも触れだしたのかと心配する。
「いや、何でもねえ。空耳だったみてぇだ……。いけねえ、いけねえ、どうも
と言って、ルーブルは頭をポリポリとかく仕草を見せる。
一般的にレース前のウマ娘は、神経質になりやすいと言われているが、先程まで堂々としていたあの
「そうッスよ、ルーブル姉御。余計なことに気を取られていると、足元をすくわれるッス! 集中、集中ッス!」
先程まで三人だったはずなのに、どうやったのかいつの間に円陣に加わっていた白髪のショートヘアーのウマ娘――オーサムラフインが、ルーブルをたしなめるようにそう言い放つ。
「……なんでおめえもしれっと混じっていやがんだ?」
急に混ざってきたラフインに対し、ルーブルは冷ややかな目線を送る。
「えーひどいッスよー。ボクもチームの一員じゃないッスか~」
ぶーぶーという擬音が似合いそうなぐらい、ふくれっ面を見せながら不満を漏らすラフイン。
しかしこの集まりは元はこのボーガン、ルーブル、マーチの三人だけだった。
そしてこれから始まるチームレースに出るのもこの三人だけである。
つまり……ラフイン一人だけ出走せず、チームにまったく貢献しない形となる。
しかしそれはハブられたとか、そういったものではなく、あくまで本人の意志によるものだった。
「んなこと言うなら、今からでもマーチと変わっておめえが出るかあ? ああん?」
ちょっとイライラしているのが分かるぐらい不機嫌そうにルーブルがぼやくが、当の
「いやぁ~それはもう決まったことじゃないッスか~。まーでもー、出来るならボクも出たかったッスけど~、相手のチームが三人だけだからしょうがなくボクが~みたいなッス~」
その白白さにその場に居た全員が絶句する。
三対三の対戦に決まった際、こちらのチームの選出をどうするか……という相談の場で、「じゃあボクが抜けて、サポートに回るッス!」と、ラフインが光の速さで辞退してきたのだ。
その他を寄せ付けない圧倒的な身の振り方に、誰しも呆れて物が言えず、「あ、うん……」とその申し出を受けることとなり、必然的に残ったボーガン、ルーブル、マーチに決まった。
「いやー出たかったなー、ホッッッント残念ッスよー」
などと言う割には、顔がニヤけているのが丸わかりである。
「あ――みんなはボクも分までしっかり頑張るッスよ、応援してるッスから~♪」
もはや誰にでもわかるであろう。
そんな超ウキウキな声で饒舌に語っているラフインを見て、”レースに出れなくて残念などと微塵にも思っていない”、と――。
「……もう我慢ならねぇ、オレは今からおめえのケツを引っ張ったく! そこになおれぇっ!!」
「ちょ――ルーブル姉御、目がマジで怖いッス。ほんの冗談じゃないッスかーっ!?」
己の身の危険を感知したラフインは、一目散に逃げ出した。
「うるせぇ! このスットコドッコイッ!!」
獰猛な獣と化したルーブルは、目を血走らせながら生意気なお調子者の後輩に噛みつかんばかりの勢いでその後を追いかける。
二人はどこぞのネズミとネコのドタバタコメディ海外アニメのように、なぜか近場の同じところをぐるぐる回りながら、追いかけっこをしだす。
「あはは~。ルーブルちゃんもラフインちゃんも、仲良しだね~」
「え――あ、うん。そう……なの、かなぁ?」
傍から見れば猛獣に追い回されている哀れな子羊の図で、とてもそんな和気あいあいと感想が出るものではなかったが、もう毎度のことでだんだん感覚が麻痺しかけていた。
毎回調子に乗って虎の尾を踏むラフイン、激高してラフインをとっちめようと追い回すルーブル、そしてそれをのほほんとマイペースに見守るマーチ。
ボーガンもだいぶこのチームになじんできており、これが『いつもの光景』と思えるほどに、彼女らと交友が深まっていた。
「オーホッホッホ――!」
いつまでやってるんだろうか、と、ラフインとルーブルのやり取りをぼーっと眺めていると、そんな高笑いがボーガンたちの背後から聴こえくる。
振り返るとそこには、黒髪の前髪ぱっつんで、両脇に結んだ縦ロールの特徴的な髪型をしているウマ娘が、口元に手を添えながらどこか高貴な出で立ちで佇んでいた。
「皆様、御機嫌よう。あらあら……これからわたくしたちと勝負という時に、お仲間割れですか? なんとお見苦しいですこと!」
と言って、彼女はもう一度「オーホッホッホ」と、高笑いをして見せた。
向こうは勝負前のちょっと煽り文句を入れたつもりだったのだろうが、ボーガンはそちらの指摘に何も言い返す言葉がなかったので、逆にお騒がせして申し訳ないとすら感じた。
「あ、うん……待たせちゃってゴメンね」
あれはこっちのチーム独特の準備運動なんですよーと、とぼけようと一瞬思ったが、素直に白状した。
そして確認の意味も兼ねて、相手チームの様子をチラッと伺ってみる。
すると向こうは作戦会議や準備もろもろをすでに終えてあるようで、スタートラインで揃い踏みしていた。
どうにもこちらの準備が終えるのを待っているような状況だ。
察するに、催促を兼ねてこちらの様子を見に来た――というところであろうか。
「あー……もうすぐ終わると思うからさ、多分。……えーっと、
「ヒダカベルベットですわ! いい加減に、わたくしの名前を覚えなさい!」
すかさずそう強く指摘すると、機嫌を損ねたのか両手を腰に当てながら、左斜四五度の完璧な角度で「フンッ」と、拗ねてみせる。
妙な成り行きではあったが、今日はそんなクラスメイトの彼女が率いるチームと、チーム対抗レースが行れる。
なぜ彼女――ヒダカベルベットたちのチームと勝負をすることになったのか……。
それは数日前ほど遡る。
新しいウマ娘が出てきましたが、例によってモチーフとなった競走馬はいますが、ほぼ完全オリジナルウマ娘です。
(そういうことにしておいて下さい)
※お嬢様要素はエリ女勝利したぐらいしか……
構成変更のためサブタイトル修正(2023/5/28)