冴えない大学生の話   作:ネメシス

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この話しはPSvitaのゲーム”樹海の記憶”の中の、看板娘の話を見て書こうと思ったものです。
一応登場キャラではあるのですが、ほぼオリジナルキャラ化してる感じなのでオリ主タグをつけております。
話しの都合上、原作とは異なる時間の流れで進んでいくことになります。

ちなみにこの作品もTINAMIさんの方でかつて投降した作品になります。
細々と修正とかしてますが、内容はほぼ同じとなっております。


第一話~看板娘~

「……あっちぃ~」

 

空を見上げると、ギラギラと眩しい夏の日差しに目を細める。

 

「……眩しいなぁ。にしても……あぁ、くっそぉ、まだ頭が痛ってぇ」

 

鈍く響いてくるような頭痛に顔をしかめる。

これも昨夜、先輩の家で宅飲みをしたせいだ。

夕方から日付が変わるまでは、流石に飲み過ぎだったか……いや、思えばこのくらいは毎度のことか。

これも無茶ができる、若いうちの特権というやつだろう。

 

先輩は二年前にすでに卒業してしまった人で、大学にいるとき同じサークルの後輩ということでよく面倒を見てもらっていた。

色々と付き合いやすい人で、先輩も気に入ってくれたのか俺や、俺の友人共々よく飲みに誘われる。

先輩は一緒にいて楽しい人ではあるのだけど、ある程度以上酔いが回るとウザい絡みが多くなり面倒なのが玉に瑕な人だ。

 

「へっへーん! 俺が一番乗りだ!」

 

「まってよぉ!」

 

「……子供は元気だねぇ」

 

俺の隣を水着入れを持った子供たちが元気に走り去っていく。

近場の泳げる場所、もしは学校のプールにでも泳ぎに行くのだろう。

七月も中旬になり世間では夏休みに入った学校もあるそうで、まったくもって羨ましい限りだ。

うちの大学の夏季休暇はもう少し先だから、楽しそうに休みを謳歌している子供たちを見ると大人気なく嫉妬してしまう。

俺もこんな日は、大学なんて休んで家でゆっくりしていたいものだ……まぁ、午前中にあった講義はサボったのだけど。

流石にこんな状態ではまともに講義なんて聞けそうもなかったから、今日は自主休暇というやつだ。

 

ではなぜ今、外にいるのか。

理由は単純で、大学に行ってきたからなのだけど。

先輩の家を出た後は、一人暮らしをしているアパートに戻って布団にダイブする予定だった。

しかしその直前にテーブルの上に出したまま放置していたレポートを見て、今日が期限だったのを思いだしたのだ。

しかもそれがついさっきの事で、もう提出期限まであまり時間もないときたものだから大慌て。

夜遅くまでの飲み会による眠気や二日酔いで体調は絶不調ではあったが、そのレポートの出来如何では単位の取得に関わる。

それを提出できなかったらどうなるかなど、火を見るより明らかであった。

 

そんなわけで、ついさっき大学に行ってきたところだ。

少しでも目を覚ますために歯磨きと顔を洗い、最低限の身だしなみを整えていたから少し時間をロスしてしまったが、なんとか提出には間に合った。

取り敢えず今日はもうやることもないし、とっとと帰ってシャワー浴びてベッドに潜り込むとしよう。

気怠い体を引きずるようにしながら、なんとか我が家への道を進んでいく。

と、その途中。

 

「……喫茶店、か」

 

我が家まで道も半ばに来たくらいの所で、それが目に留まった。

その喫茶店は家から大学までの道にあり以前から知ってはいたけれど、どうせ喫茶店のメニューなど高いだろうからと、今まで入ったことはなかった店だ。

だけど今は汗をかいて喉がカラカラに渇いている。

そんな状態だからか、少しくらい高くてもいいから入ってみるかと、普段とはうって変わって何の迷いもわかなかった。

少し帰るのが遅くなるが、今は喉を潤したい気分の方が勝っている。

俺は夜中に街灯の明かりに誘われる虫のように、ふらふらと喫茶店に向けて歩き出した。

 

―――カランカラン

 

店に入った瞬間、涼しい空間が俺を包みこむ。

いい感じにクーラーが効いているようで、蒸し暑い外と違ってすごく気持ちがいい。

これだけでも喫茶店に来た甲斐はあったと思ってしまうほどだ。

 

「い、いらっしゃいませ~。お一人様ですか? でしたらこちらのカウンター席へどうぞ~」

 

店に入った時に鳴った鈴の音で、すぐさま店員が対応して席に案内してくれた。

 

「……あの制服、確か神樹館のだったか。小学生なのに、バイトなんてしてるんだな」

 

店員らしい何処かほんわかしている少女が他の客の対応をしてるのを横目で見つつ、着ている制服を見てそう当たりをつける。

神樹、いや神樹様というのは、この世界を守る神様のことだ。

神世紀以前、世が西暦であった時代、世界中で死のウィルスが蔓延した。

自然に発生したのか、はたまた人為的に引き起こされたのか、その原因は誰も知らない。

ただ知識として“死のウィルスが蔓延した”と、そう教えられている。

その死のウィルスから人々を守るために、沢山の神様たちが集まってできたのが神樹様だ。

俺達が住むこの四国の周囲には大きな壁があるのだが、その壁こそが神樹様が死のウィルスから人々を守るために作ってくれた結界である。

その壁がある限り俺たちは死のウィルスに脅えることなく、平穏に日々を過ごすことが出来るというわけだ。

だから人々は命を救ってくれた神樹様を敬い、感謝する。

その一環として、神樹様を模した木を奉った神棚を各々の家に置いて毎日拝んでいる。

 

そんな神様の名前が付けられた神樹館小学校。

それは四国でもとても格式が高い、名門小学校として知られている。

当たり前ながら、田舎出の一般市民な俺には無縁の場所である。

……と、あまり見ているのも変に思われるだろう、早々に視点をよそに移す。

 

「……結構いい感じの店じゃん」

 

初めて喫茶店に入ったこともあり、まるで田舎者が都会に始めて来たみたいにきょろきょろと店内を見渡す。

つまり俺が初めて都会に来た時の反応である。

レトロな雰囲気と言うのだろうか、中々に物珍しい内装だ。

詳しいわけではないからよくわからないが、こういう落ち着いた雰囲気は嫌いではない。

 

「さてと、メニューの方は……あぁ、やっぱそこそこするんだなぁ」

 

手元にあるメニュー表を広げてみると、やはりどれも少し高めだ。

とりあえず目的である飲み物欄からコーヒーを見る。

特別に好きというわけではないが、父が飲んでるのを昔から見ていて高校あたりからよく飲むようになったのだ。

どうやらいくつか種類があるようで、一杯三百円のものから五百円近くするものまである。

比べるのもおかしいかもしれないが、これなら自動販売機で買った方が安いと思えてしまった。

スイーツ系なんて、五百円以上は当たり前といった感じだ。

飲み物を頼んでちょっと食事でもしようとしたら、二千円近くは覚悟しなければならないだろう。

一応仕送りもあり時々バイトもしてる身ではあるが、どうにも外食で千円近く掛けるのはもったいないと思ってしまう。

苦学生の悲しい性分という奴だろうか。

 

「……まぁ、せっかく入ったんだしな。あんまり気にしても仕方ないし、さっさと頼んじまうか……あの、こっち注文お願いしまーす」

 

「は、はい。只今!」

 

近くを通った別の神樹館の制服を着た子に声を掛ける。

始めてからまだ間もないのか、どこかぎこちなさを感じさせるその少女は早足でやってくる。

 

「ご注文を伺います!」

 

「……」

 

その子を間近で見て、一瞬固まってしまった。

 

「(ち、近くで見ると、めっちゃかわいいなこの子)」

 

小学生相手に、不覚にも少しドキリとしてしまった。

さっきの子もそうだったが、ここで働いている少女達はかなりレベルが高い。

緊張してか少しオドオドしてはいるが丁寧な口調に違和感はなく、神樹館という事もあり育ちもあるのだろうが、どこか品のある雰囲気の純和風な美少女だ。

なにより俺の目を引いたのが、小学生のくせに大人顔負けな二つの果実。

小柄な体格に不釣合いなその果実はアンバランスさもあるが、逆にそれが気になり注目してしまう。

 

「えーっと、アイスコーヒーを一つ」

 

しかしそんな俺の下心満載の視線は一瞬でメニューに戻され、そのまま平静を装って注文をする。

相手がいくら見事なものを持っていても、流石に小学生はないだろと内心で自分に強く言い聞かせたのだ。

女性は男の視線に敏感な生き物とはよく聞く話だが、俺の視線がそこに向いていた時間など一秒にも満たない。

まだまだ子供であるこの子では、そんな短時間に送られてくる大人の邪な視線なんて気付かないだろう……気付かないでほしいなぁ、と言う俺の願望である。

もし仮に知られてしまったら俺は蔑みの目を向けられるとともに、ロリコンという不名誉な称号を与えられることだろう。

大きい果実は好きだが、ロリコンではないのだ。

 

「アイスコーヒーが、お一つですね?」

 

「あぁ、うん。とりあえずそれで」

 

一見すると、注文を書きとるのに集中しているだけにしか見えない。

おそらく本当に気付いていないのだろう、そう思い少しだけ胸をなでおろす。

 

「……はぁ、疲れた」

 

簡単に注文を済ませて一息つくと、なんだかどっと疲れが湧いてきた。

それもそうだろう、なにせ昨日は一晩中先輩に付き合い、その次の日にはこのうだるような暑さの中を汗だくで大学まで行ってきたのだから。

まぁ、翌日講義があるのわかってて、飲みに付き合った俺の自業自得なわけだけど。

 

「お、お疲れですか?」

 

ショボショボする目を軽く解していると、まだ近くにいた少女が遠慮がちに聞いてきた。

本当なら誰とも話さずに、一人ゆっくりしたいくらいには疲れていたが、かわいい少女に話し掛けられて嫌な男はいるだろうか? いや、いない(反語)

 

「あぁー、うん。聞いてくれる? 昨日、先輩に付き合って寝不足でさ。今日、授業さぼっちまったよ」

 

「え……授業をおさぼりに?」

 

俺の話に少女は驚いていた。

見た目通り真面目な子なのだろう。

きっとこの子は授業をサボった経験なんて一度もないのだろうし、サボりたいだなんて考えたことすらないのだろう。

そんな驚いている少女がなんだか面白くて、少しわざとらしく調子を上げて話を続ける。

 

その時、俺は気付かなかった。

少女が目を細めて俺を見据えていたのを。

 

「だって、ダリィじゃん? はぁ、だからコーヒーで目ぇ覚まそうって思ってさ」

 

「……あの、お客様。僭越ながら申し上げさせていただきますが、勉学をないがしろにされるのはいかがなものかと」

 

「……え?」

 

吃驚して目を向けると、さっきまでオドオドとしていた少女はそこにはいなかった。

可愛らしい小さな口から紡がれるのは、俺に向けられたお説教。

その少女はキリッとした表情で、小学生だというのにどこか威圧感のある雰囲気を漂わせていた。

それがまるで学校の先生に説教されているかのような錯覚を覚え、自然と背筋がピンと伸びてしまう。

 

「昔は学校に行きたくても行けない時代があったものです。それなのに、貴方という方はのうのうと……」

 

クドクドと少女の口から止まることなく言葉が続いていく。

 

「……はっ!? あ、いや、その……ご、ごめんなさいっ!」

 

「え……あの、コーヒーは!?」

 

説教が続く中、俺はハッと我に返り、咄嗟に立ち上がって店を飛び出していた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

喫茶店から離れてもう少しで家につくというところで走るのを止め、深呼吸を繰り返し乱れた息を整える。

 

「……はぁ……あぁ、吃驚した~。まさかいきなり説教されるなんてな」

 

正直、客に対してあんな態度を取るのはいかがなものかと思わないわけではない。

だけど真面目な人からすれば信じられないことだろうし、実際にサボった俺が悪いことに違いはない。

 

「……」

 

歩きながら息を整えて落ち着いてきた俺の心の奥に、怒りとはまた違った感情が湧き上がってくるのを感じた。

 

「……ま、また、行ってみようかな? いや、別に変な意味はないけど! 俺もいきなり飛び出して、驚かせちゃっただろうしな!」

 

誰にでもなく言い訳の言葉が出る。

周りに人がいたら、変な人を見る目で見られていたことだろう。

思い出すのは小学生ながら、キリッとした厳しい表情を浮かべる少女の姿。

それを思いだして「あ、なんか悪くないかも……」などと思ったことは、この先きっと誰にも言うことはないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

それから二日後の夕方。

大学の講義が終わった後の帰り道、俺はまたあの喫茶店に寄ることにした。

 

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

 

対応してくれたのは大人の女性。

 

「あ、はい」

 

「でしたら、こちらのカウンター席にどうぞ」

 

慣れた感じで案内されたのは、偶然にもこの前と同じカウンターの席だった。

 

「えっと……」

 

きょろきょろと周りを見渡す。

夕方だからか客の数はだいぶ少なく、ホールにいる店員はさっきの女性のみだった。

あの少女だけでなく、神樹館の制服を着た少女たちは誰もいない。

今は休憩時間なのだろうか。

 

「お客様、ご注文がお決まりですか?」

 

「え?」

 

周りを見ていた俺に気付いたようで、さっきの店員が注文を取りに来た。

まだメニューすら見てないのだが……。

 

「あ、えっと……アイスコーヒーで」

 

「アイスコーヒーがお一つですね? かしこまりました」

 

咄嗟に頼んだのは、前に飲みそびれたのと同じアイスコーヒー。

店員が慣れた手つきで注文を聞きながら書き取ると、カウンターの向かいに入りコーヒーを淹れ始める。

所謂本格的な淹れ方と言うやつだろうか。

フラスコのような形をした器具やアルコールランプを使うところが、まるで理科の実験のようで少し面白い。

ユラユラと揺れるアルコールランプの火をボーっと見つめながら時間を潰す。

 

―――チクタク、チクタク

 

注文のコーヒーが来てから、壁に掛けてある時計の針がゆっくりと進んでいく。

味の違いが判るわけでもないのにコーヒーを味わいながら飲んだり、スマホを操作しているうちにまたいくらか時間が過ぎていく。

しかしそれでも、奥から店員が一人来たくらいで少女達は誰も現れることはなかった。

 

「……あの」

 

「はい?」

 

そしてついに焦れた俺は、カウンター向かいでカップを洗っている店員に声を掛けた。

 

「一昨日いた、神樹館の制服を着た子はいないんですか?」

 

「一昨日? ……あぁ、銀ちゃん達の事ですか?」

 

銀ちゃん、多分前来た時にいた神樹館の子のうちの誰かの事だろう。

 

「皆は十五時ごろには上がってもらいましたので、もういませんけど」

 

「……あ、そ、そうなんですか」

 

今はもう夕方の十七時過ぎ。

もう二時間も前に帰ってしまったらしい。

それならいくら待っていても来るはずないではないかと、俺は些か残念に思い溜息が出てくる。

 

「……あの。失礼ですが、あの子達に何か御用でしょうか?」

 

「え? あぁ、えっと」

 

顔を上げると、店員はこちらを訝しんだ目で見ていた。

そこそこ年が離れてそうな男が小学生のあの子達のことを聞いてきたからだろう、流石に怪しく思われてしまったようだ。

このままでは通報される可能性もあり、俺は一昨日にあったことをかいつまんで話すことにした。

 

「……あぁ、なるほど。「お客様に失礼をして帰られてしまいました」って須美ちゃんが話してたけど、貴方でしたか」

 

「まぁ、怒らせるようなこと言った俺もあれだったんで。お詫びもかねて今日また来てみたんですけど、もう帰った後だったんですね」

 

訳を話すと店員……いや、店長は表情を緩めてなるほどと頷いていた。

どうやら以前のことはあの少女、須美ちゃんという子から聞いていたようだ。

 

「それにしても……へぇ~、ふーん」

 

「な、なんですか?」

 

「いえいえ、別に何でもありませんとも」

 

さっきとはうって変わって、どこか面白そうな表情でこちらを見ている。

何でもないと言いつつ、明らかに意味ありげな表情。

 

「ちなみに、須美ちゃん達なら明日も来ますので。もしよろしければ、またいらしてくださいな」

 

「……そうですね、気が向いたらまた」

 

それが何だか面白くなくてそっけなく答えるも、店長は相変わらず笑みを崩さない。

なんというか生暖かい目で見られているような感じで、どうにも居心地が悪くて仕方ない。

 

「それじゃ、俺はこれで」

 

「はい、ありがとうございました。またどうぞ~」

 

ほとんど氷が解けて薄まってしまったコーヒーを一気に飲み干し、さっさと会計を済ませて店を出る。

結局、店を出るまで店長の生暖かい視線は向けられたままだった。

 

「結構、長居しちまったな」

 

喫茶店を出て少し歩き、ふと空を見上げる。

雲一つない茜色の空に星がチラホラ浮かんでいる。

この分なら明日もいい天気になりそうだ、そう思える空模様だった。

 

「……また、来てみるかな」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

あれから三日後の昼。

今日は講義も午前中しかなかったため、明るいうちに帰ることができる。

しかし俺は、そのまま家に足を向けることはなかった。

目指すのはあの喫茶店。

この時間なら、あの子も普通に働いている時間だろう。

俺は今日こそはと小さな意気込みを胸に、喫茶店の入り口に手をかけた。

 

 

 

 

 

「……え? ……い、いないんですか?」

 

店員に案内されてカウンター席に座ると、カウンターの向かいにいた店長が少し気さくに話しかけてきた。

前回来た時に話をして、俺に対してはこんな感じでいいだろうとでも思われたのだろうか。

まぁ、そのくらい別にいいのだけど。

そして気さくに話をする店長から聞かされたのは衝撃の事実、それはもう彼女達はここで働いていないということだった。

 

「あ~、そう言えば言ってなかったわね。彼女達ね、夏休みの自由研究で職場体験に来てただけなの。別にバイトの子っていうわけじゃなかったのよ」

 

「自由、研究?」

 

そういえば俺も昔、そんなことをやったのを思いだした。

俺は確か定番と言えば定番である、アサガオの観察日記だったか。

他の子達も似たり寄ったりで簡単にできそうなものを題材にしていたはずだけど、まさか自由研究を職場体験にする小学生がいるとは思わなかった。

バイトでもないならバイト代だって出ないだろうに、近ごろの子供はどれだけ勤労意欲が高いのだろうか。

 

それで店長が言うには、俺が最初に来たのは丁度職場体験一日目で、次に来たのは三日目の時だったそうだ。

初日で緊張もあり、何度かここで接客の経験がある銀ちゃんと言う子以外は、おろおろしていたと店長は微笑まし気に語る。

職場体験は全部で五日だったらしく、つまりは昨日が最終日だったということだ。

 

「ま、まじでか~」

 

俺はガックシとカウンターに体を沈める。

俺の落ち込み様に、少し気の毒そうに見てる店長の視線が伝わってくる。

 

「……とりあえず、コーヒーでも飲んでいきます?」

 

「……いただきます」

 

 

 

 

 

「……ふぁ~」

 

コーヒーを一杯だけ飲んで店を出た俺は、そのまま帰る気も起きなくてフラフラとあてもなく歩き回っていた。

 

「……あぁ~」

 

さっきから溜息以外出てこない。

別に須美ちゃんに会えたからと言って何かあるわけでもなく、会えても最初に会った時に急に逃げたことを謝ろうと思っていた程度。

というか、小学生相手に何かあったら問題しかないわけで。

 

「……はぁ~」

 

それでも実際会えなかった現在、なんだか妙に残念に思っている自分がいるわけだ。

 

「ちょっとちょっと~? そんなところでボーっとしてると危ないっすよ?」

 

「んぁ?」

 

急に聞こえてくる声と共に軽く背中を叩かれ、俯いていた俺は顔を上げる。

周りを見ると、どうやら俺は横断歩道の途中で止まっていたようだ。

少し先にある信号機をみると点滅していて、もう少しで青から赤に変わりそうなところである。

 

「わ、悪い。声かけてくれてサンキューな……って、君は!?」

 

「はい?」

 

礼を言いつつ振り向くと、そこにいた人物に驚きの声を上げる。

そこにいたのは、あの喫茶店で働いていた少女の一人だった。

 

 

 

 

 

「あぁ! お兄さんが須美にゾッコンの!」

 

「ぞ、ゾッコンてなんだよ!?」

 

礼の意味も込めて、近くの公園で彼女に自販機でジュースを奢る。

ベンチに座ってジュースを飲みながら話をしていると彼女、三ノ輪銀ちゃんはすぐに俺が誰なのか分かったようだ。

ちなみにあの子は、鷲尾須美ちゃんというらしいことを教えてもらった。

そしてもう一人いた子は、乃木園子ちゃんということも。

とりあえず銀ちゃん―――本人が名前呼びでいいと言っていたため名前呼び―――の発言には全力で否定しておく。

 

「てか、誰がそんなこと言ったんだよ!?」

 

「別に誰かが言ってたわけじゃないけど。でも店長から聞いた話だと、お兄さんって須美に怒られたくてまた店に来たんでしょ?」

 

「はぁ!? べ、別に俺は、怒られたくて行ったわけじゃないぞ!?」

 

「えー? ほんとーですかー?」

 

ニヤリと悪戯な笑みを浮かべてくる銀ちゃん。

怒られたくて行ったわけではないのは、間違いなく本心だ。

だけど、初日の帰り道に「なんか悪くないかも」などと考えたことを思い出すと、満更否定しきれない所が無きにしも非ずというかなんというか……。

 

「……ほ、ほんと、だぞ?」

 

「わっかりやすいな~! でも、わからなくはないですよ? だって須美に怒られると、なんだかシャキッとした感じになりますもんね~」

 

「……むぅ」

 

「はははっ、そーやって不貞腐れてるところとか、なんかウチの弟みたい!」

 

少しの間の後さっと視線をそらす。

その俺の横顔を銀ちゃんは笑いながら指でつんつんしてくる。

というかさっきから思っていたが、初対面のはずなのにどうも気安く接してきてやり辛い。

 

「で、今日もまた行ってみたらもう働いていなくて、それがショックで落ち込んでたってわけですね」

 

「べ、別にショックってほどでも、ない、けど……」

 

語尾がどんどん弱くなっていくのが自分でもわかる。

なんだか自分で言ってて、どんどんドツボにハマってるような感じがしてくる。

というか、今更ながら俺も俺で、ほんと何やってるんだって話である。

理由があるとはいえ小学生の鷲尾ちゃん目当てで店に行って、いなければ落ち込んで。

状況だけ見れば、まるで俺が小さい子供が好きなロリコンみたいではないか。

 

「(……え、もしかして、俺ってロリコン? い、いや、違うよな? だって俺、普通に大人の女の人好きだし、胸も大きい方が好きだし……あ、鷲尾ちゃんも胸おっきいや……)」

 

もしかして俺は本当にロリコンなのだろうか。

 

「……ち、違う、違うんだ……俺は、別に……ロリ……違う……」

 

違うと自分では何度も否定するも、その可能性を否定しきれる自信がないという事実に、ついに俺は頭を抱えてしまう。

しかも銀ちゃんの言うことが正しければ、俺は鷲尾ちゃんに怒られたいということらしいし。

こんなの、もはやただの変態ではないか……。

 

「あれ、お兄さん? おーい、大丈夫ですかー? うーん、なんかすっごい落ち込んでるなぁ」

 

「……落ち込んでねーし」

 

声にさっきまでの抑揚を出すことが出来なかった。

自分がロリコンかもしれない、その可能性は思ったよりもショックが大きかったようだ。

 

「どう見ても落ち込んでるようにしか見えないんですけど……ん~……よし、お兄さん!」

 

「……ん~?」

 

銀ちゃんは飲み終えたジュースの缶をゴミ箱に入れると、振り返って無邪気な笑顔を向けてくる。

 

「あたしと一緒に、気分転換しにいきましょ!」

 

そう言って、俺の目の前に手をさし出してきた。

 

 

 

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