冴えない大学生の話   作:ネメシス

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銀ちゃんの誕生日の話しです。
最後の方の展開、TINAMIさんに投降したところとは結構変えてます。



番外編~誕生日~

「……ふぅ、こんなもんか」

 

仕事がようやく一段落し、椅子の背にもたれてグッと伸びをする。

長いことパソコンの画面を見ていたからか、目が疲れて少しぼやけた感じになってる。

目頭を解しながら時計を見ると、あと少しで定時になるところだった。

近頃仕事が忙しかったけど、今日は残業なしで帰れそうだ。

 

「おーい、桐生。ちょっといいか?」

 

「あ、はい! ……えっと、どうかしましたか?」

 

そろそろ帰り支度をしようと思っていた矢先、先輩から声がかかった。

先輩は俺が入社した時の教育担当で、ミスをする度に色々とフォローをしてくれていた人だ。

 

「(もしかして俺、何かやらかしたか?)」

 

この頃はミスらしいミスもなかったから、少し気が抜けていただろうか。

先輩のところに行くと、俺のそんな考えが表情に出ていたらしい。

先輩は苦笑いを浮かべて、違う違うと軽く手を振る。

 

「別に仕事でミスがあったわけじゃないから、そんな不安そうな顔するなって。えっとだな、実は今度の土曜日に俺、休出入ってたんだけど。なーんか、実家の方でゴタゴタがあったみたいで、ちょっと戻らないといけなくなったんだよ」

 

「はぁ、それはまた、お疲れ様です」

 

「実際ちょっと遠くてな。ほんとお疲れになる感じだよ、まったく……あー、でさ? ちょっと、俺の受け持ってる仕事が立て込んでてな。悪いんだけど、出来ればその日に代わりに出てくれないか?」

 

「土曜日ですか?」

 

「あぁ。他にも声掛けたんだけど、都合悪いことに予定が埋まってるらしいんだわ」

 

先輩の机にある卓上カレンダーを見る。

今度の土曜日というと、4日後の11月10日。

その日は特に何も用事は入ってなかったはず……というか基本的に土日は、家でゴロゴロしてる場合が多いけど。

 

「……そうですね。その日なら特に用事もないんで、俺は大丈夫ですよ」

 

まるで「普段は色々やることあるんですよ」と、そういったニュアンスで答える。

特に意味はないのだけど、暇な奴だと思われるのは少し嫌だからという見栄である。

俺も本当なら彼女だったり友達だったりと、充実した休日を過ごしたいものだけど……。

 

「そっか。じゃあ、悪いけど頼めるか? やる仕事に関しては、金曜までには伝えられるようにするから」

 

「はい、了解です」

 

そう表面上は快諾を示す。

本心を言えば土日は仕事の疲れを癒すために、いつものように家でゴロゴロしていたかったが、先輩には入社当初からよくしてもらっている。

今回は引き受けておくとしよう。

 

 

 

 

 

「……ん? メール……園子ちゃんからか」

 

仕事が終わった帰り道。

今日の夕飯は何にしようかと考えながら歩いていると、園子ちゃんからのメールが来た。

園子ちゃんとアドレスを交換してからというもの、こんな感じで時々メールのやり取りをしている。

所謂、メル友という奴だ。

中学生とメル友なんて、大っぴらには言えない秘密だけど。

 

「えっと、何々……え? ……銀ちゃんの、誕生日?」

 

本文を見てみると銀ちゃんの誕生日に皆でサプライズをするらしく、その協力をしてほしいという頼み事である。

俺としても、可愛い妹分である銀ちゃんの誕生日なら祝ってあげたいと思う……のだけど、その誕生日の日付が問題だった。

 

「……やっちまったなぁ」

 

園子ちゃんのメールに書かれている誕生日の日付は、11月10日の土曜日。

そう、運悪く俺が休出を入れてしまった日である。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「あ、返ってきたよ~」

 

「園ちゃん、お兄さんはなんだって?」

 

「ちょっと待ってね、ゆーゆ。えっと……あー、その日はお仕事が入ってて無理なんだって~」

 

「あっちゃぁ、そうだったんだぁ。せっかくの誕生日なのに、残念だね」

 

メールを見た園子の言葉に、その言葉通り残念そうな表情を浮かべる友奈。

園子も「そうだね~」と返し、スマホをポケットにしまう。

出来れば桐生には銀へのサプライズに一役買ってもらおうと思っていたのだが、仕事が入っているならば無理を言うわけにもいかない。

しかし銀にとって家族以外では最も仲の良い異性であり、兄貴分である桐生が参加できないのは少し誤算だった。

 

「あー、もうっ! なんだって土曜日に仕事なんて入れてるのよ! しかもよりによって、銀の誕生日の日に! そこは仕事なんて放り投げて、駆けつけるのが兄のあるべき姿じゃないの!? 同じ妹を持つ身として嘆かわしいわ!」

 

「お姉ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ。桐生さんだって、好きでその日に仕事を入れてたわけじゃないだろうし」

 

「そうですよ、ふーみん先輩。それに本当なら、何をおいても参加したかったと思いますよ? だって桐生さんも、ミノさんの事は本当の妹みたいに大切に思ってるはずですから」

 

「そりゃ、当然でしょうけど……でもなぁ」

 

風は自他ともに認めるシスコンであり、桐生もまた自身と同レベルのシスコン―――桐生はシスコンではないと否定するだろうが―――と認めている。

だからこそ桐生が愛する妹の誕生日に参加出来ないと知って、風はまるで自分の事のように憤りを覚えてしまうのだった。

 

「……あれ?」

 

皆が風をなだめる中、再び園子のスマホが振動する。

ポケットから取り出し確認すると、さっきと同じ桐生からのメールがあった。

 

『一応俺の方でもプレゼントは選んでおくけど、流石に誕生日過ぎて渡すのもあれだから、代わりに渡しておいてほしいんだ。金曜日までには決めておくから、夕方に預かってほしいんだけど。いいかな?』

 

「ふむふむ……ん~、でもミノさんだったら、誕生日過ぎても桐生さんから貰えた方が喜ぶと思うけど……まぁ、しょうがないのかな。『わかりました~』っと」

 

返信ボタンを押して、メールが送られたことを確認する。

園子としては翌日にでも直接渡したほうが銀も喜ぶと思ったのだが、誕生日を過ぎて渡すのは桐生にとっても気まずいものがあるのかもしれない。

そう思い、この頼みを引き受けることにした。

 

「……さて、と。皆、そろそろ話しを元に戻そう? これから忙しくなるんよ~」

 

「うん、そうだね!」

 

「えぇ、せっかく銀の“夢”を叶えてあげる機会だもの」

 

「……だから、桐生さんが来るべきだったのになぁ」

 

「お姉ちゃん……」

 

「風、いい加減にシャキッとしなさいよ」

 

そう、今回の誕生日では銀の“夢”、かつて一度だけ語ったことのある“将来の夢”を実現させる計画を企てていた。

今まで行ってきた誕生日でも手を抜いていたつもりはないが、今回に関しては腕によりをかけなくてはならない案件だと、きっと誰もが思っているだろう。

 

銀の“将来の夢”、それは“お嫁さん”になること。

それは銀だけでなく、女の子なら誰もが一度は夢見たことはあるだろうありふれた、しかしとても幸せな気持ちにさせてくれる尊い夢。

 

「(ふーみん先輩の気持ちもわかるんよ。はぁ、桐生さんに新郎役をお願いしたかったのにな~……)」

 

結婚式が誕生日プレゼントということで1サプライズ、さらに新郎の衣装に身を包んだ桐生で2サプライズを園子は考えていた。

きっと銀はとても驚くことだろう。

そして同時に嬉しさや恥ずかしさが入り混じった、想像しただけでにやにやが止まらなくような可愛らしい表情も浮かべてくれることだろう。

そんな銀を見るのが、園子の密かな楽しみだった。

 

だからこそ敢え無く目論見が外れてしまったことは、この上なく残念なことだ。

となると別案として挙がっていた、小学生組の園子と須美のダブル新郎役として計画は進めていくことになるだろう。

衣装も会場も、今回は奮発して洋式と和式の二段構えである。

もちろんこれはこれで楽しみな園子であった。

 

過去とは言え、自分達がそういう衣装を身に纏っている姿を想像するだけで、胸が高鳴り創作意欲もグングン湧いてくる。

今からでも物語を書き綴りたい衝動に駆られる園子だったが、それは後回しと自分を抑える。

計画を立てたり、場所を決めたり、関係各所に連絡を入れたりと、短い時間の中でも準備することは色々あるのだから。

園子はどんな素敵な誕生日になるのかワクワクしながら、話し合いを進めていく皆の輪に加わっていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

金曜日の夕方。

俺は仕事を終えた後、商店街の玩具屋に来ていた。

目的はもちろん、銀ちゃんの誕生日プレゼント目当てである。

やはり子供といえば玩具が好きなものだろう。

少し大人びてるところがあるとはいえ、そこはやはり銀ちゃんも小学生なのだから。

とは言え、だ。

 

「うーん、どれをプレゼントすれば喜ぶか」

 

ピンとくるものが無く、頭を悩ませる。

あれから毎日仕事が終わった後、あちこち見て回ってはいるのだが、どこでも「これだ!」と言える物を見つけることが出来なかった。

いや、銀ちゃんが好きそうな物は、これまでいくつか見つけてはいるのだ。

しかしせっかくプレゼントするのだし、中途半端なものを選びたくないという俺の変な意地が邪魔をしていた。

 

「時間は……やばいなぁ、約束の時間までもうあんまりないぞ」

 

スマホを見ると、時間は17時30分。

約束の時間は18時だ。

その時間なら学校や明日の準備も終ってるだろうからと、園子ちゃんの家の近くにある駅前の公園で待ち合わせをしていた。

俺とは違い、皆の準備は順調のようで何よりだ。

 

「……あれ? これって、確か」

 

何かないものかと店内をふらついていると、ふと目に付いたものがあった。

それは客が勝手に触らないように、ショーケースの中に入れて置かれていた。

その商品の名前は、“エドの銀時計”。

俺が好きで見ていた漫画、鋼の錬金術師に出てくる懐中時計だ。

 

「……そういえば銀ちゃん、前にこの時計を物欲しそうに見てたっけ」

 

2年前、俺がまだ大学生の時のことだ。

銀ちゃんとウィンドウショッピングをしてる時、銀ちゃんが食い入るように見ていたのを思い出す。

俺と同じように銀ちゃんも鋼錬は好きなようで、よく物語について語り合ったものだ。

 

「値段は……うげっ、2万近くもするのか!?」

 

値札を見て愕然とする。

こういうグッズは多少値が張るものというのは分かるけど、2万もあればゲームも2、3個くらい買えるだろう。

普段なら多少気になっても、見るだけに留めるのだけど……。

 

「せっかくの誕生日だし、奮発してみるか」

 

年に一度の誕生日、ここは財布の紐を緩める時だろう。

それに改めて考えてみると、明日行われる誕生会の内容的にも、懐中時計が送り物というのは洒落ていて悪くない気もする。

時間も迫っているし、これ以上の物も見つけられそうにない。

そう思った俺は、店員を呼んでショーケースの中からエドの銀時計を取り出してもらう。

 

「あ、これ誕生日のプレゼントにするつもりなんで。ラッピングとか、お願い出来ますか?」

 

「はい、ラッピングも承っております。お誕生日のプレゼントでしたら、メッセージカードもお入れしますか?」

 

「あー、メッセージカードなぁ……」

 

明日行けないのだし、せめて何かメッセージくらい付けて送るのもいいかもしれない。

しかしそれならそれで、何と書けばいいだろうか。

堅苦しい定型文ならいくつか思いつくが、そこはせっかくの誕生日。

ちょっとくらい面白みのあるものにしてみたいと思うも、咄嗟だと中々に良さそうなものが浮かんでこない。

どうしたものかと考えていると、視界の端に“剥がれ易いシール”が売られているのを見つけた。

 

「……よし。すみません、このシールも買います」

 

「はい、わかりました。ペンはこちらをお使いください」

 

「あ、どうもです」

 

店員さんにボールペンを貸してもらって、一緒に買ったシールを取り出しメッセージを書き込む。

と言っても10文字程度の内容、そこまで時間もかからない。

 

「……よし、こんな感じかな」

 

書き間違いもなく無事に書き終えて一息ついていると、その内容を見たらしい店員さんの頬が少し引きつる。

 

「あの、本当にそれでよろしいのですか?」

 

「いいんです」

 

「お誕生日のプレゼント、ですよね?」

 

「誕生日のプレゼントです」

 

「……」

 

「……」

 

「そ、そうですか。では、こちらをラッピングしますので、少々お待ちください」

 

「はい、お願いします」

 

こうして、プレゼント選びは無事に終えることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

「お待たせ、園子ちゃん」

 

待ち合わせをしていた駅前の広場に約束の10分前に到着すると、とっくに園子ちゃんは来ていたようでベンチで小説を読んでいた。

園子ちゃんが俺に気付くと、小説をバッグに入れていつもの柔らかい笑顔を向けてくる。

 

「いえいえ、そんなに待ってませんから……あ、ここは“私も今来たところだよ”って言った方がよかったですか~?」

 

「それは恋人に言われたいセリフだな。どちらかと言えば、男のセリフな気がするけど」

 

「男も女の関係ないと思いますけど。でも今来たところなんて言いつつ、本当は逸る気持ちを押さえられずに待ち合わせの1時間も前に来てたなんて、恋愛小説にはありそうですよね~」

 

「確かに。まぁ、流石にリアルでは1時間前なんてあるわけ……もしかして園子ちゃん、本当に1時間前に来てたり?」

 

「え? 私が来たのは15分くらい前でしたけど。あ、もしかして桐生さん……期待してました~?」

 

「してません。そんなに待たせてたら、悪いなって思っただけだよ」

 

「そっか~、残念~」

 

全然残念そうに見えない、ニコニコ笑顔の園子ちゃん。

絶対、俺をからかって楽しんでるのだろうな。

中学生のくせに、中々に小悪魔的な女の子だ。

 

「……っと、あんまり話し込んで遅くなるのもあれだな。じゃあ、これがプレゼントだから。よろしく頼むよ」

 

「はい、しっかりミノさんに渡しておきますね~」

 

プレゼントの入ったビニル袋を、そのまま園子ちゃんに渡す。

受け取った園子ちゃんは中が気になったのか、少し開いてプレゼントを覗き込んだ。

しかし残念ながら、綺麗にラッピングしてもらっているから中を見ることは出来ないのだ。

 

「……ちなみに、何をプレゼントするんですか~?」

 

「それは……んー、まぁ、秘密ってことにしておくかな」

 

「え~、秘密ですか~?」

 

「そんな隠すような物でもないんだけど、明日のささやかなお楽しみってことで。銀ちゃんに渡した時に、一緒に見せてもらえばいいさ」

 

実際、誕生日のプレゼントが結婚式なんていう彼女達と比べれば、俺のプレゼントなんて本当に隠すほどの物ではないだろう。

小学生、中学生の集まりなのに、なんとも発想のスケールがデカい子達だ。

 

「むむむ~、そう言われると気になりますけど……でも確かに、私一人だけサプライズのネタを知ってるのもズルいかもですね~」

 

探るように俺を上目使いで見ていた園子ちゃんは、取り敢えず納得することにしたらしい。

さっきの小説と同じように、バックの中にプレゼントを仕舞う。

 

「……ところで、明日はやっぱり来れないですか?」

 

「あ、あぁ、そうだな。流石にあれは午前中で終わる量じゃあないし、普通に夕方までかかりそうだから……」

 

「……そっか~。それじゃあ、仕方ないですね~」

 

そう言う園子ちゃんは笑顔のままだが、眉尻が若干下がってたりその声色だったりで、残念そうな雰囲気はありありと感じられた。

なんだか猛烈に罪悪感が湧いて来て心が痛む。

 

「(俺だって出来ることなら参加したいけど……仕事が重なっちまったからなぁ)」

 

事前に誕生日の事を知っていたら話は違っていたのだろう。

お世話になっている先輩とはいえ、そこは俺だって銀ちゃんの誕生日の方を優先する。

だけど残念なことに、2年前に銀ちゃんと過ごした日々の中では一度も話題に出ることはなかった。

 

「(あの時は夏だったしなぁ。11月近くなったら、何かしら話には出たのかもしれないけど……はぁ、俺はどうしてこうも間が悪いんだろう)」

 

とにかく一度引き受けてしまったのだ。

本当にどうしようもない理由でない限り、今更やっぱり無理ですとは言えない。

銀ちゃんには、また別の機会にでも埋め合わせをすることにしよう。

 

「ま、行けない俺の分も皆で銀ちゃんを祝ってあげてくれよ」

 

「はい、任せてください。明日は桐生さんが来れなかったのが残念に思うくらい、素敵なお誕生会にしてみせますからね~!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

誕生日の当日。

銀は朝から、いつもよりテンション高めな園子に連れ出された。

よくわからないままついて行くと……なぜか結婚式場に連れてこられていた。

何故こんなところに? という疑問を抱きながら、中学生組の園子と東郷にバトンパス。

あれよあれよという間に、銀は着せ替えさせられていった。

 

「……え? ……こ、これって、どういうこと?」

 

大きな姿見に映るのは、綺麗な純白のウェディングドレスを身に纏った自分の姿。

理解が追い付かずに目を白黒させながらも、そのまま手を引かれて次の場所へと移動させられる。

そこでは皆が集まっていて、一様にしてにこやかに銀を見つめていた。

 

「お誕生日おめでとう、銀」

 

「そして、ハッピーウェディング~!」

 

「銀ちゃんの夢がお嫁さんだって聞いて、皆で準備してたんだよ!」

 

ここまで連れてきた園子と東郷の言葉を皮切りに、皆が次々とお祝いの言葉を投げかけていった。

 

「こ、こんなこと、あたしのために? ……ど、どうしよう……ま、マジ!?」

 

以前、自分の夢はお嫁さんになることだと、須美と園子には話したことはある。

白無垢か、ウェディングドレスか、それはどちらでも構わないけれど、出来れば大切な友達に見守られながら素敵な結婚式をしたいと夢見ていた。

とは言え、それはまだまだ先の遠い未来の事。

そう思っていたはずなのに、まさか誕生日という形で叶えてもらえるとは思いもしなかった。

銀は嬉しさのあまり、涙が浮かんできそうになるのを精一杯我慢した。

あっさりとしたものではあるが、化粧までしてくれたのにそれを汚したくはなかったのだ。

 

「結婚おめでとう! そぉっれ~!」

 

ライスシャワーが空中に舞いあがる。

下には真っ赤な絨毯が敷かれたウェディングロード。

新郎役らしくタキシードに着替えた園子に手を取られながらその上を歩く銀は、まるで夢でも見てるのではないかと思えるほどに、幸せな気持ちで一杯だった。

……ただ。

 

「(……ここに兄ちゃんがいないのが、少し残念だなぁ)」

 

銀が本当の兄のように慕っている桐生は、今日は仕事の都合で来ることが出来ないと聞いた。

銀としても働いている人は忙しいというのは、自分の両親を見て知っている。

平日でも夜遅くに帰ってくることもあれば、休日にも仕事で家を空けることは何度もあったから。

 

2年前ならいざ知らず、今は立派に働いている桐生も、すでにその忙しい人達の一員。

誕生日だからといって我儘を言ってはいけないと、銀は残念な気持ちを内に押し込める。

自分が残念そうな顔をしていたら、せっかくここまで準備してくれた皆に申し訳ないから。

そんなことを考えていると、中学生の園子がニコニコしながら銀に近づいていった。

 

「さてさて~、本当ならここで指輪の交換もしてもらいたいところだけど、流石に本物は用意出来なかったんだ~。そ・の・代・わ・り・に~……ここで桐生さんからの、プレゼントを渡しちゃうんよ~!」

 

「……えっ? に、兄ちゃんから!?」

 

「えへへ~、実は昨日桐生さんに頼まれて預かってたんだ~」

 

そう言って園子は銀に、ラッピングされた小さい箱の形をした物を手渡した。

 

「これが、兄ちゃんからの……」

 

受け取ったプレゼントを、壊れ物を扱うように大切に両手に納める。

忙しい中でわざわざプレゼントを用意してくれたことが嬉しくて、自然と頬が緩んでしまいそうになった。

だけどそれを周りに見られるのは何だか気恥ずかしくて、必死に平静を装おうと顔に力を入れて頬が緩むのを阻止する。

それが出来てるかどうかは、周りの微笑ましそうな顔を見れば一目瞭然だった。

 

「ほらほら、ミノさん。せっかくだし、ここで開けちゃいなよ~」

 

「う、うん!」

 

そう力強く頷いた銀は、丁寧にラッピングを解いていく。

グローブのせいで手間取りはしたが、少し時間をかけて何とか解くことが出来た。

ラッピングの下に隠れていたのは、まるで本当に結婚指輪が入ってそうな濃い藍色の箱。

その箱の蓋には、銀色で何かの動物の様な紋様が描かれている。

 

「(あれ、これって……)」

 

その紋様にどことなく見覚えを感じていた銀だが、まずは中を見てみようと蓋を開けた。

預かっただけで中身を知らない園子も、皆と一緒に興味津々といった様子で覗き込む。

 

「……ッ!?」

 

それを見た時、銀は息をのんだ。

中に入っていたのは、チェーンのついた銀色のアクセサリーのようなものだった。

 

「へぇ、これって懐中時計?」

 

覗き込んでいた一人、秋原雪花が感心した口振りで呟く。

 

「男の人ってこういうのに疎いと思ってたけど、桐生さんも結構やるわねぇ。銀ちゃんの名前に因んでるのかしら、銀色なのがまたいいチョイスね。結婚式の贈り物と考えても、中々悪くないんじゃないかしら。だけどこの蓋に描かれてるのは……獅子?」

 

おしゃれには割と気を遣う方である雪花は、銀に贈られた懐中時計に寸評を入れていく。

他のメンバーも感心したような、そして少しだけ羨ましそうな声を洩らしながら見ている。

将来、自分の結婚式でこういう贈り物をされたらと想像しているのかもしれない。

しかし銀は皆とは違い、目を見開いたまま手に持った懐中時計を見ていた。

 

「……大総統の、紋章」

 

「え、大総統?」

 

「それに似たのがクセルクセス遺跡の壁画にあって、エドは交わる雄と雌の竜って言ってた。だから多分どっちかの竜なんだと思うけど……」

 

「エド、さん? くせ、る? ……え?」

 

「み、ミノさん?」

 

「これは、これは只の懐中時計じゃない!」

 

突然熱く語り出した銀に、新郎役として寄り添うように立っていた園子が、そして他の皆も同じように困惑する。

それに気付かず銀は続ける。

 

「“エドの銀時計”だ!」

 

「……いやだから、エドって誰よ!?」

 

何を言っているのかわからずに声を上げる風に、声こそ上げなかったが周りも同じように何が何だかわからず首を傾げている。

しかしわかる人にはわかるもので、銀の話しを聞いて納得する声も出てきていた。

 

「あぁ、なるほど。どこかで見覚えがあると思えば」

 

「ぐんちゃんは、これが何か知ってるの?」

 

「漫画でね、鋼の錬金術師っていう作品があるのだけど。それに出てくる主人公、エドが持っている銀時計の事よ」

 

エドが持っている銀時計だからエドの銀時計、そのまんまである。

基本、ゲームが趣味な郡千景ではあるが、漫画の知識にもそれなりに明るい。

特に鋼の錬金術師は、アニメやゲームにもなっているくらい人気のある作品だ。

少年誌に載っている作品ではあるのだが、女性の読者も一定数はいる。

 

千景の場合、そこまで熱心に読んでいたわけではない。

以前、ネットで鋼の錬金術師のゲームが実況されているところを見たことがあった。

それで原作に興味を持って、漫画喫茶で少しだけ読んだことがあったのだ。

 

「確かこの銀時計、駅前の玩具屋に売られてるのを見た覚えがあるわ」

 

「あ、玩具なんだ? 本物かと思ったよ」

 

「えぇ、玩具よ……2万円くらいだったかしら?」

 

「……え?」

 

玩具に2万円、それを聞いて周りの表情が固まった。

もちろんそれくらいする玩具だってあるだろうけど、まさかこんな小さい時計の玩具でそこまで高いとはという驚きが強かった。

 

「ちゃんと時計としても使えるから、一概に玩具とも言い難いのだけど。それに確かこれ、限定品だったはずだし。こういうのって結構高くなるものなのよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

その高い値段から子供のお小遣いでは中々手が出せず、悔しさで歯ぎしりをした者もいるだろう。

銀もその一人であった。

2年前―――銀にとってはついこの前の事だが―――、桐生と一緒にウィンドウショッピングを楽しんでいた時に、たまたま玩具屋でこの銀時計を見つけてしまった。

鋼の錬金術師は銀も好きな作品であり、この銀時計も欲しいと思ってはいたのだが、小学生の銀にそんな貯金があるはずもなく、涙を呑んで諦めることとなったのだ。

いつか、もっとお金がある時に必ず買ってやろう、そう心に決めて。

 

その様子を桐生に見られていたのだろう。

そしてプレゼントしてくれたということは、2年が過ぎた今まで覚えていたということ。

少し恥ずかしくはあるけど、それ以上に銀は2年が過ぎても自分との思い出を覚えていてくれたことが嬉しかった。

それこそ園子や須美が、かつて1度しか語った事のない自分の夢を覚えてくれていたことと同じくらいに。

 

「に、2万かぁ。桐生さん、中々やるわね……ねぇ、樹? 何か欲しい物でもない? 来月の樹の誕生日、お姉ちゃんが何でも好きなもの買ってあげるわよ?」

 

「お姉ちゃん、そんな張り合わなくていいよぉ。それに私、お姉ちゃんから貰える物だったら、何でも嬉しいよ?」

 

「そ、そう?」

 

「うん。値段なんて重要じゃない。一番大切なのは、そこに込められた気持ちだから。お姉ちゃんの“おめでとう”っていう気持ち、いつだってちゃんと感じてるよ」

 

柔らかく微笑む樹に、風は一瞬目を見開かせて俯く。

そして小さくフルフルと体を振るわせる風に、樹は一体どうしたのかと心配そうに覗き込む。

しかし、その心配は無意味であった。

 

「……い……い……樹ぃぃぃぃぃぃいいい!!!」

 

「わぷっ!? お、お姉ちゃん!? ちょ、ちょっと、苦しいよぉ……」

 

「うちの! 妹は! 世界一やぁあああ!!!」

 

感極まって樹を抱きしめ、雄叫びを上げなら男泣きを始めた。

そんなやり取りをしている姉妹は置いておいて、千景は説明を続ける。

 

「そして、エドの銀時計にはもう一つ特徴があるわ。それはその蓋の内側に書かれている文字」

 

―――Don't forget 3.OCT.11

 

それはエドとアルが国家錬金術師になるにあたり、不退転の決意を込めてこれまで過ごしてきた思い出のある家を焼き払った日を記したもの。

どれだけ時間が過ぎようとも、その日の自分たちの想いを決して忘れないように、銀時計に刻んだのだ。

 

「……」

 

銀はごくりと生唾を飲み込み、ゆっくりと蓋を開く。

そしてその蓋の裏側には、その文字が刻まれていて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――約束の時間を忘れるな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんでだぁぁぁあああ!?」

 

銀の怒声が式場に響いた。

 

「そこは“Don't forget 3.OCT.11”でいいじゃん!? 忘れるなって意味では合ってるのかな? とか、ちょっと上手いなぁって思っちゃったあたしはバカみたいじゃん!」

 

「え? ……あ、これシールになってるみたい。多分、裏側にその文字はあるんじゃないかしら?」

 

覗き込んでいた千景が蓋の裏側を指さす。

剥がれ易い物のようで、爪を入れれば何の抵抗もなく剥がれるくらいの粘着力のようだ。

 

「それでもですよ!? なんで誕生日に態々こんな……あぁ、そうですね! いつもあたしが遅刻ばっかりするからですよね!? ごめんね兄ちゃん! でもさ、約束を忘れたことなんてこれまで一度だって……って、マイブラザーと映画に行く約束、忘れてたじゃんあたし!? ごめんねマイブラザー! でも、ちゃんと間に合ったんだから許してよ!」

 

自分のこれまでの行いを振り返り、こう言われるのも仕方ないとは思うものの、せめて誕生日とは別の日にしてほしいと思う銀であった。

 

「というか今日は折角の誕生日だぞ!? メッセージを入れるにしても、もう少し何とかならなかったの!?」

 

怒りのボルテージを上昇させながら、ハイテンションになっていく銀に周りはただ苦笑いするしかなかった。

 

「う~ん、ミノさんがいつも以上に可笑しなテンションになってるんよ~」

 

「そのっちも、そういうこと時々あるけどね。それで、どうする? 銀。簡単に剥がせるみたいだし、剥がしておく? 桐生さんも、冗談で張っただけでしょうし」

 

「……うー……ううん、このままでいいや」

 

東郷がシールを剥がそうとするのを、ムスッとした表情のまま断る。

怒っているというより、少し不貞腐れているように見えた。

 

「これも含めて兄ちゃんからのプレゼントだしー? まー、あたし自身への戒めとして貼っておきますよーだ……だけど兄ちゃん、覚えてろよぉ。やられたらやり返す、倍返しだ!」

 

「そ、そう」

 

血は繋がってないはずなのに、なんだかんだで似た者兄妹だなぁと、復讐に燃える銀を見ながら皆はそう思った。

 

 

 

 

 

その後。

気持ちを入れ替える意味もかねて、場所を神社へ移してお色直し。

銀は和風の婚礼衣装である白無垢に衣装を変えて登場する。

同じく新郎役として和風の婚礼衣装を纏った須美と一緒に写真を撮って、本日2度目の銀の結婚式は終了となった。

その頃には気持ちも落ち着いたらしく、銀の不機嫌そうな表情も大分和らいでいた。

ちょっとしたハプニングはあったけど、無事にサプライズイベントを終えることが出来る。

そう誰もが安堵していた。

 

「それではタイマーをセットしますね!」

 

最後に上里ひなたが持ち込んだ高そうなカメラで、記念撮影をするための準備が進められている。

中央に白無垢の銀、その両隣に新郎役の須美と園子、そしてその周りに皆が集まっている。

 

「セットしました! みなさん、準備は良いですね!」

 

「ああっ! ひなたさん、急いで急いで!」

 

タイマーをセットし終えたひなたが急いで駆けていく。

そして開けておいた乃木若葉の隣に収まりカメラに体を向けたその時、丁度シャッターが切られた。

……その瞬間、唐突にスマホからけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「そんな、嘘でしょ!?」

 

「おのれKYバーテックスめぇええ、タマの可愛い妹分の結婚式を何だと思ってる!」

 

そう、バーテックスがやってきたのだ。

よりにもよって今日、このタイミングで。

 

「……」

 

うるさく鳴り響く警報、空気の読めないバーテックスへの怒りが飛び交う中、銀はただ静かに俯いていた。

丁度銀の真後ろいた中学生の園子には、銀がその小さな手をギュッと握りしめ、わずかに体を震わせているのが見えていた。

それはまるで、何かを堪えているかのような……いや、堪えているというのは少し違う。

ただ何かを堪えているだけなら、園子もここまでヒヤヒヤしなかっただろう。

園子は今の銀を見て、まるで噴火直前の火山のような錯覚を覚えていた。

これがただの自分の行き過ぎた想像だったらいいのに、そう思いながら念のため銀に近づき肩に手を添えて宥める。

 

「えっと~、ミノさん? お、落ち着いて? ね?」

 

「……あぁ、大丈夫ですよ園子さん。あたし、ちゃんと落ち着いてますから」

 

「そ、そう? それなら、よかっ……ぁ」

 

「えぇ、ほんと……落ち着いて……ますよ……」

 

そう言い、ゆっくりと顔を上げる銀の横顔が目に映った。

それを見た途端、園子の言葉が詰まる。

 

「……あぁ、そっか……ミノさんは、もう……」

 

周りが眩しい光に包まれる。

すぐに光は収まり、そこは見慣れた樹海化した世界へと変わっていた。

 

「……ミノさん」

 

そして園子の目の前にいたはずの銀は、もうそこにはいない。

遠くを見れば、白無垢からいつもの勇者服へと変身した、すでに小さくなっている銀の姿があった。

その後ろ姿を見ながら、自分の想像は間違ってなかったのだと園子は悟った。

噴火直前ではなく、すでに噴火した後ではあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ぶ っ と ば す !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーテックスとの戦いは呆気なく終了した。

時間にして、5分もかからなかったのではないだろうか。

誰も怪我もなければあまり疲労もしていない、これはいつも以上の勢いで飛び出していった銀の奮闘のおかげだろう。

しかし。

 

「うっがあああああ! ぜんっぜん暴れたりない! なんか今日の敵、いつもより弱いんじゃないの!? 何のために来たんだよ、遊びにでも来たの!? もっと頑張れよ、手ぇ抜いてんじゃないよバーテックス!」

 

さんざん暴れて戻ってきたはずの銀は、勇者服から元の白無垢姿に戻ってはいたものの、その衣装に不釣り合いなほどに荒れていた。

今の銀にとって今回の襲撃は、ただ自分の誕生日を台無しにするのが目的ではないかとすら思えていた。

地団太を踏む銀の足元に、ふわりと被っていた綿帽子がこぼれ落ちる。

それをそっと持ち上げ、園子は気の毒に思いながら銀を見つめていた。

 

「(ミノさん、実は結構我慢してたんだろうな~)」

 

この場に一番来てほしかっただろう桐生は仕事で来ることが出来ず、貰ったプレゼントではせっかくの感動を台無しにされ、挙句の果てにはバーテックスの襲撃。

せっかくの一年に一度の誕生日だというのに、こうも計画通りに進まなければ誰だって不機嫌になるだろう。

かくいう園子もその一人だった。

 

「(折角感動のバースデーパーティーになるはずだったのに……もぅ、桐生さんも桐生さんだよ! せめてもう少し気の利いたメッセージを送ってあげてもいいのに! 桐生さんのバカ~!)」

 

今度会った時には小一時間くらい文句を言ってやろう、そう心に決める園子であった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……決めた」

 

「え?」

 

「仕事で頑張ってるんだし、プレゼントくれたし、そもそも兄ちゃんだし、色々しょうがないって思ってたけど……!」

 

「あ、み、ミノさん!?」

 

「銀!?」

 

何やら突然走り出した銀に皆が戸惑う中、園子は銀がどこへ向かったのか何となく察しが付いていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「……はぁ、つっかれたぁ」

 

休日出勤を終えたのは、12時を少し過ぎたあたり。

本当なら通常の定時時間一杯までかかりそうな量だったのに、午前中に片付けることが出来てしまった。

自分で思っていたより、俺は仕事が出来る人間だった……というわけでは残念ながらない。

ここまで早く終わることが出来たのは、同じように休出をしてた人が自分の分が早めに終わったからと手伝ってくれたおかげだ。

 

「多分、俺の倍くらいの速さで仕事片付けてたよなぁ。あれがベテランの実力ってやつなのか」

 

もちろん俺も頑張りはしたのだが、その人の力あってこそなのは間違いない。

でなければ今も間違いなく、俺は職場の机に座っていたことだろう。

今度、何かお礼でもした方がいいだろうか。

 

「……そう言えば、今頃皆何してるかな」

 

歩きながら今日の誕生日の予定を思い出す。

聞いた話の通りなら午前中はサプライズイベントで色々やって、午後からはご飯食べたり遊んだりしているはずだが。

 

「んー、どうしよっかなぁ。早く終わったんだし、今から参加するのも有りかもだけど……」

 

子供達だけで遊んでる中に、大人の俺が入るのは邪魔じゃないだろうか。

いや、元々誘われていたわけだから邪魔とは思われないだろう。

だけど最初から参加してるのと途中から飛び入り参加するのとでは、参加することへの難易度が違うのだ、心情的な意味で。

おまけに今の時間を考えれば、多分食事でもしてる所だろう。

そんな所に俺が行ったら「メインイベントのサプライズには参加しなかったくせに」「そんなにご飯が食べたかったのか……」なんて思われるのではないかと、少しだけ気後れしてしまう。

 

「……ん? あ、園子ちゃんからか」

 

どうしようか悶々と考えていると、突然ポケットに入れていたスマホが震える。

見てみると、園子ちゃんからのメールが来ていた。

 

「えーと、なになに……『サプライズ無事に終了しました』か。あと、添付写真もついてるな」

 

わざわざ報告してくれるとは律儀な子だ、そう思いながら添付されていた写真を開く。

写真は2枚あるようだ。

 

「……へぇ、結構似合ってるじゃん」

 

2枚の写真にはそれぞれウェディングドレス、白無垢の婚礼衣装を身に包んだ銀ちゃんが写っていた。

そしてその銀ちゃんの手には、俺がプレゼントした銀色の懐中時計が握られている。

少し値は張るが所詮は玩具と思っていたけど、こうして見ると中々衣装とも合っているように感じる。

 

「……それにしても銀ちゃんのこの顔……くふふっ!」

 

思い切って買ったのは正解だったと思いながら、写真に写る銀ちゃんの表情を見て少し吹き出してしまう。

写真に写る銀ちゃんは、少しだけムスッとした表情をしていた。

せっかくの誕生日にこんな表情をしている理由、そんなもの一つしか思い浮かばない。

 

「はははっ! 俺が送ったメッセージ、ちゃんと見てくれたみたいだな。俺のサプライズも大成功!」

 

誕生日くらいもっと気の利いた言葉を送ってやろうかとも思ったけど、俺と銀ちゃんの仲を考えればこういうのもありだろう。

次の機会があれば、直接プレゼントを渡してその反応を見たいものだ。

 

「あれ、またメール?」

 

スマホをポケットに仕舞おうとしたところ、またスマホが震え出した。

相手はさっきと同じく園子ちゃんから。

 

「『ミノさんの事、よろしくお願いしますね~』……え、どういうこと?」

 

園子ちゃんからの意味の分からないメールに首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みつけたぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うがっ!?」

 

その時、突然背後から衝撃が襲ってきた。

次いで子供の手のようなものが視界に入ったと思ったら、それが首に巻き付いて締め付けてくる。

一体何事だと、苦しみながらも首を回してなんとか後ろを向くと。

 

「ぎ、銀、ちゃん!?」

 

そこにいたのは銀ちゃんだった。

しかも白無垢を着たままで。

 

「な、なんで銀ちゃんが、こんな所に!?」

 

「うっさい! それもこれも、ぜーんぶ兄ちゃんのせいなんだから!」

 

「はぁ!? ちょ、ま、まて、意味が分からん! と、とにかく首から手を放せ!」

 

「やなこった! これはお仕置きなんだから、黙ってやられてればいいんだ! あぐっ!」

 

「いったぁ!?」

 

何とか振りほどこうとしても、銀ちゃんは一向に離れない。

それどころかより力を強めたり、耳に咬みついてきたりと、いつもの怒った時以上に機嫌が悪かった。

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

「い、いつつ……なんなんだよ、もう」

 

しばらくして落ち着いたのか、ようやく銀ちゃんが首から手を放してくれた。

痛む首をさすりながら銀ちゃんを見ると、暴れたからかここまで走ってきたからか、せっかくの綺麗な着物が大分着崩れしている。

多分、俺のスーツも皴だらけになってるだろうが……まぁ、今はどうでもいい。

 

「あー、銀ちゃん? えっと、ちょっと怒り過ぎじゃないか? 何、そんなに俺のサプライズが気に入らなかったのか?」

 

「……それもあるけど、それだけじゃないっていうか」

 

「じゃあ、なんだよ。もしかして誕生会に参加出来なかった事を根に持ってるのか?」

 

「……それも、あるのかな」

 

はっきりとしない銀ちゃんだ。

しかし不貞腐れたようにツンと唇を突き出して不機嫌そうな様子はあるが、自分も少しやり過ぎたとは思っているのか気まずそうにこちらをチラチラ見てきている。

 

「その服、もしかしなくても誕生会を抜け出してきたんだな?」

 

「……」

 

更に気まずそうになる銀ちゃんに、やっぱりかと頭を掻く。

 

「……はぁ、しょーがねぇなぁ。ほら銀ちゃん、戻るぞ」

 

「え? 戻るって……」

 

「決まってるだろ? 誕生会の会場にだよ」

 

「で、でも……兄ちゃん、今日は仕事だって……あれ、そういえば何でこんな所にいるの?」

 

「今更かよ!? ……もう終わったよ。だから途中からだけど、俺も誕生会に参加しようと思ってたところだったんだ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

まぁ、さっきまでどうするか考えていたことは内緒だ。

それに園子ちゃんからも銀ちゃんのことを頼まれたし、仮にそれが無くもこのまま銀ちゃんを一人で帰せるはずもない。

 

「だから、さっさと行くぞ。いつまでもこんな所にいたら、もっと人が集まって来る」

 

「……え?」

 

そう言って周囲を見渡せば、遠巻きにこちらを見つめる人が何人もいた。

道を歩いてる人もなんだなんだと足を止めて、ちょっとした人だかりが出来てきている。

そのことに今頃になって気付いたようで、カァっと顔を赤くした銀ちゃんは咄嗟に俺の背中にしがみついて顔を隠した。

……周囲の視線が一気に強くなった気がする。

 

「……行くぞ」

 

「ぁ……」

 

視線がきつくなってきた俺は、おもむろに銀ちゃんの小さな手を掴んで速足で歩き出した。

視線が体中にグサグサ刺さってる気がするけど、何とか耐えてやり過ごすしかない。

 

「(今日、早く仕事終われてほんとよかったな。あの様子だと、絶対職場まで来てただろうし)」

 

土曜で休みとはいえ、何かしらの用事で会社に来てる人も何人かはいる。

うちはそこまで大きくはない会社だから、噂なんてあっという間に広がってしまうだろう。

いきなり白無垢を着た女の子が侵入して、その子と俺が騒動になっていたなんて噂が広まった日には……考えただけで恐ろしい。

 

「……あ、そうだ。銀ちゃん」

 

「な、なに?」

 

人だかりを抜けて少し歩いたところで、こういう時に言わなければならない言葉を思い出した。

おめかしをした女の子に言うには、ありきたりで捻りのないセリフだけど。

 

「良く似合ってるよ、その白無垢」

 

「ぇ……そ、そう? あたし、似合ってる? 変じゃない?」

 

「あぁ、変なんかじゃないさ」

 

着崩れたままだけど、それでも銀ちゃんに似合ってるという言葉に嘘はない。

 

「良く似合ってる。出来ればウェディングドレスのほうも、直に見てみたかったよ」

 

「……そ、そっかー、似合ってるかぁ! いやぁ、残念だったね、ウェディングドレス見れなくて! あっちも皆、絶賛してくれたんだよ! あーあ、ほんっとうに勿体ない!」

 

なんだか急に銀ちゃんのテンションが上がった。

チラッと振り返り銀ちゃんを見ると、褒められて照れてるのか少し頬が赤くなっている。

それにさっきまでの不機嫌そうな感じも無くなり、ずいぶんとご機嫌そうだ。

ふむ、と少し考える。

 

「……これでもっと大人しくしてたら、ちゃんとしたお嫁さんに見えるな!」

 

「……ふん!」

 

「痛っ!?」

 

俺の言葉が気にくわなかったらしく、ふくらはぎ辺りを蹴られた。

 

「もうっ! 一言余計なんだよ兄ちゃんは! なんで普通に褒めることも出来ないのさ!?」

 

「なんかつい、ノリで?」

 

「ノリで心が傷ついた女の子が一人いるんですが、それはどうなんですかねぇ!?」

 

「……すまん!」

 

「すまんで済んだら警察はいらないんだー!」

 

そう言いながら、ポコポコと俺の背中を叩いてくる。

本気じゃないのはわかるけど、地味に痛い。

 

「(それにしても……あぁ、銀ちゃんといるとやっぱり楽しいなぁ)」

 

いまだにどうして銀ちゃんがあそこまで怒っていたのかはわからないが、怒らせたことに対しての反省は一応している。

しかしこうした銀ちゃんとのじゃれ合いは、俺にとってとても楽しい時間だった。

だからというのも変な話だが、きっとまた今回と似たようなことをやらかしてしまうだろうという予感がある。

そして文句を言い合いながら、じゃれ合いながら、いつもの関係に戻っていくのだ。

 

「(あぁ、兄妹っていいもんだ)」

 

しみじみとこの楽しい時間を噛みしめる。

 

「さて、早く戻らないとだけど。えーと、バス……はちょっとなぁ。やっぱりタクシーにするか、どこだっけタクシー乗り場は」

 

「こら兄ちゃん! あたしの話し、ちゃんと聞いてんの!?」

 

「はいはい、聞いてる聞いてる。ノリと勢いが足りないから、もう一回出直して来いって話だろ?」

 

「ちっがーう! 全然聞いてないじゃん!」

 

ガミガミうるさい銀ちゃんの話しをスルーしながら、スマホでタクシー乗り場を探す。

 

「もう、歩きスマホは危ないんだぞ!? こけて転んでも知らないから!」

 

「はいはい、気を付ける気を付ける」

 

「兄ちゃんが転んだら、あたしも一緒に転んじゃうんだからな!?」

 

「はいはい、道連れ道連れ」

 

「ちょ、兄ちゃん!?」

 

いつの間にか隣を歩く銀ちゃんと手を繋いだまま、俺達は皆の待つ場所を目指して歩みを進めるのだった。

 

 

 

―Fin―

 

 




今回、鋼錬をちょっと出したわけですけど、プレゼント何にするかなーと考えている時に丁度鋼錬を見ていたので出した感じです。
銀ちゃんに送るプレゼント→鋼錬視聴→銀時計を見て→結婚式に銀時計って悪くないんじゃない? と、こんな思考回路でした。
そういえばリアルでもエドの銀時計ってあるじゃん! と思って調べてみたら、アマゾンでも値段が色々でビックリ。
私も欲しいなぁと思いましたけど、時間なんてスマホで見れるし、値段高いしで断念しました。
正直、すぐ壊しそうでなんだか怖かったですし……。

ちなみに、TINAMIさんに投降した小説との変更点ですが。
TINAMIさんの方では結局当日、誕生会に出席できずに埋め合わせとして後日に一緒に出掛けるという話しにしてます。
こちらでは仕事を優先して誕生会の参加は断ったけど、仕事が早く切りあがって会場へ向かう(かどうか悩む)ということにしてあります。
他にも銀ちゃんの行動とかちょこちょこ変更してますが、個人的にはやっぱり誕生日は仲のいい人達と一緒に過ごして欲しいという思いで今回の内容に変更しました。
……そのせいで銀ちゃんの感情の爆発が唐突過ぎるかなとか、色々無理やり感のある展開になってしまった気がするのが、我ながら少し残念に感じる所です。
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