冴えない大学生の話   作:ネメシス

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小話~暇な一日~

 

 

 

―――コポコポコポ……

 

 

 

フラスコの沸騰する水をボーっと見つめるだけの、なんとも無意味な時間。

だけどこの泡のたつ音を聞いているだけで、なんだか落ち着くような気がする。

これも一種のα波の力というやつなのだろうか。

 

「……俺も買ってみようかなぁ、サイフォン」

 

コーヒーを嗜む者としては、試しにでも買ってみるのもいいかもしれない。

一度調べてみたら値段はそこそこするみたいだけど、だからといってそんなに迷うほどの額でもない。

掃除とか面倒臭そうではあるけど、自分で手間をかけて淹れて飲むコーヒーというのも、また味わい深いものがあるかもしれないし。

 

「……まぁ、しばらくはドリップ式でいいか」

 

どうせ少し使ったらそれまでになりそうだし、やっぱり俺にはドリップ式くらいが丁度いいかもしれない。

改めてそう思い直した。

 

「はい、お待たせしました。アイスコーヒーです」

 

「あ、どもです」

 

とりとめもない考えを巡らせていたら、注文していたコーヒーが出来上がっていたようだ。

 

「……んー、相変わらず美味いなぁ」

 

氷増しましで、キンキンに冷えたグラスをグイッとあおる。

暑い日にはやはり冷たいものに限る。

それにしても銘柄としてはうちでも同じものを使ってるはずだけど、自分ではここまで美味しくはできない。

流石はこれで商売してるだけはあるということか。

何の用事もない日、家でゴロゴロしてるだけというのもつまらないと思い、気まぐれにまたこの喫茶店に来てみたがやはり正解だったか。

味なんてそこまでわからない俺だが、また来ようかと思わせるものがある。

 

「今日は銀ちゃんとは一緒じゃないのね」

 

「えぇ、まぁ、銀ちゃんも友達と遊ぶ用があるらしくて……って、あれ? なんで俺が銀ちゃんと知り合いなの知ってるんです?」

 

今の時間帯あんまり客がいないらしく暇なのか、俺のコーヒーを淹れた後、カウンター向かいに座って話しかけてくるのはおなじみの店長さん。

しかし、なんで俺が銀ちゃんと知り合いだということ知っているのだろうか。

俺は彼女に銀ちゃんとの関係は話した覚えはないし、仲良くしてる姿をここで見せた覚えもないのだが。

 

「それは近所に住んでると、よくよく顔を見ることもあるわよ。イネスとかも、買い物でよく行ったりするし」

 

「……あー、そっすか」

 

店長もこの近くに住んでるのか。

悪いことをしてるわけじゃないが、知らないところで知り合いに見られてると思うとなんだか気まずい。

 

「あの、別にやましい気持ちとかないですからね? 勘違いしないでくださいよ? ほんと、別に銀ちゃんによからぬことをしようなんて気はないですからね? あくまで妹分的な、そんな関係というかなんというか」

 

「はいはい、わかってますから。というかそんな言い訳がましく言ってると、かえって怪しく見えるから気をつけた方がいいわよ? なんだか妙に早口だし」

 

「……お、おうふ」

 

思わず顔を手で覆ってしまう。

我が友人にも言われたことはあるのだ、言い訳しようとすると妙に早口になることがあると。

 

「で? 本当の所、銀ちゃんとはどうなの?」

 

「……どう、って?」

 

「だから、どういう関係なのかって話よ。あんなに仲良さげなんだし、やっぱり付き合ってたりするの?」

 

「いや、ないですって。言ったでしょ? 銀ちゃんは妹みたいな子だって」

 

いったいどんな勘違いをしてるんだ、この人は。

女性というのは恋愛話しが好きとはよく聞くけど、俺と銀ちゃんに関してそれを当てはめるのは色々おかしいだろう。

 

「齢の差もそこそこありますし。というか、よく考えてくださいよ。俺、大学生。銀ちゃん小学生ですよ?」

 

「恋愛に齢の差なんて関係ないわよ? 好きになった相手が小学生だった、それだけの話しじゃない。銀ちゃんもずいぶん懐いてるみたいだし、おばさん的には結構ありだと思うんだけど」

 

「なしですよ、何考えてるんですか。てか、銀ちゃんだって迷惑ですからあんまり言いふらさないでくださいよ、そういうの」

 

「……別に言いふらすつもりはないけど、少なくとも銀ちゃんは迷惑とは思わないんじゃないかしらねぇ」

 

そう言って店長は苦笑いを浮かべる。

いや、迷惑だろう。

銀ちゃんだって年頃の女の子なんだし、もしかしたら好きな男の子だっているかもしれない。

おばさんたちの話しというのは、いつどこで繰り広げられて拡散していくのかわかったものではないのだ。

もしその好きな男の子がいて、その家族と偶然そんな話をして、その子の耳に入ったらどうなるか。

下手に勘違いでもされてみろ、きっと銀ちゃんは悲しむぞ。

 

「というか、言いふらす以前に結構知ってる人はいるわよ?」

 

「……はい?」

 

「いやね、銀ちゃんってよく人助けとかしてるでしょ? それに可愛いし、いい子だし、近所では評判いいのよねぇ。ちょっとしたアイドルっていうの? 皆から好かれてるのよねぇ。だから、銀ちゃんに良い男ができたなんて情報があれば、すぐに広まっちゃうわよ」

 

「……」

 

ショックのあまり、また顔を手で覆ってしまった。

時すでに時間切れ、というやつだったか。

店長が他に話しを流さなくても、他から話が流れていくとかどうしろと。

というか銀ちゃん、そんなに人気があったなんて……。

 

「んー、あんまり周りを気にしないタイプなのかしら。見てる人は見てるものよ? まぁ、少なくとも二人の仲良さそうな姿を見て、悪いようにとらえる人はいないと思うから、その辺は安心していいと思うわ。一応、私もそれとなく言っといてあげるから」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

そう言って深々と頭を下げる。

もう俺にできるのは、それくらいしかなかった。

 

「あ、コーヒーのお替りはいかが?」

 

「……お願いします」

 

もう一つあった。

感謝の代わりに金を落としていかせるとは、流石店長だ。

ついでにサイドメニューにあるパフェも頼んでおいた。

コーヒーのおともには、やはり甘いものに限る。

 

 

 

こうして、俺の何でもない暇な一日は過ぎていった。

 

 

 

 




店長のキャラ、自分で書いててちょっと好きになってこんな小話書いてみました。
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