2021/8/31に開催されたWebプチオンリーイベント『ずっと一緒に!』に参加しようとして綺麗に遅刻した時のものです
独自脳内設定等々ありますがあんまり説明していないので特に気にしないでください



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第1話

「今日は私とあなたが出会った記念日でしょ、ってミサカはミサカは怒り心頭で指摘してみる」

 

 いつものように自分のところに通って来た少女が何ごとかぷんすか怒っていたので、一方通行が事情聴取を執り行ったところそのような動機が提出された。

 

「あァ?」

 

 言われて、日付を確認する。

 なるほど確かに8月の最後の日。彼と同じ年齢の人間の多くは夏休みも本当に終わってしまうのだという耐え難き感傷を覚える日付であるが、彼に限ってそんなことはなく、かといってほかの何か特別に記念すべき一日だという認識も無かったのだが。

 そもそも、彼女――打ち止めと一方通行が出会った日ということは、彼女が拉致されてウイルスを打たれるなどして諸々の危機に晒された日であり、銃弾が彼の脳に熱烈なキスをかましてくれた日でもあるのだ。

 別に一方通行は自身の生命にそこまで固執する人間ではないが、かといって好き好んで本格的に死に掛けた日を記念日にして祝うような趣味はない。

 結果的に双方おおよそ無事で一周年を迎えたとはいえ、だからケーキでも買って来て一緒に食べようなどというのは狂気の沙汰ではないか。そのようなことを割と真剣に考える。

 

「アホか」

 

 そんな方向性の熟考の結果、返答はこのようになった。

 

「予想を上回る冷酷な返事が来たってミサカはミサカは膝をついてうな垂れてみる」

 

 大袈裟にショックを受けて見せる打ち止めから顔を逸らし、一方通行も大儀そうにため息をついて見せる。

 そもそも彼の場合記念日を祝うという行為それ自体に大した意味を見出していないのだから救いがない。平行線も良いところだった。

 

「まったくもう。まあどうせあなたはそんなところだろうと思っていました、ってミサカはミサカは寛容な態度を取って包容力をアピールしてみる」

 

「じゃあ一々突っ掛かってくるンじゃねェよ」

 

「こんなこともあろうかと! ミサカは予め記念の品を購入してきたのだ! ってミサカはミサカは準備万端!」

 

「あァ?」

 

 言われてみれば、確かに打ち止めは何かそこそこの大きさの紙袋を持っている。

 怪訝な顔でそれを見る一方通行を他所に、彼女は厚めの紙が擦れる音をかき鳴らしつつ中身を取り出して掲げて見せた。

 

「じゃーん、ペアプレート!」

 

 ペアプレート。恐らく初めて聞く言葉だ、と彼は率直に思う。

 いや別にペアになってる皿のことなのだろうから特別変な言葉ではないが、かといってペアカップのノリでそう言われても何かピンと来ないものがある。

 というかなんで皿なのか。どこかのパンのお祭りか何かだろうか。

 

「ほら、可愛いでしょ? ってミサカはミサカは自信を持って見せびらかしてみる!」

 

 確かに華美過ぎずシンプル過ぎず、品の良い晴れやかなデザインの皿ではあった。恐らく春頃のパンのお祭りではこんな皿は貰えないだろう。

 とはいえ皿は皿である。出会った記念日に買うものというよりは、何かの式の引き出物か何かの方がしっくり来る。それも記念品ではあるが、主旨からはややズレを感じずにはいられない一方通行であった。

 

「何で皿」

 

「だってこの部屋まともな食器がほとんど無いでしょ? ってミサカはミサカは部屋の中を見渡してみる」

 

 そんなことを言われても、それ以前の問題である。

 こんな本と書類と雑誌と資料にまみれた部屋を見て人が生活出来る場所だと思ってしまうこと自体間違っているのだ、などと考える一方通行であったが、そんなことを言っても墓穴以上に今と未来を生きていく自分の為にはならない穴を掘ってしまうだけだと気付いたので口にはしなかった。

 この部屋の有り様に対しては打ち止めからも散々苦情を受けているが、一方通行としては別に無秩序に散らかしているわけではなく合理と効率に基づいてスペースを割り振っただけのつもりである。

 

「……で、それどォすンの。見ての通り飾る場所なンざねェぞ」

 

「使うに決まってるでしょ! ってミサカはミサカは言葉とは裏腹にいったんどこかに良い感じに飾ってみようと四苦八苦してみる」

 

 言いながら本の山を無理矢理動かしてみたり、書類のミルフィーユを雑に積み替えたりしてなんとか飾る場所を確保しようとする打ち止め。隙間に置いてあったペンやらクリップやら接着剤やらが巻き込まれて机の上で転がったり、書類が何枚か床に滑り落ちたりしてもお構いなしである。

 実のところいつもこうやって彼女が勝手に物の配置を変えてしまう為、合理も何もなくただ散らかっているだけの部屋になりつつあるのだが……そもそも明らかに部屋の収納限度を遥かに越えて詰め込みまくっている一方通行の非も相当に大きいので、彼もあまり強く咎めることは出来ないのだった。

 

「うーん……こんなものかな? ってミサカはミサカは周りが酷過ぎて微妙に満足出来ないながらも妥協点を探ってみる」

 

「勝手に人の机にスペース作っておいて言いたい放題じゃねェか」

 

 かくして紙の山野は切り拓かれて渓谷が生まれ、その間に二枚の皿が飾られた。

 言うまでもなく絵面は酷いもの、というか端的に言って意味が分からなかった。

 

「……まあ飾ったのはあくまで試しにやっただけだし? ってミサカはミサカは言い訳を述べてみる」

 

「このくだり必要あったンか」

 

「だって記念日だし! 気分だよってミサカはミサカは気を取り直してこのお皿をどこに収納するべきか探るフェイズに移行してみる」

 

 一瞬落ちたテンションを誤魔化すようにして、打ち止めは再び二枚の皿を手にああでもないこうでもないと僅かなスペースの中でせわしなく動き回ってみせる。

 しばらくの間、一方通行は椅子に深く腰を下ろしたままにその様を傍観していた。

 そしてその足が先ほど床に滑り落ちた書類を踏むところも、確かに目に捉えた。

 

「わぁ!?」

 

「ばっ」

 

 警告を発そうとしたが時既に遅し。打ち止めは派手に足を滑らせて前のめりに倒れ込む。

 間一髪で彼の伸ばした手が彼女の襟首を掴んだ為、転倒し床に激突する自体は免れた。

 だがその代わりに、小さく頼りない手から掴んでいた皿が片方すり抜け宙に舞う。

 

「……あ」

 

 思ったより派手な音はしなかった。

 ただ当たり前に、皿は重力に従って床に落ちて割れた。

 

「……」

 

 一方通行は咄嗟に彼女の迂闊を責める言葉を声に出そうとしたが、その表情を見て口を噤む。

 当たり前に落ち込んで肩を落とす少女に、この場合果たしてどんな言葉をかけるのが正しいのか。常人より遥かに優れているはずの一方通行の頭脳は、それらしき回答を一つも出せない。

 

「あ、あーあ、ってミサカはミサカは……そこまで気にしてない風を装いたかったんだけど、一言目からもう全然隠し切れて無かったり」

 

 言葉の通り、誤魔化す為に発せられたであろう声は誰が聞いても分かるほどには弱々しい。

 それでも打ち止めは滲む涙を拭い、割れた皿の破片を拾い集めようとその場にしゃがみ込もうとする。

 足の力を抜いて膝を折り、上体を重力に従うままに下ろそうとし――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「わっ!?」

 

「座ってろ」

 

 当然そんな芸当が出来るのは一方通行(アクセラレータ)以外に存在しない。

 打ち止めを先ほどまで自分が座っていた椅子に押し込み、大儀そうにしながらも互いの位置を入れ替える。

 

「良いよ、ミサカがやるよ」

 

 そんな打ち止めの言葉を無視して、一方通行は傍らの紙の山に手を突っ込む。

 しばらく何かを探すように動かした後、引き出した手に握られていたものは接着剤だった。

 

「……なんでそんなところに都合よく接着剤が置いてあるの? ってミサカはミサカはちょっとだけ冷静さを取り戻して当然の疑問を提示してみる」

 

「さっき所定の位置から動かしたのはオマエだろォが」

 

 答えになってない応えを返しながら、彼は一応パッケージ裏面に記載してある対応素材を確認する。どうやら問題なさそうだ。

 そもそもこの接着剤は『金属、陶器、皮にプラ、果ては切り傷まで』などと謳っていたいかにも学園都市製らしい怪しくも高性能な代物だ。実際に傷口に塗ったことは流石に無いが人体に害のある物質は含まれていないはずだし、それでいて大概何でも接着することが出来る、と書いてある。 

 実際の使用感については一方通行はあまり詳しくない。というもこの接着剤の主戦場はその辺のコンビニで雑に売っているスティックのりでも容易であろう紙の接着であり、この部屋に住み始めた時くらいしかそれ以外のものを接着したことのない不遇の存在だからだ。

 まさかこのようなタイミングで活躍するとは完全に想定外だが、接着剤だってようやくそれらしき仕事を与えられて喜んでいることだろう。

 

「直してくれるの? ってミサカはミサカは期待を込めた眼差しを向けてみる」

 

「別に新しいのを買って来ても俺は構わねェが。どうする」

 

「直して!」

 

「だろォよ」

 

 返答は分かり切っていた。その場にしゃがみ込んで、能力を発動させたまま破片へと手を伸ばす。

 彼の能力は一度発動さえしてしまえば銃弾すら余裕で弾くのだから、皿の破片如きで怪我をする心配もない。破片を今以上に砕いてしまわないよう配慮する必要はあるが。

 会話が一旦途切れて、一方通行は無言のまま皿の修復作業を始めた。

 破片の散乱状況を視覚と能力で観測し、脳内の予測と照らし合わせながら拾い上げた破片が皿のどの部分に当たるのかを推測して床の上に並び替える。

 その作業が一通り終われば、先ほどまでは壁や床に積まれた本に当たって混沌と散らばっていた皿の破片達がまるで包丁で丁寧に切り分けられたかのような秩序的な割れ様を見せていた。後はこの形状を維持したまま接着していけば元通りだ。

 

「……大体、何で皿なンだよ。記念だって言うならもっと壊れ辛い物が良かったンじゃねェのか」

 

 まずは準備段階が一区切りついて、僅かに気が緩んだのか一方通行は沈黙を破る。

 

「普段から使ってもらえるものが良いと思ったんだもん、ってミサカはミサカは思惑を端的に説明してみる」 

 

「じゃあなおさら割れ物以外の物にすりゃイイじゃねェか」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼は首だけ振り返って、打ち止めの顔を見る。

 もう彼女の目に涙は浮かんでいなかった。ただこちらの内心を覗き込むかのような澄んだ瞳と視線がかち合って、言い表しようのない気まずさを覚える。

 すぐには返事をせず、首を戻して手前の一番大きな破片を拾い上げてから口を開く。

 

「……記念品ならそっちの方がイイだろォがよ。なんで敢えて壊れやすい物にすンだ」

 

「別に割れたり欠けたりしても良いと思ったの、ってミサカはミサカは俯きながら呟いてみる」

 

 『割れ欠けして、そのうち使い物にならなくなって捨てられても良い』ではないだろうということくらい、一方通行にも分かる。

 日々の生活の中で使い続けて、時に端が欠けたり、小さなヒビが入ったり。そんな使い続けた結果の疵を重ねていくことを、彼女は恐れなかった。

 流石に買ってきたその日に砕けてしまうことまでは想定していなかったようだが、つまりはそういうことなのだろう。

 

「……そォかよ」

 

 そこで再び会話は途切れた。一方通行もそれ以上は口を開かず、皿の修復を再開する。

 破片を一つ一つ拾い上げて、接着剤を薄く塗り付け、パズルのように組み合わせていく。

 皿の破片をこれ以上欠けたりしないようにするのは勿論のこと、その破片で誤って自分の指を傷付けてしまうこともないように、丁寧に。

 正直、馬鹿馬鹿しいと思う。

 彼の能力は一年前に脳を損傷する前ほどの性能は無いものの、今だって単身であらゆる兵器を生身で弾き、あらゆる防壁を一撃で崩壊させる程度のことは出来る。

 戦場に赴けば一人で両軍を瞬く間に制圧し、災害現場に赴けば単身で数多の命を拾い上げることだろう。

 そもそも彼がこの狭い研究室に引きこもっているのだって、一万年以上かけなければ清算され得ない罪を少しでもその頭脳を以って贖うよう命じられた為だ。

 そんな罪人が、そんな能力を使ってやることが、あろうことか割れた皿の破片を集めて繋ぎ合わせることだ。もし第三者から事の次第を詰問されたら、一方通行は相手が納得する答えを返せないだろう。

 

「できた? ってミサカはミサカは手が止まったのを見て恐る恐る尋ねてみる」

 

「これで終いだ」

 

 もうほとんど形を取り戻した皿に最後の欠片をゆっくりと嵌め込む。

 速乾性なので乾くのを待つ必要は無い。表面を軽く撫でて僅かにはみ出していた接着剤をそぎ落とし、裏返して同じ作業を反復する。

 当然ながら、完全に元通りというわけにはいかなかった。彼はその道の専門家ではないし、その為の機材も足りない。優れた能力を持っていたところで、何でも完全無欠にこなせるわけがない。

 それでも、皿は実用・鑑賞両方に堪える程度には元の姿を取り戻していた。よく見ればヒビは完全に消えてはいないし、柄だって微妙に欠けが残ってしまっているが。

 

「ほらよ、これで文句ねェだろ」

 

「わあ、すごい! 元通りになった! ってミサカはミサカはお皿を受け取ってトロフィーみたいに掲げてみる!!」

 

 打ち止めは修復された皿を手に小さく飛び跳ねてみせた。

 何がそんなに嬉しいのか。たっぷり時間と手間を費やして皿を修復しておいて、彼はそんなことを考えてしまう。修復を終えた皿はやはりどこか不格好で、新しいものを買ってきた方が後々の後悔に繋がらないのではないかと、そう思ってしまう。

 だからきっと一方通行には、彼女がそこまで喜ぶ理由を本当の意味で理解することなど出来ないのだろう。

 一年間共にいて、少しくらいは彼女の考えを理解出来るようにはなったつもりだ。目に映る現象や行動からこうではないかと予想することも出来る。その言葉や表情はいつだって雄弁に何かを伝えようとしてくる。

 それでも、それはあくまで実像から生じた別のものだ。夜空に輝く星の光のように、葉書に綴られた文字のように。それが元の姿や思いを色濃く反映していたのだとしても、やはりそれは実体そのものではない。

 人は、誰かの心に真に触れることなど出来はしない。どれだけ相手を想い、相手の為に行動したところで。

 まして、彼のように常人とは異なる心性を内に湛える化け物であれば尚のこと。

 

「ねえ、これどこに飾ろうか? ってミサカはミサカは気を取り直して相談してみる!」

 

「こンな部屋に飾ってまた割るつもりかよ。使うまでどっかに仕舞っとけ」

 

「えー、ってミサカはミサカはあからさまに不平不満を述べてみる」

 

 だからきっと、こんな会話にも本当は何の意味もない。

 会話とは相互の理解の為に行うものだ。それが唯一の正解に辿り着くことのないものならば、ただ不毛で非効率の極みの雑事でしかない。

 今日これまで彼女と行ったすべてが無意味で、無価値な行いに過ぎなかった。

 

「次は」

 

「え?」

 

 だから。

 出会って何年だとか、記念日だとか。

 そんなものを祝ったところで、それもやはり何の意味ないことなのだ。

 それを彼は当たり前に知っている。

 

「次は、マグカップにしろ」

 

「……マグカップが欲しいの? ってミサカはミサカは率直に尋ねてみる」

 

「カップくらいなら数あっても場所取ることもねェし、一つを毎度毎度洗っては使う必要も無くなるだろォが」

 

「そんなに不便してるなら普通に買えば良いのに」

 

 腹が立ったのでチョップを一つお見舞いした。

 そこそこ力を込めたので、小さな悲鳴が室内に響く。

 

「……分かった。来年は可愛いペアのマグカップにする、ってミサカはミサカは宣言してみる」

 

「可愛いは余計だ」

 

「ハートマークが付いてるのにする! ってミサカはミサカは弾圧に負けずに堂々と宣言してみる!」

 

 勝手にしろと吐き捨てるようにして、彼は小さな約束を交わした。

 それをすることで何かが良くなるわけでもないのに。

 

「で、お前の記念日ってのは皿渡して終わりかよ」

 

「え? ――あっ! 実はこれから夜までびっちりお祝いプランを考えて来ていたのだ! ってミサカはミサカはうっかり忘れていた計画を思い出しながら大発表してみる!」

 

「どンだけ人の仕事場ではしゃぐつもりなンだオマエは」

 

 すっかりいつもの調子を取り戻した打ち止めが、体をいっぱいに使って今日の予定をまくし立てる。

 自分で選んだ服を着て、その上から彼女の低い身長にあわせた丈の白衣を羽織って。

 再び椅子に腰かけて、一方通行はそれを眺めながらもろくに話を聞かずに別のことを考えていた。

 来年の今日のこと。彼女が記念に揃いのマグカップを買いこの部屋を訪れた時、さて自分は何を用意しておこうか、と。

 そんな先のこと、今から考えておく必要があるはずもない。そもそもこちらからも何かを用意すると約束したわけでもない。

 それでも彼は思考を巡らせる。その道程が合理や効率に辿り着くはずもなく、分かり切った正解から遠ざかるだけのことだと分かっていても。

 

「ねえ、聞いてる?」

 

「……そォだな。まずは、少しくらい片付けるべきか」

 

「やっぱり聞いてない! ってミサカはミサカは憤慨して地団駄を踏んでみる!」

 

 或いは、一年前。

 少女を救う為の手を、何があっても離さなかった時のように。

 

 

 


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