……だが未知は死滅していなかった! 2000年の歴史を刻み受け継がれてきた伝説の暗殺拳があった。その名をカミジョウ流殺法!
※非クロスオーバー作品です。
ここは学園都市。人造の超能力者を筆頭に、世界最先端の科学を扱う学術の箱庭だ。
そんな街の深夜の路地裏に、学ランを着た大男がいた。名をカミジョウ・トウマという。
「一、二、三……八人か」
カミジョウはぽつりとつぶやいた。
尾けられている。
「隠れているのは分かっている。出て来い」
歩みを止めて挑発する。奇襲を諦めたか、ぞろぞろとビル影からガラの悪い男たちが出てきた。
リーダー格の男が舌打ちしてカミジョウを睨みつける。
「ちっ、なんで分かった?」
「心の目をもってすればたやすきこと。カミジョウ家に代々伝わるカミジョウ流殺法では基本の技だ」
カミジョウ流殺法。そんな武術を不良達のリーダーは聞いたことがなかった。
だが目の前の男こそが学園都市最強であることは間違いない。
見ればわかる。2mを優に超える身長、学ランの下に押し込められた膨大な筋肉。
そして特徴的な、ウニのようなツンツン頭。彼こそが学園都市の覇者、カミジョウ・トウマなのだ。
カミジョウの圧倒的な筋肉を前に、リーダーは思わず生唾を飲み込んだ。
「……へへ、でも気づいたところで無駄だぜ、『学園都市の怪物』。今日俺たちはあんたをぶっ倒して名をあげる!」
「名声を求めて来たか。良いだろう。相手になってやる」
「その余裕がいつまで続くかな?」
お前ら、という掛け声とともに男たちは武器を取り出した。
ナイフ、バット、鉄パイプ。スタンガンや金づちを持っている者もいた。
「自慢の筋肉もこの人数と装備なら役に立たねえだろ! まさか最強様が卑怯とは言わねえよなあ!?」
一斉に飛びかかる男たち。カミジョウは四方八方から迫る攻撃を悉く避け、あるいは受け止める。その動きは見た目からは想像できないほどに速い。
「おい! 今首にスタンガン当たっただろうが! なんで平気なんだ!」
「心頭滅却すれば火もまた涼し。カミジョウ流独自の教えだ」
「嘘つけ!」
とはいえ、平気そうなのは事実。リーダーは焦った。カミジョウに一切のダメージが入らないのだ。
ぽこぽこと殴る鉄パイプやバットはその度に曲がる。ナイフはまるでおもちゃになってしまったかのように刺さらない。頼みの綱のスタンガンは何の役にも立たなかった。
気がつけば、男達は足を止めていた。勝てる未来が見えない。
呆然と立ち尽くすリーダーに、のしのしとカミジョウが歩み寄る。
「卑怯などというのは敗者の戯言。勝利のため、全力を尽くすのは当然のことだ。故に俺もまた、勝利に全力を尽くすとしよう」
「え……あ……」
「カミジョウ流殺法――」
技の宣誓とともにカミジョウは深く腰を落とし、地面を踏みしめた。たったそれだけでアスファルトが砕け、近くのビルにひびが入る。
「――壱の型」
カミジョウの拳が赤く輝き、男たちの顔を照らした。ばかりか、まるで火山に放り込まれたかのように暑い。
カミジョウの拳が赤熱しているのだ。
ことここに至り、男たちはやっと「逃げなければ」と思った。
だが、もう遅い。
「煉獄滅殺撃!」
カミジョウの拳に秘められた力と熱が解き放たれた。
拳圧がビルをたたき割り、熱風が裏路地を焼き尽くす。
破壊の限りを尽くされたその場所に、もう不良の姿は残っていなかった。
「……ふむ」
カミジョウはその丸太のような首を傾げた。手ごたえがない。
確実に当たるタイミングだったはずだが、回避したのだろうか。心眼で探ってもどこに隠れたのかさっぱりだ。
見るからに弱かったが、カミジョウが思うにそれは油断を誘うための罠。カモフラージュである。
現にこうして、技を避けられてしまったのだ。
カミジョウは己の鍛錬不足を恥じながら、次の行動に移る。なあに、当たらないなら当たるまで打てばいいのだ。
「カミジョウ流殺法・弐の型。双破風殺――」
「アホかアンタはあああああ!」
カミジョウが再び攻撃を放とうとした、そのとき。どこかから飛んできた電撃がカミジョウの体に直撃した。
知り合いの声に、思わずカミジョウは技を中止した。
「む……ビリビリ殿か」
いつの間にかビルの上に立っていた茶髪の少女。彼女の髪からバチン、と電気が走った。
「誰がビリビリよ! 私には御坂美琴って名前があるんだから、ちゃんとそっちで呼びなさいよね」
「それよりも、このあたりに手練れの者が潜んでいる。俺の技をなんなく躱し、心眼を欺いた。標的は俺だが、巻き込まれるかもしれん。危険だ」
「アンタが一番の危険人物だっつーの。ていうか、こいつらでしょ。アンタが言ってるの」
そう言って、美琴は手元の電気を鞭のように操った。と同時に、八人の不良が持ち上げられる。全員白目をむいていた。
「確かにその者達だが……はっ、分かった! あれは影武者だったのか! 本物は今もどこかに……」
「んな訳あるか! 私が助けたの! どうせまた妙な勘違いしてるんだろうから言っておくけど、こいつらはただの不良よ。あんな技喰らったら死んじゃうから」
「……死ぬは大げさではないか?」
カミジョウは訝しんだ。あれはカミジョウ流殺法では初歩の技だし手加減もした。大した威力ではないのだが。
「いや死ぬから。アンタ殺すって思いっきり言ってたでしょうが」
ひびだらけのビル群が同意するように次々倒壊した。それを美琴が電磁力でくっつける。
崩落しかけたビルの破片が、時間を巻き戻すように浮き上がる。
「これも廃ビルだからいいものの、……あー、やっぱり重いわ。何とかしなさいよ」
美琴は電気系能力者の最上位に位置する超能力者だ。それでもビルの重さを支え続けるのはかなりの負担になる。
「承知した」
カミジョウは素直に従った。どうやら自分は勘違いをしていたらしい。
顔を赤くして、壊れたビルを一つ一つ手早く消し飛ばし、直せそうなものは手作業で溶接した。
ものの数秒で作業を終わらせたカミジョウが美琴の元へ跳んでくる。
「これでいいか?」
「……自分でお願いしたことだけどこんなに早く終わると思ってなかったわ。これでレベル0とか完全に詐欺でしょ」
レベル0。それは不良品の称号だ。学園都市にいる230万の学生はその全てが能力者であり、レベル5からレベル0に分類される。
カミジョウは最低のレベル0に当たる。「能力はないか、ほとんど無に等しい」とされるレベルだ。
一方の美琴はレベル5。それも7人しかいないレベル5の第三位で、カミジョウとは天と地ほどの差がある。その戦力はたった一人で軍の一個師団とも渡り合えるほどだという。
カミジョウのもたらした破壊痕を見て、美琴がジト目になる。
「ほんと、なんでレベル0なのよアンタ」
「測定者いわく、俺にはえーあいえむ? がないとかなんとか」
「AIMねぇ。そんなものなくたってさっきの技見せれば一発でレベル5でしょうに。AIMが弱くても能力者になってる奴はいるわよ。少ないだけで」
「戦い以外でみだりに技を見せるのは戦士のすることではない」
まじめ腐った顔でそう言った。これはカミジョウ流に代々伝わる由緒正しき教えである。
力とは見せるためにあるのではないのだと力説するカミジョウに、美琴はあきれ顔でため息をついた。
「私には一方的な狩りにしか見えなかったけど」
「相手の実力を見抜けなかった俺の鍛錬不足だ。助かった。……ところで、ビリビリ殿はどうしてここに?」
「えっ⁉」
美琴はぎくりとした。慌てて電気の制御を誤り、不良の一人がビルから落下した。カミジョウがそれを捕まえる。
「ビリビリ殿も俺と戦いに?」
「ち、違うわよ!」
わくわくしながら尋ねるカミジョウに、美琴は口籠もりながら否定する。
カミジョウはがっくりと肩を落とす。
「そうか。またミサカ神拳が見られるかと思ったのだが……残念だ」
「ミサカ神拳?」
「ああ。稲妻を操り、敵を倒す。俺はビリビリ殿の武術をそう呼んでいる」
「違うから。私のは普通の超能力だから。アンタのとんちき武術と一緒にしないで」
「良き話と思うのだがなぁ」
カミジョウはうなった。以前訳あって軽く戦ったことがあるのだが、それ以来カミジョウの目にはミサカ神拳が焼きついて離れない。カミジョウ流に雷を操る技はないからだ。
だが何度お願いしても美琴は手合わせしたがらない。カミジョウはそれが少しだけ寂しかった。
「ほら、明日からお互い夏休みでしょ? 暇なのかなぁ、なんて」
美琴が少し躊躇いがちに尋ねる。
なんとなく気になったのだ。
知ったからどうこうということもない。電話番号も知らないのだからどの道会うことなどできない。
けれど。ひょっとしたら会えるかもしれない。そんな淡い期待はあった。
「月詠先生からは、夏休み中も補修があると聞いた」
「どれくらい?」
「うむ……明日から8月末までと聞いている」
「夏休み全部じゃない!」
美琴の淡い期待は砕け散った。どれだけ成績が悪かったらそうなるのだ。
カミジョウは一切悪びれずに、爽やかに笑う。
「はっはっは。授業中もずっと筋トレをしていたからな。ひょっとしたらそのせいかもしれない」
「ひょっとしなくてもそのせいよ大バカ!」
この修行マニアめと美琴は思った。
「どうしてそう――」
脳筋なのよ、と続けようとした美琴を、しかしカミジョウが手で制止する。
しー、というジェスチャーをすると、カミジョウは耳に手を当てて、音に集中し始めた。
美琴が小声で尋ねる。
「何が聞こえたの?」
「女性のただならぬ悲鳴が聞こえた。誰かに追われているようだ」
カミジョウはあっさりと答える。
学園都市は治安が悪い。不良は多いし超能力でどんぱち始める輩も一定数いる。
それを武者修行ついでに両成敗するのがカミジョウの趣味だった。
「……見つけた! ここより南東に3キロ、数は3!」
そういってカミジョウが鞄からいそいそと仮面を取り出す。
赤を基調に黒と金で装飾されたいかにも“ヒーロー”然としたプラスチックのお面だ。具体的には日曜の朝8時に活躍する仮面ライダードラゴンにそっくりだ。
ちなみにお値段は400円。
それを手早く装着したカミジョウに美琴が突っ込む。
「ちょっとアンタ待ちなさいよ。また“アレ”やるつもりじゃないでしょうね」
「またとはなんだね。私は武術仮面のマスクド・ジョーだが。カミジョウでは断じてないぞ」
仮面で顔を隠した謎のヒーロー、ジョーはそう言った。
表情は見えないのに誇らしげな雰囲気がありありと伝わってくる。
美琴はついにキレた。
「ふざっっっっけんな! そんな雑な変装で騙されるか! それで人助けされる身にもなりなさいよ!」
「ふふふ。案ずるな。そう言うだろうと思って君にも用意してきた」
武術仮面は美琴にもう一つのお面をかぶらせた。
「わぷっ」
「君は今から雷撃仮面のミカサだ」
「……はあ!? 誰が雷撃仮面だ! そしてネーミングが雑!」
雷撃仮面の仮面は白と青を使った、メカメカしいデザインだ。しかしどこか女の子らしいかわいらしさもある。
こちらは日曜の朝に活躍するヒーロー、マジカルかなみんの戦闘形態の着ぐるみの頭部分だ。
お値段は5100円。
「畜生とれない! なんでサイズぴったりなのよ!」
「さあ行くぞ相棒! いざ人助けにゆかん!」
わめく雷撃仮面を置いて武術仮面はビルを蹴りだした。発生したソニックブームで雷撃仮面がごろごろと転がされる。
雷撃仮面が体を起こすと、武術仮面は既に遥か彼方へ移動していた。
置いていかれた。と理解すると同時、雷撃仮面は叫んだ。
「一人で……行くなぁ!」
急いで電磁力を操り、武術仮面の後を追いかける。
捕まえていた不良は置いていった。これから始まる戦いにはついてこれそうもない。
インデックスさんの出番はこれからですが、お話はここで終わりです。
ありがとうございました。