オリ主男名前ありです。

キャラクターに兄弟がいる設定です、以上が苦手な方はご注意ください。
承太郎に2歳上の兄がいた設定です。

好きに書いています

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死んだ兄にそっくりな男に出会った話

俺には兄がいた。

年が二つ離れた、兄貴がいた。

いた、と言うのは兄は小さい時に亡くなっている。

兄は生まれつき心臓が弱く、小さい頃から病弱だった。

公園に遊びに行こうと連れ出すと咳を小さくしながらいいよ、とついて来てくれていた。

しかし車椅子から立ち上がれるほどの体力はなく、ボール遊びすら兄と遊ぶことはできなかった。『ごめんね、つまんないよな』と顔を青くして謝っていた。兄の名前を呼べば呼ぶほど、兄はつらそうに笑っていた。

 

12月のクリスマスの時に、兄はたった7歳で帰らぬ人となった。

『ちょっと遠いところに出かけてくる』と兄は言った。その遠いところと言うのは病院で、幼い自分を心配させまいとついた嘘だった。

『ぜったい帰ってくるよ。帰ってきたら今度はいっぱい遊ぼう』

自分の頭を撫でながらそう言ったのが、兄との最後の会話だ。兄は必ず帰ってくる、そう健気にいつまでも信じていた。

 

母の話じゃあ、最期まで、“遊べなくてごめん”と何度も謝っていたらしい。兄はゆっくりと眠るように死んだ。葬儀では普段は明朗な祖父も母も泣いていたことを覚えている。

そこから10年以上経って、病弱だった兄に反して、自分は逞しく育ち、風邪も病気も関係ないような強靭な体に成長した。

見るものを圧倒する、みたいな見た目をしてるせいで周りに思いもしない喧嘩を売られることもあって、それに舐められないように売られた喧嘩を買って返していたら次第に不良だと指をさされるようになった。

毎年兄の命日になると、今頃高校生か、大学生かと考えて自分の近況を説明し難いなと思ったりする。

 

ある夏の盆で、墓参りから帰っていた日だ。夏の蒸し暑い日で、暑さに意識が朦朧とするような、それぐらいの猛暑日だった。

そのせいで咄嗟に避けることができずに、通り角から出てきた誰かと派手にぶつかった。俺は体格やら体幹やら良いせいで、地面にこけることはしなかったが、相手のぶつかって来たやつはこの熱いコンクリートの地面に寝転んでうずくまるほど吹っ飛んでいた。

男が持っていたらしい鞄が派手に散って、中身が道路に転がってしまっていた。どうにか起き上がった男は、小さくうめきながら地面に落ちた荷物を見て悲痛な声をあげて拾い上げる。

見ずにぶつかって来たのはお互い様だなと思いながら、荷物を拾ってやることにした。

 

拾い終えた後、男は俺を見上げて「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。顔を上げたその時、驚きのあまり言葉を失った。

男の顔が、死んだ兄によく似ていたからだ。

兄は7歳で死んでいる。見ず知らずの男の風貌を、今出会ったばかりだというのにどこを見て似ていると思うのか、目がおかしくなったかとも思う。それでも直感的に似てると、確信に近いものを思いながら、何度も瞬きを繰り返す。やはり目の前の男は兄によく似ていた。

 

「…兄貴?」

「は…?」

 

どこか冴えない表情をした男は、俺を見て何を言ってるのかわからないという顔をする。どうかしてるのかコイツ、とでも言いたげな目で自分を見上げる男の腕を思わず掴んだ。突然掴まれて驚いたのか、反射的に腕を振ろうとする。その力は割と強いもので、腕っ節もそこそこあるように感じた。あの病弱な兄ならありえないことだ。

 

「……名前、は…」

「え?名前?…いや、俺は…九条琥太郎っていいます、けど」

 

名前の響きにはわずかに名残を残していたものの、ところどころは惜しくとも、全体で見れば別人である証明他ならない。九条という名前からみて、彼は兄ではないことは明白だった。

それでも掴んだ腕を離す気にはなれなかった。

彼はおそらく兄の生まれ変わりだ。普段ならそんな根拠も何もすっぽかしたような発想にはならないが、今回ばかりはそう信じざるを得ないと思った。

 

「二つ下の…弟がいたり、しないか」

「一人っ子です…」

「……親戚に、空条っていないか」

「いません…」

 

なんということだ。じゃあ九条と名乗る彼は、他人の空似でしかないということだ。兄の生まれ変わりだと思い込んだ勢いが減速して肩の力が抜けていく。腕を掴む力も抜けていたのか、九条はそっと自分の手を外していた。

 

「あの…大丈夫ですか?」

「……兄貴、じゃあ…ないんだな」

「兄貴では…ないけど、何かあるんですか?」

 

話聞きましょうか?と彼は心配するような口調で提案した。あと周りが怪しんでるので、場所を変えません?と九条はこっそり耳打ちする。そう言われて周りを見渡すと確かに自分たちを見てヒソヒソと何かを言っているのが見える。あぁ、なるほど。と思うと、九条は向かいの道路の先にある喫茶店を指差す。「あそこで涼みがてら、どうですか」断る理由はなかった。

 

 

 

喫茶店に来て、まず開口一番に彼は俺へ、「兄貴とか何とか言いますけど、あなたの方が年上ですよね」と言ってきた。俺は自分が高校生であることを説明して学生証も見せた。すると「うそ、歳下?…子持ちの若いお父さんかと思った…ヤのつく仕事の…」などと失礼なことを言った。

そんなことも普通なら、失礼なこと言いやがると一発殴るところだが、兄に向かってそんな真似はできない。兄貴のツラだから見逃しといてやると言うと、彼は困ったな…という顔で頭を振っていた。

 

「こう…行方不明の兄を探しています、みたいなものかと思って…」

 

話を聞こうとした理由を彼はぽつりと言い始める。兄の話をするうちに、こちらの事情を理解したようで、彼は「なるほどね」と頷いた。

納得したように見えたのは一瞬で、すぐに彼は反論してきた。

 

「でも俺はお兄さんじゃないけど…」

「…帰ってきたんだろ?」

「帰ってきた?」

「帰ってくるって言ってたじゃねーか」

「お兄さんが言ってたってこと?」

「忘れたのか?約束したんだぜ」

「俺とじゃなくてお兄さんとだよね?」

 

琥太郎は所々現実的なことを言うが、俺にとっては目の前の彼は兄としか思えない存在だ。兄じゃないだとか、俺との約束じゃあないとか、そんなことをその都度言ってくるが、だからなんだという気持ちだった。

 

「7歳で病気っていうのも、俺が7歳の時は野球してたし…すごい健康優良児だったな」

「アンタが本当の兄貴じゃあねぇことはわかってる。ただ、生まれ変わりってこともあるだろ。…信じられねーがな」

「ドッペルゲンガーみたいなこと?」

「いや、生まれ変わりだ」

「生まれ変わり説随分押すね」

 

ドッペルゲンガーは趣味の悪い都市伝説だ。兄のドッペルゲンガーだとは思いたくなかったから即座に否定する。

彼はしばらく悩んだり、頼んだレモンスカッシュを一気飲みしたり、トイレに行ってくると言ってみたり、散々動いたあと、トイレから戻ってきて俺に向かって眉を吊り上げたようにして少し怒り始めた。

 

「あのね……く…空条くん?俺はさ、」

「承太郎でいい」

「…承太郎くんね、…どんなに顔が似ようが俺は君のお兄さんじゃないから…お兄さんのためにもやめたほうがいいと思うんだよね…」

「…は?」

「は?ってくるとは思わなかった」

 

丁寧に説明しようとしたらしい彼の話を聞いてみれば、俺を諭すような内容だった。

そんなことは今更聞きたくもない。兄貴が帰ってきた、それだけで充分だ。

その時の琥太郎の目には、承太郎が大型犬のように見えた、らしい。何かこっちが悪いことをしている気分になるような、そんなふうに思えたという。

 

「…もういいや。帰ろう」

 

琥太郎が取った行動は、『考えるのをやめる』ことだった。目の前に座る高校生(いまだに信じられない)にも複雑な事情があることはわかった。それを掘り返して第三者が指摘するのも失礼な話だし、自分を兄だと言って聞かないのをわざわざ訂正するのも大変なので、そのまま放って帰ることにした。喫茶店での代金はもちろん自分が払った、年下に払わせるわけにはいかないから。

 

…のだが、

 

「…帰り道まで着いてくんの?」

「……」

 

また大型犬が尻尾を下げるような態度を取る。

そんな態度取られるとこっちも強く言えなくなるじゃないか…と思いながらも、考えるのをやめているのでもういいやと諦…思ってはいるのだが、自宅の玄関先にまで来られると流石に考えざるを得なくなった。

 

「入るの?もしかして」

 

一応聞いたが、本人は全く無視する。

安いアパートの、一人暮らしをしている自分の自宅のドアを開けて入ると、ドアの外で青年は立っていた。当然のように入るのかと思っていた分驚いて「えっ、入らないの」と声に出してしまう。

流石に外に出したままというのは近所の目があるので、入っていいよと言うと大きな身体をのそのそとドアの隙間に滑り込ませて入ってきた。

 

「…一人か」

「田舎から来たから一人暮らしだよ」

 

部屋に入ることを許可されたので靴を脱いで上がると、想像と違う光景が広がっていた。貧相なボロアパートにテーブルと布団だけが置いてある。

田舎から一人でやってきて、大学に通っているらしい彼の、生活感が一切ないその部屋に、俺は愕然としながらも彼が一人だという事実に少しだけ胸を撫でていた。

 

てっきり最低限の家具だけが置いてあるのかと思いきや、そうではなかった。部屋の隅、鞄が置かれて隠されているが何か雑誌が山積みになっている。

俺の視線の先に気づいたのか、琥太郎はああそれね、と答えてくれた。

 

「将来は航空会社に勤めたいんだ」

 

憧れてるからね。

その一言に、昔の記憶が呼び起こされる。

布団から起き上がれた日の兄は、外に出ることはできなくても家の中で遊ぶことはできた。だからその日は海や空の写真集や図鑑を持って行って二人でよく眺めていた。

『承太郎は海がすきなんだね』

『にいちゃんは空が好きだなぁ』

『にいちゃんが元気になって、もしパイロットになれたら…いつか一緒に世界中の海へ行こう』

 

「…どうした?」

 

雑誌を持ったまま、しばらくぼうっとした俺に琥太郎は目の前で手を仰いでいた。 

 

「…兄貴も空が好きな人だった」

「そうなんだ。偶然だなぁ」

「やっぱり生まれ変わりだろ」

「うーん、それは違う…」

 

予想から確信に変わった瞬間だった。

憧れの想いまで受け継いで生まれ変わってきたんだと思った。本人はなかなか認めないが、今のところはしょうがない。彼がなんと言おうと、自分が信じる兄の要素が彼に詰まっているのだから。

 

 

 

 

「…今なんて言った?」

「泊まる」

 

琥太郎の家に泊まるつもりだった俺は、彼に何度もダメだと言われた。

 

「知らない人の家だよ」

「入らねーのかと聞いてきたのは兄貴だろ」

「家まで勝手に着いてきて人の家の前で立ち往生されちゃ困るからね!あと兄貴じゃない、親御さん心配するよ。帰ったほうがいいって」

「…?兄貴の家だ、問題ない」

「俺には大アリなんだよ…そもそも兄貴じゃないし」

「電話すれば良いだろ」

「そういう問題じゃなくて…」

 

意地でも帰る気がなくなった俺と意地でも帰らせたいらしい琥太郎で少し口喧嘩に発展しかけた時、琥太郎が「わかった!」と終止符を打った。

 

「…わかった、わかったよ。もう俺が兄貴だかなんだかで良いから、今日のところはお家に帰ったほうがいいよ…」

 

琥太郎はそれで良い?帰る?と確認するように聞いてくる。適当に帰らせるために彼が妥協で言った答えとはいえ、本人が兄で良いと認めたということはこれで正真正銘、彼は俺の兄貴ということだ。

約束は守ってくれと何度も言われて、その日はなくなく帰った。

 

 

 

 

学校帰りの電車に揺られながら、少しだけうとうととしてしまっていた。電車の揺れの勢いもあって、隣の人に思い切り頭をぶつけてしまう。

その隣の人が相当な強い肩をしていたのか、自分の頭は沈むことなく跳ね返った。その揺れで思わず目が覚める。

 

「次の駅で降りるんだろ」

 

まだ半分寝ぼけた頭を一気に起こしたのは高校生とは思えない渋い声をしたその隣の人だった。

 

「じょっ…」

「たまたまだ。途中から乗ったら兄貴が居た…それだけだぜ」

「あ、…兄貴ってまだ言って…」

 

まだ言ってるのそれ、と言おうとしてふとこの前のことを思い出す。そうだった…兄貴でも何でももう良いよと意地でも帰らせるために適当にその場凌ぎで答えてしまったんだった…

何やってるんだ数日前の俺、と後悔しながら降りる駅が近づいてくる。

当然のように一緒に降りる彼は後ろからついてきていた。

 

「どこ行くんだ」

「…晩飯の買い物」

「作るのか」

「一人暮らしは自炊必須だよ」

「なあ、兄貴」

「……なに。……あんまりそれで呼ばないで欲しいんだけどな…」

「今日は泊まっても良いだろ」

「は?!ダメだよ」

「おふくろに伝えた」

「えっ」

「兄貴の家に泊まると」

「えぇっ」

「アニキって名前のヤツだと勘違いしてたぜ」

 

だから問題ない、と鼻を鳴らす彼にわなわなと震えてしまう。怒りというかなんというか、どこまでも強引で話を聞かない歳下(おとうと)だなぁ!と思ってしまう。

 

結局少し多めに食材を買う羽目になった(食べ盛りであろう高校生が食べるというので)。

その荷物は彼に持たせる。

 

「飯食う気でいるんだろ。荷物は持ってね」

「わかってる」

 

また帰り道を同じようについて帰ってくる。

琥太郎は歩きながら、自分の行動の珍妙さに呆れていた。よく分からない見ず知らずの男から兄貴に似ているからという理由だけで、まさか家にまであげることになるとは想像だにしなかった。

ふと後ろを振り返ると、買い物袋を持った青年が自分の後ろをついて来ている。

その姿を見ると兄弟らしいなと、何故か無性に思った。おかしな話だ、あまりにも兄貴と呼ばれるせいで頭が麻痺したのかなとまで思う。

しかしその気持ちが自分からというより、誰か他から与えられているような気がした。

まさかね、と思って空を見上げる。彼の本当の兄が自分に何か訴えているんじゃないか、そんな気がした。

 



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