エヴリンが人間としてヒーローを目指す話。楽しんでいただけたら幸いです。
私は悪だ。断言できる。実験が嫌で逃げ出した先のタンカーの船員を全滅させ、助けてくれた一家の人間も地獄に落とした私は悪だ。にっくきイーサン・ウィンターズとの激闘の末に倒された私は、何の因果か生まれ変わった。カビの塊なんかじゃない、歴とした人間として。
だけど、生んでくれた母親や父親とは赤子の頃から一切会えず、例の黒カビを生み出し操り他人に感染させる力は健在で、コネクションという組織で人体実験されるもんだから前世をもう一度やり直すのかと世界を呪ったものだ。
その世界が前世とは全く異なる世界総人口の八割が何らかの特異体質「個性」持ちでヒーローとヴィランが蔓延る超人社会であると知ったのは、コネクションの悪事を暴き乗り込んで壊滅させたヒーローたちの一人、オールマイト……今のパパに教えられてだった。
私を生んだことで用済みになった両親は殺され、天涯孤独の身となり孤児院に入れられることになって発狂して暴走しかけた私を、パパは抱きしめて止めてくれたばかりか、引き取って自分の娘として育ててくれた。嬉しかった。前世で父親にしようとしたジャックやイーサンとは違う、自分から父親になってくれた人。トップヒーローだとかそんなの関係なく、自慢できる最高の父親だ。ヒーロー活動に没頭して家族の時間が少ないのが玉に瑕だけど。そうして私は「
そんな私も中学三年生になった、その五年前。パパが重傷を負った。オール・フォー・ワンという巨悪が私を狙って襲ってきて、それを命からがら撃退したのだ。私は前世での「感染した人間に狂的な再生能力を与える」力で治そうと試みたのだが、助けられて以来個性を使ってなかった私じゃ前世ほどの力は出せずに泣きじゃくるしかなかった。パパは一命を取り留めたが、それ以降弱体化してしまった。だから私は決めたんだ。この呪われた
パパが前にも増して出かけ、家族としての時間が減った中学最後の一年間を品行方正な優等生として終えた私は、パパの母校である倍率300倍の「国立雄英高等学校」の入試を受けにやってきた。数千人はいるであろう人が多くて怖いし、小柄な私は好奇な目を向けられているが気にしない。なんか横で転びかけた少年が助けられてたけど気にしない。
「HAHAHA!こんな私がヒーローになってもいいのかって?個性のことなら気にすることないさ!エヴリン!君が来たってことを見せるんだ!」
パパがそう言ってくれたのだ。こんな私でもなれると言ってくれたんだ。ならなってみせる。まずは合格することからだ。筆記は前世で「人間社会へ潜入する生物兵器」として叩き込まれた勉強のおかげで…結構遺憾だが大丈夫だ、問題ない。問題は実技だけど……内容次第だなあ。
「今日は俺のライブにようこそー!エヴィバディセイヘイ!」
雄英の教師らしいボイスヒーロー・プレゼントマイクによると、試験内容はロボの撃破らしい。撃破したロボの種類や数に応じて、ポイントを獲得するポイント制だとか。どのロボがどのポイントなのかは忘れたけど、とりあえず片っ端から全部壊せばいいよね。お邪魔虫な0ポイントの巨大ロボットもいるらしいが無視すればいいなら関係ないや。
「俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!更に向こうへ、“Plus Ultra”!それでは皆、良い受難を!」
更に向こうへ。いい言葉だ。感動的だな。無意味なんかじゃない、何せパパがその体現者なのだから。
ちょっとした町程の広さはある試験会場に到着。何時でも動ける様に常備した水筒で水分を過剰に補給し、深呼吸する。格好は着慣れた黒いワンピースに黒いブーツだ。場違いな見た目に周囲からの視線が凄い。やめてよ。私、コミュ症なんだから。体操服とかよりも着慣れてる服がいいじゃん?それに、私は同年代より遥かに小柄なせいか身体能力が低い。出遅れたらそれだけでアウトだ。最初から仕掛けられればその限りではないのだけど……
「ハイ、スタート―!」
聞こえた。プレゼントマイクの声が聞こえると同時に駆け出す。何故か他の人は呆けていた。ラッキーだ。
「どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられているぞ!」
まくしたてられて慌てて私の後を追いかけてくる受験生たち。そうだよ。見敵必殺。それが世の常だ。反応が遅れたイーサンは左手を切断されたのだから。目の前から大群でやってきたロボの眼前で急停止。意識を周囲に広げる。ブーツを履いた足元からそれを溢れさせる。
《標的捕捉!》
《ブッコロス!》
《排除!排除!》
なにやら物騒なことを言ってるようだが関係ない。既に地面に敷き詰めた。もう、お前は動けない。
《!?》
「どこ見てるの?こっちだよ」
敷き詰めたそれに飛び込み、背後に現れて翻弄、右手を黒く鍵爪の付いた異形のものに変えると鉄の装甲を引き裂いて撃破。さらに足元に敷き詰めたそれに足を踏み入れて侵食され身動きがとれなくなったロボを次々と爪で引き裂いていく。すると他の受験生も追い付いてきた。このペースじゃ遅いかな。
「出番だよ」
「? う、うわあああ!?」
足元に私を中心に円形に五メートルぐらい茂った黒いそれから、異形の人型…モールデッドが二体現れて次々とロボに襲いかかり、ほとんどの受験生は阿鼻叫喚。六本腕の彼とか全然驚いてなくてすごい。これ、妨害じゃないからね?逆に、これが私の個性である以上他の受験生は倒すことができない。まさに無双だよ。
「
掛け声を上げながら次々とロボット軍団を鉄屑に変えて行く。私の個性で作られたこれは鋼構造物を容易く破壊する硬度を持っている。ただのロボット相手なら楽勝だ。
「お前も家族だ!」
異形の右拳を握り、ジャック譲りのストレートパンチで頭部に風穴を開けていると、地響きと共にそれは現れた。
「……いや、でかすぎない?」
変異したジャックよりでかいんだけどあの0ポイント。他の受験生も次々と逃げているし、関わらないに限る…とモールデッド二体を引き連れて離れようとした時だった。視界の端に、カエルの様な女の子が瓦礫に足を取られている光景が見えた。一瞬思考する。
【どうせ試験だし安全だよ。放って他のポイントをとるべきだって】
【そうだよ。他人を侵すことしかできない私が誰かを助けられるはずないよ】
だけど、だけどだ。私はパパの、オールマイトの娘だ。あの人の跡を継ぐと決めたんだ。
【馬鹿なの?】
馬鹿でもいい。ここで人一人助けられない私が、最高最善のヒーローになれるもんか!駆け出す。こちらを見て驚いてるカエル似の女の子の、制止の声を無視しながら傍らに転がり込んで右手を痛いほどアスファルトに叩きつけて、右手を覆っている黒いそれを広げる。
「
ドーム状に広がったそれが、巨大ロボの踏みつけを受け止める。訝しんだロボが足を上げた隙に、駆け寄らせたモールデッド二体に女の子を運んでもらい、見上げる。
【邪魔だなあ。壊そうよ、私】
「いいね、壊そうか」
獰猛に笑い、足元から湧き出した黒いそれをタワー状に伸ばして巨大ロボの眼前まで上昇。水筒の水をぐびぐびと飲んで喉を潤すと異形の右拳を握り、振りかぶる。
「パパの見様見真似だけど…!」
右肩まで覆うように、黒いそれ…黒カビでパパの筋肉を再現。幼い容姿のこの身に似合わぬ剛腕を構えて、巨大ロボの顔面に叩き込む。
「Louisiana・Smash!」
私にとって因縁の地でもある土地の名前を借りた一撃は、巨大ロボの顔面を半壊させ、その巨体を崩れ落ちさせる。そして右腕を形成しているカビをクッションの様に広げて着地。カエル似の女の子や茫然とこちらを見やる他の受験生たちに、獰猛な笑みを浮かべて見せた。
・八木エヴリン
オールマイトの義理の娘。ヒロアカ世界のコネクションの個性婚を利用した人体実験で生まれた天涯孤独の少女。列記とした人間。前世の反動か全然成長せず15歳だが一見子供にしか見えない。オールマイトの事が大好き。イーサンが嫌い。
個性【カビ】
自らの身体から生み出したカビを自在に操る。摂取した水分量で質量を増やせる。指示に愚直に従うモールデッドを生み出したり、自身に武装したり、壁を作りだしたりと結構変幻自在に使える。作れるモールデッドは現在二体まで。また、他人にカビを植え付けることで………
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