今回はエヴリンVS脳無です。楽しんでいただけたら幸いです。
「よし。広場に戻るぞ。相澤先生を援護する」
「うん、脳無って呼ばれてたヤバい奴がいたし心配だもんね」
「よーし、もうひと頑張り、やるぞー!」
三人で警戒しながら土砂崩れエリアを抜けて広場に向かい物陰から状況を確認すると、凄惨な光景が広がっていた。脳無に押さえつけられたボロボロの相澤先生が、手野郎の個性なのか触れられた肘が罅割れ肉が露わになっている。さらには脳無に頭から地面に何度も叩きつけられて血塗れだ。
「対平和の象徴。改人“脳無”だ。お気に召してくれたかな?ヒーロー」
勝ち誇る手野郎。咄嗟に飛び出そうとする焦凍を葉隠と一緒に無言で引き留める。アレはやばい、ネメシスの何倍もやばい。パパがそのまま敵になった様な物だ。それに、鋼鉱物をも破壊する硬度のカビで覆った私の左腕が奴の一撃でへし折れたのだ。冷静に考えてみれば、あんなのを真面に喰らえば命はない。焦凍や葉隠まで殺されるわけには行かない。
「今戻りました、
「ああ
突如黒い靄が現れたと思ったら、クロギリと呼ばれた靄野郎がシガラキトムラと呼ばれた手野郎の側に現れる。どうやらネメシスが倒されたことには気付いていないらしい。
「13号は行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」
「……は?」
それは朗報だった。クラスメイトの誰かが逃げれたらしい。もし飯田だったらすぐにでも教師たちヒーローやパパを呼んで駆けつけてくれる。相澤先生も助かるかもしれない。
「はあーー…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……今回はもうゲームオーバーだ。ネメシスとあの餓鬼を回収して帰ろっか」
クソデカ溜め息の後にそう宣うシガラキトムラ。これだけの事をして、私を捕らえたと考えているとはいえ「パパを殺す」という多分メインの目的を遂げずにあっさりと引き返したら、雄英高校の危機意識が上がるだけなのに何を考えている?
「けども、その前に。平和の象徴としての矜持を少しでもへし折ってやろうか」
瞬間、とんでもない速さでシガラキトムラが水難エリアの方へと移動していた。そこには、私達と同じで様子を窺っていたであろう緑谷、峰田、梅雨ちゃんがいて。
「だめ…!」
奴の手が梅雨ちゃんの顔に伸びる。相澤先生が死に体で顔を上げようとしたが気付いた脳無にさらに頭を打ち付けられる光景が見える。緑谷も峰田も反応できてない。焦凍や葉隠じゃ間に合わない。間に合うのは、私だけだ。
【奴の狙いは私とパパだよ。私が出るのは自殺行為だよ】
でも、見捨てられるはずがない。水筒を飲んでいる暇もないので体中の水分を総動員して瞬時にカビのカーペットを一直線に広げ、飛びこんでだいぶ離れた距離を一気に瞬間移動。驚いているシガラキトムラの真横で、マッスルフォームにした右拳を思いっきりその顔面に振り抜いた。
「があぁあああああ!?」
「死柄木弔!?」
なんか面白いように吹っ飛んだシガラキトムラにワープしてきたクロギリが駆け寄る。あ、やっぱりこいつ個性が強くて悪意が凄いだけで弱いな?例えばジャックだったらこれぐらいじゃ吹っ飛ばないよ。
「ああ……ああ、お父さん……クソッ、いてえ…てめ…っ、なんで、ネメシスはどうしたぁ…!」
「ネメシスだったら捕まえたよ!よくも相澤先生をやったな…その厄介な両腕へし折ってから喋れないぐらいにボコボコにしてやるから覚悟しろ!」
「ちい…何がヒーロー志望だよ、言ってることヴィランと大差ないじゃないか……五体満足でいられないのはお前の方だ!脳無、やれ!」
【既に左腕折れてるんじゃが?】
顔に付けてた手が外れて弱々しくなってたシガラキトムラが黒霧から手を受け取って鼻血が流れている顔に付け直すと、調子を取り戻して指示してきた。咄嗟に振り向くと、瞬時に黒い筋肉ダルマが迫っていて、サイズが違う右腕を振りかぶるには時間が足りなかった。
「やば…!?」
「っ…SMASH!」
すると緑谷が飛び出して拳を脳無の胴体に叩きつける。見れば腕が壊れてないことから上手く出力を調整できたようだが、今それをされても困る。腕を壊さない程度のパワーじゃ脳無は一瞬止まるも気にせず突き進んで緑谷を水辺まで吹き飛ばして私に迫る。
【ナイス時間稼ぎ!】
「
一瞬の隙さえあれば水を補給できる。水分補給、と同時に黒カビを足元に展開して脳無の両足を拘束、つんのめらせてその超パワーの勢いのままコンクリに頭から叩きつける。硬度はそのまま、粘性にした拘束だ。
【うわあ。むき出しの脳から行ったよ…】
死んでないよね?さ、さすがにダメージが入ったはず…。ちょっと不安になってシガラキトムラの方を向いてみると、奴は笑っていた。
「おいおい、殺したかもって不安になってるじゃないか。安心しなよオールマイトの娘。そいつはその程度じゃ死なないし、止まらないからさ」
「え?」
「エヴリンちゃん、後ろ!」
ブチブチッと、背後から嫌な音が聞こえた。それは肉を引きちぎる音。振り返れば、拘束された膝下の両足を引きちぎって高速で匍匐前進してくる脳無がいた。しかもみるみる断面から肉が溢れて足を形成していく。咄嗟にマッスルフォームの右腕を脳無の頭頂部目掛けて叩きつけるも、腕のみで跳躍して避けられ広場の方に逃れてしまった。
【いやキモッ!?】
「あの怪力と容姿が個性じゃなかったの!?」
「誰が何時そんなこと言った。いいぜ、大事なお客様に無駄な抵抗させないために教えてやるよ。脳無の個性は超再生、そしてショック吸収だ。例えオールマイトにいくら殴られようが四肢を切り刻まれようが拘束しようが効かないぜ?」
完全にパパをメタって来てる………焦凍の氷結も炎も効かなそうだな。でも、私の拘束を足を引きちぎらないと抜け出せなかったってことは、粘性の硬質カビはそう簡単に壊せないと見た。ならば。
「
両手を合掌。広げた間に粘つくカビでできた蜘蛛の巣を形成し、掌を重ねて鉄砲の様にタールみたいなそれを放射。完全に両足を再生して真正面に突撃してきた脳無の上半身にぶっかける。両腕を拘束され顔も覆われた脳無はもがくがカビは剥がれない。勝った、と確信した。
「動けなくしちゃえば関係ないでしょ!お前らもこうだ!」
もう一度合掌してカビの蜘蛛の巣を形成し、両手を目いっぱい広げてカビの網も肥大化させ、振り向きざまにシガラキトムラとクロギリに叩きつける。しかしクロギリは瞬間移動して回避し、まともに受けたシガラキトムラは笑みを隠さない。
「オールマイトの娘だからって警戒していたけどさ…この程度で俺達をどうにかできると思ってるのかよ?」
シガラキトムラの手のある部分からぱらぱらとカビが罅割れ崩れ落ちていき、拘束から逃れて脳無に向けて走り出すシガラキトムラ。止めようとカビで足元を拘束するも、ひと撫でで崩壊してしまい意味がない。あ、駄目だ、と思った。相性が最悪だ。
「脳無を拘束するのは度肝を抜かれたけどさ、残念だったな。確かにお前は脳無と相性はいいが…俺とは致命的に相性が悪い。バーサーカーでフォーリナーに挑むようなもんだぜ。観念して俺達と一緒に来てくれよ、時間がないんだ」
「……性格も相性悪そうだから意地でも捕まってやらない」
脳無を拘束しているカビも崩壊させながら語りかけてくるシガラキトムラに、私はまだやれますとマッスルフォームの右腕を振りかぶる。脳無は多分、シガラキトムラの命令でしか動かない操り人形だ。先にシガラキトムラさえ気絶させれば勝てる。隙を窺っていると、こちらの様子を窺っている焦凍と目が合う。脳無に視線を向けてからもう一度向けると頷いてくれた。一瞬の隙さえあればいい。
「今、焦凍!」
飛び出すと同時に叫ぶ。瞬間、大氷結が脳無を覆い尽くす。アレを壊すまでの数秒の間に、氷に呆気に取られているシガラキトムラを…!
「私を忘れていませんか?」
「え」
シガラキトムラの顔面に拳が炸裂する瞬間、黒い靄が間に広がり私は虚空に投げ出されていた。眼下には半壊した船の残骸と水面が。ここって、水難ゾーン…!?
【私、泳げないんだよね。前世でタンカー壊した時に普通に溺れて助けられたぐらいだし】
「一回溺れてしまえば大人しくなるでしょう」
「八木さん!」
「エヴリンちゃん!」
緑谷と梅雨ちゃんの悲痛の叫びが聞こえ、私は水面に叩きつけられ沈んで行った。
脳無とは相性良かったけど死柄木とは相性が悪かった。なんなら黒霧とも相性悪い。
エヴリンが泳げないのは自己解釈。ジャックに助け出されてたのはそういうことだよね。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。