今回はエヴリンと轟と。楽しんでいただけたら幸いです。
作戦は簡単。カビの壁で密閉して氷をせき止め、溶かして湿気が増えた所で一気に広げて轟を奇襲。同時に葉隠が障子を捕獲する。シンプルイズベストだ。轟が右の氷だけを使うって宣言したから想像できて作戦を組み立てることができた。
≪「さあ、4人ともモニタールームに戻ってきてくれ。講評の時間だ!」≫
「はーい!」
しがみ付いていた轟の背から離れ、パパからの伝達に従って戻ろうとしていると、項垂れていた轟が口を開いた。
「八木。…………お前の父親って、オールマイトなのか?」
「!」
「お前の父親」と聞こえた瞬間に咄嗟に無線機の電源を切る。あちらも切ってくれたようだからいいけど、いきなりぶちかましてきたな!?
「な、なんのことかなー?私なんかの父親がオールマイトなわけないじゃん?」
「さっき、パパ頑張れってオールマイトに言ってたの聞こえてたぞ。お前に注視してたから気付けたが」
【えっ私を見てたの?引くわー】
「えっ、ストーカー…?」
「ストーカーじゃねえ!」
自分の身体を庇いながら怯えたふりをすると全力でツッコまれた。大きな声出せるじゃん。
「安心しろ、オールマイトの隠し子だろうが他言する気はねえ。ただ、お前がオールマイトの娘だってんなら…俺はこれ以上負けられねえ」
「私はオールマイトの隠し子でも娘でもないけど、なんで?」
「もう知ってると思うが…俺は、エンデヴァーの息子だ」
「え、知らないけど」
【万年二位の怖いおじさんなのは知ってる】
マジで知らないんだけど。そう目で訴えると轟は押し黙り、続けた。
「……とにかくだ。お前がオールマイトの関係者…特に子供だってんなら俺は尚更勝たなきゃいけねえ」
そこから聞いてもないのに語られるのは壮絶な過去。オールマイトを超えられない轟の父、エンデヴァーが個性婚を行い、母の個性を無理矢理手にしたこと。その時点でうん?となった。どっかで聞いたなあ、個性婚。両親の「炎」と「氷」の個性を受け継いで生まれてきた自分をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで己の欲求を満たそうとしていることで心を病み、涙を流していた母に「お前の左側が醜い」と、煮え湯を浴びせられたこと。はあ、なるほど。顔左の火傷はそれか。
「俺はアイツを絶対許さねえ。アイツの力を…クソ親父の個性を、炎を使わずに一番になる事で奴を全否定する。そのために、お前に負けるわけにはいかねえんだ」
「ふーん。……それで負けたじゃん。それに、昨日は三番だったじゃん」
【なんなら八百万にも負けてるじゃん】
「ぐっ。…次は油断しねえ」
「炎を出してたら負けてたよ、私。轟が右だけで勝つって宣言したからそこを突いて勝ったわけだし」
「それでも俺は、アイツの個性は使わねえ…!」
【強情だな。事実は認めろ】
「…ふざけないでよ。自分がどれだけ恵まれてるかも知らないで」
頑なな轟にぷっちん来た。パパには口止めされてるけど轟は口堅そうだし言ってもいいよね。てか言いたい。怒鳴り散らしてやりたい。殴りたいぐらいだもん。
「お察しの通り。私はオールマイトの娘だよ。だけど、義理のね」
「義理の…?」
「そ。私も個性婚で生まれたんだ。……轟と違って、とある組織の生体兵器としてだけど」
「…!?」
「両親は殺されたって聞いた。私ね、ヒーローじゃなくてヴィランとして育てられてたんだ。個性を掛け合わせて強力な個性を持った子供を生み出して、赤ん坊の頃から教育して従順な兵器にする、そんな最悪の実験体が私。それを…パパに助けられて、養子にしてもらって……さすがにこれ以上詳しくは言えないけど、色々あってパパの代わりになれる様なヒーローを目指す様になって、私は今ここにいる」
私の生い立ちを聞いて呆然とする轟。…そういや高校生の轟には酷な話だったか。まさか自分より最低な生い立ちを持つヒーロー候補生がいるとは思わなかったんだろうね。
「……轟の事情も壮絶だと思うけどさ、少なくとも恵まれてるよね?両親ともに健在で、ヒーローとして育てられた。私とは正反対で、羨ましいよ。私は両親に反発することもできなかった」
「羨ましい?俺が…?だが、アイツは…!」
「だって轟もヒーローになりたいのは変わらないんでしょ。父親を否定したいならヴィランにでもなればいいのにヒーローを目指すのはそう言う事だもん」
「っ…」
【ンンンンンッ!まさに!正論!】
否定しようとしたようだが、言葉が出なくて押し黙る轟。ヒーローになりたい、その根源たる感情は否定できないんだろう。私も同じだ。
「轟は忌避してるけどさ、私はこの個性を愛おしく思ってるよ。両親が残してくれた、私の力だもん」
「…お前はそうだろうが、俺はアイツの個性が憎い。だから母さんの個性で…!」
「アイツの個性、母さんの個性って言うけどさ。唯一無二の轟の個性じゃないの?」
「…!」
「それにさっきも「舐めプ野郎」って言ったけどさ……私達は全力でヒーローを目指しているのに、半分の力でトップを目指すなんて、舐めすぎじゃない?」
【そうだぞ舐めプ野郎】
「…俺は、そんなつもりは…」
「少なくとも、轟が氷だけを使ううちは私、意地でも負けるつもりないからね。同類としても、ライバルとしても。ほら行こ、みんな待ってるよ」
そう言って階段を降りようとすると、落ち込みながらも付いて来た轟がぼそっと口を開いた。
「なあ。……エヴリンって呼んでいいか」
【ドストレートな告白!?】
「いきなり名前呼び!?なんで!?」
「俺とお前はライバルなんだろ?名前で呼び合うのが普通じゃないのか?」
【ピュアピュアだ…】
「……さては轟、天然だな?」
「焦凍だ」
「え?あ、うん。焦凍。例え氷と炎どっちとも使っても私は負けないからね」
「上等だ。俺もお前を乗り越えて見せるさ」
個性婚、トップヒーローを親に持つ者。実は同類だった私達は自然と仲良く語り合いながら、外で私達を待っていた葉隠と障子と合流してモニタールームに戻るのだった。
「さーて、ちょっと時間はかかったけど四人が戻ってきたところで……今戦のベストは誰だったか、わかるかな?」
「はい。エヴリンさんですわ」
パパの問いかけに答えたのは八百万。さっきの緑谷麗日VS爆豪飯田の時もパパの言いたいこと全部言っちゃってたな。
「相手の個性を知っていたからこそですが…外からの偵察を防ぐ様に窓を塞ぎ、さらには核が隠された部屋を確実に守るように幾重にも張られた壁はヒーローに包囲されている、という前提条件を考えれば最善策だったかと。また、葉隠さんが飛び出すのをギリギリまで悟られぬように己の…えっと、ペット?を先行させて轟さんを油断させて成功させ、己も完全に不意を突いた奇襲で捕縛。見ていて鮮やかな手腕でしたわ」
「それほどでも~」
八百万の評価がまっすぐでくすぐったい。照れていると視線を感じて振り向くと、なんか爆豪がすごい顔で睨んでくるのだが。ドヤ顔で返してやろう。ドヤァ。あ、そっぽを向いた。つまんないの。
「うむ!付け加えると、葉隠少女はエヴ…八木少女の作戦に頼りすぎたところが減点だ。仲間に頼り切りはよくないぞ。轟少年は油断して一人で突入したのが不味かった。二人で突入していればもしかしたら違った結末になっていたかもしれないぞ。障子少年は窓を覆った物の正体を探ることに囚われて索敵を怠ったことが減点だ。そういう判断ミスが命取りになるのがプロの世界だ」
「何も思いつかなくてごめんなさい…」
「…俺の過信が招いた敗北だ。わりぃ、障子」
「いいや、俺も葉隠がいたことを失念していた…」
パパに言われて落ち込む三人。葉隠は私の作戦を完璧にこなしてくれたからよかったと思ってたんだけどそういう目線もあるんだ。勉強になるなあ。
「さて、続けて行こうか!次のチームは―――――」
そんなこんなで放課後。不貞腐れた様に下校した爆豪に続く様にそそくさと帰ろうとしていたのだが、八百万からみんなで反省会をするからぜひ個性について教えて欲しいと頼まれ、さらに周りからの期待の目もあってしぶしぶ了承することになって自分の個性が「カビ」だと話すと葉隠以外に驚かれた。轟…じゃない、焦凍も驚いていたのが面白かった。そりゃ個性婚で生まれた個性が「カビ」とか思わないよね。
…まあでも、あくまで表向きで正確には「カビ」じゃないんだけどね、私の個性。
それぞれ重い過去を打ち明けてライバルになったエヴリンと轟。地味にこの世界でも生体兵器として生誕したことが判明したエヴリンです。実際ヒロアカ世界にはこの手の生体兵器が結構いそう。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。