あれはウソだ
「…あんたら、誰?」
なんの前触れもなく現れた少女、
(本当に誰?なんで燈華の部屋に、天葉様たちは分かるけど……てか、逆になんで燈華がいない?)
周りを見渡し、部屋の主である燈華が何故か不在である事に疑問を抱く鶴紗。
燈華本人に用事があって来た彼女だったが、これでは意味がない、それ以前に呼び出した本人が不在なのはいかがなものか…。
「えっと、初めてまして…かな?六角汐里です」
「えっ江川、樟美…です」
「郭神琳です、以後お見知り置きを」
気を取り直し、自己紹介を始める3人だが、それに対して鶴紗はこれといって興味が無さそうな反応を見せる。
そんな中等部組の様子を高等部組が苦笑いで眺めていた。
「安藤鶴紗…って必要ないか、関わる事ほとんどなさそうだし」
鶴紗の一言に理解できず、再び固まる3人。
鶴紗自身に悪意がある訳ではなく、ただ純粋に彼女が『自分と関わろうとはしないだろう』と思い判断した上での言葉であったが…。
言葉足らずの彼女に神琳が声をかけようとしたとき──
「ちょ、ちょっと鶴紗さん!何をさも当たり前の様に入室してるのよ!」
鶴紗の後を追うように、2人の少女が入室してくる。
1人は慌てた様子で冷や汗をかいている白銀の髪を持つ小柄な少女。
彼女の言動から察するに恐らく鶴紗はノックもせず、いつも通り自室に入る感覚で入室してきたのだろう。
そしてもう1人の水色の髪を持つ少女はその少女の背後に隠れており、無言で神琳たちの様子を伺っているのだが、関心の壁役が小柄な事もあってほとんど見え見えである。
「って……なっ」
白銀の少女は部屋に入るなりテーブルを囲んでお小さな茶会を開いている神琳達を見て無意識に体を硬直させてしまう。
数十分前に神琳に招かれて入室した汐里もまた彼女と同じ反応を見せている。
(あ、あかねぇ?…いやアールヴヘイム!?なんで!?)
神琳や鶴紗は一緒にいる機会が多い事もあって感覚が麻痺しているのか、平然と場に溶け込んでいるが、彼女の様なごく普通の一般生徒からしたらそうではない。
白井夢結、吉村・Thi・梅、天野天葉、番匠谷依奈、渡邊茜、谷口聖。
御台場迎撃戦を最後に解散したアールヴヘイムの元メンバーで、それぞれに…狂乱の天使、疾風の先駆者、蒼き月の御使い、プランセス、コンダクター、百合ヶ丘の恋人…と、二つ名を持ち、それに加え全員がレアスキルS級保持者と、学院の誰もが知る有名な猛者達であり、誰もが憧れ目標としているリリィ達である。
(そのアールヴヘイムが、半分とは言えこの部屋に集結している、リリィオタクからしたらそれだけで発狂物だわ……それに)
「弥宙?……あぁ、手洗い場ならあっち」
「あ、あらそう?ありが…って違うわよ!失礼ね!」
唐突に目の前で固まった弥宙に対して何を察したのか鶴紗が手洗い場の方角を指差すが、彼女はそれを即答で否定する。
一瞬でも向かおうとした所を見ると尿意があった可能性もあるが。
「えっと…貴女は、確か杉組の…」
少女に見覚えのあった神琳が名前を思い出そうと首を傾げる。
すると「…はっ!?」と我に帰ったのか少女は慌てて首を振り、姿勢を正しく直してスカートを摘み、改めて自己紹介を始める。
「おっ、お初にお目にかかりますレギオンアールヴヘイムの皆様。
わ、わたしは中等部工廠科3年杉組、
「
よろしくお願いします」
そして弥宙に続き、後ろに隠れていた辰姫も一緒に自己紹介を始める。
2人とも緊張しているのか、それともただ単に慣れていないだけなのか動作が物凄くぎこちなかったが、天葉達は特に気にする事もなく「よろしく」と一言だけ返して行く。
「弥宙…ちゃん」
「いらっしゃい弥宙。
…じゃあ今度はわたしがお茶を入れようかな」
そう言い茜がティーポットを持って席を立ち、台所へと向かう、去り際に3人に「
ごく自然な流れで台所へ向かう茜に対して『ここはあんたの自室か!』と思わず心の中でツッコんでしまう高等部組。
「あ、ありがとあかねぇ。
よいしょ……樟美も、元気そうでよかったわ」
「うん……あ、あの、弥宙ちゃん」
「大丈夫よ、心に余裕が出来た時で」
「…うんっ」
樟美が無理をして何を言おうとしたのかを察し、彼女を安心させるように優しく頭に手を置いて撫でてそれを静止する弥宙。
「…それで、燈華はどこに?」
「えっ?えっと、食品庫へ行かれましたよ」
(…上級生を呼び捨て?)
「そう…なら少し時間がかかりそうだな」
「あの、燈華様になにかご用事でも?」
「いや、わたしじゃなくてこの子」
鶴紗は腰を下ろしている弥宙の背後にいる辰姫の方に目を向ける。
本音を言うとちょっとした野暮用があったのだが、別に今じゃなくてもよかった。
「うん、これでわたしの役目は終わりだな、弥宙あとはよろしく」
「…えっ?ちょっ、鶴紗さんも一緒に居ればいいじゃない」
「ー?わたしは特にこれと言った用事はないけど」
弥宙の言葉に首を傾げて聞き返す鶴紗。
純粋になぜ弥宙が自分を引き止めようとしているのか皆目見当がつかなかったのだ。
辰姫には自分よりも弥宙が側にいた方が彼女も安心できるし、今回の祝賀会にも参加する気はない、自分がここに残る必要は特にないと。
(それに、わたしが居ても空気を悪くするだけだろうし)
「……明日からはなるべく関わらないようにするから安心しろ」
「「「…えっ?」」」
「た、鶴紗?」
「ちょ、ちょっと鶴紗さん!」
目の前にいる神琳、汐里、樟美を
そんな鶴紗を弥宙は止めようとするが彼女は聞く耳を持たず、部屋を立ち去ろうと腰を上げると──
「こーら、まーたそういう事をする」
「むっ?」
後ろから両肩に体重を乗せられ、必然的に腰を元の位置に戻してしまう。
そして恨めし気にその犯人を睨み付ける鶴紗。
神琳達も気が付かなかったのか驚きのあまり思わず体が跳ねてしまっている。
「…梅様、いつに間に」
「そういうところ、鶴紗の悪い癖だゾ?
まぁ、ゆっくりしてけ……しょっと」
「むぅ…」
犯人は先程まで反対側で天葉の隣に座っていた梅であった。
そして梅は腰を下ろすと鶴紗を自分の膝の上へと移動させ、逃げられない様に腰に手を回して抱き締める。
捕まった本人は大人しくしているが大変不服そうである。
「ん?鶴紗もしかしてまた伸びたか?」
「別に…というか、暑苦しいので離れてください」
「あははっ!まぁそう言うなって!」
そんな梅に頭をポンポンとされる彼女の姿は文字通り借りてきた猫状態である。
嫌がりつつも全く抵抗しないあたり、『内心まんざらでもないんじゃ…』と、心の中で呟く中等部組。
梅の性格上ただ単に諦めているだけの可能性もあるが。
「ふぅ…諦めなさい鶴紗さん。
梅の性格は貴女もよく知っているでしょう」
「ならこの席を譲るので夢結様が代わりに座ってください」
「丁重にお断りするわ」
カップを置いて鶴紗に降参を促す夢結だが鶴紗はそうはいかなかった。
ぱっと見、冗談を言い合っているように見えるが本人達は至って真面目である。
この中でも特に梅に振り回されている2人だからこそ彼女の頑固さを理解できるのであろう。
「ん?夢結も座ってみるか?あぁでも身長同じくらいだから前が見えなくなるかもなっ!」
「なっ、からかわないでちょうだい」
「夢結様、本当は羨ましいのでは?代わりますが」
「冗談はやめて」
「いや真面目に」
仲睦まじく(?) 会話をする2人。
ここに来なければまず見る事は出来ないであろう珍しい組み合わせに思わず無言になってしまう中等部組。
鶴紗が部屋を立ち去ろうとした時に放った言葉が気になり、その訳を訊こうと
(2人の会話をもう少し眺めていたい)
という邪念を払い除け鶴紗に声をかける神琳。
「…ん」
「その、わたくし何か安藤さんが不快に思うような事をしてしまったのでしょうか…もしそうなら「安心しろ、そういう訳じゃないゾ」……えっ?」
「ほら、鶴紗もそんな事じゃいくら経っても伝わらないゾ?」
「別にわたしは……。
はぁ……別に、わたしと関わってもいい事ないってだけ」
鶴紗の言葉に固まってしまったが、すぐに理解する事ができた。
『血煙のリリィ』
傷つく事を恐れず、血を飛び散らせながらも戦い続ける姿から呼ばれるようになった彼女の二つ名である。
それに加え、彼女が見せる冷たい態度や、他人を寄せ付けない雰囲気。
そして、とある噂の事もあって彼女に恐れを抱く者も居れば、良く思わない者、『冷酷で残忍な人』と有ること無いことを言い触らす心無い者達もいる。
そんな自分と関われば悪目立ちしてしまうのは明白。
という、彼女なりに考えて出した答えなのだろう。
(本当に、心優しい方なのですね)
神琳達も噂の内容なんて頭にすら入れていなかった。
なぜなら彼女が普段、どんな風に過ごしているのかをこの目で見ていたから。
本当に冷酷で残忍な人があんな風に動物に好かれたり、優しくしたりするのだろうか、ただ単に、不器用で感情表現が苦手なだけなのではないのだろうか、と今はそんな考えだけが浮かび上がる。
「それは、安藤さんと一緒に過ごしてみないと分からないと思います」
予想外の返答に思わず目を見開いてしまう鶴紗。
無理もない、ほぼ初対面の相手にここまで冷たく、突き放すような対応を取っている鶴紗に対し、怒りを見せる訳でもなく、彼女は距離を置く訳でもなく、逆に一緒にいたいと言うのだから。
神琳の言葉に釣られるように汐里と樟美も同意する。
「……ははっ、弥宙たちと同じで変な奴らだな」
「ちょっと!?どう言う意味よそれ!」
初めて見せる鶴紗の微笑みと弥宙とのやり取りに穏やかな表情を見せる神琳たち。
「それでは改めて、よろしくお願いします、あん「鶴紗」ど…う?」
「鶴紗、でいい」
先程のように素っ気ない様子で顔を背けて言っているが、そんな彼女の頬が僅かに赤く染まっている所を神琳は見逃さなかった。
「…ふふっ、ではわたくしの事も神琳と」
「わ、わかった」
神琳に続いて汐里と樟美、弥宙や辰姫も会話に加わりお互いがお互いを名前で呼び合う事となった。
そして弥宙や辰姫と雑談をする鶴紗を見て、ふと気になる事があった。
「思ったのですが、弥宙さん達と鶴紗さんはどういった関係で?」
そう、弥宙と辰姫との関係である。
鶴紗は神琳たちと同じで普通科、だが本人達が言ったように弥宙と辰姫は工廠科である。
普通科と工廠科では教室が離れてる上に学ぶことが違うため移動教室があっても一緒に授業する事はほとんどないのである。
(共に授業する事があっても、それこそ合同演習ぐらいですが…)
だったとしても本格的に参加するのは通常のアーセナルよりも更に最前線に出て活躍する“戦うアーセナル”を目指す者ぐらいである。
たとえ2人が参加していたとしても鶴紗は合同演習にはあまり顔を出さないため遭遇率は余計に少ないだろう。
「それはわたしが辰姫を鶴紗と会わせたからよ
弥宙は…そのついでといったところかしらねえ?」
すると、弥宙でも、辰姫でも、鶴紗でもなければこの場の誰のでもない声が聞こえてきた。
だが、神琳は艶めかしい声の持ち主を1人だけ知っていた…と言うよりか、なるべく耳に入れたくない人物の声だった。
声がした方を顔を向けるとそこには、撫子色の髪に
「はぁ……なぜ貴女がここにいらっしゃるんですか
───
{ 第6話 }
ヒナギク
DAISY
MIDDLE PART
Powerful Flower
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