哲学者の父親、母は芸大教授を務める油彩画家と、学者の家柄出身であり、学業成績も優秀。
それでいて強化リリィ並のマギ総量をその身に宿し、中等部でありながら学院内でも上位に入るフェイズトランセンデンス熟練者の武闘派リリィである。
…と、上記の説明を見れば文武両道で大変優秀なリリィと思われてもおかしくはないが……学院内での彼女の評価は──
「“百合ヶ丘の問題児”だなんて、人聞きが悪いわあホント」
一連の挨拶を終えた亜羅椰が不服そうな表情をしながら語る。
どうやら新入生達が彼女の話をしていたところを通りすがりに偶然聞いてしまったらしい。
「はぁ…あながち間違ってはいないと思いますが?」
「なんですって?」
神琳の返しに若干キレ気味になる亜羅椰。
だが言われても仕方がないのである、亜羅椰がなぜ問題児認定されいるのかというと、それは亜羅椰の手癖の悪さが原因であった。
それは盗みではなく、性的な意味での方で、そしてその対象は男性ではなく女性。
自分好みの女性を見つけるとなんの躊躇もなく手を出しまくる事からゴシップネタがとにかく多く、実際の経験人数も同年代では桁違いなのだとか。
「ってちょっと!?ついでって何よついでって!
てか、あんたもあんたで何を当たり前のように入室してるのよ、せめてノックぐらいしなさいよ!」
「失礼ねぇ、弥宙達が会話に夢中で気がつかなかっただけでしょう?
それ以前に、扉が開きっぱなしだったのだけれど?」
亜羅椰の言葉にポカンと固まる弥宙。
そして「…あっ」と思い出す。
そう、鶴紗を追うように慌てて入室してきたため扉を閉め忘れていたのである。
まず、ノックをしてから入室!と弥宙は言うがそれ以前に本人は疎か、
「そ、そう言えば亜羅椰さんが辰姫さんに鶴紗さんを会わせた、というのは?」
これ以上は話が進まなそうだったので話題を変えることにする汐里。
因みに汐里が亜羅椰を名前呼びなのは、彼女にちょっかいを出された時に名前でいいと言われたからである。
なお、亜羅椰の犯行は琶月の手によって阻止された。
「えっとね、わたしが鶴紗と会ってみたいって言たら亜羅椰と弥宙が協力してくれたんだ」
「まぁそう言う事よ、にしてもいきなり辰姫から燈華様の部屋に行ってくるって連絡があった時はビックリしたわ」
(…
「というか、かの委員長様がなぜ殿方の部屋にいるのかしら」
「それはわたくしがこの部屋の住人だからですわ」
『『『………えっ?』』』
予想外の返答に思わず目を見開いてしまう亜羅椰。
そしてそれを知らなかった汐里以外のメンバーが似たような反応を見せる。
実は亜羅椰自身、神琳が特別寮へ移動になったと言う話自体は聞いていたのだが……
「……へぇ、あの郭神琳が殿方と同室なんて、
「お構いなく、今更なにがあってもわたくしの評判は変わらないと思いますので」
それはいい意味でなのか、それとも悪い意味でなのか……恐らく後者なのだろうと亜羅椰は察した。
あの悲劇からだいぶ時間が経っているが周りからの神琳に対する評価はあまり変化がなかった。
神琳をよく知る者以外は相も変わらず、”気に食わない“ “優秀だからって” “あんな事をしておいて” と、神琳に対して嫉妬する者や逆恨みする者ばかりである。
(……まぁ、わたしには関係ないけれど)
「それよりも遠藤さん、レギオン戦術に関するレポートがまだ未提出ですが…終わらせているんですか?」
そうにこやかな表情で言う神琳とは逆に、それを聞いた亜羅椰は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「ふん、わたしは貴女と違って暇人じゃないのよ」
「まあ、学院の生徒にちょっかいを出す暇はあるのにですか?まぁ最近はデュエルにご熱心なようですが」
亜羅椰を煽るように口元に手を当てて言う神琳。
2人の煽り合いに見慣れた者は頭に手を置いてため息を吐き、そうでない者は冷や汗を掻いている。
「やあねえ、純粋で美しい一輪の花に見惚れるのは至極当然でしょう、それに手を伸ばして何が悪いのかしら?」
「貴女…そうやって、いったい何人の女性を
「あら郭さん、貴女は今まで食った果物の個数を憶えているのかしらあ?」
「質問を質問で返すのやめて貰っていいですか?不愉快です。
それに知ってます?そう言った行為は無礼なんですよ」
「おっとこれは失礼」
お互い笑顔で会話を繰り広げており一見、楽しそうに見えるが…いかんせん両者ともに目が笑っていない。
「ねぇ、あの2人っていつもこうなわけ?」
「うん、中等部に上がった時からずっと…」
耳元に小声で言う弥宙にそう返す汐里。
汐里はこの中でも特に神琳との付き合いが長く、そしてその次に付き合いの長い人物を挙げるとしたら……。
恐らく同級生のほとんどの者が亜羅椰と答えるだろう、皮肉なことだが。
(でも、最初の頃よりは大分マシだと思うけど…)
神琳の生真面目な所や人柄の良さもあってか彼女は1年の頃から何かと委員長を務める事が多く、それと共に亜羅椰と同じクラスになる事も多かった。
周りや、主に
(うーん、相性が悪い…か…)
こういった事情があれば普通ならクラス替えをする時に2人をそれぞれ別のクラスにすると思うのだが、何故か2人は3年連続で同じクラスとなっている。
なので学年の間では、”亜羅椰と色々な意味でまともに張り合えるのが神琳ぐらいだから亜羅椰のストッパー役として、あえて同じクラスにしているのでは?“…と、怪しまれている。
そうこうしていると未だにぎゃーぎゃーと言い合いを続けている2人の間に樟美が割り込むように介入する。
「ふ、2人とも、喧嘩はダメ…」
「なっ、樟美さん別に喧嘩など」
「そ、そうよ郭さんが突っかかってくるから」
どこからどう見ても喧嘩でしょう…と一同が心の中で呟くが火に油を注ぎかねないので黙っておく。
「2人が…と、友達が喧嘩するのイヤ、です…」
「「─っ」」
樟美が向ける曇りのない純粋な瞳の眼差しに思わずたじろいでしまう2人組。
「仲直り、しよ?」
そんな2人の様子に気づく事もなく、樟美は2人の手をそっと優しく取り、合わせる。
そして2人は樟美に流されるようにお互い目を合わせ───
「「………むっ、ふんっ!」」
たのはよかったが、素直になれないのか、まるで嫌いな食べ物を拒む子供のようにプイッと顔をそむけてしまう。
「…ぅぇっ」
「「─?……なっ!!?」」
するとそれを見た樟美の表情がくしゃりと歪む、今にも泣き出してしまいそうである。
「ううう嘘よ嘘!冗談よ冗談〜!いきなりでちょっと心の準備が出来ていなかっただけよ!」
「そ、そうですわ!ちょっと素直になれなかっただけで!本当はわたくしも仲直りしたかったんです!」
まさか泣かしてしまう事になるとは思いもよらず、立ち上がって慌ててふためく2人、そして一つの鋭い視線が2人を更に焦らせる。
「「──ひっ」」
冷や汗をかきつつ視線の方へ目を向けると、そこにはドス黒い
そして茜は声は出さず、口だけを動かし始める。
「…っ、ぐすっ…ほんと?もう喧嘩しない?」
「え、ええ…。
ふぅ…く、郭さん、先程の無礼、お詫びしますわ」
「い、いえ、変に突っかかったわたくしにも非がありました、申し訳ありません」
そして2人は仲直りと言わんばかりに熱い(お互い血管が浮き出るほど力強い)握手を交わす。
まさか亜羅椰の方から切り出すとは思わず、少し意外そうな顔をみせる一同。
そしてそれを見た樟美の表情がぱあっと明るくなり、先程よりも少し嬉しそうな顔を見せる。
「えへへっ、よかった…」
「「……はぁ〜」」
安心してその場にへたり込む亜羅椰と神琳。
本人たちもまさかこの数分でここまで疲れるとは思わなかっただろう。
「…?そうだ、亜羅椰ちゃんも一緒にお菓子食べよ?」
「えぇそうね、そうさせてもらうわ〜」
{ 第6話 }
ヒナギク
DAISY
LATTER PART
Heart of Flower
-×-
[ ここで咲いている ]
「ふぅ…それで、結局これはなんの集まりなのかしら?」
「あっ、それあたしも気になりました」
「そう言えば確かに」
「一個人の部屋にこれだけの大物が集まるなんて尋常じゃないわよ」
「ん?そうなんだ」
茜が注いだ紅茶に口をつけて一息したところで、気になっていた話題を振る亜羅椰。そしてそれに対し、鶴紗と辰姫を除いた中等部組が同意する。
「あぁ〜まぁ、何事かと思っちゃうよね。
簡単に言えば進学おめでとうパーティーって所かな」
今夜のイベントを簡潔にしてまとめる天葉。
いまいちピンとこなかったが大元は理解できた様子。
「というか、それよりもあたしは神琳が燈華と同室になった事が気になるんだけど!?」
「そう言えばそんなこと言ってたな〜」
「さりげなくスルーされたけどかなり衝撃的な話よね」
「え、えぇっと……そ、それには深い事情がありまして…」
天葉達に詰め寄られ渋々といった様子でことの経緯を説明した。
説明が終わると、頭を抱える者、苦笑いする者、呆れる者と皆それぞれの反応を見せる。
「はぁ…姫騎の悪い部分を受け継いじゃったかぁ」
「あ、あはは…リンちゃんこれはちょっと擁護できないかなぁ…」
「神琳さん、大胆」
「なるほど、それでトーカと言い合いになってたのね」
「燈華も燈華でデリカシーって物がないよね〜」
「今に始まった話じゃないでしょう」
場の雰囲気に耐えきれないのか、それともただ単に恥ずかしいだけなのか頬を僅かに赤く染める神琳。
「まぁ燈華だから間違いは起こさないと思うし、そこら辺は安心していいゾ?」
「例え何かあったとしても立場的に危うくなるのは燈華の方だしね」
「それ以前に、燈華は
「ま、まぁそうなんだけどさ…」
依奈の言葉に困り顔で返す天葉。
そして依奈が “常に危うい立場” と言った部分に事情を知らない者達が引っかかりを覚えた。
「あの、常にとはどう言うことなんですか?」
「えっ?あ、あぁ〜…うん、念のために説明した方がいいかもね」
すると天葉は梅達に視線を向けるとその意見に同意するようにゆっくりと頷く。
「まぁ、さっき言ったように燈華って意外と危ない立ち位置にいるんだ」
「それは…彼がローゼン、男性だからでしょうか」
「察しがいいね」
これは燈華に限った話ではなく、ローゼンという存在その者の立場が、リリィしか居ないガーデン内では危うい…と言うよりも校則が厳しいのだ。
男慣れのしていないリリィ達からしたらローゼンの存在など草食動物の集団に肉食動物が1匹混じっているのと変わらないのだ、特に女学院であるここは男慣れしていない者ばかりである。
そういった事情もあり燈華を縛る制限はかなり厳しい。
制限内容は教師や生徒会にしか公開されていないが、例えばその場で生徒が悲鳴を上げ、燈華を指した時点で即アウトで問答無用で連行されるレベル。
「まぁ燈華がそんな事をするほどバカじゃないからそこは大丈夫なんだけど…」
「中にはトーカに
「その時はいつも梅達が近くに居たからな〜」
学院内には燈華の事を気に食わない者や、男性だからと言う理由で嫌悪する者や、どうせ男だからスキラー数値も低いと見下している者もおり、そう言った理由で燈華の評判を落とそうと言った者達がいた。
そこで燈華の責任者でもあるシェリスことシェリス・ヤコブセンが何かあった時に仲介に入れるよう上級生、同級生に護衛兼監視役を、そして念のために下級生に情報提供役をつける事にしたのだ。
「同級生はお察しの通りあたし達」
「上級生は
「なるほどそれで…」
「そして提供役はわたし」
そう言って手を挙げたのは鶴紗であった。
彼女の言葉に驚いた表情を見せる神琳たちだがすぐに納得した。
「あ、あとこれは他言無用ね、もちろん燈華にも」
天葉の言葉に素直に頷く一同。
すると亜羅椰がカップに口を付けてゆっくりとカップを置く。
「なるほどねぇ、それで燈華様にときどき不快な視線が向いてたわけね」
「……そういえば気になったのですが、遠藤さんは彼とどういった御関係で?」
「あ、あぁ〜」
「あら、気になるかしら?」
「………不本意ですが」
そこから亜羅椰、そして天葉も一緒になって話し始めた。
どうやら亜羅椰が最近デュエルに夢中になっていたのは天葉が出した条件が原因だったらしい。
その条件は、燈華にデュエルに勝ったら1日だけ自分を好きにしてもいいという内容。
亜羅椰がしつこく天葉に申し込んできて面倒になった為、近くにいた燈華に丸投げしたのだ。
それからというもの亜羅椰は週に3、4回のペースで燈華にデュエルを挑むようになった。
「うわぁ…」
「今もまだ続いてるって事は…」
「まぁお察しの通りだよ」
因みに噂の一部である『売られた喧嘩は必ず買う』という内容は亜羅椰がところ構わず挑んでくる上に買わざるを追えない状況に持ち込んでくるのが原因である。
そして返り討ちにして相手は再起不能…と言う噂も亜羅椰のレアスキルであるフェイズトランセンデンスのディプリーション状態が原因。
「いつも肩担ぎで雑に保健室に運ばれてるもんね〜」
「聖様、余計な事は言わないでください」
「でも燈華、少しずつスキルのレベルが上がってきてるって褒めてたゾ?」
不服そうな表情を見せる亜羅椰だが、少し嬉しそうでもあった。
梅達は亜羅椰はそのうち諦めるだろうと思っていたのだが一向に諦めずに挑み続けるのでちょっと応援してたりもする。
「ということは少しずつ燈華様を追い詰めて行っている、と受け取ってもよろしくて?」
「こらこら、ちょーしに乗らない」
舞い上がってる亜羅椰につっこみを入れる聖。
こうやって調子に乗って余計に諦めなさそうだから天葉や燈華本人も黙っていたのだが…。
「まっ、未だに燈華様にレアスキルすら使わせてないんだけど!」
何故か胸を張って言い放つ亜羅椰。
それに対し ”自慢しちゃうんだ…“ とそれぞれ心の中で呟くが変に食いつかれたくないのであえて黙っておく。
「亜羅椰ちゃん…それ自慢することじゃないよ」
((((言っちゃうんだ…))))
条件反射で全員が心の中で呟いてしまう。
すると予想通りといった様子で亜羅椰が黙り込む。
「ぐぬぬ……食うぞ樟美ぃ!」
「ひゃぁ!」
「やめなさい」
樟美に食らいつこうとする亜羅椰の頭をノンストップで鷲掴みして止める天葉。その後は茜も参戦して無事解決した。
「そういえば、燈華様のレアスキルって…」
「縮地でしょう?」
「ゼノンパラドキサじゃないの?」
「ファンタジスタだったはず」
「「「えっ?」」」
汐里の言葉に亜羅椰、弥宙、神琳がそれぞれ答えを出していくが、3人の口からはどれも違うレアスキルの名前が出てきた。
そこからはお互い熱が入って考察や意見などの言い合いが始まり汐里があたふたすると言う流れになった。
「あはは…まぁ、どれもハズレだね」
そうこうしてると扉が閉まる音がし、肩に黒猫を乗せた少年が入ってきた。
「……んっ、燈華、遅かったな、待ちくたびれたぞ」
少年はいつの間にか人数がかなり増えてることに思わず放心状態となっていた。
「にゃ〜」
「…………増えすぎだろ」