アリスさんと霊夢氏が異変をギャンブルで解決! 弾幕ごっことはいったい……うごご。
この物語には下記の要素が含まれています。
ロック・雀鬼・カイジ・銀英・アクションリーグナウ・聖戦・北斗・遊☆戯☆王・ファイファン・鷹の爪団。
なんか他にも入ってると思うけど忘れた。多分麻雀放浪記あたりだろう。
まあ騙されたと思って読んでみな。
と・・・ゆだんさせといて・・・ばかめ・・・ちね!!!

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ギャンブルのルール?
全然わからない。オレは麻雀をボタンが光ったら押すゲームだと思っている。
ヒカリアレ!


東方賭博黙示録怪爺

 霧雨魔理沙は岐路に立たされていた。

「はやく切ってくださいヨ」

『踊るダメ人間』を楽しげに口ずさみながら対面のミスティアが急かしてくる。言われなくてもとっとと切りたい。大四喜聴牌。これをあがれば逆転だ。三索、二萬、どちらを切るか。いずれも初牌というのが気になる。

「どれ切っても同じですよ、魔理沙サン?」

「冗談じゃねえぜ。ぶち当たって吠え面かくなよォ!」

 決断し三索を強打する。

「それだぜ、魔理沙。ロン、一二〇〇〇。トビだ」

 あがったのは萃香だった。

 手を見た魔理沙に衝撃が走る。待ちは三索と二萬。

「ホラ、言った通りじゃないですか。どれを切っても同じだとネ」

 ミスティアがこれ見よがしに手を開ける。

 国士無双十三面待ちである。

「あややややややや……」

 この戦いでほとんど空気になっていた射命丸が黒服に引きずられていく。

「まずば哀れな天狗サンからですネ。きっとかわいい子犬サンになりますヨ」

 ミスティアが『飼い犬が手を噛むので』を歌い始めると同時に、魔理沙にも黒服の魔の手が伸びる。

「ま、約束は約束だぜ、魔理沙。これからは猫として生きるんだな」

「やめろぉ! やめてくれええええええええええっ!?」

 その叫びもただむなしく響くだけだった。

「まったく、手ごたえどころか、羽ひとつ震えない勝負でしたネ」

「へっ、あたしらに勝てるような打ち手なんざ、いやしないさ」

 盃を呷る子鬼の背後で、羽織袴を着た老人が怪しげに微笑む。

「ククク、弱い弱い……群がってくるのは羽虫ばかりよ」

 温泉街の一室に邪悪な哄笑が木霊した。

 

「追えー! 追えー!」

「猫魔理沙は消毒だァーッ!」

 ボワアアアアアッ

 町中が世紀末風の装束をまとったモヒカンで溢れ、火炎放射器が紅蓮の炎を吐き出し、魔理沙はそれから逃げるので精一杯だった。射命丸文は犬走椛に首輪をつけられ飼われていると聞くが、魔理沙の方は殺されかけている。どうにかこうにか魔法の森に逃げ込むことで難を逃れたが、この格好では二度と外に出ることはできないだろう。

 どうしようもなくなった魔理沙は、藁をも掴むつもりでアリス・マーガトロイドの家へと駆け込んでいた。

「あんた勝手に入ってくるなっていつも……いつ……あんただれ」

「魔理沙だにゃ」

「ねこ、まりさ……?」

 アリスが笑い終えるまでたっぷり一分かかった。

「わらうにゃーっ!」

 さらに一分追加。

「好きでやってんじゃにゃー! 無理やりこんにゃ格好させられて大変にゃ目にあってんだにゃ! 笑いごとじゃにゃいにゃ」

「笑いごとにしか見えないわね。人気取りのための新機軸でも持ち出したのかと思ったわ」

「人気のために燃やされたらたまらにゃいにゃ」

 人形遣いは笑いをこらえるのに散々苦労させられた。

「どうしちゃったのよ」

「これには深い深い事情があるのにゃ……」

 

 博麗霊夢の許にやけに顎の尖った青年がやってきたのは、ちょうどその頃であった。

「頼む、霊夢さん! アンタくらいの打ち手が一緒じゃねえと、太刀打ちできねえ!」

「ふうん、温泉の権利争いねえ……」

 霊夢は餓えていた。茶葉が底を尽き、白米は残り数百グラムというところまで追い詰められていた。賽銭はゼロ。供え物もゼロ。蓄えもゼロ。紫やら誰やらからの配給もゼロ。ゼロ、ゼロ、ゼロ。

「これに勝てば温泉とそれに関係する富が一手に集まってくる! チャンスなんだ、千載一遇のチャンス。こんなもんが目の前に転がってるのになにもしないなんてのはありえねえ。だが一人じゃ無理だ。情けねえ話だが、相手は雀鬼って呼ばれてる二人組の妖怪なんだ。コンビに対して一人で挑むなんてバカな話さ。自分から身包み剥がされに行くようなもの。そこで、いままで負けたことがねえっていう打ち手である霊夢さんに頼みにきたんだ」

 確かに霊夢は麻雀で一度も負けたことがない。だがあれはいつも打ってる相手がへたくそなだけじゃないかしら。

「でも負けたらやだしー」

 腹が減っているのもあって、霊夢はことさら怠惰だった。

「アンタなら負けねえ! ちゃんと前金も持ってきた。それと、ほら、おにぎりも持ってきたんだ! 藍さんって妖怪に頼み込んで作ってもらった。うまかったぜ。これを食えば霊夢さんもやる気を出すってもんだぜ」

「もぐもぐ」

 決まった。

 

「なるほどねえ。で、その勝負に負けたから、そんなのをつけられたと」

「そうにゃ」

 耳がぴこぴこ動いてる。

「楽しそうだしそのままで過ごしたら?」

「冗談じゃにゃーっ! ちょっと町を歩くだけで焼却されそうになるにゃんて生き地獄にゃ。にゃんでもするから頼む、やつらを討ち取ってくれにゃ! アリス、麻雀強いだろ?」

「えー」

「えーじゃにゃいにゃ」

「なでなで」

「なごなご」

「やっぱり一生そのままの方がいいんじゃない?」

「頼むにゃあぁ! 二度と本を勝手に借りて行ったりしにゃいから助けてくれええええっ!」

「しょうがないわねえ……」

 こっちも決まった。

 

 つまり、こういうことだ。

 妖怪の山の西側でにとりが新型ドリルの実験を行っていたところ、温泉が湧いてきたのである。だがこの土地の所有権を様々な人妖たちが主張したのが問題だった。

 弾幕ごっこで決着をつければいいものを、でしゃばってきた紫が「たまにはギャンブルで決めましょう」とかぬかしおったせいで話がややこしくなった。

 幻想郷中の雀士という雀士がこの争いに参加し、勝ち残ったのは妖怪ではなく人間、ヒョードー・パトリチェフなる怪しげな老人お抱えの代打ち、ウルフ・星であった。

 しかし話はこれで終わらなかった。このヒョードーなる人物は温泉の周囲にあっという間に街を作り上げ、それを賭けてさらなる勝負の場を開いたのだ。温泉街はすぐさま賭博の温床となった。そして幾多の打ち手を潜り抜けてヒョードーの許にたどり着けたものだけが、温泉街すべての権利を賭けた勝負に挑める。

 だが、負けた者は全員、ヒョードーの所持する呪いのアイテムによって玩ばれる運命にあるのだ。男だった場合はさらに悲惨なことになるという話である。

 しかも最悪なことに、彼の抱える最強の雀士とは大会で勝利を勝ち取った代打ちのウルフ・星ではなく、伊吹萃香とミスティア・ローレライ。通称『雀鬼』と呼ばれる二人組の妖怪であった。この二人組までたどり着いたのはドラ爆の魔理沙、早仕掛けの射命丸と呼ばれた二人であったが、手も足も出ずボコボコにされたあげく、ご存知の通りの惨状へと相成った。

 その噂はあっという間に幻想郷中に知れ渡ったが、一攫千金を狙う有象無象を絶やすには至らなかった。またそうでなければヒョードーにしても楽しくない。

 その有象無象の一人が霊夢の許に現れた青年、カイ・Gである。彼は特にこれといった技能がなく勤労意欲も旺盛とは言えない典型的な人間の屑であったが、ギャンブルにかけては天才的な才能を発揮する――こともあった。いまは数百万幻想郷マルクの借金を抱えてはいるが、この温泉街争奪戦で勝ち抜けばすべてチャラ。どころか、一気に数億幻想郷マルクを手にすることができる。

「さあ、連れて来たぜ、エン・Dさん」

「おっ、来たか、カイ・G。それに霊夢さん」

「おなか空いたわ……」

 温泉街の一室である。霊夢はおにぎりを腹いっぱい食べたはずなのだが、一時間もすると腹ペコになっていた。節約に節約を重ねていたところに大量の食料を口にしたので、いままで蓄積していた食欲が一度に噴出してきたのである。

「はっはっは、霊夢さん。それならばまあ、しばらくは英気を養っていてくださいよ。それなりの支度金は用意しております。どうぞこれをお使いください」

「ベリーナイス。ベリーベリーナイス」

 霊夢は妙な言葉を口走りながら札束を懐に入れると、温泉街にひゃっほいと飛び出していった。

「わかってんだろうな、カイ・G。負けたらおめえは地霊殿送りだ」

「わーってるよ、エン・Dさん。だが大丈夫さ。霊夢さんならやってくれる」

 根拠はなかった。

「はっ、まあおまえはいままでもどうにかこうにかやってきたからな。チャンスを掴めよ」

「おう」

 

 魔理沙たちも現地に到着していた。猫魔理沙となった魔理沙はモヒカンたちによって追われる身であったから、ゴリアテ着ぐるみの中に隠れていなければならなかった。

「確かになんかこう、平和な温泉街という感じはしないわね」

 右を向いても左を向いても、隙がないというか、逆に隙を窺われているような空気のある場所であった。温泉街というのはもっと、気楽に楽しめる場所でないといけないような気もするのだが、うっかりすれば賭場や売春宿に突っ込んでしまいそうな怪しさばかりが立ち込める場所になっている。こんな場所の成立をよくもまあ許しておけるものだと思うものの、周囲を見渡せば、金で雇われたらしい妖怪や黒服の人間が見張りをしているのがわかる。

「秩序の形は一定ではない、か」

「ウガウガ」

 ゴリアテ人形を通すと魔理沙の声はこのようにしか聞こえない。

「ウガウガ。ウーガ。ウガウガ」

「焦らないでよ。まずは様子見からよ。ここは慎重に動かねば」

「そこのきれいな金髪のお嬢さん、すこし遊んでいきませんか?」

「はい喜んで」

「ウガウガ」

 入った場所ではチンチロリンの場が開かれていた。なるほどね、とアリスは口の中で呟く。おそらくどの宿に入っても賭場が立っていることだろう。いくつかぶっ飛ばせばこちらの意図が伝えられるはず。それに種銭も潤沢にあるわけではない。魔理沙は金づるとしてはまったくあてにならないし、ここは現地調達と行こうではないか。

 相手は気弱な会社員風の男であった。顔がこわばっている。相当負けていると見ていいだろう。だがアリスを見るなり希望の光を見たかのように表情が柔らかくなった。なるほどね、こちらを甘く見ているわけだ。アリスはそのような希望的観測を利用することにした。

「えーと、お手柔らかにお願いします。ところでこれどうやってやるんですか」

 周囲から笑い声が届いてくる。それと共にハイエナ共が集まってきた。

「ぐはっはっは。フロイラインはチンチロリンのルールをご存じないとな」

 変な髪型の男がルールを説明した。内容に過不足はなかった。

 勝負はサシでのものになった。

「では、お嬢さんが親でどうぞ」

 安易に親を渡すとは。どうやら死にたいらしい。

「えーと、えいっ」

 アリスは指先に神経を集中しつつ、そうしているのを悟られないように演技しながら振った。 目は四四六。

「えっ」

 親の総取りだ。

「やったー」

 無邪気に笑っているように見せかけ、また進行を急かすこともせずに次へ移る。

「それじゃ、行きますね」

 ビギナーズラックを印象づけるにはもう一段レベルの高い目をぶつけていくべきだろう。無造作に賽を投げる。三三三。三倍付け。

「えっ、えっ」

 相手の男が焦ってきた。

 ここで畳み掛けるのもありだが、それでは相手の心を早期に折りかねない。

 どれ、ここは相手の運気を見るためにも出目を調整するか。

 二一四、三五六、六六四。最後の目が出た瞬間、相手が安堵するのがわかった。

「それじゃ、行きますよ」

 二三六、四一三。

 二二四。

 ワカレ。引き分けだった。

「よかった」

 わざとらしくため息など吐かず、すこし俯き気味に呟く。

「次、行きましょう」

 相手の男は焦れてきている。

「それじゃ」

 今度は二二三と出た。

「フフッ、それじゃ行きますよ」

 ところが、男は一二三を出した。

「あがっ、あががが……」

 倍払いである。

「あらら」

 さらにアリスの親は続いたが、相手はもう虫の息だった。

 ここで息の根を止めるのはまずい。

 アリスは二投目で一の目を出して親を降りた。

 相手の親番になる。アリスは小額のコマを張った。まだ勝負をするには早い。

「出ろ、出ろ、出ろっ……」

 相手の目は五だった。得意げな顔をしている。

 なるほど、ならここは合わせるか。

 アリスは四を出した。

 それから何戦か続けて相手に勝たせた。だが相手には五以上の目が出ることはついになかった。完全に落ち目というやつだ。

「んー、けっこう負けちゃったな」

 それを取り返すため、という風に見えるよう、さきほどまでの倍を張る。

「ははっ、剛毅ですな」

 相手はここまでの連勝でだいぶ気をよくしている。アリスの方もまた落ち目であると判断しているのだろう。相手がより弱いのであれば、自分にも浮く目がある、ということだ。それは正しい判断だが、それは単純な運だけで勝負する場合の話である。

「では行きますよ」

 ここで相手は五を出してきた。が、こういう場面で六なり四五六なり出して相手に賽を振らせないようにできないのであれば、勝負する器ではないのだ。たとえ純粋に運気の勝負をするにしても、強い人間というのは引いてくるものなのだ。

 アリスは三投目でピンゾロを出す。

「うそだ、うそ、うそっ……なんたる剛運、ビギナーズラック、こんな、こんなっ……」

 終わったわね。アリスは思った。だがそれと同時に、いや、まだだ、と呼びかける部分も存在した。

「まだだ、まだ振る!」

 男は所持金全額を張った。

 哀れなものだ。勝負熱という言葉があるが、それが誤って作用した時、人は沈む。

 殺せ。

 そんな言葉がアリスの脳裏に過ぎったが、そうするまでもないことは理性が知っていた。

 アリスは黙って六の目を出して男を静かに葬った。

「ぐはっはっは! いやいや、初めてとは思えません。ものすごい勝負強さ、どうぞどうぞ、もっと遊んでいってください」

「ええ、そうするわ」

「ウガウガ」

 

 一方の霊夢は、ミスティアの経営している屋台で焼き鳥とビールを堪能していた。

「おいしい、おいしい」

 涙をぽろぽろと流しながら霊夢は酔いしれた。こんな贅沢をしたのはいつぶりだろうか。焼き鳥、うまい。ビール、うまい。おでんも頼んだ。たまご、だいこん、がんも。うまい、おいしい、デリーシャス。

 屋台だけではない。ともかく温泉街にあるあらゆる施設で金を使いまくった。五欲の巫女霊夢、まさに豪遊である。

 

「こんなはずじゃあ……」

「げっ、嬢ちゃん強すぎるぜ……」

「うっ……ついてねえな……!」

 アリスは賭場にいる全員を適当に叩きのめした。素人に見えなかったのでもう遠慮はなかった。が、もちろん本気を出さないのはアリスのポリシーによるものである。もっとも、チンチロリンで本気出したらどうなるねん、という話である。

 その時はピンゾロを連続で何回出せるか挑戦してみようかしら。

 この賭場にいる誰よりもスケールがでかいのは言うまでもない。

「ぐはっはっは。おもしろいように勝ちおる。まるでトンボとりでもしているようだな。よろしい、フロイライン。我々が直々に勝負いたしましょう。来い、ひろし」

 奥から自信に満ち溢れた顔をした男が出てきた。

「これも仕事だ、悪く思うなよ」

「強そうね……この子も入れていい?」

「ウガウガ」

「ええ、いいでしょう。お嬢さん一人に対して二人がかりでは我々の顔が立ちませんからな。ですが手加減はしませんぞ。お嬢さん、見た目によらず賭け事にはお強いようだ」

「分の悪い賭けは嫌いなんだけどね」

「それは我々も同様、やるからには必勝の信念を持ちますとも」

 こうして魔理沙を含めた二対二の勝負が始まった。魔理沙とひろしのじゃんけんの結果、店主の安藤礼、魔理沙、ひろし、アリスの順番で親を回すことに決めた。ルールは通常のチンチロリンとほぼ変わりないが、見をすることは許されない。また種銭は陣営ごとに共有することとなった。コマの最少額と最多額も取り決めた。これは店側とアリス側の資金力にあまりにも大きな差があるためだ。

 使用するサイコロは両陣営共に問題なしと結論したものである。

 こうした勝負でもっとも警戒しなければならないのはすり替え以外ないだろう。振ったあとから難癖をつければゴタゴタを免れえぬ。他に考えなければならぬこともあるのだが、それに関してはいま考えても始まらない。アリスは相手がそのようなイカサマを行わぬようにさりげなく視線を走らせた。

 安藤礼がにやりと笑う。

「ぐはっはっは。そのように睨まずとも、汚い手は使わぬ」

 まずは様子見の勝負。安藤の目は五。魔理沙は四。ひろしは六。アリスはそれらを受けて四五六を出し親を流した。なるほど、この勝負、どちらか片方が沈めば、それをフォローするために片方が奮戦せねばならないわけか。

「ウガウガ」

 魔理沙、ここで痛恨の一二三。アリスは魔理沙の運気が最低に近いことを認識せざるをえなかった。おそらくここ一番での敗戦を引きずってしまっているのだ。

「ふ、ふふふっ……」

 ひろしが怪しげな笑みを浮かべた。

「もうお嬢さんの手番は回ってこねえ」

「ウガ?」

「自信たっぷりね」

 安藤礼がぐはっはっはと笑った。

「そいつはこのチンチロリンで負けたことがないのさ」

「ああ、俺に勝てるやつはいねえよ。この世界ひろしといえどな……」

 ひろしは立て続けに六、四五六、二のアラシ、四のアラシと決めてあっという間にアリスの陣営を危機に陥れた。

「俺は連続して高い目を出し続けることができるのさ。こいつは一種の才能というやつでね、俺はこいつのおかげでのしあがってきたんだ。俺と戦うには少し早すぎたようだな」

 アリスはひろしのしている指輪に注目していた。あれは間違いなくなんらかのマジックアイテムだ。どんな効果を持っているかはわからないが、あれがひろしの能力を支えているのではないか、という疑問があった。

「ふっ、これでしまいにしてやるよ」

 ひろしの賽が投じられる。

 もちろんそのまま負けるわけにはいかない。

 アリスは外に待機させていた人形の一体を瞬間的に巨大化、その場で飛び跳ねさせた。

 その振動がサイコロの動きを微妙に変化させる。

「なんだと……」

 出目は一。

 外からは悲鳴が聞こえてくる。

「助けてくれ! 化け物だ!」

「巨大マタンゴだ!」

「いやゼットンだ!」

 とんでもない大混乱である。

「残念だけど、もうあなたたちの番は回ってこないわね」

 アリスは爽やかに微笑んだ。

 そして連続ピンゾロ自己最高記録を打ち立てるべく、挑戦を開始した。

 二十分後。

「ま、まさか……俺を倒せるやつがいるとは……」

「ば、ばかな……守子火王……父のかたきを討ってくれ……」

 アリスはふうと吐息をつくと、たわむれにピンゾロを出しながら呟いた。

「やっぱりダメね。遊びでやらないと。だっていつか相手が破産してしまうんだから」

 魔理沙はひろしのしていたエリートリングを手に入れた。

 やったね魔理沙。獲得経験値が倍になるよ。

 

 翌日。

「くっ……アリス・マーガトロイドめ……貴様はいったい……ぐふっ」

 零譜徹という男を花札で踏み潰したアリスたちは、温泉街で噂になりつつあった。

「相手がただの人間だったらギャンブルになんてならないわね」

 ここでも魔理沙はかなりボコボコにされていた。アリスにはむしろそのことが心配であった。麻雀の相手は妖怪二人組であるし、片方はあの伊吹萃香なのだ。百戦錬磨のリアル鬼であるからには、一度裏技の応酬が始まれば魔理沙が沈んでいる分こちらが不利になる。やるからには必勝を期さねばならないし、本気を出して負けても嫌なのでもうすこし魔理沙には復活してもらいたいものである。

 宿に戻り、猫魔理沙に膝枕をして撫でながら、アリスは憂鬱な思いに囚われていた。

「にゃーん」

「どんどん駄目猫になってくわね」

 そのような悩みがアリスたちだけにあったかというとそうではなかった。

 カイ・Gたちも、霊夢に対して似たような思いを抱いていたのだ。

「で、全額使い果たしちまったってわけですかい」

 二日続けての豪遊。

 そして破産。

 これにはさすがの霊夢も猛省。

「いやー、ビールと焼き鳥がおいしくって」

 暴飲暴食した割には太った様子がない。

「それだけで使い切っちまうわけないでしょう、霊夢さん!」

「へっ、まあいいじゃねえか、カイ・G。明日からは動くぞ」

「ったく、頼みますよ、霊夢さん」

「たはは」

 次の朝から、さっそくカイ・Gたちは動いた。

 向かう先はポーカーの店である。

 店主の名は黒不戸天馬。この温泉街でも三本の指に入るギャンブルの強豪である。

「オー、ようこそおいでくださいマシター。カイ・Gボーイ。それに霊夢ガール」

「でやがったな、黒不戸天馬。通称ペガサス」

 髪の長い男だ。片目が完全に隠れている。

 エン・Dが霊夢に忠告する。

「気をつけろ、霊夢さんよ。あいつは人心掌握に長けている。ポーカーは心理戦が重要なゲームだ。よし、カイ・G、おまえ最初に行け」

「おうよ、エン・Dさん。霊夢さんも見ていてくれ。ペガサス、覚悟しろよ」

「いいでしょう。カイ・Gサーン。存分に遊ばせてもらいマース」

 ディーラーが出てきた。

 誰かと思えば、犬耳を生やした射命丸だった。

「あんたここでなにしてんの」

「だって椛がやれっていうワン……」

「天狗が犬になっとる」

「違うわふん」

「なでなで」

「ハフハフハフ」

「やっぱり犬だ」

 茶番をやってるうちに両者席につく。

 チップが配られる。チップ一枚あたりの金額は霊夢にはわからなかったが、あまり安くはなさそうだし、そんなケチケチした賭け方をするタイプにカイ・Gは見えなかった。

 が、いざ勝負が始まってみると、カイ・Gのベットはかなり消極的なものだった。

 ワンペアだのツーペアだのといったちんけな役での攻防が続いた。アンティ分と小額の賭け金のやり取りが続き、序盤戦はカイ・G若干リードというところだが、こんな小さな勝利では勝負そのものを決定づけることはできない。

 ペガサスのビッドに応じた後、カードを一枚換え、カイ・Gにフルハウスの手が入る。ここでカイ・Gはレイズを宣言。ペガサスはそのレイズの言葉とほぼ同時にフォルドした。カイ・Gは舌打ちした。霊夢はその様子をじっと見つめていた。

 よくわからなかったので、よくわかっているふりをしていたのである。

「この勝負、どうやらここからが本当の始まりのようね」

 ものすごく適当なことをいった。

「そいつは、いったい……」

 エン・Dはそういったものの、ペガサス側のやり口が妙であることに気づいていた。だがそれはなによりもカイ・Gが認識していたことだったろう。

 そこからはペガサス側が優勢に立った。この時はカイ・Gもまだ冷静だった。賭け金を無謀に吊り上げたりせず、手が進みそうにない場合は無理をしない。しかしじりじりと攻められ、ついに逆転を許した。運もなかったのは確かであるが。

 流れを完全に掴まれたのは、カイ・Gの手に再びフルハウスの手が入った時だ。先手のペガサスがビッド。三枚のチップを出した。慎重にコールを返す。焦れば相手に気取られる。ペガサスは一枚ドローするが顔色が優れない。カイ・Gはそのままの手で勝負する。仕掛けたのはペガサス。すこし目を細めてからレイズ。しかし霊夢ら外野から見てもあまり余裕があるようには見えなかった。射命丸は犬耳の魔力のせいで骨がかじりたくて仕方がなくなっていた。カイ・Gも負けじとレイズ。こちらは自信に満ち溢れている。勝てる。そういう思いがあったのだろう。ペガサスは声を震わせながら「オーケイデース」と呟いた。互いにコール。

「ペガサス、たいしたことねえな」

「しかしやる他、仕方アリマセン」

「いいぜ、勝負だ」

 だが結果は、ペガサスによるフォーカードの勝利である。

「ばっ、そんな、ぐうぅぅぅぅっ……」

「ハハハ、カイ・Gボーイ、よほどの手かと思っていましたが、フルハウス程度で歓喜するようでは器が知れたも同然デース!」

「黙れっ! けちな芝居しやがって。まだ勝負は始まったばかりだ。こんなところでフォーカードなんて引いちまって、どうせ後は落ちる一方さ」

 骨を咥えながら犬天狗がカードを配る。

 落ちる一方なのはカイ・Gの方だった。なんとか表情に出さずにいるものの、こうもバラバラの手では全とっかえでもする他ない。だがそれでも手は来ない。ペガサスは確実に勝利を重ねていく。たまにフラッシュなどで勝負をかけようとしても、そういう時に限ってペガサスの方はさっさと降りてしまう。

 気がつけば、カイ・Gのチップは開始時の三分の一にまで減っている。

「こんな、こんなバカなことがあるか! さっきからおかしいじゃねえか、俺の方に手が入ると途端に降りやがる。てめえ、俺の手が見えてるんじゃねえのか」

 そのような非礼な台詞に対し、ペガサスは余裕の笑顔を返す。

「フフフ、カイ・Gボーイ。では心ゆくまで調べればいいのデース。ワタシにはなんら後ろ暗いことはないのデスから……」

 カイ・Gはいきり立って席を立ち、周囲をきっちりと調べ上げた。だが、確かに不審なところなどどこにもなかった。

 無理ですよ、と射命丸は心中で思う。

 それを読み取り、ペガサスは笑った。

 ――その通りなのデース。カイ・Gボーイ。ユーはミーに勝てナーイ。なぜなら、ユーのマインドはミーにスキャニングされているのデスから。

 結局、カイ・Gは劣勢を覆すことができないまま無様に負けていった。

「おい、カイ・G。こんなところで負けちまうなんてらしくねえ」

「くそっ、あまりにもおかしすぎる。あいつ、まるで人の心を読んでるみてえだ。イカサマもしてねえとなると、それしか考えられねえ。これじゃ、どうしようもねえ……」

「ふうん」

 霊夢はそう呟いてから席についた。

「なっ、霊夢さん?」

「チップ出してよ。おもしろそうだし、わたしもやるわ」

「エン・Dさん」

「ちっ、まあ、どの道ここを抜けられないんじゃヒョードーとの戦いなんて覚束ねぇ。よし、チップを出してくれ」

 ペガサスは霊夢のぼんやりとした心を読みながらほくそ笑む。

 ――フフフ、霊夢ガール。どれほどの実力かは知りませんガ、あなたのような能天気な少女に負けてあげられるほどワタシも心が広くアリマセーン。叩きのめしてさしあげマース。

 カードが配られる。ペガサスはさっそく霊夢の精神をスキャンする。

 !?

 ペガサスの額に汗がにじむ。まさか初手からエースのフォーカードを引いてくるとは。勝負になるはずもなく、アンティ分を霊夢に支払う。

「えー、せっかくいい手だったのにー」

 だからやめたのである。

 気を取り直して次。

 ――フ、フフフ、今度はどんな手なのデース。

 !?

 ペガサスは手札を落としそうになった。ストレートフラッシュである。対するペガサスの手はワンペア。もちろん勝負にはならない。霊夢がチップを大量に賭けてきたのを無視してフォルドする。

「えー、また降りるの?」

「くそっ、あの野郎、せっかくの手が」

「ちくしょう、カイ・G、やつは本当に心が読めるんじゃねえか」

「くぅん、おなか空きました」

 そうそう幸運が続くはずがない。今度はペガサスにフルハウス、霊夢の方はスリーカードだ。これで勝つる! だがペガサスは慎重だった。なにか嫌な予感がしたのである。あまり大きく賭けることは避ける。これは正解であった。霊夢が二枚ドローして完成させた手はファイブ・オブ・アカインド。これに比べればフルハウスなど吹けば飛ぶような役である。

「すげえ勝負だ……」

 カイ・Gもエン・Dも霊夢のすさまじい引きに目を見張った。それは相手である黒不戸天馬にしても同じであることは言わずもがな。

 ――じょ、冗談じゃありまセーン……この天狗、ちゃんとカードを切ってるんデスか?

 しかし天狗のシャッフルはガトリングガン・シャッフルと呼ばれるほどの超高速であり、確認するのは困難だった。仕方なくペガサスは射命丸の精神を隈なく走査した。哀れさで一杯である以外、不正な部分は見当たらない。

 その後も勝負は続いた。

 しかし、ペガサスが霊夢に勝利できる手を揃えることはついになかった。

「アンビリーバボー……このワタシが手も足も出ませんデシタ……」

「楽しかったけど、ねえカイ・G。あんたって本当はギャンブルめちゃくちゃ弱いんじゃない?」

 あんたの運がよすぎるんだ、とその場にいる誰もが思った。スキャンしなくてもそのくらいわかる。

 

 温泉街は二組のギャンブル集団によって蹂躙されつつあった。

 アリス・魔理沙ペアによりすでに四つの賭場が完全に破産していた。カイ・Gと霊夢のペアも、三つの賭場を完膚なきまでに撃砕し、ビールで乾杯をしていた。

 ヒョードーはこの報告を受けて高笑いする。

「クックックッ……まさに怪物。モンスター。いいぞ、そうでなくてはな。どれ、雀鬼よ。やれるか」

「それは、あの人たちにウルフ・星が突破できるか見てからですヨ」

「ま、そういうことさな。霊夢、それにアリス、か。酒の肴になれるかな」

 彼らが注目する中、ウルフ・星をはじめとするギャンブル暗黒四天王が二組をパンデモニウムへと誘い込んだ。温泉街の中央部に位置するヒョードーの賭場。その地下に呼び出したのである。

 霊夢にしろアリスにしろ相手がここに来てるとは思ってもいなかったので、へーという感じで相手のペアを眺めていた。アリスの目にもカイ・Gはただの屑に見えた。また霊夢の目から見るゴリアテ着ぐるみは足元がふらついていた。

 それはともかく、魔理沙と射命丸も以前、この関門を潜り抜けている。

 その時に不覚を取った四人は、肉体を改造され、完全なるギャンブルマシーンと化していた。ウルフ・星もその一人である。

「図に乗るなよ、アリス・マーガトロイド」

「カイ・G。この新しい玩具で遊んであげよう」

「親父と同じでお前も甘いヤツじゃのう」

「たかが巫女がヒョードー様に会えると思ったか」

 随分な態度と挨拶である。しかも挨拶する相手がそれぞれバラバラである。

「ウガウガ」

 特に父親のことに触れられた霧雨魔理沙は久々にキレてしまい、ゴリアテ着ぐるみから飛び出すと正面にいた男をドラゴンメテオで消し炭と化した。

「わての、わての賞金がぶひぃぃひぃっ……」

 フェイタルケイオー。

「せめて痛みを知らず安らかに死ぬがよいにゃ」

 ウィーン、ネコマリサァ。パーフェクト。

 不正を犯した猫魔理沙はそのまま別室に引きずられていった。

「と、とにかく、貴様ら、俺たちに勝ってから先に進むんだな」

「うーん。面倒だから一人一殺ってところでしょうね。そっちは任せるわ。わたしはこのえらそうなやつに呼び捨てにされたのが気に食わないから、ねじきってくる」

「じゃあわたしはこのなんかサルみたいな顔をしたのをやっつければいいわけね。なにするのか知らないけど」

「へっ、上等だぜ。俺はこのカメレオン野郎を潰せばいいんだろ」

 それぞれ、専用のプレイルームに案内されていく。

 アリスの相手となるウルフ・星が仕掛けてきたギャンブルは、あろうことかスピードであった。どこがギャンブルやねん、とアリスは言いたくなったが、ウルフ・星が目にも止まらぬスピードでカードをシャッフルしているのを見て気が変わった。アリスにはわかりようもなかったが、その速度は射命丸のガトリングガン・シャッフルのさらに上を行くものだ。

 なかなか楽しめそうじゃない。

 アリスは口元を禍々しく歪めて微笑んだ。

「汚いと思うだろうが、いまの俺はトランプサイボーグだ。どんなトランプ競技をしても勝つ自信がある。だが俺は確実に勝ちたいのさ、アリス・マーガトロイド!」

「いいわよ」

 静かに答え、対面に立つ。

 黒と赤にしっかりと分けたカードを互いにシャッフルしてから交換する。

 テーブルは非常にしっかりとしたつくりになっており、両者がどれほど激しくプレイしても決して微動だにしないよう、地面に固定されていた。アリスは叩いたり撫でたりして不正がないかを確かめたが、そのようなことが介在する余地のないことを確信した。

 これは純粋な手技の勝負。

 ならば、負けるわけにはいかない。

「いっせーのせでいいのよね?」

「ああ」

 アリスは深呼吸をした。

 ウルフ・星の眼光が鋭くなる。

 

 ――いっせーの

 

 ――せっ

 

 機関銃を乱射するような音が一瞬のうちに通り過ぎていく。コンマ以下の時間の攻防。もはや常人には目で追うことすらできない。お互いの手は弾幕ごっこでもしているかの如く相手の手を回避しながらも的確にカードを捌いていく。

 無数の刹那を超え、勝負は決した。

 ウルフ・星の手が最後の一枚を出そうとする、その形のまま静止している。

「さよなら。そこそこ面白かったわよ」

 去っていく少女のことを見ることもなく、ウルフ・星は呟いた。

「ばっ、ばかな。俺よりも上なのか……」

 その視線はアリスの出した最後の一枚、ハートのセブンに注がれたままであった。

 

「ヒョードーおじさあああああああんっ」

 霊夢もサル顔を相手に完勝していた。とんだ噛ませ猿である。霊夢相手にブラックジャックなんぞ挑むから悪い。

 その霊夢のパートナーであるカイ・Gは、バカラで痛恨の敗北を喫した。

「小賢しいアゴめ。私の前にひざまづけ!」

「ぐっ、ぐうぅぅ、うああああっ……」

 ここでの敗北は即、破滅を意味した。

 その結果、カイ・G、地霊殿送り決定!

「いやだぁああああ、やめろぉぉぉぉ、うああああああ、霊夢さん、エン・Dさん、誰か、誰か助けてくれええええうわああああああああっ」

 情け無用! さらばカイ・G! 地霊殿の底までまっさかさま!

「あれ、エン・Dさん、カイ・Gはどうしたの?」

「ほんとだ、アゴくんがいない」

「死んだ」

「そう」

「あんたのところの相棒はどうなるんだろうな」

「魔理沙なら殺しても死なないから大丈夫よ」

「そうね」

「そうか」

 その後、最後に残ったカメレオン野郎はアリスと霊夢のペアにゴミ屑のようにされた。描写するのももったいないほど完全にゴミみたいな負け方をしたので断末魔だけ記述することにする。

「この私が……ァァこの私がッ……」

 断末魔終わり。

 

 三人を迎えに来たのは首輪を付けられた迷犬射命丸号だった。

「ヒョードー様があなたたちを歓迎するそうですワン」

「なにその格好」と霊夢。

 犬耳、犬尻尾。それにメイド服であった。とてもではないが天狗には見えない。

「だって椛が……」

 すっかり犬根性が染み付いていた。

 エン・Dはここで待合室に通された。

 女性二名の方は豪勢な客室へと案内される。掛け軸だけでウン百万とか、そういう種類の部屋である。

「まずはごゆっくりお休みくださいワン。なにかありましたらお言いつけくださいワン」

「肩もんで」

「わふん」

 霊夢が射命丸の哀れなご奉仕を受けている間に、アリスは温泉でひとときの休息を得た。

 にしても、言われるままに来てしまったが、ここで勝利したとして、この温泉は誰のものになるのだろう。魔理沙だろうか。いや負けたんだし、アリスとしてはまあ、魔理沙が本を勝手に持っていかなくなればそれでよいのだった。じゃあ霊夢にくれてやるか。うむ、それでよかろう。だがしかし、負けたらどうする?

 負けたら魔理沙と同じ運命をたどるんだろうか。

『にゃりす・にゃーがとろいどだにゃー』

 これはだめだ。

「負けないことを考えないと駄目よね。でもそのためには勝たなくちゃいけない。うーん、面倒だなあ」

 でもとりあえず、湯加減は最高だった。

 浴衣姿で戻ってくると、射命丸が霊夢に酌をしていた。

「酒もってこーい!」

「くぅん」

 これもだめだ。

「不安になってきたわ。こんなんで勝てるのかしら」

 心配しても仕方のないこともあるので、アリスは考えるのをやめた。

 

 翌日、ヒョードー・パトリチェフの賭場に案内された二人は、ミスティア・ローレライと伊吹萃香、両名と対峙した。その背後にいるヒョードーとも。

「クククッ、よくぞおいでくださった。この二人はわしの自慢の玄人妖怪二名。雀鬼と呼ばれておる。この二名に勝てば、この温泉街の権利はくれてやろう」

「それはいらないから魔理沙のこと元に戻してよ」

 アリスの台詞に、ヒョードーはカカカカカッと笑った。

「欲のないことじゃ。それに免じていいことを教えてやろう。あの猫耳犬耳は三ヶ月もすれば勝手に外れる」

「そうなんだ。じゃあさよなら」

「待て待て待て待て待て。いきなり帰られてはわしらのメンツが立たん。せっかくここまできたんじゃし、勝負くらいしていけ」

「んー、それもそうね。でも負けたらなんかくっつけられるんでしょ?」

「三ヶ月。三ヶ月の辛抱じゃ」

「さよな」

「わかった、二ヶ月、いや一ヶ月でいい。これは破格の条件じゃぞ」

「んー、一ヶ月かあ。うーん、猫耳一ヶ月、一ヶ月猫耳……うーん……。さよ」

「わわわわかった、こうしよう。猫耳は一週間でいい。さらに勝った時には賢者の石もつける」

「賢者の石。勝ったら賢者の石。けんじゃのいし……」

「純度セブンナインの高級品じゃぞ」

「猫耳は一週間でいい?」

「一週間でいい」

「うーむむむ」

「ミスティア印の高級焼き鳥セットやるからサ」

「さよなら」

「余計なことを言うな馬鹿者! ええい、降りろシャッター!」

 最初からそうしろと言いたいくらい頑丈なシャッターが降りてきて部屋を閉鎖した。空気しか入る余地のない空間となったわけだ。

「さすがにこれじゃやるしかないわね。せっかく来たし」

「やればいいんじゃないの」

 霊夢の方はけっこうやる気のようだった。

「ククク、そっちの巫女さんはやる気と見える……!」

「だって、この温泉街全部くれるんでしょ?」

「くれてやろう。ヒョードー・パトリチェフに二言はない。ただしそれだけ大きなものを賭けるのじゃ。おまえさんが負けた日にはこの猫耳に猫尻尾をつけてもらおう」

「負けなければいいのよ。簡単じゃない」

 その言葉に、萃香が笑い声をあげた。

「やってごらん」

 鬼の笑みはカイ・Gなどの小物とは違う、実力に裏打ちされた自信に基づくものだった。実際、この鬼は強いだろう。それと、ミスティア・ローレライである。こっちの方をただの夜雀と見ていいのだろうか。

「それじゃあ、始めましょう。霊夢サン、アリスサン。あなたたち貧乏人に捧げるバラードを歌って差し上げマス」

 ミスティアは『デーデ』を歌いながら卓についた。

 

 席順はミスティアから順番にアリス、萃香、霊夢となった。勝負は半荘一回で決める。それぞれ持ち点は三万点。総合トップを取るか相手をハコにした陣営が勝ち。これはヒョードー側の雀士が二名であることから、便宜上、霊夢とアリスを同じチームとして扱うゆえである。

 特に裏技すなわちイカサマが禁止されたわけでもなく、洗牌は特段の配慮もなく行われる。アリスは目を凝らして牌の行方を追いかける。霊夢は適当にやっている。ミスティアの歌う『たんぽぽ食べて』のメロディが不気味に響く。萃香が自分の山に大三元爆弾を仕掛けるのをアリスは見逃さなかった。しょっぱなからやってくれる。賽の目はミスティアと萃香によってコントロールされ、積まれたブツはミスティアに流れた。さらにミスティアは二巡目の帰り道にツモを自山の牌とすりかえた。見事な手前だった。それを見つつ、アリスがダマで聴牌。霊夢がリーチ。ここでリーチしてもミスティアがツモあがる可能性の方が高い。だがそうはならなかった。結局アリスに手番が回ってきた。ツモでミスティアの親を流す。

「あーん、けっこうでかい手だったのにぃ」

 霊夢の口ぶりは素人のようだった。アリスの位置からは中身がわからない。

 ミスティアはくすくす笑いをしながら手を伏せ、崩した。萃香は沈黙している。アリスに親が回ってくる。

 賽の目がコントロールできない以上、コンビネーション技は使えない。となるとあれしかないか。洗牌では他人の仕込みを指で弾いて牽制しつつ、自らはその完成を目指す。残念だがあとは運だ。アリスは幸運だった。自山が丸々残ったのだ。配り終わった瞬間には、仕事が済んでいた。

「おもしろいな、アリス。だが仕掛けが早すぎやしないか」

 萃香の言葉に笑みを返す。

「そっちがもたついたんじゃないかしら」

 アリスは牌を倒す。

 天和。役満である。単なる七対子でも、天和にしてしまえば点数は跳ね上がる。なぜか霊夢が悔しそうだったが、アリスは無視することにした。

 通常の麻雀でなら牽制とはいえないほどのリードだ。だが油断はできない。そもそも、いまのは運がよかった。仕込みに関してはほぼ確実に実行できるだろうが、たとえば萃香などに徹底マークされればすり替えは困難になる。

 いや、なるほど。アリスは納得した。どうやら、あがらされたらしい。萃香はお互いにイカサマをしている、ということを見せにきたのだ。では次はどんな手で来るか。

 積み終わった直後、萃香が言った。

「牌を検めさせてもらおうか」

「そっちのもね」

 アリスは言い返したが、完全に乗せられていることはわかっていた。やはりそうならざるを得ないか、とため息を吐く。アリスの下山から緑一色の仕込が見つかった。だけでなく、萃香の山からは大四喜十枚爆弾、ミスティアの山からは一筒、一萬の塊も見つかった。この夜雀、キャタピラで引っ張ってくる気満々である。が、全員がやや虚をつかれたのは、なにもしていない霊夢の山にも仕込みの形跡らしきものが見つかったことである。しかもこの仕込み、萃香の山から取り分けることになった場合、霊夢に四暗刻聴牌という手が入る形になっている。崩した山の牌の並びをアリスは即座に思い出す。なるほど、第一ツモで和了だ。

 だがこれで両者共にイカサマが使えなくなった。洗牌は牌を伏せて行うこととなる。

 一気に不利になった。それを自覚して、すこし気が急く。

 アリスには手先が器用である他、麻雀に関して使える能力がない。先ほどの牌の並びからすべての牌の位置を覚える、なんてことはさすがに無理だ。普通に打つしかない。

 アリスは手を確認する。あまり悪くはない。端牌である索子から切り出す。

「駄目だな、人形遣い。ここからは索子の勝負だ」

 その予言は当たっていた。二巡、三巡と索子を引いてくる。結果、手が進まない。やはりこうなったか。ミスティアの歌う『さよなら人類』の曲が精神にさえ作用してくる。しまった、これを恐れていた。

「アリスよ。わたしの能力は集めたり散らせたりする能力だ。これを応用すればすなわち、洗牌時に牌の行方を左右することができる」

「フフン、そしてわたしの歌を聴いてしまえば、まともな判断能力が失われていく……というわけなんですネ」

「魔理沙たちもこれにやられたのね」

「気づいてももう遅い。霊夢、ところでそいつはわたしのロン牌だ。八〇〇〇出せ」

「えーっ、もうちょいだったのにぃー」

 まずい。まずすぎる。次の親番は萃香。ここで一気に勝負を決められる恐れがある。

「牌の位置を確定できない以上、わたしの能力を人の力で阻止することは不可能だ!」

 ミスティアが『絶望ビリー』をこれ見よがしに叫ぶ。

 こうなれば賽の目でどうにかするしかないのだが、これすらも萃香の能力で寄せられるような気がしてくる。錯覚か、それとも真実か。二回連続で七が出た。やはりやられている! いや待て待て、七は一番出やすい数値だぞ騙されるな。

「うー」

「それレミリアの台詞だぞ」

「むきゅー」

「そっちはパチュリーサンですネ」

 雀鬼の笑い声しか、もうアリスには聞こえなかった。

「というわけでダブルリーチだ」

 萃香が勢いよく第一打を切り込む。

 もうだめだ。おしまいだ。

「ロン」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「人和ね。さっきの八〇〇〇返して」

 人和はローカル役だったが、採用しない、とも決めていなかった。霊夢が満貫でいいというならそれでいい、と考えるべきだと萃香は判断したようだった。場所によっては役満とすることもあるのだ。

「ま、まあそんな幸運はもう続かないよ」

 だがアリスにはわかっていた。

 もう自分に出番はないのだということが。

「徹底的に牌を散らしてやる。あがることができないほどにな」

 萃香は依然強気であったが、ミスティアは『た・す・け・て』を歌い始めている。

「萃香、たぶんそれ逆効果よ」

「うるさいうるさいうるさい、こんな、こんなバカなことがあってたまるかー!」

 でもあるんだな、これが。

 配牌終了後の親の第一ツモと共に、霊夢がツモを宣言した。

 十三不塔。

「終わりね」

 それを見た萃香はぐったりと倒れこんだ。ミスティアはもはやなんの曲かもわからないような呟きをするのみ。

「とんだ茶番ね。結局、完全なる運勝負だったわけだから」

 だが霊夢はなぜかふくれっつらをしていた。

「キキキ……」

 突然笑い出したのはヒョードーだ。その姿が急速に膨らんでいく。

「よくぞ雀鬼を倒したな。だがわしが素直に負けを認めるわけがなかろう。小娘どもめ」その姿は巨大な二頭の竜へと変化した。「ふぁふぁふぁ……しねぃ!」

「呪詛『蓬莱人形』」

「はやいんだよおおおおぉぉぉぉっ」

 ヒョードーは天井ごと吹っ飛んだ。

「ひどい話ね。ところで霊夢、なんでそんな浮かない顔をしてるのよ。この温泉街はあなたのものよ」

「だってー」と霊夢は不機嫌に牌を玩んでいる。「一回も九蓮あがれなかったんだもん。何度も狙ったのに」

「何度も?」

「うん。だってあの役だけ一回もあがったことないから。でもアリスがなんか目をぐるぐる回してたから、かわいそうに思って仕方なく狙うの諦めたのよ」

「ははは……それはごめんなさいね」

 苦笑いしか浮かんでこない。

「ほんと、とんだ茶番だったわ」

 

 こうして温泉街は霊夢の手に渡った。

 ヒョードー・パトリチェフこと邪竜2ヘッドドラゴンに操られていた人々も元に戻り、アリスは宝物庫に保管されていた十二グラムの高純度賢者の石を手に入れることができた。魔理沙も無事救出されたが、同じ姿でしばらく過ごさねばならない事実に困惑していた。それは射命丸も同じようなものだったが。

 エン・Dは金と共にいつの間にか姿を消していた。そういえばあのアゴの青年は地霊殿送りになったわけだが、すべてが終わった後にも関わらず戻ってこれないのだろうか。戻ってこなくてもいいなと霊夢などは思った。ああいうのはすこし懲りた方がいい。弱いくせにギャンブルを続けるような人間はつまらないから。もっとも、あまりにも強すぎるやつを相手にするのもつまらないという事実を無視した考えではあるのだが。

 ともかくも、これで万事めでたしめでたし。

 

 となればよかったのだが、この件にはくだらないおまけがくっついていた。

 まず、掘り出された温泉が一ヵ月後には枯渇してしまった、という事実だ。この温泉そのものが邪竜によって生み出されたものである、という推測が成り立つわけだが、じゃああいつは幻想郷の少女たちの猫耳、犬耳姿を見たいがためにこんなことをやったのか?

 だとしたらあいつはただのバカだ。蓬莱人形の消し炭にして正解というものだろう。

 霊夢は結局、一ヶ月間いい湯につかれただけで、無一文に戻った。

「ま、いい夢を見れたわ」

 あまり未練はないらしい。あぶくになるのは銭も湯も同じというところか。

 ミスティアはさすらいのロック焼き鳥屋を経営し始めた。若い世代を中心にロックンロールな人間たちを虜にしているらしい。今日もミスティアの歌う『スモーキン・ビリー』を酒の肴に、無謀な二十代が暴走する。

 萃香はヒョードーにもらえるはずだったらしい幻の名酒が手に入らず、それが原因で幻想郷中を麻雀で荒らしまわるという蛮行を働いた。が、その責任のすべてを射命丸文に押しつけることで難を逃れた。首輪をはずされた後でも、彼女はこの件に縛られている。

 カイ・Gについてはよくわからない。しかし地霊殿でチンチロリンが大流行しているという話は届いてきている。次はもっと深いところに突き落とすべきだということは明白だった。もっとも、そこからもやつは這い上がってくるかもしれない。人間、なにかひとつ取柄があるものだからだ。

 では、アリスと魔理沙はどうしてるかって?

 二人は一緒に暮らしていた。

 アリスは手に入れた賢者の石のおかげで、より完璧な形で人形巨大化の魔法を完成させつつある。お披露目も時間の問題だろう。その時を考えると、自然と頬が赤く染まる。それを横目に、いまだに猫耳から解放されていない魔理沙が原稿の最後の一行を書き終えていた。

「取れないわね、耳」

「まあ気長に待つにゃ。それより、とうとう小説が完成したにゃ!」

 それは猫魔理沙が逃亡生活の実態を赤裸々に綴ったノンフィクションだった。

 ネコマリサ・著『わたしがこんなにかわいい』

「さ、これを天狗の出版社に持ってくことにするにゃ。きっと大金持ちになるにゃ。まあ見てにゃって」

「そう。行ってらっしゃい」

 しかしその後、その小説が出版されたという話はついぞ聞くことがなかったのであった。

 

 

 

 おわり




2012年3月10日作。
東方ダンマクカグラが流行っているが、アリスさんの髪の毛にストレートパーマをかけられているので、もやもやしながら投稿した。
いまは反省している。

とでも言うと思ったかい?
この程度、想定の範囲内だよぉ!
アハハッ、アハァハッ!

愛してるんだアリスさんを! アハハハハハ!

この小説、ドサ健が見たら苦言を呈すだろうな。
あばよ。
Life in Ash.

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