第三の舞台に万雷の喝采を   作:何でもない

4 / 7
.

先が長くなりそうなので巻いていけないか試行錯誤中だったりします。


※お知らせ
感想でご指摘頂いたので、名前の部分に■■や○○を使わず適当な偽名を入れて対応することにします。ただし、偽名呼びでは不適切になるであろう一部シーンでは上にルビを振る形で対応いたします。ご了承ください。

.


第三の舞台に3つの冠を掲げて

.

 

 

 ──前略

 

 無敗の二冠馬ことサードステージです。先に言っておきますが、神戸新聞杯勝ちました。ただいま8戦8勝です。

 

 というわけで、もう10月下旬。クラシック戦線も遂にラストの菊花賞だ。

 

 「さあ、菊花賞の出走の時刻も着々と迫って参りました! 牡馬クラシック最終戦菊花賞! 注目はなんといってもサードステージ! オルフェーヴル以来6年ぶりの三冠馬は誕生するのでしょうか! 台風の影響による大雨の中、歴史的瞬間を見届けようと京都競馬場には超満員の観客が押し寄せています! この大雨という類を見ない凶悪なコンディションと並みいるライバルを越えてサードステージ、三冠の偉業に挑みます!」

 

 ……というわけでクソみたいな雨の中からお伝えすることになるようだ。水も滴る良い牡馬ことサードステージ……ごめん、言ってみただけだ。

 

 さて、ライバルについてだが、レイデオロはJCに注力するために回避、スワーヴリチャードもコンディションが戻らないので回避といった感じで知ってる名前がキセキしか居ない状態だ。というか、さっき実況で流れてたけどキセキっていわゆる夏の上がり馬だったのか。道理で春シーズンで見かけなかったわけだ。ただ、マークすべきなのがキセキに絞れるというのは気持ち的にも余裕が出来るので有難い限りだ。

 

 さて、京都3000m芝はスタートしてからいきなりコーナーに差し掛かったり、坂が2回あったりと変わったコースらしい。そして長期戦というのもあってスタミナを如何に維持できるか、もっと言うと最後の直線での瞬発力を出しきれるスタミナを残せるがどうかが重要なんだとか。そういうわけで作戦としては荒れる内側は避けるけど、最後の直線の短さを考えて最終カーブは荒れた馬場覚悟で兎に角内側を攻めるイン突きで差を広げて行くようだ。折角だ、今回も先行策なんだし泥を盛大に後ろにぶちまけてやろうか。それで調子が狂えば儲けものだ。……まあ、体力消耗したら元も子もないのでやれるわけないが。

 

 「7枠14番、一番人気サードステージ。父トウカイテイオー、騎手は■■■■(リュージ)。ここまで8戦8勝無敗と父や祖父を彷彿とさせる驚異的な強さ。先月の神戸新聞杯ではレイデオロやキセキといった強豪を抑え見事に1着と三冠制覇に希望が見える走りを見せてくれました。さあ、クラシック三冠目というまさしく第三舞台で栄誉を勝ち取ることが出来るのでしょうか!」

 

 インを突きたいのに外側とはどうにもツイてない。リュージさんの指示も有るだろうが、軽く吹かしてでも前に食い込んだ方がいいかな? とりあえずキセキに警戒しながら前の方で走って最後の直線で突き放してそれでも追走してくるなら残り200m辺りで更に吹かしてちぎる感じでいいだろう。

 

 さあ、そろそろ本番だ。忘れるな、ここは第一目標、いや第一舞台に過ぎない。祖父(シンボリルドルフ)(トウカイテイオー)は古馬戦線でも実績を残した。その輝きを受け継ぐ名として、ここはロマンも無いけど当たり前に勝って古馬に突入する!! 一番強い馬が勝つ菊花賞、ここで確固たる強さを証明するぞ!!

 

 

 


 

 

 

 「大外枠8枠18番マイスタイル、ゲートに入りまして体勢が整いました。」

 

 ……………

 

 《ガシャンッ!!》

 

ゴー・ゴー・ゴー!!

 

 「スタートしました! 14番サードステージ見事なスタート! 一気に内枠に飛び付きました!」

 

 よし、コーナーまでに間に合った。今のところ3、いや2番目か。

 

 「先頭2番のウインガナドル、淀の坂の下りに差し掛かります。それに続くのは14番サードステージ、そのすぐ外に7番アダムバローズが続きます。」

 

 さて、残り1000メートル辺りまではこんな感じでいいんだっけか? キセキの居場所は………くそっ、雨と馬群でよく分からねえ。仕方ない、2回目の淀の坂まではスタミナを切らさないことに意識するか。

 

 「さあ、先頭が残り1000mを通過。間もなく2度目の淀の坂です。各馬、内側を大きく空けてのレースが続きます。」

 

 さて、そろそろ追い込んでくる後ろを意識するか。幸いにも誰も内側に来る感じはない。コーナーで差をつける!

 

 「おおっとここで14番サードステージ、ここで内枠ギリギリにつけてコーナーを曲がってくる! 荒れ馬場を蹴散らして前に出ていきます! ここで大勢を決するつもりか!? さあ、先頭は変わりましてサードステージ、残り600mを通過! 後方も続々とペースを上げていきます!」

 

 あくまでもインを攻めるだけでまだスパートは駆けない! もう少しで残り400m…………ああ、行こうリュージさん!

 

 「さあ、先頭サードステージ! 残り400mを通過して直線に入った! 後続も一気に追い上げにかかる!」

 

 キセキは………見えねえ! ということは馬の向こう側に居るのか! ちっ、こうなれば全力でちぎって逃げる! 疲れるが差しきられて負けるよりはマシだ!

 

 「サードステージ、更に足を伸ばす! この悪馬場をものともせず、後続との差を広げていきます!」

 

 おおおおおおおりゃあああああああ!!

 

 「サードステージ! 伸びる! サードステージが来る! サードステージだ! サードステージだああああああああああああああ!!

 

 ………ふう。これで、"一番強い馬"が決まった。そうだろ?

 

 「やりましたあああ!! 祖父の栄誉を、父の無念をも越えて、サードステージ! 無敗三冠達成!! 荒れ狂う風雨も、足が沈み込むような大地も、立ちはだかるライバルたちも彼の舞台の障害にはなり得ない! 3度目の舞台に傷1つ無い3つの冠を掲げて! 新たなる伝説が誕生だあああああ!!」

 

 

 


 

 

 

 ──まるで夢を見ているようだった。私の馬が、あのトウカイテイオーの仔が一番最初にゴールへと飛び込んだ。

 

 「3度目の舞台に傷1つ無い3つの冠を掲げて!新たなる伝説誕生だあああああ!!」

 

 降り注ぐ雨音を打ち消すほどの観衆の大歓声が響く。──無敗三冠。そう、無敗三冠だ。"皇帝"シンボリルドルフが達成した栄光、そして"帝王"トウカイテイオーが果たせなかった悲願。その無敗三冠をあの仔が、サードステージが遂に取ったのだ………!

 

 「オ"ーナ"ー! や"り"ま"じだ! や"り"ま"じだよ"お"!! ザードズデージが…………ザードズデージが…………!! 三冠……! 三冠でずよ"お"!!!」

 

 「松下さん……! 本当に……本当にやったんですね……!」

 

 「え"え"……え"え"…………!」

 

 松下さんも涙をボロボロ流して喜んでいた。周りを見渡せば、牧場のスタッフの皆も肩を抱き寄せったり手を突き上げ跳び跳ねたりと大盛り上がりだ。

 

 ──思えば長い道のりだった。生産牧場を営む家に産まれて、父によく競馬場に連れてもらっていた。そこで多くの名馬を見た。シンザンにキーストン、タケホープにカブラヤオー、ミスターシービーにシンボリルドルフ。そうした名馬の活躍を見てきた。そんな環境下にいた私も自然と家業を継いだ。当時は日本の経済も右肩上がりだったのもあって、馬主に参入する人も多く、忙しくも充実していた。

 

 そして、トウカイテイオーが奇跡の復活劇を成し遂げたあの有馬記念、私はあの場所にいた。あの頃、バブル崩壊で私自身、重い空気の中にいた。幸いにも、"馬産は金がかかる商売だから無駄遣いだけは絶対に止めて金を貯めとけ"という父の言い付けを守って浪費を抑え貯蓄を欠かさなかったこともあって身を崩すようなことにはならなかったが、競馬の界隈にも暗い話題が飛び交っていた。

 

 そのような中であの復活劇を見た。1年という長いブランクを押し退け見事に勝利したその姿に私は強く心を打たれた。 ──トウカイテイオーの仔を中央の大舞台で、私自身の手で走らせよう。私は牧場主だけではなく馬主にも、つまりはオーナーブリーダーになろうとあの奇跡を見て決意した。幸いにも資金には蓄えもあったし、馬主の伝手も簡単についた。そして、私の新たなる挑戦が始まったのだ。

 

 だが、現実は甘くはなかった。名競争馬が名種牡馬にあらずというのは珍しいことでもないが、それでも産まれてくる馬たちの成績が泣かず飛ばずというのは本当に堪えた。自分の意地のために牧場のスタッフを路頭に迷わせることも出来ないから、トウカイテイオーの仔らを用途変更させたことだって両手の指じゃ足りないほどやった。

 

 いつか、いつかはと諦めずに何度も何度も繰り返して2013年8月を迎えた。そう、トウカイテイオーの最期だ。訃報を聞いたとき、私は目の前が真っ暗になったのを覚えている。もし、来年産まれてくる幼駒たちが駄目だったら…………。私は必死に願った。トウカイテイオーのような名馬でなくてもいい。血を繋ぐ馬が産まれてきてくれと。

 

 そして翌年。残されたトウカイテイオーの仔らの中で唯一無事に育ってくれたのがあのサードステージだ。正直、競走馬としては半ば諦めていた。もし手応えが無さそうなら故障するリスクを避けるためにも種牡馬入りさせようと思っていた。そんな中、あの馬は素質を秘めていると聞かされた私は驚いたものだ。そしてサードステージを競走馬にすることを決意した。少しでも名前を売って種付けしてもらえるチャンスを増やすためにもだ。

 

 それがどうだ。サードステージは中央の舞台で好走するどころか重賞を、G1タイトルを、更にはダービーを取っていった。そして今、私の目の前で三冠すら手に入れて見せた。しかも無敗だ。速さ・運の良さ・強さ全てを兼ね備えていなければ手が届かない……………いや、それだけでは無い。

 

 「……松下さん。」

 

 「………グスッ、どうなさいました……?」

 

 「空も、感激のあまり泣いてますね。お天道様も、お空の上のトウカイテイオーやシンボリルドルフもきっと喜んでいらっしゃるんでしょう。」

 

 「……フフッ、だとしたら勝つ前から号泣してることになりますよ?」

 

 「ええ、だから勝つことを信じてくれていたんですよ、きっと。」

 

 ふと、サードステージが産まれた日のことを思い出した。サードステージが産まれたのは深夜のことだった。出産の作業を終えて厩舎を出たときにふと空を見上げると、1つの強く輝く星が浮かんでいた。その後、あの星のことが気になって調べたのだが、いくら調べてもそんな星の情報は出てこない。他のスタッフにもさりげなく聞いても見たが、その星のことを誰も見ていなかった。

 

 だが、複数人が流れ星を見たという話をしていた。しかも見た時間がバラバラときた。流星群の情報などは無かったはずだし妙な話だと思ったものだった。ちなみに流れ星の話は、皆その日は朝から作業を続けていたので疲れによる見間違いもしくは勘違いだとしたらしい。私もいつの間にか輝く星のことも流れ星の話も忘れていた。

 

 今日、空を見上げてそれを思い出した。誰かがこの事を聞いたら、意識過剰だと笑うかもしれない。でも、私は思う。あの一等星も流星もサードステージのために現れたのだと。そして、この2つの星はきっと───。

 

 「さて、オーナー。口取り式の準備をしましょう。生憎の空模様ですが、サードステージを労ってあげましょう。」

 

 「なに、トウカイテイオーやシンボリルドルフの歓喜の涙だと思えばいいんですよ。」

 

 ありがとう、トウカイテイオー。私のために父であるシンボリルドルフまでお呼びして、私の許にサードステージを届けてくれて。そして、誓いましょう。サードステージを日本のみならず、世界に名を轟かせてみせると。

 

 

.




.


 本来、ウイポで流星と一等星は同一年に発生しないのですが、この世界はウイポの世界ではないので同時に起こっても不思議ではないのです。



※お知らせ

オーナーのキャラ設定が予期せぬ方向に膨らんだので第1話の一部を修正しました。
話の大筋には関与しないはずなので読み返す必要はないと思います。

何か矛盾点があればご指摘ください。


.
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。