前回の続き
陰陽師編最終章
世界の命運をかけた戦いから早一ヶ月。
光陰矢の如し、という諺を、これ以上ないほど実感するあっという間の一ヶ月だ。
世界は依然として、まったくちっとも落ち着かず随分と騒がしい。
無理もない話ではある。何せ、自然的にあり得ない異常現象のオンパレードだ。
人類が積み上げてきた歴史的経験則や自然に対する研究がまったく役に立たない未知の事象が、一国を包み込む規模で発生したのだ。
おまけに、証言者には事欠かないうえに、その内容がまたぶっ飛んでいる。
――巨大でおぞましい龍の幻覚を見た
――既存の生物ではあり得ない、咆哮を聞いた
――神が降臨したのを見た
――海が突然荒れ始め、唐突に凪いだ
――闇に包まれ何も見えなくなった
――光に包まれ何も見えなくなった
――突然の氷点下で凍えるかと思った
――突然の猛暑で脱水症状を起こした
――夕立みたいな台風だった
――近所の稲荷神社の鳥居が輝いていた
――怪我や家の破損が、いつの間にか治っていた
――富士山が神々しく発光した
どれもこれも天変地異以前なら、三流オカルト雑誌に記載されているような内容、あるいは面白半分で投稿されて興味も持ってもらえないようなネット上の都市伝説だろう。
だが、そんな一笑に付するような内容が、今は公然の事実として広く認知されている。
日本にいた者は、それが外国人であれ、メディア関係者であれ、行政関係者、あるいは警察等司法機関であれ、本来疑いを以て調査する者達でさえ実際に経験したことであるから、眉唾だと切り捨てることなどできない。
というか、天変地異の様子は日本全国でメディア・個人撮影問わず映像に星の数ほど残されており、動かぬ証拠がある。
加えて世界各地でドラゴンを目撃しただとか、それと相対する少年少女、あるいは兵器を満載した幻獣っぽい何かを見た、撮影したなんてことまであって……
まして、超常現象の嵐の中でも、それに直接起因する死傷者はゼロだというのだから、厄災と捉えるべきか、奇蹟と捉えるべきか、それも判断しかねる状況だ。
結果、世界各地の専門家も答えを出せず、世界は未だに混乱の最中にあると言っても過言ではない。
日本は言わずもがな、だ。
これに対し、日本政府の見解は以下の通り。
――富士山の噴火現象を起因として、天文学的な確率の、なんらかの連鎖的反応が自然界に生じた結果ではないか。
あくまで現象発生は奇跡的なものであり、そのため一晩で連鎖は途切れ、自然環境も元に戻った。現状、富士山に活発な動きは見られず、完全に鎮静状態であるため、再び同現象が起きる可能性は極めて低いだろう。
というのが、専門家委員会の結論である。
専門研究機関を富士山近郊に設けると共に、万が一に備え、迅速な避難と対応が可能な自衛隊の即応部隊を、向こう五年間、近隣に駐屯させることを決定した。
引き続き、原因究明に全力を尽くす所存である――
つまり、だ。原因は不明だけど、たぶんもう起きないよ。
万が一にも備えるし、調査も続けるから、安心してね。
ということだ。
実質、何も分かっていないに等しく、連日、テレビに出てくる専門家や有識者は、惑乱するか絶叫をお供に紛糾しまくっている。
なお、当然のことながら日本政府の上層部は真実を知っている。
だが、到底、真実など話せない。
これ以上、日本や世界を混乱に陥れるわけにはいかないし、帰還者を筆頭に超自然的な力を巡る争乱を呼び覚ますわけにはいかないからだ。
樹海での戦いに参戦した者達は、そもそも近隣住民が避難させられていて知られていないし、上空での戦闘時も既に大嵐となっていて望遠レンズのカメラでも顔を映すなんてことは不可能だった。
また、ドラゴンの影に対応していたクラスメイト達に対する画像や動画は、従来通りの方法でハジメが対応しているので、これも露出はしていない。
意外だったのは、そんな意味不明な天変地異に襲われた国に、外国人が大量に押し寄せたことだろう。
日本人の中には、「こんなヤバい災害が起きる国にいられるか!」と国外脱出する人もちらほらといたようだが……
各国、国連、民間の研究機関などからの調査団は当然、世界中の好奇心にかられた者達、オカルト信者は、むしろ我こそ先にと現在進行形で続々と入国してきている。
そのおかげというべきか、彼等の消費によりしばらくは高い経済効果が得られそうで、真実を知る政府関係は揃って苦笑いを浮べている状態だ。
「――って言うのが
「これを見てっ、大丈夫だって、言えるアンタの頭は、どうなってるんだっ……!」
抜けるような青空の下、一般的な住宅街にはまばらな人の群れがあった。
それらを興味深そうに眺めながら最近起きたことの事情を話す隣の男性に、ジャックが睨みながら言う。
ジャックの隣に立つのは、ジャックの父であるダンテだ。
ダンテはいつもの赤を基調としたロングコートを身に纏い、ギターケースを背負っている。
ちなみにだが、このギターケースは特殊性で、中に拳銃などを入れてもバレないような仕組みになっており、ダンテは愛銃である〝エボニー&アイボリー〟を入れていた。
そんなダンテとジャックは目的地に向かいつつ、せっかくの日本旅行だからと観光がてら向かっているのである。
「で、俺が気絶した後、ハジメ達は何を話したんだよ?」
全身に走る痛みに顔を歪めながらも、本題を聞いてくるジャック。
「真実を伝えたんだとさ」
「……あっそ」
答えたダンテにジャックはそっけない返事をする。
それを見ながら、ダンテは続けた。
「超自然的な力の実在と復活。影法師(?)とかいう奴等の暗躍と、俺達の戦い。妖魔の存在と……日本の正体。そして、その超自然的な力の源――氣力とやらのことと、それを誰が掌握しているのか」
英国の聖域や王樹、妖精界などの異世界のことは話していないが、それ以外は概ね話した。
未知は恐怖だ。
それが原因不明の天変地異ともなれば、国家は絶対的に看過できない。
いつ、自国も災禍に見舞われるか分からないのだから。
日本への調査は表も裏も過激になるだろう。
本当は原因を知っているのだろう? と、あらゆる手段を講じてくるだろう。
それは困る。
故に、欲しいものを与えたのだ。
猛毒つきだが。
「そいつぁ、おっそろしいことをしたもんだなハジメは。実質、世界にケンカを売ってるようなもんだぜ?」
そんなことを言うジャックに対し、カラカラと笑うダンテ。
何せ、ハジメ達がやったのは、各国首脳陣を強制転移でさらった挙げ句、悪魔と神霊を従える姿を以て力の差を見せつけたというのだから。
それもう、説明会でも交渉でもない。
ただの脅迫……と誰もが思ったものだ。
まさか何年も後のこと、移住してきたハジメの嫁の一人であるリリアーナが世界規模の新興宗教団体を創設し、その対応として同じようなことが行われるとは思いもしない。
「それで? ただ脅しただけじゃないんだろ?」
「おう。俺は坊主の言ったことに賛成しただけだからな。人間側から悪魔どもに手を出さなくなるのは仕事が減って楽だ」
曰く、もはや世界規模で認識や情報を操作し続けるのは手間が過ぎるとのこと。
というのも、覚醒者の存在があるからだ。
いくらハジメが氣力を完全掌握しているとはいえ、既に目覚めてしまったものは仕方がない。
もともと地球人には備わっている力なのだ。
生きていれば体内で生成されるものであるから、皆殺しにでもしない限り彼等は力が使えてしまう。
また、覚醒者は素質の高い者――異類婚姻譚の子孫故に、王樹復活から間もないうちに目覚めたと考えられるが、あくまで仮説だ。
今後も目覚める者がいないとは限らない。
更に言えば、陰陽師や影法師のように氣力の扱いを技術として継承している個人・組織は他にもあるだろう。
「そいつらを虱潰しにしていくわけにもいかねぇし、支配なんてもってのほかだ。まして監視し続けるなんて馬鹿のやることさ」
「ま、それが当たり前と言っちゃ当たり前か……」
そんな支配欲があいつにあったなら、きっと、死に物狂いで異世界から故郷に帰ろうとはしなかっただろう、とジャックは苦笑いを浮かべる。
だって、世界を支配したいなら、ハジメには地球などよりよほど簡単にできる世界が――トータスがある。
それも、押さえつけるような支配ではなく、好意的な畏敬の念を捧げられる存在として君臨できる世界が。
エヒトを打倒した後も、心が変わることはなく、家族との再会を、またかつての日常に戻ることを望んだのだ。
それこそ極限の意志として概念が具現化するほどに。
ハジメにとっては、どこまでも〝その他大勢より身近な少数〟、〝その身近な者達との日常〟こそが大切なのである。
「で、だ。覚醒者の存在を前提にするなら、どうしたって世界は超常の力の実在に気がついちまう」
いつまで経ってもよろよろとした足取りが変わらないジャックに肩を貸しながら話を続けていくダンテ。
「そんで、そこに気がついてしまえば、日本で起きた天変地異の原因が〝奇跡的な連鎖反応に起因する自然現象〟などではなく、〝人災である可能性〟にも辿り着くのは時間の問題だろう?」
「当たり前だろ……あんだけ派手に暴れてたんだから……」
「Hahaha! 気にするな!」
そこまでくれば、誰もが思い出すだろう。
散々世間を騒がせたオカルトニュースの先駆者――〝帰還者〟のことを。
一部の国は既に影法師に唆されて帰還者の身内を狙っているのだから、なおさら。
「要するに、ハジメがやったのは全世界に向けた脅しってことだろ? 他の覚醒者に手を出すのは良いが、俺達〝帰還者〟に手を出したらどうなるか、って感じに」
「さすがの俺でもビックリしたぜ? あんな破天荒なことをするのは親父以外に居ねぇと思ってたからな。そんで、中国とは協定を結んだってことも言ってたな」
「? どういう…………あぁ、なるほど。そのためにあいつらを生かしたのか」
肩を竦めるダンテ。
正解らしい。
事実、今回の件に関して、日本と中国は密約を交わしていたりする。
世界最大規模にして最速で国家戦力として確立した超自然的現象専門組織――〝影法師〟を、今後発生することが確定的な、裏の世界の更に裏というべき呪術世界における世界警察として活用してもらい、その情報や成果を日本と共有してもらうという内容だ。
つまり、今後の覚醒者関連の面倒事を丸投げにするということだ。
はっきり言えば、おいしいところだけ持って行かれるわけだから、普通はこんな内容は飲めない。
だが、影法師の返還と、世界的危機を招いた事実、何より、ただでさえ逆鱗に触れてしまった帰還者に氣力を掌握されていて、力量差的に手出しできない状況にある以上、飲まざるを得なかったというのが実際のところだ。
ただしこの点、日本政府のみならず、帰還者とも協力関係を持つこと、場合によっては帰還者が(アビスゲートが)助力することもあり得ることを約定に盛り込んだので、彼等からすれば悪くない取引ではあっただろう。
ハジメの采配次第だが霊地を継続使用可能で、帰還者との非敵対的な繋がりを持てたのだ。
当初の計画目的からしても、日本こそ傀儡にはできなかったものの、最低限の利は確保できている。
「国家のやり取りではメンツが大事である。追い詰めすぎると大体の場合、不利益と悲劇しか生まない。っていうのは日本の警察の受け売りだが、そのあたりの匙加減は、坊主も相談したみたいだ。で、お互いの監視と窓口係として人員を……まぁ、坊主の場合は人外だが……を派遣し合って、一応、手打ちって感じだな」
もちろん、ハジメが世界情勢に対する政治的な手を打っている間に、ユエ達も動き回っていた。
羅針盤で調べあげた死傷者や損壊を、再生魔法が使える者だけでなく、ドクターアラクネ団(自称)やマエストロアラクネ衆(自称)も総出で治癒・修復に飛び回った。
クラスメイト達も、英国保安局やバチカンとの情報共有、各地の竜伝承の地に対する臨時封印を本格的な封印に変える作業に駆け回り、陰陽師達も、出雲の〝左天之祠〟、富士の〝右天之祠〟の修復・結界再展開の儀式を行ったり、天星大結界の強化方法の模索や、各地の妖魔封印の状況調査及び封印措置を行ったりしていたのだ。
おかげで、あの天変地異に起因する死傷者・物損はゼロであり、樹海も元の姿を取り戻している。
「なるほどねぇ……」
「坊主には聞かなかったのか?」
現在ダンテ達が向かっているのは、ハジメ達がいるであろう南雲家だったりする。
実は、一ヶ月が経ってやるべきことが大分落ち着いたので、一度、今回の戦いに参加した者達でお疲れ様会をしようということになったのだ。
場所は、なんとハジメが作りだしたという世界〝箱庭〟である。
「あの坊主が面白いもんを作ったっていうもんだから、今回のことは断らなかったのさ」
「あっそ。パティお嬢様に怒られても知りませんよ~……」
そんな会話を繰り広げつつ、二人は南雲家へと到着した。
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南雲家に着き、インターホンを鳴らすといつかのようにハジメの娘であるミュウが接客をしてくれて、それからしばらく待っていると、ゲートが開き、ハジメが現れた。
「よう、ジャック。元気……じゃなさそうだな」
「おう、ハジメ。どっか横になれるところを用意してくれぇ……」
「箱庭に着いたら好きなだけ横になっていいぞ。っと、久しぶりだなダンテ」
「久しぶりだな坊主。嫁さんとの付き合いは順調か?」
ジャックとダンテに挨拶を交わしたハジメは早速、ゲートへと誘った。
一瞬だけ眩む視界。
次に感じたのは、豊潤な自然の香りと、草を踏みしめる柔らかい感触。
直後、視界に飛び込んできたのは……
「こいつぁ……!」
「Hahaha! こいつぁすげぇな! 360度完全パノラマだ!」
ジャックは驚愕に開いた口が閉まらず、ダンテは子供のように興奮する。
「ようこそ、箱庭へ」
ハジメの歓迎の言葉も耳に入らない様子だ。
無理もない。
何せ、その情景はあまりに雄大すぎた。
どこまでも澄み渡った蒼穹の空。
その空を突き破るかのような途轍もない高さの巨木。
出てきたのは小高い丘の上だったのだが、遠近感覚がおかしくなりそうな巨大さだ。
上の方は雲がかかっていて目視できないほどである。
そして、丘から巨木――宝樹まではなだらかな草原が続いていて、右方には雄大な山々と麓に湖が見えた。
まぶしいほどに日の光を反射する湖面からは幾本もの河川が伸び、それを辿るようにして左方を見れば、今度はどこまでも続いていそうな森が広がっていた。
背後を振り返れば、遠方に海らしきものも見える。
日本ではまずお目にかかれない大自然。
それだけでも言葉を失うには十二分だが、そこにお伽噺の存在――神霊、妖精、幻獣(中身は悪魔)、ドラゴンや龍の群れまで加われば、もはや完全に幻想の世界である。
「おい坊主! この世界はどこまであるんだ!」
「さぁな。俺も忙しくて細部までは確認していない。エンティ曰く、海の向こうにまだ陸があるらしいし、森の向こうは砂漠地帯、山脈の向こうは雪原地帯みたいになり始めているそうだぞ」
「マジか!」
「基本、自然環境の構築は神霊任せだからな。落ち着いたら探索してみるつもりだ」
「Wow!! 最高だな!! 今度遊びに来てもいいか!」
「こっちの仕事がないときにな」
今なお拡大し続ける、外敵皆無の幻想世界。
なるほど、〝箱庭〟とは実に的を射ている。
これを自身の親友が創造したということに、呆然とするジャック。
理解するには、スケールが大きすぎるのだ。
そんなジャックとは正反対に、興奮しっぱなしのダンテ。
と、そこへ、声がかかった。
「よく来たわね、人の子よ。歓迎してあげるわ」
薄緑色の風を渦巻かせて降臨したのは、一応、この世界の女神であるエンティだった。
頑張ってルトリアの真似をしているようだが、元来の溌剌さが隠せていないので、まるで背伸びした子供のようである。
「ただし、このエンティ様をきちんと敬うこと――」
「どうでもいいから行くぞ。宝樹の根元にみんな集まってるからな」
「ちょっとぉっ、女神よ女神! 貴方の女神ぃ! もっと敬いなさいよ!」
神々しい演出までして降臨したのに、神威が一瞬で霧散した。
ハジメの頭の上に小ぶりなお尻を乗っけて、足をパタパタさせながら抗議している姿は、やっぱり子供……
そんなやり取りを見て、ようやく正気に戻ったジャック。
そして、さっさとなだらかな丘を降り始めたハジメとダンテの後に続いたのだった。
しばらくして、宝樹の根元が見えてくる。
すると、
「あら? ちょっと遅すぎるんじゃないかしら?」
「べ、ベヨ姉さん!? どうして!?」
不意に背後から声を掛けられた。
反射的に振り返ると、そこにはジャックのよく知る魔女〝ベヨネッタ〟がドレス姿で立っている。
「お呼ばれしたのは、あなた達だけじゃないのよ」
「そういうことだぜジャック」
「ロダンさんまで……!」
そんなロダンは、季節外れなサンタのコスプレをしていた。
おそらく、皆を笑わせようとしているのだろう。
こんなほのぼのとしたお疲れ会に、ベヨネッタ達が出席していることに驚愕するジャック。
何故なら、彼女達はそんなことをしているよりも天使をぶっ飛ばしている方が有意義だと思っているからだ。
「まぁ、ジャンヌは来なかったがな。『私にはこういうのは合わん!』だとよ」
そう、心底もったいなさそうに首を振るロダン。
そんな会話をしている間にも、会場に着いた。
だが、会場は非常に混沌としている。
その向こうでは、ハジメの声が聞こえていたミュウが落ち込み。
それに菫や愁、ユエ達が非難の声を上げ、シャロンおばあちゃんもキレて銃を抜いたので、バーナード達が必死に止めに入り。
お互いに娘をハーレム野郎に奪われた者として共感があったのか、大晴とダイム長官が意気投合し、揃って「貴様を、やっぱり殴り殺すッ」「貴様を、やっぱり呪い殺すッ」みたいな目を遠藤に向ける……
どころか、お酒が入ったせいか実行しようとして、それぞれの部下が総出で止めにかかり。
遠くからは「シャオラアアアアアッ」「アハッ、アハハハハッ」なんて声と、とんでもない轟音が響き始め。
箱庭のお披露目だけでなく、本日の一番の目的――世界の危機を乗り越えたお疲れ様会という名目で集まったにもかかわらず、場はどんどんカオスに。
と、そのとき、服部の携帯がコール音を響かせた。
服部のそれは、ハジメが帰還者対応課との連携において必要と判断し、課の中では彼にだけ持つことを許した異世界間通信を可能とするプロトタイプの携帯型通信機だ。
帰還者対応課にも緊急時に備えて設置型が一台だけ置かれているのだが、そこからの着信らしい。
表情を変えて電話に出た服部は、しばらくやり取りをすると……
「いやはや、オフの日に参りますね。どうやら、民間のオカルト組織が生け贄の儀式をおっぱじめるようで。既に瘴気らしきものがあふれ出ているとか」
苦笑い気味に、その視線がご老公へ向けられ、しかし、直ぐに陽晴にも向けられる。
帰還者対応課として、否、陰陽寮としての仕事ということだろう。
同時に、陽晴の力が必要なレベルと判断したに違いない。
ご老公が頷き、陽晴に助力を願う――前に、
「わたくしが出ましょう」
陽晴自ら、そう言葉を響かせた。
一瞬前まで、ミュウの勢いにたじたじになりながらも、嬉しそうに年相応の笑顔を見せていた少女とは、まるで別人。
覇気と凜々しさに溢れた、現代最強の陰陽師の顔で前に出る。
「緋月」
「はい、ここに」
一言、力を込めて呼べば、さっきまでシアとの戦闘に興じていた緋月が一瞬で駆けつける。
「遠藤様、ご助力を?」
「もちろん」
打てば響くように応える浩介に、はんなりとした笑みを浮かべる。
「みゅっ。ヒナちゃん、お手伝いする?」
「姫様、我等もお供しますぞ」
「娘だけ行かせるわけにはいかないな」
口々に手伝いの申し出がなされる中、どこか面白そうに笑うハジメも「協力はいるか?」と確認を口にした。
「お気遣い、痛み入ります」と丁寧に一礼する陽晴。
しかし、顔を上げれば、そこには不敵とすら言える笑みが浮かんでいて。
「ですが、皆様はどうか、このまま素敵な休日をお過ごしください。わたくし達も直ぐにお役目を果たして戻りますので」
「できるのか?」
「ええ、問題なく。何せ、わたくしには頼もしい前鬼と――」
緋月を見て目を細め、次いで絶大な信頼と乙女の熱を込めた眼差しを浩介へと向けて、
「世界一のヒーローである後鬼が、ついておりますから」
そう言ってのけた。
緋月は当然と言いたげに、浩介もまた、ちょっと照れつつも誇らしそうに笑って胸を張る。
その光景を見て、ハジメやユエ達、そしてクラスメイト達は思わず――
ドン引きした。
「「「「「ゴキ?」」」」」
「こ、浩介。お前……そんなこと言われてなんで嬉しそうなんだよ!」
「小さい子に罵倒されて喜ぶとか……変態ね!」
「確かに増殖する浩介はゴキ○リみたいだけどさぁっ」
「深淵卿モードの後遺症が、ここまでっ」
「香織! 遠藤君の頭に治療を!」
「任せて! 輝け、遠藤君のあれな頭!」
仲間の同情と憐憫と蔑みの眼差しと言葉に、回復魔法の輝きで頭を光らせた浩介は笑顔のまま固まった。
どうにか震える手で眉間をもみほぐし、大きく深呼吸して、一拍。
陽晴があわあわし、ラナ達樹海防衛線メンバーがぷるぷるしながら笑いを堪えている中、
「いい加減っ、そのネタから離れやがれぇーーーーーーっ!!!」
魂の叫びを、美しい箱庭の世界に木霊させたのだった。
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「さぁて、俺はあそこに行こうかなっと。おいジャック、お前はどうする?」
「待って、まだ、全身に痛みが……」
「あら坊や? その程度でギブアップなのかしら?」
「ギブアップですよ……もう動きませぇん……」
「はぁ…………」
「……あの、なんで首根っこ掴むんですか?」
「楽しいダンスパーティーが始まるのよ? 参加しないわけがないわよね?」
「いや、無理です。もう動かないって、あー! お客様! 困ります! 困ります! もう動かないんです許してください!」
「さてと、俺はあそこを探索してくるかね……」
「ちょ!? 親父どこ行く!?」
「行って来いジャック。お前の分の肉は俺達が食っといてやるからよ」
「ふ……」
「不幸だ―――!」
この後、全身に走る痛みを我慢しながら(火事場泥棒しようとした)天使を殺した。
悪魔達の腹が満たされた。
ベヨネッタのやる気が上がった。
ジャックの体はボドボドになった。
オチが下手だった……
と、いうわけで、陰陽師編完結です!
次回以降は、オリジナル回が続くと思います。
出来れば感想なんかで「こんな展開良いんじゃないか?」というものがあれば、どしどし送ってください!
それでは皆様、また次回!