木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
1枚目
────っ!
────────!!
誰かを庇って死んだ記憶。いわゆる前世、というものなのでしょう。思い込みや妄想と言うにはあまりに精緻で生生しい記憶です。
ともかく、わたしは。
誰かを守り抜けるような人間になりたいと、そう思うのです。
「カタナ。次、下忍になれなければ家業を継ぐように、と。わかっているな?」
「はい、わかっています……父上」
家に帰ると最近はいつもこう、釘を刺され。おかげでなんとも憂鬱です。鬱々と、どよーんとした気分です。
明日は
五大国の1つ、火の国にある木ノ葉隠れの里。火影様が治めるこの忍者の隠れ里に、わたしの家はあります。
家業として我が川上家はお札作りを行っているのです。有名なのは起爆札でしょう。お札は様々ありますが、扱いやすくて威力も高く、一番スタンダードなものです。
他にも巻物を作ったり色々としているのですが、我が家の特徴はなんといってもインドア派なことです。外に一週間くらい出ないなんてのもザラですし、腱鞘炎や肩こりなんてのもお友達です。別に仲良くしたいわけではないのですが。ともかく。そんな彼らを見て育ったわたしとしては、札作り自体は嫌いではないのですが……こう、もうちょっとアウトドア派に寄りたいなあと、そう思うのです。誰かを格好良く守れる忍び。そういうのに憧れてしまうのです。
もちろん、札作りも里に貢献しているのは知っています。かの九尾が暴れた際には起爆札が大盤振る舞いされたそうですし、お札を直接忍者さんに売ることだってあります。でも、自分だってお札を使って戦ってみたいと、自分の身で誰かの助けになりたいのです。
しかし現実は無情。
1回ならともかく2回も落ちるとアレコレ言われてしまうもので、特に父は元々わたしが忍びになることにはあまりいい顔をしていませんでした。なので、次はないのです。忍者ではなく札作りのみに邁進すること。それも悪くはないのですが、やはり忍びの隠れ里にいる以上は、憧れが捨てきれません。
「意地悪で言っているわけではないのだ。お前の気持ちもわかる。だが。我が家にはお役目があり、忍というのは過酷な仕事……なに、年をとってから下忍になることも少なくはない。一度立ち止まって考える機会だと思え」
「……ありがとうございます、父上。少し、考えたいので……外をぶらついてきますね」
父の話は正論で、それだけに息が詰まるような感じです。家にいるとプレッシャーに押しつぶされそうで……そこまで悲壮な顔をしていたつもりはないのですけれども、わたしの顔を見た父は少し息を呑みました。いつもならお札を作っている時間ではあるのですけれども。流石に家から出るな、などと非道なことは言われず、ごくごく普通に送り出してくれました。
木ノ葉隠れの里のおすすめスポットといえば歴代の火影様の顔岩です。文字通り里の顔ですからね。この里の長、火影といえば最強の忍びと言っても差し支えないでしょう。他の五大国にある里には水影、土影、風影、雷影がいて火影様も入れた五影が忍者の頂点とされていますが、贔屓目なしに火影様が一番だとわたしは思うのです。
四代いるどの火影様にも憧れてしまいます。流石に、火影になりたいとまでは思えませんが。おじいちゃんからその偉業を聞いているとわたしにはとても無理だなあと感じるのです。それでも、子どもたちのなりたい職業ランキング1位はいつも火影様ですし、いまでも「火影になる」と公言している子もいますから、みんなすごいなあとただただ思うばかりです。向上心がわたしには足りないのでしょうか?
さて、初代の千手柱間様は忍びの神と呼ばれ今でも称えられるほどの実力者で、その弟で次代の千手扉間様も様々な術を生み出したりした素晴らしい御方です。おじいちゃんによると、起爆札の有用性に一番に気づいた慧眼の持ち主だとか。四代目の波風ミナト様は里を襲った九尾を封印し、若くしてこの世を去ってしまわれたそうです。わたしがまだまだ小さい頃のお話ですね。それで、今は三代目の猿飛ヒルゼン様が再び火影の座についていらっしゃいます。ヒルゼン様は多種多様な術を使えるので初代様と同じく忍の神と謳われる方で、お年を感じさせないような強さを持ち、誰にでもお優しく振る舞ってくださる人格者でもあります。
ヒルゼン様とは基本的にいつでもお会いできますが、他の方のお顔を見るには顔岩へ行くのが手っ取り早いです。その凛々しく並ぶ4つのお顔を見るとなんだか引き締まった気持ちになって、忍者になろうという決意も増すものなのです──────が。
赤いペンキでバカとかアホとか書いてあるお顔を見るとどうにも気が抜けてしまいました。ルンルンと明るくペンキを消しているのは
卒業試験は学校で習った基本忍術の隠れ身の術、変わり身の術、縄抜けの術、分身の術、変化の術の何れかを先生の前で行って合格をいただかなければなりません。わたしの時は変わり身の術でした。卒業試験は一度合格すれば受け直さなくていいので、パスしたわたしたちはのんびりしているのですが……ナルト君は大丈夫なのでしょうか。他人事ながら心配になります。
ナルト、うずまきナルト君は2歳年下の男の子で、直接話したことはないのですが
わたしの予想では、彼の親が犯罪者とかだったり抜け忍になったのではと睨んでいます。ナルト君や、その親についてはみな一様に口を閉ざすのです。歳も性別も違うとあまり関わる機会もないのですが……何度か気になって彼のクラスを覗きましたが、同い年の男子とはそこそこ仲良くやっているようです。さらに担任のイルカ先生がよく見てくださっていて、今日も彼がちゃんと落書きを消すか見守っています。親子、とまではいかないにしろ信頼しあっている2人の様子はなんとも見ていて微笑ましいですね。
ラーメンっ♪ラーメンっ♪と言ってはしゃいでいるのを聞いているとこちらまでラーメンが食べたくなってきてしまいました。うーん、晩御飯の準備はもうしちゃってるでしょうか。外で食べると言ってくればよかった気がします。2人で一楽にでも行くんですかね。羨ましいです。
イルカ先生に会釈だけして、眺めていても仕方ないので帰ることにしました。流石にイタズラの後始末のお手伝いをするのもなあ、と思いますし……さてさて、今日の晩御飯は何でしょうか。麺類だと嬉しいですね。でも父たちはすごく手早く食べるか何かを読みながら食べるのでスープが飛ぶラーメンはあまり出ないんですよね。お行儀が悪くて困ったものです。
ゆったりと歩きながら眺める町並みは、買い物をしている人や飲食店を使う人などでとても賑わっています。こうして一応でも平和なのはやはり火影様のおかげですよね。昔の戦争の話を聞くこともあるのですが、やはりむごいものです。なぜどの時代も、どの世界も人と人は争うのでしょうか……少なくともわたしたち忍びは、忍びであるが故にでしょうね、まあ。わかってはいるのですが、どうにもやりきれないものです。小康状態とはいえ木ノ葉ではのんびりできることをとても嬉しく、ありがたく思います。
わたしたちが下忍になれなくて忍者学校に戻されるのも平和だからこそでしょう。戦時中は忍者学校の卒業資格もゆるく、バンバン下忍として戦わせたそうですし。
はぁとため息をはいて足を止めると、後ろでもピタリと誰かが止まったような気配がしました。歩きだすと歩きだす。道を曲がっても気配は無くなりません。どうも足音がついてきているような感じがします。
こうした尾行というのはするのもされるのも
「カカシさん……普通に声をかけてください。とても驚きました」
「いやぁ。ごめんごめん。いつ気づくかな、と」
全然悪びれていません。といいますか、一介の
逆立った銀髪に、右目以外顔のほとんどを覆い隠している不審人物感満載の男性・はたけカカシさんはそのまま普通に話しかけてきました。
「カタナは家帰るんだろ? オレもちょうどお宅に行こうとしてたんだ」
「あら、そうでしたか。それはそれは……いつもご贔屓にしていただいてありがとうございます」
わたしたちのお札のお買い上げ先は主に2通りです。1つは里全体での買い取り。おそらく倉庫なんかに貯めたり任務の際には配ったりしているのでしょう。決まった人が来るのですが、時々火影様自らがお買い上げに来てくださいます。おじいちゃんと火影様はどうやら仲よしさんのようなのです。時々のんびりお茶を飲みながらおしゃべりしたりしてますもの。もう1つが個々人が直接買いに来ること。この場合、木ノ葉の額あてをしている人にしか売ってはいけないことになっています。額あてに傷を入れたりしてる抜け忍にはもちろん売っては駄目なのです……まあ、抜け忍がそうノコノコ来るとも思えませんが。
カカシさんはよく来店してくださるお得意様なので、たぶんいっぱい戦っててお強い方なのだろうなあとはぼんやりと思います。他の方からもよくそうした話も聞きますし。お客様の中には、残念なことにやがて買いに来なくなる方もいらっしゃいますからね……別のお店に変えた、とかならいいのですが、残念なことに忍びである以上は殉職されてしまった可能性も高いのでしょう。とても、とっても嫌な想像ですが。
「学校生活はどう? 楽しい?」
「そうですね……たくさん学ばせていただけるのはありがたいと思っていますが、下忍になっていく子たちを見ると焦燥感が湧きます。でも、みんなで仲良く切磋琢磨して色々とするのは楽しいです。あとは他の生徒にお札をちょっと配ったりしているので、いずれ顧客になってくれると嬉しいですね」
「やだこの子、商売人の鏡……! んー、ま、そんなに気にしなくて大丈夫でしょ。カタナなら」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられます。そう言っておきながらこの方、上忍師として自分のところに来た子を全員落としてるんですよね……。
下忍は
「でも今度駄目だったらお札作りに専念しろ、と父が言うので……今までになく気が重いです」
「それはひどいねェ。三代目にでも相談してみたら? あの人の言う事なら誰だって聞かざるを得ないでしょ」
「いえ! 火影様をこんなことで煩わせたくはないので……ただでさえお忙しい方ですし、ただの家庭の問題ですし」
「そう? ま、本当に困った時はオレにでもいいから誰かに相談してみなよ。子どもは大人を頼っていいんだから」
カカシさんはポンポンとわたしの頭を叩きました。優しくしてくださるのは嬉しいのですが、完全に子ども扱いなのはちょっと悔しいです。いえ、子どもではありますけど。
一人前とされるのは額あてをつけた者たちです。わたしたちも卒業の際に配られたとはいえ、基本的に普段は着けることを許されていないのでまだまだ半人前扱いが当然でしょう。ええ、当然なのです。
でもそれだったら子どもの前で……その、あの、破廉恥な本を読むのはどうかと思うのです。カカシさんのいつも読んでる『イチャイチャパラダイス』を読んでみたいと言ったら「
「……ありがとうございます」
「いえいえ。確か明々後日が試験でしょ? いつも通り、落ち着いてやるよーに。そうすれば問題ないよ……たぶんね!」
下忍の試験の日はわたしたち経験者組は
でもきっと大丈夫、と言っていただけたことは素直に嬉しかったです。
「はい! せいいっぱい頑張ります」
「その調子その調子」
──果たして。班分けは、担当上忍は。試験は、どうなるのでしょうか。ドキドキです。
お読みいただきありがとうございます。
原作では起爆札なんかは字だけ書いてあるような誰でも書けそうなシンプルなデザインのこともありますけど、たぶんメタ的に言えば作画コスト的なアレだと思うので、本小説の中では全体的になんかこう、もっとお札!みたいな感じでゴニョゴニョ書かれているとご想像していただけたらと。
川上家:オリジナル家系、お札作りの家。
川上カタナ
幼少期からお札作りについては仕込まれており、その腕はかなりのもの。
優等生の敬語キャラ。しかし心の中では結構ツッコミを入れたりしてる。察しはいいほう……だけど外れたりもする。わりと運がいい。
血液型:A型
好きな食べ物は柑橘系、あとはマシュマロとか優しい甘さのもの。嫌いな食べ物は甘ったるすぎるもの。
好きな言葉:平和
戦ってみたい相手は胸を借りるという意味で扉間様。
一人っ子で家族仲は良好。
おじいちゃん:扉間様をとても尊敬してる。扉間小隊とは知り合い、特にヒルゼンとは友達。
父:忍になるのを反対してるのには一応理由がある。娘の反抗期で微妙に避けられてて悲しい。
母:料理上手。娘の合格を願ってカツカレーを作ってくれたり、優しい。母方の家系は火の国のはずれにある村の封印の巫女の血を引いているらしい(この設定は出るとしてもNARUTO後の話)。
転生タグ及び冒頭の意味はのちのちの話で。伏線回収までが長い……。