木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
「遅くなってごめん!」
「大丈夫ですよ、テンテン。さ、どうぞ座ってください」
予選から1ヶ月が経ち、ようやく訪れた本戦の日。テンテンはネジ君の練習に付き合ってから来るとは聞いていたのですが……今日はちょっとおめかししているようで、とても可愛いです。
サクラちゃんはお友だちと見るとのことで、一緒に見ないかと言ってはもらいましたが……仲良しさんの邪魔をしても悪いと思い遠慮させていただいたのです。そして一回戦はナルト君対ネジ君と、班員同士の戦いですが、まあそれはそれとしてわたしはテンテンと仲良く観戦することにしたわけです。残念ながら、テンテンたちの班員のリー君はひどい怪我を負ったため忍びを続けられないとまで言われているそうで……ガイ先生も彼に付き添い、この時間は病院にいるそうです。何度かお見舞いに行ったのですが、本人が明るく振る舞っているのが逆に痛々しい、と思ってしまい……どうにか奇跡でも起きて治せないものか、と願ってやみません。
「あれ、サスケくんがいない。確か病院からも消えたんでしょ? 大丈夫なの?」
「わかりませんが……カカシ先生も連絡が取れないので一緒にいるのかもしれません。そうでなくとも先生がなんとかしてくださってるでしょうから、大丈夫だとは信じていますが……まだ来てないのは気にかかりますね」
サスケ君たちは果たして今どこで何をしているんでしょうか。遅刻ですよ、遅刻。重要な公式行事ですのに。
観客席からかなり下にあるステージには7人の本戦出場者たちが並んでいます。もともと9人で、サスケ君がいない分を引いて8人のはずなのですが……何かあって棄権でもしたんでしょうか。
安全のためなのか観客席とステージとは結構距離があり、ステージを囲う壁はそこに生えている木よりもだいぶ高くなっています。全体を俯瞰できるのはいいのですが、遠いので細かいところが見えなさそうですね。
「そういえば……これ、2本とも結構な業物だったけど本当にもらってよかったの?」
テンテンが見覚えのある巻物を出しながら尋ねてきました。業物とはわたしが波の国で奪って2階に隠しておいたはいいものの、邪魔と言われ封入した刀のことでしょう。しかしいい刀だったとは……あのならず者たち、結構給料をもらっていたんですかね。
「ええ、もちろんです。むしろ誰もいらなくて邪魔だったので……もらっていただけるだけで嬉しいですよ」
「ならいいけど」
刀を使う知り合いっていないんですよね……あの時は再不斬に一応使うかどうか聞いてみましたけど、いらないと断られましたし。わたしなんかより武器が好きなテンテンのもとにいた方が刀も幸せだと思うのです、ええ。
彼女が巻物を懐に戻すのを見て、わたしはあることを伝え忘れていたことを思い出したのでした。そう、口寄せ契約です。
「テンテン、猫はお好きですか?」
「嫌いじゃないけど……どうかした?」
よかったです。では、わたしの可愛い仲間たちをお披露目しましょう。そういえばなんだかんだでお友達には初披露な気がします。サスケ君が消えてナルト君もよくどこかへ行ってしまい、サクラちゃんとも会うのは病院が多かったですし……。
親指をブチっとやって掌をかざします。
「口寄せの術!」
3匹とも呼んだのですが応じてくれたのはヤタだけでした。ひどいときは1匹も出てくれないので、まあマシな方でしょう。
いきなりわたしが忍術を使ったことに、周りの観客がなんだなんだという目でこちらを見てきており……来る前にやればよかったですね。ごめんなさい、ただ忍猫と友だちを会わせたかっただけなんです……。
テンテンは注目を浴びていることに苦笑しつつもヤタのことを可愛いと言って撫でてくれました。優しいです。ご迷惑おかけしてごめんなさい……。
テンテンも前に口寄せにチャレンジしようと思ったものの、ガイ先生の忍亀は嫌だったとか。そう言うとあちらも願い下げと拒否されてしまったらしく……伝説の三忍の一人でくノ一の綱手様に憧れるテンテンはナメクジと契約したかったそうです。うーん、ナメクジですか……嫌ではないですがわたしはもふもふを求めたいですし。やはりうちの子が一番だと思うのです、はい。
「せっかく来てくれたんですしヤタも見ますか? 今から試合が始まるんですよ」
「そうね、いいんじゃない? 次回はカタナも参戦するかもだし」
「成程。では後学のために拝見するでござるニャ」
そう言ってヤタはテンテンの膝の上に移動してちゃっかり座ったのでした。わたしのお膝も空いてますよ?
遠くの方の席を見ると砂隠れのトップ──風影さんが来ていて、彼が隣りに座った後、火影様は大きな声で宣言しました。試合、開始です!
ステージにはナルト君とネジ君が残り──日向一族の試合とあってか皆が注目する中、一回戦は始まりました。
初手はナルト君。影分身して殴りかかるも、あっさりとふっ飛ばされました。ネジ君が回転したように見えましたが……。
「あれがネジの絶対防御よ」
テンテンが小声で解説してくれます。体術に明るくないと見ていてもよくわからないのでありがたいです。
「ネジはほぼ360度見通せるその
あの八卦掌回天という技は
すごい技です。どうしたら攻略できますかね……ええと、そもそも攻撃を感知されても反応できないようなスピードでの攻撃。見られても攻撃と判断されないように細工して攻撃することで反撃を遅らせる。遠距離から攻撃し続けてチャクラ切れを狙う。彼のチャクラより強いチャクラや攻撃をぶつける。幻術などの搦め手の攻撃、とかでしょうか。うーん、考えたはいいけど机上の空論ですね。
「それだけじゃないわ」
今度はネジ君の攻撃。柔拳法八卦六十四掌と言うらしい技が炸裂し、点穴を突かれチャクラを練れなくなったナルト君はうずくまって倒れてしまいました。
苦しそうなナルト君が、起き上がる気配は……ありません。
「終わりでござるな」
ヤタもそう言い、会場も試合終了だという雰囲気に包まれます。正直、わたしももう終わりだと、そう思っていたのですが──
ナルト君はゆっくりと、虫の息で、でも確かに立ち上がりました。
ナルト君がネジ君に、予選での彼の非道な仕打ちについて怒りをぶつけ、言い争いの後ネジ君が額あてを外すと……その額には卍の文字がありました。
「……刺青?」
「違うわ……呪印よ、あれは」
ネジ君は語りました。日向の宗家と分家、そしてそれによって起こった悲劇を。
あの呪印は宗家が分家を殺すことができ、死んだ時に消えて
その話はわたしたちをとても驚かせるものでした。呪印のことなんて、雷の国……雲隠れと戦争になりかけていたなんてまったく知らなかったのです。
同じ、日向一族。それでも宗家と分家の確執は非常に大きいようでした。
そのままネジ君はナルト君に追撃を加え、立ち去ろうとしますが……ナルト君は立ち上がり、必死に印を組んでいました。
「あやつ……何を……?」
もしかして──わたしには、心当たりがありました。ナルト君は波の国の時の、あの異様なチャクラを出そうとしているのでしょうか?
でも、あれは自分の意思で出しているようにはとても見えなかったのです。それに、押さえ込まなくてはならないものなのでは……?
「ありえない!? 点穴を突かれたのに……」
予想通り吹き出した莫大なチャクラにわたしは思わず懐を確認しました。前に父からもらったお札はまだあと数枚残っています。でも波の国の時と違って里の中ですから、まずい状況であれば火影様を筆頭に大人の方々が止めてくださいますよね……?
火影様の方を見ると遠くで表情はわかりかねましたが、特に動く様子はないようでした。大丈夫、ということなのでしょう。ちょっと安心します。
確かに前と同じ異質なチャクラではありますが、今回はナルト君が放出するだけでなくきちんと使えているように見受けられます。
「日向の憎しみの運命だかなんだか知んねーがな! オレが火影になってから日向を変えてやるよォ!!」
ナルト君とネジ君がぶつかり、地面に2つの穴が空きました。直前に生じた煙によってどちらの穴にどちらがいるのかはさっぱりわかりません。読めない状況の中、わたしたちは固唾をのんでステージを見守ってました。
先に穴から出てきたのは──ネジ君でした。
「フ〜〜」
テンテンが安心したように息を吐きます。ナルト君はまだ穴に倒れていて……動く気配は、ありません。
ネジ君は疲れてはいる様子ですがちゃんと立ち上がっています。これはもう、負けなのでしょうか。
「ネジの回天の分、ナルトくんの方がダメージが大きかったみたいね。でもネジをここまで追い込むなんて……ナルトくんは凄かったわ」
そうです。ナルト君は健闘しました。だから、ここで、もう一度立ってほしいだなんて思うのは非道なことなのでしょう。ですが──
「え?」
「ナルト君!」
地面から出てきたナルト君がアッパーを決め、ネジ君が倒れます。ナルト君は息を荒くしつつもしっかりと立ち続けていました。
穴の方にいたナルト君は消えています。影分身だった、ということなのでしょう。すっかり騙されました。どうやら穴から自分でトンネルを掘って、穴とは別の場所から地上に出てきたようです。
「うそっ……ネジが……?」
ネジ君は、もう体が動かないようでした。
ナルト君がそんなネジ君に言葉をかけています。そして──
「勝者。うずまきナルト!」
会場が拍手で包まれ、みなが試合を称えます。サクラちゃんの声も聞こえてきました。
試合後にもかかわらずナルト君は笑顔で走り回って声援に応えています。やはりスタミナが多いんでしょう。とても元気そうです。
おめでとうございます。そしてお疲れ様でした、ナルト君。
ネジ君の方はというと、担架で運ばれていました。このまま医務室に連れて行かれるのでしょう。テンテンも今から見舞いに行くのでしょうか?
そう思ってテンテンの方を見ると、彼女は首を横に振ってから言いました。
「ネジは……いま私が行っても嫌がると思うから。全部の試合が終わってから行くわ」
────こうして、初戦は幕を閉じたのです。
次の試合はサスケ君が来ないので延期。そのあと、前に木ノ葉丸君に絡んできた、顔にペイントを施した砂隠れの方──カンクロウ君が棄権しました。今棄権するならなぜここに来たのでしょう……?
そしてその次……テンテンの予選の対戦相手だった砂隠れのくノ一 テマリさんと、ナルト君たちの同級生のシカマル君の対決は、頭脳戦の様相を呈していました。遠距離から風遁で攻撃するテマリさんに対し、影を伸ばして彼女を捕らえようとするシカマル君。その勝負の行方は──
「テマリさんの勝ち、なんですかね」
「ふんっ……あんなの負けと変わんないって」
「試合に勝って勝負に負けた、というところでござるな」
テマリさんはシカマル君の影真似の術にかかったものの、シカマル君がギブアップを宣言。テマリさんの勝ちということにはなりました。
「それにしても高度な試合でしたね……」
影真似の術の射程距離を測り分析するテマリさんに対して、シカマル君は上着で作った即席パラシュートで上に目を向けさせ、さらに穴の側まで彼女を誘導。ナルト君が掘った穴の中の影という目に見えない影を利用して、彼女の背後の穴から影を伸ばして捕まえる、と。
終わってみるとなるほどという感じですけど、試合中にここまでできるのが本当にすごいです。試合に負けてしまったとはいえ、彼が中忍になるのは確実なような気がします。テマリさんは次以降の試合次第、といったところでしょうか。しかし次の試合は──
「次はサスケくんよね? ちゃんと来るのかしら」
「来ないと不戦敗ですよね……」
観客席を見回してもサスケ君が来ている様子はありません。流石に待たされすぎた観客たちが不満を叫んでいて、これ以上は引き延ばせないように思います。
「ざーんねん。見たかったんだけどなあ、あの砂隠れのヤツがけちょんけちょんにされるとこ」
「まあ、このままいくとナルト君と戦うことになりますし……そちらに期待したいところですが、一試合お休みなのは有利になっちゃいますよね。それは油女シノ君も同じなのでまあ、木ノ葉的には平等ですけど」
「そうね。シノくんには頑張って欲しいわ……」
そうやってテンテンと話しているとヤタがトコトコとわたしの膝に戻って来ました。お帰りなさいませ。
え、ヤタはサスケ君が今からでも来ると思うと言うのですか? ……うーん、サスケ君はきちっとした子なので、残念ですがもうそれはないかなと。まだ来ないなんていくら何でも遅すぎますよ。きっとまた怪我をしてしまったとか、何か事情があって来れなくなってしまったんでしょう。
そもそも試合を後回しにするというのが特例でしたし……火影様は平等な方なのでサスケ君だけに利する行為は取らないでしょう。となると風影さんあたりが提案してくれたのでしょうか。そのお気遣いが無駄になってしまうのは残念ですが──────
「フンフン……どうやらお出ましのようでござるニャ」
え、とその言葉の意味をわたしが問いただす前に。
ステージに、ふわり、と木の葉が舞い落ちて。
風が、巻き上がりました。
観衆の視線が一点に集められる中。
舞う木の葉の中心に、サスケ君とカカシ先生は、それはそれはもう格好良く登場したのです。
…………大遅刻してきたくせにっ。
「あちらに行かなくていいのでござるか?」
「いいんですよ、カカシ先生なんて。こちらには連絡一つ寄越さないくせに教え子を遅刻させたうえでちゃっかり派手な登場をかます人なんて知りません。リー君は心配ですけど……」
サクラちゃんたちの席の方にはカカシ先生、ガイ先生とリー君が加わっているようでした。とはいえもう席がないらしく立っているのですけれども。リー君、病人なのに立ってて大丈夫なのでしょうか……?
それはともかく、テンテンもリー君たちに会うのは後でいいそうです。まあ、あちら側にいこうとするとわたしたちまで立ち見になっちゃいますしね。サスケ君の試合はわたしも座ってじっくり見たいです、はい。
今日一番の好カードを、みなが熱心に見つめていました。
「始め!」
砂隠れのひょうたんの人──我愛羅君とサスケ君の試合の初撃は、サスケ君の手裏剣攻撃でした。
「何ですかあの砂は……?」
サスケ君の攻撃をいなしているのは砂。我愛羅君の背負うひょうたんから出たものです。
砂分身になったり盾になったりと超高性能の砂を攻めあぐねているかのように見えたサスケ君でしたが────
「リーと同じスピード!? ううん、あれはリーの動きそのもの……!」
今はキレのある体術で我愛羅君を圧倒しています。テンテンの言う通りなら、おそらく写輪眼でリー君の体術をコピーしていたのでしょう。いつの間に……。
攻撃を受け続けている我愛羅君の体にはヒビが入っていて……砂を身に纏って、鎧のようにしているんですかね? 砂、便利ですね。あの忍術をお札にできないものでしょうか……いえ、そもそもあれはどういう術で砂を操っているのでしょう。ただの土遁ではなさそうですし、印を結ぶ様子すらないです。つまり彼は既にお札を使っているのと同じ状態にあるんですかね…………うう、謎です。機会があればもっと近くで見たかったです。
我愛羅君の砂がまん丸いお団子のような形になり、彼はその中に籠もっています。砂団子ですね。とはいえすごく固そうでサスケ君が蹴ったりしてもまったく反応せず……起爆札を使ったとして果たして壊せるんでしょうか、あれ。
そんな砂団子を前にサスケ君は……十分距離をとって、壁から助走をつけて走り出しました。
左手にものすごい雷のチャクラと、チチチという爆音を乗せて。
そしてその左手が砂団子に刺さり────しかしサスケ君は攻防の末、砂から生えた腕から逃げるように離れてしまいました。
でも無事に砂団子は崩れ、中から現れた我愛羅君は怪我を負ったらしく肩を押さえていて──
あれ、目の、前に、羽が──────ヤタが何かを訴えるようにわたしを叩いて……幻術?
幻術返しの、印を──────解!
「ありがとうございます、ヤタ」
軽く見渡してみるとカカシ先生やガイ先生、サクラちゃん、暗部の方々、一部の忍びたちは幻術返しに成功しているようです。あとはステージ上のサスケ君や我愛羅君たちもかかってはいないようでした。効果範囲外なのやもしれません。
知り合いが無事なことにわたしが少しほっとした瞬間。観客席のほとんどが眠らされてしまい静まり返った会場にボフリと煙の広がる音が響いたのでした。
テンテンはネジ君の練習に付き合ってから来るとは聞いていたのですが……今日はちょっとおめかししているようで、とても可愛いです。
→原作だと口紅をつけている。可愛い。描写はないものの実はカタナも普段よりおめかししてる。額あてを外してるのもそのため。
業物とはわたしが波の国で奪って2階に隠しておいたはいいものの、邪魔と言われ封入した刀のことでしょう。しかしいい刀だったとは……あのならず者たち、結構給料をもらっていたんですかね。
→ツナミを襲撃した2人組から地味にパクってた。なお、彼らについてはちゃんと奉行所へ突き出した。
「いいんですよ、カカシ先生なんて。こちらには連絡一つ寄越さないくせに教え子を遅刻させたうえでちゃっかり派手な登場をかます人なんて知りません。」
→冷静に考えると結構ひどいと思う。というかなんで遅れたんだ……?千鳥の習得を完成させるまでギリギリ粘った、とかなのだろうか。
「何ですかあの砂は……?」
→カタナは予選を見てなかったため我愛羅の技とかについて知らない。他の人もリーを再起不能にまで追いやったりした我愛羅については語りたがらなかったため。
テンテンの言う通りなら、おそらく写輪眼でリー君の体術をコピーしていたのでしょう。いつの間に……。
→中忍試験直前、カタナがテンテン達についていって、リーがサスケに話しかけたあと、リーとサスケが対戦した時。その際、地味にガイが忍亀から逆口寄せで派手な登場を果たしていた……。
砂団子ですね。とはいえすごく固そうでサスケ君が蹴ったりしてもまったく反応せず……起爆札を使ったとして果たして壊せるんでしょうか、あれ。
→テマリが殻と言っていたし卵と迷ったもののまん丸いのでお団子かなと。守鶴は満月に騒ぐらしいしお月見団子のイメージ。起爆粘土での戦いを見る限り残念ながら起爆札では太刀打ちできなさそう。
馬の視界が350度で真後ろ以外見通せる。ウサギの視界は360度だが超近視。つまりほぼ360度普通に見通せる白眼は草食動物に大勝利できる目ですね。微妙に死角がありますけど。