木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
火影様たちのいた中央の物見やぐらは煙に包まれ、ここからでは全容はまったく見えません……が、戦闘音が響き渡っているのはわかります。この襲撃の首謀者は火影様たちを狙っているのでしょうか?
一方、わたしたちのいる観客席の方にも招かれざる客がやってきていました。八分音符のマークの額あてをした忍びたち──音忍です。その敵意の籠もった眼差しはわたしたちをまっすぐ射抜いていました。彼らが襲撃者、ということなのでしょう。なぜ木ノ葉を狙うのかはさっぱりわからないのですが……里全体は、家にいる家族は無事でしょうか? 心配になりますけれど、今は口惜しいことに無事を祈ることしかできないです。
ステージに残っているサスケ君は……と見てみると、幸い襲われてはいないようです。それでも、試合でかなり消耗しているうえに病み上がりの彼があんな目立つところにいるのは危険でしょう。
ただ、今わたしが動いても音忍たちのいい的になるだけですよね……いくら他の幻術返しできた木ノ葉の忍びたちも近くにいるとはいえ、必ず守ってもらえる保証もありませんし。なにせ今は超がつくほどの非常事態です。
「ヤタ、どうにかステージの方に行けますか? サスケ君を……」
「任せろでござるニャ」
「……気をつけて」
こっそりと端っこからヤタが素早くステージの方に飛び降りるのを、音忍は気づいていないのかスルーしました。猫だからと見逃された可能性もあります。……万が一があれば強制的に戻ってもらおうと思っていましたが、大丈夫そうですね。
…………さて。とりあえず後ろの方から回ってサクラちゃんたちの方へ向かいましょう。テンテンも幻術にかかっていますが……いえ、彼女も額あてをしていないので忍びかは一見わからないはずですし、ここで下忍が増えるのも良し悪しです。とりあえず申し訳ないですがこのまま急ぎませんと。
「先生!」
後方通路に倒れているナルト君たちの側に立ち、後ろから声をかけるとカカシ先生は軽くこちらを見てわたしへ手招きしました。自分の後ろに来いということでしょう。ナルト君を蹴らないように気をつけつつ階段を下ります。先ほどまでは先生にちょっと怒り気味でしたが、有事の際には本当に頼もしい背中です。
「かなりの数だな……」
目下にずらりと並ぶ音忍の数の多さにカカシ先生はボソリとつぶやきました。なぜか木ノ葉の暗部の仮面をつけた人も音忍側に混ざっています。裏切り者、ということでしょうか。それとも変装なのか。とりあえず敵ということだけは間違いないですね。
「それだけじゃない。もっと最悪な事態だ。中央の物見やぐらの上を見ろ」
ガイ先生の言葉に従い右側、火影様のいた物見やぐらの上に目を向けると……屋根の上には紫色の壁で出来た結界が出現しているのがわかりました。
「あれは……結界忍術!」
「カカシ。結界内をよく見てみろ」
「………………!!
大蛇丸…………大蛇丸!? カカシ先生が驚くのもわかります。伝説の三忍の一人、火影様の弟子でありながらS級犯罪者の大蛇丸が、なぜ結界に?
一体全体どういうことなのでしょうか。とりあえずこの襲撃の首謀者の一人が大蛇丸であることは間違いなさそうです。
「サスケ君……!」
サクラちゃんの声にステージの方を見ると、サスケ君はいなくなってしまったようでした。我愛羅君もいませんね。ヤタと一緒に避難してくれたのでしょうか?
観客席に来るのかもしれないと辺りを見渡そうとした瞬間、音忍が前から忍び寄ってきました。
「っ!」
とっさにクナイを手に持つも、わたしがそれを使うよりもはやく……ガイ先生がわたしの前に立ちはだかってくださいました。動きがとてつもなく速いです!
そのまましゃがんでいるようにと言われたので従うと、観客席では忍びが飛び交い、木ノ葉の人たちはどうにか音忍を撃退しようと奮戦してくださっていました。特にカカシ先生とガイ先生の活躍ぶりは凄まじいです。
わたしはどうすれば──と思っていると。敵の数も減って先ほどよりは余裕が出たからか、カカシ先生は前を警戒しながらもわたしに声をかけてきました。
「カタナ! あの結界……どうだ?」
結界が解けるか、ということなのでしょう。結界を作るにはお札を使うことも多いですからこの手の知識は豊富な方です。実際、この里の結界のいくつかは家のお札で出来ています。
「それは、近くで見ないことには何とも……」
「そうか」
少し悩んだ後、先生はわたしに言い渡しました。
「任務だ。結界へ行き可能なら解除しろ……危険を感じたらすぐに戻って来い!」
「……はい!」
そしてわたしは音忍に気をつけつつ屋根の上に行くことになったのです。あれ、でもよく考えると大蛇丸というここでたぶん一二を争う危険人物に近づくのが一番危険なのではないでしょうか……いえ、まあ火影様を守るのが木ノ葉の忍びの役目である以上、仕方のないことですね。
物見やぐらの上には結界に入れないらしい暗部の人たちがいらっしゃいました。わたしは今は木ノ葉の額あては着けていないのですが、知り合いの方だったのか特に警戒された様子はありません。ボソリと「川上のヤツだ」と言っているのが聞こえました。暗部の人は仮面をつけているのでどなたなのかはさっぱりわかりませんが。
結界の中、四隅には人がいます。術者ということなのでしょう。結界内では火影様と黒髪長髪の蛇っぽい顔の人──大蛇丸が対峙していました。2人とも火影服と風影服を脱いで忍び装束になっています。しかし大蛇丸は風影さんに変装してきていたのですか。なんと大胆な……!
さて。紫色の結界、4人で維持するもの……四紫炎陣でしょうか? 本来術者は結界の外から術を放つものなのですが、少し改造でもしているのかもしれません。
「気をつけろ。結界に触れると炎に包まれるぞ」
「わかりました! ありがとうございます」
──ええと、じゃあ、えいっ。
クナイを投げるとやはり炎に焼かれて弾かれました。中の空間はしっかりと隔離されているのでしょう。
起爆札付きのものを投げて爆発させるも、てんで効いていないようです。うう、固いです。ポンポンと他にも巻物から出して投げてみるも、通じてはいないご様子。
内側の術者を火影様が倒してくだされば崩せそうなものですが……4人は内部からも三角錐のように結界を張ってしまい、とても難しそうです。あと何かすごい呆れた目で見られている気がしまて……同年代らしき子たちにそんな表情をされるとひどく傷つきます。
結界の崩し方って基本的に術者を倒すとか、お札を剥がすとか、要になるものを奪うとかそのあたりなんですよね。でも今回は術者は全員結界の中にいてしかも内側からも結界を張って自身を守っています。鉄壁ですね。
……なにか、中の様子にヒントになるようなものはないでしょうか。
見ると、結界内での火影様と大蛇丸の対決は……火影様が手裏剣を投げることで幕を切って落とされました。
投擲された手裏剣はやがて無数に増えて大蛇丸に迫ります。しかし大蛇丸は棺桶を口寄せして盾にすることで防ぎ切りました。手裏剣が棺桶に刺さっているので、実体がある……つまり火影様が用いたのは手裏剣影分身の術だったのでしょう。
そして大蛇丸が出現させた3、いえ2つの棺桶からは人が出てきて────
「初代様と二代目様!?」
「何!?」
黒髪長髪の男性と、白髪の男性。2人とも木ノ葉の額あてをしています。そのお姿には見覚えがありました。
【久しぶりよのォ……サル……】
【ほぉ……お前も年を取ったな猿飛……】
「まさかこのようなことで御兄弟お二人に再びお会いしようとは……残念です……」
火影様……いえ、紛らわしいですね。ヒルゼン様の反応からしても間違いありません。棺桶から出てきたのは前の火影である千手柱間様、扉間様の御兄弟です。
【穢土転生か……】
そうつぶやく扉間様の言葉ではっきりしました。これは……禁術、口寄せ・穢土転生。他でもない扉間様ご自身の開発された術です。
「……では、始めますか」
大蛇丸はそう言ってお二人の後頭部に命令の書かれたお札を埋め込みました。
「……みるみる生気を帯びていく……なんなんですあの術……!?」
「穢土転生……死人を蘇らせる、禁術です」
我が川上家ではその術について伝えられています。生きている人間を生贄として発動する術──生贄の体の周りを塵芥が覆って、呼び寄せられた死者の魂の形──その死の直前の姿を再現します。そして命令を強制する札を埋めこむことで制御する、と。対象の血肉が必要なはずですが……どうやって火影様方のものを得たのやら。
「ククク……知ってますか? かつて師と呼んだ者を傷つけるという達成感と喜び! その喜びを知ってもらおうとこの場を用意したのですから……楽しんでください!」
理由が後ろ暗い! 前向きに後ろ向きです。無駄に実行力が高いといいますか、なんといいますか。
大蛇丸のお札と印によってお二人はもう完全に自我が消されてしまったようです。
ヒルゼン様の火遁 火龍炎弾を扉間様の水遁 水陣壁があっさりと打ち消し、その水を利用した水龍弾で追撃を加え……ヒルゼン様は土遁 土流壁で受け止めました。流石火影様同士、高いレベルの忍術合戦です。
そして柱間様が木遁を使い──って、完全に見惚れていました。駄目ですね。手元に集中しましょう。
穢土転生の術が伝えられている以上、我が家では万が一の時のためその対処の方法も伝えられています。なにせ発動されると術者の──今回で言えば大蛇丸が死んでも解除されることはありませんからね。そしてわたしが取れる手段は2つ。封印札を穢土転生体に貼ることで封印するか、埋め込まれた命令札をわたしの書いたものと取り替えることで新たな命令を与えるかです。
……とりあえず、お札を作って暗部の方に渡しましょう。ええと、4人いらっしゃるので合わせて20枚くらいでいいですかね。もう少し予備があった方がいいでしょうか……? この下、物見やぐらの中にも暗部の人がいましたし。
でも……大蛇丸のアレって穢土転生は穢土転生でも聞いているのと微妙に違うような感じがするんですよね。特に命令札の部分とかです。もしかしたら……命令札の方は、わたしの知っている術式ではないので取り替えても意味がないかもしれません。うーん、厄介です。でも流石に封印の方はたぶんイケる!と、思います、はい。
────さて。あとは、結界忍術を破る方法です。はじめから時空間忍術で何とかできれば結界をどうこうしなくてよかったのですが……ないものねだりはいけませんね。
結界は、チャクラの形態変化で出来ています。そして4人で発動しているということは……一番チャクラが少ない人に合わせて同量にしてか、それぞれの担当と放出量を細かく決めてかして、ちゃんと調整してチャクラをコントロールしているはずです。
と、なると……膨大なチャクラをぶつけられれば一番楽にコントロールを乱せますが、難しいですよね。ナルト君レベルなら可能性はありますけれどもいつの間にか観客席からはいなくなっていますし。普通の忍びだと……火のチャクラで出来た結界ですから、水だとちょっと打ち消せて風だと逆に強くなるかな、程度で崩すのは難しいでしょう。人数とかにも寄りますけど。
でも、ナルト君のことで思い出しました。わたしは今、彼用のお札を持っているのです。彼のチャクラを押さえ込める、お札を。これは貼ることで四象封印の補助的な役割をするものだとあの後調べてわかりました。それで…………一つ、アイデアが浮かびました。
この裏に文字を書き足して五行封印と封火法印の要素を取り入れて作り直すことでこの結界のチャクラを吸い、術者に戻す効果が生み出せるはずです。ただお札は紙の切り方や加工によってその効果は異なってくるわけでして、つまり今手持ちにある6枚を使い切ってしまうともう同じお札は作れないことになります。家にはあるでしょうが、のんきに家まで取りに帰るなんてできませんからね。さらに言えばあちらは4人で結界を張っているのでそれを乱すようこちらは奇数の5枚貼る必要があるような術式を書いています。1枚は予備として、失敗したらアウトというわけです。うう、書く手がちょっと震えます。でもはやくしないとヒルゼン様が……。
よし。そして貼る、と言いますかクナイに付けて投げる5箇所はやはり直方体である結界の一面ずつがいいでしょう。結界の上部に当てようにも高すぎるので、当てるのは4つの側面と底ですね。ここからでは結界に底があることは見えませんが、まあ底が無かったら欠陥品です。下からバンバン侵入できてしまいますから。よってこの屋根の下、物見やぐらの中から見て天井あたりに結界の底があると思われます。
同時に行うのでわたしも参加するか、それか暗部の人があと1人必要になります。できれば下にいる方と協力してやっていただけると嬉しいのですが……。
「暗部の方。できました! 5箇所、同時にこれを投げたいのですが……」
リーダーっぽい白フードの方にお札付きクナイを渡します。5つめを手に持ってちらっと様子を伺うとすっと手を差出してくださいました。どうやら暗部の方々でやってくださる様子です。
「側面と底……合図は水遁か風遁をぶつけるのがいいかと」
「わかった」
そう言ってからの白フードさんの行動はとってもはやかったです。さっと消えて下に行ったかと思えばぱっぱと上にいる暗部の人々にも説明して、みんなあっという間に準備を整えていました。阿吽の呼吸ですね。流石は火影様直属の部隊です。
白フードさんが結界に向かって風遁を放ち──そしてその後、きっかり同じタイミングで結界にクナイが突き刺さりました。まあ、燃えるんですけれども。その瞬間、お札が勢い良く燃え上がったかと思うとぐるぐると紫色の炎が渦を描き、結界の壁を巻き取って……やがてブゥゥンと音を立てて炎が収束していき、消えて無くなりました。
よかったです……大丈夫とは思っていましたが、ちゃんと結界を崩せました……!
このチャンスをもちろん逃さずに暗部の方々はヒルゼン様のいるであろう方へと飛び込んで行きます。わたしはそれをゆっくりと見守っていました。……たぶんあの渦中に入っても、わたしは邪魔になるだけですから。と言いますか、ここは俺達に任せろ的なことを既に言われています。フラグ、と言うよりは……結界だけ解いたらお払い箱というわけですね。うぅ、いえ、いいんですけど。いいんですけど!
カカシ先生に危険になったら戻れ、と言われたことですしひとまず観客席の方へと戻ろうと思ったその時。どこかから呼び出されるような感覚があり──逆口寄せの術、と思い当たった瞬間に。わたしは森の中に立っていました。
大蛇丸…………大蛇丸!? カカシ先生が驚くのもわかります。伝説の三忍の一人、火影様の弟子でありながらS級犯罪者の大蛇丸が、なぜ結界に?
→大蛇丸についてはサクラとかおじいちゃんとかみんな口をつぐんでいたため、中忍試験に現れていたことすらカタナは知らない。よってたぶんこの場で一番驚いてる。
「初代様と二代目様!?」
→カタナは普段は柱間様、扉間様と呼んでいるが、棺桶に初とニと書かれているのに引っ張られた。
同時に行うのでわたしも参加するか、それか暗部の人があと1人必要になります。できれば下にいる方と協力してやっていただけると嬉しいのですが……。
→流石に知らない人と合わせていきなりやれ、と言われても難しいため。暗部はエリート集団なので余計にやりづらいと思った模様。
どこかから呼び出されるような感覚があり──逆口寄せの術、と思い当たった瞬間に。わたしは森の中に立っていました。
→口寄せの術を口寄せ動物側が拒否できる以上、逆口寄せも然りであろうと推測。この場合、カタナは逆口寄せの術と思い当たったというのが肯定と見なされた。逆口寄せについてはよくわからないところが多いもののガイに忍亀も行っていたことから忍猫でも行えると考え、使えることに。強いは強いもののそのぶん口寄せを拒否してきたりするのでまあトントンかなと。