木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
「ちょっと出かけて参ります」
木ノ葉商店街の復興も進んできて、少しづつ少しづつ活気が戻っています。そのうちイベントなんかも開催するそうで……楽しみです、はい。
木ノ葉崩しが起きても任務が減る訳ではなく、むしろわたしたち下忍すら駆り出されることも多くなっているのですが、今日は久しぶりのお休みになっています。忍びは任務が振られる限りお休みなんてありませんからね……。
起爆札のノルマもこなし、お昼ご飯にナルト君練習麺の最後の1玉を消費したわたしは晴れ晴れとした気持ちで外を歩けるというわけです。
何か甘いもの……お団子でも食べに行きましょうか。うーん、でも今は手がふさがっていますし。あとでにしましょう。
商店街を眺めつつのんびりと歩いていると綺麗な桃色の髪が目に入りました。風呂敷に包まれた重箱を抱えているようですが……お弁当か何かでしょうか。
「こんにちは、サクラちゃん。よろしければお手伝いしましょうか?」
「カタナ! ありがとう、でも大丈夫。そんな重くもないし……それにカタナだってカボチャ持ってるじゃない。ってかなんでカボチャを──おつかい?」
「違います。これ、サラダなんですよ。ほら」
カボチャはパカッと開けると中にお野菜が詰まっています。うちの母、こういう凝った料理なんかが好きなんですよね。いつも美味しいご飯を作ってくれて感謝感謝です。
「ナルト君にお野菜のおすそ分けを、と思いまして。サクラちゃんのは何が入っているのですか?」
「これね、おはぎよおはぎ。ママにいののとこまで持っていけって言われちゃって……でもいっぱいあるし、どうせならサスケくんにもあげたいなーって思ってたとこなの」
「おはぎ、いいですね! でもたしかですけどサスケ君とカカシ先生は甘いものはあまり好きではなかったような……」
「え、ほんと? あー、じゃあ私もナルトに持っていこうかな。アイツなら何でも食べそうだし」
な、ナルト君……まあでも確かにナルト君はお野菜以外は何でもよく食べているような気がします。はい。
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
嬉しいことに思いがけず同行者が得られました。
班員みんなの家は何かと行き来するので、ナルト君の家にももちろんわたしたちは迷わず行くことができます。ただ──
「留守のようですね」
お部屋は暗く、誰の気配もありません。仕方ないのでカボチャサラダはメモも付けてテーブルにでも置いていきましょう。メッセージは【いらっしゃらないようなのでサラダを置いておきます。はやめに召し上がってください】とかでいいですかね。
サクラちゃんもおはぎをいくつか置いていってあげるようでした。お母様が作ったそうで……とても美味しそうです。
「じゃ、私はいのん家行くけど……カタナは?」
「どうしましょう……」
うーん、特にやることもないですよね。
わたしも着いて行ってもいいでしょうか、と言おうとした時──目の前のドアがガチャリと乱暴に開けられました。
「わっ……び、びっくりしました。どうしたんですか、サスケ君」
「ナルトはどこだ!?」
「お留守で────」
わたしの言葉を最後まで聞かずにサスケ君はどこかへ駆け出して行ってしまいました。あっという間に姿が見えなくなってしまいます。ええ……何をそんなに急いでいるのでしょうか。
「サスケくん、どうしたのかな……?」
「さあ……? また何かでケンカした、とかでしょうか」
それにしては慌て過ぎていたような気もしますが。でもサスケ君がナルト君に会いたい用件がそれ以外は思い浮かびません。任務の可能性くらいですかね、あとは。
どちらにせよカカシ先生とお話すればわかるでしょうが……うーん、先生って任務とかでいきなり消えたりしますからね。今どこにいらっしゃるのやら……。
サスケ君を追うか、ナルト君を探すか、先生を見つけ出すか。どうしましょうか。
「私、いのの家行くついでに商店街でナルトを探してみるわ」
ふむ。でしたらサスケ君の追跡を、と言いたいところですが……あんなに速く動き回ってる彼に追いつけるかはかなり怪しいです。サスケ君、体術も優秀ですし。
「なら、わたしはとりあえず先生の家に行ってみますね」
こうして、わたしたち7班女性陣は男性陣を探すことになったのでした。
「カカシ先生……!?」
ダメ元だったのですが意外なことに先生はお家にいらっしゃいました。ご自身の部屋のお布団で──寝ていらっしゃるようです。側の椅子にはどなたかが座っていました。
こんな明るいうちからお昼寝? いえ、でもそれにしては様子がおかしい気がします。明らかにピリッとした雰囲気が漂っていて……。
「先生は……どうかなさいましたのでしょうか?」
「………………過労で、倒れたんだ」
そう、サングラスをつけた男性──山城アオバ特別上忍がおっしゃいました。
過労、ですか。確かに上忍の任務は忙しいとは思いますが……でも、前にテウチさんを診た時と今のカカシ先生では容態が異なるように思うのです。
じっと先生を見ます。胸が上下していて、ちゃんと呼吸をしていることはわかります。こんな時でもマスクをつけていて……いえ、まあそれは先生らしいですね。
ペラリと手裏剣柄の布団をめくると服や身体には戦闘した形跡がありました。
「本当に、過労なのですか……?」
しっかりと目を合わせて聞いてみます。
わたしの疑いの眼差しにアオバさんは逡巡したように目線を彷徨わせると、はぁぁぁと深くため息を一つ吐きました。
「………………幻術にやられて、倒れたらしい」
そう白状してくださったのを聞いたわたしは。幻術、という言葉に先日サスケ君の言っていたことを思い出しました。写輪眼は幻術を見破るから、幻術は効かないと。確かそんな感じで話していました。
もしそんな写輪眼に幻術をかけられるとしたら……よほどの幻術の使い手か……同じ 、写輪眼持ち? 今の写輪眼保有者は、カカシ先生、サスケ君、そして────
「うちは、イタチ」
ポツリとつぶやいたわたしの言葉にアオバさんがぴくりと反応したのがわかりました。
………………
…………
……残念なことに、どうやら悪い予想が大当たりのようです。イタチが木ノ葉に戻って来たのだとしたらサスケ君があんなに血相を変えて駆けていたのも納得できます。
おそらくですがこんな感じで事件が起きたのでしょう。
まず、木ノ葉に入ってきたイタチがサスケ君に接触してナルト君はどこだと聞いた。
そこにカカシ先生が来てサスケ君を逃がしイタチと対戦する。
サスケ君はナルト君を助けるために探し回る。ナルト君の家に行き、そこでわたしたちに会った。
一方カカシ先生はイタチに幻術をかけられてしまった、と。
だとすれば────ナルト君とサスケ君が危険です!
「あの、あの、ナルト君とサスケ君の……」
「わかってる。サスケと会って聞いたんだろ? でも大丈夫だ、アイツらの下へはガイさんが行った。だから……お前まで行こうとするんじゃねえぞ。足手まといになるだけだ」
「…………わかり、ました」
ガイ先生は、お強いです。わたしとは比べものにならないほどに。だから、心配するなんて筋違いなのでしょう。
カカシ先生を幻術にかけられるほどの写輪眼。うちは一族を皆殺しにできるほどの腕前の持ち主。わたしが行っても相手にならないことは明白です。アオバさんの言う通り、足手まといになるだけです。
ただ、それでも。何もしない、というのは……嫌です。
「わたしにも何かできることはありませんか?」
「あーそうだな……じゃ、カカシさんを病院に運ぶのを手伝ってくれ」
「はい!」
カカシ先生の身体は持ち上げてもダランと力が入っていなくて。本当に起き上がれないような状態なのだと。そう、実感しました。
病院で診てくださった医療忍者の方の話では先生は昏睡状態に陥っているそうで、命に別状はないものの……いつ目覚めるかどうかはわからないと言われました。
どうすれば治るのか──幻術のことにも写輪眼にも疎いわたしにはてんでわかりません。ベッドの傍らにただ座っていると、コンコンとノックの音が静かな病室に響きました。
「カタナ! カカシ先生は……?」
ふるふると無言で首を横に振るわたしに、サクラちゃんはある程度察してくれたようでした。
お互い何もしゃべることなく、時間のみが過ぎていきます。わたしはサクラちゃんにどこまで話せばいいのやら迷っていて──さらにはカカシ先生の治療法に悩んでいて。
写輪眼について詳しくないのならば、詳しくなればいいのです。思いつく手段は2つ。申し訳ないのですが非常事態なので……サスケ君の家やうちはの居住区だったところへ行き、資料を探させてもらうか……うちは一族に直接、聞くか。
穢土転生でうちは一族を蘇らせる──わたしにはそれができる可能性があります。火影邸を探し、穢土転生の術式を把握し、その禁術を身につける。会得にどれだけの時間がかかるかはまったく見当もつきませんが、試すだけならタダです。うちは一族の死体が残っているかもわかりませんが……少なくとも1人。ヒルゼン様たちと同じく扉間様の部隊にいらっしゃった うちはカガミ様のお墓でしたら知っています。
ですが……この2つとも、あまりいい手段とは言えないでしょう。人目につかないようコソコソとやるしかない類のものです。
果たして──
「カッカシィー!」
そんなわたしの思考をぶち破るようにすごく……すごくダイナミックにガイ先生が入場してきました。ここ、病室ですよ……? いえ、それよりもです。
「ん? お前ら……」
「ガイ先生! ナルト君とサスケ君は──」
わたしの言葉に先生の笑顔がちょっと曇ったように見えました。
「ナルトくんは自来也様とともに医療忍術のスペシャリスト……綱手様を探しに行ってくれている。サスケくんは──あー、そのー……」
案内された病室で。サスケ君は、カカシ先生と同じように……静かに眠っていました。サクラちゃんが駆け寄りますが、起きる気配はありません。病院まではガイ先生が運んでくださったそうです。症状も……カカシ先生と同じでしょう。つまり。
「うちはイタチ、ですね」
「…………ああ」
ガイ先生はそれから、ポツポツと事のあらましをわたしたちに語ってくださいました。
イタチと上忍の方々が交戦し、カカシ先生が倒れて一旦家に運ばれ……イタチ側も引いたそうです。ただ、先生の家にサスケ君が来たことでイタチの仕業であることと彼がナルト君を狙って来たことが知られてしまい、サスケ君は駆け出してしまいます。ガイ先生がサスケ君を追ったものの、着いた時には自来也様はイタチを取り逃してしまっていて、サスケ君も倒れていたとか。
ナルト君が無事だったのは不幸中の幸いですが、依然としてよくない状況ですね。でもイタチはなぜナルト君のことを……やはり九尾を欲しているということでしょうか。一体何を企んでいるのやら。流石の彼らも伝説の三忍である自来也様のことは警戒しているので、側についていればナルト君の身は安全とのことです。確かに木ノ葉にはまんまと侵入されてしまった以上、里が安全とも言い難いですからね。里には侵入者がいればすぐに感知される結界が張ってあるのに、どうやってこれをすり抜けたのでしょうか。謎です。
サクラちゃんはやはりサスケ君の容態が心底心配のようでした。
「サスケくんは……サスケくんは、大丈夫なんですか!?」
「なあに、仲間を信じろ! 大丈夫だ。自来也様とナルトくんが綱手様を連れて帰ってくれれば、あとはサスケくんのこともカカシも……リーの怪我だってちょちょいのちょいだとも。なにせあの方の医療忍術はそれはもう凄まじい腕前だからな!」
仲間を信じろ、というその言葉に──じんと胸が熱くなりました。
そうですよね。カカシ先生もサスケ君もそんなにヤワじゃないです。よそ様のお宅に入り込んだり、穢土転生という禁術に頼るよりは……ナルト君を、綱手様を待ちましょう。もし綱手様の力でヒルゼン様のことを目覚めさせることができたとしたら、ヒルゼン様のお知恵も借りられることになりますし、その方が余程いいでしょう。
大丈夫です。綱手様の武勇伝はテンテンからもおじいちゃんからもよく聞いています。ヒルゼン様もカカシ先生もサスケ君も、忍びとして再起不可能と言われてしまっているリー君だって治すことができると。そう、信じましょう。
「ガイ先生、ありがとうございます」
わたしたちは深々と先生にお辞儀をしました。
「とりあえず、ナルト君の家にもう一度行きませんとね」
「ん……どうして?」
「サラダとおはぎを回収しませんと。ナルト君もしばらく帰って来ないでしょうし、腐っちゃうかもですから」
「それはそうね……うん、行こっか」
そう言って。サクラちゃんはようやく少しだけ笑顔を見せてくれたのでした。