木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
小説でコメディやるって難しいです……。バカテスの9.5巻やパンサーさんの葬式ネタを一部参考にさせていただきました……。
「カタナ。お前に任務を言い渡す」
カカシ先生とサスケ君が倒れ、ナルト君は旅に出て────ヒルゼン様も昏睡したままの中。それでも任務というものをこなさなければならないのが忍びというわけでして。
新たな火影が決まるまでは御意見番である うたたねコハル様と水戸門ホムラ様が実質的に木ノ葉のトップとなっており、任務の割り振りなども行ってくださっています。お二人ともヒルゼン様と同じく扉間様の部隊にいらっしゃった方々です。
今日のわたしの任務はコハル様よりご説明いただけるようでした。
「
……本当にだいぶ特殊な任務ですね。
まず任務については、本吉村の一帯の山を所有する花月家当主の葬儀警備です。この山々では薬草がたくさん採れるため今や花月家は富豪となっているんだとか。そして、先代の遺言から次代当主の花月風太さんを守るために葬儀で彼の代理をすることです。遺言状には「葬儀の場で風太が笑うかツッコミを入れたら彼に相続権はなくなり、財産は話し合いで一族の分配となる」といったことが書かれており、それを防ぐべく風太さんから依頼があったというわけです。
ただ、この依頼には裏があり……実は花月家当主の藤平さん──風太さんのお父さんは生きており、彼が真の依頼人だそうです。その依頼内容は茶番の葬式に付き合うこと。なんでもこんな遺言状を作ったのは親族を集めたかったためであり、金に目がくらんでしまっているみんなを今一度笑わせてあげたいんだとか。風太さんの末の妹の舞さんだけはそれを知っていて協力しているらしいのです。
シノ君の中忍特別試験については、本戦の時に対戦相手のカンクロウ君が棄権してしまったための特別措置だそうです。今回の中忍選抜試験は木ノ葉崩しが起きたため合格者なしにしようという意見もあったそうですが、何でも同じく本戦に進んだシカマル君を合格にしようとの意見が強くて──そうなるとシノ君の審査もしなくては不公平という声が出たらしいです。木ノ葉ではシノ君だけ本戦で戦っていませんからね。真の依頼人である藤平さんにもそのことはご了承をいただけたので今回の依頼は暗部の人が見張っており、この依頼の裏に気づけるか等々審査されるとのことです。うう、審査を受けるのはシノ君だけとはいえ見張られるとなると緊張しますね……。
しかし──
「あのう、なぜわたしがこの任務に選ばれたのでしょうか?」
「それは推薦があったからじゃ」
推薦?
不思議な顔をするわたしにコハル様ははてなマークを書いて見せてくださいました。
「モヤ忍とかいったかの。こんな額あての……そやつが依頼人の親戚で、7班を推薦したそうな」
モヤ忍、はてなマーク……ああ、アニキさんたち! 3年前のプロポーズのことでカカシ先生に逆恨みしてて、先生のマスクの下を見ようとしていたわたしたちと一時共闘した3人組。よかったです、あのあとご無事に帰ったんですね。でも推薦されるほどのことはしていないような……。
まあ、ともかく。カカシ先生もナルト君もサスケ君も任務は受けられない状況ですし、サクラちゃんも明日は別の任務があると聞いています。葬儀は明日ですから参加できるのは7班ではわたしだけ、ということになりますね。
「無論……この依頼の裏、そして中忍審査については口にしてはならぬ。今回の任務のメインは油女シノということを踏まえた上で、不自然にならぬよう励め。よいな?」
「はっ!」
「2人で任務……というのは初めてですよね。どうぞよろしくお願いします、シノ君」
「…………ああ。よろしく頼む」
本吉村は木ノ葉からはちょっと遠いので、葬式前日の今日から泊まるように指示されています。当然、道中は暗部の監視があるのを除けば2人きりというわけでして……サングラスをかけコートの襟を立ててほとんど顔が見えないシノ君はその物静かな雰囲気通り口数も少なく、わたしたちはポツポツ会話をするにとどまっています。あまり話してボロを出したくないわたしとしてはありがたいですね。
山の手だからか人通りが少ない道でしたが──そろそろ着くかなという頃になって、怪しげな服装の老人からすれ違いざまに声をかけられました。
「本吉村に行きなさるかね」
「……はい」
訝しみつつも返答するわたしに、ご老人は不気味な笑いを浮かべました。
「そうかそうか。本吉村はこの道を越えたらすぐや。じゃが……十分気をつけなされ。本吉村では死人も笑う。つられてわろたらおしまいやぞ」
…………
立ち去っていくご老人を見ながら。わたしは……親戚連中がわたしたちを追い返すための仕込みかなあ、とぼんやりと考えていました。
だってまあ、死人……出てませんしね、本当は。ええ。わたしも、たぶんシノ君もあんまり怖がることもなく。わたしたちは普通にそのまま本吉村へ歩みを進めるのでした。
チーンと鐘を鳴らし、遺影に手を合わせます。わたしたちがそうして仏壇にお参りしていると一人の男性が部屋に入ってきました。
「喪主の花月風太です」
「油女シノです」
「川上カタナです」
3人で頭を下げ合って挨拶を済ませたあと、風太さんは遺言状を見せてくれました。葬儀で風太さんが笑ったらアウト、という既に聞いていた通りの内容です。
風太さんには親戚のみんなが葬儀の席で笑わせてこようとすることが容易に想像できたそうで、だから代理を立てるべく木ノ葉に絶対に笑わない人を寄越して欲しいと言ったと。なるほど、それでしたら確かにシノ君にぴったりの依頼ですね。
「カタナはんたちのことは従兄弟からよう聞いとります。なんでも親切にしてもろたとか」
従兄弟……たぶん、モヤ忍さんの中の誰かのことでしょう。親切、親切……ああ、忍装束を返してあげましたね、そういえば。そのことでしょうか。
「モヤ忍の……アニキさんのことでしょうか」
「ああ、そいつですわ。うちの親戚連中の中でも舞とあいつだけは金に興味がのうてな。親の経営しとる旅館がうまくいっとるからやと思うねんけど、まあ、生前は父にも可愛がられとって、手のかかる弟のような存在なんよ」
「そうだったんですね。この度はその縁でご依頼いただけたとのことで、ありがたい限りです」
「いえいえ、こちらこそ。ほんま……カタナはんもシノはんもどうぞよろしゅう頼んます」
「はい!」
「承知した」
そうこう話しているうちに、食事の支度ができたと部屋の外から女性の声がありました。
「一番下の妹の舞です。このでかい家で親父と2人で暮らしとって……親父の最期看取ったんもこいつです」
舞さんと目が合い、にこにこと微笑まれます。なるほど。彼女は藤平さんの協力者と聞いていますから、彼の死を偽装したのでしょう。
わたしもわかっていますよと言うようににっこりと微笑み返しました。
舞さんが用意してくださった食事はとても美味しそうなものでした。山が近いということでやはり山菜の類が多いです。
「「「いただきます」」」
そう言って風太さんが箸を持とうとした時、シノ君が静止の声を上げました。
「待て。まずオレが毒味をする。用心に越したことはない」
「……でも、シノはんは大丈夫なんですか?」
「問題ない。毒が入っていたとしても身体の中の寄壊蟲が分解してくれる」
「キカイ……チュウでっか」
シノ君たち油女一族は蟲使いの一族で、体内に色々な蟲を飼っているんですよね。なんでも自らのチャクラを餌にしてるんだとか。
そうしてシノ君がご飯を口に含んで……そして。ぷぷっと吹き出す声が隣から聞こえてきました。
え、あの、まさか──
わたしがそう思っていると、シノ君はそのままワハハと普段の彼ならありえないくらい大きく、それはもう盛大に笑い始めました。
ええと、これは……はい。
「風太さん、舞さん、この食事を食べてはいけません! どうやら一服盛られたようです」
ガシャリと食卓を叩いてから、シノ君もどうにか呼吸を整えて言葉を発しました。
「この料理には……くっ、くく……わ、笑い薬が入っているっ」
そのまま彼は笑い転げてしまいます。だ、大丈夫ですかね……?
どうやら彼の蟲には分解できないようなものだったようです。無駄に高性能な笑い薬ですね。うーん、にしても笑い薬、笑い薬ですか……。
「この食事は──」
「うちが1人で作りました。でも御勝手のドアは鍵かけとらんし……その気になれば誰でも……」
確かに台所を見ると勝手口のドアは開いていますし、簡単に侵入できそうです。ただ。笑いが止まらない薬、というものにわたしは覚えがありました。
「モヤ忍さんではないでしょうか……?」
無味無臭のしゃっくりが止まらなくなる薬に、涙が止まらなくなる薬、笑いが止まらなくなる薬なんてものをあの人たちは所有していました。しかも忍びであるわけですからこの家にこっそりと入るのも容易いことでしょう。
「あいつが!? いや、そんな……まさか」
そう話す風太さんはモヤ忍のアニキさんを信じきっているようでした。その厚い信頼に、わたしは一度考え直してみることにしました。
前に会った時のモヤ忍さんは──プロポーズの邪魔をされたと熱く語って。宿屋ではカカシ先生の料理に薬を盛ったとか、温泉で吹き矢を吹いて狙ったとか話していて。まあ、失敗してましたけど。
……どう甘く見積もっても犯人候補その1ですね、ええ。
7班をこの任務に推薦したというのも、カカシ先生を狙ってのことだとすれば説明がつきます。わたしにとってはカカシ先生が倒れている以上は任務になんて出られないというのが当たり前のことだったので失念していましたが、知らなければカカシ先生が来ることを期待してもおかしくはありません。先生もやろうと思えばずっとポーカーフェイスを保っていられそうですものね。といいますか、顔、ほぼ見えませんけど。
「……とりあえず、下手人が誰であれ。今から増援を呼んでも間に合いませんし、明日の葬儀での喪主の代理はわたしが務めさせていただきます。食料や水についてはこちらで持ってきたものがあるのでご心配なく」
「わ、わかりました……どうかよろしゅう頼みます」
そうして、できる限り手は尽くしたものの結局シノ君の笑いは夜中になっても止まらず。わたしたちは笑い声がうるさくて眠れない夜を過ごしたのでした。
「早かったなあ月子。もう着いたんか」
「お父ちゃんの葬式やもん。そりゃもう飛んで来たわ」
葬式の参列者の中で一番乗りだったのは、風太さんのすぐ下の妹の月子さんでした。5年前に隣町に嫁いだそうですが……風太さん曰くこの家の財産を一番狙っている方とのことです。
「その子は?」
「ああ……わても体調が優れんもんやから喪主の代理を頼んだカタナはんや」
「ご紹介にあずかりました川上カタナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
お辞儀をする間もじーっと見られているのがわかりました。遠慮のない視線には確かに欲めいたものがあります。
「あー、というわけやからわては挨拶だけで失礼させてもらうわ」
「さよか。やけど厄介な遺言やなあ。葬式でわろたりしたら相続できへんなんて」
気ぃつけるんやで、とすれ違いざまにかけられた言葉にも悪意を感じてしまい……さて何が起こるのかなとなんだかドキドキしてくるのでした。笑ってはいけないと思うと沸点が低くなりそうで怖いですね……。
わたしの後ろのふすまには風太さんが隠れていて、部屋から見える庭の木の上にはシノ君がいることになっています。まだ彼の笑いはおさまっていないんですよね……笑い薬、強力すぎでしょう。
「あー、嬢ちゃん嬢ちゃん」
とりあえず座って黙っているとこそこそと話しかけられ……あ、モヤ忍のアニキさんです。今日は流石に喪服ですけど。
「何ですか?」
「あー、そのー。カカシは、いないのか?」
「いませんよ。今回はわたしだけです」
「マジか……じゃあ、すまんかったな。てっきりカカシがいると思ってちょっと昨日笑い薬盛っちゃったわ」
はやい白状に軽い謝罪でした。……やはり貴方でしたか。わたしは食べてないのでまあいいですけど、シノ君にとってはいい迷惑でしたよ、まったく。
「あの、解毒剤とかないんですか?」
「ないな! 時間が経てば効果は切れるぞ」
どのくらいで切れるかも個人差があってわからないそうです。副作用や後遺症がないことだけが救いですね。
くれぐれもこれ以上は変なことをやらないでくださいと言い含めましたが……もう手遅れかも、とごにょごにょ言っていたのは何なのでしょうか……。
その答えはわりとすぐにわかったのでした。
「故人の好きな音楽を流させていただきますわ」
何やら情熱的なクラシックの調べが鳴り響きます。へえ、藤平さんはこういう曲がお好きなんですね。でもなにか雑音が……
【エリート忍者モヤ忍の朝は早い──】
…………
【旅館「とみや」。その2階に、モヤ忍の住まいはある。我々は彼らの一日を追った】
……あのう。音楽だけでなく音声がついていますけど。と言いますか、音声がメインですよねこれ!?
音声はどんどんと流れていきます。誰か……誰か止めないんでしょうか?
当のアニキさんは恥ずかしそうに頬を染め、てへっという感じで笑っていました。今、貴方はいくらでも笑顔になれますけど、わたしは笑っちゃ駄目なんですよ……!
【「あなた方にとって、忍者とは何ですか?」
──そんな我々の言葉にかのエリート忍者は熱く語ってくれた。
「そうですね……やはりモヤ忍としては忍者とは忍び耐える者、特にモテモテな俺はいかに格好よく女性を口説けるか、そこにおいてはまずいくら言葉では拒絶されても諦めず何度もアタックし──」】
いや、あの、忍びの三禁……! 酒・女・金については欲をかいてはいけないと……。と言いますか普通にプロポーズ大失敗させてますよね、貴方。
わたしは笑わないように、笑わないようにと自分に言い聞かせつつ隣に座っている月子さんに話しかけました。
「あのう、これ、本当に故人の好きな音楽なのでしょうか……?」
「もちろんや! お父ちゃんはモヤ忍の話を聞くのがそれはもう好きでなあ……ようお話ししとったわ。懐かしいなあ」
「そ、そうなんですか……」
どうやらこれを音楽と言い張り、流し続ける腹積もりらしく……わたしは努めてこの音楽?を耳に入れないようにするのでした。
葬儀とは思えない異様な雰囲気の中でも参列者は段々と集まってきます。
「ねえ、ママ。あそこにある草はなあに?」
そんな幼い声が聞こえ、指し示す方を見ると……お庭にアロエのようなものが生えていました。葬儀の準備の際にもお庭を見ましたが、あんな目立つ植物はなかった気がします。今植えたと、そういうことでしょうか。いつの間に……。
「あれはね。笑い草と言って、笑うと花が咲く植物なのよ」
…………ええと。そんな草、聞いたことないんですけれども。
「えー、すご~い。見たいなあ、そのお花。ね、ね、あたしが笑ったら咲いてくれるの?」
「ううん。もう少し年上の……10代半ばくらいのお姉ちゃんが笑ってくれないと咲かないのよー」
そう言って彼女はちらっとわたしの方を見ます。だいぶピンポイントな要求をしてくる草ですね……。
「ええ! あたし、お花見たいよお」
ちらちらとわたしに視線が集まります。
子どもを盾にするのは……卑怯だと思うのです、はい。
「見たいなぁ、見たいなー」
……どうしましょうか。流石に無視するのも気が引けますが、笑うのは駄目ですし。この茶番から逃れる術は──
そう考えていると、シュカッと空気を切る音がして。ボカンと庭で軽く爆発が起きました。……え、爆発?
「く、草が……」
庭には無惨にも草の残骸が残るのみでした。木の上にいるシノ君からのサポートでしょうが……だいぶ、力技ですね。いえ、ありがたかったのですけれども。
「ママ……!」
泣きそうになる少女に母親はゆっくりと言いました。
「あのね、あの草は時々爆発しちゃうの」
そんな草がありますか! 一体どういう理屈で植物が爆発を……でもまあ、チャクラを吸う木なんてものもありますからね。世の中にはあったりするんでしょうか。いえ、あの草は単に起爆札でやられただけでしょうが。
「そうなんだ〜。面白い草だね!」
そして納得するんですね……。将来大物になりそうな子ですね、はい。
「お坊さんが見えはりました」
そんな舞さんの声でようやく音楽が止みました。ふう……愛の詩の朗読とかまで始まっててそれはもう辛かったのです、ええ。
お坊さんは祭壇の前までゆっくり歩くと、わたしにパチンとウィンクを飛ばしました。彼もまた藤平さんが実は生きていることを知っているのでしょう。
「では始めさせていただきます」
そうお坊さんが言うと、新たに音楽が鳴り始め……
「YouはShock!」
唐突なシャウト。響き渡る歌声。木魚で刻まれるビート。
「愛で 鼓動 早くなるぅ」
ええと、あの……お坊さん、ロックに歌い始めたんですけれども。しかも歌、上手いです。無駄に。
「微笑み忘れた顔など 見たく ないさぁ 愛を取り戻せぇ────」
わたしは呆然とそのライブを見ていることしかできませんでした。葬式って……葬式って……何でしたっけ……?
笑うとか笑わないとか以前にびっくりしました、はい。歌が終わるとみなが拍手を送っています。花月家の皆様、スルースキルが高すぎやしませんか。いえ、まあ、仕掛け人側だからなんでしょうけれども。
そのあとお坊さんは普通にお経を読み上げ始めました。テンションの落差が……落差が激しすぎますっ!
「順番にお願いします」
舞さんは落ち着いた様子でご焼香の案内をしてくださいました。その声にわたしは深呼吸してから立ち上がって焼香台へ進みます。一礼して抹香をつかもうとして……そこで、気づきました。
────これ、抹香ではなくお茶っ葉です。
香炉の炭の上にくべるといい匂いがふわりと広がりました。ツッコミたい……すごくツッコミたいです……と言いますか、いつの間にすり替えたんでしょう。
どうにか平静を保って席に戻ると次に月子さんご夫婦が立ち上がり、わたしの前で黙礼をして──そして。夫さんの頭から……綺麗にかつらが滑り落ちました。もう、こう、すっぽーんて感じでした。
…………身体を張りすぎだと、思うのです。
その先の参列者たちも着ぐるみに着替えたり、女装したり、変顔したりとみんなどうにかわたしを笑わせようとしてきて。そうしてわたしがその猛攻を耐え切り、全員のご焼香が終わった時。
わっはっは、とけたたましい笑い声が部屋中に響き……むくりと死装束を着た藤平さんが身体を起こしていました。あれ、死体は偽物だと思っていたのですが……ご本人が寝ていらしたんですね。
周りの人々がまさか生き返ったのかと騒ぐ中、藤平さんは高らかに笑い続けていて──そんな混乱している部屋の中央にはいつの間にか3人の少年少女が立っていました。喪服を着ていませんし、葬儀の参加者ではありません。後ろにいる風太さんを見るも慌てて首を横に振られました。花月家の人ではないようです。一体何者でしょうか。一応葬儀の警備も仕事ですし、追い出さなくては……でも藤平さんは彼らを知っているようですし、藤平さんの雇った方々なのでしょうか。
「兄ちゃんも姉ちゃんもやめて! お父ちゃん喧嘩嫌いや」
「ふんっ……ボクおもろいギャグ考えたんや」
「うちかておもろいの考えついたんやん」
謎の寸劇が繰り広げられます。月子さんも「なんやあれ……どこの子や」とつぶやいており、ご存知でないようです。うーん、でもどこかで見た顔のような気もするんですよね。
「ボクが先にお父ちゃん笑かしたるんや」
「うちが先や! 兄ちゃんは引っ込んどれ!!」
「やめてーや。喧嘩はあかん!」
「はっはっは。舞の言う通りや。喧嘩はあかん」
やはり藤平さんのお知り合いのようですが……あれ、舞って……
「あかんでえ、風太、月子!!」
その藤平さんの言葉に、ようやく合点がいきました。この3人の少年少女は風太さん、月子さん、舞さんのご兄妹によく似ているのです。
「い、言われてみれば……」
「いやあ……確かに子どもの頃のわい達や」
やはり。おそらくシノ君が分身も使って彼らの子ども時代の姿に変化しているのでしょう。いつの間にか藤平さんと接触していたのですね。
なるほど、幼心を思い出させる作戦ですか……と、思っていたら藤平さんはいきなりおやかんの蓋を打ち鳴らして唄い始めました。流行っているんですか、いきなり歌うの。
「コン、ケン、コーン! ケトルはやかん! うちのオカンはポンカン好かん!」
…………
………………
「私闘はいかん! お酒はお燗! たくさんへそくり金庫に保管!」
………………
……オヤジギャグ、でしょうか。
「わしの股間はキンコンカン! それキンコンカン! そおれキンコンカーン!!」
…………ええと。
違いました。下ネタでした……。
「いやあ、そうやったなあ。ボクら子どもの頃はお父ちゃんのしょうもないギャグでよう笑かされたわあ」
「久しぶりや。お父ちゃんのギャグでこう笑たん」
風太さんも月子さんもみんな、みんな……爆笑しています。わたしは一人置いてけぼりにされた気分でした。ええと、ここはわたしも笑うべきなので……?
「これや! わしはこれが見たかったんやぁ」
庭からの声に皆が振り向くと、そこには舞さんと……昨日道で会ったご老人が立っていました。ええと、このご老人は一体……?
不思議に思う中、ご老人が無言で頭巾を取ると──そこには遺影の顔、藤平さんの姿がありました。
「お父ちゃん……!」
って、藤平さん!? じゃあ今まで部屋で笑ってギャグを連発していたのは偽物だったということで……?
「ほなこっちは──」
少年少女3人の姿が虫になって散っていきます。やはり虫分身で風太さんたちの子ども時代を再現していたのですね。
そして死装束を着た藤平さんの姿が煙に包まれて、出てきたのは──
「シノ君!?」
え、シノ君の変化だったんですか!?
戸惑うわたしをよそに藤平さん(真)は語り始めました。
「みんな、すまんかった。けどわしの葬式とでも言わんと皆集まってくれんと思てなぁ。舞にも色々と手伝うてもろてこないな段取りしてたんや」
「本当にお父ちゃんか? 生きとったんやなぁ」
「何でこんな真似したんよ」
「昔……山にある薬草が金になるとわかる前は。わしら貧乏やったけど。笑いに溢れとった。けど、薬草が高値で売れてわしら金持ちになって。口を開けば金、金言うようになって。みんなの顔から笑顔が消えてもうた。わしはみんなに大切なのは何か思い出してもらいたかった。家族の笑顔を取り戻したかったんや!」
そう真剣に話す藤平さんの姿に……心当たりがあるらしい花月家のみなさんは沈痛な面持ちになっています。
「あんな馬鹿げた遺言状を書けばみんなわろかそうと阿呆をやる。そしたら風太だけやない。みんな笑って楽しゅうなって……幸せちゅうのは金やない! みんな仲良く笑いながら暮らしていくことや!!」
藤平さんの言葉が終わって。風太さんも月子さんも感じ入るものがあったのでしょう。2人は爽やかな、親しみのある笑顔で口を開きました。その目にはもう金銭欲の色はありません。
「────思い出したで。やっぱ、笑いが大切や」
「そやな。正直、金に振り回されて生きていくのは、もう飽き飽きや」
「嘘つけぇ〜。お前が一番金、金言うとったやないか」
「……うちが言うとったんは。カネはカネでも────」
チーンと鳴り物が澄んだ音を響かせます。
「この鐘や」
一瞬の静寂。そのあと、うふふ、あははとたくさんの笑い声が部屋中を満たしたのでした。
「来る時にすれ違った方は藤平さんのご変装だったんですね。すっかり騙されていました」
「すまんなあ。どんな忍が来るか気にのうてな。先回りしてみたんや」
「では、あの不気味な言葉は……?」
「いやー、なんかおもろいこと言わな思て。でも全然うけへんかったみたいやな」
う、うーん、ウケ狙いの精神でしたか……ちょっと本吉村とは笑いの基準が異なるような気がします。お国柄というやつでしょうか。
わたしと藤平さんでそう話していると、笑い薬の効果も切れてずっと黙っていたシノ君が口を開きました。
「お前は……知っていたんだな。本当は当主が生きていることを」
「はい。ごめんなさい、騙す形になってしまって……」
「いや、構わない。なぜならたぶんお前は上からの指示で動いていただけだからだ」
シノ君はご当主さんが出てきたときのわたしの反応からしておおよその事情は察していたようです。流石の洞察力ですね。すみません、ありがとうございます……。
「なんか色々とすんませんなあ。特にシノはんには……うちの奴にこれを盛られたり、それなのにわてのことも止めていただいて──」
藤平さんはすっと懐から液体の入った小瓶を取り出しました。前にモヤ忍さんも見せてくれたもので……笑い薬、なのでしょう。なるほど、そういえば花月家は薬草が採れる山を所有していると言っていましたし。それで作っているんですかね。
「葬式の最後まで誰も笑わへんようやったらわてもこれをみんなの茶に入れて笑わすつもりやったけど……わてのことに気づいたシノはんにガツンと言ってもろてな。目が覚めたんや。いやあ、ええ言葉やった。今でも一言一句違わず言えるでえ。『薬を使った笑いなどいらない。なぜなら心の底から楽しいわけではないからだ。むしろ……心の中では泣いている。今の……オレのように』て。うんうん、ほんまお二人には感謝感謝ですわあ」
そんな一幕があったんですか。ちらりとシノ君の顔を窺ってみるも、いつも通りの無表情でした。いえ、むしろずっと笑っていたせいかいつもより表情が凝り固まっているような気さえします……!
そして、藤平さんはわたしたちが去るまで手を振って見送ってくださいました。
「ところで──あの、シノ君。すみませんでした」
「何がだ。既に謝罪は受け取った」
「いえ、その……ご当主さんにシノ君が変化していたということは、あの最後のギャグもシノ君が言っていたというわけで……ええと、わたしが笑わなかったのは面白くなかったわけではなく──」
「忘れろ」
すごく……すごく急接近されて言われました。絶対に他の人に言うなという必死さが伝わってきます。
「絶対に、忘れろ」
わたしは一も二もなく頷きました。
「……わかりました」
「ならいい」
こうして。同僚のいつもとはちょっと違った一面も見れた任務は無事終了したのでした。
……ごめんなさいシノ君、たぶん暗部の人も見ているのでわたしだけ口止めしても無駄なのです……。
「今回の任務ではなんとシノ君の爆笑する姿が見れたんです。あ、他の人には内緒ですよ? それで、その働きぶりによってシノ君は合格と認められたそうです。評価項目がちょっと気になりますけど……ともかく。そういうわけでシカマル君とシノ君の2人だけが合格中忍昇格ということになりますね。新しい火影様にご了承をいただければ、とのことですが」
「サスケ君もきっとシノ君のあんな姿は見たことがないですよね……あ、それとモヤ忍のアニキさんにもまたお会いできました。とってもお元気そうでしたよ。サスケ君たちも一緒に任務に来れればよかったですのに」
「サクラちゃん、毎日いのちゃんの家からお花を持ってきて生けてるんですよ。今日は──鈴蘭ですね。花言葉はたしか。幸福の再来、だったでしょうか。サスケ君は果報者ですよ、本当に」
「はやく……元気な姿を見せてくださいね」