木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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ご感想、評価、お気に入り、誤字報告ありがとうございます。
戦闘描写、難しいです……。



 前話のあらすじ。
 油女シノとカタナは2人で依頼を受けたが、その任務は実はシノが中忍にふさわしいかどうかの特別審査も含んでいた。同じく本戦に進んだシカマルを合格にしようとの意見が強まるにつれ、相手が棄権してしまったシノの試験もしなくては不公平という声が出たためである。なんやかんやあって任務の結果、シノは無事仮合格。あとはシカマルともども昇格は新しい火影の承認待ちとなり、そしてカタナとはちょっと仲良くなったかもしれない。


19枚目

 

 

 

 

「この度、隊を率いることになったハヤマだ。よろしく諸君」

 

「任務待ってたっすよぉ、ハヤマ隊長!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 今日の任務は4人1組(フォーマンセル)で、いつもより長期に渡るものだそうです。隊長は白雲ハヤマ上忍。こちらの方は存じ上げない方なのですが、もう1人の上忍──感電テクノさんはうちの常連の方でよくお店でお会いします。こうして大人の人ばかりの任務だとお知り合いの方がいる、というだけで心強いです。

 

 そして最後の1人の方は大きな鉄鍋を背負った方で、こちらも存じ上げない方でした。おじいちゃんやヒルゼン様より少し年が下くらいの方だとは思うのですが……。

 

 わたしがそのご老人を見ていると、テクノさんから話しかけてきました。

 

「カタナちゃんは万年下忍のコスケのこと、知らないの?」

 

「…………存じません。コスケさんは長く下忍をやっていらっしゃるということでしょうか?」

 

「はい。今年で50年になりますな」

 

 50年、ですか……それは確かに万年と言われてもおかしくない期間です。本来、忍びとしてはそのうち中忍になるのが普通で、その中でも特殊技能があるのが特別上忍、すっごく強いと上忍になれるという感じですからね。

 

「ハヤマ隊長。カタナちゃんはともかく、もっとマシな下忍はいなかったんすかぁ?」

 

「コスケさんは俺が頼んで入れてもらった。何かと助かる人だと聞いている」

 

 何かと助かる、というのは……中華鍋を持っていらっしゃいますし、お料理上手ということなのでしょうか。前のアヤメさん誘拐の一件の時のハッカクさんたちのように料理忍者さんなのやもしれませんね。

 

 しかし……ではわたしはどうしてこの任務に選ばれたのでしょうか。ハヤマ隊長とは面識がありませんし、知己であるテクノさんもわたしが同じ任務に就くことをご存知でなかったご様子なのですが。人数合わせ、とかですかね。

 

「今回の任務は北の国境パトロールだ。何もなければCランクの楽な任務だが……」

 

「木ノ葉崩しの後だ。他国の忍が見逃すはずないってことっすね」

 

「そういうことだ、テクノ。加えて我々の任務は敵に対する牽制でもある。木ノ葉の忍は警戒を怠っていないということを示すのだ!」

 

 こうして、わたしたちのパトロール任務は幕を開けたのでした。

 

 

 

 テクノさんがなぜうちのお得意様かと言いますと、彼は罠を仕掛けたりテンテンみたいに忍具を口寄せして戦うタイプの方なのです。そういうわけでして、今回の任務でも罠の設置を担当するテクノさんにわたしは着いていくことになりました。罠の作り方をお聞きしながら、お手伝いさせていただくことになります。ハヤマ隊長とコスケさんは周囲の散策と索敵をやってくださるとのことでした。

 

「罠の設置は主に起爆札とワイヤーでやるっすよ。起爆札の扱い方については俺よか詳しいだろうし……教えるとしたらワイヤーの使い方かな」

 

「はい、お願いします!」

 

「まずワイヤーは起爆札を大量につけてりゃ馬鹿でも見えるから、こういうのは見えていても避けては通れないように設置するんだ。んで、他にもワイヤー単体でこっそりひっかける。ワイヤー自体は光の反射で見えちゃうから、つや消ししたのも一緒に設置して二段構えにするのとかもオススメ。んで────」

 

 ご教授いただいたあとは実践。テクノさんほどテキパキとはできませんが、見様見真似でやっていきます。むぅ、この任務中にどうにか指示がなくてもうまく罠を作れるようにしたいですね。

 

 最初にここまでと決めた区間まで終わらせると、一旦隊長にご報告ということになります。ハヤマ隊長とコスケさんは一緒のところにいらっしゃいました。

 

「罠の設置終わったっすー」

 

 テクノさんの言葉に隊長さんは軽く頷くと、たくさんのきのこや山菜を抱えているコスケさんの方を見やります。

 

「コスケさん、野営に適した場所はありませんか?」

 

「はいはい。この辺りなら二代目様の洞窟が近いでしょうな」

 

「二代目?」

 

 二代目って……二代目火影、千住扉間様のことですよね! まさかここでそのお名前を聞けるとは。嬉しい限りです。

 

「二代目火影様の配下としてこの辺りに来た時に見つけた洞窟です」

 

「……では、扉間様も泊まった洞窟ということですか?」

 

「はい。下忍も50年もやっとりますとな、歴代の達人との任務も──自来也様やサクモ様らが若い頃に一緒になったこともありますなぁ」

 

「わぁぁ! すごいです、羨ましいです……!!」

 

 三忍のお一人、今はナルト君と綱手様を探し中の自来也様に、サクモ様……は、寡聞にして存じませんが優秀な忍びの方なのでしょう。若い頃ともに仕事をした人が今や伝説の人に、なんていうのはすごいことですよね。嗚呼、特に扉間様との任務のお話とかぜひぜひお聞かせ願いたいものです……! 

 

 コスケさんの案内に従ってみなで洞窟まで歩いていきます。わたしの目の輝きっぷりに苦笑しつつもコスケさんはその間、扉間様のお話をしてくださいました。今は川沿いを歩いていますが、何でもこの川は昔龍が作ったという伝説があると扉間様はおっしゃっていたそうです。龍神様、龍、ですか……なんだか蛇を連想して大蛇丸のことを思い出してしまいます。木ノ葉崩しの際、試験会場の外では大蛇丸の口寄せした大蛇が暴れて結構な被害を被ったそうなんですよね。幸いなことに駆けつけた自来也様が倒してくださったらしいのですが。三すくみでは蛙は蛇を恐れると言いますけど、大蛇丸がいない場ではやはり自来也様の方がお強かったようです。

 

 さて。拠点の場所はしっかりと把握しておきませんとね……ええと、川沿いに下流の方へ進んで、右に曲がって少しするとある洞窟ですね。ごくごく普通の外見です。ちょうど入口が川に面している感じで、水場が近くて過ごしやすそうです。

 

 寝る場所を確認したあとはまたそれぞれの作業再開です。うーん、罠って味方は引っかからないように、それでいて敵の発見や攻撃はできるように、というのが難しいですよね……。

 

 

 区間での設置も終わり報告に向かうと、今回は隊長はお一人で岩の上に立っていらっしゃいました。ピシッとした立ち姿が勇ましいです。刀をお持ちのことですし、剣術をお使いになるのでしょう。

 

「罠の設置、完了っす……あっ、美味そうな匂い!」

 

 テクノさんのおっしゃる通り、ご飯のとてもいい香りが漂ってきています。コスケさんの食事の支度ができたのでしょう。わたしたちは匂いの方へと歩いていきました。

 

「うめぇ!」

 

 ホッホッホとコスケさんが好々爺然(こうこうやぜん)とした笑みを浮かべます。

 

 よく煮込まれた鍋はとても美味しく、自分でもこんな料理を任務中に作れたらと思うようなものでした。ひどい時は兵糧丸をかじるだけになってしまいますからね……まあ兵糧丸も味はよくなりましたけど。むむ、機会があれば毒キノコなんかの見分け方やこうした鍋の作り方を教えていただきたいというものです。明日以降、いつか時間を作っていただけますかね。

 

 わたしたちが食事に舌鼓を打っていると、コスケさんはなぜか立ち上がっていらっしゃいました。

 

「どれ、わしは寝床をこしらえてきますか」

 

 ……これはコスケさんと2人で話せるいい機会ではないでしょうか。

 

「あ、あのわたしもお手伝いさせていただきたいです!」

 

 そう話すわたしに、コスケさんは快く頷いてくださいました。

 

 日中に木材を集めていらっしゃったそうで、それを組み合わせて洞窟の奥の方に簡易なベッドを作るとのことでした。洞窟の中は暗く、作業にはちょっと不向きなのですがコスケさんは少ない灯りでテキパキと手を動かしていきます。

 

 洞窟の右の壁に沿うように1台、左の壁に沿うように1台ベッドを縦に置き、それらの上にハンモックをかけ、洞窟の一番奥には資材置き場を作るそうです。見張りを基本的に誰か1人は行うので、3つしか寝床は必要ないというわけですね。

 

 無言で作業していると、わたしが退屈していると思ったのでしょうか。コスケさんの方から声をかけていただきました。

 

「カタナ君は……二代目様のことをおじい様からお聞きになっているのですかな?」

 

「はい、それはもうとても素晴らしい方だと。ただおじいちゃんは任務に出ることはなかったので任務の話、というものはほとんど知らないのですが……」

 

「成程。では、そうですな。どうでしょう、年寄りの長話に少しばかりお付き合いいただけませんかの?」

 

「ぜひ! お願いいたします」

 

 コスケさんは様々な話をしてくださいました。三忍と呼ばれる前の自来也様の話や、四代目火影の波風ミナト様の話、ヒルゼン様の御父上の猿飛サスケ様の話等々どれも興味深かったですが、特に印象的だったのはやはり扉間様のお話です。

 

「若い頃……わしは思い上がっておりましてな。中忍になりたくて功をあせるあまり、無茶な命令を出し……仲間2人を、みすみす死なせてしまったのです」

 

 けれどそんなコスケさんの様子を見かけた扉間様は忍びに死はつきものだからお前だけの責任ではないと言い──そのうえでコスケさんの主張する生涯下忍であるという決意も理解し、ただし下忍であるからといって緩むことは許さぬとして自らの手で彼を鍛え上げたそうです。うう、だからコスケさんはずっと下忍のままでいらっしゃるんですね。やはり扉間様は厳しくも優しい方で──そして直接術を教わったとなるとコスケさんはかなりの腕前なのでしょう。

 

 

 寝床作りも終わりに近づいてきた頃、わたしは少し気になっていたことをお聞きすることにしました。

 

「扉間様の死生観、とか。何かお話しになったりしたことはありませんか?」

 

 何か穢土転生のヒントにならないかなあと、変な質問に思われることは承知の上で聞いてみると、コスケさんは特に訝しむことなく話してくださました。

 

「死生観ですかのう……ああ、そうですな。丁度この洞窟で少々そういった話をした記憶があります」

 

「それは、どのような……?」

 

「見た方がはやいでしょうな。さて。寝床もできたことですし、隊長達のところへ戻りながらにしましょうか」

 

 そう言うとコスケさんは出入口の方へと歩いて行きます。着いていくとある地点でピタリと止まりました。ただの洞窟の中ですし特に何もないのですが……。

 

「ここ、小さいですが見えますかな」

 

 そうコスケさんが右側の壁を指します。じっと目を凝らして見ると確かに何かが彫られていて……ええと、これは人、でしょうか。ただ頭が──

 

馬頭(めず)。馬の頭に身体は人の姿をしており、牛頭(ごず)とともに地獄の門番と言われておりますな」

 

「これは、扉間様が?」

 

「はい。二代目様は彫り物もお得意でしてな。時折手慰みに木像なども作っていらっしゃいました」

 

 多才ですね、扉間様は……。なんだか柱間様が木遁で木を出してそれを扉間様が加工したり、火影の顔岩の手直しをしたりする姿を想像してしまいました。

 

「償いは生き抜いたその先でしろ、と。我々は死後の世界から見張られている……そう胸に刻んで、これからは自らの行いを恥じることがないように努めろと言われましたよ」

 

 その言葉は、コスケさんの中で金言として輝いていて……扉間様たちとの思い出は丁寧に、大切に宝箱に保管されているようだと。なんとなくそう感じました。

 

 さらに出入口の方へ進むと反対側の壁にも牛頭が彫られていました。洞窟に彫る、というのは印を残すという意味もありそうですね。パッと見て同じ洞窟かわかりやすくなりますし。

 

 

 洞窟を出たわたしとコスケさんは2人のもとへ戻り、食事の続きをしたあとにお片付けもして。そして一緒に外での見張りをすることになりました。

 

「わあ……星が綺麗ですね。あ、天の川も見えます!」

 

「そうですのう」

 

 人里離れたところで、今日は新月だからでしょう。満天の星が見えました。……懐かしいような星空です。

 

 見張りをしながらも、わたしはまたコスケさんにお話をしていただき──おかげで眠気を感じることはありませんでした。

 

「ときに、カタナ君はおじい様からは二代目様のどういった話を聞くのですかな?」

 

「そうですね……やはり、一番は名前のことでしょうか」

 

「と、言いますと?」

 

「ある時何かと世話になっているから、とお礼に刀を贈ってくださったらしくて。おじいちゃんは他の忍びと違って戦場を駆けることはないことを気に病むこともあったらしいのですが……わざわざ刀をいただけたことで扉間様に仲間として扱っていただけたようでとても嬉しかったと。だから刀にちなむ名前をつけたかったようで、わたしのことをカタナと名付けたそうです」

 

 刀、といえばコスケさんも持っていらっしゃいますよね。隊長とコスケさんが剣術を使い、テクノさんとわたしが起爆札やらを使い……何となく似ている組み合わせになっています。

 

「成程。それはそれは、よい名前ですなあ」

 

「ありがとうございます」

 

 そうして、ほのぼのとした雰囲気の中…………

 

「どうだ?」

 

 いきなり後ろから声をかけられてかなりびっくりしました。あ、ハヤマ隊長でしたか。

 

「特に異常なしです」

 

「敵が来ないならそれに越したことはないな。よし、カタナ、コスケさん。見張りを交代しましょう」

 

 隊長からはどうせ座って刀を抱えて寝るのでベッドを使っていいと言っていただきました。ありがたいのですが、そんな体勢でちゃんと疲れが取れるのでしょうか……? 

 

 洞窟へ戻るとわたしは入って左側のベッドを使い、反対側にコスケさんが寝ることになりました。テクノさんはその上にかかっているハンモックで寝ていらっしゃいます。ベッドを譲ってくださったその優しさに心の中でお礼を言いつつ、コスケさんと作成した木の寝床に転がりました。うう、固いです。

 

 上を見るとテクノさんの足が見えました。こちら側が足で、コスケさんの側に頭があり──テクノさんは少しぽっちゃりとした方なので落ちてきたらどうしようかという考えがよぎってしまいました。……ベッド上に落ちて来るとわたしかコスケさんが痛い思いをしますけど、ベッドの間に落ちてしまうと今度はテクノさんが地面と激突してしまいますよね。

 

 そんなことを思いつつ上を眺めていたわたしは、天井にすこし違和感を覚えました。ただの凹凸ではないような感じのものが見え……あれはいつか巻物で読んだことがあります。(ぬえ)、ですかね。天井にも彫っているとは。偶然でしょうがテクノさんとちょうど同じ身体の方向で、同じような体勢で寝そべっている様子になっているのがちょっと面白いです。扉間様ってお茶目なところもありますよね……。

 

 それからわたしは眠ったようで、起きるとテクノさんの姿はなく、代わりにハヤマ隊長が本当に床で座って寝ていらっしゃいました。ベッドから出ようと身体を起こすとそれに反応したらしく。隊長は抱えている刀を素早く握りしめてカッと目を開き、わたしは朝から怖い思いをしたのでした。

 

 

 

 

 そうして敵の痕跡を探したり、罠を設置したり、コスケさんの料理をいただいたりを繰り返しながら日は経ち────

 

「確か……この辺りのはずですが。ああ、ありました。昔、三代目と一緒に見つけた泉です」

 

 そこは綺麗な泉でした。軽く口をつけて水質に問題がないことを確認すると、みんなで水筒に水を補給します。まだお昼前ですが、こうも暑いと水の消費もはやいというものです。

 

「この泉も何かお話があったりするのですか?」

 

「ハハハ、鉄鍋を落としたら金と銀の鍋が出てくるかもしれないっすよ」

 

 木こりが斧を落とすと湖の中から神様が現れて「お前が落としたのは金の斧か、それとも銀の斧か」と尋ねてくるお話ですね。金の鍋で作る料理……なんだかすごく美味しいものができそうです。

 

「伝説などはありませんが──ここで昔、三代目からお叱りを受けましたわ」

 

「お叱り……ですか?」

 

「はい。火の意志はないのかと、問われましてのう」

 

「火の意志?」

 

 疑問符を浮かべるテクノさんでしたが、鳥が騒ぎ出し森の様子がいつもと異なるのを見ると……キリッとした顔に切り替わりました。

 

 

「……隊長」

 

「ああ。風が変わった。警戒態勢に入る」

 

 

 ハヤマ隊長の先導に従い移動したわたしたちの目下に見えたのは、額あてにマークのない忍びがわらわらと里の方へと迫ってきている姿でした。

 

 設置されたワイヤーで拘束された姿を見るにあまり練度は高くはなさそうですが……何より数が多いですし、油断は禁物です。

 

「お前らどこの忍だ? 答えなければ火の国への敵対行為とみなしこのまま────」

 

 ハヤマ隊長の呼びかけには大量のクナイを投げての返答がなされます。隊長は木ノ葉らしく木の葉を使っての変わり身の術で避けきると、ボソリと指示を出しました。

 

「テクノ、吹きとばせ」

 

 テクノさんが印を結び、敵側に爆発が起こっているのを聞きながら。わたしたちは木ノ葉にこの緊急事態を伝えるべく走りました。

 

 

 木々を蹴りながら急いで移動するも、続々と追手が来ているのは明らかでした。

 

「……まだ20人以上はいるようだ」

 

「小隊による偵察行動、なんてもんじゃないっすね」

 

 相手の分析をしつつわたしたちは駆けますが──

 

「ハヤマ様……!」

 

 敵もさるもので追いつかれてしまったらしく、横の木々の間にぞろぞろと忍びの姿が現れます。左右から挟み撃ちにするつもりでしょうか。

 

「左右は陽動……上だっ!」

 

 隊長の指摘通り上空からクナイのあられが降り注ぎ──避けきれない、と思った瞬間。

 

「真空剣!!」

 

 刀の一振ですべてのクナイが吹き飛ばされていきました。剣術と風遁の合わせ技でしょうか。ありがとうございます、隊長。助かりました……! 

 

 テクノさんもワイヤーを駆使しての拘束と爆発で応戦していますが、どれだけの人数を動員したのか敵の気配は一向に減る様子がありません。

 

「──作戦を変更する。木ノ葉の里へ1人でも逃げ帰りこのことを報告しろ! テクノ、指揮をとれ」

 

「……はい────行くぞっ!」

 

 一人残ると言う隊長の姿に足が止まって……さあ、と促すコスケさんの声に、わたしは慌てて追従しました。

 

 冷静になりましょう。ここで全員残るのは悪手です。敵は人海戦術でわたしたち4人を足止めし、一部は木ノ葉へと歩みを進ませるやもしれません。ですがわたしたちが分かれることで相手も戦力を分散してこちらを追わざるを得ない。加えて敵には罠を警戒しながらわたしたちを探すという手間も加わります。真っ向からぶつかりあってはどう動かれるかわからない以上、こうして逃走しつつの各個撃破へと移るのは当然のことです。一刻も早く木ノ葉にこの危機を伝え増援を呼ぶ。それが、正しい道……の、はずなのです。

 

 

 

「敵はかなりの数ですな」

 

「隊長がひきつけてもなお、うじゃうじゃと……くそっ、やっとこさ第二警戒ラインの中まで来れたっていうのに……息をつくヒマもないな」

 

 テクノさん設置のワイヤー陣の中に逃げ込むことはできたものの、近くから続々と敵が迫ってきているのがわかります。

 

 ベストから取り出した巻物を広げながらテクノさんは言い放ちました。

 

「2人は先に行け!」

 

 口寄せされた忍具がどんどん出現し──それを手にしたテクノさんはわたしたちを逃がすために1人残ると、そのおつもりのようでした。

 

「ここは俺が罠を張った場所だ。俺が残るのが一番効率がいい…………さあ、はやく行くっすよ!」

 

 今度は迷う暇もありません。

 

 襲いかかる敵の姿を背に、わたしとコスケさんは走り出しました。

 

 

 

 

「カタナ君……悪いが、君だけで里に事態を伝えに行ってくれんかの?」

 

 まだまだ追っ手がかかる中、里まである程度近づいてから。コスケさんまでもがそうおっしゃいました。

 

「誰かがやらねばならん……さあ、行きなされ!」

 

 …………

 

 ……

 

 立ち止まって振り返ったコスケさんの姿は。ここを、己の死地と定めた忍びの顔をしていました。

 

 その言葉に、わたしは黙って駆け出しました。

 

「頼みましたぞ────」

 

 

 

 

 

 里側へと少し走って────ここまで来れば。敵に見つからず、口寄せ動物でも無事に、確実に里まで辿り着けるでしょう。

 

「口寄せの術!」

 

 こちらの焦りがわかるのか、いつもは気まぐれな忍猫も口寄せに一発で応えてくれています。

 

 わたしは簡潔に書状をしたためました。

 

「ナギ、これを門番まで。全速力でお願いします」

 

「……ふん。あとでマタタビーニャタワーですわよ」

 

「そのくらいお安い御用です。さあ!」

 

 猫用のお酒くらい、あとでいくらでも積み重ねてあげます! 

 

 ナギが走り去って姿が見えなくなったくらいで、入れ違いになるように敵が数名背後から現れました。……いい加減、しつこいですね。

 

「はやく、戻りませんと……」

 

 わたしはごっそりとお札を取り出しました。

 

 ──そもそも、起爆札とは。とってもお手軽に威力を出せる代物です。そしてそれはいい点であるのですが、悪い面もあります。……接近戦で味方の援護に使おうとすると、味方ごと巻き込む恐れがあるのです。もちろん、ある程度なら爆発するタイミングを測ったり、威力を調整することでそれを防ぎつつ使うこともできますが、それだと肝心の爆発力が削がれてしまいます。

 

 故に。起爆札を存分に使って戦おうとするならば。罠に使うか、遠距離戦か……接近戦なら、1人の時に使う方が遠慮しなくていいのでやりやすいのです。

 

 特に、こうして大量に使う場合には。

 

 

 ──────烈風札! 

 

 

「う、わぁぁああああ」

 

「避けろ、爆発す──」

 

 風に従って飛んでいった起爆札が敵に絡みつき。少し間を置いて、連続した爆発音が響きました。

 

 

 

 

 

 

「命令されれば命も捨てる。それが下忍の有り様でしょ? お爺ちゃんだって部下を2人足止めに使ったじゃない」

 

「足止めをして下さったお二人が上忍じゃよ……我らが下忍を逃がすためにな!」

 

 分かれた地点まで戻ると辺りには無数の忍びが倒れていました。……コスケさんが倒したのでしょうが、聞こえる声から判断する限りかなり無茶な戦い方を強要されたようです。

 

 当のコスケさんは、と探すと岩隠れの額あてをしたくノ一と対峙していました。大きな怪我はないようですが、地面にへたりこんでいて、左足があったところには棒のようなものがあって……義足だったのでしょう。おそらく立ち上がるくらいはできても、逃げるなんてことはできない状態ですね。

 

「木ノ葉には下の者を使い捨てにする忍など、一人も居らんわ!!」

 

 その通りです。上忍のお二人もコスケさんも、本当に微塵も躊躇うことなくわたしを逃がすという判断を下してくださいました。……戻って来ちゃいましたけれども。申し訳ないです。

 

 近寄るわたしに気づいたコスケさんは先ほどまでの勇ましい顔から一転して、不思議そうな表情を浮かべました。

 

「どうして……?」

 

「わたしも自らに恥じることはないようにしたいですし、それに……いえ」

 

 忍猫に連絡を頼みましたけど、それをここで言ってしまうと敵がそちらを追ってしまう可能性が出てきます。みすみす敵に情報を与えてしまうわけにはいきません。

 

「フン、ガキが1人増えたところで……たかが下忍風情(ふぜい)。まとめて始末してあげる」

 

 刀を抜いてこちらへ進む岩隠れのくノ一を前に、コスケさんはわたしの肩を使って立ち上がりました。

 

「……やれやれ。わしはまだまだ逝けんらしい」

 

「は? なにカッコつけてんのよ」

 

 そう言いながらもコスケさんの剣術を警戒しているのか、くノ一は刀を地面に置きます。両手が空いた、ということはおそらく何か忍術を使うつもりなのでしょう。

 

「わしらは火の意志を継ぐ木ノ葉の忍じゃ。貴様なんぞに木ノ葉は散らせはせん……!」

 

 2人が高速で印を結び合います。

 

 コスケさんは水遁。相手は────土遁。まずい、相性が悪いです! 

 

「散れよジジイ!!」

 

「散らんわぁぁあっ!!!」

 

 いつでもコスケさんを抱えて避けられるように体勢を整えつつその術比べの行方を見ていると……こちらへ迫ってくる土塊の龍を、川から立ち昇った水の龍が打ち砕いて……え、相性の差を力技で!? 扉間様のスパルタレッスン、一体どれほどのものだったのでしょう……。

 

 水しぶきが飛ぶ中、チャクラ切れになったのかフラフラとしているくノ一をわたしは慌てて拘束しました。

 

「……さて。ハヤマ隊長とテクノ君を迎えに行かねばな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無沙汰しておりました、ヒルゼン様。しばらく来れずすみませんでした……しばらく任務に当たっていたもので……」

 

「来る時に木ノ葉丸君とすれ違いました。木ノ葉丸君、ヒルゼン様がお目覚めになるように色々と頑張っているそうです。毎日お参りに行ったりとか、伝説の薬草を探したりとか……やっぱり、なんだかんだ言ってもお祖父様のことが大好きなんですね」

 

「任務でご一緒したコスケさんに、ヒルゼン様や扉間様など色々な方のお話を聞かせていただきました。参考になることが本当に……山のようにありました」

 

「敵からの襲撃もあったのですが、どうにかみんな無事に戻ることができました。それで、里への帰り道でヒルゼン様の『火の意志』の話も聞かせていただきました」

 

「コスケさんに、もう償いは十分だろうから上忍になれと言って……それを断られると『ならば今後は下忍に見合った軽い任務しか与えん! わしの目の黒いうちは死にに行くような真似はさせん……お前も、木ノ葉の忍なら火の意志を持て。その命、無駄に燃やすな』、そうおっしゃったと」

 

「コスケさん、すごく、すごく……ヒルゼン様のお言葉を、火の意志を大事にしていらっしゃいましたよ」

 

「わたしもぜひ火の意志を──お目覚めになったら、ヒルゼン様のお話を聞かせていただきたいです」

 

 

 

 

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