木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
「さあさあいよいよ始まりました! 木ノ葉商店街の誇る看板娘達によるチキチキ出前レース! 実況はワタクシ…………部下Aが、解説はたいち……タイツ太郎さんでお送りします!」
「おい。隊長と呼んでいい……頼むからそんな変態じみた名前で呼ぶな」
「了☆解! ちなみにワタクシ部下Aは絶賛連続任務記録更新中の身、隊長ともどもなぜかこんなレースのために朝っぱらから呼ばれる事態となっております。ハハッ……」
「闇が出てきた……通りで、テンションがおかしいと思ったぞ」
でもおそらく今のタイツ太郎呼ばわりには私怨も混じっているだろう。結界に激突して炎に包まれたアイツを放置したことを結構根に持っていたからな……。仕方ないだろ、緊急事態だったんだから。
音・砂による木ノ葉崩しの後。ダメージを負い暗くなってしまった商店街を活性化すべくイベントを行う、というのはいいアイデアだとは思うのだが……実況と解説に暗部を使うとは、上層部は何を考えているのだろうか。
ああ──火影直属暗部い班の隊長。それが俺の肩書だ。一応、猿飛一族の一員ではあるが……まあ、名乗るほどの忍じゃあない。というかこんな場で名乗りたくはない。
「スタート地点から勢いよく飛び出したのは……団子屋の看板娘代理、みたらしアンコ特別上忍だァ! 周りがアカデミー生や下忍ばかりの中、
「看板娘とは……?」
「おおっと隊長、代理は正式に認められてますぜよ。まあ流石に忍とそれ以外じゃあ身体能力に差がありすぎるんで」
それもそうか。さて、いきなり振られた仕事だったので内容はほとんど把握していないのだが……この出前レース、出場資格は看板娘(になりきることができる人物)であること。ルールは度を過ぎた攻撃の禁止、時空間忍術の使用も禁止。武器の持ち込みは不可だが出前としてそれぞれが運んでいる商品の使用はOK。勝利条件は配られた地図にあるゴール地点、そこにいる人物に出前を最も速く届けられた者の勝利。優勝商品は好きな商品なんでも一種類を一年分プレゼント(木ノ葉商店街で提供できるものに限る)……って、商店街が自腹を切っている!? いいのかそれで……。
「いやー、流石に年の功! アンコ特別上忍25歳、速い、速い、他の10代のうら若き少女達をごぼう抜きでぶべらっ──」
どこからともなく飛来してきた団子の串が部下Aの額を穿った。見ると、当然のごとくアンコの持っていた団子は1つ減っている。口は災いの元……俺はその言葉を、噛み締めた。
実況役が悶絶している以上は解説役の職務を果たすことにするか。
「団子を一瞬で食べてのノーモーションでの投擲……なかなかの腕前だった。だが団子の串は無限ではない。ゴールまで団子を守りきれるか……そこが鍵となるな」
出前レース、と銘打ってはいるものの参加数を増やすべく飲食店以外も参加している。書店に、花屋に、呉服屋に、忍具屋に…………忍具屋?
「忍具屋、有利すぎないか?」
「いやまあそれはそれっすよ。忍者は時にその場にあるものから調達して攻撃を仕掛けないといけないこともありますもん。まあ大丈夫大丈夫。やまなか花店の いのちゃんも花びらの間にしびれ薬を仕込んでいたり……分厚い本は鈍器になるし、呉服屋は紐でトラップを仕掛けて──おおっと、ここで来ました起爆札! いやあ、川上家の
「のんきに言ってる場合なのか……?」
結界の時は世話になったが……確かあの娘、アカデミー時代に起爆札で演習場を半壊させたとかなんとか聞いた記憶があるんだが。このレースで商店街が破壊されたら本末転倒ではなかろうか。
そういえばゴール地点はどこなのだろう、と地図を見てみると木ノ葉病院であることが発覚した。おいおい、あの暴れてる娘っ子どもを病院に入れるのは……いや、病院の屋上と書かれている。屋上以外、院内への立ち入りは禁止とも。一応の配慮はあるのか。
「いやあ花が飛び団子が飛び巻物が飛び……壮観ですねえ。観客の皆様は近づき過ぎないよう気をつけて、あとは頑張って自衛してくださいね!」
「丸投げ過ぎるだろ……しかし忍もいるし、まあ大丈夫か……」
だが……これって要は戦いながらの徒競走と思うのだが。見ていて楽しいのか?
誰も彼もが攻撃を受けながら進んでいるので歩みは遅い。ほぼ団子状態だが……そろそろちらほらとリタイアも出ているようだ。
「混戦状況の中、目立ちすぎたのかアンコ選手に攻撃が集中しています! おお、避ける避ける…………あれ、自分で団子を食べ始めました。はやいはやい、団子は飲み物とでも言うような勢いです。喉に詰まると危ないのでよい子は真似しないでね!」
「どこへの配慮なんだ……まあ、アンコもおそらく面倒になったんだな」
別に優勝商品に拘らずとも欲しいものくらい給料で買えるだろうし、あれだけの子供達を怪我させないように倒しきるのは手間だ。
「あ、団子が全て串だけに。いやー、優勝候補の一角がここでリタイアとは。誰がこの状況を予想したでしょうか」
「そもそも誰も優勝候補の予想なんてしていなかったと思うんだが……」
「まあ、今回のアンコ選手の活躍によってアカデミーでは団子の串を武器にするのがさぞかし流行るでしょうし、団子屋的にはオーライといったとこっすかね」
例えそうなったとしても団子屋は串目当てに団子を買われて嬉しいのだろうか……? まあ、ともかく特別上忍が脱落したのは他の参加者としてはありがたいだろうな。
ゴールの病院が見えてくると状況は段々と一対一の戦いへと移行していた。
「白眼! いやー、流石ですね」
「…………ああ」
……いや、あの娘……娘? 見覚えがあるんだが。え、日向ネジ……中忍試験でうずまきナルトと戦ってた日向分家の……男、だよな……?
「日向ネジ子選手! 一楽のアヤメちゃんの代理での参加です」
「アウト────っ」
「何がアウトなんですか隊長。あんな綺麗な看板娘(代理)なんですし、いいじゃないっすか……あと面白いし」
「最後のが本音だろお前……」
段々と部下が横柄になっていっている。まあ寝たら元に戻るだろう。というか戻れ。
「ここでネジ子選手と対峙するのは秋道チョウ子選手。こちらの女装クオリティは……うん、清々しいほどに商品目当てというのが伝わってきます。まあ持っている出前の品、焼肉Q特製カルビ丼をレース中に食べていないだけ褒めてあげるべきでしょう」
よく見てなかったがもう1人も女装だったのか。秋道チョウ子……年からして秋道家当主チョウザの息子、チョウジが焼肉Qの看板娘に扮した姿なのだろう。しかし────
「何様目線だお前は」
「実況役目線、といったところですかね……」
それは今のお前の仕事だろ。
しかし日向家と秋道家か。両方とも肉弾戦で戦うタイプ。なかなかいい勝負になるかもしれんな。
「ここで来ました八卦掌回天の構え! 『日向は木ノ葉にて最強』こと日向一族の誇る絶対防御だぁ!! 対する秋道一族はお家芸の倍化の術からの肉弾戦車を見せてくれるのでしょうか」
みなが見守る中──勝負は一瞬で終わった。
「いやー、チョウ子選手の早業! 見事でした〜」
「……あれは早業というか、ただのラーメンの早食いだろう」
八卦掌回天の構えをするということは両手を空けるということで……運んでいたラーメンの岡持ちを邪魔にならないよう下に置いたというわけで。それを、狙われた。まあこれは試合じゃなくて出前レースだからな。岡持ちを手放した日向が悪い。女装していることといい、アイツも俺達と一緒で疲れているんだろうな。まあ、なんだ。ゆっくり休め。
「おおっと、ここで満点堂のテンテン選手。カタナ選手に真っ向勝負を仕掛けました! 夢の忍具屋対決です」
「いや、別に夢ではないと思うが……」
忍具屋の満点堂からは先ほどの日向ネジ(子)と同じガイ班所属のくノ一が参戦している。どうやら彼女は忍具の扱いに長けているらしく、次々と投擲している。一方、川上カタナの方は幣のようなものを取り出し……おいおい、まさかあれ全部起爆札か!?
「流石にお札無制限はずるいよなあ、ということで木の棒にくくりつけた分だけとなっております! 棒から一枚残らず取れちゃったら失格ですね」
「なるほど……あそこからちぎって使っているのか。しかしそれでもなかなかの枚数があるな」
「振るたびにバッサバッサしてますね〜。さて。やはり両者とも決め手に欠けてるっすか」
お互い手持ちの忍具に限りがある以上、仕方ないだろう。飛んでくるクナイやらは爆風で裁かれ、投げられる起爆札は避けられ、睨み合いながら走っている様子だ。
「おおっとぉ、そうこうしてるうちに戦いながら病院の屋上まで辿り着いたぁああ。1着はテンテン選手とカタナ選手です」
「この場合、どうなるんだ?」
「食べ物の場合は一口食べさせればOK、それ以外は手に握らせればいいっす」
「なるほど」
さて、ではその出前が届けられる人物は一体誰なのかと見やると……病院の屋上には松葉杖をついたおかっぱ頭の全身緑タイツの少年が、いた。ガイにそっくりのあの風貌は間違いない。ガイ班のロック・リーだ。
忍生命を絶たれるほどの怪我を負っているとか聞いた気がするが……そうか、それで落ち込んでいる彼を元気づけるためにこうして出前レースの終点の人物に選んだのか。いい話じゃないか────
「ゴールにて出前を待つのは木ノ葉の気高き碧い猛獣の弟子、ロック・リー。丁度よく通りかかったので頼んだら快く引き受けてくれたそうです」
台無しだ! いや、勝手に俺が想像しただけなんだが……おそらくリハビリか何かで病院に来ていたんだろうな。
「ジリジリとテンテン選手とカタナ選手がにじり寄る中……さらに屋上にもう1人到着しました! あれは──あんころ堂のババ、お婆さんだ!!」
ババア、と言いかけて観客の視線に屈したなコイツ……。しかし、看板娘の定義とは一体。娘とか孫とかいなかったのか、ばあさんよ。いや、そもそも代理がまかり通る時点で店の看板とは言い難い娘達だよな……。
第三者であるばあさんが来たことで少女2人は一時的に共闘しようとしているらしかったが、ばあさんは構わず印を結んでいた。
すると餅が増幅していき……あれは、まさか……!?
「みるみる白玉が増えていく……なんなんだあの術は……!?」
「餅遁 無限白玉……白玉を無限に増殖させることが出来る秘伝忍術だ……10年前にも使用されたと聞いたことがある」
「……ではあの白玉は……!」
「ああ……おそらくばあさんが術を止めるまで増え続け……そして辺り一面が白玉と化す!」
流石にこれは止めるべきか。そう思う俺達だったが、増殖した餅は次第に収まっていっていた。
「時空間忍術か」
少女2人は巻物を広げていた。素早く行動していたのがよかったのだろう。餅は残らず封入されたようだった。
ただ、当の2人は時空間忍術を使ってしまったので失格だ。かなりのチャクラを消費したようで肩で息をしてへたり込んでいる。しかし、こうなると優勝は……そう思って、俺は気づいた。
「ロック・リーの口に餅が入っています! これはあんころ堂の優勝ということに……」
「待て。よく見てみろ」
彼の顔面は蒼白になっていて──
「餅が、喉に詰まっている……!」
彼はすぐに下の病院に運ばれ、そして今回の「木ノ葉商店街の誇る看板娘達によるチキチキ出前レース」の優勝者はなしということになった。
俺達は何のために働いたんだろうか。徒労だったと吐き捨てようとして、俺はぐっと呑み込んだ────
タイツ太郎→そもそもらんま1/2の格闘出前レースのお話が好きで書いたので、パンスト太郎に寄せてみた。
時空間忍術の使用も禁止→逆口寄せとかやったら一瞬で終わるため。
なんとなく下忍試験について……
下忍試験についてはおそらく最低限の協調性と実力が示されればあとは上忍師の判断に委ねられるものかと。大抵の人はここで下忍としての実力のレベルの要求が高くて落としますが(だって下忍の合格率が低すぎる・あとアカデミーの卒業試験がゆるすぎるのも一因かと)、カカシ先生の場合協調性を求めすぎて落としているから怖がられてたんだと思います。ガイ先生の場合は一撃当てれば云々はあくまでもテンテンの予想で実際は青春を示したから合格を出したとかな気が。
カタナが2回も落ちたのは試験内容の宝探しと迷路脱出のレベルが単純に高かったから。上忍師なんてやりたくないから落とそう、って魂胆の人もいたと思います。あとはゴール直前で裏切られたりしました。