木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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誤字報告、ここすき、お気に入り、評価等々ありがとうございます。

 原作にない話はだいたいアニメオリジナルストーリーで……爆笑するシノ君はアニメで見れます、はい。

 伏線を混ぜ込ませるのが好きで……とは言っても大したものはできないのですが……。
 ここすきを覗いてみたら「お前、わかってんぞ」みたいなところに入っててびっくりしました。どなたが投票したのかはわからないので勘違いかもですが……ともかく、読者の方がどういう文章のところがいいと思ってくださるかわかるのはいいシステムだと思います、はい。ハーメルンさんは読みやすいし書きやすいサイトで本当にすごいです……。

 お札についてつらつらと書いていますが、あとで変えるかもしれないです……なんか変わってたらお察しください。はい。お札作りについては伝統を守る、という意識も強くて、それを打ち破ってチャクラ樹に頼らず科学の研究成果で作ったのが科学忍具なんだろうなあと。勝手に考えています。ところで、うずまきミトさんの髪飾りや青さんの耳飾りのお札って何か効果があったんですかね……謎です。でも格好いいですよね。


20枚目

 

 

 

(みつ)の国の奥方、加代様たち御一行7名が行方不明になったらしい」

 

 そう、御意見番の水戸門ホムラ様がおっしゃいました。

 

 今日の任務は変則的な3人1組(スリーマンセル)のようで、わたしは日向ヒナタちゃんと犬塚キバ君と一緒に呼び出されたのです。2人と油女シノ君は夕日紅上忍の班のメンバーなのですが、今はシノ君は別の任務で里外に出ているそうです。

 

 ヒナタちゃんは日向本家の長女で、ネジ君の従兄妹。そして同じ白眼(びゃくがん)の使い手です。キバ君は忍犬使いの一族の出身で、白い毛並みがふかふかの仔犬の赤丸君とはパートナーとしてずっと一緒にいます。今日の任務にももちろん同行するらしく、ぴしっと座っている赤丸君はとても愛らしいです。蟲使いのシノ君と合わせて3人とも感知も戦闘もこなせる優秀な忍びなのです。

 

「ご実家である(あん)の国への里帰りの途中だったそうだ。到着が遅いのを不審に思った餡の国の連中が捜索したが、通り道には籠やら長持やらの荷物のみがあるだけで加代様御一行は全員忽然と消えていた、と」

 

「つまり、その奥方様を探し出せってことっすか?」

 

「左様。ただし、その首崎峠(くびさきとうげ)には曰くがあってな。現在は国境なんだが、昔……50年ほど前に首長も消え滅んだ首崎一族の(しゅ)の国の首都があった場所となっておる。そして落城したが未だに城だけは残っているという首崎城には、幽霊が出るとか死人が出るとかなんとか。その城にも捜索に入ったそうだが、いずれも帰らぬ事態となったらしくてな。木ノ葉に依頼が来たというわけだ」

 

「……幽霊城、ですか」

 

 なるほど。でしたら感知タイプの術を使える2人にわたしが加わるのも納得がいきます。一応、悪霊退散のお札なんてのも作ることはありますからね。本職の方々のお祓いほどの効き目はないでしょうが……まあ、幽霊というものが実際にいたらの話です。備えあれば憂いなし、ということですね。

 

 でもお城といえば、そういえば──

 

「文化遺産の短冊城が何者かによって全壊させられたとか聞きましたけど……そのお城は文化遺産とかではないのでしょうか?」

 

 そうわたしが言うと、なぜかホムラ様はゴホゴホとひどく咳き込みました。お茶でむせてしまったのでしょうか。

 

「ひっでーことするヤツもいるもんだな」

 

「文化遺産だと……慎重に行動しないと」

 

「い、いや問題ない! 首崎城は文化遺産になるどころか、そもそも不気味がって地元民ですら近づかないような城だ。壊されていないのも何か呪いやら祟りやらがあるとされているだけで、こちらが城に何をしようと問題にはならぬということだ。さ、さ、励めよ!」

 

 ちょっと様子がおかしいホムラ様でしたが……ともかく。こうして、わたしたちの任務はスタートしたのです。

 

 

 

 

「────という感じですね」

 

 道中ではそれぞれの持つ能力について、改めて説明し……わたしはもちろんお札についてですが……するとキバ君から疑問が投げかけられました。

 

「しっかしお札ってのは便利なもんなんだな。性質変化までこなすなんて……でも、土壁札とか使ってるヤツを見ないのはなんでだ?」

 

「それについては、少し話が長くなりますが……そうですね。まず起爆札というものについて話さなければいけません」

 

 起爆札に書かれた術式は、昔さる方が開発されたものですが、なんと言ってもその特徴はチャクラ効率の良さです。少しのチャクラ消費で高威力が出る。お札は基本的に忍術の補助、すなわち印を組むという部分を代替してくれるものであり、元の忍術というものがあってお札ができるものですが……こと爆発に関してはもとの爆発の術よりも起爆札の方が勝っていたそうです。起爆札は瞬く間に広がり、そして。逆に爆発の術というものは廃れてしまったらしいのです。元々発動がかなり難しい術式だったようですから、起爆札で簡単に発動できるようになったならさもありなんといったところでしょう。

 

 さて。ここで、起爆札以外のお札ですが……例えば土壁札、というのは土遁 土流壁をもとにできたものです。土遁のわりと基本的な術ですね。と言いますか、起爆札が規格外なのであって普通は複雑な印を必要とする忍術についてはお札でその全部を代替するのは無理なのです。まあそれでも比較的簡単な印を結ぶ術ならば、印を覚えたり性質変化をしなくてもいい、というのは利点ですが……諸刃の剣でもあるのです。例えば、起爆札の時と同じようにその忍術自体が廃れてしまう危険性。あとはそんな簡単な印すらも覚えられないのなら高等忍術を覚えるのなんて難しいなんてもんじゃありませんし、性質変化だって使えなければ使えないままになってしまいます。実際、わたしもお札にかまけて性質変化は使えないままですし……。他にも術の起点が術者でなくお札になってしまう以上、チャクラ消費が大きくなる点もあります。起爆札の異様なまでのチャクラ効率のよさは術式のその部分が研究してもわからずじまいで、ブラックボックス化してるんですよね。もう(いにしえ)の天才の所業と言うほかないです、はい。

 

 そしてそもそもお札の原材料のチャクラ樹がチャクラを吸って成長するというよくわからない木で、おそらくないとは思いたいですがいきなり全部枯れて絶滅した、となってもおかしくはないのです。そうなってしまうとみんながみんなお札だけに頼ってしまっているとやばいのです。うちも廃業になりますし……ええと、そうなったら公文書作成とか代筆業とかでもしましょうかね。まあ、ともかくこういったわけがありましてお札は起爆札がメインで、それ以外の土壁札とかはあまり作らないように、使わせないようにとなっているわけです。封印術や結界術でその術の一部として組み込まれているようなお札はまた別の話ですが──

 

「コホン。まあそんな感じです、はい。話が長くなってしまいましたね。すみません」

 

「う、ううん。すごく興味深いお話だったと……ありがとうございます」

 

「ああ! オレも、説明されてもさっぱりわからないってことがわかったぜ」

 

 ある種の真理ですね、それは。こちらこそなんかすみません……お札についてはついつい熱く語ってしまうことが多いのです。

 

 お詫びにナルト君のことが気になっているらしいヒナタちゃんには恋愛成就のおまじないのお札をあげましょう。キバ君には動物と仲良くなれるおまじないの書かれたものを。髪飾りや耳飾りにして身につけるのもいいと思いますよ? あくまでもおまじないはおまじない、効果は定かではないのですが……って作り手がそう言ってしまっては駄目ですね、ええ。

 

 しかし……ナルト君、というと今はどこで何をやっているのでしょうね。便りの無いのは良い便り、とは言いますけれどもやっぱり心配にはなります。まああの自来也様とご一緒ですから、滅多なことはないでしょうが……今頃、綱手様を探し当ててお会いできていますかね。ヒナタちゃんもナルト君の様子をすっごく気にしていました。赤面してもじもじしながら聞いてきて、それはもうとても愛らしい様子でした。サクラちゃん並みにわかりやすい態度だと思います、はい。

 

 今も恋愛成就のお札を真剣に眺めている様子を温かく見守っていると、そんな視線に気づいたのかヒナタちゃんの方からわたしに話しかけてきました。

 

「お、お札といえば日向の方にもよく届いていて……」

 

「そうですね。いつもお買い上げいただきありがとうございますです」

 

「あの、それで。カタナさんって、うちに──日向本家の方に、よく出入りされてたんですか?」

 

 …………

 

 ……うーん、日向本家、ですか。白眼(びゃくがん)の人がいっぱいいる立派なお家ですよね……さっぱり記憶にないです、はい。

 

「ごめんなさい。どうしてヒナタちゃんがそう思ったのかはわかりませんが、わたしがお邪魔したことはたぶんないと思います」

 

「いえ、こちらこそごめんなさい。あの、ネジ兄さんとアルバムを見返していたら、カタナさんの写真があって、それで……」

 

 ヒナタちゃんとネジ君とは本家と分家ということがあって中忍選抜試験ではあまり良好な関係とは言えなかったようだったのですが、あれから和解したのでしょうか。仲良くなったならそれはとてもとてもよいことなのですが、しかし写真とは。完全な物的証拠です。でしたら単にわたしが忘れているだけですね。でも本当に記憶にないんですが……。

 

「それはどんな感じの写真でしょうか?」

 

「泣いている私を抱いて、つられたのかカタナさんも泣いている写真とか……私が赤ちゃんの時の写真で、カタナさんもまだ小さかったから覚えてないのも無理もないと思う」

 

「そ、それは……そうですね……」

 

 うう、自分が泣いている写真がよそ様のアルバムの中にあるのはちょっと、いえ結構恥ずかしいのですが。その写真、くださったりしないでしょうか。でも赤ちゃんの頃のヒナタちゃんも可愛らしかったでしょうし、大切な思い出の一枚だと難しいですかね。

 

 むむむと内心で唸っていると赤丸君とイチャイチャしていたキバ君が声を上げました。

 

「お、ここだぜ」

 

 矢印看板には首崎峠と目尻ヶ丘の文字が。どうやら依頼の場所にたどり着いたようです。おそらくお城もこの近くにあるのでしょう。

 

 辺りを見回していると先ほどまでは晴天だったのが急に空模様が怪しくなってきました。

 

「うわっ、やっべ。降ってきやがった。急ごうぜ!」

 

 はじめは小雨だったのがどんどんどしゃ降りになってきています。この大雨のうえに雷までもがゴロゴロと鳴っており、傘を出しても無駄な感じがします。雨宿りの場所を探した方がいいですね。

 

「あそこ、お城があります……!」

 

「うん。でもなんか嫌な雰囲気……」

 

 確かにヒナタちゃんが言う通り、前情報のせいもあってかおどろおどろしいような雰囲気のあるお城です。ただ、こんな雨の中ですし、軒先だけでもお借りしたいです。

 

「行きましょう!」

 

「ああ。このままだとずぶ濡れになっちまう」

 

 近づいてみると城は寂れてはいるものの、未だに堂々たる風格を放っている立派なものでした。

 

 とりあえず軒先、入り口の扉の前で雨宿りをしようと立ったわたしたちでしたが────

 

 ギギギ、とひとりでに扉が開き。

 

 それに驚いていると今度は吸い込まれるような風に押されて。

 

 バタンと閉まる扉を背に、わたしたちは完全に城の中に招き入れられてしまっていたのでした。

 

 ………………

 

 ……………………

 

 本当に、幽霊城っぽいですねこれは。抵抗する間もありませんした。

 

 扉を開けようと試みてみますが、やはりというべきか開きません。壊す、というのは……最後の手段にしたほうがいいですよね、ええ。何が起こっているのか、何が起こるのかがまださっぱりですし。それにどちらにせよ蜜の国の方々がここにいる可能性がある以上、入らなければいけない場所ですもの。まあ、もう少し外から情報を集めてからにしたかったのですけれども。

 

 入ってすぐの空間はガランとした広い部屋でした。何もなく、わたしたち以外は誰もおらず……ただ、続いている部屋からは明かりが漏れており、幽霊の仕業なんかでなければ誰かが最近入った痕跡はあるようでした。

 

「すみません! どなたかいらっしゃいませんか?」

 

 ヒナタちゃんが呼びかけるも、何の返答もありません。誰かが動く音もしなければ、気配もないようです。うーん、これは……。

 

 とりあえず荷物を置いて濡れた身体を拭っていると、拭かれるのが嫌だったのか赤丸君が明かりの方へと駆け出していってしまいました。

 

「おい、待てよ赤丸!」

 

 わたしたちは慌てて赤丸君を追ってその部屋へと入りました。

 

 部屋には大きな食卓。その上には食料と飲み物が置いてありました。ひい、ふう、みい……置き方からして7人分くらい、ですかね。7人、と言いますと蜜の国の奥方様たち御一行の人数と一致します。

 

「いい匂いがするぜ……」

 

 流石に食べない方がいいと思いますよ、キバ君。

 

 部屋の奥にはずらりと肖像画が並んでいました。その中でも真ん中にデデンと飾られている青年のものが一番新しいもののようです。と、いうことはこれが────

 

「このお城の城主だった人かしら」

 

「そうですね。50年前の、首崎一族最後の長……でしょうか」

 

 じっとその絵を見ていると、ギョロリと目が動いたような……いえ。わたしは知っています。脳が凹面を凸面として誤認識してしまう錯視を利用して、絵の人物の目の部分だけを凹凸にくぼませそのくぼみの奥に黒眼を描けば、目が追ってきているように錯覚してしまう絵だってつくれるのです。落ち着いてもう一度見ましょう。

 

 じーっと真正面から見ると、今度は目が動く様子はありません。横から見ても同様です。目の部分が凹んでいる、ということもありませんし……気の所為、だったのですかね。幽霊城ということで少々過敏になりすぎていたのやもしれません。

 

「とりあえず手分けして探すか」

 

 奥方様たちとそれを探しに入った餡の国の人たち。彼女たちを見つけるべく、わたしとヒナタちゃん、キバ君と赤丸君という二手に分かれることになりました。

 

 

 

 

 廊下には飾られている甲冑が並んでおり、何だか不気味な雰囲気を放っています。ヒナタちゃんの白眼(びゃくがん)で見てもらいましたが中に人が入っているということもないらしいです。うーん、奥方様たちはどこにいるでしょうね。

 

 とりあえず部屋を開けて回るも人の居る部屋はありません。ただ、気になる部屋もあって──

 

「すごい本……」

 

「書庫、ですかね」

 

 ずらりと並ぶ本棚にはびっしりと本が敷き詰められています。武芸や学問の本が多いですね、やはり。

 

 本棚を抜けて部屋の奥を見ると、本を見るためのものなのでしょうか。小さな机があり、その上には巻物が数本置かれていました。特に罠などはないことは確認して、開いてみます。

 

 首崎城私史、と書かれた巻物には50年前の日付があり。おそらく落城した時のことが記されていました。

 

 

 城は既に敵の軍勢に囲まれた。我が民は無残にも殺され城内に残る手勢もいくばくか。今宵を待たずに我が身も死ぬる身となろう。叶うことなら最期にあの方にお会いしたかった……だが我が怨みはここに残り。我が身をもって一人残らず喰らい尽くさんとす。城に入りしものすべてを────首崎剛佐(ごうさ)記す。

 

 

 首崎剛佐とはあの肖像画の人物だと思うのですが……喰らい尽くす、とは? 

 

 ヒナタちゃんと目を合わせ、互いに首を捻り。とりあえず他の巻物も読んでみようと手を伸ばすと──

 

「何、これ……」

 

 突然。目の前の壁が赤黒い色になりました。それはピクピクと脈打っているようで……生き物、なのでしょうか。

 

 その肉の壁は素早くわたしたちに迫ってきて。

 

 気づけば身体は何かぶよぶよとしたものに包まれて──────

 

 

 

 

「ヒナタ、カタナ! 無事か!?」

 

 気絶していたらしいわたしは、キバ君の声で目が覚めました。隣にはヒナタちゃんも寝ていたようで、一緒に起き上がります。

 

 辺りは一面、肉の壁のようでした。うう、気持ち悪いです……。

 

「まさか、この空間の中に奥方様達も引きずり込まれて……」

 

「さっさと探すぞ。しっかしなーんか変に酸っぺー匂いがするんだよなあ」

 

 くんくんと鼻を鳴らすキバ君たちの鼻は今は少し利きづらいらしいです。とりあえず手探りで捜すしかありませんね。

 

 ここは片側は行き止まり。一本道になっています。

 

 3人と1匹で先へと走っていくと、途中で赤丸君がワンワンと鳴き出しました。

 

「この先に人の匂いがあるらしい!」

 

 そして────

 

 奥方様たちは、見つかりました。

 

 ただし。気を失って、肉の壁に埋もれた状態で。

 

「奥方様!」

 

 その高貴な身なりからして奥方様御一行で間違いないでしょう。8人以上いるので、餡の国の人たちもいるのだと思われます。

 

 全員、息をしているので生きてはいますが……このままの状態ではいつまでもつか。肉の壁から引っ張りだそうとするも、どれだけの力で張り付いているのか全然取れそうにありません。攻撃を当てれば取れそうですが、奥方様たちを傷つけてしまうでしょう。これは──この空間自体をどうにかした方がいいですね。

 

 ヒナタちゃんが白眼(びゃくがん)で見てくれましたが、壁全体がチャクラの流れに覆われているらしく……柔拳を打ってもプニョンと跳ね返されてしまっていました。

 

「これは……たぶん、生き物の食道。私達は何かの動物の食道の中にいるんだよ」

 

「なるほど。特殊な口寄せの術、というわけですか」

 

 時空間忍術については、その一つである口寄せの術については家でもよく資料を読みました。口寄せ動物の食道のみの召喚だとか精神世界への口寄せだとか、特殊な口寄せがあると読んだことがあります。

 

 城のどこまでに召喚されているのかはわかりませんが、しかしこれは私史からすれば首崎剛佐が口寄せしていることになります。『我が身をもって一人残らず喰らい尽くす』と。そう記していたのですから。ただ、契約者が死亡すると口寄せ契約も自動的に解除されるはずですので……彼はまだ生きていると。未だに怨みを抱いていると。そういうこと、なのでしょうか? 

 

 

「首崎、剛佐は……」

 

 

 

 ────ふいに。

 

 何か寒いような、温かいような。不思議な感覚があって。

 

 わたしたちの来た側を見やると、ぼんやりとした光がありました。

 

 それは徐々に、徐々に人型を形作っていき。あの肖像画の青年の姿になります。

 

「首崎剛佐……?」

 

 彼はそっと上を指して──そしてお辞儀をして。すっと、ふわりと。何事も無かったように霧散し、消えていきました。

 

「し、ろ、ま、り、と、あ、の、か、た、を、た、の、む?」

 

 そう、途切れ途切れに声を残して。

 

「どうしたの、カタナさん?」

 

「何か見つけたのか?」

 

「……お二人には、見えませんでしたか?」

 

 わたしがそう聞いても、ヒナタちゃんもキバ君も何も見ていなかったようで。ただただ疑問符を頭に浮かべていました。

 

 ここは、幽霊城と噂される場所。今のは本物の幽霊……? いえ、とりあえずは従ってみましょう。他に手がかりも、おそらくは時間もあまりないです。

 

「キバ君、上です。上に出たいです。お願いします!」

 

 言葉少なでも信じてくれたキバ君は赤丸君とともに変化して……獣っぽいキバ君が2人、というような状態になると、そのまま身体を高速回転させて肉の天井にポッカリと丸い穴を開けてくれました。

 

「獣人分身! 牙通牙(がつうが)!!」

 

 わたしとヒナタちゃんもその穴から上へと飛び出します。

 

 そこはこの城に入ってきた時に見た、広い部屋でした。わたしたちの荷物もまだそこにあります。

 

「ヒナタちゃん、上に何かありませんか?」

 

白眼(びゃくがん)! 

 ……うん、あるよ。巻物。たぶん契約の巻物!」

 

「ありがとうございます。では上へ行きましょう!」

 

 床は何かの液体で……おそらく胃酸か何かで満たされていっています。階段を走るわたしたちの耳には不気味な音が響きました。外からでしょうか。

 

【我は剛佐様の命令により、城内に入りし者どもを喰らう!】

 

 これが口寄せ動物の声ですかね……えーい、急ぎましょう。

 

 階段をずっと上っていくと。一番上の部屋には首崎蜥蜴と書かれた巻物が大切そうに置かれていました。その横にも、何か置いてあります。手のひらサイズの肖像画ですね。鎧を着た青年と、高貴そうな衣装に身を包んだ姫という、仲睦まじい男女が描かれていて……2人とも見覚えのある顔です。でも年齢的に片方はおそらく──

 

【その巻物に、触れるでない!】

 

 ひときわ大きい声でした。視線を感じて窓の外を見るとギョロリと真っ赤な、大きな目がこちらを覗いています。

 

 ええと、城の外……おそらく城に巻き付くように口寄せ動物がいるのでしょう。だいぶ巨大です。城への侵入者がいないかずっと見守っていて、入る者がいたら自身の食道を口寄せしてゆっくりと食べてしまっているとか、でしょうか。逆口寄せとして人の口寄せができる以上、口寄せ動物側が自身の食道を口寄せするのも可能なはずです。首崎剛佐がまだ生きていて、その命令に従っているという可能性もありますが……。

 

「おいっ、どうする?」

 

 巻物を燃やす? いえ、契約者の首崎剛佐の生死が不明な以上、果たして意味があるのかどうか。

 

 とりあえず巻物に手を伸ばし広げてみますと、最も新しい欄には首崎剛佐と書かれていました。まあ、そうですよね。うーん……。

 

 ──賭けに、でましょうか。

 

 わたしは自身の血で巻物に名前を書き、指紋を押しました。契約、一応完了です。あとはいつでも燃やせるように起爆札を貼っときましょう。

 

 キバ君とヒナタちゃんにここは任せてほしいと示すと2人とも頷いてくれました。よし、年上として格好悪いところは見せられませんね。

 

【貴様……何をっ!】

 

「もう侵入者を殺すなんてことはやめてください。首崎剛佐様も望んではいないはずです」

 

【黙れ! 剛佐様は我とともに在る。剛佐様の願いは我の願い。剛佐様の最後の命令を我は完遂する!】

 

「でしたら、最後の願いは更新されましたよ。彼は今や侵入者を殺すことは望んでいないですし、たぶん貴方のことを解放してあげたいと思っています」

 

【ほざけっ】

 

「この肖像画を見てください。剛佐様と……貴方の食べようとしている奥方様、加代様にそっくりです。加代様の御祖母様あたりでしょう。彼は恋人の孫を守ろうと、そして貴方をこんな役目から解放しようとわたしたちを呼んだのです」

 

 きっと。でもたぶん、そう間違ってはいないはずです。

 

 突然の大雨。勝手に開かれた扉。あれらがなければわたしたちが入るのはもう少し慎重になり、遅くなってしまっていたでしょう。そしてこの口寄せ動物も加代様たちを少しくらいは溶かしちゃっていたやもしれません。

 

 わたしは側で見守ってくれている2人にそっと下、食道へ戻ってと合図を出しました。2人はコクリと頷いて階段を下りていってくれます。

 

【黙れ黙れ黙れ!】

 

「シロマリ」

 

 ピタリ、と声が止みました。

 

「シロマリとあの方を頼む、と。あの方とは加代様のことで……シロマリとはやはり、貴方のことですね?」

 

【な、なぜその名を……】

 

「聞いたのですよ。直接」

 

【ば、馬鹿な……そんなはずが……】

 

「ですから、もう終わりにしましょう。術を解いて奥方様たちを解放してださい。どうかお願いします」

 

【…………嘘だ。剛佐様は、我が、我と────だから、嘘だ。デタラメに決まっている……!】

 

 説得失敗、ですかね。仕方ないですか。

 

 でも完全に動揺しています。おそらく、今なら拒否されずにできるはず……わたしは窓に手を付き叫びました。

 

「口寄せの術!」

 

 ──成功、ですかね。

 

 口寄せ動物は既に外にいます。召喚場所が同じなのですから、外見上に違いはありません。ただ。わたしが思い描いたのは完全な姿での口寄せ。内蔵なんかも、もちろん完全に揃っている状態での。

 

 そして、2人は再び食道の中へと入ってくれたはずですから──

 

【は、腹の中が……】

 

「はい。わたしの仲間が貴方のお腹の中にいます。はやく吐き出さないと、内側から殺されちゃいますよ? きっと心臓まで一直線に行っちゃいます」

 

 白眼(びゃくがん)牙通牙(がつうが)でそれはもう、あっさりと。

 

 先ほども食道に穴を開けていたことで想像はついたのでしょう。既に体内で攻撃を受けたのやもしれません。口寄せ動物──シロマリは窓から離れて地面にうずくまり勢いよくペッペと吐き出しているようでした。やっと見えたその姿は。白い、大きな蜥蜴でした。

 

 わたしもすぐさま窓を破って外に飛び降ります。

 

 辺りにはぐっしょりぐったりとした人々が転がっていました。投げ出された衝撃でみな目を覚ましたようで不思議そうな表情を浮かべています。そんな彼らにヒナタちゃんたちは今の状況を説明してくれていました。これで全員、なのですかね。あ、全員っぽいです。キバ君がOKマークを出してくれています。……まだ外は雨が降っていて、彼らについた粘液を洗い流してくれているようでした。

 

「カタナさん!」

 

「ヒナタちゃん、キバ君。ありがとうございました! あとは……どうしましょうか?」

 

 わたしの手には契約の巻物と肖像画。あ、荷物の回収を忘れてました……まあ、もう仕方ないですね。

 

 姿を現したシロマリは大きいは大きいですが、たぶん直接戦闘にはあまり向いていないタイプです。そもそも忍びではない人が口寄せできていますからね。首崎一族の先祖に忍びがいたんでしょうか……ともかく、特殊能力があるだけで正直あまり強くはないでしょう。倒すなら今がチャンスではあります。任務外ではありますけれども。

 

「ま、やるっきゃねーだろ」

 

 キバ君の言葉に従い、戦闘体勢に入ったわたしたちによって。予想通り打たれ弱かったシロマリはわりとあっさりと倒れ、小さな蜥蜴の姿になりました。これが本当の姿と、そういうことなのでしょう。止めを刺そうとしたわたしたちに──

 

「待て。少し……少しだけ、待ってほしい。そやつと話したいことがあるのじゃ」

 

 加代様はそう、話しかけてきました。

 

「加代様。いけません、危険ですのでお下がりください」

 

「そうです。荒事はこの忍どもに任せましょう」

 

 それでもなお話したいと熱烈に主張する加代様に、わたしたちは離れた状態でならばと言いました。もちろんシロマリが何かしようとすれば即座に動ける体勢は整えています。

 

「シロマリ様。お祖母様よりお主の話は聞いておった。剛佐様の大切な友、だと。最初に出会った時には、丸々と鞠のように肥えっていて……それでシロマリと呼ぶようになったと」

 

 ぴくりとシロマリは反応しました。本当のこと、ということなのでしょう。

 

「城に勝手に入ったことは詫びよう。妾はお祖母様の代わりに……ここに来れば剛佐様の幽霊に出会えるかと思って来てみたのじゃ。幽霊城の噂は妾たちにも届いておったからの。里帰りの道中でどうにかみなを振り切って入ってみたのじゃ。まあ、すぐに追いつかれたがの」

 

「今更来てそんなことを言うな! 剛佐様を助けにも来なかったくせに……」

 

「それは──それは、お祖母様にはどうしようもできなかったことなのじゃ。行こうとしたとて周りの者が止めに入る。大名の娘に自由などない。父の命令に従う駒、国のために使われる人形でしかないのじゃ。人間のしがらみというのは厄介なものよな。城の外にだって滅多に出られない身。今回妾が来れたのとて幸運に幸運が重なってのことじゃ」

 

「………………」

 

「お主がまだおるとは思いもよらなかったが……一言、言わせてくれ。剛佐様を守ってくれて、その意志を守ろうとしてくれてありがとう。ま、それはそれとして妾らを食わんとしたのはむかっ腹が立ったがの」

 

 軽く笑って締めくくって。加代様の言いたいこと、というのは終わったようでした。

 

「──悪かったな」

 

 ボソリとそう言ったシロマリに……うーん、わたしたちもちょっとばかり同情心が……。それは加代様も同じようでした。

 

「……そこな童ども。この蜥蜴、殺さず連れて行くのがよいのではないか? この度の原因として突き出そうな。無理に、とは言わんが──」

 

 まあ、チャクラを封印すれば……。

 

 わたしたちは顔を見合わせて頷き、了承の意を伝えました。

 

 いつの間にか雨はやみ────雲の切れ間からは一筋の光が差して。

 

 この剛佐様とお祖母様との肖像画は加代様に渡した方がいいだろうな、と。そう思いました。

 

 

 

「今回の任務ではわたしは幽霊に助けていただいた……のやもしれません。正直なところ未だに幻覚だったのでは、と疑っている部分もあるのですが。だって幽霊ですよ、幽霊。悪霊退散のお札を持っていったのに現れましたし。わたししか見ていなかったのもちょっと……」

 

「先生は幽霊を見たこと、なんてありますか?」

 

「魂というものは信じていますし、と言いますか信じざるを得ないのですけれども……幽霊というと途端に胡散臭く感じてしまうのは何故でしょうか」

 

「どうせなら出てほしい、という人が化けて出てくれないからやもしれませんね」

 

「あと、やむをえずでしたけれども口寄せ契約してしまい……シロマリというカメレオンで。今回はみんな無事だった、ということでほぼほぼお咎めなし。強いていえば彼の大切にしていた城が壊されることになった、というのが罰でしょうか。あとは木ノ葉でこき使われることになりました。まあ身体の色とサイズを変えたり、身体の一部だけを口寄せできたりするだけなんですけど……その口寄せ技術を他の人に教えたりとか、人間サイズになって雑用をやらされたりしているみたいです」

 

「そういえばナルト君にもらったとかいう観葉植物の……ウッキー君の様子もサクラちゃんと一緒にできるだけ確認して、お水をあげたりしてますよ。ただ、もうすぐお花が咲きそうで──」

 

「カカシ先生のおバカ…………あんまりお寝坊さんだと、また遅刻しちゃいますよ」

 

 

 

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