木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
21枚目
「おい、聞いたか……?」
「ああ、やっとだな」
「よかったよ、本当に──」
その日、里中はある話で盛り上がっていました。
「──綱手様が戻って来て」
五代目火影に綱手様が就任される、という話です。
つまり、自来也様とナルト君も戻って来た、ということなのでしょう。
──そして。病院にいる人たちの、治療もしていただけるということです。
「サクラちゃん! 綱手様が……これで、カカシ先生やサスケ君も──」
病室ではサクラちゃんがサスケ君の傍らで俯いていました。とっても憂鬱げな表情で……それも今日までになる、はずです。いえ、絶対にみんな目覚めてくれることでしょうとも!
「綱手様ってガイ先生の言ってた、医療忍術のスペシャリストの……?」
「はい! 何でも忍術でご自身の見た目すら操作できるのだとか」
それはもう素晴らしいくらいの医療忍術の腕の持ち主だそうです。さらには五代目火影に就任してくださるとなると、木ノ葉にとってどれほど心強いことでしょうか。
「そっか……よかった……」
「自来也様もナルト君も戻って来てくれているのでしょうし、これで一安心です。また7班で任務を受ける日々ですよきっと。忙しくなりますね」
「……うん!」
最近の任務は人数が揃わないので他の人と受ける任務ばかりでしたが、また7班のみんなと受けれることになります。うぅ、なんだか懐かしい気すらしてきますね。とっても楽しみです。
大丈夫、とは思ってもやはり不安にはなるものなのでしょう。ちらちらとサクラちゃんの視線はサスケ君を見たり、病室のドアを見たり、窓の外を見たりと行ったり来たりを繰り返しています。わたしはそんなサクラちゃんを邪魔しないようにとそっとお花を眺めていました。今日のお花も綺麗に生けてあります。いのちゃんとサクラちゃんは友達だけど、サスケ君を巡った恋のライバルだそうで……でもこういうお花選びとかで協力しあったりしているんだろうなと、そう思いました。
「入るよ」
外から声がして、入ってきたのはとても美人な方でした。綺麗な金髪を後ろで二つ結びにしていて、額には青い菱形の模様が。瞳の色は茶色でちょっと親近感が湧きます。わたしやテンテンよりだいぶ明るい色ですけれども。かなりお若く見えますが、この方こそがおそらく──
「綱手様?」
「オウ! サクラちゃん、カタナちゃん、もう大丈夫だってばよ! サスケももうバッチリだってばよ」
「ナルト……!」
久しぶりに会ったナルト君は何だか一回り成長したようで。でも、いつもみたいにイタズラっ子っぽくニカッと笑う姿にとっても安心しました。
「ありがとう、ナルト君」
ナルト君が綱手様を連れて来てくださったんですね。
わたしは深々と綱手様にお辞儀をしました。
「綱手様……どうか、どうか、みなさんをお願いいたします」
「サスケくんを助けてあげて下さい!」
「ああ、任せときな!」
綱手様がそっとサスケ君の額に手を当てて。それだけ、なのですが。恐ろしい程に精密なチャクラコントロールが成されていることが伝わってきました。
静寂が、場を包みます。決して邪魔をしないようにと息を呑んで、もしかしたら呼吸することすらも忘れてその光景を見つめていました。1分、2分……いえ、どのくらい経ったかはわかりません。ともかく。
「サスケ!」
「サスケ君っ」
「サスケくん……」
サスケ君は、パチリと目を覚まして。しっかりと身体を起こしました。まだぼんやりとしている様子ではありますが、ずっと寝ていたサスケ君が動いている、というだけでも感動してしまいます。
綱手様は本当に素晴らしい方だと。ガイ先生の言葉を、自来也様を、仲間を信じて正解でした。
よかった……本当に、本当に、よかったです。
「サスケくんっ……」
サスケ君の首にすがりついて泣くサクラちゃんの姿を見ていると、わたしまで涙が出てきてしまいそうになります。うぅ、いえ、まだはやいです。ぐっと堪えましょう。
わたしも声をかけようとはして。でも、この2人の空間を邪魔していいのかと思ってしまい……ナルト君も同じ気持ちになったのでしょう。病室を出てちょいちょいと指を揺らしました。
「次、次!」
いつものナルト君だったらサスケ君の病室でもっとはしゃいでいたはずです。たぶんナルト君の中で、何かがちょっと変わったのでしょう。
でも、綱手様相手にちょっと気安すぎやしませんか、君……。自来也様と一緒に過ごしていた影響でしょうか。罰としてほっぺプニプニの刑に処しましょう。えい、えい。
「たかだか2人の賊にやられるとは。お前も人の子だな。天才だと思ってたんだけどねェ……」
「……すみません……」
カカシ先生はサスケ君と同じくぼーっとした様子で起き上がり、そして小さくつぶやきました。あの、綱手様、流石にそれはちょっと理不尽かと……綱手様なりのジョークだとは思いますが。
でも、先生もお目覚めになってほっとしました。いえ、信じてはいましたけれども。けれども!
「よーし、カカシ先生しゅーりょー! 次はゲジマユだってばよ」
「はやく我が弟子リーを見てやって下さい!!」
ガイ先生が謎の指の動きで綱手様をリー君の方へと誘います。といいますかナルト君、リー君のことゲジマユって呼んでいたんですか……? 確かにガイ先生ともども眉毛が太い方々ですけど……いえ、だとしたらガイ先生のことは何と呼んでいるのでしょうか。ちょっと気になってしまいました。
ともかく。リー君の場合はカカシ先生たちとは状況が違いますし……デリケートな話になるやもしれませんよね。
「ナルト君ナルト君。あの、よろしければここで旅のお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「えー、うーん……でもゲジマユのことも気になるしなァ」
渋るナルト君に、綱手様が援護してくださいました。
「いいじゃないか、話してやりなよ。どうせお前が来たところでできることはない。あとで猿飛先生のことともども伝えてやるから」
「はいはい。約束だぜ、綱手のばあちゃん!」
…………
………………
ばあちゃん?
ガイ先生と綱手様はさっさと病室を出ていってしまいました。綱手様は特に何も気にされた様子はありませんでした。え、ええと、聞き間違いでしょうか。
いえ、ナルト君がヒルゼン様のことをじいちゃんと読んでいるのは知っているのですよ。それはいいと思います。むしろほっこりします。でもばあちゃんは、ばあちゃんはちょっと話が違ってきて……う、うーん。まあリー君も綱手様もご本人が了承しているのでしたらわたしがとやかく言う話でもないですね。
「それじゃ、ナルト。話してちょーだいよ」
カカシ先生に促され話したナルト君の自来也様との修業の旅は、かなりハードなものになったようでした。修業自体はもちろんのこと、綱手様と……大蛇丸との、ことが。
自来也様とナルト君は綱手様がいるという話を聞いて短冊街へ向かい、そこで綱手様とお付のシズネさん(とペットのブタさん)に会えたそうです。が、綱手様には大蛇丸が先に接触しており……ヒルゼン様につけられた傷を治せと。そう言われてしまっていたらしいのです。
結局、最終的には大蛇丸とカブトさん以下音忍に対峙し──なんとか退けられたそうです。
にわかには信じられませんが……カブトさん、本当に大蛇丸の配下だったんですね。うぅ、優しい方だと、そう、思っていましたけれども。人は見た目によらないということでしょうか。自分の見る目の無さが嫌になります、はい。
そして大蛇丸が次に何をしてくるのかも気になりますね。サスケ君、ヒルゼン様、綱手様、自来也様、そして穢土転生体……木ノ葉の誰を、どこを狙ってきてもおかしくないです。
「話してくれてありがとうございます、ナルト君。本当に、お疲れ様でした」
「へへっ、こんくらいよゆーだってばよ!」
頼もしいですね。ただ、柱間様の首飾りをいただいた、というのが気になるのですが……確かその首飾り、綱手様以外がつけると死ぬという噂があったような。何より柱間様の遺品ですし、だいぶ貴重な石でできているものであったはずです。うーん、それだけ綱手様がナルト君のことを買っているということでしょうか。
「しかし自来也様がナルトに螺旋丸を、ねェ……」
「カカシ先生もご存知の技なのですか?」
「ま、そりゃあね。オレの師である四代目火影、波風ミナト先生が考案したものだし」
なるほど。確かにカカシ先生のお部屋の枕元にはわたしたち7班で撮った写真と、ミナト様とカカシ先生たちの班で撮ったのであろう写真が並んでいます。あとウッキー君も。
カカシ先生はミナト様の弟子で、ミナト様は自来也様の弟子で、ナルト君はカカシ先生の弟子であって自来也様の弟子でもあって……むむ、ちょっとややこしいですね。さらに自来也様と綱手様はヒルゼン様の弟子で、ヒルゼン様は扉間様の弟子ですから火影は扉間様の系譜になっているといっても過言ではないですよね。もしナルト君が火影になったらますますそうなりますし。柱間様はちょっと別枠ですけれども。師弟関係で意志が継がれていっていると思うと、なんだか感慨深いです。
チャクラには火、風といった性質変化と、威力などを操る形態変化があります。螺旋丸はこの形態変化を極めた技だそうで、印を結ぶ必要もないものとのことです。それだけ聞くとちょっと簡単そうに聞こえてしまうのですが、実際は習得がとっても難しい技らしく。掌でチャクラを乱回転、圧縮してそれを敵へ放つ技で、かなりのチャクラコントロールを要求されるんだとか。ただその威力はもうとてつもないとのことです。そんな技を使えるようになっただなんて、ナルト君は本当にすごいです。男子三日会わざれば刮目して見よとは言いますけれども成長っぷりが半端ないですね、ええ。
千鳥といい、必殺技っぽくて格好いいですよね。両方ともわたしが扱うのは難しいでしょうが……うーん、必殺技、必殺技ですか。互乗起爆札、とか? いえ、やめましょう。読んで字の如く必ず殺す技になってしまいます。
そうやって話しているとナルト君はイルカ先生との約束があったと叫んで駆け出して行ってしましました。相変わらず仲良しさんですね。
カカシ先生と2人きりになった病室の中、わたしは先生が眠っていらした間に受けた任務について当たり障りない範囲でご報告していました。
「────と、いうわけでして。モヤ忍のアニキさんからは『次こそは覚えてろよ!』というカカシ先生への捨て台詞と、『またこの辺りに来たときにはとみやに泊まるんだぞ』という営業と、あとお薬をいくつかいただきました。なんでもあの辺りの山にしか生えない特殊な薬草で作るそうで」
「それは色々ともらったね。ま、悪いけどたぶん明日になったら忘れてるかな……あの旅館にはまた行ってもいいけどね」
……まあ、モヤ忍さんですからね、ええ。わたしたちが忘れた頃にまたやって来そうです。と言いますか、旅館「とみや」に行ってもしれっと現れそうですし……。
他にも罠づくりや野営のやり方を教わった話や、ヒナタちゃんとキバ君と幼い頃の失敗談をしたこと──わたしの場合は机の上にあった墨をお茶と間違えて飲んでしまったこと、キバ君はドッグフードを食べてみたら想像以上に不味かったらしく吐き出したことがあること、ヒナタちゃんは白玉を茹でてみたら紙粘土みたいになってしまったこと等々、って食べ物関連ばっかですね。あとは赤丸君の身分違いの恋──餡の国まで奥方様を送り届けたらそこで飼われている可愛い仔犬がいて──という話をしたりして。それからわたしはずっと気になっていたことを聞いてみました。
「あの、綱手様がおっしゃっていた『2人の賊』、とは……先生方が交戦したのはイタチだけではなかったんですか?」
「ん? ん、ああ……うん。イタチと共にいたのは『霧隠れの怪人』干柿鬼鮫。再不斬と同じく抜け忍で忍刀七人衆が一人。鮫肌というデカい刀を所持している男だ」
再不斬と同じ……となるとかなりの強者なのでしょう。ガイ先生は何もおっしゃっていませんでしたが、おそらくはわたしたちに心配をかけまいとあえて黙っていたのでしょうね。イタチだけでなく、そんな人までいたとは。といいますか、霧の忍び刀七人衆って霧隠れにいるものじゃあないんでしょうか。7本しかないのに少なくとも2本も持ち出されているなんて管理体制に問題があるのでは……? 霧隠れは閉鎖的な里なので内情はよくわかりませんけれども。
そしてなぜイタチと鬼鮫が揃って木ノ葉へ来たのか。2人して九尾を狙っているのでしょうか。それとも片方だけが、だったのか……2人の裏にもっといたり、2人以外にもいたりするのやもしれません。とっても気になってしまいます。でも、とりあえず──
「そんな2人と交戦したにも関わらず、カカシ先生もサスケ君もナルト君もこうして無事で何よりです」
と言いますか、7班はトラブルに愛されすぎではないでしょうか。強者との遭遇に次ぐ遭遇の数々な気がします、はい。
しかもこれからも大蛇丸にサスケ君が、イタチたちにナルト君が狙われそうですし……むむ、前途多難です。
「そうね……ありがとう、カタナ」
「入るよ」
再びかけられた声に、入ってきたのはやはり同じ方……綱手様でした。今度は後ろに短めの黒髪の女性もいらっしゃいます。彼女が付き人のシズネさんでしょうか。
「おやカカシ、いいもん食ってるじゃないか」
綱手様はカカシ先生の手にあるリンゴのお皿を見てそうおっしゃいました。病室といえばこれかな、と思って剥いてみたのですが……まだリンゴはありますし、綱手様の分もご用意した方がいいのでしょうか。うぅ、あまり綺麗にはできないのですけれども大丈夫でしょうか……?
「綱手様もお食べになりますか?」
「いや、いいよ。ありがとね」
ちょっとほっとしました。カカシ先生には十分上手と言われましたけど、次代の火影様にお出しできるほどのものかと考えると……コスケさんならこういうのも上手そうですよね。野営とかだけでなく普通の料理も教わっておけばよかった気がします、はい。
「ナルトはいないんだね。帰ったのか?」
「はい。イルカ先生との約束を思い出したとかで……申し訳ありません」
「ん、そうか。大丈夫だよ、そう固くならなくても。取って食いやしないから」
「いえ、元々の性分と……あとは伝説のくノ一と名高い綱手様の前では緊張してしまいまして」
そういうもんなのかね、と苦笑する綱手様はやはり美しく、格好よく。テンテンが尊敬してやまないのもとってもよくわかります、はい。わたしもすっかりファンになってしまいました。
「じゃ、ナルトに会ったら伝えといてくれ。猿飛先生もじきに……そうだな。明日には目覚めるよ」
……
…………ヒルゼン様、が。明日には。
「……! 本当ですか!? よかった……本当にありがとうございます、綱手様!!」
「ああ。ただ……いや、サスケはこのままもうしばらく入院かな。カカシ、お前はすぐにでも家に帰れるよ」
「わかりました」
カカシ先生は素早く退院の準備を始め……そして。なんだかほっとして力が抜けてしまったわたしの目からはポロポロと涙がこぼれてしまいました。
木ノ葉崩しが起きて。木ノ葉にイタチがやって来て。ヒルゼン様が、カカシ先生が、サスケ君が倒れてしまって。守られたものもありましたが、失われたものも多くて。それが、ようやく一区切りついた気がしました。
慌てて目元を拭うわたしの頭を、そっと綱手様が撫でてくださいました。
そして──────
わたしたち里に住むみんなが見上げる中。火影の就任式は始まりました。既に火影邸の屋上には自来也様やコハル様、ホムラ様、…………
「ではこれより五代目火影の就任式を始める!」
「この場を取り仕切らせてもらうのは三代目火影、猿飛ヒルゼンじゃ。皆には心配かけたのう」
……ヒルゼン様が、いらっしゃいます。車椅子に座ってはいるもののお元気そうな様子です。
「では登壇願おうかの。これより火影を継いでもらうのは──知っている人も多かろうが、この千手綱手じゃ!」
火影の羽織りの刺繍屋さんがすごいこだわり屋さんとかで、羽織りは間に合わなかったらしく……だったら無しでいいとおっしゃったそうで今は羽織りは着ていません。普段の服装ではいらっしゃいますが、でも堂々と、凛々しく。火影の帽子を被って綱手様はご登場されました。
「今日から私がこの里を治める……五代目火影だ!!」
歓声と拍手に包まれる中。火影岩が綱手様を、屋上にいる皆様を、そしてわたしたちを──見守ってくださっているように感じたのでした。
再不斬と同じ……となるとかなりの強者なのでしょう。ガイ先生は何もおっしゃっていませんでしたが、おそらくはわたしたちに心配をかけまいとあえて黙っていたのでしょうね。
→違う。実際はガイは鬼鮫の顔すら忘れてただけ。
千手綱手→原作ではそう名乗ってることはないものの、ナルトSDでちらっとそう描写があったためいいかと判断。
【口寄せについて】
口寄せの制限時間については口寄せ動物への配慮的なやつなのではないかと。そもそも口寄せ契約を結んでそこへ行くのは口寄せ動物の好意というか、その人の役に立ってあげたい的なやつだと思っています。だからその好意を無に帰さないために雇用体系というか、1回何時間までだよーと定めている口寄せの術ができた。もともと制限時間が組み込まれている術な感じでして、その時間は口寄せ動物側で決められるものなのかなと。九尾の時間制限に関しては、九尾側を操っていて了承をちゃんと得ていないから、そのセーフティ的なものが働いたと解釈できるのかなと思うのです。戦闘不能になったら口寄せ解除されるのも口寄せ動物保護のためとかではと。
だから口寄せ動物が術によらずに普通に来た場合には制限時間とかはない。自らの意思で来ている訳ですから。
そもそも口寄せの一種である穢土転生であったり、逆口寄せの術には制限時間とかないわけでして。それは人間は保護しねーよ的なやつで、制限時間の適用は口寄せ動物だけに限られるから、と。
前回のカメレオンは自分で来て自分の意思で城にずっといたわけでして。だから50年だろうといれたと考えました。そもそも妙木山、龍地洞、湿骨林以外に口寄せ動物の住処的なのが出ていませんし。忍犬や忍猫は、キバの赤丸や、猫バアたち空区の忍猫と口寄せ動物の違いがわかりませんし、住処もわからないので……。
口寄せ動物と契約主でチャクラのやり取りをしているのかなとも思ったのですが、呼び出しにチャクラを消費プラス常時チャクラ消費だと口寄せのコスパが悪すぎるので、呼び出されたあとにも微々たるチャクラ消費はあるけれども大したことはない、くらいかと思っています、はい。