木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
「選ばれし者達よ。よくぞ勝ち上がって来た! 遠慮はいらん……大いに食せよ」
夕刻。城内に設置されたステージは先程までより数段は豪華になっています。
この開始時刻まで、城で歓待を受けていたチョウジ君と連携しつつ情報を集めていたわたしはようやく始まるのかと安堵の息をもらしました。
警護の状況。攫う対象であるシュウ様の様子。優勝賞品の置いてある場所。脱出経路等々、女中に化けてこの大会の準備をしながら見るのはたいへんでしたが、今のところは特に怪しまれていないようです。たぶん。まあ最悪、忍者ということはバレても木ノ葉の仕業だとバレなきゃOKなのです。そうなるとわたしのお札は使えないのが痛いんですけどね……。書いてある術式なんかでわかる人にはわかってしまう可能性がありますから。証拠残す、絶対駄目。
といいますか、本来はこの仕事、もっと中忍とか上忍がやるべきものなんですよ。本来Bランクって中忍が受けるべき任務ですし。ただBなのは政治をもはらむこの任務の性質上のことであって、難易度的にはCに近いと思うのですが……あとはやはり人手不足ですね、ええ。まあそれにショウゾー君の言っていたことが正しいのなら暗部が1人ついているわけで。しかしながら──完全な味方とは限らないですし、味方であってもそれだけ困難が予想されてる任務という話になっちゃうんですよね。むむ、難しいです。色々と。
「決勝戦! 第一の儀は早食い勝負。寿司、100貫じゃ」
ズラリとつやつやのお寿司が並べられます。今度は早さを競うんですね。
「上位3名のみが最終決戦に進める。城下町の名店ネタネタ寿司の品であ〜る! 心して食せよぉ」
カンカンカンと激しく鐘が打ち鳴らされます。
3人だけ、ですか。頑張ってくださいチョウジ君!
そうは思いつつも、わたしは選手たちの方ではなく大名たちのいる方をじっと見ていました。予定ではいのちゃんが山中家の秘伝忍術、心転身の術を使ってシュウ様を操り、「厠へ行く」と言わせてわたしと交代する予定なのです。
……まだ動きはない、ですね。
塀の方を見やります。どこかはわからないですが、シカマル君といのちゃんがこっそりとこちらを覗いているはずです。そして──暗部、正式名称は暗殺戦術特殊部隊の人も。
暗部は本来は火影様、つまり今では綱手様の直属の部下たちなわけですが、中には志村ダンゾウ様の配下の人もいるんですよね。ややこいです。ダンゾウ様はヒルゼン様と同じく扉間様の弟子の方なのですが……正直なところ、あまりいい噂は聞かない方です。おじいちゃん曰く悪い奴ではないが決していい奴ではない、あまり近づくなとのこと。
ないとは思いますが、もしダンゾウ様側の暗部だった場合、目的がさっぱり読めません。綱手様がつけてくれたならバックアップやサポートだろうなあと思いますけれども。うう、一応シカマル君に伝えてはしておきましたけど、如何ともし難いですよね。暗部の人がいるとしてどこに隠れているのかすらわかりませんもの……うーん、考えても考えても無駄な気がしてきてしまいます。わたしたちは木ノ葉のための任務を行っているわけですし、邪魔や攻撃をされない事を祈ってしっかりと任務に励みましょう、ええ。綱手様、ダンゾウ様、信じていますよー。
「シュウ様?」
「厠へ参る」
あ、シュウ様が動き出しました。ではわたしも行きませんと。
「それじゃあよろしくね、カタナ」
「ええ、あとはお任せください」
いのちゃんが乗っ取っていたシュウ様の身体の力が一瞬フッと抜けます。心転身の術を解除したのでしょう。
「シュウ様。本国の父上様よりの書状です。どうぞ」
「…………ここは、いや、お前は?」
「貴国よりご依頼を受けた忍びです。申し訳ありませんが、急ぎませんといけませんので……はやく服の交換をしていただければと」
かっぱらった女中の服を脱ぎながら言うと、シュウ様はかなり戸惑ったご様子でした。流石にあまり長く中座していると様子を見に来られるやもしれませんよね……。
「え、ぼ、僕も? う、うわぁぁ────」
「お静かに」
さっさと脱がせましょう。
「う、うぅぅ、お前、本当に僕の父上たちの雇った忍びなんだよな?」
わたしが着ていた服を着せられたシュウ様が唇を尖らせて言います。仕方ないじゃあないですか。変化する範囲が少ない方がチャクラの消費量だって抑えられますし、どのみちシュウ様に変化しても夜には服を着替えないと怪しまれますし。テキパキ行きますよ。
「少しお待ちください」
眠らせて縛って厠に隠しておいた女中さんに服を着直させ、よっこらせと持ち上げます。任務上、必要だったとはいえこの方には申し訳ないことをしてしまいました。謝っても何にもなりませんが、ごめんなさい……。
「おい、そやつは死んでいるのか?」
「いえ。眠ってもらっているだけですよ。ちょっと成り代わらせていただきましたが、もう必要ありませんもの」
そう言って今度はシュウ様に変化したわたしに、彼は小さく驚きの声を上げます。ただ、お渡しした書状を読んだことですし……だいたい何をするのかは把握したのでしょう。無言で歩き出したわたしに落ち着いた様子で付き従ってくれました。
優勝賞品のある部屋。大きいつづらには時計やらちょっとした家具やらがずっしりと詰まっています。わたしはそれらの重さを確かめたうえで、とりあえず空にしたつづらにシュウ様を入れました。シュウ様入りのつづらを持ってみると……うん、ちょっと軽いですかね。
いくつか賞品を戻して調整してから、余ったものを巻物へと封入していきます。
「シュウ様。わたしの仲間がこのつづらを受け取る予定ですので、それまでは窮屈で申し訳ありませんがここで隠れていらしてください」
シカマル君はきちんと替えの服も用意していましたし、まあ大丈夫でしょう。キュッと口を閉じてコクリと頷いたシュウ様を見て、わたしはしっかりとつづらに封をしました。
「遅かったですね」
席に戻ると、護衛の元侍……シュウ様が言うにはタテワキさんというらしい人が話しかけてきます。
「ごめん、タテワキ。よほど忙しくて疲れたのか倒れてる人がいてさ。人を呼んだりしてたら遅くなっちゃったよ」
「あら。それは大丈夫でしたの、シュウ様」
「うん、しばらく休めばよくなるって」
心配そうにわたしを見てお皿を差し出す少女。彼女は此の国の大名の娘。呼び方は────
「ありがとう、千代姫。それお寿司だよね? いただくよ」
シュウ様に特に好き嫌いはないと聞きました。食べる量も普通程度で、食べ方は若殿らしく品のある所作。
流石は城下町の名店ですね。ちょっとお米が乾いてはいますが、十分に美味しいです。
「美味しいね」
入れ替わりに気づいた様子は……ない、ですかね。タテワキさんも千代姫も疑念を抱いている感じはありません。よしよし。
お寿司の早食い勝負は終わっていて、休憩時間に入っていました。勝ち残っているのはチョウジ君とお爺さん、そしてツインテールの可愛い少女です。わたしより年下の子っぽいのですが、胃袋は段違いですね……。
千代姫と軽くお話ししていると肉の焼けるいい香りが漂ってきました。最後は焼肉ですか。チョウジ君の大好物ですね。よく焼肉Qでアスマ先生が10班で食べに行って財布を片手に涙しているのを見ますから、ええ。これでしたら上手く調整して2位を取るのも楽ちんなことでしょう。
「最終決戦は焼肉じゃ! 城下町の名店ケムケム苑の品である。心して食せよぉっ」
カーンと強く音が響き。ガツガツとみな箸を一斉に運ばせ始めました。
ここまで勝ち残った方々なだけあって全員素晴らしい速度です。ただ……皿の減り方はその差を浮き彫りにしてしまっています。最もはやく全ての皿を片付けた者が優勝のこの勝負、チョウジ君が一歩リードしている様子ですね。
「おぉ! すごいのう」
感心する大名の言葉が聞こえたのか聞こえていないのか。ツインテールの少女もお爺さんも戦法を変えたようでした。
「すごい! 両手で食べてる」
2人とも両手に箸を持ち、次々に肉を口へと運ぶそのスピードは、先ほどの2倍──とまではいきませんが1.5倍くらいに上がっています。しかし。
「お箸が見えない……!」
チョウジ君のはやさは、並大抵のものではありませんでした。その胃はブラックホールなのかと思うほど。あっさりと肉が消えていっています。
他の2人は焦りを見せているものの、チョウジ君に追いつけてはいません。この調子ならチョウジ君は一番に食べきるでしょう──が。
優勝しちゃあ駄目なんですよ! チョウジ君……2位ですよ、2位。ショウ様は大きいつづらの中ですよー。優勝してお家をもらっても困っちゃうでしょうに。
必死に目線を送るのですが、全然目が合いません。お肉だけを熱心に見つめていますね。チョウジ君のおバカ!
え、どうしましょう……うぅ、優勝賞品をもらったあとでこっそり交換の取引を持ちかける、とかくらいしか思いつかないのですが。それも上手くいくかどうか。おーい、やめましょう、チョウジ君ェ……。
ついに最後の1枚をかかげる彼に、怪しまれるような行動ができないわたしは為す術もなく。終わってしまった、と思った瞬間。
──ピタリ、と。チョウジ君の箸が止まりました。
そうです、今は夕暮れ。影が最も大きくなる時間です。奈良一族の秘伝忍術、影真似の術に最適の刻。
チョウジ君の影を見るとやはり少し不自然な形になっていました。シカマル君が術を発動させたのでしょう。影真似の術で影を操ってチョウジ君と影をつなげることで、シカマル君は自分と同じ動きをチョウジ君に強いることができます。つまりシカマル君の影に捕まっているチョウジ君は、シカマル君が動かなければ動けなくなっているのです。ナイスです、シカマル君!
そしてお爺さんが最後の1枚を先に食べ終わり、チョウジ君はその次に。ふぅ、ハラハラさせられましたけど無事に段取り通りになりましたね。
「それまでじゃぁっ! 本年度御膳試合、優勝者はイソノじゃぁああ!!」
優勝者はお爺さん、2位がチョウジ君、3位がツインテールの少女となり。
その場で優勝賞品の授与が行われます。
チョウジ君に渡った大きいつづらは……見たところ変わった様子もありませんね。あの中のシュウ様が夜明けとともに無事、国外へ出てくれればわたしはお役御免です。まあ一応、明日1日くらいは城で過ごさないといけませんかね。わたしもまた明後日の夜明けとともに脱出、といったところでしょうか。
「ではこれにて御膳試合終了じゃ」
そう締めくくられ──第63回御膳試合は、幕を下ろしたのでした。
「楽しかったわね、シュウ様」
「ああ!」
ふぁぁ、と目覚めたわたしを包んでいたのはふっかふかのお布団。寝ている間に誰かが来た様子は……ない、ですかね。一応簡単なトラップは仕掛けておきましたが、どれもそのままです。回収、回収と。
さて。まずは変化の術を使いましょう。
印を結んだわたしは煙に包まれ──鏡を確認して、と。よし、OKです。
今頃10班のみんなとシュウ様はどうしていますかね。はやく国を出立できていてくれてるといいのですが……。
「シュウ様、そろそろ朝食のお時間ですよ」
「ありがとう。今行くよ」
丁度よく外から声がかかり、わたしは部屋を出ました。
通された座敷にはズラリと豪華な食事が並んでいます。ただの朝食とは思えない感じですね。流石は大名、ということでしょうか。
席には此の国の大名と千代姫。同じ席につける、ということはやはり丁重にもてなされているようですね。うぅ、シュウ様と彼らの関係がわりといいだけに、いずれここに亀裂が入ると思うと心が痛みます……。まあ、流石に人質の身、城の中を自由に歩き回れなかったりはするのですが。
「シュウ様……今日はあまり食欲がないのですか?」
「うん。昨日からちょっと、ね。まあ倒れるほど悪いってわけでもないから大丈夫だよ」
「そうか。あまり無理をするではないぞ」
「ありがとうございます」
「古は仁を以て本と為し、義を以て────」
勉学の時間、というのもしっかりと取られているようで。千代姫と机を並んで巻物を読んでいるわけですが、こういう座学を受けるのはひどく久しぶりですね。
読書は好きなので楽しいですが、シュウ様はあまり勉学武芸ともに意欲がないと伺っています。むむーという感じで受けませんと。うむむ……。
「是の故に人を殺して人を安んずれば、之を殺すも可なり。其の国を攻めて、其の民を愛せば、之を攻めて可なり」
国を治めるための兵法書、といったところでしょうか。アカデミーとは違った勉強で面白いですね。火の国の大名たちや学校はどんな感じなんでしょうか。此の国と同じものなんですかね。
「次、読みなさい」
教師に言われ、千代姫と顔を合わせます。どうぞ、という感じの手の動き。ふむ。では先に読ませていただきましょうか。
「えーっと、故に、国大なりと雖も。戦いを好めば、必ず亡ぶ」
つっかえながらも読むと教師が軽く頷きます。OKということですかね。次に千代姫はすらすらと読み上げました。
「天下安しと雖も、戦いを忘るれば必ず危うし」
かなり勉強熱心な様子です。普段からそうなのでしょう。教師の方もにこにこと褒め称えています。うぅ、いい子ですね。わたしにも優しく仲良く接してくれてますし、騙している罪悪感がひしひしと湧いてきます。
じっと見ていたからか、パチリと目の合った千代姫は。とっても無邪気な笑顔を見せてくれました。うぅ……。
そして学問を修めれば武芸も、ということらしく。
「さあ、シュウ様。いつでもどうぞ」
千代姫が眺めている中、タテワキさんとの打ち合いが行われようとしていました。剣の修行を毎日行っているらしいのです。流石に真剣ではなく竹光ではありますけれども。うーん、太刀筋で別人とバレますよね、これは。適当に逃れられませんかね。
「……なあ、タテワキ。こんなことをして何になるんだ。どうせ僕は人質なんだぞ」
「昨日も同じことをおっしゃっていましたね……では、同じ言葉を返しましょう。人の運命などわからぬものですよ」
うっ……ドキっとしてしまいました。確かに人質という運命からまさに今、シュウ様は逃れている真っ最中のはずです。
といいますか、昨日同じようなことをシュウ様も言ったんですね。嗚呼、不自然なやり取りに思われてしまったでしょうか。
「……少なくとも今日の僕は剣を振るう気分ではな────」
ビュン、と。目の前で竹光が振るわれました。避けそうになった身体を必死に抑え、動かずに目をぱちぱちと瞬かせます。
それはわたしに当たる寸前でピタリと止まりました。
「っ────おい、何をするタテワキ! 僕を殺す気なのか!?」
「…………いえ。申し訳ありません、ですが修行はきちんとしていただきます」
「何を言うか。今ので完全に気がそがれた。いいだろう、1日くらい休んでも」
「ねえ、タテワキ。今日くらいはいいんじゃない? 昨日だってシュウ様、頑張ってたわ」
そう援護してくれる千代姫の言葉が効いたのでしょうか。タテワキさんはため息をはくと今日の稽古はなしでいいと言ってくれました。ふぅ、ごまかせた……んですよね?
城内へ戻ると、今度は千代姫と遊ぶことになるようでした。シュウ様、千代姫とばっか一緒にいませんか……? 監視されている、とかですかね。
案内された千代姫の部屋はシュウ様の部屋よりも広く、豪華なものでした。まあこちらは人質ですものね。女子っぽい、というよりは落ち着いた雰囲気の部屋。調度品の一つ一つが洗練されていて……うぅ、あの机いいですね。わたしもあんな机に変えましょうか。
取り出されたトランプで軽く手を抜いて勝ったり負けたりしていると、千代姫はおずおずと口を開きました。
「……今日のシュウ様は、いつもより格好良い気がしますわ」
「…………そう?」
「ええ。普段より優しくて、受け答えも大人っぽくて……どこか、違って。でも、妾はいつものシュウ様が好き」
すうぅ、と千代姫は深呼吸します。
「ね、シュウ様。妾の誕生日がいつか、言える?」
…………
………………
お手上げ、ですね。流石にずっと一緒にいる子を騙すのは無理でしたか。生憎と千代姫の誕生日まで把握はしていません。
「忘れた、と言ったら怒るかな?」
「あら。わずかひと月前のことよ、偽物さん」
「それはそれは。仕方ないなあ……」
やれやれとポーズを取ると、千代姫は真剣な顔でわたしに詰め寄ってきました。
「ね、本物のシュウ様はどこ? 正直におっしゃい」
……うーん。時刻は今、昼前。予定通りに朝に出発していれば国境は過ぎている頃合でしょうか。
「国外に出ているころですかね。こちらは彼に危害を加える気はありませんので、ご安心を」
「……証拠は、出せるわけないわよね。でも妾もあなたのこと、悪い人ではないと思ってる。それに、シュウ様を攫うよりも妾を攫った方がメリットが多いのにそれをしなかったってことは……シュウ様の生まれ故郷、彼の国が、人質を取り戻そうとしたってとこ?」
聡明な子ですね。正解です。すっごく当たってます。木ノ葉と同盟を組むため、というところまでは流石にわからなかったみたいですけれでも。
「この国も最近、色々と騒がしいものね……うん、その方がシュウ様にとって安全なのかしら」
「ご理解いただけたようで、何よりです」
「まあね。もともと妾もシュウ様が人質になってしまっている同盟は嫌いだったのよ。シュウ様がお国に戻っても、なんとか同盟を結び戻せればそれが一番だわ」
火の国と同盟を結んだ彼の国が改めて此の国と同盟を結び直す、ですか。うーん、難しくはありますけれども……条件をどうにかすれば不可能ではないでしょうかね、ええ。それこそ今度は逆に千代姫が彼の国へ輿入れするなんてことにすれば────
そう、考えていると。
ドガン、ドゴン、と連続した音……聞き慣れた爆発音が外から響き渡りました。いえ、この音は起爆札とは異なったもののような感じがします。気のせいやもしれませんが……ともかく、シカマル君たちの仕業では有り得ないでしょう。逃げるために起こした爆発にしては規模が大きすぎます。これは破壊活動といえるレベルのものです。
「これは……?」
「我々ではありません。おそらく何者かによるこの国への攻撃行為かと」
それも、かなり高度に爆発を操れるような。
さて、どうしましょうか。これを機会に逃げる、というのもいいのですか……千代姫を放置していくのも申し訳ないです。これが此の国への攻撃であれば真っ先に狙われるのはこの城、そして大名たちでしょうから。
「姫様、シュウ様! ご無事ですか!?」
「タテワキ! ええ、大丈夫よ」
窓の外を見ていると、爆発によって崩れた建物と、逃げ惑う人々。そして襲いかかる……木偶人形。いえ、あれは傀儡ですね。中忍選抜試験本戦でシノ君と戦わなかったけど結局森で戦った砂のカンクロウ君も確か傀儡使いでした。しかし彼は一体しか背負っていなかったのに比べ、今は見える範囲だけでも2、30体は軽くいます。よほどたくさんの傀儡使いがいるのか、よほど卓越した腕の忍びなのか。
お札を使えれば人形を操るお札によって多少はなんとかできるやもしれませんが、それも無理となると……わたしには対処不可能でしょう。
同じ光景を見ているタテワキさんも、同じような判断を下したようでした。
「……お二人は、お逃げください!」
そう言う彼の決断に従い、わたしはとりあえず着ているものを脱ぎました。なんか最近は人前で着替えばっかしている気がします。
「千代姫も、脱いでください。動きづらい服は不要です」
高価な服は基本的に動きづらい服なのです。身の回りのことは仕えている者がやってくれるのですからね。千代姫のクローゼットの中から……うぅ、どれもこれもゴテゴテしてます。比較的シンプルなのはこれとこれ、ですかね。
「タテワキはどうするの?」
「私はお父上をお守りします」
「……こちらに着いてきてはくれませんの?」
「申し訳ありません、姫様。私は…………」
たぶん城内は混乱のさなかですよね。そこまで高くもないですし、窓から出ましょう。千代姫くらいなら抱えて跳べますね。
あ、変化も解きましょう。
「あなた、女性だったのね……」
「姫様、こやつは一体!?」
「彼の国に雇われてシュウ様を逃がした者よ。たまたまタイミングが被っただけで、敵ではないわ。そもそも敵ならさっさと妾を殺しているわよ」
コクコクと頷くわたしにタテワキさんは戸惑いつつも、時間が刻々と迫っているのはわかっているのでしょう。頭を下げてきました。
「今はとりあえず貴殿を頼るほかない。どうか、姫様を城の外へ……できれば彼の国へと連れて行ってほしい。頼む……!」
「お任せください」
わたしは外へと飛び出しました。
「「カタナ!」」
「千代姫!」
「シュウ様!」
あの御膳試合の看板がかかっていた門に着くとなぜか10班の3人とシュウ様がいました。ええと、もう国外へと行ったのではなかったのでしょうか……?
「あれ? なんで千代姫と一緒なの?」
「タテワキさんに頼まれまして……いえ、とりあえずは急ぎましょう!」
周りには傀儡がいっぱい。壊れているのも多いですが、まだまだ油断はできません。そしてほとんどの傀儡は城へと大挙していって────やはり狙いは城ですか。では、タテワキさんは……いえ、わたしたちの任務はシュウ様を送り届けること。本来ならば千代姫を連れて行くことすら任務外です。はやく、彼の国へと。それだけを考えて行きましょう。
最後に振り返って見た城は。数多の傀儡によって落とされていっているのが──────
国境の峠までの道中では、不思議なほどに何も起こりませんでした。おそらく暗部の方が影から守ってくださっていたのでしょう。正体はわかりませんが味方だった、というわけですね。よかったです。
道すがらに聞いた話によると、まず此の国の観光をしたいと言ったシュウ様にチョウジ君も同調して、昼前までアマアマ庵やらギトギト亭やらを巡っていたらしく……そしてそのあとにシュウ様が千代姫を探しに城へと来てしまったそうです。う、うーん、まあシュウ様が無事でよかったです、はい。
彼の国への途上、仲睦まじく話すシュウ様と千代姫の姿は微笑ましく──しかし。此の国はどうなったのか。それを、口にすることはできませんでした。
「
「……何だ」
「此の国の大名と家老どもは殺られ、大国に乗っ取られたそうな。小国は身軽に立ち位置を変える故、自分の領地にしてしまおうと依頼したのだろうよ。実行役は暁とかいう、なんでも屋のような小規模な犯罪者集団らしい。金儲けやら雇われ戦争やら……うちも今度依頼してみてもいいかもしれんな!」
「止めはしませんが……どこの依頼も引き受ける、ということはいずれ敵対する可能性もありますよ?」
「ハッハッハ、なーに、その時は貴殿らに依頼元の方を片付けてもらうさ。しかし、小国とはいえ傀儡で一国を落とすとは。さぞかし美しい光景だっただろうな。見物できなかったのが惜しいね」
「護衛対象をわざわざ危険にさらしたくはないですから。それに、木ノ葉の暗部との接触もありましたし……」
「ああ、氷遁と木遁の戦いになったんだって? 実に美しい! それも見たかった」
「期待に沿えるものではなかったと。すぐにお互い退きましたし、相手は木というより角材を生やしてましたよ」
「そうか! その時に俺様たちは黙って国を出るから相互不干渉でいようと持ちかけたのだな」
「はい、そうでした」
「いやー、丸く収まってよかったよ。さしもの俺様も五大国に無駄な喧嘩を売るような暇はないね。しかし貴殿らはよかったのか? 久方ぶりの友との再会であったのであろうに、あんな味気なく終わってしまって」
「……友じゃねェ。ただの知り合いだ」
「ハッハッハ。貴殿がそう言うならそういうことにしておこう。ああ、そういえば此の国が人質として預かっていた彼の国の若殿は此の国の姫とともに無事、故郷へと辿り着いたそうな。おそらく木ノ葉への依頼はこれであったのだろうね。彼の国は火の国と同盟を結んだ故な」
「それを、吹聴する気なのですか?」
「そう睨むな白。そんな顔も美しいぞ! まあ、心配せずとも証拠もないことだし……言ったところで俺様にメリットもない。木ノ葉を害することはしないさ。何より、そんな真似をするのは俺様の美しさに反する故な!」
「……そうですか」
「む? なぜため息をはくのだ、白! ああ、駄洒落になってしまった……美しくないな……」
お札を使えれば人形を操るお札によって多少はなんとかできるやもしれませんが
→アニオリで木偶人形を制御する札が使われていたため、そういうのもあるだろうと。ただ単純な命令程度しかできないものっぽいので、例え使えてたとしても相手の傀儡操作スキル的に意味をなさなかったと思われる。
中忍試験でまったく関わりなかったのでアニオリのお話で他の同期と絡ませよう!というわけでナルトのポジションにカタナをぶっこんで絡ませました。ナルトには申し訳ないことを……でも実際ナルトは忙しいからこういう任務に行く暇はないと思うのです、ええ。紅班はシノだけ別だったのはあのお話が好きなのと今後の展開も兼ねてです。ガイ班はまあ、ちょくちょく出てきてはいたからいいかな、と。
ショウゾーはザッハ、シキミ以来の名前付きオリキャラですね。忍猫を除けば。変人キャラは書くのが楽しい。ダンゾウ、テンゾウとかあの世界ではゾーではなくゾウになっているのをあえてゾーとすることでオリキャラ感を出した……つもりです、はい。
再不斬たちを救済したあとどうするか、と考えてまず木ノ葉へ行くルートは五大国の抜け忍は木ノ葉といえど受け入れが難しいんじゃないかなあということ、再不斬たちは霧隠れへ未練があるだろうから他里に所属はしないのでは、ということでボツになり。ガトーの時と同じで霧隠れも手出しできないヤツに匿ってもらうのが一番かな、と思いオリキャラが生まれました。設定的には仁義あるインテリマフィアです。シノギの一部をガトーに奪われたものの、ガトーが死んだことでそれを取り返し、さらに拡充させることに成功しました。元々ガトーに対して好意を抱いておらずむしろその死亡が彼らにとってはありがたかったこと、再不斬がガトーを殺した理由は依頼人である彼自身の裏切りであるとはっきりしていることから、再不斬たちを雇うことにためらいはありませんでした。裏社会の人間的には国と繋がってる隠れ里の忍より抜け忍の方が自身の駒として雇いやすいんじゃないかなと思います。
ダンゾウに関しては今回なんの関係もないです。カタナの考えすぎです。カタナのおじいちゃんとダンゾウは知り合いであり、おじいちゃんは彼が決して悪い人ではなく里を想っていることは理解しているものの、その手段を選ばないところから悪い噂があり、ヒルゼンの態度なんかからそれが少なくともある程度は真実であることを悟っているため、可愛い孫とは関わってほしくないな……という感じです。ダンゾウ的には川上家は里に貢献してるし扉間びいきなことを知ってるのでそこそこ評価は高いはずです。きっと。ただたぶんカタナに関してはなぜ下忍になった、家でお札を量産してた方が効率的なのに……的な感じかなと。穢土転生関連についてはまだ知らないので。
ダンゾウは木ノ葉崩しの際は大蛇丸に「木ノ葉崩しの邪魔はしない代わりに、観客である大名への手出しは控えること」あたりの条件を出したとか勝手に考えてます。もっと積極的に大名が狙われて、一人でも死んでいたら隠れ里としての信用は地に落ちていたと思いますし。