木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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3枚目

 悠々と、堂々と遅れて来たカカシさんは目覚まし時計を12時にセットしていました。まさか今からお昼寝なんてことはないでしょうから……制限時間、ということですかね。

 

「ここにスズが3つある……これをオレから昼までに奪い取ることが課題だ」

 

 ふむ、なるほど。だいぶシンプルな課題です。だからといって決して簡単、というわけではないと思いますが。

 

 昼までにスズが取れなければお昼ごはんのお弁当はくださらないとのこと。飲み物はとってきたのですが、朝昼抜きはキツイですね。

 

「スズは一人1つでいい。で、スズを取れない奴は任務失敗ってことで失格だ! つまりこの中で最低でも一人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ……」

 

 失格、という言葉に顔が強張ってしまうのがわかります。カカシさんはやはり容赦はしてくださらないようです。先日わたしを励ましてくれたその口であっさりと崖から突き落とす発言。素早い手のひら返しに、なんだか見返してやりたいような気持ちになります。といいますか……遅れてきたくせにーという意識が強いです、ええ。

 

「手裏剣を使ってもいいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」

 

「でも! 危ないわよ先生!!」

 

「そう、そう。黒板消しもよけれねーほどドンくせーのにィ! 本当に殺しちまうってばよ!!」

 

 あ、やっぱり黒板消しトラップを昨日は仕掛けていたんですね。上忍相手になんといいますか、度胸のある3人です。

 

 カカシさんの言ったドベ、という言葉に挑発されたナルト君がクナイで攻撃するも、あっさりと押さえつけられます。……なんで手裏剣じゃなくてクナイを使ったでしょう。でもカカシさんも何も言わないので奴らは近新種だからOKなのでしょうね。うーん、でもわたしクナイは起爆札付きしか無いんですよね、今手元に。これはセーフなのか、アウトなのか。それにどのみちお札がないとわたしはキツいのですし……とりあえずお聞きしてみましょう。

 

「先生、起爆札は使ってもよろしいでしょうか?」

 

「え……」

 

 え……すっごく躊躇われてますが、駄目なんでしょうか。

 

 うーん、ひとまずナルト君を離してさしあげてほしいですね。なんか今も頭をガッツリと掴まれたままで見ていて可哀想で……。

 

「いいけど、あんま演習場破壊しないようにな。いやほんとお願いね」

 

「わかりました!」

 

 許可していただけたのはよいことなのですけれども。とても安心しましたけれども。わたし、そんな爆弾魔みたいな扱いを先生方に受けていたのでしょうか? 心外です。

 

 まあ、ともかく。いつ始まりの合図を出されてもいいように、さっそくクナイを構えます。見ると、他のみんなも今までのゆるゆるした雰囲気を消してピリッとした感じになっていました。

 

「さて! ま、みんな殺る気の顔になったってことは、やっとオレを認めてくれたかな? なんだかようやくお前らを好きになれそうだ。……じゃ、始めるぞ! ……よーい……」

 

 スタート、とカカシさんが言った瞬間。わたしたちはほうぼうに散り──下忍になるための最終ステージが、幕を開いたのです。

 

 

 

 とりあえずわたしの攻撃手段は一にお札、二にお札、三四がなくて五が忍術、六くらいに体術といった感じです。別に体術も苦手ではなく普通程度には動けるのですが、お世辞にも得意とは……少なくとも決して上忍に勝てるレベルではありません。幻術については解き方くらいは知っているのですが、かけるのはまだ難しいですね。

 

 さて、声で判断する限り既に他のみんなの戦闘は始まっているようですが……わたしはお札ペタペタタイムです。そのへんに起爆札などを潤沢にバラまきながら──木に貼る、地面に埋める、茂みの中に置く、隠すように貼ったり、逆に堂々と貼ったりと様々に──移動します。

 

 この試験に落ちたら忍びになることができないやもしれない以上、今までになく大盤振る舞いです。総額おいくらになるんでしょう……いえ、まだチャクラは込めていませんし、使わなければ後で回収して再利用するからOKです。無問題です。

 

 一番危惧していたのが開始早々にわたしが無力化されるということだったのですが、そこまで非情なことはされないようです。さっさとカカシさんから離れたからかもしれませんが。下級生の指導を優先してくださっているうちに準備し終えましょう。

 

 しかし、演習場に事前に罠を仕掛けたりしているのかなと警戒しながら走っているのですが、何も無さそうなのです。去年と一昨年の時の仕掛けはかなり凝ったものだったのですけれども……油断するつもりはありませんが。上忍から物を奪え、というだけでもかなり難易度の高い課題ですからね、ええ。

 

 

 戦闘の音やら叫び声やらが響いていたのがなくなり、辺りがしんと静まり返ってきました。3人ともやられた、ということでしょうか。

 

 ……次はわたしのところ、ですかね。1人で戦って果たして勝てるか、と考えると。ええ、かなり厳しいでしょう。

 

 しかし1人でやるのと他の子たちと協力するの、どちらの方が勝率が高いかと言えば……普通の任務だとしたら初対面の下級生と一緒より1人の方が動けるやもしれませんが、カカシさんが指導目的でありこちらを殺すわけでもないのです。むしろひどい怪我なんかを負うことがないように気遣いすらしてくださるでしょう。となると1人1人にちゃんと対応してくれること、多少の怪しい動きは見逃してくれるであろうことを考慮すれば4人で作戦を決めて一気にかかった方がいいです……よね? 裏切りとかがなければ。うーん、でもまあ、そうなってもなんとかなりますし、やるだけやってみる方が得ですか。

 

 よし、そうとなればみんなを回収していきましょう。カカシさんに補足されないうちに。

 

「さ、サクラちゃん……?」

 

 悲鳴の上がっていたへ行くとサクラちゃんが倒れていました。ええと、これ偽物じゃないですよね? ちょっと不安です。ツンツンと木の枝でつつくといくらか唸っています。サスケ君サスケ君と唸っているということは本物だと思っていいでしょう。夢の中にでも出てきているんですかね。悪夢っぽいのが気になりますが。

 

 ユサユサと揺れ動かすと、パチリと目覚めてくれたようでした。

 

「大丈夫ですか? 動けるならぜひぜひ手伝っていただきたいのですが……」

 

「さ、サスケ君! サスケ君は?」

 

「へ? ……はい、サスケ君にももちろん協力してもらいたいですよ?」

 

「そうじゃなくて! サスケくんは無事なの!?」

 

 え、それはちょっとわかりかねるのですが。うーん、まあ死んではないでしょうから……無事の範疇でしょう、ええ。

 

「無事です無事。だから探しに行きましょう。怪我とかしてるかもしれませんし、急いで行きましょうか」

 

「そ、そうね。わかったわ! 行きましょう!!」

 

 うんうん、いい感じにノッてくれました。次に行きましょう次に。

 

 

「サスケ君、何で埋まってるんですか?」

 

「好きで埋まってるわけねェだろ!」

 

 ですね。つい変なことを聞いてしまいました。おそらくカカシさんの土遁をくらったのでしょう。

 

 地面からひょっこり顔だけ出ているというなかなか見ない状態になっているサスケ君を、サクラちゃんは慌てて掘り起こしています。その間にわたしは周囲を警戒していました。あまりにおも、いえ謎の光景に驚いてついつい警戒をゆるめちゃっていましたから、気を引き締めませんと。

 

 でも特にカカシさんは隠れている様子も来る気配もないようです。見逃されているうちに行動しましょうか。

 

「お二方、ご相談があります。わたしは次はナルト君のところへ行ってスズ取りは4人で挑みたいと考えていますが……いかがでしょうか?」

 

 2人の顔に嫌だという言葉がありありと見えました。サスケ君は個人プレーをしたそうですし、サクラちゃんはナルト君が嫌なようです。……昨日の自己紹介のときからちょっと思っていましたけど、3人はあまり仲良くないのでしょうか? 

 

「わかりました。協力してくださるなら……先ほど待っている時にも話していた兵糧丸を差し上げます。協力してくださらない場合、そこら中に配置した起爆札があなた方の挑戦を阻むことになるでしょう。わたしにものっぴきならない事情があるのでやる時は本気でやります故に……」

「っは、誰がお前なんかに負けるかよ。勝手にやれ」

 

 ……あれ、言い方が悪かったのでしょうか。サスケ君の敵愾心がむくむくと湧いています。彼が参加しないとなるとサクラちゃんも、となるわけでして。むむ、どうすればいいのやら。

 

 ……落ち着きましょう。とりあえず兵糧丸を口に入れ噛み砕くと、なんとも言えない味が広がりました。携帯食ですからね。うちではよくご飯食べる暇もない時に栄養摂取のために食べるのですが……栄養満点、味は二の次です。これだからあまり好きじゃないのですが、まあ少しだけ空腹も紛れた気はします。一族の秘薬である兵糧丸なんかだとある種の興奮作用、鎮静作用があって一時的にチャクラも倍増するだとか。どんな味がするのでしょうね、そちらは。まだこういう普通の兵糧丸の方が味も普通なのでしょうか。

 

「すみません、リテイクでお願いします」

 

 リテイク!?とサクラちゃんは驚いていますが気にせずに続けましょう。先ほどわたしが目の前で食べて毒は入ってないとアピールした我が家の兵糧丸を掲げます。

 

「兵糧丸を差しあげるので手伝ってください。お願いします」

 

 深々とお辞儀をした後に、えいやっと兵糧丸を投げます。流石忍者の卵、2人ともきっちりとキャッチしてくれました。

 

「お前、ふざけてんのか?」

 

「これでも真剣なつもりなのですが……では、利益衡量してください。わたしはお札を大量に配置しました。これをサポートに使えます。逆に連携を考えずに個々で挑もうとした方がお互い、邪魔になってしまうと思います。足の引っ張り合いになっちゃいます。先ほど言いたかったのはこのことを含んでいます。それに、サスケ君は他の人の助けなど必要ないと考えているのかもしれませんが、今回はあくまでも演習ですから……例えば捨て身で特攻することなんかもできますし、人手があるに越したことはないと思いますよ? どの道、分身などを交えて逃げられでもしたら人手がないと追撃も困難ですし」

 

「…………」

 

 サスケ君はちょっと無言で腕を組んで考えて……やがて頷いてくれました。よかったです。とはいえ、捨て身といえど常識の範疇でお願いします。流石に生身に起爆札を持っての特攻まではしませんからね? わたしもスズを手にしたいのです。

 

 

 ナルト君はプランと木に吊るされていました。プラプラ揺れて遊んでいて、わたしたちが来るとぱっと表情を明るくしました。男子2人はわりと面白系の倒し方になっているようです。カカシさんのお茶目さですかね。

 

「フン。無様だな」

 

 そう言いながらも手裏剣を投げて縄を切ってあげるサスケ君。素直じゃないです。やはり本当は仲が良いのでしょうか?

 

 なんだか騒ぎ出しそうなナルト君に兵糧丸を与えてひとまず静かにしていただきます。お口チャックで聞いててください。

 

 さて、作戦会議のお時間です。

 

「みなさんはどんな術を使えるんですか?」

 

 忍びは基本的に体術、忍術、幻術の3種類を使います。体術は……チャクラで身体を活性化させたりして戦う術、忍術はチャクラを使って本当に色々とできる術、幻術は幻覚を見せたりして精神で戦う術、といった感じでしょうか。忍者学校では体術と忍術をメインで学びます。幻術は解くのはともかく、かけるのはとっても難しいのです。

 

 サスケ君のうちは一族はたしか幻術が得意な人が多かったはずです。まあ卒業したてですしまだ使えはしないでしょうが、幻術使いのスペシャリストなんてとっても強そうですよね。

 

 そんなサスケ君の答えはというと──

 

「火遁」

 

 火遁はチャクラの性質に合わせた火遁・水遁・土遁・雷遁・風遁の五大性質変化の一つですね。忍者学校では理論などはともかく使い方までは習わないですし、実を言うとわたしもまだ使えませんのに……。

 

 もう火遁を使えるとは流石は名家の一員と言いますか。年下のくせにちょーっと偉そうだなあ、なんて思ったりしてたのですが、それだけ努力してるのですね。うぅ、反省です。

 

 サクラちゃんが使えるのは忍者学校で習った体術と忍術のみ。どちらかと言うとそれが普通です。あ、でもわたしはお札を使えるのとあと家庭教師の先生に教わった忍術も使えますね。まあこれでも2歳年上ですもの。えっへん。

 

 さて、お札には大きく2種類あります。1つが性質変化や印を結ぶことなく、書かれた文字にある条件達成(時間経過か印を結ぶことが条件なのが多いです)後に起爆札であれば爆発といったような事象を起こせるもの。要は術の補助をお札が担うというのが近く、こちらが基本的なお札ですね。中でも昔とある天才が起爆札という爆発の術より優れたものを開発したおかげで、起爆札はみんなの使うメジャーなものとなりました。曰く、爆遁を超えたかった、とのこと。正直、誰でも手軽に使えるお札なので利便性は明らかに爆遁に勝っていると思います、ええ。

 

 もう1つは時空間忍術のような感じで忍術をそのまま閉じ込めて開放することで事象が起きるもの。こっちは特殊な部類といいますか、難易度高です。

 

 ……少しばかり話が逸れましたね。

 

 そして、兵糧丸をあげたことであっさりと協力を誓ってくれた単じゅ、いえ心優しいナルト君は小声ですが高らかに告げてくれました。

 

「オレはオレは影分身できるってばよ!」

 

 なんと、ナルト君も影分身の術が使えるのですか。高等忍術なのにすごいです。

 

 千年殺しに気をつけて、と言われたのはよくわからないのですが。サスケ君とサクラちゃんは呆れたような顔をしているので、おそらく聞かなくても大丈夫なことでしょう。といいますか、なんか聞かない方がいい気がします。

 

 さて。では、わたしたちの術を組み合わせてどうやればスズを奪えるでしょうか……。

 

 

 

 

「勝負だってばよ!!!」

 

 ナルト君が影分身とともにカカシさんを襲いま……え、なんか10体もいるんですが。影分身は影分身でも多重影分身じゃないですか!? 過少申告はやめていただきたいと言いますか、チャクラ量大丈夫ですかね? 

 

 カカシさんは本を読みながら余裕で対処しています。むぅ、わたしたちとの実力差を表しているようで尊敬はしてますけど腹立たしくもあります。本の内容を知っているだけ、余計に。せめて兵法書でも読んでいてくだされば……いえ、それはそれでなんかアレですね。

 

 起爆札付きのクナイを合間合間に投げているのですがそれすらもあっさりと対処されてしまいます。爆発はナルト君を巻き込んでしまうのでまだやらないのですが……よし、5本目を投げました。かかった時間も想定どおりです。

 

 1、2、3のタイミングでナルト君が引いていきます。その瞬間、木々につけていた起爆札にチャクラ糸を通してチャクラを流し……爆発が起きました。クナイにつけた方も時間経過で徐々に起爆していますけど、遠くに跳ね飛ばされたので意味がないですね。

 

 けれど、やはりナルト君の動きで爆発のことはバレていたようで、爆発はおろか倒れる木々もあっさりと避けられてしまいます。片目しか見えてないとは思えないほど動きがいいです。視界はどうなっているんでしょう? 

 

 煙の中、サスケ君がカカシさんの眼前に迫り……しかしこれもポイッと投げられて失敗に終わります。訝しげな顔をするカカシさんに、ナルト君の影分身が再び攻撃を仕掛けて。想定していたポイントに入りました。

 

 ────土壁札! 

 

 印を結び、あらかじめ地面に埋めていた土遁・土流壁と同様の効果を発するお札を8枚、発動させると……盛り上がった土が八角形のようになってナルト君の影分身ごとカカシさんを囲みます。木の上に隠れていた本物のサスケ君が飛び降りながら火遁で炎を放ち────うわ、これも避けますか。土壁を蹴って抜け出したんですかね。固く高くなるよう頑張りましたのに。

 

 空中のカカシさんにナルト君の本体がスズを奪おうと手を伸ばすも、ナルト君を蹴って方向転換することで逃げました。サスケ君に変化していたサクラちゃんとわたしもクナイを投げますが、全て弾かれます。どんな反射神経しているんですかあの人。

 

 茂みに隠れていたわたしに迫ってくる気配に、慌てて変わり身の術を使います。待機していた影分身と交代し……影分身(わたし)の肩がポンと叩かれ、爆発して──そしてそこでジリリと時計が12時の音を告げてしまったのでした。

 

「終わり、ですか……」

 

 影分身の起爆札を発動させた時はわりとイケると思ったのですが。時間ギリギリだったのが口惜しいですね。

 

 あー、負けです。完敗です。こうなるならはじめから演習場全部を爆発させた方がよかったのでしょうか……? でも時空間忍術とかで避けられそうですよね。やけになってはいけませんね、ええ。それにしても上忍、というのはやっぱり強いです。

 

 最初の様子見の時間が長かったのも敗因ですね。開始直後から……いえ、カカシさんが来る前から連携しようと根回しを行っておいた方がよかった気がします。

 

 でも今更、でしょう。スズが取れなかった以上は不合格……はぁ、今回も落ちましたか。父に何と言われるやら。

 

 てくてくとカカシ先生に連れられ全員で元の場所へ戻ります。全員、悔しくも悲痛な顔です。わたしもみんなも、イケる!と思った瞬間はあったのにそれをことごとく躱されてしまったのですからさもありなんいったところでしょう。ナルト君に関してはチャクラ切れの問題やもしれませんが……。

 

「さて。この演習についてだが……。ま! お前らは忍者学校に戻る必要も無いな」

 

 それは、どういう──

 

「じゃあさ! じゃあさ! ってことは4人とも……!」

 

「……そうだ。4人とも……忍者をやめろ!」

 

 それは、どうしようもなく襲ってくる現実的な言葉でした。尊敬する人に……それも今回の試験で落ちれば忍者をやめるよう父に言われているというわたしの事情を知っている人にそう言われて、何が言い返せるでしょうか。

 

 ナルト君が騒ぎ、サスケ君が反抗し、サクラちゃんも非難する。そんな喧騒の中、わたしは何も反応できずにいました。

 

 今回のそれぞれの悪い点──わたしであれば班をまとめあげたことは評価できるものの、その手段として話すことよりもので釣ったこと。みんなでスズを取った後については奪ってしまおうと考えていたことを見透かされ、ぐうの音もでませんでした。

 

 仲間とは利害関係なく一致団結すること、それこそがカカシさんの求めていたものであり、忍者に求められるもの。そこまで言われるとわたしが今まで落ちたのも納得できるものです。ただなんとなく言われた通りに組んでいただけ、でしたからね……。

 

「……お前らに最後にもう一度だけチャンスをやろう。ただし、昼からはさらに過酷なスズ取り合戦だ!」

 

 たらりと、蜘蛛の糸が投げ込まれました。

 

「挑戦する気のある者だけ弁当を食え。ただしカタナには食わせるな。年長者としての責任、そして許可は出ていない兵糧丸を勝手に使ったことへの罰だ。もし誰か一口でも食わせたら、ソイツはその時点で不合格とする…………わかったか? ここでは、オレがルールだ」

 

 そう告げて、カカシさんはいつものようにふらっと消えてしまいました。しかし、その厳しい言葉と態度はとてもいつも通りとは言えず……少し、泣いてしまいそうにすらなりました。でも、駄目です。わたしに同情してこの子たちが不合格になるのは防がなくてはなりません。それに、歳上である以上、情けない姿を見せたくもありません。ぐっと涙はこらえましょう。

 

 通夜のような重い重い雰囲気の中、3人がお弁当を食べる音だけが響きます。兵糧丸のおかげで空腹の問題はそんなにないのですが、罰を与えられたというのがこう、精神的にくるものがあります。

 

 みんな一言も喋る気配はなく……わたしも何かを話す元気が出てきません。こんな空気の中、果たして午後のスズ取りはどんな模様になるのでしょうか。

 

 そう思っていると、サスケ君がこちらに近づいて来ました。午後の作戦の相談でしょうか? 

 

「……やる」

 

 そう言って彼は半分ほど残ったお弁当を差し出してくれました。ご丁寧にお箸は新品のものをつけてくれています。

 

「駄目です。カカシさんが見ている可能性がある以上、わたしは食べられません。お気持ちは本当に、本当に嬉しいのですが……」

 

「そうだってばよ! カタナちゃん、サスケのじゃなくてオレの分を食え。どうせオレは卒業試験、本当は落ちてたんだからバレようが気にしないってばよ!!」

 

「え……?」

 

 卒業試験落ちてたっていうことは君だったんですね、わたしが宙ぶらりんになった原因さんは。というか2人ともやめてください。もしこれで不合格にさせちゃったらわたし、トラウマになりますから。

 

「か、カタナ……」

 

 サクラちゃん、まさか……? 

 

「私が午前、一番役に立ってなかった。だから私のためと思って、これ、食べて!」

 

 貴女もですか。

 

 え、ちょ、ど、どうすれば……どうすれば、いいんですかこれは!? 3人にお弁当を差し出されてしまっているんですが。

 

 や、やめて。勝手に膝の上に置かないでください。サクラちゃんもあーんしてくるのやめてください。

 

 駄目です、また涙が出そうになります。

 

「カカシの気配はない。さっさと食え」

 

 サスケ君のその言葉に、そして不安気な目で箸を差し出すサクラちゃんの想いに、じっと見つめてくるナルト君の真摯な瞳に、これは食べなければいけないだろうと、彼らの覚悟を裏切るのは失礼だという考えがふつふつと湧いてきました。

 

 とはいえ、緊張するのですが……ええい、女は度胸です! 

 

 パクリとサクラちゃんのご飯をいただきました。兵糧丸とは比べ物にならないですね、やはり。昨日ぶりのご飯です。

 

「お前らぁぁあああ!!」

 

「ひゃうっ」

 

 え、なに怖いです。すごいビックリしました。おかげで涙は引っ込みましたけど。

 

 カカシさんがすごく、なんかすごくこっちに迫って来ます。サスケ君のおバカ! かなり近くにいたじゃあないですか!? 

 

「ごーかっく♡」

 

 カカシさんはとってもいい笑顔を浮かべていました。先ほどまでとは違い、いつもの飄々とした雰囲気に戻っています。

 

 ……えっと、合格って、あの、合格ってことですよね? 

 

 4人とも、下忍として認められたと、そういうことでいいんですよね! 

 

「…………忍者は裏の裏を読むべし。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる…………けどな! 仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」

 

 ルールより何より、仲間を大切にしろ。そう話すカカシさ、いえ、先生の目はどこか遠くを見つめていらっしゃいました。

 

「それじゃ、お弁当食べながらでいいよ。カタナもそこのお弁当をお食べ。……ま、お前たちの連携はわりとよかったね。ナルトの影分身の使い方も、サクラの変化の術も、サスケの気配の消し方もよかったし、カタナが起爆札以外の呪符を使ったのは驚いたよ。そして、チームワークも今示してくれた。と、いうことで、全員合格! おめでとう! 演習は終了……だけど、さっそく第7班に初任務だ」

 

「やったぁあああってばよ! オレってば忍者! 忍者!! それで、任務って!?」

 

「……カタナが演習場に置いた呪符を、全部回収すること。いいね?」

 

「「「「あ」」」」

 

 完全に、完っ全に忘れてました。

 

 そろっと演習場を見ます。ちらりと見るだけでも1、2、3、4、5、…………ええ、だいぶたくさんばら撒いたんですよね……地面に埋まってるのもあって……。

 

「すみません、みなさん。拾ったお札は自分のものにしていただいて結構ですので、どうかお願いします」

 

 ごめんなさい……ごめんなさい……。

 

嗚呼、なんとも締まらない初任務になってしまいました……。

 




サスケ君に変化していたサクラちゃん
→好きな人のことはよく見ているものなので、サクラのサスケへの変化はかなり精度が高い。サスケへの変化にナルトは懲りていることもある。



お札については原作にない設定です。呪符でひとくくりにするのは違和感がありますけど、原作でも起爆札を呪符と呼んでる場面はなかったにしろ呪符という呼称自体はでているしまあいいか、と。

お札を自在に使っているように見える時があってもそれは描写不足によるものであり、実際はチャクラを流したり書かれた文字の条件達成をしたりしているんだなあ、と脳内補完していただけたらと。
アニメとか見ても起爆札が時間経過で爆発することもあれば印を結んでたり「爆!」って言ってたりライターで爆発したり糸をつたってたり……色々としてたので、1種類目のお札についてはこんな感じかと思うのです。あとは封入・開封の術とかも印なしでできていますし、お札の起動に印がなくても問題ないと判断しました。
お札へのチャクラ供給については原作でもどうなっているかはたぶんなかったはずなのですが、作成時にチャクラを込めるとなるとお札屋さんの負担が半端ない……というか無理だろ……となり、使用時に込める設定となりました。原作的にもかの6000億枚起爆札の起動の際はかなり疲弊してましたし、アニオリで起爆札が里中に設置されてるのに誰も気づいてなかったのもあって、お札は最初からチャクラが込めてあるわけではないと思いました。なのでお札に関してはチャクラを込める→書かれた術式の条件によって効果が発動、という設定になってます。このチャクラを込めるのは手で握った際とか触れた時に行うのが最も効率的でありスタンダードだけど、ちょっと離れた場所からでもチャクラ糸を伝って込める感じでできる、と仮定してます。その場合触るよりも要求されるチャクラが多く、また集中する必要もあるという感じです。

起爆札の威力についても書かれた術式によって調整できる、という設定です。原作でも爆発の規模が枚数によってではなくまちまちなこともありますし、お札屋さんならそのくらいできるで!と思ってます。
2種類目のお札についてのちのち。ちょっとネタバレするとBORUTOの先取りです。このためにお札屋さんであるカタナには時空間忍術や封印術への適性があります。
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