木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
退院祝いの定番は、石鹸やらタオルやらだそうで。わたしはとりあえずタオルセットを抱えて歩いていました。ふっかふかの真っ白タオルならいくらあっても困ることはないでしょう。
「ようやく、サスケ君も退院ですね」
本を読みながら歩くカカシ先生はわたしの言葉にうんうんと頷きました。
病み上がりでもすぐに任務に駆り出されている先生は今日もこのあとに任務が入っているそうですが、サスケ君の退院を見届けてから行ってくださるそうです。サラッとSランク任務をお一人で任されるあたり、本当にすごい方がわたしたちの担当上忍なんだなあと思い知らされます。うーん、でもそうは見えないのはこう、そういう本を堂々と読みながら歩いているのも一因だと思うのですよ。『イチャイチャパラダイス』の上・中・下3巻か、『イチャイチャバイオレンス』というわりかし最近発売されたらしい続刊のいずれかを先生はいつも読んでいらっしゃいます。今のところこの4冊だけしかシリーズにはないそうですが、その人気は凄まじいものらしく……映画になってたりするのを見ると、流石にどんな内容なのかちょっと、ちょーっと気になるというものです。あと3年後くらい、ですかね。
「そういえば先生のお読みになっているその……そのシリーズって、自来也様がお書きになっているのですよね? 本について何か語り合ったりするのですか?」
ナルト君が自来也様のことをエロ仙人と呼んでいるという驚愕の事実が発覚し、綱手様もばあちゃん呼びしていることを考えるとなぜ大蛇丸だけ大蛇丸なのかをツッコミたいところですが。ともかく、自来也様はその……ええと、ともかく、カカシ先生ご愛読の『イチャイチャパラダイス』等々の作者さんであられるらしいのです。
「いいや! イチャパラはあくまでもエンターテイメントとしてのイチャパラであり、自来也様のその人となりとは切り離して読まなければとてもムフフと楽しむことができない! そもそもあの本は神が自来也さんの手を通してお伝えになったものと考え──これ話すと長いけどいーい?」
「いえ、結構です」
わたしは首をブンブンと横に振りました。
すごくノーセンキューです。カカシ先生のご想像の中にはどんな神様がおわすのでしょうか。ほとほと不思議になります、ええ。藪をつついて蛇を出してしまいましたね。話題を……話題を変えましょう。
「カカシ先生は他にはどういった本をお読みになるのですか?」
「他の本ね……そうだな、最近自分の日記を読み返したりしたなあ」
「日記、ですか」
わたしも書いていますけれども、先生もお書きになっているのですね。ちょっと意外かもです。
「オレがアカデミーに入学してから一日として欠かしたことのない日記だ。そこには波乱万丈な日々が綴られている……!」
「一日も……すごいです! わたしは時々三日坊主になったり、報告書を丸写ししたりになっちゃいます」
「んー、ま、書き続けるだけ偉いでしょ」
むむ、わたしは10歳頃から書き始めましたから……まだ5年くらい。一方、先生はアカデミー入学は……5歳で卒業したと伺っていますからそれ以下ですよね。それで今は27歳ですから22年以上書いていらっしゃるわけでして。うぅ、年季の差が。
わたしもそこまで書き続けられますかね……今ですら時折サボったりしていますのに。うーん、もう少しちゃんと書くようにしましょう、ええ。
目的地の木ノ葉病院が見えてくると。サスケ君のこと、リー君のことが頭に浮かんできました。
サスケ君、お見舞いに行った時は随分と陰った表情をしていましたが、大丈夫でしょうか……そしてリー君の手術はいよいよ明日に迫って来ていますが……大丈夫、ですよね。
眺めた病院の様子はいつもよりなんだか暗いようにも思えてしまって──いえ、明るく輝いて、いる?
といいますか、病院の屋上が轟々と燃えています。屋上にはシーツの群れと、小さな人影が……遠目ですがまさか、あれは……!?
「先生!」
「ああ、オレは先に行く! カタナは後から来て……」
先生はいつもながらの見事な瞬身の術で病院へと消えていき──わたしも慌てて走りました。
病院の中では流石に走ることはできないので、できる限り急いで歩くということになります。屋上へ屋上へとはやる気持ちを抑えて辿り着いたその先に見えた光景は、よく理解できないものでした。
屋上に設置されている貯水タンク。それに、2個とも穴が空いています。水が出ていて……って、はやく塞がないとまずいですよね、これは。病院側に連絡しましょう。
屋上ではナルト君とサクラちゃんがただならぬ雰囲気を漂わせていますが、とりあえず無事に立っています。ひとまず院内へと戻ろうとすると、ポンと肩に手を置かれました。
一瞬カカシ先生、と思ってしまいましたが振り返ってみると違います。ひどく大柄な姿、白く長い髪、油と書かれた額あては────
「自来也様!?」
「おう。お主はナルト達と話してやれ。病院へはワシが言っておくからのォ」
「ありがとうございます。ですが、あの……ここで、何が起きたのでしょうか」
「……ワシがそこで寝とったらナルトとサスケが戦い始めてのォ。ナルトは螺旋丸、サスケは千鳥を使うてぶつからんとし……止めようとサクラが飛び込んだ時、カカシが2人の技をいなしたんじゃ。誰も怪我はしとらん」
螺旋丸と千鳥!? ただの喧嘩にしては殺傷能力が高すぎやしないでしょうか。
怪我はない、というのはよかったですが……。
「どうして、2人は……?」
「カカシが言うにはナルトはサスケに認められたくて、サスケは焦燥感かららしい」
…………
……
ナルト君とサスケ君はライバル関係。もともとはナルト君の一方通行気味でしたが、最近のナルト君の成長っぷりは目を見張るものがあり……ナルト君はそれを認めて欲しくて。対してサスケ君はイタチの襲来もあって強く在らねばと焦っているのでしょう。おそらく、ですが。むぅ、イタチめ……。
「……そう、なのですか…………教えてくださってありがとうございます、自来也様」
「礼はいい。それよりアイツらの下へ行ってやってくれ。それと…………穢土転生体については、問題ないかのォ?」
「はい。先日、綱手様が無事に管理を引き継いでくださいました。封印方法についてもお伝えしたので大丈夫かと……綱手様はだいぶ複雑そうな顔をされていらっしゃいましたが」
綱手様にとって柱間様と扉間様は御祖父様と大叔父様ですからね。そんな穢土転生体を封じたまま置いておく、というのは綱手様にとってもお辛いことでしょう。それでも引き受けてくださったのは我が家への負担を減らしたいというお優しさからだと思うと、感慨もひとしおです。
そうか、とだけおっしゃって自来也様は院内へと消えていきました。それを見届けたわたしはようやく、ナルト君たちの方へと足を向けます。
「サクラちゃん……邪魔しないでくれってばよ!」
どこか焦っているような表情で言い放つナルト君は……サクラちゃんが2人の技の応酬の間に入っていったことを非難しているのでしょうか。
黙り俯いてしまったサクラちゃんを見て、ナルト君もバツの悪そうな顔になります。
わたしはとりあえずぐしゃぐしゃとナルト君の頭を掻き回してからサクラちゃんの方へと駆け寄りました。
サクラちゃんの目元は潤み、鼻は少し赤くなっています。泣いてしまった、ということなのでしょう。何と声をかけようかと迷うわたしに彼女は小さく弱々しい声で話しかけてきました。
「カタナ……サスケくんと、ナルトが……」
「はい、自来也様から聞きました。その場にいれず申し訳なかったです。2人を止めようとしてくれてありがとうございます、サクラちゃん」
「うん……ごめん、ありがとう。それで、カカシ先生が大丈夫だって……もとに、戻れるって……」
「わたしも、そう思いますよ」
なんだかんだで2人とも仲がいいのです。カカシ先生が言うように──そういえば先生はもういらっしゃらないのですが、任務へと行ってしまわれたのでしょうか──ともかく、また仲良しさんに戻れるはずです。
少なくとも、チラチラとこちらの様子を窺っているナルト君は反省している様子ですし。
「うん、うん、そうよね。私、とりあえずナルトと話してみるわ……カタナも一緒に来ない?」
「……いえ、すみませんが少し用事が……」
「わかった。じゃあ、また明日の任務でね!」
ええ、と頷いたわたしににっこりと笑顔を送ってくれたサクラちゃんはそのまま勇ましい様子でナルト君へと言い放っていました。
「ナルト、アンタに少し話があるの! 奢ったげるからちょっと付き合いなさいよ!」
そんな声を聞きつつ、わたしは口寄せの術を使いました。
「次は、お前か」
サスケ君は木の上にいました。
匂いを辿ってここまで連れて来てくれたニノに礼を言って戻ってもらい──いえ、ちょっと不安ですね。また今日の喧嘩みたいにナルト君とサスケ君に何かあったらわたしへ伝えてもらうよう木ノ葉の猫たちに命令してほしいと言っておきましょう。猫ちゃんネットワークはなかなかの精度を持っていますから。
尻尾をフリフリして去るニノは任せておけ、と言っているようでした。お願いしますね。
「カカシの差し金か?」
「いえ、違います。退院祝いをお渡しし忘れていまして」
ほら、という感じでタオルセットを掲げます。実際、このまま持ち帰るのも……明日の田植えの任務の時に渡すのも邪魔になるので渡しておきたい気持ちもあります。
サスケ君は面倒くさそうに手を振りました。投げろ、ということでしょう。えいやっと投擲した箱はストンとサスケ君の手に収まりました。
「用は済んだだろ。さっさと去れ」
「……サスケ君はずっとここにいるつもりですか? 半袖ですし、風邪ひいちゃいますよ」
「……るっせえ……」
それきりサスケ君は黙って拒絶のオーラを放ちます。うーん……。
トン、と足にチャクラを込めて上の枝にぶら下がります。初遭遇時に我愛羅君のやっていたヤツですね。1回やってみたかったのです。
……
…………気分が悪くなってきました。普通に枝に乗りましょう。
「何がしたかったんだ、お前……」
いえ、なんか丁度いいところに手頃な枝があって、今日はズボンを履いているしで……コホン。
「気にしないでください。ええと、それより……久しぶりに一緒に食事でもいかがですか? 一楽とかどうでしょう?」
「……いい。オレに、構うな」
う、うーん。サスケ君、ツンケンしているハリネズミ状態に逆戻りです。初対面の時らへんの感じです。
普段ならここでわたしも退くところなのですが、何だかこのままにしておいてはいけないような気がするんですよね。サスケ君を放置するとこじれにこじれそうな気がひしひしと……。気のせいやもしれませんけれども。
「では、これは独り言ですけど……サスケ君が前に言ってくれたように、わたしにとっても7班のみんなは大切な仲間です。そしてサスケ君の向上心が高くいつも努力を怠らないところ、本当にすごいと思います。尊敬します」
ナルト君ともども、病院の備品とかを壊したのは駄目だと思うのですが……殺傷性の高い技を使ったのはどっちもどっちですね、ええ。
「なんだかんだ優しいですし、わりと気遣ってくれますし、意外とノリもいいですし、クールに見えて熱血ですし、負けず嫌いの頑張り屋さんで──一緒にいるとわたしも頑張らなきゃってなりますし、いつもいつも何かと助けられてます。ありがとうございますね」
にこーっと笑いかけるわたしにサスケ君はぷいと顔を背けました。
「だから。何かあれば頼って欲しいですし、相談して欲しいです」
……うん、これでいいですかね。なんかいざこう、人様を褒めようと思うと意外と言葉が出てこないものですね。ふっ、世の中、怒るよりも先に褒めた方がなんかいたたまれなくなって自分から謝らせる方向に持っていけるのですよ。おじいちゃんがよくこの手を使ってくるのです……。まあ、人によっては逆効果になっちゃうかもですけど、サスケ君は根が真面目だから大丈夫でしょう。
じーっと見つめていると、彼は長めの沈黙のあとにポツリと言葉を漏らしました。
「復讐……」
「はい?」
「それが復讐であっても、か?」
…………
………………これは。イタチのこと、ですよね。
「それはケースバイケースです」
「は?」
「イタチは抜け忍ですし。それを殺す、というのは木ノ葉の忍びとして間違っていないと思います」
わたしだって誰だってイタチが現れたら倒そうとするでしょう。
「ただ。そのことだけに執着するのは……よくないことだと思います」
サスケ君も復讐に葛藤しているからわたしに聞いてきたんでしょうし。やめて欲しい、と言ってやめていただけるならそりゃあやめていただきたいですよ。
一緒に任務をこなして、一緒に鍛錬して、一緒に遊んで……そうしてにこにこ過ごせるのが一番だと思うのです、わたしは。
「…………」
「…………」
黙りこくるサスケ君の次の言葉をわたしはじっと待ちます。
やがて。彼は普段より数段弱々しい口調でつぶやきました。
「家族もいて、のうのうと幸せに暮らすてめーに……オレの何が分かるってんだよ」
…………
「わかりませんよ」
あっさりというわたしにサスケ君は呆気にとられた顔になりました。
いえ、だってまあ……サスケ君の経験は、サスケ君だけのものであって。似た境遇の人、というのはいたとしてもまったく同じ境遇の人なんて存在しませんし。例えサスケ君の記憶を見れたり、乗っ取ったりした人がいたとしても今のサスケ君とまったく同じにはならないと思うのです。
「だから、さっきのはあくまでもわたしの意見です。でも──お互いを完全には理解できてなくても、分かり合おうと手を伸ばし合うことはできると思うのです。それに。そもそもわたしは分かる、分からないとか以前に……サスケ君のこと、好きですよ? 7班のみんなが大好きです。一緒にいるととっても楽しいです」
それだけじゃいけないでしょうか。
もう一度食事へと誘うわたしの手をサスケ君は払い除けました。むむ、これ以上は逆効果ですよね……。
「じゃあ、明日の任務は午後からですから……また明日、よろしくお願いしますね」
大人しく立ち去ったわたしですが……心の中でくらいちょっと言わせてください。
──サスケ君のおバカ、ウスラトンカチ、スカし野郎、魔性の男、秘密主義、………………仲間想い!
明日は久しぶりの4人での任務。カカシ先生はいませんけど、草むしりとか田植えとかはどうせいても手伝ってはくれませんし、正直いてもいなくてもあまり変わりません。
軍手とか、汚れてもいい格好で行かなきゃですよね……と、思って歩いていると。ピリリ、と殺気のようなものを感じました。
どうやらそれは正しかったらしく、ストンとわたしの帰り道を塞ぐように2人の人影が現れます。
「音の四人衆。東門の鬼童丸」
褐色の肌に6本腕の少年。確か、糸を使って戦うと聞きました。
「同じく、北門の多由也」
綺麗な長髪に謎のコード付きの帽子を被っている少女。こちらは確か笛使い。
それは、とても見覚えのある姿で。音忍、大蛇丸の配下。結界を張っていた4人の子たちのうちの2人。
────敵。
わたしは即座にお札を取り出しました。
自来也様はその……ええと、ともかく、カカシ先生ご愛読の『イチャイチャパラダイス』等々の作者さんであられるらしいのです。
→ド根性忍伝の方は「オレの興味の無い方の自来也さんの代表作」らしい。ミナト先生の愛読書なのに……。
ちなみにカタナがカカシのイチャパラ歩き読みに大して何も言っていないのは表紙はべつにいかがわしくないこと、小説だから文字なので例えちらっと見えちゃったとしてもじっくり読まなければ大丈夫なことがある。もし写真とか絵が中身なら他の班員のためにも必死になってやめさせてた。
今のところこの4冊だけしかシリーズにはないそうですが、その人気は凄まじいものらしく……
→自来也の預金通帳には0がいっぱいあるらしい。あとアニオリでは小国の大名がイチャパラのファンだったりもしてる。綱手の借金と同じくらいには稼いでいるとのこと。
「気にしないでください。ええと、それより……久しぶりに一緒に食事でもいかがですか? 一楽とかどうでしょう?」
→サクラとナルトが一楽に行ってるだろうな、と考えて合流しようとしていた。しかし失敗。
ナルト君ともども、病院の備品とかを壊したのは駄目だと思うのですが……殺傷性の高い技を使ったのはどっちもどっちですね、ええ。
→病院だから他の患者さんに迷惑かかりそうなことには辛口。普通のマンションの屋上とかなら大して気にしてなかった。
いえ、だってまあ……サスケ君の経験は、サスケ君だけのものであって。似た境遇の人、というのはいたとしてもまったく同じ境遇の人なんて存在しませんし。例えサスケ君の記憶を見れたり、乗っ取ったりした人がいたとしても今のサスケ君とまったく同じにはならないと思うのです。
→カタナの前世の記憶に対するスタンスも入ってる。奇しくも大蛇丸の不屍転生にニアピン。