木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
ボルト「親方、空から女の子が!」
サスケ「問題ない。ソイツはNINJAだ」
あの戦いから、日が明けて。
わたしはサクラちゃんと病院に来ていました。大事をとって入院された自来也様のお見舞いです。
昨日はサクラちゃんも治療でチャクラを使い過ぎて倒れてしまっていて医療班の方に病院に運ばれましたが、問題なく起きたのですぐに家に帰り。
正直自来也様もそんな感じですぐに病院を出られるだろう、と思っていたのですが……お怪我がそこまでひどかったのでしょうか。ガイ先生のせいだったら本当に申し訳ないです、はい。
入って受付を済ませたわたしたちの耳に、ガッシャーンと大きな音が届きます。何だろうと思っていると──
「ちょっと! ここは病院ですよ!」
「いや待て誤解だ。これは取材の一環で……」
「ナンパしてんじゃねェよエロ仙人!」
そんな声が、聞こえました。
……
…………あのう、自来也様。もしかして入院されたのは看護師さん目当てだったりします?
「もォ! どこ行ったエロ仙人!」
ナルト君のそんな声を聞きながら。わたしとサクラちゃんはやれやれとため息を吐きました。
ナルト君。どうか、自来也様のこういうところは真似しないようにしてくださいね……。
さて自来也様はどこへ行ったのやら、と考えるわたしにサクラちゃんは「屋上とかじゃない?」と言い。ならばと一緒に来てみたのですが……
「手間をとらせたな」
「気にするな。こっちこそナルトを守ることができた。感謝しておる」
本当に、いました。しかもなぜか旅芸人の師弟も一緒です。
「チャンスね。ここでこっそり聞いてましょ!」
「ええ? は、はい……」
屋上の扉を少し開きながら、わたしたちは聞き耳を立てます。
「にしても不思議な術を使うヤツだったのォ」
「実際、オレたちもよくはわかっていない。だが、だからといって倒せない相手ではなかった。もしまた同じようなヤツが現れたとしても迎え撃つのみだ」
「フム、まぁとりあえず考えてもしかたのない話のようだのォ……で。お前たちはこれからどうする?」
「自分たちの居場所に明日、戻る」
「だな。帰らねェと」
そう話す彼らの会話を聞いて、サクラちゃんはプルプルと震え……あ、とわたしが止める前に。扉を大胆に開いてダイナミックエントリーしました。
「ちょっと待ったァ!!」
何だ何だ、と視線が集まります。サクラちゃんはそれを物ともせずにズカズカと旅芸人さんの方へと進んでいきました。
「どうして! サスケくんの名前が書いてある紙を持ってたんですか。なんで私の名前を呼んだんですか。あなたとサスケくんの関係は何なんですか!」
うぅ……サクラちゃん、やっぱり忘れてくれてはいませんでしたか。そして旅芸人さんはサクラちゃんの名前まで呼んだんですね。まあそのくらいなら、自来也様なりナルト君なりに聞いたと言えば誤魔化せそうですけれども。
「さぁ! 答えてください!!」
そう迫られ、困る旅芸人の師弟の顔を見て。わたしは昨日、猿魔様から言われたことが頭に浮かびました。
──口寄せされた面々の記憶は、ワシ自身も含めすべて封印しとくから心配いらんと。そう、サスケには伝えておけ。
猿魔様はあっさりと旅芸人さんの正体に気づいて。その正体はわたしもおおよそ気づいていることにも気づいて。それで、おっしゃったのでしょう。
推測が確信へと変わったわたしは、口をつぐむことを決めたのですが……サクラちゃんには申し訳ないですけれども適当に言って誤魔化しておいた方がよかったですね。
「ちょっと待った! まぁ落ち着け。コヤツらは……コヤツらは……」
カッと目を見開いて自来也様はおっしゃいました。
「ワシの追っかけだ!」
「……はぁ!?」
んん!?
想定外の言い訳です……。本当に、完全に。
わたしも、サクラちゃんも、旅芸人師弟も目が点になりました。……いや、貴方がたは驚きを顔に出しちゃ駄目でしょう。
「そもそもコヤツらはワシの『イチャイチャパラダイス』の超熱心な読者なのだ」
………………
…………
「お主にも覚えはないか? 感動した本を読んで作者に興味を持ったことは」
「確かにそういうことはありますけど……」
「じゃろう? コヤツらは本を読んで興味を持ち、旅芸人の傍らわざわざ木ノ葉隠れの里に来てワシに関係するすべての人や事柄を調べておったのだ」
…………ええと。
どこか得意気に話す自来也様とは対照的に。旅芸人師弟の顔は暗く、汗をダラダラと流しているようにすら見え……
「サスケの名前のある紙もその1枚。サスケもワシの関係者に違いないからな」
「だけど、なんで忍でもないのに実戦訓練に参加して怪我したり……私のことまで知ってたんですか?」
「すべて同じ理由だ。コヤツらはワシの痕跡をすべて追うことを自分の使命だと思っておる。使命感ゆえお前の名前……体重、あ〜んなことやこ〜んなことのすべてをそれはもう、徹底的に調べつくしておった」
自来也様は大振りな仕草をしながら流暢に語ります。何だかちょっと楽しそうです。その姿はある人を連想させるもので。わたしはこの方はカカシ先生の師匠の師匠でしたね、と改めて思いました。
でも、あの、そのくらいで……そのくらいでやめてあげてください! うぅ、自来也様を止めようにもここでわたしが口を挟むのは……。
「更にワシを追いかけてわざわざ超厳しい実戦訓練にまで参加したいと現れ、結果怪我をするくらいに激しく巻き込まれてしまったのだ。それもこれもワシへの愛……ファンがゆえにできる行動……!」
ビシッと自来也様はノリノリでポーズを決めます。
「そう、真の追っかけなのだ」
……追っかけに、真も偽もへったくれもない気がします、はい。
「それ……本当に?」
じとーっとした目で聞かれた旅芸人さんは、それはもう顔をしかめて。しばし葛藤するような間があり。
そして、絞り出すように。苦しそうに声を出しました。
「本当だ。オレは自来也様の『イチャイチャパラダイス』に感銘を受けて……その関係者を調べ尽くした……」
それを聞いたサクラちゃんはすごく呆れた顔になります。
「キモッ」
う、うぅ……。
わたしは何も言えません。サクラちゃんの反応は正直、普通の対応です。官能小説のファンが追っかけをしていて、そのせいで自分の名前や体重等々を調べられていると聞いたら誰だってそう思うでしょう。
でも、自来也様。もう少しましな言い訳はなかったのでしょうか。あまりにも旅芸人師弟が不憫です。
「ハァ……もう結構です。私のことはお気になさらずに。行きましょ、カタナ」
「は、はい……」
ペコリと一礼だけして、屋上を去るサクラちゃんの背を追います。
憤慨するサクラちゃんをなだめつつわたしは考えました。
この誤解と言いますか、冤罪と言いますか……ともかくサクラちゃんの勘違いは正さなくていいでしょう。だって、未来との齟齬をなくすなら、きっと……。
わたしは一度家に帰ってから、ある場所へ向かうことに決めました。
木の上に座っていると。音もなく一人の男性が現れました。
「旅芸人さん……」
やっぱり、いらっしゃいましたか。
「……よろしければ、お手をお貸し願えませんか?」
サクラちゃんから渡されたお手紙を握りながらもすっと手を伸ばすと、片手を重ねて立ち上がらせてくれました。それはそれはスマートな手つきです。
……色々と、あったんでしょうね。
「これは……」
「私信を覗いてしまってすみません。お返ししますね」
そのままお手紙を渡すと、ひどく驚いた顔をされます。
「元に、戻っている……」
「そこはまあ、文字を書くのなんかがお仕事ですので。古書の復元なども行っているのです、はい」
たぶんわたしの仕事についてはご存知、ですかね。
大切なお手紙でしょうし、返すことができてよかったです。
「少しだけ、お時間をください」
「……ああ」
彼らは用件を終えて、もうすぐ帰るのでしょう。そして、だから。わたしたちの記憶を消しに来ているのでしょう。
「猿魔様は今回の一件についてのご自分の記憶を封印してくださったそうです。ついでに自来也様の口寄せガマさんの方も。だから、ご安心ください」
「……ああ」
…………聞きたいことは、言いたいことは。たくさん、山ほどあります。
「旅芸人さんは今、幸せですか?」
「……ああ」
駄目です。視界が滲んできてしまいました。
「よかったです……わたしも、サクラちゃんもナルト君もカカシ先生も、絶対、絶対に諦めませんから。貴方のいる未来を、掴んでみせますから」
「ああ。よく……知っている」
「だから……渾身の一撃を、覚悟しておいてください!」
「ああ。あれは痛かった……」
フ、と彼は笑います。
「あと……本当に、イチャイチャシリーズのファンなんですか?」
「ああ……い、いや、違う! ちらっと見たくらいだ!!」
ちょっとは読んだんですね……。カカシ先生の影響でしょうか。
へぇ、という感じのわたしの視線から逃れるように、彼は慌てて続けました。
「とにかく! いつも……いつも。お前たちには助けられている────ありがとう」
浮かべられたそれは。棘の抜けた、柔らかい笑顔で。そして真っ赤な瞳に、浮かぶ輪っかがグルグルと回って────
「オレも……お前たちが、7班が、大好きだ」
気がつくと、木の上にいました。……サスケ君と、最後に話した、あの木です。
「あれ、わたし、何で……?」
どうしてここに来たのかと考えても、靄がかかったように思い出せなくて。
「何で……」
涙が、止まらないのでしょうか。
ポロポロと溢れる涙は拭っても拭いきれません。
しばらくそうしていると、聞きなれた声が上から飛んできました。
「や! いや〜、疲れた疲れた。もう任務がたいへんで……って、え、どうした? 何かあったの!?」
「カカシ先生……」
「大丈夫? ハンカチいる?」
「ありがとうございます」
きゅっと目元を押さえます。うぅ、鼻水もついちゃいました。新しいのを買って返しましょう……。
ふぅ、と呼吸を整えます。自分より慌てている人がいると落ち着く、というのは本当のようで。あたふたしている先生を前にすると涙も止まってきました。
なぜ泣いていたのか、というのは自分でもわからなくて説明ができないのですが。なぜか、ふと赤い眼が……写輪眼が。頭によぎりました。
血のように赤いその眼は、けれどわたしにとっては優しく、温かいものです。なにせ仲間の……サスケ君と、カカシ先生の持つ眼なのですから。
ただ。うちはイタチ。彼もまた写輪眼を持っており……さらにそれより強力な万華鏡写輪眼を使えて。その瞳術で、先生たちを攻撃したとヒルゼン様からお伺いしました。でも先生も万華鏡写輪眼を開眼していらっしゃると忍者登録書にはありましたね。
そう、考えていると。心配そうに覗きこむ目と、目が合って。
──先生は、サスケ君の里抜けを聞いて。本当になりふり構わず飛び出していったと、耳にした時のことを思い出しました。
「わたし……カカシ先生が先生で本当によかったです」
ナルト君は自来也様に。サクラちゃんは綱手様に。わたしはヒルゼン様に弟子入りしましたけれども。やっぱり『先生』はカカシ先生一人で。
カカシ先生がいて、サクラちゃんがいて、ナルト君がいて……サスケ君がいて。そんな日々が、大好きでした。
涙腺がゆるくなってしまったのか、またじわりと目から涙が滲んでしまいます。
「……わたし、この場所で……また。サスケ君と、絶対にお話ししたいです」
「…………オレもだよ」
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自分を、仲間を信じて進め!
〇月×日
ここ数日の日記が破られていて、書いた覚えのない謎のメッセージだけが書いてあります。いつ、何で書いたのでしょうか……? よく、思い出せません。
今日は……サクラちゃんと、自来也様のお見舞いに行って。屋上で、話して。それで、いつの間にか木の上にいて……泣いていて。任務帰りのカカシ先生と会って、お話しして。
──何だか記憶が曖昧です。うーん、疲れているのでしょうか。
しかも屑籠から燃え滓が発見されまして。わたし、日記をわざわざ燃やしたのですかね? 謎です。
でも、よくわかりませんが。勇気づけられるような……少なくとも悪いことではないような気がします、はい。