木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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1.5枚目

 午前。アカデミーの卒業試験合格者たちが説明会に参加している頃。午後からは担当上忍として下忍候補たちと顔合わせか、と思いつつ窓の外を眺めたカカシは普通に驚いた。

 

「三代目!?」

 

「おはよう、カカシ」

 

 優雅にパイプをくゆらせた老人、三代目火影・猿飛ヒルゼンがいたのである。なぜ自身の部屋の窓の外に現れたのか、と疑問に思うカカシに、ヒルゼンはのんびりとした笑みを浮かべ言った。

 

「少し、付き合ってはくれぬか?」

 

「分かりました」

 

 上司の命令には「はい」か「YES」しかあり得ない。忍であるのだからなおさらである。まあ、たまーに例外はあるが。ともかく。カカシは大人しく従って窓から外に出た。

 

 木ノ葉隠れ。忍の里では、基本みな自分の家に鍵をかけるという発想はない。かけたところで大して意味もなければ、家探しされても問題ないようにいつでも備えてあるのが忍というものなのである。

 

 

 

「この度お主に担当してもらう下忍じゃが──」

 

「はあ」

 

 共に歩きながら、露骨に顔をしかめるカカシにヒルゼンは心の中でそっとため息をはいた。師と弟子は互いに学び合うもの。カカシも担当上忍になって教え子を持てば……と思っているのだが。今のところカカシの試験を受けた者はみなアカデミーに返されている。ままならないものだ。

 

「そう嫌な顔をするな。今度の下忍達にはお主も少なからず興味を持つだろう」

 

「興味……とは?」

 

「行けばわかることじゃ」

 

 行けばな、と繰り返すヒルゼンに、今度はカカシが心中でため息をはいた。火影の命令には従いはするもののわりと遠慮のない男・はたけカカシである。

 

 ヒルゼンに連れられ、着いた先はカカシもよく見覚えのある場所。

 

「ここは……」

 

「邪魔するぞ」

 

 慣れた様子で入っていくヒルゼンに、カカシも続く。紙と墨の独特な香りが漂うそこは札屋。つまり川上家だった。

 

 ヒルゼンが店の者とニ言三言会話すると奥へと通される。カカシは今まで入ったことのない空間だ。こちら側は生活のためのスペースなのだろう。

 

 すいすいとヒルゼンが迷うことなくその長い廊下を進んで行く。やがてたどり着いた(ふすま)を開けると、部屋には彼と同じ年くらいの老人。そして老人とよく似た男性が座っていた。カタナの祖父と父だ。

 

「何用だ、ヒルゼン」

 

「お主、友に会って早々の一言がそれなのか」

 

 呆れた様子で話すヒルゼン。とはいえ、なぜ彼の機嫌が悪いかは理解しているのでそれについて以上言うつもりはなかった。代わりに、カタナの様子を尋ねる。

 

「カタナはどうしたかの?」

 

「森に居る。昼餉(ひるげ)まで帰って来ぬから、言伝があるなら鳶を口寄せするが……」

 

「いや、必要ない。むしろ居らぬ方が好都合じゃ」

 

 そう厳密な決まりでもないが、担当上忍が誰なのかは顔合わせまでは隠しておくものだ。

 

「今日来たのはカタナの班のことでな。少しばかり、話しておきたくての」

 

「…………そちらの。はたけ上忍がカタナの班を担当してくださるのか?」

 

「その通りじゃ」

 

 マジか、とカカシは思った。てっきりカタナの試験はもう既に終わっているとばかり考えていたのである。何らかの手違いか何かがあったのだろうが……しかし。彼女の担当になるということは、彼女の試験を行うということは。彼女の忍の道が断たれるかどうかを左右することにもなる。

 

 そこまで考えて。まあいいか、とカカシは結論づけた。カタナを下忍試験で落としたとしても彼女がアカデミーに在籍できるよう家族の説得を手伝えばいいのだ。例え知り合いが受けようとも、どんな事情があっても試験の妥協をする気は全くない男、それがカカシであった。

 

「それはそれは。孫をどうかよろしくお願いいたします」

「お願いいたします」

 

「いえ……」

 

 親子から深々と頭を下げられ、曖昧に返すカカシ。その様子を見かねてか、ヒルゼンが口を開いた。

 

「カタナと同じ班には うずまきナルトと うちはサスケもいる」

 

「え?」

 

 その言葉にはカカシも驚かされた。師の忘れ形見であり、九尾の人柱力であるナルト。そして うちは一族唯一の生き残りであるサスケ。その2人ともを担当させられるとは……完全にオーバーワークである。一瞬嫌がらせか、とすら感じてしまったほどだ。

 

「そこでじゃ。あの札を用意しておいて欲しい」

 

「八卦封印のアレかの?」

 

「うむ」

 

「わかった。承ったわい」

 

 ヒルゼンとカタナの祖父・父の3人が頷き合う。アレとか言われてもよくわからないカカシだけ疎外感があった。とはいえ大体の予想はつく。ナルト、封印……おそらくは九尾関連のことだろう。

 

 それで話は終わったらしく、ヒルゼンは席を立つ。彼に続いて部屋から去ろうとするカカシを、カタナの父が呼び止めた。

 

 その真剣な声音に、気を利かせたヒルゼンは襖を閉じ。カタナの祖父も別の部屋へと移動していた。

 

 2人きりになった部屋の中。カタナの父は躊躇なく額を床につけ──土下座を、した。

 

「はたけ上忍。もし、娘に忍としての才能が無ければ。容赦なく落としてやってください。そして、貴方様のお御眼鏡に適うようでしたら。どうぞ、どうぞ、カタナをよろしくお願いします。娘は…………いえ。ともかく、よろしくお願いいたします」

 

「……分かりました。顔を上げてください」

 

 それは。真摯に、ただひたむきに。娘を想う父親の言葉だった。ここまで言われてしまっては、その期待を裏切ることなどできない。

 

(こりゃ大変だ……)

 

 

 

 

 

「次はくノ一の春野サクラの……」

 

「くノ一?」

 

 商店街を歩きながら。カカシは首を傾げた。小隊は上忍師も含め4人。よってカタナ、ナルト、サスケで打ち止めのはずである。

 

「色々とあってな。お主の担当する班は下忍が4人入ることとなった。はじめはナルトは来年の班編成に組み込むつもりでいたのじゃが……すまんな、お主の負担が増えてしまって」

 

「…………」

 

 カカシは何も言えなかった。やや諦めの境地に達していた。帰ったらイチャパラ読むんだ、とどうにか自分を元気づけた。

 

 そんなカカシにヒルゼンは「ここじゃ」と春野家を指し示して────

 

「ようこそ、三代目様!」

 

 直後、桜の花びらのような特徴的な髪型をした男性が現れ、その快活な声が響いた。続けて金髪の女性がその隣に並ぶ。

 

 ヒルゼンがこちらへと向かって来ているのを見かけたサクラの父母は、慌てて家から出てきたのである。

 

「そちらの方は……?」

 

「サクラの班を担当することになっている はたけカカシじゃ」

 

「あらまあ。それはそれは、この度はうちのサクラがお世話になります。さ、どうぞどうぞ中へ!」

 

「ちゃちゃっと茶でも出しますんで! なんちゃって」

 

「やだもうアンタったら〜」

 

 夫婦漫才を始めた2人を止めるべく、ヒルゼンは言葉を挟んだ。

 

「オホン! なあに、軽く話させてもらいに来ただけだからの。ここで結構じゃ」

 

「そんなことおっしゃらず!」

 

「そうそう。うちのお茶は美味しいとご近所さんにも評判でして」

 

 ヒルゼンの肩はサクラの父に掴まれ、グイグイと家の方へと(いざな)われる。それを他人事のように眺めていたカカシであったが、いつの間にか後ろに回り込んできたサクラの母によって彼の背中もやんわりとしかし力強く押されてしまっていた。

 

「ささ、カカシ先生も。娘の先生になる人なんだから遠慮なさらないでね!」

 

「ささ、どうぞどうぞ!」

 

(こりゃホントに大変だ……)

 

 

 

 

 結局、春野家でたっぷりと歓迎を受けたヒルゼンとカカシが次にやって来たのはサスケの家。

 

 かつては特別な自治区に住んでいた──あるいは隔離されていたと表現するほうが適切なのかもしれない──うちは一族も今やサスケ1人となった。当然のごとく彼は一人暮らしをしている。

 

 しかしその部屋は、子どものものとは思えないほどきちんとしていた。机の上に置いてある本であったりはもちろんのことベッドに至るまでピシッと綺麗に整えられている。

 

「ふむ……サスケの父、フガクは厳格な男であったからな」

 

 そうヒルゼンが呟く。カカシはヒルゼンとは異なりフガクのことはそこまで知らないが、ある男のことはよく知っていた。

 

「兄のイタチもきっちりとしていましたからね」

 

「そうか……イタチもお主の下につけていたな」

 

 カカシが火影直属の暗部ろ班で隊長を務めていた際、イタチはそこへ配属されてきた。その後イタチは若くして部隊長となったが……それほどまでに優秀な忍だ。カカシは彼が部下だった時のことをよくよく覚えている。

 

 さらにその後に。うちは一族を、サスケだけを残して滅亡させたことも。よーく。

 

「…………ともかく。木ノ葉で写輪眼を持つのは今やお主のみ。サスケが写輪眼を開眼できるか、開眼したとしてそれを使いたがるかどうかはわからぬが。どうかお主がサポートしてやってくれ」

 

「はあ……」

 

 うちは一族ではないカカシが、まさか うちはの最後の1人へ写輪眼に関して教えることになるとは。何とも変な気分だ。

 

 写輪眼。カカシのそれは生来のものではなく、仲間である うちはオビトから戦場で片眼だけ託されたもの。

 

「この眼には悲劇がつきまといます。ですが……いや、だからこそ。仲間を大切に思う気持ちを見極めようかと」

 

「ふむ。今年もお主の審査基準は変わらぬようじゃな」

 

「はい……ところで。サスケはわかりましたが、それ以外はなぜオレが担当することになったかお聞きしても?」

 

 そう尋ねられることくらいは予想していたのだろう。ヒルゼンはにっこりと微笑んで答えた。

 

「先ほども言った通り、もともとナルトは来年以降の合格になると考えておった。授業中の様子は聞いていたのでな。本当にひどいものじゃったぞ、ナルトの成績は」

 

 イタズラをするために授業をサボったり。分身の術を使えば分身体が死にかけの体で現れ。変化の術を使えば裸の女性に変化する「おいろけの術」を勝手に披露し。

 

 ……おいろけの術に関してはある意味天才かもしれないのだが。少なくともこの三代目火影・猿飛ヒルゼンを鼻血ブーで気絶させるだけの威力があり……まあそれはさておき。

 

「来年の合格であればヤマ……テンゾウを担当上忍にしようかとも考えていたが──」

 

「なるほど。今からでも遅くはないのでは? オレよりテンゾウの方が適任でしょう。聞きましたよ、今暗部でも一番の使い手と噂されてると」

 

「お主、押し付けたいだけじゃろ……」

 

「バレました? いえ、ま、でも九尾の人柱力なら木遁使いのアイツの出番でしょうに」

 

「うむ。それもそうじゃがの。サスケと一緒のタイミングで卒業するなら、同じ班にすべきと考えたのじゃ。そうなると任せられるのはお主しかおらぬ」

 

「はあ…………」

 

「それにお主は鼻がきく。ナルトはまあ、その、控えめに言って……まぬけな奴だが。お主に見張らせるのが一番だろう」

 

 そう言われて、カカシは一応納得はした。

 

「ではくノ一の方は?」

 

「サスケと組ませる予定だったからの。うちは一族は良くも悪くも有名じゃ。信用のおける班員をおいてやりたかった」

 

 川上カタナも春野サクラも、あの家族を見れば信用できるというのも頷ける。決して他の家が信用できない、というわけではないだろうが……忍の名家というものは色々と抱えているものもあるものだ。火影直属の暗部ではなくダンゾウの『根』に人員を入れている家も少なくない。

 

「班編成は任務の成功率を大きく左右する。専門班にはバリエーションも必要……ま、ワシがそう考えてるだけじゃからアカデミーの教師がどう思っているかはわからんがの。例えば昨年編成したガイ班。体術に大きく特化した班じゃ」

 

 カカシの自称『永遠のライバル』である体術のスペシャリスト、ガイが担当する班には確かに日向一族の柔拳を使うネジ、ガイの弟子で剛拳を使うリー、武器術に長けたくノ一 テンテンが所属している。

 

「今年はさらに索敵に特化した班、そして秘伝忍術による戦術特化班なども編成するつもりじゃ」

 

 つもり、と言ったのはまだ下忍試験に合格できるかはわからないからだろう。ヒルゼンは甘い、非常に甘い男だが、()めるところは締める。そうでなくては里の長たる火影は務まらない。

 

(どこも大変なんだな……)

 

 

 

 

 そして。彼らが最後に訪れたのはもちろん────

 

「ここがナルトの家ねェ…………」

 

「そうだ」

 

 あまりの汚さにカカシは思わず呟き。ヒルゼンは律儀にもそれに反応した。

 

 ナルトの部屋はサスケとは対照的だった。とにかく汚い。服は散乱しており、カップラーメンなどのゴミも片付けられておらず、シンクにも洗い物が置きっぱなし。何気なく取った空の牛乳パックはかなり賞味期限が過ぎていた。これではお腹を壊しそうである。

 

 あのきっちりしたミナト先生の息子とは思えないな、とカカシは心の中で呟いていた。

 

「よし、一通り回ったな。以上の4名がお主の担当することになる下忍達だ……健闘を祈る!」

 

 川上カタナ。春野サクラ。うちはサスケ。うずまきナルト。

 

(こりゃ大変なことになりそうだ…………)

 

「了解」

 

 冷や汗をかきつつ、やる気の感じられない声で。カカシは言ったのであった。

 

 

 

 

 その後。カカシは第三演習場にいた。そこにある、慰霊碑の前に。

 

「まさかオレを待っているのか、テンゾウ」

 

「テンゾウはもうやめてくださいよ、先輩」

 

 木陰から猫面をつけた暗部の男が現れる。

 

「なら先輩ってのも違うだろ」

 

「いいえ、先輩は先輩ですよ。暗部を辞めたからってそこに変わりはないんですから」

 

 ならばテンゾウとてテンゾウのままではないのか。しかしカカシの口から出たのは別の言葉だった。

 

「で、何だ? 色々と大活躍だとは噂に聞いているが……オレからお褒めの言葉でももらいに来たのか?」

 

 本来ならば暗部の活躍は隠されるべきもの、耳には入らないものだが……テンゾウはカカシの部下だった男だし、暗部はカカシの古巣だ。情報を得る手段くらいは残っている。

 

 皮肉っぽく言うカカシに、テンゾウは苦笑して首を横に振った。

 

「違いますよ……先輩はお変わりないですね」

 

「……悪いが、今日のオレは忙しいんだ。お前の相手をしている暇はない」

 

「ハハハ、とっくに下忍との顔合わせの時間は過ぎてますけどね」

 

 なぜテンゾウがそれを知っているのかは不明だが、その通りだった。まあちょうどいいしそろそろアカデミーに向かうか、と考えたカカシはこの場から立ち去ろうとする。

 

「じゃ……またな」

 

「またな、ですか」

 

「何だ?」

 

 まだ何かあるのか、と振り返るカカシへと。テンゾウはいつもの平坦な声音にやや面白げな感情を滲ませて言った。

 

「やっぱり先輩、少し変わりましたね」

 

 

 

 

 

 

 アカデミーに着き、下忍の卵達が待つ教室へと向かおうとしたカカシは。しかしある気配を感じて立ち止まった。

 

「……カタナか」

 

 フロアを歩き回っている。おそらくなかなか来ない自分にしびれを切らして探しているのだろう。ま、すぐに教室で会えるからいいか、とカカシは声をかけることなく先に教室へ行くことにした。意地の悪い男である。

 

 が、そんなカカシも驚くようなものが教室の入り口にはあった。扉の間に挟まれた黒板消し。ベッタベタに古典的なイタズラだ。上忍であるカカシはもちろんのこと、中忍でも……いや、下忍だって引っかからないに違いない。だが。

 

 勢いよく扉を開けたカカシの頭に黒板消しが落ちる。

 

 トラップとは複数人で仕掛けることも多い。イタズラにもチームワークがあるならと思い、観察しようとしたのだ。その結果は────

 

「きゃははは! 引っかかった引っかかった!!」

 

 仕掛けたのはナルト。爆笑しているものの……これはまあ、遅刻したカカシも悪い。

 

「先生ごめんなさい……私は止めたんですけどナルト君が……」

 

 サクラは言い訳で自身の保身をした。おそらく内心ではナルトと同じく面白がっている。二面性のある優等生、といったところか。

 

 サスケは何も言わず。両肘を机につけ、顔の前で手を組んだポーズで座っている。カカシの方へは呆れたような冷たい視線。おそらく本当に上忍なのかとその実力を疑っているのだろう。まあ正しいといえば正しい反応。しかし────

 

「んー、何て言うのかな。お前らの第一印象はぁ……嫌いだ!!」

 

(チームワークの欠片もないな……)

 

 黒板消しの後にもワイヤートラップ等々が待ち構えてるんじゃないかとカカシは思っていたのだが。仕掛けはナルトが行ったものだけらしい。がっかりである。しかしその内心とは裏腹に、顔には軽薄な笑みを浮かべていた。

 

 

「え、な、何が…………?」

 

 そして、教室へと戻ったカタナは。驚き、戸惑い、呆れつつも、髪を拭いてくださいとカカシにハンカチを差し出し。

 

 黒板消し……と呟いてナルトと床に転がる黒板消しを交互に見ることで。下手人たるナルトに黒板消しと、このイタズラをするために扉の方へと動かした机とを片付けさせていた。

 

 カタナの方がカカシよりよっぽど先生らしい、と皆の思いは一致した。

 

 

 

「ね、カタナって黒髪の人のこと、どう思う?」

 

「え? 緑の黒髪とも呼ぶな、と…………あ、いえ、そうですね。どちらかというと明るい髪色の方が好きかもです。自分の髪が暗い感じの茶色ですし……」

 

 あのまま教室で話してもまあ問題はなかったが、とりあえずカカシは移動させることにした。特に理由はないが、強いて言うなら仕切り直しのためである。

 

 道中、男女の仲の差は顕著だった。カタナがサスケ狙いでないとわかるやいなや打ち解ける女子達。対して男子達は、ナルトはムスッとサスケを睨み続け、サスケは我関せずを貫き通す。

 

 適当に開けた場所に着いてもそれは変わらなかった。仲良くハンカチの上に──先ほどカカシに渡したのとは別の──座るカタナとサクラ。サクラの隣には……というか1人だけなぜか一段上にサスケが座り。ナルトはその横に不機嫌そうに腰を下ろした。流石にきゃっきゃとおしゃべりしている女子達に近づくのは難しかったらしい。

 

「そうだな……。まずは自己紹介してもらおう」

 

 カカシの言葉にサクラが疑問の声を上げた。

 

「……えー、いきなり自己紹介って。どんなこと言えばいいの?」

 

「そりゃあ、好きなもの、嫌いなもの……将来の夢とか趣味とか。ま! そんなのだ」

 

 そう言うと、カタナがピンと綺麗に手を挙げる。何となく授業中の先生ってこんな感じなのかなぁと思ったカカシは、もちろん彼女を指名した。

 

「ハイハイ……じゃあカタナから順にどーぞ」

 

「はい。ええと、繰り返しになってしまいますが……川上カタナと申します。好きなものは綺麗な文字や紙、ですね。お家柄こういう起爆札なんかを作成しているので」

 

 扇形に起爆札が広げられる。話している間にも子どもを飽きさせない動きをするその様子はやはり先生っぽい。自己紹介をするにしても名前以外の情報を話す気もなかったカカシとは大違いである。

 

「嫌いなものは不義理、ツケ払い等です。将来の夢は……とても漠然としていますが、誰かを守り抜けるような人になること。趣味は読書ですので、オススメの本などがあればぜひ教えてください」

 

 そのカタナの言葉に、カカシは────愛読書のイチャパラを読んでみたいと彼女に昔せがまれ、とっても困ったこと等を思い出した。それはただの自業自得である。

 

「…………よし! じゃ、次」

 

「私は春野サクラ。好きなものはぁ……ってゆーかあ、好きな人は…………えーっとぉ、将来の夢も言っちゃおっかなぁ……」

 

 お手本のようなカタナの自己紹介とは異なり、サクラのそれはすごくピンク色だった。恋の色、ラブコメ空間形成という感じである。カカシは若い子のパワーに押されてちょっと固まってしまった。

 

「嫌いなものはナルトです! ──趣味はぁ…………」

 

 話しながらもずっとサスケをチラチラと見ているサクラにカカシは思った。この年頃の女の子は忍術よりも恋愛なのか、と。

 

「次!」

 

 サスケの自己紹介。好き嫌いの情報は話す気がないらしく、「別にない」と「たくさんある」と言うだけだったが……その最後は、カカシの予想通りの言葉で締めくくられてしまっていた。

 

 ある男を必ず、殺すこと。

 

 そうはなって欲しくはなかったという気持ちと、そうなるだろうなという相反する気持ち。サスケの両親を含めうちは一族を皆殺しにした男。うちはイタチ。実の兄といえど、憎悪の念は抑えられないだろう。

 

 しかし……たとえ復讐に成功しても残るのは虚しさだけ。カカシはサスケに悲惨な末路を辿っては欲しくないし、自分で自分を傷つけ苦しめるようなことにはならないで欲しい。

 

 そう深刻に受け止める大人とは裏腹に、事情を知らない子ども達はそれをのんきに聞いていた。

 

 忍の情報は陰から陰へと葬り去られるものだ。その上うちは一族はあの九尾襲来事件以降、里の片隅にまとめて居住させられていた。うちは一族による里の警察組織、木ノ葉警務部隊も子どもとの関わりは薄く。よって木ノ葉は子ども達には うちは一族が虐殺された事件について隠し通しているのだ。ナルトに九尾が封印されていることと同じように。

 

 そんなナルトは殺したいのって自分のことじゃないよなと冷や汗をかき。サクラはかっこいいと目をハートにし。カタナは暗殺って忍っぽいなあと考えていた。

 

「…………最後!」

 

 ナルトの自己紹介はというと、不穏な雰囲気のサスケのそれとは対照的に明るいものだった。まあ好き嫌いについてはラーメンのことばっかだったが。

 

「将来の夢はァ、()()を超す!! ンでもって里の奴ら()()にオレの存在を認めさせてやるんだ!!」

 

(なかなかおもしろい成長をしたなこいつ……)

 

「オレは火影になる! うちはオビトだ! んでもってオレの火影岩にはトレードマークのゴーグルとさらに写輪眼もしっかり彫ってもらう……それで他里に睨みをきかせんのだ!」

 

 カカシにはその自己紹介が、オビトのそれと重なって聞こえ──そして。ひどく眩しく見えた。

 

 趣味がイタズラ、というのには苦笑してしまったが。火影岩にペンキで落書きがされた一件はまだ記憶に新しい。もし担当上忍になれば、責任を取るのはカカシになるのだからぜひともお手柔らかにしていただきたいものだ。

 

「よし! 自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」

 

「はっ、どんな任務でありますか!?」

 

 わくわくしているナルトに、その任務……というか演習は脱落率66%以上の超難関試験だという絶望的な真実を伝えようとウキウキしていたカカシだったが、その目論見は崩れた。

 

「任務、とは。試験のことでしょうか?」

 

 この班には既に下忍試験を2度受けたことのある少女がいたのである。

 

「そうだ。カタナ、説明したのか?」

 

「はい。おおよそのことは、ですが……」

 

 なら説明は不要だなとカカシは思った。単に面倒くさがっただけとも言う。

 

「そうか。よし! じゃ、ま……そういうことで、明日は演習場でお前らの合否を判断する。忍び道具一式持って来い。それと朝めしは抜いてこい……吐くぞ!」

 

「吐くって!? そんなにキツイの!?」

 

 サクラの悲痛な叫びをカカシは無視する。必要以上の情報をくれてやる気はさらさらなかった。

 

 この下忍試験の内容は担当上忍によって異なる。その合格の条件も。大抵の不合格者は自身が落ちた試験については語りたがらないものだし、それを知っている周囲は深く聞こうとはしない。まあ……もし仮にカタナがスズ取りを行うと試験の内容を知っていても、それだけでは合格には繋がらない。チームワークこそが肝要なのである。問題ないとカカシは判断した。

 

「くわしいことはプリントに書いといたから。明日、遅れて来ないよーに!」

 

 プリントには集合場所や時間。サバイバル演習に推奨される物と持ち込み不可の物。演習場に入って来ていい時間や、カカシが来るまでは丸太の前の原っぱで待機していること等々が書かれている。

 

 カカシの配るプリントを受け取った彼らの様子は──サクラはドキドキしつつも拳を握りしめて気合を入れ。サスケはプリントをグシャッと握り潰していた。家はあんなにも綺麗に片付いていたのに、何故だ。ナルトはというと漢字が読めないのか唸っていた。今度からふりがなをつける必要があるのかもしれない。カタナはじっと責めるようにこちらを見つめてきていた。遅刻の前科があるカカシはその視線に耐えきれず、目をそらしたのであった。

 

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