木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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疾風迅雷の如く駆けり
1枚目


 ポカポカとした日差しの中。ゴロリ、と屋根の上に寝転がって、青く晴れ渡る空をぼんやりと眺めていると。ナルト……鳴門巻きっぽいギザギザの形の雲がプカプカと漂っていました。

 

 ──ナルト君が旅に出てからもう、2年半くらいになるのですよね……。

 

 感慨深さに、わたしはすっと目を閉じました。

 

 木ノ葉隠れの里への大蛇丸や音隠れからの攻撃は、幸いにして起こっていません。代わりにサスケ君の情報も全く得られていないのですが……ナルト君を狙う組織──暁も、大きな動きを見せてはおらず、依然としてその内実は不明のままになっています。イタチも鬼鮫も目撃情報が得られないのです。よく目立つ2人組だと思うのですが……隠形が得意なんでしょうね、やはり。彼らはなぜ尾獣を狙うのか。ひどく不気味な組織です。

 

 中忍に昇格してしばらく経ちますが、今までの生活とはさして変わりもなく。強いて言えば何度か下忍を率いて任務に出ることもあった、という程度でしょうか。それでも修業であったり、書類仕事がある分、他の方々よりはだいぶこなした任務回数も少なくなってしまっていることでしょう。未だに実家暮らしであることも大きいですね。家族にはいつもお世話になっています。そろそろ一人暮らしを検討せねばと思ってはいるのですが、どうにも踏ん切りがつかず、そのままです。むむむ……。

 

 そんな風に考え事をしていると。

 

 タンタン、と軽快な音がして。誰かが屋根の上を通るのかなと(まぶた)を開けたわたしの方へ、とっても元気な声が響いてきました。

 

「なっつかし────っ! 全っ然変わってねーってばよ!!」

 

 その懐かしい声の方を見ると、電柱があって。その上には──ナルト君が、立っていました。

 

 木ノ葉丸君の変化、とも一瞬疑ってしまいましたが。以前とは違うジャージを着ていますし、里を懐かしがっている台詞からして……本物ですね。でもよかったです、普通のオレンジ色のジャージを着ていて。あのガイ先生たちみたいなタイツ姿に変わっていたらどう接すればいいのかと思っていましたから。

 

 豪快に腕を広げるナルト君はすっかり背も伸びて。ぐっと逞しくなっています。

 

「ナルト君」

 

 振り返ったナルト君は溌溂とした笑顔を浮かべると、こちらへ駆け寄って来ました。そして視線をわたしの上の方へ向けていて……? 

 

「よっ! でかくなったな……ナルト」

 

「カカシ先生!! ……か、カタナちゃん?」

 

 な、なぜ疑問形なんでしょう。そしてカカシ先生、いつの間に近くにいたのですか!? 全然気づきませんでした……。うぅ、ともかく。

 

「はい。お帰りなさい、ナルト君」

 

「うん、ただいま…………にしてもカタナちゃんも先生も、ぜんぜん変わってねーってばよ!」

 

「ぜ、全然……!?」

 

 そう言われて、わたしの居るところより一段上の屋根に座っているカカシ先生の方を見ます。確かにいつも通り『イチャイチャバイオレンス』をお読みになっていますし、服装も変わらず緑色の木ノ葉ベストを着ていますね。逆だった銀髪もそのまま、額あては斜めに眼帯のようにつけマスクまでしているので右目しか露出していないといういつも通りのスタイルです。普通に顔を合わせていたこともあってか、確かにこう見ても以前とあまりお変わりないように思います。

 

 そしてわたしの方はと言いますと。服装……はあまり変わっていませんが、切られた髪はかなり伸びていますし、色々と成長もしていると思うのです、ええ。何より気持ち的にちょっと悲しいです。

 

「ナルト君……そこは嘘でも綺麗になった、とかますます可愛くなった、とか言っておくものですよ」

 

 まあわたしはもういいですけど、これからは会う人へは気をつけるべきだと思うのです。

 

「え? でも、カタナちゃんは昔から変わらずカワイイってばよ?」

 

「…………!?」

 

「? サクラちゃんも相変わらずカワイイんだろうなァ……会うのが楽しみだってばよ。やっぱ綱手のばあちゃんトコにいんのか? あ、そーいやばあちゃんの顔岩増えてんのな! なんかみょーな感じだってばよ」

 

「…………」

 

「へへ、いつかぜってェあの隣にはオレの顔が並ぶことになって──そん時カタナちゃんとサクラちゃんが秘書になってくれるとかいいなー。なんせ2人とも頭よくて、優しくて……怒るとコワイけど……いつも頼りになって、一緒にいると安心できて……」

 

「っ…………」

 

「アレ? カタナちゃん、どうかした?」

 

「おーい、ナルト。そんくらいにしなって。カタナが倒れちゃうから」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……うぅ、天然、怖いです。やめてください。絶対顔が真っ赤になってます……。嬉しいは嬉しいですけど、嬉しいんですけれども……! 

 

 ヒナタちゃんの気持ちがちょっとわかったような気がします……でも先生、別に倒れたりはしませんから……。

 

「こ、コホン! ありがとうございます。ええと、ナルト君もますます格好良くなりましたね! ナルト君が火影になる時がわたしも楽しみです」

 

「へへへ、やっぱ? サンキュー!」

 

 ……うぐっ、一切の照れがありません。強い、ナルト君、強敵です……! 

 

 むむ、一矢報いたいのですが……そうですね。

 

「サクラちゃん、ヒナタちゃん、いのちゃんとか、女性陣に会ったら『変わってない』は禁句ですよ。できれば代わりに『綺麗になったね』だとか言ってあげるべきだと思います」

 

「? りょーかいしたってばよ!」

 

 くっ……まったくダメージになっていないです……。

 

 敗北感に打ちひしがれるわたしの肩をそっと叩く感触がありました。……先生……! 

 

「あ、そうだ! カカシ先生にはいコレ、プレゼント!」

 

「なにィ! こ、こ、これは……!?」

 

 …………先生? 

 

 カカシ先生は素早く、本当に素早くナルト君の側によると、ありがたそうに、恭しくプレゼントを受け取っていました。『イチャイチャタクティクス』という題名の、その本を。あのう、先生……? いえ、まあ、別にいいですけれども。いいんですけれどもね! 

 

 ふむ、しかし……タクティクスとは戦術という意味で、パラダイスは楽園、バイオレンスは暴力。次回作は何になるんでしょう……ダイナミクス、とかでしょうか。

 

「これってばイチャイチャシリーズ3年ぶりの最新作! すっげーつまんねーけど……先生は好きなんだろ?」

 

 その言葉にわたしはぴしりと固まってしまいました。いえ、先生が自来也様のイチャイチャシリーズを愛読しているのは既知のことなんですけれども……つまんなかった? 

 

「ナルト君ナルト君」

 

「ん?」

 

「読んだんですか、それ?」

 

「オウ! エロ仙人がさァ、いっつも書いては原稿用紙を渡してきてさァ。いやー、ツラかった! まあでも──」

「自来也様が、読ませたんですね?」

 

「お、お、オウ……」

 

 なるほど、わかりました。ええ、ええ、わかりましたとも。

 

「ナルト君、自来也様は……?」

 

「し、下にいるってばよっ!!」

 

 そうですかそうですか。

 

 屋根から下を覗いてみると確かに自来也様がいらっしゃいました。よし、あとで少しばかりお話しさせていただきましょう。

 

 にこにこと微笑むわたしに、ナルト君もカカシ先生もまるで何か恐ろしいものを見るかのような瞳を向けていました。……ひどいです。

 

「ナルト君」

 

「ふぁいっ!」

 

「自来也様のように、どんなに立派な方でも短所があるにはあるのです……」

 

 わたしが知る限り1番完璧な方は扉間様ですけれども、あの方にだって何かしらの欠点といいますか、人間臭さはあったことでしょう。たぶん、おそらくは。他にも────

 

「例えばカカシ先生は少々ルーズすぎるところがありますし……そのわりには妙に細かいところもあって……」

 

「うぐっ」

 

「戦闘後にはよく寝込んでいてハラハラさせられますし……病院の常連さんですし……」

 

「ごふっ」

 

 ナルト君がいない間にも、新技の開発とかで何度も寝込んでいらっしゃるんですよね。おかげでわたしも病院の受付は顔パスで通れるようになってしまいました。

 

「時々人をからかったりして遊ぶような言動をなさっていますし……」

 

「ぐはっ」

 

「カタナちゃん、カタナちゃん……カカシ先生への流れ弾がひどいってばよ……」

 

 あ、失礼いたしました。つい、先ほどの件を引きずっていて……。

 

「こ、コホン。いえ、先生のことはとても立派な方だと思ってますよ?」

 

「とってつけたようなフォローだってばよ……」

 

 そんなことないです。

 

「そ、それで自来也様も素晴らしい方ですけど、少々奔放すぎるところがあると思います。だからナルト君もぜひぜひ良いところは倣って、悪いところは真似しないようにしてください!」

 

「りょ、了解!」

 

 いいお返事です。どうかお願いしますね? わたし、嫌ですよ。覗きをするナルト君とか、看護師さんをナンパするナルト君とかを見るのは。

 

 それでは、と屋根から降りて自来也様の前に立つと、かなり見上げる形になってしまいました。相変わらず自来也様、背がお高い……下駄の分もあって余計にそう思います。むむ、ナルト君も今はわたしと身長が同じくらいになってますけど、いずれこのくらいに伸びてしまうのでしょうか……。

 

「おお、カタナか。久しぶりだのォ!」

 

「自来也様……お元気そうで、何よりです」

 

 鷹揚に笑う自来也様に、わたしも笑顔を返しました。

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「少しばかりお話しさせていただきたいことがあるのですが────」

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこの歳になって説教を喰らう羽目になるとはのォ」

「すみません、カタナが失礼なことを。しかしナルトを想うが故の行動であって彼女も自来也様のことは尊敬していますし、決して悪気は──」

「わかっとるわかっとる。むしろ猿飛先生を思い出して少し懐かしく思えたくらいだ。気にしとらんよ」

「ありがとうございます。ただ、僭越ながら申し上げると確かにナルトにイチャパラはまだはやいかと……」

「え? いや、お前にそれを言われるのは納得いかんのだが……まあいい。それで、約束通りナルトはお前に預けるからのォ」

「………………はい」

「焦れたのか暁が派手な動きを見せ始めとる。砂隠れにも警告は入れておいた。すぐ警戒態勢を布いてくれたからの。あれならまあ、力ずくではこのワシでも入国は出来んだろォよ」

「……暁の最終的な狙いは何です? 目星は?」

「そこまではワシにも分からん。これからまた情報収集に回るつもりだ」

 

 

 

「そういえばナルト君、わたしたちはどこへ向かっているんですか?」

 

 後ろで大人2人が何やらコソコソと話していますが、ナルト君はまったく気にすることなくそれはもう意気揚々とどこかへ向かっていて……お家かと思っていたんですけれども、どうも違うっぽいんですよね。

 

「もちろん一楽だってばよ。あー、はやくラーメンが食べたいィ……!」

 

「な、なるほど」

 

 お家に帰る前にラーメン屋さんとは……まあでも、ナルト君らしいです。

 

「あ、そうですそうです。もう道中で聞きましたか? 我愛羅君、なんと五代目風影になったんですよ」

 

「???」

 

 ポカンとした感じになるナルト君……この様子だと、我愛羅君のことは知らなかったのですかね。自来也様でしたらこのくらいご存知のはずだと思うのですがあえて黙っていたのでしょうか。

 

「すごいですよね。とっても格好よかったです」

 

 どうしてもわたしは風影というと木ノ葉崩しの一件のせいで大蛇丸を連想してしまっていたのですが、それを払拭してくれる凛々しい姿でした。うんうんと頷いていると、ナルト君はあんぐりと口を開けたままになっています。

 

「が…………」

 

「が?」

 

「我愛羅が風影ェ────!!!?」

 

 わ、わあ、すごい驚きっぷりです。

 

「はい。もうすぐ次の中忍選抜試験があって、その関係でテマリさんもいらっしゃってるので詳しい話なら聞けるかと……あ、それとナルト君がいない間のみんなの写真とかもまとめてありますから、今度お見せしますね」

 

「うん、サンキュー……」

 

 ナルト君は嬉しそうだけどそれだけではないような、ちょっと複雑な顔になっていました。我愛羅君が風影になったことを喜びつつも、先を越された悔しさもある、といった感じでしょうか。

 

 うーん、この上さらにみんな中忍になったと知ったらショックを受けてしまいそうですね……またあとでお話しすることにしましょう。ネジ君、カンクロウ君、テマリさんなんて上忍ですし、上忍。風影の方がまあ、インパクトは強いでしょうけれども。うぅ、とっても優秀なのは知っていましたが1コ下のネジ君にまで先を越されることになるとは……! 上忍は試験とかなくて推薦ですからねぇ。わたしはいつなれるのやら。

 

 そう考えながら歩いていると。「キャ!」と鈴を転がすような声が聞こえてきました。

 

 この声は────

 

「? 今、誰か……」

 

「はい。たぶんヒナタちゃんですね」

 

 綺麗なストレートの長い髪が揺れるのが見えましたし。

 

 曲がり角のところから現れたヒナタちゃんらしき人影が悲鳴を上げてから勢いよく隠れていくのを目撃したわたしたち。

 

 それを追おうとするナルト君を見て……わたしは、先ほど自分が言ってしまったことを思い出しました。

 

「な、ナルト君! いっては駄目です!」

 

 止めようとするも、ナルト君はあっという間に駆けてしまっていました。は、はやいです! 待って待って! 

 

 ヒナタちゃんのいるであろう曲がり角までナルト君はあっさりとたどり着いていました……嗚呼、この先の展開が読めてしまいます。

 

「よ、ヒナタ! 何隠れて…………あ、そうだそうだ。うん、キレーになったねってばよ!」

「…………」

 

 少し、間があって。ドサリ、という音が聞こえてきました。

 

 うぅ、ごめんなさいヒナタちゃん……せっかく久々に再会できましたのに……オーバーキルでしたよね……。

 

「あれ!? ヒナタ、何で倒れるんだってばよ! おい!」

 

 ……わたしのせい、でもあるのはわかっていますけれども。それでも思うのです。ええ、思ってしまいました。

 

 ナルト君のおバカ! 天然! 鈍感! ニブチンめ! 

 

 

 気絶したヒナタちゃんをお家に送ってからまた戻ると、ナルト君はサクラちゃんと木ノ葉丸君とお話ししていました。あ、自来也様の隣には綱手様もいらっしゃいますね。

 

 ……ふむ。

 

 サクラちゃんに怯えながら話す木ノ葉丸君……陥没した地面……ちょっと腫れてるナルト君の頬……ここから導き出されるのは、いえ、見なかったことにしましょう。わたしは何も気づきませんでしたとも、はい。

 

「よし、来たか。ならおしゃべりはその辺で終わりだ。カカシ!」

 

 綱手様に呼ばれた先生は……よほど新刊が出たのが嬉しかったのでしょう。ゆっくり丁寧に、舐めるように読んでいた本からようやく目を離しました。

 

「それじゃ、第三演習場に行くぞ。ま…………お前らがどれだけ成長したか。みさしてもらうよ」

 

 その手には。あの、下忍試験の、懐かしいスズが────3つ、握られていたのでした。

 

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